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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E112） |
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翔子と眞希、そして瞳と春海が、私立朝陽学園に“復帰”したのは９月５日だった。
“石化リング”の外側にあった私立朝陽学園は、９月１日に予定通り２学期を開始しているが、
その日はまだリングが“破断”されていなかったため、４人の登校はこの日まで遅れたのである。
朝陽市の主要部をベルト状に取り巻く“石化リング”は、１３個の“装置”によって維持されている。
そのうち最初の１個をパドルたちが“解体”したのがまさに９月１日だったが、
朝陽学園とは反対方向にあった上、道路の通行解除にまでは至っていなかったのだ。
更に９月３日に反対側に位置する装置が解体され、リスク除去処理などに更に１日以上をかけ、
市を東西に貫く大通りが通行可能になったのが、この５日だったのである。
実はまだ鉄道は開通していない……線路は大通りのやや北側を走り、安全が確認されていないからだ。
そのため翔子たちは臨時の代替バスを使って、通学を再開したのである。
もっとも通行可能になったとは言え、救援物資を運ぶ自衛隊の車両などが優先されており、
完全なオープン状態には、なっていないようである。
これは無理もないだろう……あの“変質事件”が起きてから、まだ１０日も経っていないのだ。
“安全宣言”が出されるには、余りにも性急な時期である。
市の南にある港湾地区の西部には“放射能汚染”された地区もあるわけなので、
開放されていないリング近傍を含め、市内の多くの場所が当分は“隔離地区”扱いになるのでは、
というウワサが被災者――市民たちの間にも広がっていた。
今は昼休み――少女たちは図書館に面した東屋の１角で、昼食を手に団らんしている。
「なんか凄く久し振りな気がするね、翔子」
「まぁねぇ……あの出来事って、ほとんど全部、夏休みの話だったのよねぇ」
「何年も経過したような気がしますよね」
きっと気の所為です、途中で数年放置していた気もしますがたぶん気の所為です。
……はいごめんなさい、作者の所為ですorz
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１１章 純化主義対共生主義 ★
第２話 メタロード対メタキャリア・前編
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（――るっ、ルイさん！？）
中央公園の“鉱物娘専用テント”に入ったサラが、瞳のない真っ青な目を見開いた。
目の前にいるルイが、ぎこちない姿勢で１歩１歩、慎重に歩を進めている光景を目にしたからだ。
昨日今日で活性化処理を受けたばかりのメタロイド被害者であれば分かる。
だがルイは鉱物娘グループの中で、最も自在な動きを実現した“大ベテラン”のはずである。
こんなぎこちない、そしてどこか覚束ない歩みをする存在ではないはずなのだ。
（……あ、えぇと、サラさん、だっけ？）
（えっちょっと、ルイさん、どうしたんですか！？）
しかもこの“奇妙なルイ”は、サラの記憶を忘れたかのような反応をするのだ。
更に動いているのは手足だけで、表情は変わらないため実に不気味である……何が起きたというのか。
間もなくサラは、その“真相”を知ることになった。
（あ、ごめんなさい……あたしたち、ルイさんじゃないのよ……今ちょっと、体を借りててね）
（そうそう、ルイさんがおかしくなったわけじゃないから、心配しないで）
（……あっ、た、確か……あのラボでルイさんと体を共有することになったっていう……）
ルイの体から発された“心の声”は、ルイのそれとは雰囲気が明らかに異なっている。
そしてサラは、ルイの鉱物の体に“同居”している、４人の“被害者”のことを思い出した。
第２ラボに“トルソー状態”で安置されていた、初期ナンバーの石化少女たち。
彼女たちは今、ルイと“融合”して体を共有しており、またルイの“戦闘形態”を支える存在である。
（でも……何度目かだけど……歩くって、大変ですね……ルイさんも、最初は苦労したんだろうな）
（そ、そうですね……でも多分、最初はみんな、そうだったと思います）
（あっそうか……サラさんも、そうだよね……うん、頑張らなきゃ）
（あたしたち、以前の記憶がないから……どうやって動いてたのか、感覚が分からなくてねぇ……）
（動けるって凄く嬉しいことなのに、簡単じゃないって……ちょっと複雑な気分）
サラはルイの体の中で、あたかも４色の光がちらつくように、彼女たちの言葉を感知している。
そしてこの少女たちが“新たな日々”を精一杯生きていることを悟っていた。
ルイの言葉は聞こえてこないが……今は眠っているのだろうか。
（そうですね……でも頑張ってください、私も応援して――）
（えぇーーーーーっ、ルイさん、どうしちゃったんですか！？）
感慨に浸りかけていたサラの精神を、背後からスイの“音にならない叫び”が叩き起こした。
（えっあっ……スイちゃん、違うんです、これはルイさんじゃなくて……）
（えぇっ！？ どっどういうこと！？）
（えぇっと……ルイさんと同居している人たちで……今はルイさんの体を借りてて……）
（ちょっ何コレ！？）
（ルイさん、どうしたんですか！？）
そして更にサラを畳み掛ける、事情を知らない鉱物娘たちの大攻勢。
（おっ落ち着いてください、ルイさんは今お休み中なんです）
（えっそれじゃ、これってルイさんの寝相なわけ！？）
（あたしたちって、寝ている間は動けないはずじゃ……）
（そっそうじゃなくて……あぁっ、なんて説明したら良いのかしら！？）
久々に盛大な誤解に振り回されるサラであった。
（あらら……何か変な騒ぎになっちゃったわね……ルイさん起こした方が良いかしら？）
（でも……あたし、もう少し動きたいです……）
まぁ結果オーライでいいんじゃね？
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「――はい終わったわ、腕くらいならすぐに動くでしょ？」
（……うわぁ……ホントに、動いてる……夢みたい……）
こちらはそのテントから１００ｍほど南に離れた、センターＤ別室。
メドゥアスに爆破された“本室”の代わりに、まだ動けない被害者を保管するコンテナである。
３基のコンテナが結合されており、そのうち２つに動けない被害者が並べられ、
残りの１基でライカが今、新たな鉱物娘の活性化処理を行っている。
今し方、ライカの活性化処理を受けたのはマリナだ……アクアマリン風味の鉱物娘。
カオルよりも緑が強めで、髪が長い……下半身はまだ動かないが、手首や肘をゆっくり動かしている。
すぐ隣にはアメジスト風味の鉱物娘アメルが立ち、同じように手首を動かしている。
チャート石に似た質感のチャムも、やはり同じように手首をゆっくり動かす。
（……でも、不思議……石が動く、なんて……）
（けれど……これが、あたしの……体、なのね……）
今日ライカに新たに活性化処理を受けた鉱物娘たちは５名……上記の他にはメイアとキーラ。
いずれも１０日ほど前に意識を取り戻し、数日前に“名前”を得たばかりである。
更にクレアやティコ、ツィナなどもまだ活性化されてはいないが、実質的に“待機中”である。
（……早く、みんなと……同じ、ように……動きたいな……）
（頑張ら、ないと……いけないね……みんなも、頑張って……来たんだから）
因みにパドルは警察と共に石化装置の解体作業の最中だ……ただし今日は、自衛隊も参加している。
自衛隊員は“石化リング”内には入れないが、数日前よりはるかに大規模な後方支援が可能だ。
ライカは“新鉱物娘”の活性化のため、今日はこの“別室”に戻ってきたのである。
まだ動けない被害者も３０人以上いるため、彼女達も出来るだけ早く、活性化が必要だ。
隣の“保管庫”にはリアとリンがいる……まだ動けない被害者達の話し相手だ。
実はこちらも厳密に言うと、すでに３名ほど、“微動”レベルだが動く被害者が現れていたりする。
それも“活性化待機中”のクレアたち３名以外に、である。
“先輩格”の鉱物娘たちに触発され、コミュニケーションを繰り返す間に、
自力で「感覚を掴んだ」ようだ……実際に瞳のように、活性化処理を経ずに動けたケースもあるので、
こういう自発的活性化を実現しつつある被害者が現れたことは、ライカには驚きではなかった。
リンやパルも、メドゥアスのラボで不定期に動いていたことがある……当時の記憶はないようだが。
（凄いね、ティリさん……自力で動けるようになるなんて）
（……そんな……まだまだ……全然、です……動ける、うちには……）
（いえいえ、そんなことないですよ、あたしたちも最初はそんな感じでしたもん）
（……でも……ちょっと、嬉しい……早く、もっと……動きたい、です……）
この３名にも、今や新しい“名前”が与えられている。
リンの目の前でプルプル、と上腕を震わせている大理石風味の少女像がティリ。
リアの目の前でカタカタ、と肩と上半身を震わせているステンレス風味の少女像がステア。
そしてこの２名の斜め後ろで、ランダムに手首を震わせるトパーズ風味の少女像がエレンだ。
それ以外にも、まだ動いてはいないが、御影石風味の少女像にもミケという名前が出来ている。
自分の名前を得ることで意識がより鮮明になり、活性化が進む効果もあるのだ。
（……ティリさん、いいな……あたしも……動き、たい……）
（ミケさんもすぐに動けるようになりますよ、もう少しの辛抱です）
（……あたし、の……名前……どう、しよう……まだ……思い、つかない……）
（焦らなくてもいいよ、あたしだって最初は何も考えられなかったからさ）
ここでは活性化しつつある鉱物娘のかすかな振動音と、ライカの声しか聞こえない。
しかし鉱物娘たちの“心の声”を聞き取れる限りは、決して静かな空間ではないはずである。
「じっくりやりましょ、時間はいくらでもあるわ、心配しないで」
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「ようやく３個目ですね……」
「リング内に入れる人材が限られているからな、仕方ない」
「いやはや……気の長い復旧作業になりそうですな」
こちらは朝陽中央駅前の“前線対策本部”。
テント内に置いたテーブルの上に朝陽市の地図を広げ、打合せするのは前畑と川田と武井だ。
厚みのあるリングの、東西２ヶ所に新たな線が引かれている……今開放されている領域だ。
そしてその斜め上に、新しく“リング制御装置”の疑いある場所が見つかり、調査が行われている。
例によって“現場入り”しているのはパドルとアイガーだが、今回はライカがいないため、
代わりにキャリアの機動隊員２名が“変身”して２人に付いて行っている。
彼らは以前あのセラフィに襲われ、金属系の石化変異を強いられた経験を持っているのだ。
翔子や春海と似た境遇であるが、訓練を受けた機動隊員なので、当然少女たちより作戦能力は高い。
この２人以外にも、前線本部には石化経験を持つキャリアが６名ほどいる。
そのうち２名は駅前テロでセラフィの手で石化された経験を持つ機動隊員であるが、
残る４名は今回の石化リング事件で被災したばかりのメンバーである。
石化リングの実態を知らない頃に現場に立ち入り、巻き込まれてしまった警官や消防隊員たちなのだ。
（それじゃ、もう１度様子を伺ってきますね）
「いや、まだ良いだろう……キミも無理はしなくて良いんだ」
（でも……自分もお巡りさん達のお役に立ちたいですし）
機動隊員や警官、自衛隊員に混じって、金色の背の高い鉱物娘が手を腰に当てて立っている。
コナだ……鉱物娘で最も質量があり、頑丈かつ実年齢も高い１人であることから、
今回前線基地の手伝いを志願している……といっても重い荷物を運んだりするだけではない。
彼女もまた、石化リング内に歩いて立ち入ることが出来る、数少ない人材なのだ。
加えてこの場にいる人々に、石化被害者の実態と能力を正しく知ってもらう意図もある。
とりわけリングの外から来た自衛隊員の多くは、初めて見る“鉱物娘”なのだ。
午後からはコナに加えて、ジュリも対策本部に合流する予定になっている。
几帳面で礼儀正しい性格の彼女のことだ……今頃もう、ここに向かっているかも知れない。
「いや十分役に立っているよ、大丈夫だ……そうですよね、隊長？」
「あぁ、もちろんだ」
（そ、そうですか？ ……ありがとう御座います）
コナの黄金細工のような顔がふにゃっ、と笑顔で緩んだ――その時だった。
――ズズン。
地響きのような鈍い重低音と共に、リング近傍と思われる木立から、土煙が立ち上った。
高木の何本かがぐらりと傾き、膨張する土煙の中に沈んでいく。
「おい、今のは何だ！？ ドローンの映像は入るか！？」
「お待ちください……くっ、粉塵が多い、鮮明な映像が入るかな？」
対策本部が非常時の空気に緊迫した、更にその直後。
何かを切り裂くような鈍い音が立て続けに響き、再び何本かの樹木が土煙の中に沈んでいった。
更にバチバチッ、と鋭い火花が木立のスカイラインに走る……稲妻ではない。
石化リング内で有機物の火薬は使えない……電気を使った発火装置の火花に似ている。
土煙はリングの境界を突っ切り、そのまま対策本部の方に向かってくる。
（ちょっ……何あれ！？ いったい何が起きてるの！？）
「これは間違いなく妨害だな……各自、臨戦態勢を取れ！」
前畑はそう言って、自らもＥＭＰガンを手に構えた。
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同じ頃――朝陽市警察署でも“異変”が起きていた。
かつてエリたち、初期の石化被害者を保管していた地下室の入口で、機動隊員が２人立っている。
２人ともキャリアであり、既に“変身状態”で、その手にはやはりＥＭＰガンが握られている。
更にその背後にはスミレに似た紫色の鉱物娘――アンジー。
彼女もコナやジュリと同様、復旧作業の手伝いを志願し、警察署にやってきたところであった。
スミレやアンジー、ヒカルといった“後期型”には肉声会話能力があるため、
他の鉱物娘たちだけでなく、変身中のキャリアの“翻訳”を行うことも出来るメリットがあるのだ。
アンジー自身、自分は間違いなく役立つという自覚があった。
そんな３人のキャリアと鉱物娘が、強張った表情で見ているのは――これまた３つの無機質な人影。
偶然にも同じ色合い――つまり１人はアンジーと同じ光沢のある紫色をしている。
「おいおい、そんな表情をしなくても良いだろう……我々は本来、同志ではないかね？」
（冗談じゃない、我々は認めていないぞ）
（前畑隊長から聞いているぞ……お前が末留警部を刺した犯人だと！）
地下室を経由して、警察署に奇襲攻撃を仕掛けてきたのは――クリスタだった。
第１発見者はアンジーだった……何気なく入った地下室で、不穏な気配を感じ取ったのである。
すぐに階段を駆け上がって通報し、そして戻ってきたところで鉢合わせたのだ。
「あんたを覚えてるわよ……警部さんを刺して、あたしたちを好き勝手に弄んだ」
メタリックな機動隊員２名の背後で、アンジーも爪の武器“サイバークロー”を起動させている。
だがクリスタの両腕から伸びる、槍のようなサイバーナイフには見劣りする。
クリスタの前には２人の黒服のメタロイド工作員が、感情を感じさせない無表情で立っている。
タイタンらと共にセンターＤを襲撃した、４人のうちの２人だ……あの後“回収”されたらしい。
こちらはサイバーナイフを装備していないが、代わりに拳銃を手にしている。
キャリア隊員やアンジーには通じないが、普通の人間には危険な武器に違いないし、
自らは「撃たれても平気」なので、厄介な相手と言えるだろう。
拳銃は大型で装填弾数の多いタイプだ……デザートイーグルに似ているが、手が加えられている。
こんなものを署内で乱射されたら、大変な事態になることだろう。
（すぐに仲間も駆けつける……タイミングを逸したお前達の負けだ！）
「我々の負けだと？ ……大層な自信じゃないか、その手の武器が私に効かないと知ってかね？」
（な……何だと！？）
表情を引きつらせるメタリックな機動隊員の目の前で、クリスタはニィ、と笑みを浮かべた。
「このボディを甘く見てもらっては困るな、これは最新型なのだ、電撃など既に脅威ではない。
そして銃器は私に通用しない……よもやこの狭い屋内で、爆弾などは使えまい。
メタロイド専用の訓練を受けた経験もない、ただのキャリア２～３人程度で何が出来る？」
（それでもお前は今、包囲された状態にあるんだぞ……分かっているのか！？）
「人間どもの包囲など、我々には無意味な肉の壁でしかない……さぁそこを通してもらおうか。
我々はお前達の軍門に下った我が同志、アグネムを返してもらいに来たのだ」
因みに先日の“ラボ決戦”でパドルの切り札である熱線攻撃に倒れたアグネムは、
クリスタたちが逃走した後にラボに入った警察に身柄を拘束されていた。
金属も撃ち抜く集束熱線に心臓を貫通されていたため、実質的に死亡同然の状態であったが、
事件の鍵を握る重要な容疑者を放置は出来なかったのである。
「アグネムって……あの時の科学者ね。 確か死んだはずじゃない、何言ってるのよ！？」
その瞬間――クリスタのサファイア色の目に殺気が満ちた。
瞳のない無機質な目と、子供にも見える小さなセラミックの体から発しているとは思えない。
同じ体を持つはずのアンジーも、一瞬気圧される謎の威圧感だ。
「生死など関係はない……彼は我々の重要な同志だ、その価値が実験体如きに分かってたまるか。
我々の屈辱と憎悪がどれほどのものか……止められるものなら、止めて見よ！」
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そして再び――臨戦状態の前線対策本部。
木立の中に立ち上った土煙が、ぶわっ――と膨れ上がったかと思うと、
銃鉄色の大きな塊が、大きく跳躍する形で飛び出してきた。
アイガーだ……しかしその表情に余裕はまるでなく、緊迫感に満ちている。
更に土煙が盛り上がり、アイガーに似た金属の戦士がもう１つ木立の前に飛び出してくる。
ゴリラを思わせる太い腕に左右合計８本のサイバーナイフを仕込む――タイタンだ。
前畑もラボ決戦のクライマックスに接近遭遇しているため、見覚えがある。
よく見ると、既にアイガーのサイバーナイフが１本欠けている……どうやら奇襲攻撃を受けたらしい。
「こん畜生めが……鉄のゴリラの癖して！！」
「防戦一方の癖に、本当に口だけは減らぬな、貴様！」
風圧を感じる勢いで、タイタンが片腕に仕込む４本のサイバーナイフを横殴りに振り抜く。
ざん、と重い斬撃音を響かせた次の瞬間、道端の電柱が火花を散らし、地響きを立てて倒れた。
直径３０ｃｍはある鉄筋コンクリートの塊が、まるで切り飛ばされた竹筒のように転がっていく。
先ほど前畑たちが見た「倒れる高木」はどうやら、こいつの仕業らしい。
格闘センスに自負があるアイガーも、手を焼いているようだ。
今は亡きホルスと交戦した際に、サイバーナイフが自由に伸び縮みすることを知っているため、
うかつに懐に飛び込めば、串刺しにされるリスクもアイガーは認識していた。
アウトレンジでは自分より大きなこの金属戦士に、十分なダメージが与えられないのだが。
そんな戦闘を――タイタンはふと止めて、周囲をなめ回す。
「ほうほう……これは諸君、お揃いで……いつぞやは大変世話になったな」
包囲する自衛隊員たちの表情が引きつった……こうした金属戦士が敵として存在することを、
彼らは既に聞いていたが、リアルタイムで見たのはこれが初めてだったからだ。
その前で、タイタンと面識のある前畑は、脂汗を流しながらＥＭＰガンの引き金に手をかける。
「あの時――メドゥアスは不滅だと言ったな、だが今は包囲された身だ！」
「おぉ、誰かと思えばあの時の機動隊長ではないか……ふふ、強気だな、その度胸は評価しよう」
「……余裕もそこまでだぜタイタン、幾らてめぇでもこの兵力を１人では潰せねぇはずだ」
「ははは！――今１人だと言ったかアイガー？ 何を呆けておるのだ！」
アイガーの挑発に、タイタンは不気味な高笑いを上げた。
「ネメシスとロイザーはあの金髪が抑え込んでいただろ、てめぇこそ呆けたのか？」
「あぁ確かにそうだったな、ウワサに聞いた通りあの男は驚異的な戦闘力だ、だが貴様は知らぬようだ。
メドゥアスの戦力は、我々メタロードだけではないことをな！」
次の瞬間――土煙の中から、青メタルの金属戦士、ロイザーが現れた。
「……てめぇまでこっちに来たのかよ、あの金髪からよく逃げ切れたもんだぜ」
「くくく……タイタンが言われたことの意味を、まだよく理解できていないようだなアイガー？」
「あぁん？ どういう意味だそりゃ」
「仕方ないことさロイザーよ……アイガーは“ゼロ”に会ったことが１度もないのだからな」
「ゼロ――だと！？」
そこで初めて――アイガーの銃鉄色の顔に不安の表情が浮かんだ。
前畑や川田も怪訝な表情を浮かべる……彼らも“ゼロ”が何を意味するのか、まだ知らない。
（ゼロって……何よそれ！？）
前畑の隣に立っているコナも同様だ……タイタンやロイザーとはセンターで出遭っているのだが。
「――少しは理解したかね？」
「ゼロが……近くにいるってのか？」
「ふふ、そういうことさ……ネメシスはゼロの援護に付いたが、援護は２人も要らない。
メドゥアスの創始者は、事実上メドゥアスで最も強大な存在なのだ……まぁ、会えば理解できるさ」
薄笑いを浮かべたロイザーはそう言って、サイバーナイフの切っ先をアイガーに向けた。
「さぁ……今度こそ決着をつけようぜ、アイガー！」
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同時刻――対策本部の北西に位置する山林内。
“石化波動”の影響で無機質化された木立の中で、パドルは“大物”と対峙していた。
「ようやく会えたな……メドゥアス」
パドルから５ｍほどの距離を経て、まさに“創始者ゼロ”ことメドゥアスが立っている。
そのすぐ隣には金色の金属戦士ネメシス……シャツが破れているのは、パドルと交戦した所為だろう。
“核爆発”の際にも服が破損しているが、既に新しいものに着替えているようだ。
「私も会いたかったよ……組織を機能不全にした、ディガスのお節介な大使殿にな」
パドルの背後には、こちらもキャリアの機動隊員が２人……ただかなり間合いを空けている。
これから起きる出来事を予感して、パドルが自分から離れるように告げたのだ。
「それで……俺の前に姿を現したってことは、観念する準備が出来たのかい？」
「ふ、まさか……そもそもディガス大使ほどの存在ともなれば、薄々感づいているのではないのかね？
この場所が――私の“テリトリー”であるということを」
そう言って、メドゥアスは青白い指をパチン、と鳴らした。
直後――無機質化した雑草や木の葉が、まるで削った石のナイフのようにパドルに襲い掛かった。
“ナイフ”はパドルを切り裂くことなく、その目の前で何かにぶつかって粉砕されていく。
パドル本来の強力な“霊気の壁”が、バリアのようにその全身を保護しているのだ。
しかし何百いや何千という数の“飽和攻撃”に、パドルはその場を動くことが出来ないようだった。
メドゥアスの特徴である、蛇の尾のような太い髪は、石化した何本かの木々に絡み付いている。
「……器用なもんだな、その辺も一応、科学者なのか」
「お褒めに預って光栄だよ……さぁ、神族の変種はここからどう出るのか楽しみだ」
「……俺が“変種”だってことも知ってるか。それじゃあ、こういう手も想定内なのかい？」
パドルがそう言った次の瞬間――ドン、と空気が破裂するような音と共に衝撃波が放射された。
今度はただの霊気の衝撃波ではない……周囲の石化した木々の葉が、全て吹き飛ばされる強制力がある。
そしてほんの１瞬生まれた“間”を見計らって、その手にオレンジ色の光が集束する。
しかし――メドゥアスはその不敵な態度を変えようとしない。
「強引だが、繊細だ――そういうやり方は私も好きだよ」
そしてパドルの“熱線放射”にタイミングを合わせるように、自らの手を突き出した。
刹那――その手の平にエメラルドグリーンの同心円が現れ、その中心部に漆黒の領域が口を開ける。
そしてパドルが発射した熱線を、あたかもマイクロブラックホールのように吸い込んだ。
そのわずかな間合いの後――パドルの背後に同じエメラルドグリーンのリングが現れた。
「いいね――そういうやつは俺も倒し甲斐がある」
リングの中から発射される熱線――召喚術を応用した弾道コントロール術なのだろう。
だがパドルは読んだように軽く腰を捻り、その体にまとわせた霊気のバリアで、熱線を斜めから弾いた。
「――ぬぉおっ！？」
思わず血相を変えて――すでにその体に血はないが――その場を飛び退いたのはネメシスだ。
斜め横にジャンプしたネメシスの足元を、弾かれた熱線が抉るように貫いた。
「こ……この金髪野郎がっ……」
「俺と戦う覚悟があるんだったら、その程度でビビってんじゃねぇよ、金ピカ野郎」
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再び朝陽市警察署内。
クリスタが大きく振りかぶる長いサイバーナイフを、アンジーが必死で交わしている。
鋭い切れ味を誇るサイバーナイフも、確かに当たらなければ意味はない。
クリスタが純然たる“戦闘員”ではなかったことも幸いだ……動きがやや“大味”なのである。
「ちっ、ちょこまかと小ざかしい抵抗を！」
「うるさいわね、誰が大人しく斬られると思ってんのよ、バッカじゃないの！」
そして２人の工作員は、変身形態の機動隊員２人が何とか抑え込んでいる。
どちらも銃撃が効かない分、必然的に格闘戦になるわけだが、それが幸いでもあった。
無感情で攻撃を仕掛ける工作員に対し、彼らも経験を活かしてそれなりに応戦が可能なのである。
今は首を絞めても関節を捩じ上げても、お互いそれほどダメージがないからだ。
敵は遠慮をしないが、動きも単調になりがちであり、先を読むことがある程度は出来る。
「このままじゃ埒が明かないんじゃないの、出直せば？」
「ふざけるな小娘、貴様のようなド素人に指図される筋合いはない！！」
そう言って、クリスタは片方の腕に形成していたサイバーナイフを引っ込め、指を突き出した。
その爪に仕込んだ結晶体がスパークし、アンジーに電撃が襲い掛かる。
「きゃっ――こっ、こいつも電撃撃てるわけ！？」
「私は……“最新型”だと言ったはずだ！」
そして電撃で怯んだアンジー目掛けて、再び大上段からサイバーナイフを振り下ろす。
アンジーは咄嗟に手を突き出す……クリスタの中性的な紫色の顔がにやりと笑みを浮かべた。
「そうだ、そう来るだろうと思った――その腕、もらったぞ！！」
だが、鋭い音が地下室に響き渡った瞬間――その表情は驚愕へと変わった。
「なん……だと……！？」
クリスタのサイバーナイフは、アンジーが突き出した腕の上で、その動きを止めていたからだ。
アンジーの体を構成する紫色の“セラミック結晶”は、サイバーナイフの斬撃に耐えていたのである。
「バカな……サイバーナイフに、斬れない物質があるだと！？」
「……うっそ、マジ！？」
もちろんそれは、クリスタのみならず、アンジー本人も信じられないことだった。
アンジーの腕は軽い傷こそ付いていたが、サイバーナイフの切っ先を難なく受け止めている。
クリスタもこのセラミック結晶が“新素材”であることは知っていたが、ここまでとは思わなかった。
「“地球上で最も硬い物質”とゼロが言っていたが……伊達ではないというわけかね」
「スゴ……今のあたしの体って、こんなに頑丈なんだ」
この新素材は実は、今回の“最終計画”始動の直前に、秘密結社の創始者である、
メドゥアス・ゼロが持ち込んたものだった……彼はその際「地球上で最も硬い物質」と表現したらしい。
ダイヤモンドよりも硬く、鉄のように粘り強い“究極の素材”だと彼は言ったのだ。
クリスタ自身、パドルと地下基地で対峙した時にこの言葉を告げている。
まさかその“究極の素材”が、こんな時に裏目に出るとは。
この素材の持ち主が味方なら“最強”だが、今回はまさに真逆のケースだと言えよう。
その意味を悟った瞬間――クリスタの表情から不敵さと余裕が消えた。
「つまりこれで……その武器に価値はなくなったわけよね？――安心したわ♪」
そして同時に、アンジーの表情には余裕が生まれたのである。
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| （第１１章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2018～2019年頃に草稿を作成したエピソード。
ただし第４次再編などに追われた（言い訳）結果、完成は2020年までもつれ込むことになったorz
11章のハイライトとなる、メドゥアス残党と鉱物娘＆メタキャリア組の対戦カードであり、その前編に相当。
章のタイトルにもある通り、秘密結社の強化工作員と、メタキャリア（＆鉱物娘）の対峙がテーマになっており、
パドルらチート戦力も一応関わるが、“主役”はメタロイドとメタキャリアになっている。
ラスボスポジションのメドゥアス・ゼロとパドルのカードもポイントだろう（何気にこれが初カードである）
設定上、両者のスペックは波動出力換算で２ケタ以上も違うのだが、
パドルは能力をセーブする必要がある（フルパワーを出したら現場の地形が変わってしまう^^;）のに対し、
“魔界科学者”であるメドゥアスのテクニカルな戦術も重要な要素となっている。
ライカと対戦した旧奥沢村戦パートとは、全く違うアクションをさせたかったところもある。 |
