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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（MBS21303R） |
（注）当ページには年齢制限情報が含まれております、ご注意ください。
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その“公園”は林道の奥にあり、ひっそりと静まり返っていた。
この辺りは軽登山のコースにもつながっている丘陵地帯の１角であるため、
少し歩けばその登山道にも行き着き、そう極端な辺境ということもないはずなのだが、
何故かこの公園とその奥の雑木林だけ、妙に人を寄せ付けない空気があったのだ。
人ならざるものが「出る」というウワサも立っていたようである。
「ねぇお姉ちゃん……ホントに行くの？ あたしちょっと怖いよ」
その公園に、姉妹らしき２人組の少女がやってきていた。
地元の人も薄気味悪がって立ち寄らない場所に、２人で来るのだから大した度胸である。
ただ妹らしき小柄なポニーテールの少女は、少し不安げな表情を浮かべている。
どうやら気の強い姉に引っ張られるように着いてきてしまったらしい。
「怖かったら、ここで待ってたら良いわ、大丈夫よ、ちょっと探検したら戻ってくるからさ」
「えぇーお姉ちゃん、ホントに行くんだ……凄いなぁ」
渋る妹を寂れた公園に残し、姉は１人ずんずんと、雑木林の中に踏み込んでいく。
それが“運命の分かれ道”であることなど、２人は知る由もなかった――
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ＭＢＳ日本支部 〜メタロイド実験記2013Ｃ〜
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薄暗い雑木林に踏み込んで、10分ほど歩いたろうか。
ふと“姉”の少女は、木立がわずかに開けた、やや明るい場所を見つけた。
そしてそこに、小さな人影のようなものが立っていることも。
「あれ、先客がいたかな……すいませーん、ここで何やってるんですかー？」
やや明るいといっても、直射日光が注いでいるわけではないため、人影の細部は見えない。
小柄な人影は少女の呼びかけに反応せず、何かを凝視するように静かに立っている。
「あ、あのー、何してるんですｋ――！！？」
人影に近づき、顔の方を覗き込んで初めて、少女は人影の正体に気付いた。
それは――小柄な少女の“石像”だったのだ。
背格好は小学生か中学生――“姉妹”のちょうど中間ぐらいの雰囲気に見える。
何かの石碑か、地蔵のような者に見えなくもないが、それにしては妙に細部までリアルであり、
何かを訴える表情に加えて、一糸まとわぬ裸体であることも異様に見える。
そして足首から先は、まるで石で出来た根のように、地面の下にめり込んでいる。
「うゎ、何よこれ……悪趣味な石像ね、びっくりしたじゃない。
そりゃあ、こんなの置いてたら、誰も近寄らなくなるかもね……誰だろ置いたの」
少女は引きつった笑顔でそう言って、後ずさりしながら道を引き返そうとした――その時だ。
突如足首に妙な感覚を覚え、急ブレーキを踏むようにがくんと動かなくなった。
「えっちょ、何――って、何よコレ！！？」
見下ろした表情の表情が驚愕と不安に歪む。
自分の足首が、まるで地面に剥き出した岩肌に呑み込まれるように、灰色に変わっていた。
その光景はまさに、目の前にいる“少女像”の足首と同じである。
そしてそれが何を意味するか、彼女が悟った時には、運命の変化はもう始まっていた。
足首を「呑み込んだ」変化はすぐに足を這い上がり、、スネ、ヒザ、モモが動かなくなる。
それと共に靴下やホットパンツなど、着ていたものが変色して細かく砕けていくのだ。
間もなく変化は下半身に達し、砕けた下着の下から、少女自身の下腹部と秘部が露わになる。
しかし変化は容赦なく、その秘部も腹部も、岩肌と同じ灰色に塗り潰していった。
「うぁっ、くっ……ま、まさかコレって……イヤ、石になんて、なりたくない！」
後悔先に立たず――そのコトワザを、彼女は今日ほど噛み締めたことはないだろう。
もがく間もあらばこそ、変化はそのまま上半身を侵食し、腕も変色していく。
変化が肺を侵食しているのか、胸を締め付けるような感覚に、少女は恐怖と絶望を覚えたが、
上げようとした手は既に肩口まで変色し、自分の意思には応えなくなっていた。
もはや着ていた服は全て粉々に砕け、目の前の少女像と同じ“裸体”になった少女。
そしてその肢体を、残酷な変化は容赦なく灰色に塗り潰していく。
「イヤぁっ……だ、誰か、助けｔ――」
断末魔の叫び声が急速にトーンダウンし、涙を流す顔も変色し、動かなくなっていく。
「ア……ァ…… 」
そして軽く「キシッ」という音と共に、少女の目から瞳の影が消え、呼吸も停止した。
（……い……や……ダ……レ……カ……タ……ス……ケ――）
声が出なくなっても少女の意識は残っていたが、間もなくその思考も止まってしまう。
そして再び静けさの戻った雑木林に、新たに中学生くらいの少女像が１体、追加されたのである。
頬を伝わる涙の跡だけが、彼女がさっきまで“人間だった”面影を残していた。
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姉と一緒に寂れた公園にやってきた“妹”の少女は、ふと人の叫び声のようなものを聞いた。
雑木林の奥からだ。
「――えっ！？ い、今の何！？」
10数分ほど前に雑木林に踏み込んで行った、姉の声に聞こえなくもないが――気の所為か。
「まさか――お姉ちゃん、お姉ちゃん、どこにいるの、返事して！」
そして腰掛けていたブランコから立ち上がろうとした時――その足首が突然、動かなくなった。
思わず足下に視線が行く――そしてその表情が引きつった。
「えぇっ……な、何よコレ！？」
それはまさに、雑木林の奥で“姉”が遭遇した異変と、全く同じものだった。
ブランコの足下の土壌はやや黄色いため、足首を呑み込んだ“岩肌”もやや黄色い。
その砂岩に似た質感の変化が、急速に足を這い上がってくるのである。
姉と違って腰掛けた姿勢であったためか、下半身が変化に呑み込まれるまでは本当に早かった。
姉と同様に服が変色して砕け、間もなく少女の下半身も露わにされてしまう。
しかし、それに恥ずかしがっている場合ではない……自分の体が石に変わろうとしているのだ。
「そ、そんな……こんなことって……だ、誰か助けて、誰かいないの！？ お、お姉ちゃん！！」
既に胸の下程まで変化が進んだ少女は、必死に声を張り上げて助けを訴えるが、
不気味に静まり返った公園は、少女自身の叫び声がエコーのように響くだけでほぼ音がない。
雑木林に踏み込んだ姉が、戻ってくる気配もない――もっとも、戻れるはずもなかったのだが。
そうしているうちにも、少女もまた胸が締め付けられ、声が細くなっていく。
もがく上半身もその姿勢で動かなくなり、ポニーテールを回り込んだ変化が、顔面に集束する。
目鼻口に向かって、最後の仕上げをするかのように、変化が押し寄せてくるのだ。
「い、やぁ……だ、れ、カ……あ”っ……ア……！！」
最後の声を絞り出す段階で口が動きを止め、目から瞳の影が消え、間もなく呼吸も止まった。
そして寂れたブランコに腰掛ける、小学生くらいの裸の少女像が残されたのである。
突然消息を絶った２人を探すために、警察や消防の捜索隊が動いたようであるが、
登山道のすぐ脇道の林道を入った奥にあるはずの、寂れた公園にたどり着けた者はいなかった。
それもそのはず――この雑木林一帯に、人を寄せ付けない“結界”が張られていたからだ。
今回の少女姉妹や、その姉が雑木林の奥で遭遇した少女像は「意図的に招かれた」ものであり、
彼女らを石像に変えた時点で、再び結界が閉じられるという構造になっていたのである。
実はこの雑木林の界隈こそ、魔界列強・魔修羅連合の研究組織であるＭＢＳの“日本支部”で、
発見されないように結界を使って隠されているのだが、
必要あれば結界を解き、意図的に人間たちをその内側に招き入れることもあったのだ。
また複数の“セラミック少女”を生み出したＭＢＳの“擬装温泉施設”も実はこの近所であり、
少女たちをセラミックの彫像に変えたあの魔導科学の“石化装置”が、
雑木林の至る所に“トラップ”として設置されていたのだ。
時に2013年、ある少年たちのグループが“少女像”に変えられたのと、実は同じ頃であった。
そして更に数年の月日が流れることになる――。
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2022年、紀伊半島にあるアクエリアス・センター。
橋本市近傍にある傾斜強めの車道を上った先にある、小さな秘境のような盆地の農村の１つ、
清明村の“守り神”の１つとされる、清明神社の奥にそれがある。
清明神社の主催である阿倍慎一が、地下組織アクエリアスの幹部になっているためだ。
神社の境内の横から少し、斜面を下った先に複数のプレハブ家屋が作られており、
これがアクエリアス・センターに相当する建物であるが、実はプレハブ家屋は全体の１部で、
メインの施設は地下に作られている……清明村を取り囲む丘陵地の地下をくり抜いて、
保護したミュータント用の施設などを作っている形だ。
地下をくり抜いているといっても規模は限られ、１部は古い防空壕を流用している。
2010年代に設置された施設だが、今なお改築・増築を繰り返している。
何しろアクエリアスの実働工作部隊である竜王が、世界各地から保護してくるミュータントや、
ＭＢＳ絡みの強化兵実験体などが結構な数に上るため、中々追いつかないのである。
人ならざるものになることを強いられた“元人間”が多いことから、
出来れば１人１室、個室を割り当てたいところだが、相部屋も結構あるようである。
「人里に紛れることが出来る者」は、協力者である高山宗佑が住職を務める近所の密教寺院、
高清寺の僧坊を借りたりもしているなど「いっぱいいっぱい」らしい。
そんな“定員オーバー気味”のアクエリアス・センターの、複数ある交流ホールの１つで。
（――ランさん、お姉ちゃん見ませんでした？）
やや黄色みがかった砂岩風味の、小柄な“鉱物娘”が、藍色の肌の“鬼人娘”に話しかけた。
そう、９年前のあの日――寂れたブランコの上で石化を強いられた姉妹の妹の方だ。
４年前の2018年に竜王に保護され、２年前の2020年に活性化処理を受けており、
人間時代の記憶の多くを失っているため、テアという名で呼ばれている。
因みに姉も石化によって記憶が欠損しているために、同様にメアという名で呼ばれていたりするのだ。
（画像挿入予定orz）
「んー、今日は見てないかな……え、どうしたの？」
ランも元々は人間であり、ＭＢＳ絡みの強化獣人“キメラノイド・マジュリス”の元実験体だ。
兄であるゲンやダイと共に“立花兄妹”と呼ばれることもあるが、
最年少であるランが、実は最も「しっかりしている」とは関係者の談である。
まぁ最年少といっても、1999年生まれのランは、2022年現在既に23歳になっていたりするが、
強化処理を受けた時点で成長はほぼ止まっているため、見た目は今も10代の亜人少女だ。
（え、えっと……お姉ちゃん、余りあたしと行動したがらないみたいで……嫌われてるのかな）
メタロイドは物質的には「ムクの石像」であるため、肉声は出せず念話で意思疎通を行う。
そのため念話スキルを持たない者とはコミュニケーションが難しいのだが、
（いちおう“代案”として、筆談や手話といった方法もあるのだが）
アクエリアス・センターの関係者の多くは念話スキルを持つため、支障はないようである。
“魔族キメラ”であるランにももちろん、念話スキルが備わっている。
黄色みがかった砂岩のような質感の顔に、しょんぼりしたような表情を浮かべるテア。
目に瞳の影がないところは「石化された」あの日と変わらないが、
活性化処理後の“リハビリ”で細かいヒビが消えているため、かなり滑らかな表面に見える。
４年前に保護された時には全身ヒビだらけの上、ヒビに反ってツタや苔が生えていたため、
山奥の祠に放置された地蔵像のようになっていたのだが、今その面影はない。
  （※発見直後のメアとテア）
推定2002年生まれのテアも、2022年現在は20歳になる計算であるが、
2013年に推定11歳で石化を強いられてから、外観は全く成長していないため幼い風貌である。
また2020年に活性化処理を受けるまで意識が止まった状態にあったため、
テア自身の人格上での“自覚”としては、今も“精神年齢13歳”くらいのメンタルなのだ。
アクエリアスとしても「メタロイド実験体の意識停止期間は年齢に加算しない」方針で、
テアの場合「休眠7年+13歳」という解釈を適用しているのだ。
「あぁ……そういうことか、なるほどね」
不安げな表情を浮かべるテアに、ランは改めてテアに向き直って中腰の姿勢になった。
「メアはね……別にテアが嫌いってわけじゃないんだよ……ただちょっと、バツが悪いだけ。
あの子、自分の所為で妹も石化されたんじゃないかって、悩んでたからね」
（えっ……そ、そんなこと……あたしがこうなったのは、別にお姉ちゃんの所為じゃ……）
「だよね、あたしもそう思う……でもそれが“お姉ちゃん”ってやつなんだよ」
そう言って、ランはテアの頭を優しく撫でた。
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同じ頃、別の交流ホール。
アクエリアス・センターの地下には、コミュニケーション用の雑談ホールが数ヶ所ある。
最初は１ヶ所だったが、増築を重ねて増えていった結果のようだ。
「ビンゴ――やっぱ、あたしの勘は冴えてるねぇｗ」
奥の地下通路から、ホールに向かってやってきたのは、ランとテアである。
こちらのホールにはテアの“姉”であるメアの他、カスミとタカシの“澤口姉弟”がいた。
澤口姉弟もＭＢＳ系の“元人間”で、カスミはメタロイド、タカシはキメラノイドだ。
特にカスミはメアが石化を強いられた９年前、その直前に見た“少女像”本人だったりする。
そのためテアほどではないが、カスミの容姿もかなり幼い……石化当時推定13歳らしく、
こちらは2021年に意識を取り戻して活性化されたばかりのため、精神年齢も14歳くらいで、
2020年に意識を取り戻したメアによく世話を焼かれているようである。
（……あ、テア……）
テアの姿を認めたメアの灰色の顔が歪む……まさに割り切れない悩みを抱えた表情だ。
しかしそんなメアに向かって、てアはさっきの不安げな表情もなく、歩いて行く。
奥にいたタカシが、今度は黒い顔に戸惑うような表情を浮かべた。
「ら、ランさん……いったい何話したんです？」
「え？ いや別に何も特別なことは言ってないはずだけど」
そしてテアはメアの目の前まで歩いて行くと、「心の声」を解き放った。
（お姉ちゃん、心配しないで良いからね、お姉ちゃんの所為じゃないから、大丈夫だから！）
瞳の影がない目は視線の方向がよく分からないが、意識はまっすぐにメアに向かっている。
（画像挿入予定orz）
（で、でもさ……あの時あたしが、あそこに行こうって誘わなかったら……）
（こんなことになるなんて、誰も予想しないよ、だからお姉ちゃん関係ないから、ホントに！）
テアはそう「言う」と、薄黄色の砂岩のような質感の腕を、メアの灰色の腕に絡めた。
（石の体になっちゃって……人間だった時のこと、ほとんど覚えていないんだよ、だから……
だからせめて、お姉ちゃんとだけは、あたしつながっていたいの……ダメかな？）
そして今度は、そんなやり取りを眺めていたカスミが、２人の肩を抱くように撫でた。
（テアちゃん、良い子だよね……素直で、前向きで……あたし羨ましいよ、こんな妹がいてさ）
（カスミちゃん……）
（あたしもさ、似たようなもので、昔の記憶がないけど、タカシ君とつながっていられるから、
とても心強いって思える時があるんだよ……テアちゃんも同じだと思う）
“元・姉”の突然の賛辞に、タカシは照れ臭そうに顔を背けた。
タカシも“獣化”からそれなりに経っているのだが、少年時代の面影が表情にも心にも残る。
そんなタカシのリアクションを、ランが微笑を浮かべて眺めている。
（メアさん、あたしが後ろ向きだった時、凄く励ましてくれたよね……とても嬉しかった。
だからさ、今度はその積極的な優しさを、テアちゃんにも向けてあげるべきだよ、どうかな？）
確かにメアは、１年遅れで活性化されたカスミのリハビリを、積極的に支援した１人である。
自分が石化を強いられた時、既に目の前で石像と化していたカスミに対して、
共鳴するものがとてもあったのだろう……記憶を失ったカスミがネガティブになった時も、
メアはずっとカスミを励まし続けてきたのである……声にならない“魂の言葉”で。
これまで励まし続けてきたカスミに逆に“激励”されたメアは、覚悟したように小さく頷いた。
そしてテアの小さくて細い手を、逆に上から握ったのである。
（ありがとう、テア――あたしみたいなのをお姉ちゃんと言ってくれて、嬉しいよ）
（お姉ちゃん……あたしみたいなのって、そんなことないから！）
（あたし、頑張るね……そうだよね、乗り越えなきゃいけないんだよね）
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数時間後――アクエリアス・センターの大浴場入口に、数名のメタロイド娘が立っていた。
カスミ、メア、テアの“トラップ石化娘トリオ”と、その後ろからもう１人。
グラマーで短髪なのが特徴の“彼女”はレナ……ここではリオやキジアに匹敵する“古株”だ。
2013年に保護後間もなく活性化され、既に数年が経過している。
メアたちが雑木林の奥で沈黙していた頃、既に彼女はアクエリアス・センターにいたのだ。
（――えっ、カスミさんも初めてなんです？）
（実はそうなんだよね……１人でシャワーとかはあるんだけど、大浴場は来たことなくて）
そう――“トラップ石化娘トリオ”のうち、カスミとテアは今日が“大浴場初体験”である。
カスミは最近までリハビリの最中だったため、不自由なく動けるようになってからまだ浅く、
大浴場という“亜人たちの社交場”に踏み出していこうとする気が起きなかったらしい。
テアは集中リハビリが終わって既に１年は経っているが、精神年齢がとても若いため、
様々な境遇の亜人たちが集う大浴場は、どこか気分が退けていたのだ。
姉であるメアの態度がよく見えなかったのも、積極的になり切れなかった理由の１つだろう。
（そう言えば――テアちゃんって髪を下ろせるんだね？）
まだ大浴場の雰囲気に慣れられないカスミが、ふとテアの“髪型”を指摘した。
テアは石化された時を含めて基本的に“ポニーテール”であるが、今は髪を下ろしている。
髪型を固定した状態で石化されているために、意識しないと普段はポニーテールのままだが、
髪に意識を集中して「解きほぐす」と、髪型を変えることが可能なのである。
念じることで自分の体を動かす、メタロイドの活性化スキルの“応用”の１つである。
またこうやって時々形状を変えることで、“結び目”の強度を維持することが可能なのだ。
放置していると、幾らメタロイドでも「欠けてしまう」ことがあるらしい。
（あ、ハイ……最近出来るようになったんですよ、応用的な方法なんですけど）
（そっか……体の方だって念じて動かしてるわけだから、髪も同じ要領で出来るんだね）
（実はあたしもさっき知って驚いたんだよ……さすが私の妹だなってｗ）
そんなことを「言って」ドヤ顔するメアに、後ろからレナが苦笑いを返す。
（調子良いなメアは……さっきまでテアちゃんに対する態度を決め兼ねてたとは思えないわｗ）
（いやまぁ、それはその……あたしも責任感じることですから）
（だからぁ、お姉ちゃんが気にする必要なんてないから、もっと笑おうよ！）
（笑う門には福来たるって言うしね……おぅミナ、先に行ってたのねｗ）
メアたちの後ろから大浴場に入ってきたレナが、ふと横を見て笑顔を返す。
そこにいたのはミナだ……レナとほぼ同期の“石化娘”であるが、
実は彼女もメアやテア、カスミなどと同様、石化トラップで石化された経緯を持っている。
トラップの場所自体は違う場所だったが、境遇はよく似ているのだ。
石化当初はざらついた質感と、その表面に細かいヒビも入っていたが、
活性化とリハビリでヒビが消え、ツルツルとした表面に変わっているのはメアたちと同じだ。
濡れている時は特に、その滑らかさが艶々と輝いて見える。
（あぁレナは今から？ メアたちのボディガードかな？）
（いや別にボディガード要らないでしょｗ ……あたしら、頑丈さには定評あるしさ）
（そう言えば、カスミとテアは大浴場、初めてじゃなかった？ まさに大浴場デビューだねｗ）
ミナの指摘に、カスミとテアは再び、やや恥ずかしそうな表情を浮かべる。
（大丈夫だって、みんな仲間なんだからさ、堂々として行こうよ！）
（そうそう、ようこそ大浴場へ、ってねｗ）
（は、はぁ……）
戸惑いながらも、２人の小柄な石化娘は“新しい社交場”に踏み出して行った。
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【Meking Memo／設定補記】
2025年に作成した、シークレット・コンテンツ向けのショートストーリーである。
同年に作成したメタロイド少女テアと、その姉であるメアを主役にしたものであるが、
２人が石化を強いられるきっかけの１つを作った、カスミにも間接的にスポットを当てている。
テアの考証は、郊外の寂れた公園の風景から、衝動的に連想した画がきっかけだった（笑）
雑草に覆われた廃墟の公園のブランコに、石化された少女が座っているシーンを連想したのだ。
そこからこのエピソードの元になるイメージと、メアとの姉妹関係も膨らんだ。
“姉妹メタロイド”のアイデアは2021年に作ったマナとフェイナ以来である。
作成年ではマナ＆フェイナ姉妹の“同期”である、メアに追加的に新キャラを作るだけでなく、
メアが妹を連れ、率先して石化トラップが封印された雑木林に踏み込んだ形になるため、
「妹まで石化してしまった」結果に後悔するだろうと踏んで今のドラマが出来上がっている。
そしてそこから「姉妹の絆を取り戻す」までがドラマのワンセットなのだ（笑）
因みに最後の集合画は、それぞれの“活性素体設定画”を兼ねている。
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