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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（MBS21001R） |
（注）当ページには年齢制限情報が含まれております、ご注意ください。
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“彼女”がこの“激安貸切温泉”を見つけたのは、2010年のことだった。
最寄りの農村から細い林道を上がっていった先に、幻想的な隠れ家温泉が作られており、
田舎にあることを考慮しても安く、貸切中心であるため、仲間と贅沢な露天風呂を独占できるというのだ。
彼女はすぐに予約を取り、体操部の先輩後輩12人に声をかけて、急遽温泉旅行が決まったのである。
荷物を脱衣所の横の真新しいロッカーに預け、13人の一糸まとわぬ少女たちが露天風呂に雪崩れ込む。
「わーキレーイ」
「良いね〜こんなに本格的な露天風呂、貸切りで使えるなんて贅沢だねぇ」
「そーなんですよ〜、これは予約埋まる前に確保しなきゃってｗ」
体操部所属のためか、みんな発育が良い……特に仲の悪い関係もないようで、
皆その健康的な裸体を隠すこともなく、きゃいきゃいとはしゃぎながら湯を被り、体を洗っていざ湯船の中へ。
湯はジャスミンのような不思議な香りを漂わせ、やや湯温が高いものの実に心地良い。
「わー良い香りね〜、ほんと贅沢〜」
「あちっ、少し湯が熱いかな……でもこれだから良いのかも？」
洗い場の奥に灰色のフェンスがあるがやや嵩が低い……もっともその向こうは急峻な崖と谷底なので、
乗り越えられない程度であれば、誰にも見られる心配がないということなのだろう。
谷の対岸も急峻な斜面であり、木々は生えているものの、ここを歩くのはサルやシカくらいだろう。
「んー、あのフェンス、ちょっと低くない？」
実は露天風呂側も周囲は崖に囲まれている……露天風呂の施設だけ、彫り込まれたような作りなのだ。
これで天井があったら、半屋内の洞窟風呂になっていたところである。
「でも周りに家ないですし、フェンスの向こうは谷底だから、覗くのなんて小鳥やリスくらいじゃないです？」
「フェンスが高いとあんまり開放感出ないし、良いんじゃないかなぁ」
「向こうも裸だろうし、仕方ないよねｗ」
「服を着るのなんて人間くらいだもんねぇｗｗｗ」
そこまでは――お得な隠れ家温泉の楽しい女子旅のワンシーンだったのだが。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ＭＢＳ日本支部 〜メタロイド実験記2010〜
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「ちょっと湯が熱いね……薄められないのかな？」
「じゃあ、そろそろ上がります？」
「んー、気持ち良いのは間違いないし、もうちょっと入っていたいなぁ」
湯に当てられたのか、それとも薬効成分の所為なのか、少女たちはどこか朦朧とした表情で湯船に浸かる。
汗もしっかり出るが、もう少し入っていたいという欲求が皆にあった。
「それじゃあ、いっぺん洗い直してから、もう１度入りません？ どうせ貸切りだしｗ」
「お、いいねそのアイデア、それじゃあ――よっこらしょっと」
「あたしも足湯だけにしよっと」
このままではのぼせてしまうと判断した“彼女”は、先輩１人後輩１人を誘って、石張りの洗い場に上がった。
洗い場は程良いザラザラがあり、体が濡れていても足が滑りにくい作りになっている。
ただ石と石の間に細い溝があるため、ぼーっとしていたらそこに指を突っ込みそうな気がする。
「おぅ、これ石の間に指入れたら躓きそうだな……気をつけなきゃ」
発汗した体をもう１度洗おうと、彼女がボディソープの箱に向かおうとした――その時であった。
「ちょ――何これ！？」
湯煙を稲妻のように切り裂く、小さな悲鳴を皮切りに、露天風呂のそこかしこで少女たちの困惑が拡がった。
「え、どしたの……何その指！？」
「あっ、あたしもだ！？」
少女たちの手足の先が白く変色し始めていたのだ……まるで白磁のような無機質な光沢を放っている。
湯煙の中では余り目立たないが、自分の体の変化には皆すぐ気付いたようだ。
「ねぇちょっと、これおかしいよ、早く上がろうよ――あ、あれ、足腰が立たない……！」
数人の少女が湯船の中でもがいているが、立ち上がることが出来ないまま、変色は手足から胴体に及んだ。
そして間もなく“彼女”も、自分の脚や、先輩の脚が変色を始めていることに気付いた。
ただの変色ではない……脱力して力が入らないのに、変色した脚はガラス細工のように硬く強張っている。
「いやぁ、何これ……ガラスみたい、手が動かない……やだ、助けて！」
「くぅっ、足が動かないよ……みんな、早く逃げて、これ絶対ヤバいやつ！！」
“彼女”から数ｍ離れて、先に洗い場に上がっていたもう１人の少女が片膝を突いたまま声を上げた。
既に両足が白磁のように変色しており、立ち上がることが出来ないらしい。
それでもその少女は露天風呂から“脱出”するよう、周囲に必死に呼びかけている……気丈な性格らしい。
「そ、そんな……まさか……！？」
“彼女”の頭から血の気が引いた……まさか、この格安露天風呂は、まさか「普通の温泉ではない」のでは。
普通じゃないとしたら何なのか、その「答え」は彼女にとって、余りにも非現実的なものに思えたが、
それを「実証する」ような“異変”が、露天風呂のそこかしこで少女たちの肌の色を急速に白く変えている。
間もなく自分の下半身も白く変わり、動かなくなった……陶器のような光沢が不気味すぎる。
「せ、先輩、大丈夫です……か……？ ――！！？」
思わず横に座っていた先輩の方に顔を向けて、“彼女”は信じられないものを目撃した。
膝を着いて座った先輩の全身が白磁の陶器細工のように変化し、カタカタと細かく振動しているのだ。
既に変色は頭部まで及び、顔も全体がガラス細工のような光沢を放っている。
数滴の涙が、白く変色した頬と、動かなくなった口の横を流れ落ちていく。
「ぁ……ぁ……ァ…… ――」
喉から必死で絞り出すような、かすかな呻き声が数秒続いた後、「ギシッ」とガラスを擦るような音と共に、
先輩の全身から動きが完全に消えた……既に細かい振動もなく、見た目は完全に陶器細工である。
目には既に瞳の影がなく、開かれた口は今や無音で、呼吸さえしているように見えない。
ほんの数分前に、自分と一緒に笑いながら洗い場に上がってきたばかりなのに。
「そ、そんな……そんな、先輩、いや、返事してください、お願い、何か言って！」
“彼女”は自らも涙を流して叫ぶが、先輩はもはや全く反応しない……涙の跡さえも無機質に見える。
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「いやぁ、誰か助けｔ――」
その直後、今度は露天風呂の縁に腰掛けていた後輩の全身が、真っ白な固形物に変化した。
見えない力に縛り付けられるように動きが止まり、先輩の時と同じような小刻みな振動に変わる。
「あぁ……あ……ぁ……ァ…… ――」
そしてこちらも、数秒後に呻き声が消え、微動１つしない彫像へと変わった。
既に瞳の影を失った、白い目に浮かべた涙が１滴、全く動かなくなった白磁のような顔を流れ落ちる。
「いやぁ……誰かぁ……アァ……！」
「助けて、誰か来て、おねｇ――」
「やだぁ、誰か……助けて……いや――」
周囲からも、助けを求めたり、悲鳴を上げていた少女たちの声が、次々に消えていく。
“彼女”は愕然として、その信じられない情景をただただ涙目で見つめていた。
自分がお得な穴場だと思って仲間たちを誘ったこの貸切温泉が、そんなに非常識な場所だったなんて。
その“彼女”の体も変色が胴体を包み込み、頭部へと這い上がって行く。
「ごめん、みんなごめん……こんな場所だと知らなかった……お願い、許して！」
だがその言葉に返事はない。
怒っているのではない――既に全員「返答できない状態」になっているのだ。
既に首が動かなくなった彼女の後ろでは、先輩や後輩が今や既に、微動だにしない彫像と化していた。
「……ぁ……ァ…… ――」
「……？………！……」
ポーズこそ様々だが、全員白磁細工のようで、苦悶の表情を硬直させたまま、１部は既に呻き声もない。
直立に近い姿勢で変化が始まった彼女が、皮肉にも最も変化が遅かったのである。
その数秒後――彼女自身の変化が頭部を包み込み、その視界が闇に閉ざされる。
「やっ……ア”ッ―― ……アァ……ァ…… ――」
後輩がそうだったように、瞳の影を失った白い目から、涙がもはや動かなくなった白い頬を流れていった。
開かれた口にはもはや声はなく、やはり呼吸もない……それはまさに「石像」のようだった。
（みんな……ごめん……ユ……ル……シ…… ――）
最後まで言葉をイメージする前に、彼女の思考は半永久的に停止した。
（………？………！………）
もはや何も見えず、何も聞こえない……そよ風の音も、木々の枝が揺れる音も。
全く音のない暗闇の世界に、“彼女”の意識は思考のない状態で閉じ込められたのである。
わずかに感じるのは、今や全く動かなくなった体を滴り落ちる水滴の、本当にかすかな触感だけだった。
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数時間後――脱衣所に不気味に血の気のない肌の、男２人組が姿を現した……小さな角が生えている。
「さすがにもう石化しただろう」
「鍵を外せ……すぐ向こうに誰か立ってるな、まさか鍵をかけられるなんて思わなかったろうよ」
「思うも何も、もう何も考えられないはずだぜ」
そう言って、角が生えた男の１人がガラス戸を開け放つと、その衝撃で人影が１つ洗い場に倒れ込んだ。
まるでガラスビンが倒れるような音を響かせて、白磁の“少女像”が１体、洗い場に転がる。
そしてその向こうに――12人の今や「石化した」少女たちが、苦悶の表情を浮かべて完全に固まっていた。
ひときわ背が高く、ほぼ直立で石化した少女像がよく目立つ。
もはや何の音も立てないが、瞳の消えた目を見開き、口も大きく開けた“断末魔”の表情が不気味である。
「この娘はかなり背が高いな……しかし、最近の人間の娘はやけにスタイルが良いじゃねぇか」
「む、意識の波を全く感じないぞ……本当にまだ、こいつらは生きているのか？」
角が生えた“人外”の男は、生命が発する“意識の波”を感じ取ることが出来るようだが、
完全に石像化してしまった少女たちからは何も感じ取れないらしい。
まさか、もう死んでいるのか――いや、そうではなかった。
「絶縁性の高強度セラミック組成だそうだぜ、ってことは意識があっても感知出来ねぇわけだ。
まぁ意識が残っていたとして、既に思考は止まっているだろうがな……俺たちの声も聞こえねぇだろう」
もう１人の“角男”は、彼女たちの体が「どんな材質に変わったのか」知っているらしい。
それは絶縁性を持つ特殊なセラミックのようだ……白磁のガラス細工のように見えるのはそのためらしい。
電磁波を遮断する性質のために、“意識の波”も遮断してしまうようだ。
その無機質な質感が、ほんの数時間前まで「人間の少女」だったことなど、この姿からは到底信じられない。
「魂が完全に封印されているわけか……石化魔術も進化したもんだぜ」
「さぁさっさと運び出すぞ、次の実験体のために、舞台を空けてやらねばならん」
ここは魔界列強・魔修羅連合が設置した、温泉に偽装したジェネティック――強化兵の実験場だったのである。
知らずに立ち入った“彼女”たちは、皆高強度セラミック組成の“石像”に変えられてしまった。
まだ死んではいないはずだが、彼女たちの魂は誰とも触れ合えない、絶縁セラミックの体に封印されたのだ。
魔修羅連合と対峙する地下組織の有志が、石化した彼女たちを保護するのは８年後のことである。
それまでは、この魔界組織の地下倉庫に、全く抵抗できない状態で放置されることになるのだ。
どんな拘束具よりも過酷な、“魂の牢獄”と呼ばれる石化した体のままで。
（………、……… ―― ……… ――）
思考が止まりながらも、実は彼女らにはまだかすかに意識が残っているが、それもいずれ消えることだろう。
非常識な運命に巻き込まれた、言葉にならない苦悩と闇に、遠からず押し潰されるはずだ。
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（―― ………？ ………夢、か………）
レアが意識を取り戻したのは、2040年のある日であった。
もっともこの日まで“昏睡状態”だったわけではない――３年ほど前までは、ある意味そうだったが。
程なく、レアの視界に光が入る。
電球色の柔らかい光に照らされた、小さな個室が見える。
レアはゆっくりと起き上がった……ベッドの奥にある小さな鏡台に、白磁の少女像が投影される。
それが“自分自身”の姿であることを、レアは数ヶ月ほど前に知った。
30年も前の“あの日”の出来事を――レアはまだ途切れ途切れながらも覚えている。
もっともそれ以外の――彼女が「人間だった時代」の記憶のほとんどは、今や失われてしまったのだが。
レアは自分の手を、ゆっくりと視界に近づける……“あの日”に見た、陶器細工のような質感。
あれから30年も経っているはずなのに、今も不気味なほどすべすべで傷１つないのが返って恨めしい。
鏡に映る自分の顔や髪も同じ質感と色だ……動かなければ彫像と言われても信じそうだ。
いや――今この瞬間だって、物質的には「彫像そのもの」と言える。
レアの全身は、ＺＦＣと呼ばれる特殊なセラミック結晶で出来ている。
30年経っても経年劣化がほとんどないのは、このセラミック結晶が「ダイヤモンドより硬い」からだ。
2010年の“あの日”、ＭＢＳの偽装温泉基地で“石化処理”された彼女は、
３年前――2037年まで、実に27年に渡って意識を取り戻すことが出来なかったのである。
セラミック結晶の“石像”と化した状態で意識が戻ったのも奇跡なら、「自力で動ける」のも奇跡である。
こういう「生きた石像」のような人工的な種族は、メタロイドと呼ばれるらしい。
全身文字通り、無垢の鉱物や結晶素材で出来ているが、自分の意思を持ち、そして動けるのである。
レアたちを保護した地下組織――アクエリアスの基地には、そんなメタロイドが何人もいる。
アクエリアスが彼女らを石像に変えたわけではないが、メタロイドが何なのかは既に知っていたようだ。
レアは“悪夢”を振り切るように小さく首を振って、ゆっくりと立ち上がった――その時。
（レア……大丈夫？）
個室の入口近くから、音にならない言葉がレアに向かって飛んできた。
ライムカラーのセーターが特徴的な“石化娘”が立っている……シアだ、レアとは面識がある。
レアの“悪夢”の中に登場する、レアの目の前で最初に石化した“先輩”が、まさにそのシアであった。
当時は「人間としての名前」があったはずだが、シアもレアもその記憶は失っている。
今の名前はアクエリアスに保護されてから、改めて与えられたものなのだ。
（すいません、シア……また、見ちゃって……）
（ううん、謝ることないよ……むしろ、私はレアが心配――レアが悩むことなんてないからね？）
（……すいませ――あ、いえ、ありがとうございます）
メタロイドは１部の例外を除いて、声を出すことが出来ないため、念話を使って会話する。
要は“テレパシー”のことだ……ただＺＦＣ組成である彼女たちの体は強い絶縁性を持っていることから、
電磁波を収束するための“装置”を後からインプラントすることで、その機能を補完している。
シアの耳の穴に見える、エメラルドグリーンの結晶体がそれだ……レアの耳にも同様に埋め込まれている。
シアの瞳のない目が、周囲とはわずかに違う色彩を持つのも、このインプラント装置によるものだ。
網膜の機能を補完するフィルム状の装置で、耳の穴の人工結晶と連動している。
もちろんレアも同じものを装備している……この装置がないと彼女たちは「目が見えない」のである。
耳の結晶体も重要な装備であり、この装置がないと、彼女たちの思考は再び停止する可能性が高い。
（シアさん……レアさん、大丈夫？）
（あ、キア……ごめんね、心配させて）
シアの横から、もう１人の“セラミック娘”が顔を出した……キアだ、彼女もレアの“元後輩”である。
“あの日”レアとシアのすぐ後ろで、露天風呂の縁に腰掛けた姿勢で石化したのが彼女である。
レアたちの“同期”では最もアクティブなキャラクターであり、意識回復後の“活性化”も最速だったという。
もちろん、キアという名前は保護後のものであり、彼女も同じ“装備”を持っている。
因みに“活性化”というのは、石化した“元人間”を、再び動けるようにするための特殊な処理のことである。
稀に自力で再び動けるようになるケースもあるが、多くの石化体は活性化処理を経なければ動けない。
更に活性化処理を受けても、人並みにアクティブに動くには、相応の訓練が必要だといわれている。
無垢の彫像となった体に、改めて「どうやって動くのか」記憶させなければならないからだ。
レアもシアも、そして「最速」のキアさえも、今の活動レベルになるには少なくとも３ヶ月以上がかかっている。
活性化処理を受けて間もない頃は、第１歩を踏み出すことさえ、容易ではなかった。
更にレアには“トラウマ”がある……先ほど見た“悪夢”でもそうであるが、
ＭＢＳの偽装施設である“隠れ家温泉”に、シアたちを連れてきたのがレアだったからだ。
もちろんレアは温泉がそういう場所だと知って、シアたちを連れてきたわけではないから、責任は問えない。
むしろ彼女自身も石化されているように「被害者の１人」なのだが、どうしても後ろめたさがあるのだ。
シアやレアはそれを知って励ましているが、まだわだかまりが取れていないようである。
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（それじゃあさ、今からお風呂行かない？）
（えっ……？）
（吹っ切ろうよレア、あたしたちには今の“人生”があるんだから！）
トラウマを引きずるレアに、ふとシアが“お風呂”を提案した。
アクエリアスが作ったこの施設には、保護されたジェネティックの“元実験体”向けの入浴設備がある。
“外の世界”にある身障者向けのバリアフリー設備に似たものが、この地下施設にもあるのだ。
（あ、いいですね、あたしも参加して良いです？）
（もちろん、キアもおいでよ――！？）
“参戦志願”したキアにシアが快諾した直後――ズン、という震動と共に地下施設がガタガタと揺れた。
地震だ……日本列島は元々地震が多いが、ここ数年特に激しく活動している。
３人が27年振りに意識を取り戻した2037年がそのピークだったが、まだ“余韻”があるらしい。
（あっ地震――うゎっ！？）
（ちょっ、レア危ない――キア！）
（――はい！）
第１歩を踏み出したレアが足を取られてぐらつくと、両側からシアとキアが思わず支えた。
ダイヤより硬いこのセラミック結晶の体はちょっとやそっとでは傷つかないが、倒れれば痛いものは痛い。
メタロイドは無垢の結晶であることから、ダメージを全身で受け止めざるを得ないという弱点がある。
傷ついた患部だけ絆創膏を貼って――という外科処理が通用しない体質なのである。
簡単に傷つくことはないが、その際の“衝撃”はしばらくの間、全身で乱反射し続けるのだ。
彼女らは自分の意思で歩き回れる程度には活性化しているが、倒れると受け身を取るのはまだ難しいのである。
（最近ホント、油断できないですね……）
（さぁ早く行こうよ、あそこは滑りにくいから！）
（それが理由なんですか……）
アクエリアスのミュータント・ジェネティック向け特殊浴場は、彼女たちの個室の１つ上のフロアにある。
地下施設であるため、主要施設ほど上の方にあるのが特徴の１つである。
メタロイド元実験体が集中している個室エリアから、階段を上って２分ほどの所に浴場がある。
３人が曇りガラスに似た樹脂製の引き戸を引くと、広い脱衣場が姿を見せた。
その奥に浴場が用途別に３つある……物音が全く響いてこないため、今は誰も入っていないらしい。
とりわけメタロイドは体表の代謝が低いため、そうそう頻繁に入浴する必要もないのだ。
もちろん施設にはメタロイド以外の元実験体も保護されているが、今は空いているようである。
脱衣場に着くと、３人はすぐに服を脱ぎ始める……動きはまだゆっくりだが、既に自分で着脱可能だ。
これも“活性化目標”の１つで、日常生活を普通に送るための基準となっている。
活性化初期はこれさえ困難であったため、実は「しばらく服を着ていなかった」こともあった。
脱衣後の３人の姿はまさに、“あの日”石化されたセラミックの彫像と同じ……ただし今は「動ける」のだが。
（そう言えば、服を着てなかった時がありましたね、今思うとちょっと恥ずかしいかな……）
（あの時はみんな動く練習で精一杯でしたもん、あたしは今もそんなに気にしないかも？）
（キアはいつも前向きだねー）
そしてそのキアが率先して引き戸を開くと、エメラルドグリーンのタイルに覆われた大浴場が姿を現した。
25ｍプールほどの広さがあり、３人だけで使うには少し広すぎるが仕方ない。
しばらく入っていたら、後から誰かが入ってくるかも知れない。
洗い場のタイルは光沢があるが、ラバーコーティングがあるため滑らないようになっている。
（おーあったかい、癒されるわぁ）
メタロイドの体は無垢の結晶体であるため、人間のように食事でエネルギー補給をしない。
その代わりに「熱を直接補給する」のだ……そのため入浴は彼女たちにとって「食事タイム」でもある。
だから日向ぼっこなども彼女たちにとってはこの上ない「癒しの時間」なのだが、
容姿が容姿のためどうしても大っぴらに“外の世界”に出られず、このところ日光を浴びていないようだ。
強い絶縁性を持つ特殊セラミックの体は色々制約があるが、実は保温性が高いという特徴もある。
電磁波が透過しにくいがゆえに、１度蓄えた熱も逃げにくいのだ。
そのためメタロイド以外の“同志”が、まるで湯たんぽのように“添い寝”をせがむこともあるらしい。
（こりゃまるで貸切りだねぇ）
（貸切りかぁ……）
シアの呟きに、レアの表情がほんの少し曇った。
自分がかつて「人間時代のシアたち」を誘ったあの温泉も、貸切り施設だったからだ。
今思えば――“異変”を誰かに通報させず、孤立させるための貸切り仕様だったわけであるが。
ただシアはある程度、レアがそれに悩んでいることを承知の上で、この言葉を使ったようである。
（いつかまた――みんなで露天風呂とか行きたいね）
（そうですかね……？）
（吹っ切るためだよレア、あたしたちは生きてるんだから、あの悪夢を克服してね）
（おーいいですねーｗ）
前向きでアクティブな“同志”たちに、レアの大人しそうな表情がちょっと綻ぶ。
活性化初期は表情もろくに作れなかったが、今は「躊躇いがちに微笑む」ことも可能になった。
確かにどんな体になっても、今自分たちが「生きている」ことだけは間違いないのだ。
ならば前向きになった方が良いのは言うまでもない……まだトラウマを吹っ切れる自信はないが、
それでも彼女たちとなら、頑張れる気がレアにはしたようだ。
（すいませんシア、あたし頑張ります）
（ダメだよレア、「すいません」とか言わないで！）
（えっ……？）
（レアさん、ここは「ありがとう」で良いんじゃないです？）
（そうか……そうだね……みんな、ありがとう……！）
レアの礼に、シアとキアは“セラミック娘”とは思えないほどの満面の笑みを返した。
27年、失われていた“人間性”を全力で取り返すかのように。
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【Meking Memo／設定補記】
2023年に作成した、シークレット・コンテンツ向けのショートストーリーである。
2015年に作成したシークレット・コンテンツ向けの集合画から閃いたもので、
最初は集合画特集側に同じ話を書いたが、より細部を掘り下げて１話仕上げることにした。
G-maは時々、衝動的にこういう変態妄想が膨らむことがある（爆）
そして物語に合わせて、新たに挿絵を追加して編集している。
最初の挿絵は、ＺＦＣ系メタロイドとなる“予定”の３人の「人間時代の姿」である。
左からレア、シア、キアの「元の姿」に当たる……３人の原案は1993年頃に作っているのだが、
人間時代の姿は2023年になって初めて作ったものだ（笑）
もっともこの絵のわずか数分後に石化される運命なので、ある意味かなり残酷であるが（滝汗）
因みにショートストーリーはレアを中心に書いている。
完全な１人称視点ではないが、彼女が見た風景を中心にしたものである。
２枚目と４枚目が“石化中途イメージ”として2023年に描いたものだ。
石化実験に知らずして巻き込まれた13人の少女のうち、最初に全身石化したのがシアなのは、
原形である1993年頃の絵をリメイクした1999年頃には既に決まっていた展開であった。
石化装置（メタ・クォーツ・ジェネレータ）が彼女の足下近くにあったという“裏設定”もある。
……もっともそのすぐ隣にいたレアが「最後の石化被害者」であるのは多分にご都合主義だが（爆砕）
1993年当時に原形が出来ていたのはシア、レア、キアとミアの４人で、後は2015年以降に追加した。
設定上、今では12人の少女が同じ事件で被災しているが、うち８人は「後付け」なのだ（笑）
シアが全身石化した時点で装置作動から90秒余りという設定で、
そこから20秒ほどをかけて12人全員が順次、全身石化していくという流れになっている。
間に挟んだ３枚目の挿絵はキアの設定画に加筆したもので、設定でもシアの後に石化した展開であり、
４枚目の絵では左足だけ見切れているが、この時点では既に全身石化していたイメージである。
また４枚目の絵では既にレア以外の全員が全身石化の段階まで進んでいるため、
最初に全身石化したシアは思考停止状態に陥っているイメージもある。
呼吸と振動は２枚目の時点で停止しつつあったイメージなので、その20秒後は設定上そうなるのだ。
もちろん全身が石化する課程で、窒息死という状態は回避されている（その代わりに魂は封印される）
５枚目の挿絵は2015年に作っており、1999年頃に描いた絵の事実上のリメイクに相当し、
ここから現在の“セラミック娘妄想シリーズ”が再開された基点となっている（爆）
この時点ではこの３人以外にミアの設定しかなかったが、この絵をきっかけに「増殖した」のだ（核爆）
異世界の“鉱物娘”が主役を張るＡＳＧシリーズの物語が少し停滞気味になっていた頃であり、
この「固め妄想」を再び活性化させたのがこの絵だったのである（笑）
６〜８枚目も2023年に追加しているが、６枚目と７枚目は2016年頃の線画をコラージュしてもいる。
６枚目は左からミア、ケイ、ピア、セアであり、このうちピア以外はそれ以前の線画を流用したものだ。
７枚目はマイとミオで、こちらもミオは2016年の線画をコラージュし、マイの絵を加筆している。
（ピアとマイも2015〜2016年に最初の設定画を描いているが、アングルが違うため使わなかった^^;）
８枚目はいちおう2023年の完全新作で、地下室に移された直後のイメージであり、
全員が石化しているのはもちろんだが、まだ思考停止状態ながら意識はあるというイメージもある。
シアの前にいるアイはここが初登場だが、実は２・４枚目の左下に下半身が見切れている（爆）
ケオら“元少年”の６人が女体化後に石化されるショートストーリーでは、ここで話が終わっている（※）が、
こちらは「その後の話」を追加しており、意識を取り戻した後のレアの視点を追記している。
（因みに設定上はケオたちも最終的に活性化され、シアたちの同志になるのだが）
１枚目から数えて９枚目になる絵は「着衣バージョン」なので必ずしもシークレット向けではないが、
シアたち３人の設定画をコラージュして「保護された後の３人」をイメージしたものである。
１枚目と５枚目に裸で描いてる（爆）３人が、その30年後もまだ生きているという対比の意図もある。
30年経っているが、石化されている上27年意識がなかったので、メンタルはまだ少女なのだ。
（※当初は石化回収で終わっていたが、その後こちらも後日談を追加した^^;）
絶縁性を持つＺＦＣ系メタロイドが「どうやって生活しているのか」を描くシーンにもなっている。
ＺＦＣ組成でない場合は、ＡＳＧシリーズのルイたちのように、肉声を出せないことを除けば、
特別な装備は必ずしも必要ないが、強い絶縁性を持つシアたちには「特殊な装備が要る」設定なのだ。
（実はＡＳＧシリーズでも、ナイアやスミレたちはシアたちと“同系統”だったりするのだが）
多少オーバーサイエンスな装備になっているが、当時は2030〜2040年という時代背景になっている上、
メタロイドという「石化強化人間」が出てくる世界なので、それほど無茶ではないだろう（爆砕）
そして10枚目はそのシアたちが（基本的にはレア視点だが）再び「お風呂に戻ってくる」。
シークレット・コンテンツなので、衝動的には「裸の彼女たちを描きたかった」わけである（核爆）が、
１枚目との対比を意図した絵でもあり、非常識な運命を乗り越えようとするオチにしてあるのだ。
レアは「自分がシアたちを非常識な運命に巻き込んでしまった」罪悪感に今も悩んでいるが、
シアもキアも「レアの所為じゃない」と励ましながら、協力し合っているイメージである。
完全なハッピーエンドではないが、こういうオチもアリじゃないかと思うのはG-maだけだろうか（苦笑） |
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