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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E114） |
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“朝陽事件”が勃発してから、半月ほどが過ぎた。
朝陽市を襲った“核テロ”の事実に日本中が注目したが、それ以上に衝撃的であったのが、
秘密結社メドゥアスによる、まるで錬金術のような非人道的な“石化人体実験”が明らかになったことだ。
メドゥアスは弱体化しながらも、核心となる機密情報の多くを持ち去って行方をくらましていたため、
“石化人体実験”の詳しい内実は判明しておらず、警察機関も“核テロ問題”の方に重点を置いていたが、
人間の飽くなき好奇心が、それで無難なところに収まるはずもなかった。
ＴＶは連日のように、駅前テロ事件の時に撮影された金属怪人――セラフィの猛攻シーンを流したり、
朝陽市内の“被災地”で撮影した“鉱物娘”の姿を半ば許可なく動画に流していた。
これは朝陽市プレスセンターの“取材規約”では合意違反行為になるのだが、余り守られていなかった。
目に余る違反行為に対しては、裁判に訴える手もあったわけだが、
非常識極まりない事件が背景にあるため、中々効果的な手が打てない状況が続いていたようである。
石化リングの効果を減退させるための作戦はなおも続いていたが、
リングの効果を維持する増幅装置を１基撤去するごとに、朝陽市の“現場”が開放されて行くにつれ、
マスコミを中心とした“市外の好奇心”が突風のように吹き込んできていたのだ。
もちろんそのことは、今回の事件が起きた当初から、予想された事態ではあったのだが……
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１１章 純化主義対共生主義 ★
第４話 朝陽事件インフォデミック症候群
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「事件の感想について、何か１言！」
「世界中が注目しています、何か話してくださいよ！」
「はいはい、下がってください、プライバシー侵害になりますよ！」
朝陽市中心部、警察署の近くに設けられた代替バスの停留所。
下校してきた私立朝陽学園の学生たちに、容赦なくマスコミの集団が襲いかかる。
警官や警備員が体を張ってそれを阻止する光景は、さながら政治家のスキャンダル現場のようだ。
はぁ、と溜息を吐きながら歩く翔子と眞希、その後ろからは瞳と英子が続く。
「全くもぉ……毎日毎日うざいわねぇ」
「仕方ないよ翔子、みんな何が起きたのか知りたくてたまらないんじゃないかな」
「何よ眞希、あんなプライバシー無視の連中の肩持つわけ？」
「そうじゃないけど……逆の立場だったら、どんなことしても知りたがるんじゃないかなって……」
苦笑いしながら言う親友に、翔子はふと何かを理解したような顔になる。
「あーなるほど、ウワサ大好き坂元眞希さんならではの視野ってことかつまり」
「何よぉその言い方」
「べっつにぃ……でもさ、あんたって変なところで客観的なところあるよね」
「変なところは余計でしょ」
そんな会話をしながら歩道を歩く２人の後ろから、英子と瞳が相槌を打つ。
「あーでも分かるかも、坂元さんの言ってること……外野だと確かに、あんまり気を遣わないよねぇ」
「いかにも英子らしい割り切り方ね」
「もちろん今は違うよ、当事者じゃないけど、みんなの苦労が分かる立場になったもん」
「ルイさんやスミレさんと日常会話する“特権”を持ったからじゃないの、それ？」
「う”」
瞳のクールなツッコミに、英子の顔が苦笑いを浮かべたまま硬直した……そんなに図星だったのか。
それを横耳で聞きながら、今度は眞希がうんうんと頷く。
「なるほどね、特権かぁ……それあるよねぇ」
「特権とか、何だか嫌な表現ね」
「でもさ翔子、ルイさんやスミレさんや、エミちゃんとかと友だち付き合い出来るのって凄くない？
あの子たちの“声”が聞こえる人だってまだ限られてるんだよ、周りから見たら妬まれるよねこれって」
「はーい、英子妬んでまーす」
「あぅ」
「ごめんごめん、冗談だよ坂元さん、でもそういう感情良く分かる」
今度は眞希が沈黙した……いつもの光景でもあるが。
そんな会話をしながら、ふと瞳がちらりと後ろを向くと、数十ｍほど離れて大人たちが追ってくる。
取材したくてたまらないが、人権侵害するわけには行かないがゆえの距離なのだろうが、
まるで尾行されているような気分になり、今度は瞳の口から溜息が出た。
「はぁ、“知る権利”かぁ……でも確かに、知的好奇心は人間のサガよね」
「あーもー、滝川さんまで！」
「相手の立場に立って考えるのは大事なことだよ石塚さん、そうしないとケンカになるじゃない」
「……そりゃまぁ、そうだけど……あいつらはこっちの立場に立ってるわけ？」
「さぁ、どうなんだろうねぇ」
「あっ、逃げた！」
「だって難しい問題なんだもん？」
解答を放棄した瞳に、不満げだった翔子は思わずぷぷっ、と噴き出した。
「あはは……滝川さんは強いなぁ」
「そんなことないよ、時々悩んでる……でもさ、堂々としているのは良いことじゃない？」
「そだねー、そいつは間違いないｗ」
「今までと同じにはならないんだから、開き直れば良い気がするのよあたしは」
「あのねぇ、みんな英子みたいに割り切れないのよ？」
「でもあたし分かる気がする……あたしたちが割り切ったら、もっと上手く行くのかも」
「気が合う人が見つかって良かったわねぇ眞希？」
「なぁによぅ」
そんなこんなで、少女たちは中央公園に向かう横断報道へと、進行方向を修正して行った。
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朝陽中央公園南端部にある、メドゥアス被害者向けのテント群。
事件が勃発した当初は１基だけだったテントが、今や軽く１０基以上にはなっており、
その１部は廃コンテナを使った、仮設住宅に似た設備になっている。
センターＤ別室として使っているコンテナとは別に、使われていないコンテナを流用したものだ。
廃コンテナをつないだ内部はホール状になっており、服を着た“鉱物娘”が何人も立っている。
ここはライカやパドルによって、新たに活性化処理を受けた被害者のリハビリルームになっているのだ。
そして彼女たちのリハビリを支えているのも、同じ鉱物娘たちなのである。
事件勃発後に活性化されたアメルやマリナ、ティコやクレアなどの姿もそこにあった。
事件勃発から２週間余りが過ぎて、ついにメドゥアスのラボで石化された被害者の全員が活性化され、
自分の名前を得て“新たな人生”を踏み出すことに成功していた。
７０名以上に上る“鉱物娘”がリハビリを経て生活力を取り戻すのに、これだけの設備が必要なのだ。
スミレなどの“後期型”以外は肉声を出せないため、ホールは基本的に静かであるが、
彼女たちの“心の声”を感知できる者にとっては、ここは実に賑やかな場所だったことだろう。
そんな“リハビリホール”の入口付近に、金色の鉱物娘が１人、コンテナの壁に背中を預けて立っている。
そこそこ背は高いがコナではない……球体関節のような手足を持つ、オーラである。
保護された直後は体に力が入らない状態だったが、再調整とリハビリを経てそれを克服したようであり、
頭部などに埋め込まれていた結晶体は、ルビー色からエメラルド色に変わっている。
そんなオーラだが、しかし表情は物憂げで、瞳の影はないがどこか遠くを見ているようだ。
それに気付いたキャリアの１人、明美が近寄って声をかけてきた。
先の事件で石化を強いられた際に、オーラに激励を受けたためか、明美は彼女に親近感を持っているのだ。
「――どうかしたんですか、オーラさん？」
（……え？ あぁ、明美さん……ううん、ちょっと、前にいた場所のことをね……）
「前にいた場所……確か、旧奥沢村の地下にあったっていう……」
（そう、あのゼロって呼ばれてるヤツの基地……あそこにはまだ、あたしの“仲間”が残っているのよ）
「えっ、そうなんですか！？ ……てっきりみんな保護されたものと……すいません、知らなくて」
（ううん、良いのよ、あたしも今まで言わなかったから……ここしばらく、それどころじゃなかったし。
でもここでの活動が１段落して、ちょっと思い出しちゃってね……）
オーラが気にかけていたのは、旧奥沢村のメドゥアス地下基地に残してきた１５名の“仲間”だ。
朝陽市のラボから保護された７５名の被害者は、活性化されて新しい日々を送っているが、
あの基地で意識がないまま“操り人形”となっている１５名は、まだこの恩恵を受けていないのだ。
自らの意識を持つオーラとレイア、アクアの３人こそ恩恵を受けたが、
“彼女たち”は自分の意識を持たないがゆえに、まだ救い出すことは出来ていないのである。
パドルたちは「いずれ彼女たちも救い出す」と約束してくれているが、未だその見込みは立っていない。
彼女たちを保護して初めて、メドゥアスの狂気を完全に終わらせることが出来るのだ。
先に保護された立場としても、それを実現する日々を強く願わざるを得なかった。
（あたし自身も、今は自分の意志で自由に動けるまでになった……準備は整いつつあるはずなのよ。
１日も早く……出来ることならこの手で、みんなを助けてあげたい……）
オーラは金色の指を滑らかに曲げながら、おもむろに握り締める……金属が擦れる音が、軽く響いた。
「そうだったんですか……早く実現すると良いですね、いいえ、あたしたちも推進していかなきゃ」
（ありがとう、明美さん……その気持ちだけでも十分だよ）
（あたしも応援します！）
ふとそんな“声”が聞こえて、オーラと明美は振り向いた……とそこにルミの青い顔。
いや、ルミだけではない……何人もの鉱物娘が、いつの間にか２人の会話を聞いていたようだ。
「ルミさん……ミカさんも」
（実はあたし、残してきた仲間がいるって、前もオーラさんから聞いたことがあったんですよ）
（えっ、ルミさん聞いたことあったの！？ ちょっとずるい！）
（ごめんごめん、隠すつもりなかったのよ、でも他人の悩みをそんなに軽く言えないじゃない）
（でも大事な話ですよね……あたしも協力したいです！）
（あたしも！）
（あっあの、私も良いですか！）
（みんな……ありがとう。 そうだね、推進して行かなきゃね）
その時、“メタロイド向けテント群”の入口の方から、聞き覚えのある少女たちの声がした。
明美は振り向いてそれを確認した後、再びオーラの方に向き直る。
「あ、翔子さんたちが来たみたい。 どうしますオーラさん、彼女たちにもこのこと、話しますか？」
（うーん、そうね……良い機会だし、話しておこうかな？）
少し考えた後、オーラは決意を固めたように、金色の顔に笑顔を浮かべる。
「えぇ、それが良いとあたしも思います」
明美も改めて笑顔を見せ、オーラの決意を受け止めた。
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「隔離計画――ですか？」
そしてこちらは朝陽市警察署。
警察署と情報協定を結ぶマスコミ関係者の１人である大川は、機動隊長の前畑からその言葉を聞いた。
前線対策本部のリーダーでもある前畑は、マスコミ対策の任務も兼任しており毎日多忙だ。
形式上は警察署長が対策本部長に当たるが、実質的に前畑が切り盛りし続けて今日に至る。
「市の南西部に放射能ホットスポットがあるので、その危険を緩和するのが第１の目的ですが……」
「それだけではない、ということですね……例の被害者たちの件ですか？」
大川の質問に、前畑は軽く頷く。
「報道機関の取材を拒否するわけではないですが、合意違反の強引な取材活動も少なくないわけです」
「そのために市域の１部を隔離すると……」
因みにこの場にいるのは大川だけではなく、信頼ある報道機関の現場責任者数人。
プレスセンターで記者会見を行う前に、彼らとこうして会見内容の摺り合わせを行うことが良くある。
記者クラブのようなものであるため、これはこれで利権チームでもあるのだが、
非常事態の真っ只中において、デマに近い情報を勝手に拡散されるわけには行かないのだ。
「隔離、というと強権的に聞こえますが、“特別管理地区”という表現はあり得るかと。
少なくとも放射能ホットスポットが存在することは事実ですから、その対策強化は必要です」
センターＤを破壊した、メドゥアスの超小型中性子爆弾によって起きた放射能汚染も深刻な問題だ。
半月に及ぶ除染作業によって、要警戒ホットスポットの範囲は多少とも狭まっているが、
それでも爆心地から半径１ｋｍ近いエリアがまだ危険地帯であり、防護服のない立ち入りはもちろん、
防護服があってもなお安全が保証できない状態が続いている。
冬が来るまでに対処を確立させておかねば、乾燥した強風などで汚染物質が飛散する恐れもある。
加えて核テロがもたらした社会不安により、被曝による健康不安を払拭するために市民が病院に殺到し、
“医療崩壊”を引き起こす懸念も持ち上がっている。
総人口５万人に満たない朝陽市で、本格的な被曝検査が出来る病院などほとんど存在しない。
この状況下で“隔離計画”を発表して、余計にパニックが広がる恐れも予想できた。
この放射能問題に加えて、入り込んだ人間を石像に変える“石化ベルト”の警戒地帯が、まだ半分以上残っている。
情報をまとめて扱える“現場”にいるからその違いが区別できるが、
外から見ればこれらの問題を混同して、より騒ぎを大きくするような“事件”が起きる恐れもあろう。
今既に「放射能汚染」と「石化異変」を混同して、市街地に入ると地域に関係なく深刻な被曝をするとか、
市境を越えると石化されてしまうといった“都市伝説”はちらほら話題に上がっているようだ。
石化ベルトの立ち入り禁止区域と放射能汚染地区の区別は、記者会見でも分けて発表しているのだが、
“公”を信じず、“ウワサ”の方を信じてしまう人々は、いつの時代もいるものだ。
特にファンタジーのような事件が起きた今回は、余計にこうした都市伝説の拡散に注意が要るのである。
「特別管理地区、ですか……なるほど」
「被害者を収容するための臨時施設が現在、朝陽港の１角に仮設されておりますが、
こちらも近いうちにより本格的な福祉施設を整備して、移って頂くことを市は想定しております」
「福祉施設、ですか？」
「現在の仮設施設は、実質的に放射化された廃コンテナなので、いつまでもは使えませんからね」
前畑の話によれば、朝陽市は現在のセンターＤ別室に代わる“福祉施設”を構想しているようだ。
前畑が言う通り、現在のセンターＤ別室は、汚染された現場で確保されたメタロイド被害者を保護し、
汚染地区から遠ざけた時に使用したコンテナを再利用しているので、それ自体が放射性物質でもあるのだ。
高レベルではないが、普通の人は素手で触ることがお勧めできない程度にはリスクがあり、
いずれは放射化されていない別の設備に移転させる必要があったことは確かだ。
「そして同時にこの新しい福祉施設を、ホットスポットのモニタリングポストにも使う予定です。
放射能警戒地区の外側に施設を建てることで、警戒ラインの境界を明確にするという意図もあります」
「ではそこが特別管理地区の境界になるということですか？」
「いえ、特別管理地区の境界はこれよりも外側で、中央公園の避難所などを含む予定です。
被害者のみならず、“被災者”のプライバシー保全も目的の１つですからね」
「そうなると、それは被災者たちの隔離という誤解を招くのでは……」
大川が複雑な表情を浮かべてそう言った。
朝陽市が特別管理地区を設定するのは、放射能汚染と石化異変という２つの“非常事態”に際して、
周囲の自治体の不安を払拭するのと同時に、“報道公害”を抑止する意図があったが、
放射能ホットスポットを含む“被災地”の広域を管理地区にすることで、
外向けには「被害者たちを隔離して封印してしまうイメージ」を持たれる恐れを彼女は懸念していた。
自らも被災し、被害者たちの支援を望んでいるだけに、誤解は避けたかったのもある。
「ですから“隔離”という言葉を極力使うべきではないんです……それが目的ではないことを明確にして、
放射能リスクの低減とプライバシー保全のために行うことを説明する必要があります」
「それは確かにそうですね……上手く行くかしら」
「手探りなのは承知の上ですよ……それでも前に進めていくしかないのです」
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そして再び中央公園。
メタロイド向けテント群の周囲は、いつも人だかりが出来ている。
好奇心で“鉱物娘”を見に来る者ももちろんいるが、被災者の１部は“キャリア”であるため、
鉱物娘の境遇に理解があり、コミュニケーションで更に理解を深めたいと思っている者も少なくない。
“復興”が始まった当初は、このテント群の近くまでマスコミが頻繁にやってきていたが、
ここ数日はその数が減っている……それでも先日ナイアに絡んだ記者がいるように、ゼロではないのだが、
これは中央公園内に設置された“テント村”の配置にも関係がある。
メタロイド向けテント群を取り囲むように、キャリアたちが暮らすテントが設置されており、
メディアを含む“余所者”が容易に奥まで入って来れないようにしているのだ。
カメラを構えた集団がうろうろしていれば、すぐに被災者が声をかけて誘導できる仕組みである。
加えて公園内にも警備員が配置されているため、不審な侵入者が見つけやすくなっている。
「――えっ、学校にもマスコミが来てるんですか？」
「そーなのよ……さすがに校舎までは来ないけど、校門の前でずっとうろうろしてるのよねぇ」
被災者中心の人だかりの中で、ボヤキ声を上げたのは翔子だ……隣でスミレが椅子に座って聞いている。
「マスコミだけじゃなくて、生徒の中でもあたしたちちょっと、孤立してるよね……」
「確かにみんなの見る目が全然違ってるよね……英子が食って掛かってたけど、無理もないわ」
「被害者を見る目じゃないもん、ふざけんなって思うでしょ普通」
「放射能汚染が起きた地域として報道されたから、その影響があるかも知れないわね……
風評被害をもたらしそうな情報は注意して扱うようにって、プレスセンターでも言ってたはずだけど」
ライカの“解説”を聞きながら、翔子はぷぅ、と頬を膨らませる。
「まぁ確かに、あたしと眞希は“爆心地”にいたわけだけどさ……」
（翔子さん大丈夫？ ストレス溜まってるみたいで心配だなぁ）
「うーん、まぁ今んとこ大丈夫だよルイさん、そのうちキレるかも知んないけどさ」
「翔子がキレるの、あの台風の大雨以来だねぇ」
（……翔子さんって、良くキレるんです？）
ぼそっと言ったサラの“声なき言葉”に、何とも言えない微妙な空気が立ち込めた。
そんな空気に気付いて、サファイア色の少女が慌てたような素振りをする。
（……あっ、あらっ！？ 私今、変なこと言っちゃいました？）
「……良くはキレないと思ってるけど」
「良くはキレないよ、でも時々はキレるかも知んない」
「眞希それ、全然フォローになってないからね？」
（ＴＶで時々外のニュース見るんですけど、みんな勝手なこと言ってますよね。
あたしたちはともかくとしても、翔子さんも眞希さんも、町の人たちもみんな被災者なのに）
翔子の愚痴に釣られるように、エミが不満そうにぼやく。
因みに孤立状態の時、会えていなかった母の恵子とは、孤立解消の３日後に再会したようだ。
ただ実家が今もまだ石化ベルトの中にあるため、親子共々テント生活を余儀なくされているのだが。
ＴＶは公園内にある多目的施設のものを見ているらしい。
「そーいや、市内の１部が隔離されるって話を聞いたんスけど……」
これは滋だ……彼や天野 姉弟もテント暮らしを強いられている。
“隔離計画”の話はまだ公になっていないが、ウワサは既に広まっているようだ。
それに対してもライカがフォローを入れる。
「放射能汚染された地域があるのは事実だからね、今のまま放置はできないってことじゃないかな。
それにデマが拡散しないように、情報を管理する意図もあるんじゃないかしら」
「もう結構色んなデマが飛び交ってるっぽいですけどね……」
瞳が苦笑しながら言う。
確かに事件勃発から半月も経てば、当事者がどれだけ労を尽くしても余計な情報は拡散する。
そしてその身勝手な情報の氾濫によって、混乱に拍車がかけられるのだ。
そんな瞳の言葉に、翔子は再び大きな溜息――いや深呼吸をする。
「人間って勝手な生き物だなーって思うわホント……でも」
（――でも？）
「あたしだってその人間だからね、あたしたちから変わらなきゃいけないんだと思う。
さっきオーラさんが言ってた、旧奥沢村に取り残された人たちも、助け出さなきゃダメだしね」
そう言って翔子は、リハビリルームの入口にまだ立っている、オーラに目をやった。
視線に気付いたオーラは、軽く頷いて笑みを見せた。
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その頃――朝陽市警察署の地下室では、拘束されたタイタンの尋問が行われていた。
１週間ほど前に、朝陽駅前の前線対策本部を襲撃した秘密結社の金属怪人は、
自衛隊が実施した“電磁石作戦”で捕らえられ、暴走しないようにＥＭＰ電極を付けた上で、
署内で最も頑丈なこの地下室に“幽閉”されていた。
かつてメドゥアスの第１ラボに続いていた地下道はクリスタによって爆破されて埋没していたため、
タイタンはＥＭＰ電極の電撃を耐え切って地下室を飛び出さない限り、逃げることは出来ない。
「何度聞いても無駄だ……私はゼロに忠誠を誓ったのだ、革命の同志を裏切るわけがなかろう」
タイタンはメタリックな渋い顔で、正面に立っている川田警部や前畑の問いを突っぱね続けていた。
「それに私とて、ゼロの情報を全て知ってはおらぬ……アグネムの方がはるかに詳しかったはずだ。
だがそのアグネムはあの金髪が殺してしまった……ふん、残念だったなぁ？」
「相も変わらず――能弁だな？」
と、そこに“ウワサされた金髪”パドルがやってきた。
決して広いとは言えない地下室の階段に、２ｍを超える体を捻じ込んで降りてくる。
その姿を認めた途端、タイタンの表情が鬼神のように歪み、縛り付けられた鋼の椅子が悲鳴を上げる。
「貴様――よくものうのうと、ここに来おったな……！」
「おいおい、自分の陣地みたいに言うなよ……俺も何度か来た場所だぞここは」
「忘れぬぞあの屈辱……アグネムを殺し、ラボを破壊した……あまつさえゼロまで貴様の刃に！」
「お互い様だろ、お前らも末留警部を殺し、俺が建てたセンターを爆破したじゃねぇか。
あと刃とか言うな、“斬られた”のは俺の方だ……メドゥアスには１発食らわせただけだぜ？」
煽り返すようなパドルの言葉に、タイタンの表情はどんどん険しくなっていく。
今にも椅子を壊して暴れ出すんじゃないかと、前畑は冷や汗をかきつつ、ＥＭＰ電極のボタンを握る。
「黙れ偽善者め……くだらぬお節介で、偉大な革命を止めるとは愚劣の極み！」
「何が偉大な革命だよ……第一お前、あのセラフィに１度は始末されたんだろ……忠誠も怪しいもんだぜ」
「暴走したのはセラフィの方だ、あやつが好き勝手やっていなければ、計画は順調に進んだのだ！」
「そのセラフィが俺に撃破されて、お前は案外ホッとしてるんじゃないのか？
ナンバー１のクリスタだって、サイコのネメシスだって、戦闘力じゃお前以下だ……そうだろ？」
「……何が言いたい？」
タイタンの宝石のような目が細く絞られる……パドルが単にからかってるのではないと気付いたらしい。
「それに、お前らがやりたかった革命は、本当に潰えたのか？ ――現状を良く見ろよ。
街は変質し、大勢のキャリアが生まれ、メタロイドは否応なしに外界に解き放たれているわけだ」
「……分かっておらぬな、我らの革命に人間は必要ないのだ」
「本当に必要ないと思うか？ よしんば計画が成功して、町全体が石化されたとして、それが何だよ。
世界は広いぞ、そういう強引な世界の改造を、あと何回繰り返したら夢がかなうと思う？
お前が忠誠を誓っているというゼロ――メドゥアスが、そんなことも分からなかったと思うか？」
「ぬぅ、貴様……ゼロの意志を嗤うか！」
「嗤ってるんじゃない、あいつの目的は革命なんかじゃないってことだよ」
「……何だと！？」
憎悪に満ちた表情でパドルを睨みつけていたタイタンの表情が、初めて変わった。
「メドゥアスが人間じゃなかったことは、既に知ってるだろう……あいつは魔界の軍属科学者だ。
そいつが世界を超えてここにやってきた……何のためだと思う？ 革命なんかじゃない。
自分の世界――魔界で使い勝手の良い、金属の歩兵を進化させ、手っ取り早く量産するためだ。
野心があるならもう少し冷静になれよ……お前は騙されてるんだぞ」
「まさか……そんなわけはない、私をたぶらかそうとしても、その手には乗らぬぞ！」
「信じるかどうかはお前の自由だ、だが今の強引なやり方じゃ、革命の実現まで遠いと理解するんだな」
そう言い捨てて、パドルは階段を上がっていく……タイタンは黙り込んだ。
パドルはこの世界で“調査”を行う前に、メドゥアスの目的についてある程度調べていた。
ゼロことメドゥアスが、元々所属する“魔界列強”で軍属科学者の地位を持ち、
効率的な新兵器を研究していたことは予め掴んでいた情報であった。
タイタンに「メドゥアスは革命のために行動しているわけじゃない」と言ったのはハッタリだったが、
急進的なテロリズムでそれを達成するのが困難なことなのは、明白だったのである。
メドゥアスが秘密結社を使って、メタロイドの“量産”を試みた意図は別にある。
それがパドルの見込みであり、あわよくばタイタンを使って真相を掘り下げられないか試したのだ。
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その日の夕刻、中央公園南部のリハビリルームに、アイガーの姿があった。
身長２ｍ近いガンメタリックの怪人が、色とりどりの鉱物娘たちに混ざってリハビリを行っている。
（ねぇねぇアイガーさん、この模様どうなってるの？）
「っせぇな……武器が埋まってるんだよ、斬られたくなかったら近づくんじゃねぇよ」
興味津々の顔で質問するのはスイだ……アイガーは面倒そうな顔をする。
傷だらけになったアイガーの治療には丸一昼夜がかかった……今もその跡が手足に残っている。
治療から１週間ほどが経ったが、まだ完全回復とは言い難い。
「おぅ、大分回復したみたいだな」
そこにパドルとライカが現れた……アイガーは２人を認めると苦笑いを浮かべる。
「嗤えよ、また死に損なっちまった」
「まだホルスに会うには早いってことじゃねぇか、コナやジュリに感謝しろよ？」
「全く物好きな娘共だぜ、俺が何者か分かってんのかね」
「分かってるんじゃないの？ センターを守るために共闘した同志じゃないの」
「同志、ねぇ……」
アイガーが実感のなさそうな表情をした……その時である。
「パドルさん――隊長さんがすぐに来てくれって……！」
突然スミレがリハビリルームに入ってきて、そう言った。
パドルがリハビリルームを出てテント群の入口付近まで行くと――血相を変えた前畑が立っていた。
相次ぐ非常事態の中で、冷静さを保ってきた彼にしては珍しい。
「――パドル殿、大変です！」
「前畑隊長……どうしたんです？ 一体何が……」
そしてすぐに――パドルは衝撃の言葉を聞くことになった。
「あの秘密結社幹部の……“アグネム”の遺体が、安置室から消えました」
「……何ですって？」
眉を潜めるパドル……続いて出てきたライカとアイガーも同じ反応をした。
「遺体が消えたって……どういうこと？」
「をぃマジかよ……こんな状況下で、ホラーじゃあるまいし」
「……つまり、あの男は――まだ死んでなかったってことか」
眉を潜めたまま、呟くように言うパドルに、今度は前畑の方が驚愕する番だった。
「ちょっ、パドル殿！？ 死亡確認を取ったはずですよ、熱線が心臓を貫通していたではないですか！」
「確かに貫通した……普通の人間だったら死ななきゃおかしい、だけど……」
「そう言えば……普通の人間じゃない、って言ってたわねこの前……」
ライカの呟きに、パドルは渋面のまま頷く。
「あの男――アグネムは、メドゥアスの因子を持つ人為的なハーフ、つまり“半妖”だった。
魔族の中には、心臓がなくても生きていけるやつらがいる」
「まぁ……実際メタロイドだって、心臓持ってないわけだしな……」
「そんなムチャクチャな……確かに死亡確認したのに、こんなことが……」
「仮死状態のようなものだったのかも知れません……メタギュランは元々“冷血種族”ですしね。
――ちっ、まさかこうなるとまでは想定しなかった……ちょっとややこしくなりそうだぜ」
「……やつらの妨害活動が、また激しくなるということでしょうか？」
「１つの可能性として想定しておく必要はありますね……アグネム自身は戦力にならんでしょうが、
クリスタと共にメドゥアスの右腕のような男だから、最大限の警戒が必要だと思います」
そう言って、パドルは溜息を吐く……ライカも釣られて吐いた。
「……まったく、ホント一筋縄じゃ行かないわね、あいつらって」
「簡単なミッションじゃないとは思ってたがな……欺きやすい“人間界”だからこそ捻りも利くのかも知れん。
魔界や銀河社会じゃ、こういう捻りは通用しないだろうぜ」
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| （第１１章第５話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2020年に作成したエピソード。
前話とは逆に、人間社会の“闇”をテーマにしたパートである。
G-maは“欝展開”は基本的に好きではないので、余りドロドロとした表現にはなっていないが、
人間の知的好奇心が時としてプライバシーを越え、ストレスを与える問題を扱っている。
また今まで一言二言しかセリフがなかった瞳の親友・英子が、今回は大々的に自己主張している（笑）
眞希が“半キャリア”になったため、彼女が過去の眞希のポジションを担っているところもある。
１方、アグネムの遺体が安置室から消える展開は、サプライズとして追加したフラグだ。
９章５話で致命傷を負わせているが、魔人メドゥアスと「人工的な血縁」を持っている人物であるため、
最終章に向かって１波乱起こす役回りを演じさせてみたいと考えたものだ。 |
