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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E115） |
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朝陽市の郊外にある、丘陵地の雑木林。
秋も半ばに入ったが、雑木林の姿は変わらない……といっても別に“常緑樹”だからではない。
本来ならこの辺りは紅葉がきれいな、落葉樹の林が広がっているはずなのだ。
つまりこの辺りはまだ、“石化ベルト”の影響が続いているのである。
雑木林は全体が灰緑色にくすみ、ところどころで無機質な光沢を反射している。
小鳥のさえずりも虫の鳴き声も聞こえず、不気味なほどに静まり返った「石化林」である。
秘密結社メドゥアスが“最終計画”を強行してから１ヶ月余りが過ぎたが、
この雑木林はまだパドルたちの手による“石化ベルト解除計画”が行き届いていないのだ。
１週間に１個以上の頻度で“サークル装置”を解体しているため、既に５個以上が解体されたのだが、
それでも推定１３個あるとされる、サークル装置の半数以上はまだ“稼働中”なのである。
メタロイド化した被害者がそうであるように、場合によっては“石化固定”される可能性もある。
そんな雑木林に、サクサク、と規則的な物音が聞こえる。
普通の生物なら全て石化されるはずの静かな“異世界”に、その物音だけが木霊のように響いてくる。
そして間もなく――くすんだ木々の隙間から、赤い人影が覗いた。
全身真っ赤な、ルビーかガーネットを思わせる“鉱物娘”が歩いている。
やや背が高く髪が長いその姿は、ルイともミカとも違い、服の色まで赤みがかっている点でも違う。
真っ赤な鉱物娘はそのまま、封鎖線が張られている林道まで降りてきて、
間もなくその封鎖線を越えた……瞳のない赤い目が、キョロキョロと周囲を見渡す。
そして数分後――真っ赤な鉱物娘は“人間の姿”を取り戻した。
やや赤みがかった長い茶髪と、同じく赤い光彩が印象的な、少し勝気な雰囲気の少女である。
「ふぅ……今日はあんまり、収穫なかったなぁ」
彼女の名は浅田楓――先のメドゥアス事件で被災した“キャリア”の１人である。
実は事件勃発当時、エミと涼子が別の封鎖線近傍で目撃した「赤い石化被害者」こそ、楓であった。
翔子や春海がそうであるように、楓もまた“疑似メタロイド化”能力を有しており、
そのことに気付いてから、彼女はこうして自発的に“変身”し、“探検”を繰り返していたのだ。
自身の石化被害にショックを受けた者が多いが、中にはこういうケースもあるのである。
「中央公園……久し振りに行ってみようかな？」
楓は誰ともなくそう呟いて、朝陽中央公園がある方角に視線を向けた。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１１章 純化主義対共生主義 ★
第５話 鉱物娘と共生する未来へ
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朝陽警察署内の会議室に、迷彩服の集団がいる――陸上自衛隊の隊員たちである。
もちろん前畑を始めとする警官たちの姿も、そしてパドルやライカの姿も見えている。
「ではこれより――“メドゥアス摘発計画”の検討会議を始めます」
前畑の言葉と共に、緊迫した表情を浮かべた集団が、会議室の椅子に腰掛けた。
旧奥沢村の地下にあると目される、秘密結社メドゥアスの“最終拠点”を摘発するための会議だ。
秘密結社の創始者である“魔界人”メドゥアス・ゼロの“本拠地”であり、
秘密結社の暗躍に大きな影響を及ぼすこの“地下基地”を陥落させることが主目的であり、
オーラやレイアが訴える、今なおこの基地で“幽閉”される１５名の被害者の保護も目的だ。
秘密結社のラボから保護された、ルイを始めとする７０名以上の石化被害者の活性化のメドが立ち、
彼女たちを保護するセンターＤ別室周囲の警備体制が確立したことが、大きなきっかけだった。
パドルとライカ、アイガーに代表される“主戦力”が持ち場をしばらく離れても、
中央公園のテント村やセンターＤ別室の治安を維持出来るメドも、ようやく立ちつつあったのだ。
１週間余り前に“脱走”した秘密結社幹部、アグネムの捜査も進んでいなかったが、
組織の“活動拠点”が今や旧奥沢村の地下基地ぐらいしかなかったことから、
ついに朝陽市警と自衛隊の“合同摘発チーム”により「先手を打つ」ことが決まったのである。
自衛隊員にキャリアがいないため、最前線に乗り込むのはパドルとライカとアイガーの他、
警察や消防士のキャリア数人、更には“戦力化”が期待できる数人の鉱物娘である。
過去に実際に基地内部に潜入した経験のある、ルイやユウも含まれている。
ただ戦力化といっても、“擬似メタロード化能力”を持つルイや、
２次処理を受けて高い機動力を持つオーラたち以外は“後方支援”に徹する前提になっている。
それでもライカやルイが過去に潜入した時は、変身した瞳を含めて４人しかいなかったが、
今回の摘発計画ではパドルやアイガー、オーラやキャリア警官など合計１０名以上のチームとなり、
これに中隊規模の自衛隊員や機動隊員が、更に後方で支援する体制となるのだ。
これは推定１５人いると見られる、地下基地の被害者を保護するためにも必要な人数なのだ。
「ライカ殿やオーラさんの供述によると……“石化ゾーン”のラインはこの辺りのようです」
そう言いながら、前畑がプロジェクターを使って旧奥沢村の地図に線を引く。
そこは１ヶ月余り前、眞希や瞳が“謎の石化波動”に襲われた場所と、ほぼ一致していた。
「そして地下基地への入口が、この村外れの洞窟にある……そうですね、ライカ殿？」
「そうですね、それと手前の方にも“崩れた穴”があったのですが、埋められたかも知れませんね」
「ライカはそっちの方で待機しておいて、俺とアイガーが洞窟から入った方が良いかもな」
ライカの言葉にパドルが意見を重ねる……事実上の“最強戦力”を前線に配置する戦術だ。
ただパドルもアイガーも、実のところまだこの地下基地は未知なので、慎重さは必要なのだが。
「あと敵側の最強戦力はメドゥアスと見て良いが、警察署を襲撃したクリスタにも警戒が必要だ。
警察署襲撃時に同行したという、銀色の“兵士”もまだ残っているだろう」
「あの銀色の兵士は動きが単調なので、キャリアの機動隊員でも止めることが可能ですよ」
「問題はクリスタだな……警察署襲撃時には見せていないようだが、やつには“憑依能力”がある」
腕を組んでそう言ったパドルに、自衛隊の中隊長らしき男がふと首を傾げる。
「えっ……憑依、ですか？」
「非科学的な話に聞こえるでしょうが……警察署を襲撃した敵の最高幹部であるクリスタは、
『相手に乗り移って操る』能力を持っているのですよ……末留警部もその被害に遭ったのです」
「相手の肉体は選ばないみたいだし、警官や自衛隊員を乗っ取っても不思議はないわね……」
「そのためにも、ライカが後方支援組をサポートする必要があると思うんだよ。
ある程度現場で対処出来るとは言え、予想外の行動に出られた時、抑止出来る者が必要だ」
「それじゃあ……最前線には２人だけで向かうつもり？」
「いや、オーラとレイアとアクアに来てもらう……１５人の被害者を保護するのに、３人の力が必要だ。
制御核は再調整済みだから、メドゥアスの支配下に戻るリスクも低いと思うしな」
パドルの言葉に、ライカの横に座っていたオーラが大きく頷いた。
（あたしたち３人なら、ゼロの妨害を受けない限り、あの子たちの行動を制御出来ますからね。
今まではあたしたち自身が操り人形だったけど……その心配も今はないですし）
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「浅田先輩――久し振りです！」
「おー博美、今日もここに入り浸ってんのねｗ」
鉱物娘とキャリア達が交流する、朝陽中央公園の“テント村”で少女たちの声が上がった。
赤みがかった茶髪の少女――楓に反応したのは天野博美である。
実は楓は、博美や雪子と同じ高校の先輩なのだ。
「って、あれ……先輩、髪染めました？」
「え？ いやぁ、そんなことないよ？」
「でも目の色も違う……先輩カラコンとかしましたっけ？」
博美の後ろからやってきた雪子が、楓の髪の色の“微妙な変化”に気付いたようだ。
そんな光景を見ていた明美が、おもむろに楓に話しかけた。
「浅田さん……もしかして“変身能力”乱用してない？」
明美の言葉に、楓の表情が明らかに引きつった……後輩にも気づかれてしまうほどに。
「……やっぱ図星か」
「えっ、変身能力の乱用って、どういうことですか？」
「あたしたち“キャリア”には、確か１時的に“石化形態”を取れる能力があったはずなのよ。
あたしは使ったことないけども、翔子さんや春海ちゃんには経験があったみたいね」
明美は真面目な表情で言葉を続ける。
「ライカさんに聞いたんだけど、変身能力を使い過ぎると、髪や目の色に変化が出るんだって。
本来の体が、石化形態の時の影響を受けてしまうんだって……そして最悪の場合、
髪や目の色が変わるだけじゃなくて、人間に戻れなくなる可能性もあるって言うのよ。
実際春海ちゃんとか、光彩の色が金色だからね……変身能力を乱用したわけじゃないらしいけど、
あの組織に石化されてから、１ヶ月くらい放置されていたみたいだからね」
「えぇーっ、それって大変なことじゃないですか、先輩危ないですよ！」
明美と後輩に問い詰められ、楓ははぁ、と溜息を吐く……あっさり観念したらしい。
「……で、でもさ……変身しないと森の探検とか出来ないんだよ……森で何が起きているのか、
知ろうとしたら人間のままじゃダメなんだもん」
「専門的に調べている人たちがいるんだから、任せたら良いじゃない」
「でも知りたいんですよ明美さん……興味がある人、きっとあたしだけじゃないと思う」
「まぁ、気持ちは分かるんだけどね……あたしも興味がないといったら嘘になるし。
でも無理をしたら、ルイさんたちと同じ目に遭うかも知れないのよ？」
明美にそう言われ、楓はさっきまでの陽気さはどこへやら、しゅんと項垂れる……意外と単純らしい。
――とその時、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「――あ、そう言えば……あの人たちはどうして、あの森の中で平気だったんだろう？」
その言葉に、明美は妙な予感を覚えた。
「……あの人たち、って？」
「その、えぇっと……あたしが変身して森の中を探検していた時、人影を見かけたんですよ。
あそこは変身しないとは入れないはずなのに、その人たちは何故か平気で……
遠くから見かけただけなんですけど、多分若い男の人と、少し年配のおばさんだったと思う」
明美は思わず、博美や雪子と顔を見合わせる。
楓の言っていることが事実なら、これは「大事な情報」である可能性が高いからだ。
「浅田さん……ライカさんたちが戻ってきた時、もう１度その話してくれない？」
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１方、同じく中央公園テント村の別の場所では、３人組の親子連れが少女たちと会話していた。
「石塚君たちも、今回は本当に大変な目に遭ったね……」
親子連れの男性は私立朝陽学園講師の山崎真太郎、会話している少女たちは翔子や眞希である。
真太郎と妻の幸子のすぐ前には、小柄な１人娘――香澄の姿もある。
「山崎先生、あたしら今回の事件の前から、縁があったんですよ……夏の台風災害の頃からね」
「えっ、そうだったのかい？」
「ほら……香澄ちゃんが土砂崩れに巻き込まれたことあったじゃないですか」
「あぁあの時、そう言えば香澄と話していたわね……確か『赤い顔の少女』とか―― ！！」
そこまで言いかけて、山崎夫妻は硬直した……視線の先に、その“赤い顔の少女”がいたからだ。
“あの日”香澄を倒壊した家から脱出させ、翔子との縁を作った鉱物娘――ルイである。
わざわざここに来たわけではなく、翔子たちを探していた時に、たまたま「出くわした」だけだが。
朝陽事件に直接関わっていない山崎夫妻は、初めて近くで見る鉱物娘の姿に困惑する。
都市伝説としか思っていなかった「宝石のような体を持つ少女」が目の前にいるのだ、無理もない。
“赤い顔の少女”どころか、全身がルビーのような半透明の鉱物で出来た少女なのだから。
だが戸惑いを隠さない山崎夫妻とは対照的に、香澄は目を見開いてルイの顔を凝視していた。
むしろ――戸惑ったのはルイの方だった。
「ほらルイさん、香澄ちゃんだよ……あの台風の時、崩れた家から助けた子」
（う、うん……知ってるけど……この子は、あたしのことは……）
「大丈夫、ルイさんのこと知ってるよ……それだけじゃない、ずっと心配しててくれたの」
恐る恐る足を踏み出す香澄の背中に、翔子は優しく手を添えてエスコートする。
何て言えば良いのか分からないような顔をしていた香澄は、やがて柔らかい笑みを浮かべた。
釣られてルイも笑みを浮かべ、香澄の前にしゃがんでゆっくりその手を取る。
“声”は聞こえないが、あの日と同じように口を動かす――「ア・リ・ガ・ト・ウ」と。
その口の動きを読んだ香澄が再び、今度は満面に笑みを浮かべて、大きく頷いた。
「あ、あたしも……あ、ありがとう、ございます……！」
（礼を言うのはあたしだよ……香澄ちゃんと会ったおかげで、今があるんだから）
“再会”を喜ぶ翔子の隣で、眞希も感慨深げに頷く。
「そっかぁ、全部あの日からつながってるんだよねぇ」
「ある意味“奇跡”だよね……あの日からここまで来るなんて、あたしも予想してなかった」
「……そうだな、彼女が香澄の“命の恩人”ってことだよな……本当に有難う」
真太郎はそう言って、ルイに頭を下げた……釣られて幸子も頭を下げる。
（そんな……あれはたまたま、崖を転げ落ちたのがきっかけだったし……）
「偶然だったろうけど、でも全部今の関係に結びついてるんだよ」
「そう言えばその時ルイさんを崖に突き落としたのが、あのアイガーさんだったよねぇ」
突き落としたとは失敬な、投げ飛ばした先が崖だっただけだぞ――本人を代弁して。
「そうか、あの台風がこの出遭いを作ったのか……さしずめ、雷神の導きと言うべきかな」
……誰が上手いこと言えと。
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その頃――旧奥沢村の地下基地。
瑠璃色の深い通路の奥で、この基地の主――メドゥアスが休息していた。
いつものスーツ姿ではなく、上半身裸であり、筋骨逞しい“ほそマッチョ”さがよく分かる。
青白い肌の“魔界科学者”はしきりに脇腹をさする……そしてそこだけ、不気味に変色している。
アザのように見えるが「人間ではない」ためか、その色は人のそれとは違う。
その“変色アザ”はまさに１週間余り前、パドルとの“直接対決”で受けた傷であった。
ただのアザではなく、そこだけ筋肉の１部が抉られるように凹んでいるのも分かる。
見ようによってはそのくぼみはちょうど“拳”の形にも見えなくもない。
「ちっ……まだ直らぬか……やらねばならぬことが多いというのに……忌々しい」
その時、通路の突き当たりにあるこの部屋に、クリスタが入ってきた。
「ゼロ――アグネムが“エリアル”を連れて参りました」
「エリアルだと？ ……ほぅ、あの女、やはり生きておったか」
間もなく部屋にアグネムが現れた……やや年配の、しかし美しい女性を連れている。
彼女こそ――かつて“魔女”の異名で呼ばれた秘密結社の女性幹部、ナンバー７“エリアル”だ。
かつてクリスタが集めた幹部会議に参加した唯一の女性で、腹の底を見せない妖しさがある。
「よく来たな……ナンバー７」
「ゼロ――初めまして、になるのでしょうか……お声は以前１度だけ、伺いましたが」
「ふん……何年も前のことをよく覚えておるな、まぁ良いさ」
「組織がやつらに潰されて、セラフィもタイタンも行方知れずと聞いて実に不安で御座いました」
「タイタンは人間どもの捕虜となったようだ……口は大きいが情けないやつよ。
だがセラフィは“ここにいる”……多少、姿が変わったがな……そのうち見せてやろう」
思わせ振りなメドゥアスの言葉に、エリアルは目を見開いた……紫の光彩がミステリアスである。
「それにしても、アグネム殿もよく脱走されましたな」
「これもゼロの計らいですよ……あの連中が作った“魔術の要塞”ならばいざ知らず、
警察の遺体安置所など、我々にとってはザルも同然ですからね」
「なるほど……つまり“ゲート”を安置所に通したのですね、しかしゼロも傷付かれているのに、
よく自力で動けたものです」
「人間としての心臓は破壊されたが、私にはまだ“魔族としての心臓”がありますのでね。
予備のようなものなので激しくは動けませんが、ゲートを潜るくらいなら問題はありません」
「時に、ナンバー７……いやエリアルよ。 どうしてここに来た？」
再び思わせ振りに言ったメドゥアスの言葉に、エリアルは首を傾げた。
「どうして、と言われますと？」
「第１ラボが陥落してから１ヶ月の間、どこで何をしていたのかね。
クリスタもタイタンもその間、お前に会ったとは言わなかった……今も組織の１員であれば、
もう少し早く顔を見せることも出来たのではないかね？」
「そういうことでしたか……申し訳御座いません、実は別件の工作に取り組んでおりまして」
「ゼロ、ナンバー７は“報道工作”に取り組んでいたようです……革命を進めるために。
以前コメンテーターとして利用した例の男の“後釜”を探していたようですね」
「あの男か……確かクリスタが操っておったな、ということはもう利用できなくなったのか？」
「外部の諜報員の手に落ちたと聞いています……我々を警戒する連中もおりますゆえ」
エリアルはかつて、クリスタと共に“報道・情報工作”を担当していたことがあった。
エリアルが連れてきた「利用できそうな学者」に、“憑依能力”を持つクリスタが干渉し、
「石化人類による新時代」を語らせる工作を実施したことがあるのだ。
１ヶ月余り前――瞳がＴＶで目撃した「奇妙な学者の主張」こそ、まさにこの工作であった。
「それで……後釜は見つかったのかね？」
「学者という肩書きはありませんが、今回の事件で特ダネを探すジャーナリストが大勢います。
彼らを煽り『新時代の記事』を書かせる方法を今、検討中です」
「ほぅ、それは面白そうだ……まぁ頑張ってくれ」
メドゥアスは目を細めてそう言った。
もっとも……彼自身は余りこの“魔女”を信用してはいなかったのだが。
忠誠心を前面に出すクリスタと違い、エリアルには明らかに“闇”があったためだ。
“後釜”の話も、１ヶ月余りも行方を知らせずにやることではない。
第一、まだ石化ベルトの影響が色濃く残る状態で、自由に出歩いているのも奇妙だ。
エリアルは“キャリア能力”があると言っているようだが、姿が変わらないのも妙である。
この女性には明らかに、メドゥアスに明かしていない“秘密”があるようなのだ。
組織とは違う“腹案”を持っているなら、それも利用してやる、とメドゥアスは考えたようだ。
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「――君がベルト内で探検していたという子か」
中央公園テント村の奥、“鉱物娘向けテント”の中で、楓の“目撃談”をパドルが受けていた。
隣にはライカやアイガー、前畑の姿もある。
「は、はい……」
「“属性”の同化が始まってるわね、これからは余り無茶しちゃダメよ」
「はぃ……」
たしなめるライカに、再びしゅんとなる楓。
キャリアの立場をポジティブに受け止めていることは良いことであるが、
擬似メタロイド化能力を含めて、その属性を上手く扱えなければ損をするのは彼女自身だからだ。
実際最初に石化を強いられた時、彼女はショックで意識が飛んでおり、
すぐ隣をエミや涼子が通り過ぎたことにも気付かなかった。
変身能力を知ってからそのショックは薄れたが、戻れなくなるかも知れないとなれば話は別だ。
“擬似メタロイド形態”時は新鮮な体験だが、体が石化する時は大きな違和感があり、
それがずっと続くというのも、楓にとっては気分の良い話ではない。
もちろん、戻れないということは、ルイやエミと同じ状態を強いられることを意味する。
「まぁ、10回やそこらでは目の色が変わる程度だろうが、依存状態になるとまずいからな。
さてその話はともかく、君が見たという“人影”の話だが――」
パドルに促されて、楓は深呼吸で心を落ち着け、石化ベルト内の山林で見た人影の話を始めた。
若い青年と熟年の女性の２人組が、石化ベルト内を悠々と歩いていた、という話だ。
「その２人の外見の特徴は？」
「えぇっと……男の人の方は今のあたしみたいに、赤っぽい髪だったと思います。
女の人は基本黒いんですけど、ちょっと青っぽかった気もします」
「……男の方はどうやら“アグネム”で間違いないようですね」
前畑が溜息を吐くように言った……先日“脱走”したメドゥアスの幹部と一致したからだ。
しかも第１ラボの戦闘事態でパドルが仕留め、１度は死亡確認したはずの男が、
今も生きて朝陽市の山林をうろついていると知れば、気が滅入るのも無理はないだろう。
「けれど、どうやってあの安置室から……警備はいたはずなんですが」
「メドゥアスが“召喚ゲート”を使った可能性がありますね……荒唐無稽に聞こえるでしょうが、
空間を飛び越える穴を開けて、直接アグネムを外に連れ出した可能性があります」
「ムチャクチャですな……そうなると手の打ちようがない、それにこのままではあの地下室も」
「あり得ますね……これまで乱発していないところを見ると、準備は要るみたいですが」
前畑が懸念しているのは、タイタンを“幽閉”している朝陽警察署の地下室である。
警備をすり抜けて自由に“ゲート”を開けられるなら、タイタンの拘束も万全ではない。
クリスタの地下室襲撃時など、何度も同じ手を使っていないところを見ると、
メドゥアスにとっても簡単な術式ではない可能性があることが、唯一の気休めではあるだろう。
加えてパドルとの戦闘の影響で「本調子ではない」可能性も救いと言える。
「地下室の警備は厳重にしておく必要はありそうです……ゲートを開けられても妨害は可能だ。
メドゥアス本人は恐らくまだ完全復活してはいないはずですしね。
森の中で遭った際に、１発ではあるが思いっきり殴ってやったので、恐らくは……」
「メタロイドを弾き飛ばす鉄拳を食らえば、さしものゼロも簡単には復活しねぇってか？」
「体内が均質化しているメタロイドなら、衝撃は大きくても体内器官がやられることはないが、
体内器官を持ってる種族なら、何らかの損傷を受けるはずさ」
パドルの言葉に、アイガーが苦笑する素振りをする……この男はパドルのパンチを知っている。
そもそもこの世界で、最初に本気でパドルにケンカを売った男なのだから。
「もう１人の女性も、恐らくはメドゥアスの幹部でしょうね」
「ホルスから聞いた話だが、“魔女”の異名を持つ“ナンバー７”の可能性が高いな。
実験体を直接確保するよりも、情報工作が得意だったと聞いてる。
しかしアレだな……あの石化ベルトの中で平気にしてたってのは、ちょっと解せんねぇ」
「何らかの魔術的な手段を知っているのかも知れん、アグネムと一緒に動いてたのも気になる。
重要な情報をありがとう、けど無茶は慎んでくれよ」
「あなたはルイちゃんたちと会話できるんだから、変身しなくたって重要な人材なのよ」
パドルとライカの言葉に、楓は再び苦笑するような素振りを見せた。
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そんな“事情聴取”が行われていた、鉱物娘テントの前では。
「――えっ、ルイさんたちを、学校に！？」
翔子たちは“恩師”山崎真太郎から、今まさにその話を聞いた。
「もちろんまだ構想段階だが、被害者の多くが元学生だと聞いてね。
他の子たちと同じ教室には入れるかは分からないが、出来ればちゃんと卒業させてやりたいんだ。
見た目とは関係なく、ちゃんと学業を修めた証明があれば、世間の見方も変わるだろう」
そう――山崎が妻や娘と共にここを訪れた、最大の目的がこの“教育支援構想”であった。
リアルタイムで鉱物娘に出遭ったことこそ先ほどだが、朝陽事件が勃発してから１ヶ月余りの間に、
山崎は様々な現地の情報を収集し、被害者支援の方法をずっと考えてきたのである。
（あたしたちが……学校に登校するってこと？ ……そんなこと、出来るのかな）
「出来るか出来ないか分からないけど、あたしはルイさんと一緒に、授業受けてみたいな」
戸惑いがちに振り向くルビー色の“親友”に、翔子はにこりと笑みを返す。
「――そうなると、あたしがエミちゃんを教えなくても良いってことになるわけか」
（……春海ちゃん、最近あんまり家庭教師しなくなったよね……まぁ学校が忙しいからだろうけど）
「あたしも賛成です、雪子もそうだよね？」
「もちろんよ博美――というか、石塚先輩じゃないけど、あたしもその授業受けてみたいな」
テント前に集まった鉱物娘たちやキャリアたちが、がやがやと意見を交わす――概ね賛成のようだ。
真太郎にはキャリアの声しか聞こえていないが、リアクションで“会話”を窺うことは出来る。
色とりどりの鉱物娘たちが、表情豊かに振舞う姿も、非常に新鮮な光景だろう。
「うーん……最初は被害者だけの出張講義を想定していたんだが……合同講義もアリかな？」
（そう言えば、こういう話って、駅前で交流会やろうって話をした時以来だね、サラさん）
（そうですね……あの時はあの組織がテロ事件を起こして、うやむやになっちゃいましたけど）
（でも、あの事件もあたしが母さんと再会したり、瞳さんたちと出会うきっかけになったんですよね）
“鉱物娘３人衆”の会話に、瞳がうんうんと頷く。
「そうそう、あの駅前テロがルイさんたちと会ったきっかけだったなぁ……なんだか複雑な気分」
「あの事件の前にもそういう話があったのか……まさかと思うけど、これってフラグじゃないよね？」
「ちょっと英子、変なこと言わないでよ、縁起でもない」
（学業、ねぇ……やっぱり要るかな？）
（受けさせてくれるなら助かるんじゃない？……あれ、ユウってまさか勉強嫌い？）
（……カオルは勉強好きなのかよ？）
「まぁ、確かに……勉強が大好きって人はあんまり多くないですよね……多分」
ユウとカオルの会話に、ヒカルが割って入る……“元少年トリオ”は大抵いつも一緒にいる。
もっともカオルの隣には“元幼馴染”のミキも大抵いるのだが。
（そう言えば……私たちって学生だったんですよね……ちょっと忘れていたかも）
こちらはエリだ……活性化から１ヶ月余り経って、動きや言葉の不自然さはほぼなくなっている。
父を失った悲しみはまだあるが、仲間と共に前向きに努力し続けている。
「……ということは、やるとしたら、学校以外の施設を使うってことになるんですかね？」
そしてこちらは明美だ……隣には被害者たちの信頼を得て“密着取材許可”を獲得した大川もいる。
「すぐに学校に転校、とはならないんじゃないかな……少しずつ馴染ませていかないと」
「大川さんの言われる通り、まずは公民館などを使って、特別講義をすることを考えていました。
全カリキュラムを抑えるためには、自分１人じゃ無理なので、協力者が要りますがね」
そんな“議論”を眺めながら、翔子はふと、くすりと笑った……隣のルイが反応する。
（……翔子さん、どうしたの？）
「……あぁ、いやね……夏休み中の登校日の頃に、ふと思ったのよ。
ルイさんたちと学校生活送れたら、楽しいだろうなって……今その夢がかなうかも知れないから」
（翔子さん……）
ルイの真っ赤な顔が、何とも言えない感慨で、ふにゃっと緩んだ。
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| （最終章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2021年に作成したエピソード。
人間と“元人間”である鉱物娘との協調や融和に向かうフラグを立てるためのエピソードであり、
第２章と第５章に登場した山崎親子がその鍵を握る存在として再登場している。
（ルイとの“日常生活”に憧れた翔子のフラグ回収にもなっている^^;）
キャリアの経験値をプラスに活かそうとする少女・楓の登場もフラグは小さいが新機軸の１つだ。
１方、メドゥアス最後の拠点である旧奥沢村に残された被害者を救出するフラグも立てており、
次章に想定している“最終決戦”への準備エピソードにもなっている。
そしてこの次章――第１２章が、ＡＳＧシリーズの事実上の“最終章”となる予定である。
2008年に執筆を開始して足かけ１３年、ようやく物語が完結するメドが立ったことになるわけだ。
……途中数年ほど放置していた（爆砕）ことを考えても、感慨深いものがある。 |
