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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130715C） |
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金芽台。
武蔵野台地上、日野市と多摩市の境に位置する、ニュータウンにして首都圏のベッドタウンの１つである。
その中央付近にベルト状に伸びる緑地公園に引っ掛かるように、グランドを持つ大きな建物がある。
私立金芽台中学高等学校。
中高一貫教育方針で知られる私学の１つであり、中産階級以上の少年や少女が通っている。
中学受験が必要な学校ではあるが、それほど難易度が高いわけではないらしい。
その１方で高等部には専門の大学進学コースがあり、こちらは相応に難易度が高いと言われている。
そんな個性的な学校の１角で。
『空手部』と板に書いた、道場のようなプレハブ小屋の片隅で、道着を着た金髪の少年が休憩している。
幼馴染の少女に恋心を抱く、在日白人の少年ディアス。
顔立ちこそ整った金髪碧眼の白人少年であるが、彼はほとんど英語を話すことができない。
母国であるはずの超大国――アメリカにも、余り大きな関心はないらしい。
「おぃディアス、そろそろ道場に入れよ、休憩長過ぎだぞ！？――おい、聞いてんのか！」
先輩らしき肩幅の広い少年が、ディアスに声をかけるが、ディアスは何故か反応しない。
いつもなら「はいっ、今戻ろうと思ってたんですっ」とか言うはずなのだが。
ぼけーっと、壁にもたれて遠くを眺め続けている……全く持って隙だらけである。
「またスリーパーホールドかけられたいのか、返事をしろ――ってさっきから何見てんだお前？」
「――あ、す、すいませんっ」
今さっき気付いたかのように狼狽するディアス。
彼がこんなリアクションを取るのはいつものことだが、その前の反応に先輩は首をかしげる。
「ンだよ、萌え系の美少女でもいたか？」
「いやぁその……アレ何だろうなぁって……」
ディアスは金色の頭を掻きつつ、遠くを指差した。
先輩がその方向に目を向けると、妙な黒煙が数本、ゆらゆらと立ち上っているではないか。
金芽台からそれほど近くはないが、５ｋｍも離れてはいないように見える。
「何だありゃ……火事じゃないのか？」
「何箇所かでまとめてッスか？……さっきは稲妻みたいなのが光ってたんスよ」
「稲妻だぁ！？……こんなに晴れてんのに？」
「嘘じゃないスよ、ほらアレ何でしたっけ、テンセイのレキレキ？」
「……それを言うなら青天の霹靂だろ」
ぱこん、と先輩の平手がディアスの金髪をはたく。
その漫才みたいなやり取りを見て、他の先輩や後輩部員も道場の外に出てきた。
中高一貫校らしく、中学生から高校生まで部員の幅は広い。
「お前ら何油売ってんだよ」
「あぁほら、アレアレ、ひょっとして火事じゃね？」
「火は見えないっすけどねぇ」
「ってあの辺って……自衛隊の基地か何かなかったか？」
黒煙が立ち上っているのは、金芽台から見てほぼ北……立川市の辺りになるのだろうか。
「そう言えば、あったような……んじゃ訓練とか？」
「訓練で黒煙が上がるようなことやるか？」
「ディアスが言うにはさ、稲妻が光ってたんだと」
「この天気で！？」
「嘘じゃないですって、何かバリバリと何本か立ち上って」
「『立ち上って』って、下から出てたのかょ！？」
「まぁ、雷って落ちるだけじゃないらしいですけどねぇ」
「もしかしてさ、秘密兵器の実験やってたとか……ほらこの前、怪獣騒ぎとかあったじゃん？」
「この前とゆーかつい一昨日ですよねアレ……ディアス巻き込まれてなかったか？」
「うぃ」
「モロに秘密バレてんじゃねぇか、しかもあの様子だと完璧に失敗だぞ！？」
何やらわぃのわぃのと賑やかなカラテボーイズ。
しかし平和に慣れた彼らは知らない。
その立ち上る黒煙の下で、非日常極まりない激戦が今まさに繰り広げられていることを……
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第４章 潜伏する破壊者 ★
2013年7月15日―日本・立川駐屯地事件其の３
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黒煙の発生源――機械兵戦闘事態クライマックスの立川基地。
そのグランドの端で、陸自レンジャー隊員の斉藤１尉は、真夏にもかかわらず悪寒と脂汗に襲われていた。
目の前に突きつけられた太い銃口……火を噴けば、人体など１秒も経たずに吹き飛ぶに違いない。
そしてその先に聳え立つ、身長２０ｍはあろうかという機械の巨躯。
地球外の金属生命体・オートロンの過激派、ディスヴェリオンに属する戦闘員“メイザァヴォルグ”だ。
立川基地の地下シェルターに保存されていた、オルガナイザーＧ１培養タンクから放射される、
特殊な波動を有用なエネルギー源と見なし、奪取を目論んだ“破壊工作部隊”の前線隊長である。
陸上防衛隊の大型自走砲０８式――通称“メーサータンク”に擬態し、チャンスを伺っていたものだ。
「クソったれが……こんな連中が、ずっと基地の中に潜伏してたってのかよ」
国を守るために命を投げ出す覚悟は出来ている……だが、基地の中でその運命に遭遇する想定はなかった。
紛争地の前線に作られた宿営地ではない……ここは日本国内の“本拠地”なのだ。
「メイザァヴォルグ、人質を解放しろ、オートロンの戦士として恥ずかしくはないのか！」
１０数ｍほど離れて声を荒げたのはガンバインだ……ディスヴェリオンと対峙する同族の義勇組織、
オーディアンの前線指揮官であり、ついさっきディスヴェリオン迎撃のため、この基地に飛び込んできた。
先に破壊工作を開始していたディスヴェリオンの斥候相手に、有利に戦闘を展開していたのだが、
息を潜めて機会を伺っていたメイザァヴォルグの“奇襲”に１瞬、反応が遅れてしまった。
「黙れ偽善者……戦場に綺麗ごとなど要らぬ、だから貴様はいつも、詰めが甘いのだ！」
初めてメイザァヴォルグが“人語”を発した……ガンバインに劣らず重低音で、よく響く太い声だ。
「お前達は基地の制圧を優先しろ……腰抜けガンバインの相手など、このワシで十分だ。
おぉっとそこのヘルメット、妙な動きをするなよ……貴様の戦友が、ミンチになっても良いのか？」
「……ちっ、あのデカブツ、あの体格で俺が見えてるのか」
舌打ちをしたのは本郷猛――１号ライダーだ。
渋谷事件でこの“次元融合世界”に迷い込んでから、斉藤たちと行動を共にしている異世界の戦士。
今や新たな戦友となった斉藤を救うべく動こうとしたが、メイザァヴォルグはその動きをしっかり見ている。
実はこの巨兵の“視野”は、頭部にある２つの目の視覚情報だけではないのだ。
前線隊長の指示を受けて、こちらに向かっていた機械兵の半数ほどが向きを変える。
そのため尾形や西村の部隊が、敵の集中砲火を受けるリスクは減ったが、
火力に富んだ機械兵が分散状態で基地の制圧に向かわれるのも、自衛隊や防衛隊にとっては都合が悪い。
「畜生……俺が出しゃばっていなかったら」
「自分を責めるな卓也……こんな事態、自分も想定してなかった、それよりこの先を考えろ」
尾形の部下である防衛隊の桂川３尉は、自分の助言が斉藤のピンチを招いたことを悔やんでいる。
しかし尾形が言う通り、“変形する機械生命体の襲撃”など、想定できるはずはなかった。
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「敵が来たぞ、建物の陰に隠れろ！」
基地の裏手に建ち並ぶ倉庫群に、隊員たちの声が響き渡った。
グランドに展開していたディスヴェリオンの戦闘員の１部が、倉庫の方にやってきたからだ。
その延長上には、彼らが狙う地下シェルターを持つ、基地のセンタービルがある。
「畜生……やつら一体、何が目的なんだ？」
隊員たちは“敵”の目的が……ビルの地下シェルターの“中”にあることを、まだ知らない。
しかし仮に知っていたとしても、遠慮ない破壊活動を強行する相手を、野放しには出来ないだろう。
そしてその“戦火”は、あの金髪の大男がいる、基地の裏門にも及んだ。
大男をテロリストの仲間と疑う隊員が、重い足音に気付いて振り返ると、数体の機械兵が背後に。
「しまった――不意打ちか！？」
「くそっまずい――おい、何をする！？」
次の瞬間――金髪の大男が血相を変えて、隊員たちを押しのけて前に飛び出した。
同時に機械兵たちが、無骨な銃口を隊員たちに突き出し、有無を言わせずに引き金を引く。
隊員たちは死を覚悟した――が。
「…………なっ！？」
隊員たちが目にしたのは、目の前で“静止”する、数百発の弾丸だった。
よく見ると、金髪の大男が、左手を機械兵たちに向かってかざしている。
大男の行動に、歯車をこするような奇声を上げる機械兵たち――そして更に次の瞬間。
大男が右手を横殴りに振り払った瞬間、最も前にいた機械兵が、横から突き飛ばされるように倒れ伏した。
機械兵との距離は５ｍ以上離れていたが、まるで大型ショベルカーにでも殴られたかのように。
そのまま倉庫の壁に頭から突っ込み、弱々しくもがく。
「２度は言わん……撤退しろ、これ以上の破壊工作は俺が許さん」
後ろで呆然と見ていた隊員たちも、思わず引くほどの大男の気迫に、機械兵たちは後ずさりする。
「次は倒れるくらいじゃ済まんぞ？」
２言目の言葉を受けて、機械兵は倉庫の影から奥に下がっていった。
最初に倒れた機械兵もすぐに起き上がり、目の前で装甲車に変形すると、バックで去って行く。
そしてそれと同時に、宙に浮いていた弾丸が、バラバラと地面に散らばった。
「――フィンラット、追うな、今は戦力が足りない」
「……えっ！？」
大男の言葉で呆気に取られていた隊員たちがふと気付くと、その背後にもう１体の機械兵が立っていた。
装甲車風ではない……パーツ構成やカラーリングから、元はオレンジ色のスポーツカーだったようだ。
クーペタイプのドアを思わせるパーツが、その背中にまるで羽のように付いている。
そしてこの“オレンジ色の機械兵”もやはり――人語を使うのだった。
「それじゃあ、隊長とマクスレッジを援護――」
「おい、勝手に動くな……今行くとメイザァヴォルグの弾幕に突っ込むぞ」
「えぇ〜、それじゃ、どーしたら良いんスか！？」
フィンラットと呼ばれた機械兵は、まるで２０代くらいの若者を思わせるリアクションをする。
「タイミングを合わせるんだ」
「タイミング！？」
大男がそう言った直後――基地の外から、ジェットの爆音が響いてきた。
「あぁそうだ……タイミングが大事だ」
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「こちらサンダーバード、あと数十秒で基地の上空だ、目標はどこにいる？」
東京湾をまたいで立川基地の上空に飛んできたのは、Ｇフォースの新型ガンシップＧＦ０７である。
“サンダーバード”のコードネームは正式ではないが、緊急事態のため兼用している。
機長は結城晃Ｇフォース中佐、副機長は臨時に志願した青木一馬だ。
箱型の機体の両翼からは、巨大なデッキブラシのような物体が突き出している。
これが重力波の制御に効果を発揮する超兵器――Ｇディフェンダー・マーク２である。
『こちら陸上防衛隊・富谷３佐……基地の北の駐機場にいます、自衛隊の佐津間３佐と一緒です！』
結城の通信に応えたのは富谷だ……駐機場から、佐津間と共に応対しているらしい。
因みに電波妨害を避けるため、国連軍の軍事衛星を中継して通信している。
国連太平洋軍の傘下であるＧフォースだから出来た“裏技”でもある。
「おぅ富谷、久し振りだな……フルメタルクラッシャーの準備は間に合ってるか！？」
『はいもちろん、いつでも撃てます！ 目標の中心はグランド北側の０８式！』
「０８式だって！？ ……立川には配備してないはずだろう！」
『敵が変形したスパイのようです……ＭＯＧＥＲＡみたいに突っ立ってますよ！』
「マジかよ……とんでもないのが相手だな、今回は」
そうしている間に、ＧＦ０７のコクピットからも、立川基地の駐機場が見えてきた。
目を凝らすと数機のヘリに混じって、０２式ミサイル車が１台見える。
ヘリの１機はローターを回し、すぐに離陸できる状態にある。
『すぐ近傍に援護のロボット兵がいるようです、トレーラートラックの胴体をしてます。
これから佐津間３佐と共に偵察に向かいます』
「おい大丈夫か……撃墜されるなよ？」
『誤爆しないように偵察機が必要でしょう……目標を確認したらすぐに切り返しますよ。
念のために、自衛隊が先に無人機を飛ばしますがね……そいつは囮です』
言うや、駐機場から１機のヘリが離陸した。
並行して浮き上がる小さな影が、富谷が言っている自衛隊の無人機なのだろう。
「ようし、戦闘準備開始だ……青木、スタンバイしろ！」
「了解、Ｇディフェンダー、起動します！」
『こちらＧフォース科学部、アイレスです……黒いロボット兵と、オレンジのロボット兵は味方です、
それ以外の大きなロボット兵は皆、敵だと考えて差し支えありません。
敵には小さな戦闘員もいますが、誤爆回避のため、大きな目標を優先してください！』
更にＧフォース科学部から、アイレスの声がスピーカー越しに響いてきた。
「了解した……マイクロミサイルもスタンバイ、空対地レーダーを照射――なるほどあれか、
でっかい的だぜ、ちょっとした怪獣だな」
どうやら結城の視界にも、メイザァヴォルグの巨体が捉えられたようだ。
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立川基地のグランド北部でも、ジェットの爆音とローター音が響き渡った。
「よし、援護来た！ 西村２尉、基地の北で０２式がスタンバイしているようです！」
「本当ですか、尾形１尉！？ ……誤爆が心配ですね」
「まずはあの大きな機械兵を狙うようです……爆風にやられないようにすれば、何とか……」
兵舎の影で小声で打合せする西村と尾形……斉藤はまだ“人質”だ。
膠着する戦況を打開するかのように、空に響いたエンジン音に、マクスレッジやガンバインが反応する。
「援護が来た、メイザァヴォルグ、これでお前も終わりだ！」
「ウソはもう少し上手く付くんだなガンバイン、貴様の前線部隊に、空を飛べるやつはいないはずだ！
アークス共の航空兵器など、我らディスヴェリオンの敵ではない！」
「知らないのかメイザァヴォルグ、我々の部隊構成を……いや知っているはずもないか」
「見え透いたハッタリを……ならば、我々の前で変形して見せろ！」
そのわずかなやり取りの隙を突いて、マクスレッジがメイザァヴォルグの足にタックルを仕掛けた。
だがいかんせん軽量級……メイザァヴォルグはうざそうに足を振り払う。
「ふん、無駄な抵抗を――がっ！？」
次の瞬間、メイザァヴォルグの顔面近くで、複数の小さな爆発が起きた。
ＧＦ０７の連装マイクロミサイルだ……わずかな間を置いて、ＧＦ０７が低空で上空を飛び去る。
「小癪なアークス共めが……このメイザァヴォルグを撃つなど、自殺行為だと分からせてくれるわ！」
「させんぞ、メイザァヴォルグ！」
さらにその間を突いてガンバインが飛び掛った。
もみ合う重量級２体の足元で、斉藤は必死で距離を取り、自分の身の安全を確保する。
「こっちだサイトウ、俺の後ろに回れ！」
マクスレッジに向かって駆け寄ろうとする斉藤――だがその前に敵の小兵が立ちはだかる。
急ブレーキをかけた斉藤――その直後だった。
軽機動車が変形した敵兵の背後から、オレンジ色の機械兵――フィンラットが飛び掛った。
そのままバランスを崩した相手の腕を封じ、羽交い絞めの体勢になる。
そして更にその目の前に、１号ライダーがサイクロンを駆って飛び込んだ。
「乗れ、斉藤１尉！」
「済まない、本郷殿！」
「ちぃ――離せ偽善者めが！」
強引にガンバインを振りほどくメイザァヴォルグ……ガンバインも力負けするパワーだ。
その直後、胸元に仕込んだメーサーキャノンが青白い稲妻を解き放ち、ガンバインを弾き飛ばした。
兵舎の壁に叩きつけられる、黒光りする巨体。
「――隊長！！」
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「ワシに逆らったやつは、こうしてやるまでだ！」
メイザァヴォルグのメーサーキャノンが空に向かって、再び青白い稲妻を開放した。
その射線の先にはＧＦ０７――だが、爆発はその２００ｍほど前で起きた。
「うぬ――ガラクタめ！」
砕け散ったローターが飛んでいく……先刻、囮に仕込んだ自衛隊の無人ヘリである。
そしてその直後、再びメイザァヴォルグの顔面にＧＦ０７のマイクロミサイルが炸裂した。
「ぐっ――おのれ、アークス共のガラクタに、こんな威力があるはずが……何故だ！？」
メイザァヴォルグは気付いていなかった。
ＧＦ０７のＧディフェンダーから放たれた重力波が、シールドを少しずつ弱らせていたことを。
その弱体化の速度が緩やかだったため、警戒心に結びつかなかったらしい。
そんなメイザァヴォルグの胸元に、巨大な刃がメーサーキャノンを貫通してざっくりと突き刺さる。
ガンバインが投げつけた――自身のタキオンセイバーだ。
この巨大な剣は、シールドの効果を無力化して、敵を切り裂く性能を持っているのだ。
既に弱っていたシールドが、この１撃でほぼ完全に機能を停止する。
「ぐぉっ……往生際の、悪い……！」
「その言葉、お前にそっくり、返してやる！」
立ち上がったガンバインが、もう片方のタキオンセイバーを振り下ろす。
その斬撃は、メイザァヴォルグの右腕を、その付け根からばっさりと切り落とした。
直後――よろめいたメイザァヴォルグの腰に、背後から数発のミサイルが着弾する。
ＧＦ０７のマイクロミサイルではない……０２式ミサイル車から放たれたフルメタルクラッシャーだ。
ゴジラの皮膚も抉る徹甲ドリルミサイルが、今やシールドの保護を失った敵の胴体を粉砕する。
決定打を受けたメイザァヴォルグはもはや声もなく、上下に分断されてグランドに崩れ落ちた。
「おぉ、やったぞ！」
「さすが隊長だ！」
「ざまぁ見ろメイザァヴォルグ！」
「すげぇな……こんな戦闘、初めて見たぜ」
見ていた自衛隊員や防衛隊員、オーディアンの勇士たちから歓声が上がる。
１方、“前線隊長”を失ったディスヴェリオン部隊は、踵を返して続々撤退し始めた。
次々に装甲車や軍用バギーに変形し、バリケードを強引に突き破り、
基地の西方にある、演習場に向かって走り去っていく。
その演習場の木立の真ん中付近に、エメラルドグリーンの淡く、そして太い光芒が見えている。
「マクスレッジ、あいつら逃げるぞ！」
「ちっ、あそこに“グランドゲイト”を隠していたのか……隊長、追いますか？」
「残念だがよそう……この距離ではさすがに間に合わぬ」
ガンバインの言葉を受けて、フィンラットが脱力したように立ち尽くす。
因みに彼が羽交い絞めにしていた敵の小兵も、このどさくさに紛れて逃げたようだ。
「……そういや、パドル大使も追うなって言ってたな……戦力が足りないって」
「彼が言う通りだ、今の我々では準備が足りない……捜査局やディガスに後は任せよう」
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立川基地に“戦後”が訪れた。
基地のあちこちで、破壊された兵舎や倉庫の後片付けが始まっている。
多くの負傷者を出したが、幸い奇跡的に死者は出ていなかった。
障害物の多い基地内の“擬似市街戦”が、この場合はプラスに作用したようである。
そして基地の北部にある航空隊の駐機場では、“新たな勇士”との対面が行われていた。
オートロンの義勇組織・オーディアンのマクスレッジ、ガンバイン、フィンラットの機械戦士３名。
そして事実上、彼らを立川基地に誘導した金髪の大男――ヤヌス・パドル。
「ってことは……あなたもつまり、“宇宙人”ってことですかね？」
半ば戸惑いながらそう言うのは、防衛隊の富谷３佐だ。
因みに彼は先の怪獣事件の際、アルティランのセイヴンとも地球人として初めて接近遭遇している。
「まぁ、地球人から見れば、そういうことになりますかね」
苦笑するように回答するパドル……２ｍを越える筋肉質な体形だが、肌は白人のように白い。
そのためアメリカ兵と言われても通じそうだが、顔つきはどこかアジア風味だ。
「アイレス大使から話は聞いてますよ……先に基地に向かった同志がいるとね。
何でも、この前の怪獣災害の時に現れた、あの巨大化する宇宙人とも面識があるとか？」
こちらはＧフォースの結城中佐だ……駐機場にＧＦ０７を着陸させている。
彼が口にしている“巨大化する宇宙人”とは、もちろんアルティランのマークやセイヴンのことだ。
隣でロボット技師でもある青木が、ガンバインたちの姿に目をキラキラさせている。
「そうですね、同じ職業じゃないですが、実質的に彼らも我々の同志です」
「しかしパドル大使には感謝したい……貴公の連絡がなければ、我々の到着はもっと遅れていた」
これはガンバインだ……人間たちと目線を合わせるため、片膝を付いている。
「……裏門破ってなかったら、もう少しスムーズに交渉ができたんだけどな？」
「済まない、緊急事態だったのだ……交渉に時間を取られていたら、彼も助けられなかったかも知れん」
「……まぁ確かに、あんたがいるのといないのとでは、状況も違ってたでしょうねぇ」
苦笑いするのは斉藤だ……確かにガンバインの到着が遅れていたら、
斉藤は今頃、メイザァヴォルグの火器に撃ち殺されるか、巨体に踏み潰されていただろう。
ただしガンバインの“強行突破”の所為で、パドルが余計に疑われる原因も作っているのだが。
「……隊長は短気だからね」
「おいフィンラット、口を慎め！ いくら戦友でも隊長の悪口は俺が許さんぞ」
「よせマクスレッジ……フィンラットの評価も間違ってはいない」
……どうやらガンバイン自身にも、自分の“癖”に対して自覚はあるらしい。
「大丈夫ですよ、うちの隊長も短気――あたたたっ」
「調子に乗るなって言ったろさっき」
そして――口を滑らせた西村が巻き添えを食った。
もちろん、生き延びることが出来たからこその、やり取りでもあったが。
「うん、西村の評価も間違ってはいないな」
「くっ、佐津間まで……」
泣くな斉藤、苦労はいつかきっと報われる。
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さてこちらは市ヶ谷の臨時防衛隊司令部。
ディスヴェリオンの工作が阻止され、通信が回復したことで、事態が収束したことを先ほど確認した。
樋口は小さく溜息を吐き、自分で自分の肩を叩く。
「やれやれ……何とか最悪の事態は回避したようだ」
「しかし……こうも立て続けに戦火が起きるというのは、本当に油断なりませんね」
「次元融合が本当に人為的なものだとしたら、この事態の収束は仕掛けた相手にとっては望まないこと。
だとすれば、今後もこうした事件が、妨害という形で起きる可能性が高いでしょう」
同席しているマークの言葉に、セイヴンが同意する形で意見をつなげる。
『ふうむ……休息の日はしばらく来ないということか……』
モニターの右半分の向こうで、溜息と共に麻生が腕を組んだ。
因みにモニターの左半分には、自衛隊の坂元幕僚長の顔が映っている。
こちらも腕組みこそしていないが、複雑な表情を浮かべている。
「ですが麻生司令、そういう想定があるならあるで、我々もその体制を確立する選択肢はあります。
先日の東郷次官のアイデア、我々も応援するべきなのではないですか？」
気を取り直すように樋口が言ったのは、外務次官の東郷が推進中の“特別連絡部会”の話だ。
次元融合という荒唐無稽な事態を自ら推測した東郷は、この問題に取り組む専門の対策本部を設置し、
各省庁の管轄を越えて取り組む必要性を強く訴えていたからだ。
専門の対策本部が存在していれば、非常事態への対処も今よりやりやすくなることだろう。
見方を変えれば、専門の対策本部がない現時点で、これだけ連携が取れていることも本当は奇跡的だ。
国連軍という国際組織の後ろ盾を持つ、Ｇフォースのコネクションも大きいと言えるだろう。
その１方でこうした連携の裏側で、国家権力の肥大化を憂う市民の声も１部である。
“特例的な連携体制”は、権力の乱用を恐れ懐疑的に監視する、こうした市民団体を敵に回し得るのだ。
地球外から脅威がやってくるような事態で、“獅子身中の虫”を増やすわけには行かない。
『しかし樋口幕僚長……本来、我々に政治活動の権利はないはずでは？』
これは坂元だ……確かに彼が言うとおり、本来“国軍”や自衛隊には政治活動の権利はない。
国家における軍事組織はあくまでも行政府の傘下に過ぎないからだ。
「政治活動を行う必要はないでしょう……しかし政治に直結しない応援は可能なはずではないですか？
非常事態への冷静な対応は、多くの国民が強く望んでいるはずです」
『まぁ……確かにその通りではあるでしょうね』
「例えば防衛大臣を通じて、東郷次官の案を受け入れるよう、陳情を出す手はあります。
Ｇフォースなら、国連軍を通じて、政府に働きかけることも可能でしょう。
現実に出来ることは限られているにせよ、我々が無力であることを望む国民は、ほとんどいないはずです」
『ところで……仮に専門の対策本部の設置が閣議決定されれば、どこに部署を置けば良いのですかね？』
再び麻生が疑問を呈した……モニターで隣り合う坂元も興味ありそうな表情をする。
樋口は数秒ほど考えてから、自分の考えを口にした。
「私が決めるわけじゃないですが……個人的には立川基地が相応しいように思えますね。
最も東京に近い軍事拠点ですし、機密情報の管理もし易い……もちろん今回のようなリスクもありますが。
省庁側の部署に関しては、東郷次官に考えがあるようですよ」
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そして再び金芽台。
部活帰りのディアスが、加奈と共に家路に着いている。
２人の家は数件ほどしか離れていない……私立金芽台学校の正門を出て右に折れれば、数分で自宅だが、
実はこのルートで帰宅することは余りなかったりする。
２人が歩いているのは、金芽台グリーンベルトと呼ばれる緑地公園だ。
金芽台の南部と北部を東西に横切る緑地の南縁に、ちょうどめり込む形で私立金芽台学校が位置し、
その西側にある通用門から、直接緑地公園の遊歩道に出ることが可能なのである。
交通事故の心配も要らず、課外授業に使われることもあるこのグリーンベルトは金芽台住人の誇りであり、
２人も帰り道は概ね、この公園内の遊歩道を使うのだ。
ただし朝はまだ通用門が閉まっているため、正門から通学するしか手がないのだが。
「……またテロだったのか！？」
「そうみたいだよー、最近ホント物騒だよねぇ」
２人が遊歩道を歩きながら話しているのは、立川基地で起きた“襲撃テロ事件”のことだ。
具体的な情報はまだ伝わっていないようだが、“速報”は既にマスコミが報道しているらしい。
実行犯は自衛隊の駐屯地に武装トラックのようなもので突撃をかけるという、
海外の襲撃テロのような手口を使ったと報道されている……実はその武装トラックが例の機械兵なのだが、
まだこの時点ではそのことは分かっていなかった……いずれは明らかにされるだろうが。
「日本も平和じゃなくなったのかなぁ……大好きな国なのに」
「ディアス君も実質“日本人”だもんねぇｗ」
「からかうなよ加奈ちゃん……確かに日本国籍ないけど、ぶっちゃけアメリカ行ったこともないし俺」
加奈の“弄り”にディアスは苦笑いで返す。
「日本語と日本文化に浸り切っている白人」である自分の立場に違和感を持ったことはないが、
対外的には「奇妙な反応」をされたことは良くある……人間というのはどうしても、先入観を持つからだ。
……怪人や怪獣が現れるこのご時勢、人種とか民族とかそれこそ「どうでも良い」とも言えるが、
そう簡単に割り切れる、バイタリティ溢れる人たちばかりではないのも確かだろう。
そんな話をしながら、２人は遊歩道の分岐を南に折れる……もう少し歩けば、自宅前の市道に出る。
７月上旬ということもあって、遊歩道の横にはつぼみを膨らませたヒマワリが見える。
その傍らには、シーズンが過ぎてしおれかけたアジサイの花も見えた。
いつもこうやって同級生と喋りながら帰宅する、当たり前の日常――だったが。
「……どうしたのよ、ぼけーっとして。可愛い女の子でもいたの？」
無言でディアスが溜息を吐いた。
……よりによって加奈にそれを言われるのは、ディアスとしては結構ヘビーなことかも知れない。
同じ男子や先輩に弄られるのなら、笑って聞き流せるセリフだったのだろうが。
第一ディアスの視線は斜め上を向いている……そこに人がいたらファンタジーではないのだろうか。
まぁ加奈もそこまで論理的に考えた言葉ではなかっただろうけども。
「……あぁいやね、この建物、前からあったっけかなーって」
気を取り直してディアスが指差した数ｍほど先には、５〜６階建てくらいのビルが見えている。
自分たちが通学する私立金芽台学校と同じように、緑地にめり込むように建っている。
見た目、小型のマンションかホテルのようだ。
「そう言えば見かけなかったわね……実はこれも別世界から紛れ込んだとか？」
「別世界って……加奈ちゃんは適応力高いよなー」
そんなことを言いながら遊歩道前の市道に足を踏み出し、振り返って建物の玄関の方を見ると、
『グリーンハイツ金芽台』と書かれた、小さいながら上品な門が見えた。
「そっかなー、ディアス君が硬いんじゃないの……鍛え方が足りないんじゃない？」
「……いつもながらお厳しい（^^;）」
何だかんだと言いつつ自宅に向かう幼馴染コンビを――ビルの屋上から見下ろす人影が１つ。
「おや、近所の学生ですかね……近いうちに、彼らにも挨拶をしておかねば」
柔らかな表情でそう語るのは、銀髪の青年――アイレスだった。
このマンション風の建物――実はアイレスとパドルが“臨時拠点”として建てたものである。
見た目は普通の小型マンションだが、その実体は“宇宙技術”を駆使した“基地”の機能を持っている。
ディアスが不思議がったように、建物が出来たのも実は“一瞬”だった。
立川基地事件収束後に、アイレスが金芽台を訪れた時――つまりついさっき、出来たばかりなのである。
そしてこの建物がまさに――これから異世界の有志たちと、ディアスたちをつなぐ役割を果たすことになる。
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| （非常事態特別対策本部設置） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に草稿を作成したエピソード。
当時はまだ旧ＯＷ企画であったが、ＰＡ期に入っても基本的なシナリオは変わっていない。
（現在のエピソードは旧ＯＷ『ファーストクライシス拡大編１章４話』を再編したものである）
ただし草稿当時とは参戦メンバーが変わっていることから、アクションシーンには大幅な改修を入れている。
とりわけ旧ＯＷ企画では変形シーン以外余り見せ場がなかった、敵の巨兵メイザァヴォルグが今回は“大暴れ”している。
１方旧ＯＷ企画でメイザァヴォルグを叩き伏せる役だったパドルには、別の敵と対峙させる展開に変えている。
メイザァヴォルグ撃破作戦はガンバインたちや、防衛隊・Ｇフォースの連携作戦をハイライトにしようと思ったためだ。
そもそもこういう「共闘アクション」のために始めた企画だったからである。
他方エピソードの前後に入れた金芽台のパートは、元々別のエピソードにあったものを“切り貼り”している。
加奈やディアスは今回ハイライトと無縁だが、同じ世界にいることを示唆させたかったからだ。
ついでにこの時点で、後に異世界の有志たちが寝泊まりすることになるサイトＧも設置することにした。
（タイミング的には草稿と同じだが、プロットが変わっているためシチュエーションが少し違う） |
