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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130717B） |
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「ミフネ少佐！」
「どうした！？ また新手か？……ち、こんな時に！」
「２時の方角から高速で接近する物体が……海中です！」
北西太平洋を航行する、巨大戦艦フィラデルフィアのブリッジで、通信士のミシェル大尉が声を上げた。
フィラデルフィアの高性能レーダーが、海中に巨大な影を捉えたのだ。
顔を歪める艦長のマクスウェル大佐と、副艦長のミフネ少佐。
何故ならフィラデルフィアは今……それどころではないからだ。
水平線上に確認された正体不明の艦隊や、艦内で繰り広げられている“侵入者”との戦闘。
すでに厄介な問題が２つもあるのに、何の因果だというのだろうか。
「魚雷か！？」
「違います！全長２００ｍ前後、潜水艦より大型です！」
「海中戦艦のサイズだな……しかし、我が連合海軍以外に保有している国はなかったはず」
「モーター音が確認できません！」
「さては……アクエリアスの新型工作船か？ オーバーサイエンスなら考えられなくもない……
プラズマキャノンの準備を！オービタルバスターは南東に向けたままにしておくように」
「了解、第３砲塔の安全装置を解除せよ！」
「潜行物、距離１５００……浮上します！」
ミシェル大尉がそう言うのとほぼ同時に、フィラデルフィアの北東海上に、巨大な水柱が噴きあがった。
しかし……水しぶきと共に出現した“物体”を見て、クルーたちは言葉を失った。
「バカな……生物！？」
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第５章 拡大する混沌 ★
2013年7月17日―北西太平洋・異界戦艦事件其の２
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海上に突き上がる青黒い蛇のような物体……その長さは１００ｍほど。
更に“蛇”の手前の海面が盛り上がり、そこから３列に並んだ、紅葉の葉のような青白い“岩塊”が浮上してきた。
そして、更にその下から……
――ギャオオオオォォォォォォン！！
海上にその“上半身”を現した“生物”は、ときの声を上げるかのように咆哮した。
同時刻、フィラデルフィア第６区画上部デッキ。
巨大な通信マストの足元に開けた空間に、普通の人間ではない“人影”が３つ。
アクエリアスの獣人戦士、ジーラとキトラ・ケイス。
地球連合を掌握する組織“エグゼクター”から派遣された、ＺＯＡのサイボーグ戦士グローディ。
そしてマストの中ほどに、やはり普通の人間ではない、漆黒の翼を持った男――ジェノク。
４人は皆、北方海上に浮上した巨大生物を眺めていた。
「ゴジラ……」
「そ、そんな！？ 確かゴジラは死んだハズじゃ？」
「……違う……あいつじゃない」
「別個体のゴジラがいたか……まぁ、あり得んことじゃないな」
「……ち、こんな時に！」
厳密に言うと――彼らが知っている世界に、本来ゴジラと呼ばれる巨大生物は棲息していない。
だが、エグゼクターとアクエリアスは、この“水爆大怪獣”のことを知識として知っていた。
“時空を越えた干渉”によって、かつて彼らの世界にゴジラが現れたことがあったからである。
またゴジラと近縁ではないかと疑われる生物は、彼らの世界にも存在しており、
世界の住人の大多数は認識していないが、「ゴジラとの縁」は存在していたのである。
ジーラはまだ震えていた。
実はジーラの肉体には、核変異巨獣“ゴジラ”の細胞が組み込まれている。
容姿にもそれは反映されている。
ザラザラとした青黒い皮膚や背ビレや尻尾……それは正に人間型のゴジラ。
だからだろうか……ジーラには、たった今出現したこのゴジラの“心”が見えていた。
しかし、その心は……
「あいつ……狂ってる……」
「え！？」
「何故だか分からない……けど、今は敵意しか見えない」
「何に怒ってるのか知らんが……このままでは攻撃されるな、グローディ、艦橋に知らせろ」
「了解しました……金ピカ小僧、この“礼”はいずれするぞ」
グローディはそう言うと、ジーラとキトラを睨みつけながらデッキを降りて行った。
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更に同時刻、国連太平洋軍第３艦隊哨戒ヘリ。
ヘリのパイロットは、前方海域に出現した２つの物体を、たった今確認した。
１つは、先ほど艦隊の旗艦である戦艦ナガトの索敵兵が報告した、空母をしのぐ巨大な“戦艦”。
そして、その戦艦から１〜２ｋｍ北の海域に浮上した“生物”。
パイロットは、その生物に見覚えがあった。
間もなくナガトのブリッジに、哨戒ヘリの乗員から興奮した声が届いた。
『目標を確認しました……巨大な艦船と……そして……ゴ、ゴジラです！！』
「何！？ ゴジラだとっ！？」
「こちらのソナーでも確認しました！」
ヘリからの報告に再びざわめくブリッジ……艦長の有賀も副艦長の村埜も、瞬時に緊張がピークに達した。
『過去数年間に出現した個体と体格は近いようですが、線は細く見えます』
「つまり……“１００ｍ級”かっ……！」
「しかし艦長、“あのゴジラ”は確か、この冬に東京で死んだはずでは？」
「“ジュニア”の存在が確認されている以上、別個体の存在も否定はできんがな……だが、何故今頃！？」
「別個体、ですか……しかし、そうなると厄介ですね」
「敵か味方かも分からんからな――そう言えば、その艦船のタイプは？」
『今まで確認されていないタイプです……戦艦のようですが、ボイラー駆動ではないようです』
「となれば核動力か……しかも戦艦とはな……！」
有賀は目を細めた……“嫌な予感”が的中してしまったからだ。
「核動力式の艦船の建造は今、規制されているはずですが……」
「しかし現に持ってる国もあるだろう……それに、まだその“異世界”とやらの可能性も否定し切れん」
有賀は溜息を吐いた。
“１００ｍ級のゴジラ別個体”と、未知の巨大な核動力戦艦……厄介そうな相手ばかりだ。
再開後の警戒任務で早くもこんな“大物”と遭遇してしまうとは。
「この艦隊だけでは収拾できないかも知れんぞ？」
「自分も同感です……司令部に伝達しておいた方が良いでしょうか？」
「うむ……それが賢明だろう、こういう時こそ、Ｇフォースの出番かも知れんな」
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「グローディ中佐！？ 侵入者は？」
「その話は後だ！あのゴジラ――巨大生物への攻撃を命じる……ジェノク大佐の命令だ！」
ブリッジに駆け込んできたグローディは、ドアを開けるや否や早口でまくし立てた。
「中佐――先制攻撃をするというので？」
「化け物に説得が通じると思うか？ 早くせんと先にやられるぞ！」
グローディはマクスウェルよりも階級が低いが、一応は今回のミッションの副司令官だ。
しかも“司令官”ジェノクの命令となると従わないわけには行かない。
もちろん……命令がなかったとしても、あの巨獣――ゴジラはどうにかせねばならなかったのだが。
間もなく、プラズマキャノンを搭載した、フィラデルフィアの第３砲塔が回転を始めた。
数秒置いて、レールガンを搭載した第２砲塔も、ゴジラの方に砲口を向ける。
ゴジラは、そんなフィラデルフィアを睨み、低く唸りながら、上半身を海上に出したまま南進を続ける。
やがて、第２砲塔と第３砲塔の内部から、砲塔基部の回転モーターとは別の起動音が響いてきた。
何かを察したのか、ゴジラも南進速度を緩め、上半身を持ち上げる。
「レールガンでヤツの体に穴を開け、そこをプラズマキャノンで焼く……いいな！？」
「標的をロックオンしました、いつでも行けます！」
「艦長、目標の背ビレが！！」
「主砲発射と同時に電磁シールド展開の用意を……衝撃に備えよ――Ｆｉｒｅ（発射）！」
―――ガオンッ！！
フィラデルフィアの第２砲塔が、電子音の混じった轟音を轟かせた。
艦全体にずしん、と鈍い衝撃がこだます。
砲身に仕込まれた加速装置から撃ち出された徹甲弾は、衝撃波で海面を抉りながらゴジラの胸を直撃した。
飛び散る火花と共に、４発の砲弾がその分厚い胸板にめりめりと食い込む。
ゴジラの状態が大きくのけぞり、悲鳴のような声が響き渡った。
だが本来なら、１００ｋｍ先から敵艦の艦橋を粉々にするほどの衝撃なのだ。
今回の目標――ゴジラは１ｋｍも離れていない……上半身が吹っ飛んでも不思議ではない――はずだが。
ゴジラは海面に踏みとどまる……しかも――背ビレの輝きは全く衰えない！
「次……プラズマキャノン……Ｆｉｒｅ！！」
第３砲塔に据え付けられた４基のプラズマキャノンの砲身が閃光を発し、
レールガンをまともに食らって海上でよろめくゴジラに、強力な粒子ビームを放射する。
――だが、ゴジラは身を翻すように向き直ると、その砲口目掛け、狙うように青白く輝く熱線を吐いた。
キャノンから放たれたビームと熱線が空中で交差し、小さな太陽とも言うべき閃光が洋上を白一色に照らし上げる。
その閃光は、甲板にいたジーラたちも、至近距離から浴びた。
「………っっ！！」
「うわぁぁぁぁっ！」
１瞬間を空け、大気が破裂するような轟音が一帯に響き渡る。
剛体のような衝撃波が海面を突き抜け、第６区画のジーラとキトラを含めて、
甲板にいた全ての兵士を、横殴りに甲板に叩き付けた。
排水量２０万トンに及ぶフィラデルフィアの巨体も、まるで木の葉のように揺さぶられる。
所定の位置に戻った、レックスとスティーブも“洋上の激震”に翻弄された。
「――うおおおおおお！？」
「な、何だぁぁぁっ！？」
……やがて海上に、原爆を思わせるキノコ雲が高々と沸き上がった。
そしてその光景は、１０数ｋｍ離れた洋上で待機していた、第３艦隊のクルーも目撃した。
「艦長！ あれを……！」
「げ、原爆……？」
「爆発の威力は広島型には及びません……放射線も微弱……恐らく水蒸気爆発かと思われます」
『こちらも衝撃波を確認……ゴジラの熱線と戦艦の砲撃が交差して起きた爆発のようです』
哨戒ヘリの乗員からも報告が入った……咄嗟に後退し、衝撃波の直撃は回避したらしい。
有賀は水平線に湧き上がるキノコ雲を見ながら、溜息交じりに呟いた。
「あの戦艦も、ビーム兵器を搭載しているのか……」
「戦艦からは２度の動きを確認しています……恐らくは、実体弾の装備も」
「砲塔によって、装備が異なるのかも知れませんね……実体弾とビームの両方を撃てるように」
その直後、通信兵から連絡が入った……司令部からの通達らしい。
「艦長！司令部から通信です……『現場の動向を見守りつつ待機されたし、航空部隊を派遣する』とのことです」
「ありがたいね……少なくともあの爆発には巻き込まれたくない、ナガトだって３度も食らいたくはなかろう」
有賀が呟いたのは、ナガトの“先代”が過去に２度も受けた、苛酷な仕打ちの記録だった。
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数分後……フィラデルフィアは、要所から白煙を上げていた。
ゴジラの反撃によって起きた大爆発のため、電磁シールド形成前に衝撃波に直撃された所為だ。
さすがに機関部に深刻なダメージはなかったが、システムのあちこちがショートした形になっているようだ。
もっとも……普通の巡洋艦程度なら、沈没してもおかしくない衝撃だったのだが。
兵士は全員、主砲の衝撃から逃れるために甲板の奥に退避していたため、多くは軽傷で済んでいるらしい。
しかし、甲板上にいた数百人に及ぶ兵士のほぼ全員が被災したことから、すぐに体勢を立て直すのは困難だった。
ただしフィラデルフィアにとっては幸いなことに、それはゴジラにとっても同じであったようだ。
胸には、レールガンから放たれた徹甲弾の傷跡がくっきりと残り、２発ほどはまだ突き刺さったままになっている。
ゴジラは低い唸り声を上げたが、勝利の雄叫びを上げることなく、そのまま海中へと姿を消した。
少し間を空けて、ジーラたちは身を起こした。
吹きさらしの上部デッキで衝撃波の直撃を受けた所為で、さしもの獣人戦士も動きが鈍い。
「あ、いててて……凄い爆発だったなぁ……ジーラ、大丈夫？」
「あぁ……あいつはまた潜ったみたいだな……まぁモロに砲弾食らってたし、仕方ないか」
「……あっ！そう言えば、あいつらは？」
「ジェノクたちか？……そういやいないな……」
ジーラたちがそんなことを言っていた時、ジェノクはフィラデルフィアの下部デッキにいた。
ここは潜水艇などを格納している、海面レベルの格納庫に当たる。
ゴラスやザキラなど、ジェノクが率いるＺＯＡ部隊の半数ほども集結している。
間もなく、グローディも下部デッキに下りてきた……腕は治ったのか、もう押さえていない。
更にゴリラ男のゴアや狼男のログなど、他の部下も続々と到着する。
そのほとんどが人間とはどこか異なる容姿をしている……ＺＯＡはこういう組織なのだ。
「お待たせしました――しかし、本当に艦を捨てるのですか？」
グローディの問いに、漆黒の翼を格納したジェノクは軽く頷いた。
「今のフィラデルフィアは翼をもがれた鳥のようなものだ……さっきの爆風で戦闘回路がやられている」
「確かに……マクスウェル艦長も、『復旧には小一時間はかかる』と言っていました」
「“あの艦隊”がどう出るかは知らぬが……今のフィラデルフィアでは対処できぬだろう」
「ですが……アジア連合にこの艦が奪われては……」
全身に岩のような筋肉が盛り上がる大男――ゴラスが不安を口にする。
その横で細身の男――ザキラはその不安を軽く受け流す。
「その点は心配要らんのじゃないか？ ３０年前ならともかく、今は同レベルの艦も連合にあるしな」
「確かにそうだが……いくら連合に余裕があるとはいえ、敵に塩を送るような状況だぞ？
どうせならこの混乱に乗じて、艦を爆破すれば良いのでは……」
「それも１案だが……あのアクエリアスの犬どもがそれをやすやす許してくれるかな？」
「兵士たちも黙ってはいないでしょうね……さすがに我々も艦の機関部までは掌握できておりませんし」
「……くそ！ 機関部さえ掌握しておけば、後始末も楽だったものを！」
「この潜水艇で、フィラデルフィアの後をつけるという手もある……
どのみち、アジア連合の馬鹿どもには、誰が支配者なのか思い知らせる必要があるしな」
デッキに接岸している潜水艇に手を添えたジェノクはそこで１呼吸置き、更に言葉を続けた。
「……それに、さっきの異常な嵐も気になる」
「そう言えば、艦隊もゴジラも、あの嵐の後でしたね」
「妙な波動を感じた……まるで、時空が歪むかのような……」
「時空が、歪むですと！？」
「……まさか、ここは我々の世界ではない、と？」
グローディの“核心に触れる”言葉に、ジェノクは冷徹な目のまま言葉を返す。
「それを見届けるためにも、我々がここでお縄になるワケには行かぬのだよ……自決も本望ではないしな」
「なるほどね……あるいは、“面白いこと”になっているやも知れんなぁ♪」
ザキラがニヤニヤと薄笑いを浮かべたが、グローディは渋い表情を崩さない。
“当初の計画”を破棄してフィラデルフィアを捨てるという、ジェノクの決断が腑に落ちなかったためだが、
ザキラを始め、“好ましくない同志”が数人いることも気に食わなかったためだ。
「グローディ中佐、まだ異存が？」
「……いえ、私はジェノク隊長の意向に従うまで」
「なら決まりだな、少し急ぐか。 竜王の連中に感づかれる前に……ロックの解除を」
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再び、フィラデルフィアのブリッジ。
クルーたちは、先の爆発でショートした、機器の回復に追われていた。
だが、損傷は思ったより深刻だった……艦が古いためか、交換が必要な回路が思ったより多かったためだ。
しかもそんなブリッジに、更なる情報が飛び込んできた。
「……状況は？」
「芳しくないですね……１部の回路が衝撃で切れてるようです……何分、古い艦ですから」
「浸水しなかっただけでも幸い、か――そう言えば、グローディ中佐は？」
「先ほどから姿が見えませんね……ジェノク大佐もそうですが」
「副艦長！潜水艇のロックが！」
「何だと！？誰が外した？」
「まさか……ジェノク大佐か！？」
「そんな、この艦を捨てて逃げる気ですか！？」
「まぁ、あの連中ならやり兼ねんことだ……警備兵は現場に？」
「お待ちを…………艦長、たった今到着したようです、潜水艇が１隻ないと」
「１隻！？ 連中全員が逃走したのなら、２隻は必要だろう？」
「――我々が使った船が残っているんだ、確認すれば１隻の型が違うはず」
「なっ！？ だ、誰だ！！」
ブリッジは、急に緊迫した空気に包まれた。
突然、連合軍の軍服を着ていない、壮年風の男が入ってきたからだ。
だが……その顔に見覚えがある男がいた。
「高山……龍二殿……やはり、侵入者とはあなたたちのことだったか」
壮年の男は、アクエリアス工作組織“竜王”の前線班長、高山龍二であった。
初老の顔つきだが、髪には青いメッシュが入り、かなり逞しい体つきをしている。
「お久しぶりです、マクスウェル中佐……いや、今は大佐でしたか。 こういう形で再会することになって、本当に申し訳ない」
「艦長……この男をご存知で？」
「２度ほど会った……１度目は偶然に、２度目は友人としてだったが……」
「まさか――貴様アクエリアスの！？」
警備兵長ジェイク・モートン大尉は銃を抜き、龍二に向けた……他の警備兵もそれに習う。
銃に囲まれた龍二は、わずかに笑った……その目に複雑なものを残したまま。
「優れた部下たちをお持ちですな……皆鋭く、真面目で熱心だ……大佐の人徳が伺われる」
「あなたのことは評価している……だが、アクエリアスは連合軍の敵だ。 できることなら、こうした形で会いたくはなかった」
「差し出がましい意見を言うようですが……今は敵味方を論じている場合ではありません。
ジェノクたちの行為を見たでしょう、部下を置き去りにして勝手に逃げた」
龍二の言葉に、マクスウェルは軽く頷く……しかし、全てを同意したわけではなかった。
「確かに連中のやり方は非道だと思う……だが、我々は地球連合の兵士なのだよ。 地球統一の足並みを乱す者を、認めるわけにはいかん」
「私もアジアの血を引くが、艦長の意見に賛同します……アクエリアスは非合法組織なのですよ」
２人の“意見”を聞き、龍二は再び、寂しそうな目で溜息を吐いた。
「悲しいことですな……アクエリアスがテロ行為に関わったことなど１度も無いはずですが」
「かつてはそうだったかも知れない……しかしアジア連合と共に、地球連合に反発したことは事実。
何より、部外者のはずのあなたが今こうしてこの艦にいる……これは明らかに違法行為だ」
「ふむ、その点は否定できませんな……しかしいずれにしろ、今この艦は重大なダメージを負っている」
「確かに、今我々の状況はすこぶる不利だが……アジア同盟に従う気はない」
「あなたたちも公正を期すなら、こうした裏工作ではなく、表で堂々と連合と渡り合うべきです！」
「なるほど、ごもっともな意見です――が、仮にです……ここが違う世界だとしたら？」
ふと――龍二が発した最後の言葉に、艦橋のクルーたちは一同に怪訝な表情をした。
「……？……いきなり、何を言うかと思えば……」
「では、先ほどの奇妙な“光の嵐”はどう説明すると？」
「……確かに、あの嵐は奇妙だった……だが、幾らなんでも飛躍し過ぎている」
首を横に振るマクスウェルに、警備兵長ジェイクが銃を龍二に向けたまま、同意と警告の言葉を発する。
「艦長、騙されてはなりませんぞ！我々を煙に巻く工作に決まっている！」
「何の根拠もなく言っているのではないよ？ 艦の計器を見たまえ、今は何年だ？」
「何を分かり切ったことを……2066年では――」
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「副艦長、それが……」
計器を眺めていたレーダー士官のミシェル大尉が、済まなさそうな顔をして割り込んできた。
そして、無言で計器＝艦のレーダーシステムを掌握する、コンピュータのディスプレイを指差す。
その画面の端に映っていた年代を見て、ミフネたちは愕然とした。
『Ｊｕｎ−２０１３（２０１３年７月）』
「な！？ ば、馬鹿な、あり得ない！」
「計器の異常だろう、衛星通信網の最新情報を……」
「それが……あの嵐の後から、衛星通信回路に接続できません……艦のレーダーでも確認して見たのですが、所属不明の衛星が多数……」
「そんな……信じられん」
ミフネは呻いた。
……だが、今が2013年だとすれば、先ほど確認した艦隊が、旧式のイージス艦らしきものを旗艦としていたのも頷ける。
しかし、まさかタイムスリップなどという現象が本当に起こるとは、にわかには信じられなかった。
「信じられんだろうな、それが普通の反応だろう……だが、色々とおかしいのも事実だ」
「……あなたは、この事態を予期していたというのか？」
「いいえ、残念ながら。 しかし、時空に異常が起きたことは間違いないと確信しています」
「き、貴様！ 艦のシステムにどんな工作を！？」
「まだ疑うのか？ 我々は何もしてはいないよ……この艦に侵入したのは、別の目的があった為だ」
「別の目的？」
「営倉に幽閉されていた者を解放すること……そして、あなたたちを説得すること」
「営倉……あぁ、あの竜人のことか」
どうやらマクスウェルには、営倉に“封印”されていた、嶽羅の情報が伝えられていたようだ。
「な、説得だと！？ 我々がアクエリアスの言葉を信じるとでも？」
「我々のコトではないよ……アジアの反目行為は、地球連合政府の一方的な圧力のためだということをだ」
「……北米内戦の陰謀論のことか。確かにあれは、政府側に謀略めいたものを感じはしたが……」
地球連合とは異なる国家同盟、アジア連合が地球連合を激しく批判するようになったのは、
北米大陸で“内戦”が起きた際、それを地球連合が意図して触発したという話が広がったためだ。
根拠は不十分だが、確かに内戦を地球連合主導で収束すれば、都合が良いことは事実だった。
そのため、「地球連合は世界政府に相応しくない」と主張し始めたのである。
2060年――フィラデルフィアの今回のミッションの６年前に“極東戦役”が勃発したのは、
こうしたアジア連合と地球連合の不協和音が、ピークに達したものだった。
そしてアクエリアスも、こうした情勢に大きく関わってきたのである。
「しかし、連合政府の方針に疑問を持つことは、連合軍の兵士としてはあってならないこと……
元はと言えば、アジア側が地球連合の世界統一に反発してきたのが遠因でしょう」
「そのために、また罪もない市民の血を流す必要があると？」
「そ、それは……」
口ごもるミフネ……軍人として命令は絶対だ、しかし決して戦いの決断を好むわけではない。
「……あなたは、我々にどうしろと？」
マクスウェル艦長は、龍二に意を問うた。
「当初の目的に関して言えば……アジアと再び戦端を開くような行為に慎重であってもらいたいことです。
先の戦役で既に何十万という命が奪われていますしね――しかし」
「……しかし？」
「当面は、我々が休戦状態を確約し、今起きている事態を確認することではないでしょうか？」
「……あの嵐と、この通信異常の原因究明ということか」
「それからもう１つ……“あの艦隊”との戦闘を控えていただくこと」
龍二はそう言いながら、窓の外に見える海に手を向けた。
その方向は――“謎の艦隊”が発見された方位と一致している。
再び、龍二を包囲した兵士たちがざわめいた。
「アジア連合の軍門に下れ、とあなたは言うのか？」
「そうではありません……私の知識が正しい限り……あの艦隊はアジア連合の艦隊ではありませんから」
「！？ どういうことです？」
「詳細は機密情報ゆえに口には出来ません……しかしアジア連合の艦隊なら、この海域にいるはずがない」
「確かに……ミッドウェイ海域は現在地球連合の管理下で、常時衛星による監視が行われています」
静かに聞いていたミシェル大尉が、意図せずして龍二の意見をフォローした。
それに気付いたのか、ミシェルははっとして顔を下げる。
「あの艦隊がアジア連合のものなら、ずっと前に探知され、スクランブル発進が行われていたのでは？」
「……では、あなたはあの艦隊がどこのものだと？」
「それを確認するためには、あの艦隊と接触する必要があるのではないでしょうか？……しかしそのためには、
この艦が戦闘の意思がないことを、あの艦隊に伝える必要があると思うのです」
「そんなことを言って、上手く我々を武装解除させることが狙いではないのか？」
「信じないのならご自由に……しかし、万一アレがアジア連合の艦隊なら、無用な攻撃などしない。
こちらが先ほどの対ゴジラ戦のように、先制攻撃をしない限り……ね」
「うぬぅ……」
強硬に龍二を批判していたジェイク大尉も黙り込んだ……いくら地球の統合のためとはいえ、
連合軍が好戦的な集団だとは、彼も思われたくはなかった。
自分たちが仕える地球連合が“恐怖政治”をカミングアウトする組織だとは、考えたくなかったのだ。
龍二の言葉を聞いていたマクスウェル艦長は、意を固めたかのように小さく頷いた。
「なるほど、解った……まずはあの艦隊と、戦わずして接触してみるとしよう」
「艦長！？」
「我々とて野蛮人ではない……無用な戦闘が避けられるのならば、それに越したことはないからな」
「確かにそうですが……」
「ただし龍二殿、問題が解決されるまでの間、あなたとその仲間たちを、
我が軍の監視下に置かせていただく……艦の指揮官として、これは当然の権利だと思うが、いかがか？」
「……まぁ、やむを得ぬでしょうな。 我々の身の安全を保障して頂けるのならば、従いましょう」
こうして、フィラデルフィア艦内の騒動は収束した。
マクスウェルは更に、１０数ｋｍ離れた艦隊――国連軍第３艦隊との通信を試みようとするが、
その際に再び、まるで想定外の事態に巻き込まれることになるのである。
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| （太平洋其の３） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008〜2012年頃に草稿を作成したエピソード。
当時はまだ旧ＯＷ企画であったが、ＰＡ期に入っても基本的なシナリオは変わっていない。
（現在のエピソードは旧ＯＷ『ファーストクライシス拡大編３章２話』を再編したものである）
実は2009〜2010年頃に書いている始動編３章クライマックスや４章後半よりも、この話が先に出来ている（爆）
“ゴジラ対巨大戦艦”という、怪獣ファンの夢のようなカードを盛り込んだエピソードである（笑）
因みにこの時登場させたゴジラは、始動編に登場させた“成長版ジュニア”ではなく“ファイナル版”である。
これは「複数のゴジラが登場する」旧ＯＷ企画の路線を引き継いだアイデアでもある。
因みに“草稿段階”では、GDW世界観の基準時空の地球にも、ゴジラが棲息する設定になっていたが、
第４次再編時に２次創作を切り離す意図から、ＭＰＷ世界出身の生物種に限定しているため、
裏社会の住人を除いて、ゴジラのことを知らないという設定に軌道修正している。
つまり“ゴジラ獣人”ジーラも、異次元世界の怪獣の遺伝子から生まれた設定に変わっているのだ。 |
