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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722D） |
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「――春花、ホントに無事で良かった！」
「夏月ちゃんも！」
避難民でごった返す上野駅で、少女たちは再会した。
動物園組と博物館組が、今ようやっと合流したわけである。
「皆さん落ち着いてください、間もなく臨時の列車がやってきます、押さないで！」
「建物の中の方に集まってください、外は危険です！」
「この建物は耐震性があります、１階にいれば安全です！」
ざわめく駅構内で、スピーカーを手にした駅員と警察官、自衛隊員が市民を誘導している。
臨時にチャーターした通勤列車で、市民を郊外に避難させる計画らしい。
既に１部の線路は爆撃で使えなくなっていたが、まだ使える路線が残っていたのだ。
東京駅よりも北にある分、被害が少なかったのもある……東京駅は既に閉鎖を余儀なくされていた。
地下鉄もまだ被害が少ない……こちらも活用する計画を立てていたようである。
可能なら代替バスも動かしたいところだが……この“空襲”では安全ではないだろう。
“怪獣を知る世界”側の日本が設置したシェルターもあるが、市民全員を収容できる広さではなかった。
「あれ、秋綺君……ライカさんは？」
「オレ達を庇ってまだ公園に……この人の仲間も一緒にいるみたいだ」
「……この“人”？」
三四郎が怪訝な表情で見上げるのは、コンコースの庇の脇に「立っている」アリシェイルだ。
赤いバイクのカウルの面影が残る、スレンダーな身長２ｍを越す“機械の女性”である。
目撃した避難民は動揺したが、面識のある自衛隊員がその場を抑えた。
「……それがオーディアンの使命だからね、私達のことは心配しないで、必ず皆を守るから」
「……は、はぁ」
「ライカは大丈夫、彼女は私達以上にタフよ♪」
アリシェイルはメタリックな顔で、やや大袈裟にウィンクして見せた。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の４
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合同庁舎の国土防衛総司令部と通信機越しに“合流”した、立川基地の防衛特調。
防衛出動決定後、立川基地司令部の機能とも合流し、会議室には基地司令の武川２将も加わっている。
尤も建物の別所に司令部があるため、プロジェクターを通じた参加であるが。
「江戸川区、大型機械獣の進行止まりません！！」
「新宿区、練馬区、江東区にも正体不明の機械獣が出現しました！！」
「そこだけではありません！！ 狛江市や麻布市にも出現を確認！！」
「近畿地方や東北地方にも出現した模様です！」
7月22日午前11時。
デスザウラー出現の報が入ってからおよそ１時間……緊迫した報告がなおも次々に飛び込んでくる。
否、それはもはや、悲鳴に近いと言った方がいいかも知れない。
しかも今回は前のケースとは違う点があった。
一昨日現れた異星の少年が乗っていたという４足型が「ただ走っていただけ」だったのに対して、
今度の奴らは明らかに“意図的に町を破壊している”という点だ。
あるものはその太い腕や足、尻尾で建物を突き崩し、
あるものは装備されているミサイルやビーム砲で家々を吹き飛ばしていく。
会議室の分割式大型ディスプレイには各地域で繰り広げられる惨状が映し出されており、
ある場所では背中に背ビレを生やした巨大な直立歩行する恐竜のようなゾイドの“ゴジュラス”や
全身武器だらけの赤い装甲の角竜型ゾイドの“レッドホーン”が、
あるいは大きなランチャーが特徴的なゴリラに見えるゾイドの“アイアンコング”が、
何機も徒党を組むように荒廃した町をゆっくり練り歩き、
別所では狼型ゾイドの“コマンドウルフ”やトラ型ゾイドの“セイバータイガー”などの高機動ゾイドが、
町中をかき回すように走りながら破壊活動を展開している。
中には昨日、日向灘に出現した“謎の島”の調査班より送られてきた資料画像にあった、
島の施設に保管されているという“ゾイド”と同型のものも幾つか見られる。
それ以外にも大型のものからやや小型のものまで、地球人には未知の兵器が巷に溢れ返っており、
しかもその１機１機が戦車数台分の装備と火力を有しており、
あるいは地球の兵器では考えられない優れた機動性と反応性を持つゾイドの動きに、
防衛隊や自衛隊の各基地は被害状況の把握どころか、現れたゾイドの位置や数の特定にすら苦心していた。
そんな中会議室に、パドルとマークがいそいそと入ってきた。
「パドル大使、マーク殿、ご苦労様です」
「遅れて申し訳ない、サイトＧの機器を調整していました……それにしても大変な事態になりましたね」
「全くです……ご覧の通り、あのゾイドと呼ばれる機械獣の出現報告は20ヶ所にも上っています。
既に関東一円の防衛隊部隊に出撃命令が出ています……Ｇフォースにも要請を出していますが、
江戸川区の機械獣によってスーパーガルーダ２機が撃墜されてしまい、後手に回らざるを得ません」
「国連太平洋軍のパウエル大佐からも、新たな情報が次々に入っています。
サンディエゴやナンテール、ノヴォシビルスク、天津でも襲来があったようです……本当に世界規模ですね」
やや疲れた表情の黒木や富谷の横で、権藤が攻めあぐねたような表情で呟く。
「しっかし、今度は一体誰が操っているんだ？ 明らかに狙った破壊行為、いや宣戦布告ですよこいつは。
もしやこの前の異星人の少年と何か関係が……？」
しかし――パドルの“見解”は、少し意外なものだった。
「……いや、今度の連中は多分無人じゃないかな……少なくとも自分は、パイロットの気配を感じんのですよ。
ただ……尋常な状態ではない。野性の本能というよりも、巨大な力に突き動かされているように見えます」
「巨大な力……ですか？」
「そう言えば、子供達に引率したライカ捜査官から通信がありました。
上野公園近傍で、あのディスヴェリオンの破壊活動を疑う事件に遭遇したというのです。
その直後、ジャミング工作が仕掛けられたようで、経過報告は受けられていないのですが……」
これはマークだ……パドルも知った話らしく、大きく表情は変えないが、深刻そうな目をしている。
「ディスヴェリオンのことだ、何が目的なのかはっきりしないが、こんな騒動に便乗することはあり得る」
「江戸川区などで暴れているゾイドが、そのディスヴェリオンと手を組んでいるという可能性は？」
「絶対ない、とは言いませんが……それには知性ある“指揮官”が必要でしょう。
遠隔操作だけで世界規模の軍団を動かせるほどには、ディスヴェリオンも強大な勢力ではありません」
パドルたちは、まだゾイドの中にその“知性ある指揮官”が存在することを知らない。
その直後だった……パドルとマークはふと、何かを察知したかのように虚空を振り仰いだ。
「？ ――パドル大使、どうかしたので――」
次の瞬間――凄まじい轟音と振動が立川基地を襲った！
会議室の全ての映像回線が途絶し、メインスクリーンも停波し、
部屋中に緊急事態を知らせるワーニングランプが灯り、けたたましいサイレンが鳴り響く。
普段冷静な市ヶ谷も、思わず悲鳴を上げるほどだった。
「――きゃぁあぁっ！？」
「ぬぅっ……こ、今度は何事だ！？」
『報告します――第１車庫と第２車庫、更に第１倉庫が被弾……てっ……敵襲です！！』
復旧したメインスクリーンに、基地の正門付近の防犯カメラの映像が映し出された。
立ち込める塵煙、燃え盛る車両、そして地面を重機で抉ったような窪みが、
正門から駐車場を突き抜け、その先の倉庫にもドリルで削ったような大きな穴が開けられている。
そしてその発射地点と思しき正門の前には、デスザウラーが出てきたのと同じ“光の輪”が開いており、
そこからティラノサウルス型ゾイド“ジェノザウラー”が姿を現し、基地の敷地内へと侵入してきた。
さっきの初撃はジェノザウラーの口腔内に装備された高出力の荷電粒子砲によるものであり、
その口に仕込まれた砲口からは僅かながら煙が零れている。
それに続いてヴェロキラプトル型ゾイドの“レブラプター”と“ガンスナイパー”といった中小型ゾイドが、
ジェノザウラーを補佐するように10機以上も一斉に基地になだれ込んで来た！
『なっ……何ということだ、今度はうちか！！』
余りにも突然の“奇襲攻撃”に、武川司令はスクリーンの奥で吐き捨てるような呻き声を搾り出した。
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そしてこちらは金芽台のサイトＧ。
再び空間変動の警報が鳴り響き、ディスプレイを眺めていたラティスが声を上げた。
「ちょ、マジ！？ この金芽台にもさっきと同じ空間変動反応が出たみたい！！」
「「「なっ、何だってーーー！！？」」」
皆は思わず２階のテラスに駆け上がって、外の状況を確認する。
しかし金芽台は遠くで緊急警戒警報こそ鳴っているものの、特にこれといった異常は見られない。
避難指示も出ていない所為か、市井にも割と混乱らしい混乱は起こっていない。
「どこだ？ どこに居やがるんだ？」
「うーん、分からないな……ジーラ、そんなに乗り出したら町の人に見られるよ？」
サイトＧが感知した都心部の“異変”や防衛組織の通信では、軍隊が手こずるような相手のはずだ。
しかも昨日起きたライガーゼロ暴走事件から、かなり大きなターゲットがいても不思議はないわけで、
それならそういう巨大メカのようなものが、テラスから見えても良いはずなのだが……
数十ｋｍ離れた都心部からは、黒煙のようなものが数本、うっすらと立ち上っているのが見えるが。
「おぃおぃ誤報かよ……びっくりさせんなよな〜」
「ん〜 ……自分このコンピュータについてはよく分かんないけど、誤報ってあるのかな……？」
「と……とにかく警戒を怠ら……あれっ、通信システムにまた何か――って立川基地！？」
と、再びサイトＧの通信傍受システムが、立川基地の緊急連絡を受信した。
それによると今度は、なんと立川基地が機械獣軍団の攻撃を受けているというのだ。
しかも相当な苦戦を強いられているようで、このままでは陥落もあり得るというから穏やかではない。
間もなく――立川基地の福利ターミナルにいた、龍二とザラクがサイトＧの管理人室に飛び込んできた。
「立川基地が襲撃を受けた、すぐに支援が必要だ！ ……お前ら、出られるか！？」
「今こっちでもキャッチしたところ、やっぱり大変そう？」
「間違いなく前回のディスヴェリオン事件以上だ、襲撃者の数が２〜３倍はいる！」
龍二達の緊迫した表情に、加賀や瑞鶴も表情が引き締まる……隣には木更津茜や習志野もいる。
「東京のあちこちで事件が起きてるし……どうも偶然じゃなさそうね」
「深海棲艦なら、こういう大規模な攻撃を仕掛けても不思議はないけど……陸なのよね」
「マグマ軍もこういう攻め方をしたことがあるよ、パクったのかな？」
「待機メンバーも要るんじゃないかな……金芽台でも反応が出たっぽいし、確認はいると思うよ？」
「くそっ、こっちもか……じゃあ俺とシドとラティスとアイナが残ろう、肉体派は向こうに回ってくれ」
「パドルさんに許可取らなくて良いですか？」
「パドル大使は司令部に行ったから、そこで確認を取ってくれ。ダメとは言わんと思うが……」
「司令部までたどりつけたら良いけどねぇ……おっと悪い悪い、今のは冗談だってば」
ジーラは軽くジョークを放つが、周りから真剣な目で睨まれて思わず前言撤回した。
事態を軽視したつもりはないのだが、どうも感覚が違ったらしい。
茜や習志野、鯖江といった陸自娘も意見を交わす。
「これって……あたしらも行くべきじゃない？ だってさ――自衛隊の基地がピンチなんだよ？」
「私もそう思う……戦おうにも、装備は立川基地の倉庫にあるしな」
「市ヶ谷さんも反対はしないんじゃないかな……武川司令がどう言うかは分かんないけど」
「ふむ……そうか、君らは自衛隊兵器の化身だったっけな、ならその義理はあるのか。
ジーラ、キトラ、彼女達を援護して基地に行けるか？」
「おー良いね龍二さん、おいらも今そう言うつもりだったのよ！」
「……ホントに？」
龍二はザラクと軽く目を合わせて、“緊急事態”の人員の割り振りを告げると、今度は陽炎が口を開いた。
「高山さん、あたしらはどうしたら良いの？ いちおう陸でも砲戦は可能だけど」
「そうだな……俺たちが見回りに行ってくるから、ここを頼めるか？ 攻撃を仕掛けるやつがいたら、
門前からぶちかましてくれると在り難い」
「うちら弾薬が限られてるから、余り大々的には動けへんしね……そのくらいしかないか」
「そうと決まれば善は急げってな、行こうぜキトラ、飛音！」
「ふん、早速呼び捨てとは良い度胸だな！」
「ＯＫ！ じゃあみんな、後はお願いします！」
「嶽羅、不都合じゃないならあんたも来てくれ、１人でも多くの即戦力が欲しい！」
「無論そのつもりだ、こんな事態を黙って眺めている道理はない」
“肉体派”がゲートを駆け抜けていくと、龍二やシド、ラティスやアイナも金芽台の町に飛び出した。
周囲に人影がいないのを確認するやシドは“鬼人形態”に変身し、ラティスもリミッターの髪留めを外す。
龍二は腰のホルダーから、Ｇフォースから貸与されたメーサーピストルを引き抜いた。
「済まんが、ラティスとアイナは一緒に来てくれ、シドは別行動で頼む！」
「りょーかい、それじゃちょっくら始めますかねぇ」
素早く展開していく竜王チームと陸自娘チームを、艦娘チームは玄関から眺めている。
手持ち無沙汰な素振りで瑞鶴が苦笑いする。
「……ここが海なら、私たちも動けるんだけどね」
「今出来ないことを言っても始まらないわ、管理人室に戻りましょう。
砲戦可能な４人は２手に分かれて、玄関と２階テラスで周囲の監視を続けて！」
「「了解！」」
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静岡県富士宮市。
「よっし。これで応急修理完了っと」
「やった！ これで動かせるのね」
富士山を望む森林のど真ん中に聳え立つ、青と白に彩られた不思議な建造物。
その動力ブロックに居た少年イズル・ティアリスと少女エリル・メイオンが歓喜の声を上げる。
移動の際に負った駆動系のダメージで立ち往生していた“ホバーカーゴ”の修理がやっと終わったらしい。
「で、これからどうするの？」
「う〜ん……取り合えず移動しよう。兄さん達を探さないといけないし」
２人はブリッジルームへ戻り、早速ホバーカーゴの起動準備に入る。
間もなくコアも覚醒したようで艦全体にも微弱な振動が走り、コンソールやディスプレイにも光が宿る。
モニターシステムも復旧したようでメインスクリーンにも各種情報が表示されていく。
「――ん？ ねぇ、なんかあそこの空黒くない？」
ふとスクリーンから、エリルが森林の遥か向こうから煙がたくさん立ち上っているのに気がついた。
「ホントだ。もしかして山火事かな。だとしたらあそこに誰か居るかも」
その煙の先に仲間の誰かがいるかも知れない。
しかし、先日襲ってきた正体不明の銀と黒のゾイドの事もある。
もしかしたら誰かがまたそいつらと戦っているという事も充分に有り得る。
「私がちょっと行ってくる。ケーニッヒウルフの発進準備お願いね」
「えぇっ！？ 大丈夫？」
「ちょっと見てくるだけよ♪」
そう言うと、エリルはブリッジを出て自分の“ケーニッヒウルフ”があるホバーカーゴ格納庫に向かい、
格納庫に佇んでいるケーニッヒウルフにそそくさと乗り込む。
イズルはケーニッヒの置かれているリフトを作動させ、リフトは格納庫の丸い外壁に沿って弧状に上昇し、
ホバーカーゴ上部のリニアカタパルトにセットアップされる。
そしてホバーカーゴの格納庫上部ハッチが開かれ、カタパルトが伸展し、ゾイドの発進準備が整った。
「んじゃ行くわよ！！」
彼女の掛け声と同時にリニアカタパルトが作動、ケーニッヒウルフは勢い良くホバーカーゴより射出され、
高木を飛び越えて軽やかに地面に着地すると同時にそのまま現場へと向かった。
ケーニッヒウルフは鬱蒼と茂る山林を、足元の木々を踏み倒しながら突き進む。
４足で歩行する事が多いゾイドには、進む道が獣道である事など特に関係はないが、
ここいらの樹木は基本的に背が低いため、隠れて進む事はできない。
そのため、とにかくスピード重視で軽い跳躍を繰り返しながら進める限り進んで行くことにしたのだ。
やがて例の黒煙が渦巻く空の下の現場へと近づくが、
自分が走っていた山から見下ろせるその現場を見てケーニッヒウルフは足を止める。
そこにあったのは――見渡す限りの集落であった。
巨大なビルこそ余りないが、ここからでも相当大きな都市である事が分かる。
「うっそ……この島に街なんてあったっけ？」
まだここが“マヴィノ諸島”だと思っているエリルには、この光景がにわかには信じられなかった。
しかし、よく見るとその街の彼方此方から火の手と、そして煙が上がっているのが判った。
ホバーカーゴから見えた煙はここから立ち上っていたのだ。
エリルはケーニッヒウルフのヘッドギアにある望遠システムを作動させ、
いったい何が起こっているのかよく確かめてみる事にする。
そのカメラで街をくまなく見てみると道路は砕け、車はひっくり返され、建物も破壊されているのが分かる。
街中にはそこの住民らしき影も複数確認できるが、彼らも全て現場から逃げようとしているようだ。
するとそのカメラに、彼女もよく知ってる機影が入り込んできた。
「えっ、あれは……ライトニングサイクス？ でも……」
そこに映っていたのは“ライトニングサイクス”。
ゾイド乗りの中でも有名な純高速戦闘ゾイドのライトニングサイクスが、道路を跳ねるように走り回っている。
しばしそのライトニングサイクスを目で追っていると、
そいつは走りながら背部のパルスレーザーガンを断続的に発射しているのが見えた。
その先にあったのは１棟の建物、パルスレーザーを受けた建物が爆発と共に大きな穴を開けられて火を噴く。
既に被害は相当数に昇っており、この惨事の原因がライトニングサイクスなのは明白だった。
とは言え、これにはエリルも一瞬どういう事なのかは理解できなかった。
そこにイズルからの通信が入ってきた。
『ねぇ、どうしたの？ 兄さん達居た？』
「それどころじゃないのよ。これ見て！」
エリルはケーニッヒウルフで見ている映像をホバーカーゴに転送し、この状況をイズルにも見せる。
『えぇっ！？ どこそこ？ それに…… 一体何が起こってんの？』
「そんなのこっちだって分かんないわよ。あのサイクスが街中を走りまわって暴れてるみたいだけど。
……で、どうすんのコレ？」
『う、う〜ん…… 治安局が来るの待つしかないんじゃかなぁ？』
ゾイドを使った破壊行為は当然ながら彼等の社会でも違法である。
とは言え、ただのゾイド乗りであるエリルには、それを取り締まる権限はないのだ。
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一方、既に新宿区を中心に中野区、渋谷区、練馬区、江東区など東京の各地でも、
ゾイドが複数出現しては、迎撃に出た防衛隊やＧフォースと激戦を繰り広げていた。
練馬区では20体ものイモムシ型ゾイド“モルガ”の群れが走り回り、
中野区では“レッドホーン”の軍団が辺り構わず火器をぶっ放し、
江東区ではアイアンコング達が住宅地の真ん中で吼え猛り、
渋谷区では“ダークスパイナー”“ディマンティス”“ディロフォース”などの混成部隊が暴れ回り、
文字通り“至る所”で防衛組織側と激しい撃ち合いが行われている。
更に地上だけでなく、空にはザバットの他に“レイノス”や“グレイヴクアマ”といった空戦ゾイドが、
防衛隊や在日米軍の戦闘機など、出撃した航空戦力を引っ掻き回して地上支援を阻んでいた。
防衛省に最も近い東新宿の新宿通りでは、白金台と同じくゴジュラスとコマンドウルフの群れ、
ただしどちらも背部に火器を追加したMk-2タイプおよびアタックカスタム、
ロングレンジカスタムなどの強化型で、他にも複数の種類のゾイドで固められている。
戦況的にはほぼ一進一退と言った所で、防衛組織側はと言うと、
通常の戦車や装甲車では、高速で動きまわる小型〜中型ゾイドの捕捉にも手間取る始末だったが、
そこに遅れて到着した対怪獣用の08式メーサータンクおよび09式ツインメーサータンクによる、
高出力メーサー砲の広範囲斉射に切り替え、ゾイドの軍団に向けて青い稲妻が次々と浴びせかけられた。
もともと対怪獣用に出力が引き上げられたプラズマメーサーには、軽量中型ゾイドは一溜まりもなく、
前線にいたコマンドウルフおよび“アロザウラー”“ガンスナイパー”などは次々とはじけ飛んで行き、
さらにそれを受けたゴジュラスMk-2も、その個所の装甲は溶け爛れ、悲鳴のような咆哮を上げて仰け反る。
このまま敵前線を打破しようと前進を開始する防衛軍部隊であったが次の瞬間、
幾千もの砲火がメーサータンクを穿ち、今度はメーサータンクが木端微塵に吹き飛んだ。
やがて燃え盛るゾイドの残骸達を踏み越えて“ガンブラスター”と“ディバイソン”の集団が姿を表し、
背中に聳える多数の砲で人間達に猛反撃を加え始め、先頭に陣取るメーサータンク大隊の壁に穴を開ける。
さらに残ったゾイド達も己の損害など顧みず再び砲撃と突撃を再開、
１撃でゾイドを破壊できるメーサータンクですら、懐に潜り込まれるともはやその火力は無意味に等しく、
ゾイドの接近を許した戦闘車両は一切の情け容赦なく叩き潰されていく。
他の場所でも同じような状況で、いくら個々としては怪獣類よりも脆弱とは言え、
生体兵器ならではの高機動製と一撃必殺の高火力を両立させたゾイドに、
対怪獣など巨大な標的相手に特化した、Ｇフォースや防衛隊の戦力では相性が悪いのは明白だった。
何しろゾイドは事実上、全ての機体が「野性の本能を持つ戦闘爆撃機」なのである。
先に江戸川区でデスザウラーやザバットと対峙したスーパーガルーダ部隊が“惨敗”したことを思えば、
何十機ものゾイドの大軍団に、現状の陸上防衛兵器では、「戦力が違い過ぎる」としか言いようがなかった。
手の施しようもなく蹂躙されないだけ、防衛組織側の練度が高かったと言っても良いくらいだろう。
現に海外では、文字通り成す術もなく壊滅を許した街もあったのだから。
そしてそんな惨状を遠くのビルの上から眺める、２つの影があった。
ゾイドを操るバイオゾイドの１体“バイオメガラプトル”と、それを主導するオートロンのディグドラスだ。
そう、今回の“戦争”を引き起こした主犯たちである。
「ふん、なんだあの弱々しい戦力は……？ 貴様が言うからどれほどのものかと思ったが、
ゾイドでも何でもないただのガラクタではないか……」
「まぁ、この星の人間が使うものは所詮はあの程度だ……
だがこれで、我らの言った事が事実だったということは分かって貰えただろう？」
「確かに……人間の住む街も全然違うな……人間もゾイドを使わないというのならば、
惑星Ｚｉでは無いのだろう。 ――しかし、我々にこんなことをやらせて何の意味があるというんだ？」
「ふっ、陽動としては充分だ。そうだな、あと１時間ほども時間を稼いでくれれば良いだろう。
これだけの戦力、そうすぐには落ちまい。さて、ここは我らも下がるか。
人間共にお前達の事まで知られる必要はなかろう」
ディグドラスとバイオメガラプトルはビルから飛び降りると、間もなく姿を消した。
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再び金芽台小学校――数十分前の話でサーセン。
カズヤ、哲朗、金田の３人は恐る恐る動物小屋から出て校舎脇から辺りを見回す。
「な、何が起こっているんだ？ 警報が鳴っているという事はまた何か出てきたのか？
でも警報は遠いし……ココではないよな？ ふぅ」
「先生、どうすんです？」
「と、とりあえずだな。こ……ここは言われた通り、避難指定場所である私立金芽台学校にだな……」
金田は相当ビビっているのか声が上擦っている。
大体この状況でそれが本当に正しい判断なのかも疑わしいが、
取り合えず３人が小学校を出ようと、いそいそと校庭を横切ろうとしたその時。
「――んっ？」
カズヤは今自分が歩いている校庭の地面に何か違和感を感じた。
何かが自分の足の下に居るようなそんな感覚。
（――カズヤ！！ 離れろ！！）
カズヤは一也の言葉に急かされ、思わずその場から飛び退く。
すると突然校庭の土が盛り上がり、地面の下から蒼いレンズとその下に銃身が取り付けられた、
白い触手のようなものが飛び出してきた。
カズヤ達があっけにとられていると、さらに次の瞬間、その触手の本体も地面を割いて姿を現した。
それは大型トラックほどの大きさを持つ白いサソリ型ゾイド“デスピオン”だった。
最初に出てきたのはこのデスピオンの“尻尾”だったのだ。
ゾイドの中では最小クラスだが、ダンプカーほどもあるサソリは人間から見れば巨大な怪物も同然だ。
そいつは突然の事に動けない３人に、前脚のハサミを鳴らしながら近づいてくる。
「は……なんだ、これ……ろぼっと……？」
（カズヤ、動け！！）
「――！！ 難波、こっち！！」
脳内教師に気付けされ、カズヤははっとして哲朗の腕を掴んで校門に向かって走りだし、
哲朗も足を引きずりながら走ってカズヤについていく。
デスピオンは真っ先に動き出したカズヤ達の方に反応し、そっちに回頭すると彼らを追いかけ始めた。
一方の金田は、カズヤ達が走り出したのと同時に、情けない声を上げながら別方向に逃げ出していった。
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……そんなわけで、２人はグリーンベルト公園の公衆便所に隠れざるを得なかったわけである。
「あぁ……ほんとにどうしよう……」
「ここに逃げ込もう言うたんはカズヤやでぇ。ちゃんと責任取れや……」
その時、便所の外でカシャンカシャンという機械音が２人の耳に届く。
おそらくあの機械仕掛けの怪物サソリが近くをうろついているのだろう。
２人が再び息を殺してじっとしていると、次第にその音は遠ざかって行き、
２人は恐る恐る個室から顔だけを出して入り口の方を見る。
幾らなんでもあのサイズでは、ここに入る事は出来ないだろう――直接破壊しない限りは。
「はぁ〜……びっくりしたわ。んもー、はよジエー隊やらボーエー軍とやらが来てくれへんかなぁ……」
（ねぇ……なんか良い方法無い？）
（そうだなぁ。あ、あそこから出られるんじゃないか？）
「ん、どないしたん？」
「……あ、あの窓から出られないかな？」
と、カズヤは便所奥の天井に近い位置にある明かり取り用の小窓を指さす。
上手く行けば公衆便所の裏から脱出して、あの巨大サソリを巻けるかも知れない。
窓自体は確かに子供１人なら通れそうな大きさだが、
微妙に位置が高く、小学生の２人には縁に指をかけるのがやっとだろう。
そこで２人は便所内の用具入れ室から、年季の入った金バケツを取り出すと、
それを逆さまに置いて足場代わりにする事で窓への距離を縮める。
「ほな行くで。よっ……と」
まず哲朗がバケツに乗って窓に手をかけるとぐっと体を押し上げた後、
頭から窓枠を潜って体を少しずつ窓から外に押し出していく。
次に体を反転させると一気に下半身も窓から抜き出し、最後に体を下ろして地面に飛び降りる。
まずは１人――脱出に成功した。
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そして――都合２度目の危機に陥った立川基地。
司令部の陥落を極力防ぐため、黒木たちは防衛特調の会議室から、司令部本室に移動していた。
いざとなれば――この部屋の直下に設置された“シェルター”に身を隠すことも出来る。
「パドル大使――立川基地には“シールド”が設置されてたんじゃなかったんですか！？」
「そのはずですがね……どうも、今の攻撃で破られた感じじゃない――ちっ、何があった！？」
「くっ、総員、全力で迎撃に当たれ！ それにしてもこの時間差攻撃……
さては奴らめ、この基地の主力が出払った隙を突いたというのか……？」
そう――立川基地には、ディガスが臨時措置として、簡易式の防衛用空間シールドを設置している。
ディスヴェリオンが基地を襲撃したあの事件の後、基地の周囲を覆うようにしたものだ。
簡易式であり、決して万能のバリアではないが、通常の物理攻撃である限り突破することは出来ないはず。
ジェノザウラーの荷電粒子砲が幾ら強力でも“理論上”はシールドを破ることは出来ないはずなのだが。
どうやらゾイド軍団が侵攻する直前――シールドを無力化する何らかの“現象”が働いたようだ。
動ける装甲車が続々と集結してはゾイド群を包囲し、直ちに攻撃を開始する。
しかし、航空戦力はおろか陸上戦力も、この事態で既にほとんど吐き出してしまっており、
この基地にはゾイドにまともに張り合える機体は残念ながら残っていない。
ファルレーンがライカと合流したように、オーディアンの面々も東京各地に散ってしまっている。
軽戦車や兵員輸送車程度の攻撃力では、ゾイドの進行を止める事などとても出来はしない。
司令部でも、混乱から絶望に似た空気すら漂い始めた――その時だった。
『こちら福利ターミナル、司令部つながるッスか！？』
聞き覚えのある、欧米鈍りの日本語が、通信機から響いてきた。
福利ターミナルということは、売店の電話機を使っているということだろうか。
「こちら司令部……その声は確か――ジーラ殿か！？」
『おー黒木特佐、まだ生きてるッスね、司令部は健在って事だな、良かった良かった』
「ジーラ……サイトＧから出てきたのか！？」
『あーパドルさん、すんません、龍二さんから援護が要るって聞いたもんだから……ダメッスかね？』
ジーラの“志願”に、司令部の黒木や武川は顔を見合わせる。
このゴジラに良く似た“獣人”が人間離れした能力を持つことを、司令部は先の能力テストで知っている。
だが本来部外者である彼らに、基地防衛という重大な任務を委任しても良いのだろうか。
「だが……この事態にキミたちを巻き込むなど……」
苦い顔をした武川の言葉が聞こえたか――ジーラが通信機の向こうで笑い声を上げた。
『何言ってんスか。こちとらもう、この世界に来た日から巻き込まれてるんだし、協力させて下さいよ。
ここにお世話になってるんだから、おいらたちにゃ恩を返す義理があるわけッスよねぇ。
キトラもザラクさんも……えぇとあと嶽羅さんも、やる気満々ですぜ――あぁ悪ぃ悪ぃ、睨むなよ飛音。
茜ちゃんたちも一緒ッスよ〜市ヶ谷隊長聞こえる〜？』
「あっ、はい……って、茜さんたちがいるんですか！？」
ジーラが話す通信機の奥で、習志野が「私達もだ！」と“抗議”する声を、市ヶ谷も確かに聞いた。
『自衛隊の化身だから参戦する権利があるだろってさ――あ、ザラクさんが代われって』
『済まない、ザラクだ……龍二から支援要請を受けた、我々もこの基地の防衛に関わりたい。許可を請う！』
武川と黒木は困惑の表情でパドルを見る……パドルは苦笑しつつ、軽く頷いた。
隣で市ヶ谷も覚悟を決めたようである……何しろここは“異世界の本拠地”なのだから。
「どうやら……他に手もなさそうです、主力兵器は出払ってしまっているわけですし」
「私からもお願いします武川司令、決して無茶はしません！」
「……分かった、ご厚意に感謝する」
『よっしゃ将軍の許可が下り――のわぁあぁっ！？』
ジーラが最後まで言う前に轟音が響き渡り――通信はそこで切れた。
そして同時に、福利ターミナルがあるはずの建物から、不吉な黒い煙が立ち上る。
「――なっ、何てことだ、今志願してくれたばかりだというのに！！」
「いや……彼らのことだ、あのくらいで生死を左右されはしないでしょう。
しかし、どうもまとめ役が必要なようですね……自分も現場に行こうかと思います、是非許可を」
「……分かりました、お願いしますパドル大使。 ――そう言えば、本郷殿の姿が見えませんね」
「彼は独断で動く癖があります……あるいはもう、最前線にいるのかも知れません」
そう言って、パドルも司令部を後にする……マークと声を掛け合いながら。
「パドル大使、私は地方の様子を見てこようと思います、東京だけで事態が済んでるとも思えない」
「そうですね、お願いしますマーク殿……そういえば、セイヴン殿は？」
「彼はこういうケースは私よりも敏感でしてね……先に出ていきましたよ」
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そしてまたまた上野駅。
「臨時電車が駅に入ります、女性やお子様、高齢者や体の不自由な方を優先して――」
駅員がそこまで言いかけた時だった。
コンコースのすぐ外で、突然轟音が響き渡った。
レールの先が見える位置にいた人々の顔が――瞬く間に引きつり、絶望の色に染まった。
徐行運転で今まさにホームに入りかけていた臨時電車が、火花を散らして脱線転覆している。
まだ乗客は乗っていないが……これでは避難民を郊外まで運べない。
そして転覆した列車の上に――金属の光沢を放つ物体が、またがるように乗っかっていた。
ディロフォサウルス型小型ゾイドの“ディロフォース”である。
金属の襟巻きをつけた、身長10ｍほどの“恐竜メカ”が数体――列車をオモチャのように解体している。
「そ……そんな……」
「もうダメだ、おしまいだぁあぁぁ！！」
「いやぁ、まだ死にたくない！！」
そんな光景を見た避難民は、一斉に恐慌のようなパニック状態に陥った。
駅員や警察官が制止しようとするが、熱病のような空気に染まった数百人の群集を抑え切れない。
「お、落ち着いてください、押さないで、外は危険です、あぁ線路に下りないで！！」
「バカやろう、お前らアレが見えないのか、もう列車はダメだ、誰が俺たちを助けるんだ！！」
更に追い討ちをかけるように、地下街から別の避難民が悲鳴を上げて飛び出してきた。
そのすぐ背後でアスファルトが裂け、やはり金属の塊が地上に姿を見せる。
地中潜行用ハリモグラ型ゾイド“グランチャー”である。
「助けて、怪獣が地下道から！」
「もう地下鉄にも乗れない、どうしたら良いの！？」
かくして――1,000人を越す避難民が退路を断たれて、上野駅の１階コンコースに追い詰められた。
幾ら駅ビルが頑丈でも、逃げ道のない中で集中砲火を受ければただでは済むまい。
最悪の場合――駅ビルを包囲したゾイドたちによって“虐殺”され兼ねない状況である。
コンコースに逃げ込んだ冬雪たちも、不安に押し潰されそうだった。
「あぁ……電車が壊されちゃったよぉ」
「何てこった……電車もダメ、地下鉄もダメかよ……」
「あいつらどうしてこんなことを……人間たちがそんなに憎いっていうの！？」
「ディスヴェリオンが扇動しているのかも……どうやってかは分からないけど、ここまでやるのは、
人間を敵視してるディスヴェリオンくらいしか考えられないわ」
冬雪たちを守るように立っているアリシェイルが、呟くように言った。
もちろん彼女も……ゾイド軍団を操るバイオゾイドが、人間を敵視していることはまだ知らない。
「人間を憎んでいるやつらがいるんですか？」
「別に人間たちが悪いわけじゃないの、自分たちが１番優れていると思ってるから人間が目障りなのよ」
「排外主義のテロリストみたいなものね……最悪だわ」
「少し東に移動すれば、隊長たちと合流できるかも知れないけど……この避難民全員はさすがに……」
「ねぇ……夏月、秋綺、冬水、春花ちゃん、終里ちゃん、戦う覚悟は出来てる？」
ふと冬雪がそう言った……メガネの奥の目は覚悟に染まっている。
その言葉にはっとした表情を浮かべる“ホーリーメイデンズ”の少女たち。
「出来てるけど……これだけの相手は幾らなんでも……何百人もは守れないわ」
「守るんじゃないよ夏月、陽動するんだ……ボクたちが、やつらを。
アリシェイルさん、でしたっけ……どのくらい移動したら、仲間と合流できるんですか？」
「そうね……ざっと300〜500ｍくらい、かしら……何か案があるのね？」
「陽動――つまり、オレたちが戦いながらそっちに向かえば、やつらを引き付けられるってことか！」
秋綺の言葉に、夏月たちの顔が引き締まる……逆に三四郎や深雪の表情は引きつったが。
「冬雪……さすがに無茶じゃない？」
「でも母さん、このままじゃ全員助からないよ、あいつら多分、待ってくれないと思う。
だったら、少しでも戦えるボクらが、あいつらを引き付けてここから離れるしかないと思うんだ。
倒せなくても、せめてアリシェイルさんの仲間と合流できる場所まで誘導したら……」
「なるほど、見込みはあるわね……それにしても凄いのねキミ、こんな状況でそこまで考えられるなんて」
「どうやら……やるしか――ないみたいね」
「おばさん、すいません……ここにいる人たちが助かるには、多分他に手がないと思います」
覚悟を決める少女たちに、深雪は今日何度目かの、小さな溜息を吐いた。
「……ふぅ。負けたわ、やっぱりあなたたちは“神に選ばれた巫女”なのね」
「三四郎君、母さんを宜しく……後で絶対、もう１度合流するから！」
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金芽台グリーンベルト――の公衆便所。
隠れていた小学生コンビの１人、哲朗がまず脱出に成功した。
「ふうっと……カズヤ、ええで」
次はカズヤの番だ。
カズヤも哲朗と同じくまずバケツに乗って窓枠に手をかけ、そして体を押し上げようとしたその時、
カズヤは思わず――足元の金バケツを蹴ってしまった。
バケツは盛大に床の上を転がって疾走、思い切り壁にぶち当たると、カァーーーーンという、
外にも聞こえるほどの豪快な金属音が響き渡る。
「「……………………（ﾟДﾟ;;;）……………………」」
思わず呼吸が止まり、硬直する２人。
次の瞬間、一筋の青い光線が、公衆便所の小屋を一直線に貫いた。
それはカズヤと哲朗の居る位置から数十センチほど外れた場所に、４〜５センチほどの穴を開けていた。
光線を受けたバケツは原形を留めていない……発射角度が１度違えば、２人の命はここで尽きていただろう。
「「うわわわわわわわわ……！！」」
哲朗は思わず小屋から離れ、カズヤも火事場の馬鹿力かあっという間に体を持ち上げて窓を潜り、
次に屋根の縁に手をかけるとまた体を引き上げて屋根の上に登る。
しかし、本来降りるべき所を間違って屋根の上に登ってしまったカズヤに、それ以上の逃げ場はない。
……いや、登ってどうするねん。
「はぁはぁ……しまった。どうしよう……」
（慌てるな。もうすぐ助けがくるさ）
「何でそんな楽観的なのさ！？」
カズヤがここに来てまだポジティブな内なる一也にツッコミを入れていると、
青いレンズと銃口が光るデスピオンの尻尾がヌッと屋根の上に姿を現す……声が聞こえたのだろう。
そのレンズにカズヤの姿が捉えられ、そして銃身もカズヤへと向けられる。
「ひ……ひっ！」
カズヤは思わず顔を伏せ、目の前の“死”に絶望する。
万事、急す――その時だった。
どこからともなく飛んできた“光る物体”がサソリの尻尾に当たり、その照準が狂わされた。
カズヤが「えっ」と思って顔を上げると、何と公園の街灯の上に、
見覚えのあるピンクの丸いぬいぐるみのような生き物が立っていたのだ。
それは紛れもなく、以前自分の家に入ってきたエイリアンことカービィであった。
さっきの攻撃はカービィが何か適当なものを自分の大きな口で吸い込み、
それを弾丸代わりに高速で吐き出したものだったのである…… この辺だと空き缶かな？
「あれは……か、カービィ……？」
「ポヨーーーーーーーーッ！！」
カービィは街灯から颯爽と飛び降りると、デスピオンの尻尾に取り付き、
ビーチボールほどあるまん丸の体全体で先端のセンサーアイを塞ぐ。
これは戦闘における情報知覚を、尻尾のセンサーアイに頼っているデスピオンにとっては、
目隠しをされたも同然であり、デスピオンはただ闇雲に尻尾を振り回してカービィを振り落とそうとする。
「カズヤ！ 何しとん、はよ降りて来い！！」
下から聞こえた哲朗の声にカズヤが屋根の下を向くと、
そこにはひっくり返した公衆ゴミカゴを置いた哲郎が待っていた。
カズヤはそのゴミカゴの底を足場代わりにして、公衆便所の屋根から降りる事に成功する。
「今の内に逃げるで！！」
「う……うん」
カズヤと哲朗はデスピオンの気が逸れている間に裏の林を抜けて走り出す。
ただ、カズヤは助けてくれたエイリアンの事を気にかけながらも、今はその場を後にせざるを得なかった。
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| （８章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011〜2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
特に大きく修正したのは上野公園のパートであり、旧企画のキャラクターの１部が“白紙化”されたことで、
関係者の枠（戦力）が空いたため、ライカをはめ込み、オートロンのアリシェイルやファルレーンも加えている。
またホーリーメイデンズの“進路”も旧版の“北方”から“東方”に変わっている。
これは本文の通り、早めに彼女らとオーディアンを合流させる意図からだが、
上野駅に追い詰められた避難民から敵性ゾイドの目を逸らすという“自己犠牲プロット”も追加している。
旧版では単に敵から逃げ回るだけだったので、もう少しヒロイズムがあっても良いとの判断である。
（また詳しくは６話以降の展開になるが、このプロット変更の過程で“新たな出遭い”も生まれている）
更にＰＡシリーズに入ってから“参戦”した版権キャラクター群の１つ、陸自娘たちを物語に加えている。
立川基地の危機に対峙する異能戦力は、旧版だと竜王チームとパドルであったが、
せっかく陸自娘が参加したのだから、彼女たちにも関与してもらおうと考えたのだ……陸自基地なのだから。 |
