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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CSGM-GDW1） |
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2066年、太平洋ミッドウェイ海域。
１隻の巨大な艦船が、やや荒れ模様の海上を西へ向けて疾走していた。
艦船の名は“フィラデルフィア”。
かつて地球上（注：ＧＤＷ基準時空）で“最強戦艦”の名を欲しいままにした、“巨大戦艦”である。
2066年の今や退役が近い旧式艦であるが、かつてかなう軍艦は存在しなかった。
全長４３５ｍ、排水量２０万トン以上と空母を凌ぐサイズを持っており、
2020年代に建造された際は「時代遅れの大艦巨砲主義」と散々批判されたものだが、
フィラデルフィアがこれほど巨大な艦艇となったのには、大きな理由があった。
結論から言えば、フィラデルフィアは“オーバーテクノロジー”を搭載した、強大なる移動要塞なのである。
１隻で従来の１個艦隊を丸ごと凌駕するほどの戦闘力があり、
フィラデルフィアにそれが可能だった背景には、世界を裏から牛耳る闇のエリート組織、
“エグゼクター”が大きな影響を及ぼしていたのである。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
アーク基準時空――フィラデルフィア最後の任務
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既に艦船が航空戦力のプラットフォームと化して久しい2020年代に、何故巨大戦艦が建造されたか。
それは他の戦艦にはない、フィラデルフィア独特の構造と運用目的にあった。
フィラデルフィアには、３基の巨大な砲塔がある。
かつて勃発した旧大戦時代の巨艦・大和やアイオワ級の主砲の３倍近い巨砲だ。
実はこれらの主砲、皆長距離攻撃に優れた“特装砲”なのだ。
前部の第１主砲は、高出力の集束レーザーキャノン（４門）。
そのすぐ後方の第２主砲は、超高速の実弾を発射するレール・キャノン（４門）。
後方の第３主砲は、熱線砲プラズマ・ビーム・キャノン（４門）。
側舷４基１２門と主砲の後方、計３０門の副砲も、大和型戦艦の主砲ほどもある大きなものだ。
他にも弾道ミサイル等を多数搭載し、艦後部にはやや小さいながら飛行甲板も設置。
乗員は3,300人に達するが、艦のサイズを考えると少なく（6,000人くらいは楽に乗れる）自動化が進んでいる。
いずれの主砲も長大な射程を誇り、絶大な威力を有する。
例えばフィラデルフィアなら、200海里の排他的経済水域（ＥＥＺ）の外から、
敵国の軍港を狙い撃ちし、焼き尽くすことも可能であった（もっとも、現実には地球の丸みがあるため、この性能は理論値である）
とりわけ「人工衛星を海上から撃ち抜く戦艦砲」と言われた第１主砲のレーザーキャノンは驚異的であり、
アップグレードされた改装型はオービタルバスターの異名で恐れられることになった。
建造当時、この超遠距離爆撃に対抗できる術はいかなる国にもなく、フィラデルフィアを保有した初期の国家アメリカと、
それを中心としたＮＡＴＯなどの国家連合が、世界における軍事的優位を維持するのを助けた。
核兵器にこそ及ばないが、それ以外では最強の火力を有していたのだ。
船体の中ほどには、これまた巨大な四角い構造物がある。
構造物の中には、高度な技術による、常温核融合を実現する特殊な原子炉が３基。
このエンジンは特殊な構造で小型化が難しく、それが巨大戦艦の背景にあった。
しかしこのエンジンから得られるエネルギーは莫大で、
主砲用のエネルギーの他、全長４３５ｍの巨艦を４０ノットで走らせることが出来た。
また余剰エネルギーの１部を、電磁シールドに変換し、敵の兵器を弱体化し、レーダー波を撹乱することも出来た。
この特殊な原子炉と強大な光線兵器を提供した組織こそエグゼクターであり、
そのエグゼクターの後ろ盾には銀河に影響を及ぼす、宇宙人の軍事同盟・タイランタ銀河連邦があった。
つまりフィラデルフィアは、タイランタとの“密約”により、初めて建造が可能だったのである。
だが、就航から４０年が経ち、船体は老朽化が進んでいた。
2040年代に国連が地球連合に改組され、エグゼクターがその実験を握るようになると、
正規軍の整備が加速度的に進められ、その中にはフィラデルフィアを改良した戦艦の計画もあった。
こうしてフィラデルフィアは徐々に最前線から撤退し、2066年の今や、退役を待つばかりとなっていたのである。
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3,300人のクルーは、９９．５％までが地球連合軍の兵士である。
しかし現実には１％に満たない１５人ほどが、艦の運用の実権を握っていた。
そして彼らこそ、地球連合を掌握する裏組織・エグゼクターの工作員であった。
「目標海域まで１日を切ったぞ――準備に抜かりはないな？」
背の高いブリッジ（艦橋）に、銀髪の男が入ってきた。
両腕の先がまるで義手のように機械化されており、目の奥も怪しい機械的な輝きを宿している。
男の名はグローディ――連合海軍中佐の肩書を持つが、実は彼こそ、その“エグゼクターの工作員”の幹部の１人であった。
強化人間“サイロイド”として改造を受けており、素手でゾウすら絞め殺せる怪力の持ち主である。
艦長席に当たる場所には、５０歳代後半くらいの白人男性が腰かけている。
彼の名はロバート・マクスウェル大佐、フィラデルフィアの艦長である。
その“艦長にして大佐”のマクスウェルに対して、グローディの態度はあくまでも威圧的だ。
これは彼が“常人を凌ぐ強化人間”だからというだけではない。
事実上、今回の“ミッション”の副司令官としての権限が、グローディに与えられているからだ。
「問題はない、全て順調ですよ、グローディ中佐」
「中佐か……階級の低い俺がナンバー２にいるのが不満か？」
「……滅相もない」
グローディの機械的な目がじろりとマクスウェルを睨んだ……反射的にマクスウェルは眼を逸らす。
そんなマクスウェルの反応を鼻で笑いながら、グローディは再び視線を大海原へと向けた。
「それにしても……皮肉よな。かつて最強を誇ったこの艦の“最後の任務”が、極東の反乱防止とは」
「最強伝説が――ついに終わることになるのですな」
「時代は移り変わるものさ。また新たなる伝説が始まるだろう――いや、すでに始まっているな。
このフィラデルフィアの能力を受け継ぐ“息子たち”が、何隻も完成しているのだから」
そんなブリッジに、今また３つの新たな人影が入室してきた。
紫がかった長髪と長身を持ち、不気味かつ意味深な薄笑いを浮かべた男。
最初の男よりは背が低いが、グローディに勝るとも劣らない長身と長髪の男。
全身に岩のような筋肉が盛り上がる、セピア色の皮膚を持つ大男。
３名とも常人とはどこか違う容姿を持っている……とりわけ筋肉男は身長２．５ｍ以上はあろうかという巨体だ。
実はこの３名もエグゼクターの工作組織“ＺＯＡ”の工作員だ。
紫がかった髪を持つ男が、リーダー格のジェノク。
彼は工作員たちのリーダー格というだけでなく、大佐の階級を有し、今回の作戦の司令官でもある。
その後に続く長身の男はザキラ、筋肉男はゴラスと呼ばれていた。
ジェノクとザキラも、異生物の遺伝子を組み込まれた強化人間キメラノイドである。
「様子はどうだ？」
「異常ありません隊長……全て順調です」
「……ジロジロ見てんじゃねぇよ、任務に集中するのが軍人だろうが？」
視線を感じたゴラスは、ブリッジにいる連合軍の将校たちを睨みつけた。
ジェノクはそんなゴラスを横目に見ながら、とある人物に向かって歩いて行った。
艦長のマクスウェルではない……アジア系の将校だ。
副艦長に当たるアルバート・ミフネ少佐である……姓からわかるように、彼は日系人だ。
ジェノクに不意に隣に立たれたミフネは１瞬、おびえるような表情を見せた。
「……まだ気にしているのか？ 今回のミッションを……まぁ、無理もないがな」
「…………」
「民族意識は捨てろミフネ少佐……世界を恒久的に統治するには強権が必要なのだ。
それを理解できぬ者には、“粛清”を加えなければならぬ」
ミフネは黙っている。
ジェノクの主張が非情なためではない。
主張以上に非情な行為を、ジェノクはこの艦においてすでに実行していたからだ。
この時代――アジアは地球連合＝エグゼクターの最大の抵抗勢力として、厳重な監視体制に置かれていた。
地球連合の強権主義的な世界支配に対する抵抗活動の急先鋒が、
日本中部その他アジア・アフリカ各地に拠点を持つ地下組織“アクエリアス”だった。
2050年代、急ぎ正規軍を整備した地球連合政府は、軍をアジアに派遣して監視を強化した。
もっとも――アクエリアスの活動は……テロなどの恐怖的破壊工作を伴うものではなかったのだが。
地球連合の不当な圧力を受けても、アクエリアスに感化されたアジアの抵抗活動は衰えなかった。
なぜなら、アクエリアスの背後には“秩序防衛騎士団”ディガスがいたからだ。
タイランタ連邦がエグゼクターを支援していることを知ったディガスは大使をアーク（地球）に派遣し、
連邦の目的がアークにある“錬金術の種”オメガリクスであると知ってからは、その妨害も行っていた。
アクエリアスはそんなディガス大使の対連邦工作活動に影響された、地球人たちの組織だった。
強権主義にして選民思想を持つエグゼクターの実態が明らかになってからは、
世界各地からアクエリアスの協力者が現われ、支援が拡大していった。
当然のことながら、エグゼクターがこの展開を見過ごすはずがない。
地球連合が誕生する前から、エグゼクターとアクエリアスはしばしば衝突を繰り返してきた。
しかしディガスの後ろ盾を持つアクエリアスはしぶとかった。
地球連合を裏から掌握したエグゼクターが、急遽アジアの監視を強化させたのも、
アクエリアスの抵抗活動を封じるためであったことは言うまでもない。
アジアの抵抗活動は最終的に独自の同盟勢力、アジア連合として集約される。
エグゼクターは連合軍を仕掛けて掃討作戦を行い、その１部は極東戦役のような紛争に発展した。
今回のフィラデルフィアの派遣もまた、そうした“アジア封鎖作戦”の一環であった。
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そんなフィラデルフィアの第４デッキ。
巨大な副砲の裏側の通路を、２人組の連合兵士が歩いていた。
１人は哨戒機のパイロットであるレックス・ルイス中尉。
もう１人はレックス中尉の同僚である、スティーブ・ケネディ中尉。
「はぁ……」
ややうねりのある海を遠く眺めながら、スティーブがため息をつく。
「まだ気に入らないのか？ いい加減気持ちを切り替えろよスティーブ」
「だってよぉレックス、中尉に昇格したと思ったらこのミッションだぜ……よりによって、こんな旧式艦でアジアに行けなんて……」
スティーブが気に入らないのは、上官たちが自分たちの力量を軽んじているように見えたからだ。
「あの無敵戦艦フィラデルフィアのクルーだぞ、名誉なことじゃないか」
「俺は戦闘機のパイロットになりたかったんだぞ、戦艦の雑用係じゃない！」
「雑用係って…哨戒機パイロットの交代要員じゃないか」
「レギュラーのお前には分からねぇよ、花道に憧れた男が裏方を命じられたときの思いは……
あんなにアピールしたのに……結局混血じゃ相手にしてくれねぇんだ（Ｔ_Ｔ）」
「おぃ……大きな声で言うなよ……“アイツら”に聞こえたら何されるか……
第一連合軍が、そんな差別的な人選をするものか……ミフネ少佐を見れば分かるだろ」
恨み節を唱えるようにぼやき続けるスティーブ、レックスはひたすらなだめ続ける。
そんな会話を続けながら、いつしかとある区画まで、レックスたちは来ていた。
元から行くべきだった部屋につながる階段を越えてしまったらしい。
レックスが引き返そうと踵を返した時――ふと、スティーブがつぶやいた。
「そう言や……お前知ってるか？ココに何がいるのか」
「何って？……この営倉にか？」
「あぁ……ウワサによるとだな、怪物らしいぞ」
「……はぁ？」
予想もしていなかったスティーブの言葉に、レックスは目を丸くした。
スティーブが指さしたのは、違反者などを隔離する、鉄格子付きの営倉。
「食事係の兵士に聞いたんだ、中に銀色のウロコに覆われたバケモノがいるって」
「まさか……第一何でまた、そんなヤツが戦艦に乗ってるんだよ」
「“アイツら”のペットじゃねぇの？」
「おぃおぃ……いくらなんでも……」
スティーブやレックスが言う“アイツら”とは、船を管理するエグゼクター要員のことだ。
人間離れした得体の知れないメンバーが部隊を指揮すると聞いて、当初は艦内で反発の声もあった。
そんな空気を、ジェノクたちは独自の支配哲学を持ちだして黙らせたのである。
もちろん――言葉だけでなく、物理的な方法を交えて。
「……な、興味沸かねぇ？」
「別に……って、何だよ、そのニヤケ顔は（-_-;）……ヘタなコト考えるなよスティーブ、
“アイツら”の“粛清”見ただろ？ マジで殺されるぜ」
“生贄”になった兵士は半殺しも同然に痛めつけられ、事実上戦力としての価値を失った。
ジェノク達の言う“統治を乱す者への粛清”が冷酷極まりないことを、もちろんレックスは知っていた。
その時、通路の奥から“ゴラス級”の巨大な人影が現われた。
その姿は、正に直立歩行をするゴリラだ。
この“ゴリラ男”ゴアも、エグゼクター工作部隊ＺＯＡの隊員である。
レックスとスティーブは、彼らを睨むゴアから目を逸らすように、足早にデッキを駆け上がっていった。
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……その日の夜。
営倉の入口に、２人の人影があった。
レックスとスティーブだ。
「おい……やっぱやめようぜスティーブ……絶対ヤバいって」
「嫌なら戻っていいんだぜ……俺は行くからな」
「騒がれたらどうするんだよ……こんなのハッキリ言って自殺行為だぞ」
「俺は戦士だ、死ぬことなんか恐くねぇよ……あんなつまらねぇ任務よりずっと面白いしな」
「投げやりになるなよ……第一、そのバケモノを見てどうするんだ？」
「何言ってんだよ、今のこのスリルが面白いんじゃねぇか♪」
今回の任務への不満のせいか、ヤケクソ気味なスティーブの無謀さに、レックスは気が気でない。
こんなところを“アイツら”に見つかったら、それこそ只では済まないはずだからだ。
しかし同時に――それとは違う奇妙な不安感がレックスに付きまとっていた。
いくらなんでも警備が緩過ぎる……あのゴリラ男＝ゴアの姿も見ない。
（まさか…俺たちを見せしめの粛清のネタにしようとしてるのか？）
しかしスティーブは、そんなレックスの心配をヨソに、営倉につながる扉を開けた。
扉の中には、また狭く暗い廊下がある……そしてその廊下の突き当たりに、更に別の鉄格子のようなものがある。
スティーブはその“鉄格子”を覗き込むと同時に――息を呑んだ。
そして、こわばった顔で、後ろから付いて来たレックスに、無言で中を指差す。
そのスティーブの反応を見て、レックスは警戒しながら“鉄格子”の中を覗いた。
そして、そこにいる“怪物”を見た。
そしてそれは、正しく“怪物”であった。
身長は２ｍ余り。
やや赤みがかったメタリックなウロコに全身が覆われ、頭部からは３本の角が突き出ている。
体形は人間に似ているが、顔はむしろ恐竜に近く、脚の形も獣っぽい。
正しく“ウロコ獣人”としか言いようがない姿だ。
しかも――２人が驚きながら見つめていると、その“怪物”はゆっくりと目を開けたのである。
「（しまった…！！）」
「（バカ、だからあれほどよそうって言ったのに…！）」
２人が“怪物”の目覚めに狼狽していると、“怪物”は口を開き、こう言った。
「――何の用だ、人間よ……」
２人は同時に目を丸くした。
“怪物”が喋るなどとは、考えもしなかったからだ。
しかし次の瞬間、更に驚くべき展開が起きた――レックスがその“怪物”に話しかけたのである。
「……いや……あの……その……」
「……あんた、何者だ？」
「（……って、おいバカ、何話しかけてんだよ！？）」
「……嶽羅」
「……ガクラ……あ、俺はレックス、レックス・ルイスだ」
「（どーしちまったんだよレックス……何言ってるか分かってんのか！？）」
自分でも何故だかは分からなかったが、レックスは嶽羅と名乗るその“獣人”に、危険性を感じなかったのである。
逆にさっきまで無謀なまでに積極的だった、スティーブがオロオロしている。
そんな２人を眺めていた“獣人”嶽羅が、また口を開いた。
「……面白い人間だ……俺が恐くないのか？」
「そうみたいだ……理由は分からないけど、あんた悪い人に見えなくてさ」
「レ、レックスぅ〜〜〜（;;ＴｏＴ;;）」
「……あんたも、アイツらの仲間なのか？」
レックスの質問を聞くと、嶽羅は急に２人を睨み付けた。
「……あんな人間でも獣でもない連中と一緒にするな……俺は嶽羅……“朱雀族”の嶽羅だ！」
「ひいぃぃぃ〜〜〜！！」
「……朱雀族！？」
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「――“ギガンサウロイド種”さ」
レックスの疑問に答えたのは、嶽羅ではなかった。
何時の間にか、営倉の入口に男が立っていた。
暗くて良くわからないが、初老といった雰囲気の男である。
「ひっ、ひゃあぁぁ――モゴゴモゴ」
「シーッ！静かに……俺は敵じゃない……頼む、大きな声を出さないでくれ」
「……お前、連合軍の人間じゃないな！？……どこから入った？」
「君も大きな声を出すなよ……本来はここにいちゃマズいんだろ？」
「うっ……それは……」
返す言葉がない２人を横目に、初老風の男は嶽羅の方へ歩いていった。
「ようやく見つけたぞ……ギガンサウロイドの嶽羅」
「……お前は？」
「おっと失礼……俺の名は龍二……高山龍二だ」
「リュウジ……お前日本人か……さては、アクエリアス！？」
高山龍二の名を聞いたレックスは身構える。
こんな所にアジア人が忍び込んでいるとしたら、１番考え付くのはアクエリアスだったからだ。
それを見た龍二は、特に狼狽も見せずに小さく笑った。
「ほぅ……中々いい勘をしてるな君……スカウトしたいくらいだ」
「では、やはりアクエリアス……！！」
「えっ、えっ？……アクエリアスって、あのテロ集団！？」
「それは聞き捨てならないな……アクエリアスはテロリストなんかじゃないぞ」
「黙れ！反体制組織に違いはないだろう……せっかくの地球統一の機会を無にしようとするなんて……
お前たちの破壊活動は秩序を乱す危険な行為だ！」
レックスの反論を聞いた龍二は皮肉めいた笑みを浮かべた……目は悲しげにも見えるが。
「連合政府の非難声明そのまんまだねぇ……じゃあ聞くが、君はどうなんだ？」
「……何が言いたい！？」
「だから……アクエリアスが無差別テロを行ってるとか言う、政府発表を本当に信じてるのかい？
第一、俺たちがやったという証拠があるのか？」
「……テロリストはみんなそう言うんだ……革命のためとか言って……」
「おいおい……さっきの勘はどうしたんだよ…そういう話をしてるんじゃないだろ？
俺たちアクエリアスが、無差別テロをしている証拠があるかと聞いてるんだぞ？」
「……俺たちは……捜査情報に接する立場にない」
「……じゃ、俺たちを批判できる根拠はないワケだよなぁ」
「俺たちは地球連合軍の兵士だ……アクエリアスは地球連合の敵だ……
それに疑問を呈したら、連合軍兵士失格なんだよ！」
レックスの言い分も正しい。
任務の最中に任務やその意義に疑問を感じるのは、軍人としては望ましくないからだ。
レックスの強い意志を感じ取った龍二は苦笑した。
「――ふぅ……マジメだな君は……まぁ、いいさ。どうせ通報できはしない」
「くっ……」
「でも……アクエリアスの戦士ってカッコいいよな……ウワサだけど」
「バカか、お前……テロリストに感化されてどうするんだ！」
「だけどさぁ……どうよレックス、俺たちの部隊はあんな連中に掌握されてるんだぜ、そっちは良いのか？」
「はっ……そう言えば、見張りしていたアイツは……」
「あぁ、あのゴリラ男なら、ちょっと眠ってもらってるよ」
その声と共に、牢の入口からまた人影が入ってきた。
身長は龍二をはるかに超え、優に２ｍ以上ある……いや、嶽羅より大きいかも知れない。
牢の外のほのかな灯りが、人影の頭頂部に４本の角を照らし出した。
「ひぃぃ！？」
「……俺の仲間だ、襲ったりはせんよ」
「……同族か！？」
「ご名答…“ヴァサラ族”のザラクだ。宜しくな♪」
ザラクと名乗った男も、全身を褐色のウロコに覆われた“獣人”だった。
ザラクは“鉄格子”に近づき、つぶやいた。
「……ひでぇことしやがる……散々いたぶった果てに、こんなところに閉じ込めるとは」
「いたぶった！？」
「この嶽羅は、“ＺＯＡ”のサイバー部隊の練習台として、強化されたんだよ」
「おい……なんでそんなこと知ってんだよ」
「ＺＯＡの幹部達に“心”はないからね……考えられる限りの残酷なことができるのさ」
牢の入口の外から、若者らしき声が聞こえた。
レックスが覗くと、長髪のやや小柄な青年が外にいた。
「……３人で潜入しているのか」
「まだいるさ……隠れているだけだ、全員集まったら作戦にならん」
「作戦？」
「そうだな……さしずめ“嶽羅救出作戦”とでも言うべきかな？」
「俺たちに暴露してもいいのか？ 後悔することに……」
「ならんよ、君達も規則違反してるんだから」
「ぐ……」
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嶽羅を幽閉した営倉が、湧いて出てきたような異邦人達で賑わっている頃。
ＺＯＡ部隊長のジェノクは、妙な予感に襲われていた。
予感の１つは、営倉にいる“宿敵”の気配を察しつつあったものだが、
“別の妙な予感”が混じっていたこともあって、それが結果的に行動の遅れにつながった。
「……ゴアはどうした？」
ブリッジと同じ階にある、会議室のような小部屋にて。
ジェノクの周りには、ＺＯＡ工作部隊のメンバーが集結していた。
先述したグローディやザキラ、ゴラス以外にも約１０人。
皮膚の色が違う者、狼や鷲に似た顔つきの“獣人兵”などがいた。
だが、１人足りない……“ゴリラ男”ゴアだ。
「あのバカが……相変わらず時間にルーズなヤツだ、来たら焼きを入れねば……」
「寝てるんじゃないか？ククク……」
ザキラの何気ない言葉に、グローディとジェノクが鋭く反応した。
「まさか……！！」
「誰か営倉に行け！ゴアを叩き起こして来い！！」
だが次の瞬間――フィラデルフィア船体に強い衝撃が走った。
「ぬぉっ…！？」
「何事だ！……座礁したのか！？」
隣のブリッジでも、マクスウェルたちが今まさに緊迫していた。
「ミフネ少佐！！」
「あり得ません……海図にそんな地形はない……！」
「まさか、“爆弾低気圧”か？……しかし回避したんじゃなかったのか？」
「気象情報が正しければ、迂回しているはずですが……」
強い衝撃は、なおもフィラデルフィアを襲う。
その時、狼型獣人のＺＯＡ兵“ログ”が、狼狽した声で叫んだ。
「隊長……空が……空が変だ！！」
ログの声で艦橋の横のテラスに飛び出したジェノクらは、異変の正体らしき“現象”を見た。
それは見たこともない“嵐”だった。
不気味に変色した雲の塊が凄まじい速度で流れ、激しい雷電が荒れ狂っていた。
「……これは……！！」
「おいおい……何なんだよ一体……！」
「総員、艦内に退避！これより電磁シールドを展開する！！」
「激しい電磁流が……非常に危険です……後退すべきでは？」
「くそ……隊長！！」
怒号を交わすゴラスたちの中で、しかしジェノクは目を細めて荒れ狂う空を見上げている。
「いや……もう遅い……」
混乱は、フィラデルフィア艦内の全体で起きていた。
兵士達は突然の衝撃に叩き起こされ、翻弄されてパニックに陥っていた。
もちろん、営倉にいたレックスたちや龍二たちも同じだった。
『総員、艦内に退避――ザザ――電磁シールドを――』
「！！……何だこの衝撃は！？」
「ひゃ……ひゃあぁぁぁぁ！！」
「……この感覚……まさか……！！」
「くそ……こんな時に……」
次の瞬間、ひときわ強い閃光と衝撃が、フィラデルフィアを襲った。
そして、その閃光が収まった時……既にフィラデルフィアの姿は海上になかった。
消え去った巨大戦艦と、3,300人の乗員達の運命やいかに――
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| （第４章１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2007年頃に草稿を作成したエピソード。
当時はまだ旧ＯＷ企画であったが、ＰＡ期に入っても基本的なシナリオは変わっていない。
GDW世界観の基準時空における地球で起きた異変で、“次元融合世界”にキャラが召喚される物語である。
事実上、GDW世界観の“１次創作組”が物語に参加するきっかけになっている。
（草稿は2007年であるが、2010年に細部を改修し体裁を変えている）
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