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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E113） |
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昼休みが終わりつつある、私立朝陽学園の中庭に、少女たちの集団が出来ている。
翔子や眞希、瞳や春海らの姿が見て取れる……いわゆる“メドゥアス事件被災組”だ。
「何だか嫌な予感がする……みんな大丈夫かな？」
「先輩もですか？ 実はあたしもなんですよ……心配し過ぎるのも良くないと思いますけど」
少女たちはいずれも不安げな表情を浮かべている。
実は朝陽市中心部で“続発”している、幾つかの“事件”の予感を彼女たちは感じ取っていた。
いわゆる“キャリア”である翔子たちは、メタロイドの“心の声”を聞き取ることが出来る。
人間をはるかに超えた能力を持つパドルやライカほどに敏感ではないが、
ルイら“鉱物娘”たちの意思を読み取れる能力上、その感情の機微にも敏感なのだ。
“事件”が起きた場所は限られているものの、コナやアンジーがその“最前線”で被災しており、
その衝撃や動揺の感情が、翔子たちにも漠然とした不安として伝わっていた。
また代替バスで通学する途中、自衛隊のトラックが何台も市内に向かっているのも見ている。
その時点ではまだ事件は起きていなかったが、少女たちの不安を掻き立てるには十分だっただろう。
「あいつら、まだ近くをうろついてるかも、ってお巡りさんたち言ってたよね」
「うわぁヤだなぁ、あんなギンギラギンに攻め込まれたら、あたしどうすることも出来ないよ」
「大丈夫よ、わざわざ英子の家にお邪魔するほど、あいつらも暇じゃないって」
眞希たちが「あいつら」と言っているのはもちろん、秘密結社メドゥアスのことだ。
彼女たちもこの秘密結社が弱体化したことは知っているが、同時に壊滅していないことも知っていた。
ついでに英子が言った「ギンギラギン」はメドゥアス工作員のロイザーを指している。
駅前テロ事件時、彼女が初めて遭遇したメドゥアスの刺客が、この冷酷な金属の戦闘員だった。
瞳をクリスタル風の石像に変え、キャリアの能力を持たせるきっかけになったのもこの男である。
それを思い出したか、瞳は眉間にしわを寄せた。
「……あいつも、まだどこかで生きてるんだろうね……ヤだなぁ」
翔子や瞳の目の光彩は、普通の人よりも灰色がかっている……彼女たちがキャリアである証だ。
金色の光彩を持つ春海ほど常人離れしていないから、カラーコンタクトは着けていなかったのだが。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１１章 純化主義対共生主義 ★
第３話 メタロード対メタキャリア・後編
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そして“事件現場”の１つ、駅前に近い前線対策本部。
その目と鼻の先の路上で、英子と瞳にウワサされた当のロイザーが、三度アイガーと激突していた。
クリスタが装備するものよりも数十センチほど長い、槍状のサイバーナイフが空を切る。
「けっ、相も変わらず大振りだなロイザー、それで俺と決着をつける気かよ？」
「減らず口は、俺の間合いに入ってから言え！」
センターでの奇襲作戦では、狭い間取りに苦戦したロイザーのサイバーナイフだが、
大通りに面したこの“戦場”では遠慮する必要はない……アイガーも回避の余裕は十分あるものの、
その１方でロイザーの長いリーチの内側に入り込めないのも確かだ。
おまけに先ほどタイタンとの森林内の戦闘で、サイバーナイフの１本を失ったのも結構痛い。
「貴様はでかい図体の癖に、ちょろちょろ動く……まったくハエやアブのようだ」
「ほーそうかい、それじゃでっかいハエ叩きでも持ってきたらどーだよ。
そんなくだらねぇ因縁ばっかりつけてるから、俺より上のナンバーに上がれなかったんだろ？」
「貴様に因縁付けで文句を言われる筋合いはない！」
メドゥアス時代、アイガーのナンバーは１３で、ロイザーは１８だった。
このナンバリングは、組織内での序列を表していた……つまり“成果”を出せば昇進出来たのである。
ホルスの“自爆”の道連れになったアリエルが、「次期幹部」にこだわっていたのもそのためだ。
そしてロイザーがアイガーをライバル視するのも、そのナンバリングゆえだった。
格闘能力に優れ、敵の挑発に長けるアイガーの背中を、ロイザーはずっと追ってきたのである。
「もはやナンバーに意味などない……俺は“進化”したんだ！」
「それじゃあさっさと、その進化の証拠を見せろよ！」
「言われるまでもないわ！！」
そう言いながら、ロイザーは長いサイバーナイフを道路に突き立て、半ば強引に体を捻る。
ゴリッ、という音を立ててアスファルトが抉り取られ、ロイザーはそれをアイガーに蹴り付けた。
それと同時に、何かを高く放り投げる――アイガーは一瞬躊躇したが、まずは路面の破片に向き直り、
２本揃った方のサイバーナイフで斬り捨てる――直後だった。
――ドォン！！
アイガーの背後で爆発が起こり、爆風を受けたアイガーが前のめりに投げ出される。
ロイザーが放り投げたのは、ライターサイズの小さな手榴弾だったのだ。
メタロードのアイガーを傷つけるほどの威力はないが、体勢を狂わせる程度のことは出来る。
相手がメタロイドでなければ、殺傷することも十分可能だった。
「何だ――これは！？」
「教える必要はない……貴様はここで、串刺しになるんだからな！」
そう言った直後、ロイザーの槍状サイバーナイフが、ずぶりとアイガーの脇腹を貫通した。
アイガーは体を捻って交わそうとしたが、今度は間に合わなかったらしい。
「ぐぅっ――姑息な手を……だが、俺に心臓はねぇぞ！」
「それも承知の上だ……ならば、再生できなくなるまで、細切れにするまで――」
ロイザーが冷酷な笑みを浮かべて、そう言った時である。
――ズン。
同じような鈍い音がもう１つ響いた……刹那、ロイザーの顔が引きつる。
「っが……何、だと……？」
ロイザーの胴体を、２本の金色の刃が貫通していた……アイガーのサイバーナイフの色である。
そしてその刃は、アイガーの胴体から突き出していた。
普段は使わない“暗器サイバーナイフ”である……パドル戦で１度、使ったことがあるが。
そしてこの装備は、アリエルとロイザーには搭載されていなかった。
「ぬぐ――貴様……そんな、ところにも……！」
「応よ……“試作型”舐めんなよ、さぁどっちが先に抜けるか、試そうぜ？」
言いながら、両手のサイバーナイフを光らせるアイガー……相打ちも覚悟の上だったらしい。
だが片方のナイフをアイガーに突き立てているロイザーと違い、こちらは両手ともまだフリーである。
これほどの至近だと勢いも死ぬので、一瞬で相手を貫くことは出来ないが、手数は全く違う。
ロイザーの青メタルの顔が、苦渋に歪んだ。
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そしてこちらは秘密の地下道からの襲撃を受けた朝陽市警察署。
紫色の“強化セラミック”の体を持つ、クリスタとアンジーが睨み合っている。
クリスタが連れて来た銀色の部下は、キャリアの機動隊員と揉み合い、ほぼ動きを封じられていた。
縛り上げられるまでには至っていないが、機動隊員がいる限りは、防衛線突破は難しそうだ。
クリスタが装備している槍状のサイバーナイフが問題であったが、
アンジーの体を構成するセラミック結晶は、その斬撃に耐えられることが先ほど判明している。
クリスタにも同じことが言えるわけだが、少なくともサイバーナイフは今や、切り札ではなくなった。
「おのれ……裏切り者めが……」
「いつ裏切ったのよ、あんたらが勝手にこんな体にしたんでしょ、バカ言わないでよね！」
確かにクリスタが言うように、最初は彼女たちも、メドゥアスの“手駒”であった。
自意識を封じられた状態で戦闘プログラムを上書きされ、実質的な操り人形としてであったが。
だがそのプログラムはパドルの“霊力バースト”で無効化されたのである。
金属怪人と鉱物娘が対峙する地下室の上――警察署の１階からざわめきが聞こえてくる。
アンジーが異変に気付いて“通報”してから、３０分近くが経っている。
メタロイドの刺客に対応するための準備が、着々と整えられつつあるのだろう。
予期せぬ奇襲なら大変な事態になっただろうが、今はそうではなくなった。
大型拳銃とサイバーナイフを装備し、銃弾が効かない相手は厄介だが、全く無力なわけでもない。
前線対策本部にいる機動隊長の前畑を始め、この１ヶ月ほどの間、対策を練ってきたのだ。
サイバーナイフが全ての物質を切り裂くわけではなく、勢いがなければ相応の時間を稼げること、
銃弾が直接的な抑止力にならずとも、衝撃で踏み止まらせることが可能であること、
そしてＥＭＰガンなどを用いた“電撃”は、クリスタのような“改良型”以外には十分通用すること。
例えば警察署の狭い廊下を使い、防弾盾などを重ねれば、強行突破は難しくなるはずだった。
駅前テロ事件で少女たちが図書ラックをロイザーに投げ落とした時のように、
金属製の大きなラックや書類ボックスを、バリケード代わりに使う手もあるだろう。
何よりもクリスタ自身、警察がそういう手を使うことを想定していたから、奇襲攻撃に出たのである。
かつて末留を操ったような憑依能力によって、警察署員を乗っ取るという手も考えていたが、
それも“内部事情”を知るアンジーのような存在に感付かれては意味がない。
「貴様が余計なことをしなければ……奇襲は成功していたのだ」
「お生憎様だったわね、あたしの勘が鋭くて！」
「この礼は必ず返すぞ……アグネムは必ずや返してもらう！」
言うやクリスタは、再び電撃を放った――今度は指先ではなく、全身の結晶体が光を放つ。
衝撃を受けた機動隊員は、思わず手を離した。
その隙に２人の刺客は機動隊員から離れて、素早く距離を取る。
この全方位電撃の中で、味方を巻き添えにしない程度には、ベクトルをコントロール出来るらしい。
なるほど、“最新型”だと自慢するわけである。
「来いお前たち、作戦変更だ！」
ビリビリとした電撃嵐の中で、しかしアンジーは前に進もうとする。
強化セラミックの体は絶縁体にもなっている……さっきは思わず怯んだが、同じ手は食わない。
「今度は何する気よ！？」
「喜べ実験体、今回は退いてやる、だが次は２倍になって返って来ると思え！」
クリスタと２名の工作員はそのまま、地下道に向かって駆けて行く。
機動隊員はよろめきながらもそれを追おうとするが、クリスタは退路に小さな物体を投げ落とした。
それは対策本部での事件で、ロイザーがアイガーに向かって投げたものと同じ形をしている。
（くっ……今、何かを落としたぞ！？）
やはり――直後に爆発が起こり、その衝撃で地下道の天井がガラガラと崩れ落ちてきた。
（うわぁっ……くそっ、あれは爆弾だったのか！？）
まだ電撃から回復し切っていないことが幸いし、機動隊員たちは生き埋めの危機を回避したが、
地下道は崩れ落ち、クリスタたちの逃亡を阻止することは出来なかった。
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そしてこちらは朝陽中央駅の北側にある、丘陵部の森林地帯。
“石化ベルト”を形成する“制御装置”の１つを守るように、青白い肌の不気味な男が立っている。
秘密結社メドゥアスの創始者である、“魔界の科学者”メドゥアス・ゼロだ。
そして彼の前にはパドルが立っている……石化波動から身を守るため、全身をオーラで防護し、
その能力を発揮するため、“宇宙人”としての本来の姿を開放している。
この状態のパドルは、メドゥアス最強の試作兵器、メタドッグを１撃で倒せるほど強大であるが、
異界の科学者であるゼロはその能力を分析し、戦術で互角に持ち込む実力があった。
「そこをどいちゃくれんかな……もう２個は解体してるんだ、２個も３個も大して変わらんだろ？」
「我々の偉大な発明品を、消耗品のように言わんでもらいたいね……貴公には理解できまいが、
世界の秩序を書き換えられるこの装置は、我々の長年の努力の結晶なのだよ」
「基地に置いてた中枢装置はガラクタになったろうがよ……子機を守るのに随分必死じゃねぇか」
「最終計画はまだ終わっておらぬのだ……子機だけでも効果を維持することは証明できた。
これからはこの状態を、どこまで維持し続けられるかが焦点なのだ」
そう言って、ゼロは両手を軽く上げた……同時に地面に散らばる石の小片が何百も浮き上がる。
「同じ手が、俺に通じると思っているのか？」
「同じ手だと思っているなら……今のうちに修正しておくことだ」
ゼロがそう言った次の瞬間、無数の石の小片の先端に、エメラルドグリーンの波紋が広がった。
そしてパドルが反応するよりも早く、そのオーラの壁に向かって飛び込んできたのだ。
「そう、来たか――！」
エメラルドグリーンの波紋は、空間の壁を突破できる効果を示唆する、ゼロの術式の反映である。
先ほどパドルの熱線を吸収した上で、反対側に転送したのとメカニズムは互換する。
パドルは咄嗟にオーラの壁に“厚み”を加えたが、ゼロはそれも読んでいた。
「そう来ることも――予測の上さ！」
すぐさまエメラルドグリーンの波紋に、複数の層が重ねられる。
そして“多層術式”の効果をまとった小片は、次々とオーラの壁を突破し、パドルの本体を襲った。
“宇宙人”の能力を開放したパドルは肉体も頑丈だ……すぐにその体が破壊されることはないが、
何十、何百と“飽和攻撃”が繰り返されることで、表皮に刻まれる赤い傷が広がっていく。
要は“雨垂れ石をも穿つ”ということだ。
（ぱ……パドル殿っ！？）
パドルの“負傷”を見た機動隊員が、思わず駆け寄ろうとするが。
「おぉっと……お前らの相手は、この俺だぜぇ？」
キャリアの“変身能力”開放したメタリックな機動隊員の前に、ネメシスが割って入った。
２人の機動隊員は、咄嗟に手にしたＥＭＰガンを構え直す。
（くっ、そこをどけ！）
「やめとけよ、お前らが手に負えるような戦いじゃねぇぜ……まぁ、俺もだがな」
そう言いながら、ネメシスは機動隊員にドリル状になった中指を立てて挑発する。
かつてホルスと交戦した際に、コンクリートの壁に易々と穴を開けたあの凶器の指である。
「メタリック同士、仲良く殺り合おうじゃねぇか……ところでその武器、元々はうちのもんだよな。
俺たちメドゥアスが、その対策を練っていないと思ったか？」
（我々にハッタリは通用しないぞ！）
「ハッタリかどうか、試してみれば済むことだ……メタロイドだって“進化”するんだぜ！」
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再び対策本部前。
メドゥアス襲撃者のナンバー３（序列も３位だ）、タイタンが苦虫を噛み潰すような表情をしている。
「……貴様が、それだけ自己犠牲精神に富むとは思わなかったよ」
タイタンが首を傾けて見ているのはアイガーだ。
その全身は切り傷だらけだが、まだ五体の原形は留めている……センター戦でのホルスに似ている。
そしてアイガーの足元には、力尽きたロイザーが倒れていた。
アイガーよりも酷く切り刻まれ、片腕は根元から切り落とされており、顔面はズタズタになっている。
まだひくひくと痙攣するが、事実上戦闘不能と言って良いだろう。
「誰かさんの影響でね……だが、こんな気分も悪くねぇぜ、あんたも味わってみろよ」
「最期が近いならそれも悪くないが、残念ながら今はその時ではないのでねぇ」
そう言いながら、タイタンはゆらりと満身創痍のアイガーに向き直る。
「貴重な戦力を奪ってくれた礼をせねばなるまい」
「そう来ると思ってたぜ……けどよ、あっちの相手は良いのかい？」
「人間どもの軍隊など、私の敵ではない……連中の弾幕戦は中々のものだったが、所詮は余興だ」
薄笑いを浮かべるタイタンの服には、幾つもの大きな弾痕が開いている。
ロイザーがアイガーと戦闘している間、タイタンは警官隊や自衛隊の相手をしていたが、
激しい銃撃を浴び、サイバーナイフを彼らの喉笛に突き立てるところまでは行けていなかった。
重量級ゆえに余り素早く動けないのが仇だったが……その１方でタイタンもダメージは皆無だった。
着ている服こそ穴だらけになったが、本体には軽い凹みがある程度だったのである。
「どうやら……あっちも“時間稼ぎ”だったようだがなぁ」
「……何だと？」
アイガーの言葉に、タイタンは背後の“気配”が微妙に変わったことに気付いて振り向いた。
すると自衛隊の１部隊が、円筒形のミキサー車のようなものをゴロゴロと転がしてくる。
タイタンから５ｍほどの位置まで持ってくると、隊員はその機器から離れ、コードを長く伸ばした。
「ふん、何の悪あがきを……む、まさか！？」
タイタンが“敵”の作戦を察したのと、隊員の１人がスイッチのようなものを押すのが同時だった。
ブウン、という鈍い電子音を立てて、円筒形の機器が火花を上げて震える。
その瞬間、猛烈な横方向の“引力”を、タイタンは感じることになった。
「ぬぅっ……これはまさか、電磁石！？」
「考えたもんだぜ……確かに大型の電磁石だったら、金属怪人はひとたまりもねぇよなぁ」
「くっ……舐めるな人間ども、これしきの引力、このタイタンに耐えられぬとでも思ったか！」
唸りを上げる電磁石に、ズルズルと引き寄せられてはいるが、タイタンは渾身の力で踏ん張っている。
その抵抗に、ＥＭＰガンを構えた前畑は唖然とした表情を浮かべた。
「マジかよ……トラックも動けなくなる磁力だぞ、これが執念ってやつか」
「さぁ勝負だ、このタイタンが力尽きるか、その鉄クズが壊れるか、どっちが先かな――！？」
その時、踏ん張っているタイタンの顔面と胴体に、ガラガラと何かの塊がぶつかった。
先に力尽きたロイザーの“残骸”である……そのまま電磁石の端に飛んで行って、べたりと張り付く。
そしてその衝撃で、タイタンのバランスも崩れてしまった。
「うぐぁっ……この大馬鹿者めが、よりにもよって、こんな時に私の邪魔をするとは！！」
間もなく――ガツン、という音を立てて、タイタンの胴体が電磁石の中央に吸いつけられた。
タイタンはなおも体を引き剥がそうとするが、思うように動かせず、すぐに磔に近い体勢になる。
更にそれを眺めていたアイガーも、体がぐらつき始めた。
タイタンより距離はあったが……今のアイガーに、踏ん張れるような力は残っていない。
「人間を侮った報いだな……って、俺も偉そうに言える立場じゃねぇか――」
諦めるかのような言葉と共に、アイガーが電磁石の吸引力に身を任せかけた時である。
ゴツン、という軽い衝撃を感じたアイガーが、ふと見下ろすと――金色とくすんだ銀色の２つの人影。
「お前ら……何やってんだ、もう良いんだよ、無理すんなよ」
電磁石に負けかけたアイガーの体を支え、必死に踏ん張るのはコナとジュリだった。
ジュリは先ほど“合流”したばかりであるが、コナが飛びつくのを見てためらいなく“参加”した。
（あんたまで、あんなやつらに付き合うことないから！）
（そうです、仲間は全力で守るのが、私たちのモットーですから！）
「仲間って……俺のことかよ？ 俺は元々、あいつらの部下だったんだぜ？」
（でも――あたしたちの力を、信じてくれた）
そんな２人に感化されたか、更に２つの影がアイガーの両側に飛びついた。
“メタロイド変身”したキャリアの男性だ……元々は消防士であり、非金属の属性を持っている。
（金属じゃないなら、電磁石の影響は受けないよな！？）
（あんたがどれだけ活躍してきたかは知ってる、確かにこの子らが言う通り、仲間だ！）
「お前らも……物好きだなぁ」
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その頃――朝陽中央公園の“難民キャンプ”。
渋い表情を浮かべて、鉱物娘用テントの前にライカが立っている。
その目は遠く――中央駅やその奥の山林の方を見ていた。
「ライカさん……やっぱり、何か感じるんですか？」
そんなライカに話しかけてきたのは、“マスコミ被災組”の１人、大川である。
因みに“孤立開放”後、いったん朝陽市外に戻っているため、今日は服装が違っている。
孤立開放によって、予想通り市外から複数のマスコミが市内に“押し寄せて”来ており、
報道パニックになることを防ぐために、２日前に市役所前にプレスセンターが設けられていた。
基本的な情報は全てここで扱うため、マスコミは表向き勝手な取材が出来ない状況だったが、
（実際には基本合意を無視した個別取材も少なからずあったようであるが）
大川は孤立事態の“経験者”であることから、取材目的でなければこうして単独接触可能だった。
「あぁ……いや、嫌な雰囲気だなって……」
「えぇっと、ライカさんって確か、特殊な感知能力があるんですよね？」
「えぇ、まぁ……」
ライカは大川には、自分の“正体”を詳しくは明かしていない。
ただ鉱物娘を活性化し、石化被害者を復元できる彼女が“普通の人間ではない”ことは明らかであり、
そうした“異能者”であることは、彼女も大川に打ち明けていた。
「対策本部近くの特派員によると、大通りの襲撃事件は収束の方向に向かったみたいですね」
「そうですね……」
この時点で、マスコミのプレスセンターも、対策本部を襲ったタイタンたちの事件を掴んでいたが、
警察署の地下室で起きたクリスタらの襲撃や、山林内での激闘はまだ明らかになっていない。
だがライカはそれらの事件も、実は既に“感知”していた。
警察署地下室の襲撃事件は、水際で止められたクリスタらの撤退で収束しつつあることを掴んだが、
山林内で起きている戦闘の行方はまだ見えてこない。
パドルに肉薄して“妖気”を伴う大きな気配――ゼロの気配だろう――も感じていただけに不安だ。
「でも、単発で終わらないでしょうね、こういう襲撃事件も……」
「そうでしょうね、だからあなたたちも巻き込まれないように気をつけないと。
以前起きたテロも、今回の事件も、駅前近くで起きてるから、人通りもかなり多いはず」
「分かっています……って言いたいところですけど、事件を聞いたら飛んでいくのがマスコミですから」
自嘲めいた口振りで言う大川……過去の反省も込めているのだろう。
大川自身はある意味「既に巻き込まれた身」なので、客観的に捉えることが可能だが。
「この騒ぎ……長期戦になりそうですね」
「仕方ないですよ、１つの自治体が丸ごと被災した“戦災”みたいなものですからね。
この日本という国では、数十年前に起きた戦争以来、確か１度も経験してこなかった事態でしょう」
「まぁ、確かに……そうか、戦災か……」
腕組みをする大川……以前のワンピース姿と違い、今日は半袖なので色白の腕が丸見えだ。
日焼けしたくないので、クリームはしっかり塗ってきているようだが。
「ＴＶ見ましたよ……まだ災害継続中なのに、もう市長や警察の責任を問う声が上がってるんでしょ？」
「大きな災害が起きたら必ず上がる声ですからね――ん、何かしら？」
ライカの言葉に返答しかけた大川が、ふと何かを見つけた。
数十ｍほど先のテントの近くで、紫色の“鉱物娘”が数人の大人に囲まれている。
「あの……取材って言われても……」
「まさに体験者の肉声を聞きたいんです、是非インタビューを！」
どうやら、スミレと同じタイプの数人の１人のようだ……ただし、警察署にいるアンジーではない。
長髪で小柄な容姿なので、スミレやヒカルでもない……だがライカには見覚えがあった。
「ナイアちゃんじゃないの……そうか、喋れるからか」
「確かスミレちゃんのお友達ですよね……ちょっとあなたたち、何やってるの、合意違反よ！」
大川はそう言って、ライカがナイアと呼んだ鉱物娘を包囲する記者たちに向かって行った。
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「うっ――がぁあぁぁっ！！」
石化された森の中で、金属の残響を伴うネメシスの雄叫びがこだます。
全身からサイバーナイフやサイバークローを展開し、２人の機動隊員に猛攻を仕掛けるその光景は、
元々人間だったことが信じられないほど“怪物的”だ。
メタリックな３人が森の中を駆け回ることで、灰色の砂塵がもうもうと立ち込めている。
（くそっ……しぶといやつだ！）
機動隊員たちも極力間合いを取って対峙するが、それでも何度かその間合いを破られており、
サイバーナイフの斬撃を受けている……切断こそされていないようであるが、傷は付いている。
擬似とは言えメタロイドの能力を発揮しているため、出血はしていないが、
全身が均質化されたその体質ゆえに、傷の痛みを全身で受け止める運命にある。
「バカめ――上から目線で分析する暇が……お前らにあるのかよ！」
アウトレンジで応戦する２人は、幾度となくＥＭＰガンの引き金を引く。
その電撃は容赦なくネメシスを襲うが、ネメシスもホルスに敗北した時ほどに無防備ではなかった。
ホルスがそうだったように、頭部や胸部に埋め込まれたルビー色の結晶体を使って、
食らった電撃が全身を乱反射する前に収束し、発散するスキルを新たに会得していたのである。
ホルスほどに器用ではないが、それでもあの時のような無残な姿は今のネメシスにはない。
元々メタロード化した際に備わっていた“オプション”だったが、あの時はまだ未開発だったのだ。
そんな戦闘シーンから１０ｍも離れていない所では、なおもパドルとゼロが対峙している。
ゼロの術式により、パドルのオーラを突破する効果を持たされた“鉱物のナイフ”は、
徐々にパドルの傷を増やしている……ラボでの決戦時、セラフィと対峙した時の状況にも似ている。
「ふふ、いつまで耐えられるかな……貴公がオブジェと化す瞬間を、早く拝みたいものだ」
「心配すんなよ、すぐに終わるさ――」
そう言って、パドルは再び、オーラの衝撃波を放った。
空気が破裂するような音と共に、包囲していた石の小片が吹き飛ばされる。
「またそれか――同じ手は食わぬと自分で言っておいて！」
「その返答も、お前にそっくり返してやるよ」
パドルは澄ました表情でそう言って、突き出した拳をおもむろにギュッ、と握り締める。
すると急に――激しい“引力”が、ゼロや周囲の物体に襲い掛かった。
「何――これは、まさか念動か！？」
２度目の衝撃波で吹き飛ばされた“ナイフ”は遠くに飛んでしまい、しばらく戻ってこない。
そのためパドルの“念動”に引き寄せられたゼロと、パドルの間には何もない。
「何故だ――何故その手に気付かなかった！？」
「自分で言ってたじゃねぇかよ……俺が神族の“変種”だとな」
パドルがにやりと笑って答えた言葉に、今度はゼロの表情から余裕が消える。
「そうか――“闇の霊力”か……！」
パドルが持つ“霊的能力”には、“闇属性”が備わっている。
詳しくは長くなるが、これは普通の霊気による効果よりも、感知することが難しいのである。
「ちぃっ――おのれ、このままでは終わらぬ！」
ゼロは今まで周囲の木々に絡み付けていた“髪触手”を外して、その先端をパドルに向けた。
パドルの念動に引き寄せられる勢いのまま、その髪触手の先端を細く引き絞り“宿敵”に叩きつける。
エメラルドグリーンの波紋と共に、その触手がパドルのオーラを貫通して肩や腕に突き刺さるが、
パドルはお構いなしに、更にエネルギーを込めてゼロをぐっと引き寄せた。
「きっ貴様……痛覚はないのか――！！？」
次の瞬間――轟音が響き渡り、ゼロは砲弾のように吹っ飛んだ。
バキバキと周囲の木々をへし折り、叫び声を上げながら飛ばされていく“魔人”を眺めながら、
オーラに覆われた傷だらけの“超人”は、ぼそりと呟く。
「痛くないわけねぇだろうが……これが忍耐って言うんだよ。
あと今後の教訓に肝に銘じとけ……相手を侮った方が、勝負では先に負けるんだ」
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その日の昼過ぎ。
朝陽市役所前のプレスセンターが、メドゥアスの“多重奇襲テロ未遂事件”を報じた。
駅前に近い対策本部の正面で起きた襲撃事件に加え、その奥の山林でも妨害工作事件が起き、
警察署の地下室でも奇襲があったという報告に、目を丸くするマスコミ関係者も多かった。
とりわけ大通りに面した対策本部前の襲撃と、警察署への奇襲攻撃は衝撃的なものだったようだ。
幸い、いずれの事件でも朝陽市民に重大な被害があったわけではなかったため“未遂”となったが、
１歩間違えれば、死傷者を伴う“テロ事件”になっていたことは想像に難くない。
プレスルームで記者会見を行っているのは、対策本部長を任されている機動隊長の前畑だ。
やや強張った表情を見せながらも、記者たちの質問に淡々と答えている。
対策本部前で大暴れしたタイタンやロイザーと接近遭遇した上に、
“本拠地”の警察署にも襲撃があったとなれば、内心穏やかではいられないだろう。
そんなプレスセンターから数百ｍほど南にある中央公園の“テント村”では、
警察署の“危機”から帰還したばかりのアンジーが、仲間たちに囲まれていた。
そしてそこには、今さっき代替バスで下校してきたばかりの翔子たちも混ざっている。
「ほんと、アンジーさんも大変だったね」
「嫌なカンが当たるって変な気分よね……まぁ、結果的に無事だったわけだけどさ」
アンジーの紫色の顔が、苦笑いを浮かべる。
その隣で、スミレやナイアが、自分の体を改めて、まじまじと眺めている。
「そっか……この体って、そんなに頑丈なのか……」
「確かにつまずいて倒れても、傷ついた記憶ないですもんね」
「けどそのぐらいは、ルイさんたちも同じだからね……でもまさか、刃物も通さないなんて」
そう言って、スミレはルイたちの方に視線を振る。
（あの武器、駅前テロの時に見たことあるよ……鉄パイプぐらいだったらまっぷたつだったよ確か。
それが通じないんだから、ホンモノだよねぇ）
（多分あたしらは、そこまで頑丈じゃないと思うな……だってホルスさんとかボロボロだったもん）
（あの人も、金属の体だったわけですしねぇ……）
「そう言えば……アイガーさんは？ 重傷だって聞いたんだけど」
「あのコンテナに運ばれたみたい……ライカさんがすぐ治療しなきゃってさ」
瞳の言葉にスミレが返す……隣で翔子や春海が複雑な表情をしている。
「結構ボロボロだったみたいねあの人も……あたしを襲ったやつらなのに、何だか複雑だわぁ」
「アイガーさんって、見た目は怖いけど、中身は繊細みたいですよ？」
（そう言えば、春海ちゃんって、ラボにいる時にあの人に遭ってるんだっけ？）
（それにしても、ボロボロにされた金属の怪人を治療するとか、どうやるんだろうね……）
（ボロボロと言えば、パドルさんも血だらけだったような……）
「あの人はホントにタフだからね……傷の治りも凄く早いみたい、特異体質なんだろうなぁ」
スミレが苦笑いして言う……彼女はラボの戦闘時、傷だらけのパドルを見ている。
今回ゼロと交戦した際にも全身傷だらけになったが、実はあの時よりも多少はマシだったらしい。
そしてこちらは“あのコンテナ”こと、センターＤ別室。
「――えっきしっ」
「あら、冷房効き過ぎてる？」
「別に寒いわけじゃない……誰かがウワサしてるんだろうよ」
「さすが人気者ｗ」
パドルとライカがいつもの掛け合い漫才を繰り広げている。
ライカは今まさにアイガーの“治療”の真っ最中だ……サイバーナイフが貫通した傷を最初に埋め、
亀裂のような傷口を１つずつ塞いでいく……どうやっているのか説明が難しいが、
ゼロが様々な術式を空間に投影したように、何かのエネルギーを使って再生を促進しているらしい。
（パドル殿……貴方の傷は大丈夫なのですか？）
そんな治療を、メタリックな機動隊員２名と、コナとジュリが不安そうに眺めている。
機動隊員も負傷していたため、先にライカの治療を受けているが、まだ“変身解除”には早いようだ。
「問題ないですよ……このくらいの傷は、すぐに塞がります」
パドルはまだ、長い耳を持った“本来の姿”のままだ……この方が回復を早められるらしい。
ライカも同様である……既に素性を明かしているため、遠慮は要らないと見ているようだ。
治療を受けるアイガーは無表情で、目を半分閉じている……麻酔で眠っているのに近い状態らしい。
「んで――結局メドゥアスは逃げたわけ？」
「だろうな……俺のボディブローを食らって無傷なはずはないが、死んでるとも思えん」
「それじゃあ、まだまだ妨害は続きそうね……」
「想定の範囲内さ、向こうも手駒を失ってる、次は簡単には行かないはずだ」
そう……メドゥアスは今回の戦闘で、ロイザーとタイタンを戦力外にされている。
ロイザーは事実上破壊されたが、タイタンの方は電磁石を上手く使って、拘束することに成功した。
今はＥＭＰ電極をつながれた状態で、警察署の地下室に拘留されているようだ。
（あのタイタンという男が、口を割るでしょうかね？）
「頑固そうな男だが、野心の気もある……忠誠心を試してみる手はあるな」
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| （第１１章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2020年に作成したエピソード。
前編は2018年頃に執筆開始しているが、後編は2020年に着手し、描き切っている。
このレスポンスはまさに数年ぶりのことであった（核爆）
対メタロード作戦のアイデアとして、新しく“電磁石”というアイテムが登場している。
石質系メタロイドには効かないが、金属系メタロイドの動きを止められるアイテムの位置付けだ。
警察がそんなシロモノを持っている気もしなかったため、自衛隊がチャーターした設定にしてある。
１方パドル対メドゥアスの決着は無難なものだが、パドルの特性（闇の霊力）をここでさりげなく暴露している。
物語の本筋に影響を与える設定ではないが、裏技的な設定として扱っている。
マスコミの動きも、「外の世界の干渉」の象徴的な要素として盛り込んでいる。
余りドロドロとした展開にする気はないが、物分かり良く振舞うのもご都合主義のはずであり、
メドゥアス事件のような出来事が本当に起これば、飛びつくに違いないからだ。
その際に巻き込まれている鉱物娘ナイアも新キャラだが、実は彼女の草案は2012年頃にもうあった。 |
