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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130719A） |
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その日は、朝から荒れ模様であった。
東シナ海で発生した低気圧が、南海からの湿った空気を取り込んで急速に発達し、
シーズン末期を迎えていた梅雨前線に沿って、日本列島を東西に縦断するコースを取ったためだ。
未明から九州や四国で強い雨となり、朝には近畿が強雨のエリアに入った。
河川の氾濫を起こすほどの“豪雨”は幸い記録されていないが、熱帯低気圧のような強風が吹き荒れ、
高知平野では海開きを迎えていた海岸沿いのテントが、強風で飛ばされる被害があったようだ。
未明の突風であったため海岸は無人で、人的被害がなかったのが幸いである。
関東地方にこの“爆弾低気圧”が到達するのは昼頃になる予想であるが、何しろ温帯低気圧である。
熱帯低気圧と違って、温帯低気圧には温暖前線と寒冷前線がある。
強雨をもたらすだろう寒冷前線が到達するよりも早く、温暖前線が関東に到達する理屈であり、
実際に関東地方でも、朝から既に雨が降り始めていた。
まぁ見方を変えればこれは“恵みの雨”とも言えるものだったのだが。
今年の梅雨前線は余り勢いが強くなく、全国的に雨量の少ない「空梅雨」だったからである。
そしてこういう時ほど皮肉にも、雨が降る時には災害レベルの大雨になるものだ。
「降るねぇ」
「降りますねぇ」
私立金芽台学校中等部２年の教室で、しとしとと降る雨を眺めて呟くのは加奈とディアスである。
「せっかく明日から夏休みなのになぁ」
「まぁ、今日ガッツリ降ったら、梅雨明けになるんじゃないの？」
「そっかなー」
「何よ、この前夏休みだヤッホーイとか言ってたのに」
「その歓喜を『空手部の朝連』で吹き飛ばしてくれたのは加奈ちゃんだったよね？」
「好きで始めた部活じゃないの、観念しなさいよｗ」
苦笑いする金髪の幼馴染の背中を、加奈は笑ってパンパンと叩く。
そう、今日は金曜日……１学期の終わりであり、明日から待ちに待った夏休みなのだ。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第６章 試される有志たち ★
2013年7月19日―日本・関東其の９
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同じく金芽台にある、異世界来訪者たちの“秘密基地”サイトＧ。
「おっはよー秋綺」
「お早う御座います、秋綺ちゃん」
「おぅ、お前らいつも早いよな」
サイトＧ３階ホワイエに、少女たちの元気な声が響き渡った。
個室の扉を開けて出てきた秋綺に、夏月と春花が笑顔で声をかける。
更に奥の扉が２つ開き、終里と三四郎が顔を出した。
「お早う御座います、皆さん」
「みんなお早う」
「おー起きたねー、昨夜は寝られた？」
「まずまずですかねぇ、ここは空調が良く効いてるので快適ですけど」
「昨日は早速事件に出くわしたからね」
「まぁ、色々ありましたから、仕方ないですね」
まだ寝癖の残る頭を掻く三四郎に、終里がフォローを入れる。
“異世界の北海道”から来た少年少女たちは、これで全員――いや、ちょっと待て。
「冬雪はまｄ――」
夏月がそう言いかけた時――１号室で黄色い声と、困惑する悲鳴のような声が上がった。
「……今の声は冬水か？」
「それと冬雪ね……やっぱりまだ寝ていたかｗ」
「冬水ちゃんに叩き起こされたんじゃないですか、あの子結構手加減しませんからｗ」
春花はニコニコとして言う……ちょっと言葉にトゲがある気もするが、これが彼女の性格なのだ。
「あらお早う、みんな結構早いわね、疲れてるかと思ってたけど」
その声と共に、階段を深雪とスミレが上がってきた。
お茶でも入っているのか、ポットと紙コップを乗せた盆を手にしている。
「あ、お早う御座いまーす」
「スミレさんお早う、もう起きてたんだ？」
「あぁうん、あたしいつも早いんですよ……耐久性には自信ありますし」
「へぇえ、冬雪に爪の垢煎じて飲ませたいわｗ」
「冬雪はまだ寝ているの？……まったく、あの子はもぅ」
「今起きたっぽいですよ、冬水ちゃんの体感目覚まし時計でｗ」
「……ボディプレスと言って欲しいな」
その言葉と共に１号室の扉が開き、寝ぼけ眼の冬雪が青いパジャマ姿でホワイエに出てきた。
まだ完全には覚醒していない様子で、メガネが歪んでいる。
「おっはよー、良いじゃないの、朝が弱いあんたにゃちょうど良い目覚まし時計じゃん」
「夏月も経験してみたら？ 爽やかな朝をボディプレスで起こされる気分」
「だってー、おねぇちゃん声かけても起きないんだもん」
じろっと睨む冬雪の背後で、冬水は「みゃはｗ」と笑ってペロっと舌を出した。
「爽やかな朝、か……まぁ“ここ”はそういう空気ですよね」
ぽつり、と呟く三四郎……その目は窓の外に向いている。
「天気予報から覚悟はしてましたが……東京に来るなり、朝から雨とは」
「１０時頃にはいったん上がるみたいだけどね？」
「けれども昼過ぎから夕方にかけて、今度は強い雷雨の可能性があるんでしょう確か。
余り観光日和とは言い難いですよ、ねぇ終里ちゃん」
「そだねー」
「昨日の今日だから、余り遠出はしない方が良いかもね……まだ勝手も分からないし」
これは深雪だ……“異世界召喚”という非常識な事態を、彼女はまだ完全には理解していないが、
少女たちの保護者として、スケジュールを管理する責任を感じていた。
「雨が上がったら、もう１度ここの町歩きしてみない？ まだ見てない所あるかもだし、
昨日会った陽炎さんたちとも、もっと色々話してみたいな」
「そのくらいですかねぇ、うーん残念」
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「まぁお茶でも飲んでスッキリしましょ……ってあら、茶葉がないわ、私としたことが」
「ポットの中はお茶じゃないんですか？」
「これはミネラルウォーターね、水出し麦茶のティーパックがあったから、それ使おうと思って。
それにスミレさんが水かお湯くらいしか飲めないって聞いたから」
そう――スミレは“特異体質”のため、普通の人間と同じ食事が出来ない。
唯一受け付けるのが水であり、それも少量ずつゆっくりと飲まねば溢れてしまうのだ。
「お手数かけてすいません」
「とんでもないわよ、色々な人がいるんだから、ちゃんとフォローしなきゃ」
「みゃっ、あたし取って来る、１階？」
「あっ冬水ちゃん、エレベーターあるわよ――」
お手伝いに目覚めたか、今度は冬水が茶葉のパックを取りに階段に駆け出した――その時。
「――みゃふっ！？」
「うぉっ！？」
ぼふん、と冬水の小さな体が、階段を下りてきた大きな体に衝突して止まった。
その体の持ち主の容姿に、ホワイエにいた全員の目が釘付けになる。
「……えっ！？」
「――何だこいつ！？」
「まさか、新しいアヤカシ！？」
黒光りする、鉄鉱石のようなウロコに覆われ、赤い髪と尻尾を持つ“獣人”がそこにいた。
身長は優に180cm以上はありそうだが、顔つきは少年のように幼い。
そう――昨日の夜にサイトＧにやってきた、“竜王”の強化戦士ジーラである。
だが、その素性をまだ冬雪たちは知らない……深雪もポットの盆を持ったまま呆然と立っている。
冬雪たちの理解者として“人外”にはある程度慣れているが、三四郎ほど免疫はないのだ。
「昨日のアヤカシの仲間か！？」
「結構強そうね……それにしても、こんなところまで来るなんて」
「冬水ちゃん、そいつから離れて！」
「あぁしまった……えぇと、何て説明したら良いかな？」
もっとも……衝突した当の冬水はぽかん、としたあどけない表情を浮かべている。
冬雪の“分身”でもある冬水自身、厳密に言うと“人間そのもの”ではなく、
どちらかと言えばアヤカシ――つまり妖怪に近い起源を持っている。
そのためジーラのような“人外”に対しても、実はこのメンバーで１番強い免疫があるのだ。
「……みゃう？」
「……あれ、お約束のリアクションないねこの子」
複雑な表情をするジーラ……毎回怖がられるのも楽しくないが、怖がられないのも不思議らしい。
「――ちょっと、何の騒ぎ？ あ、ジーラさん、お早う」
そこに陽炎と黒潮が階段を上がってきた……因みに彼女たちは２階に部屋をもらっている。
階段の上からも、筋骨逞しい初老の男性が降りてきた――龍二だ。
「あぁ済まんねキミたち、そいつは俺の連れなんだ」
「「「……え？え？え？」」」
サイトＧ３階ホワイエに、本日最大規模のクエスチョンマークが並んだのは言うまでもない。
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「……改造人間、ですか」
数分後――龍二の説明を受けた少女たちは、既に警戒を解いていたが、困惑は残っていた。
目の前の赤い髪の獣人――ジーラがアヤカシではなく、“元人間”の改造実験体だと聞いたからだ。
スミレも複雑な表情をしている……彼女もまた、ジーラと似た境遇を持つためだろう。
更に龍二の背後からは、キトラやラティスも降りてきていた。
キトラの金色のウロコに覆われた姿や、ラティスの群青色の肌も、ある種衝撃的な光景だった。
「んまぁ、ピンと来ないよね普通は。 おいらも逆の立場だったらなんのこっちゃだもんな」
「あぁでも、あたしは何となく分かりますよ……あたしもそんな感じだし」
「スミレ、って言ったかなキミは……私が元いた世界にも、確かにキミのような人物がいたよ」
「えっ、そうなんですか？」
またラティスに対しては、ジーラやキトラとは“違った注目”も集めていた。
何故なら、この群青色の肌の女性は――“改造される前”は元々、男性だったためである。
今し方、同じく上階から降りてきたアイナも、ラティスと同じタイプだ。
ホーリーメイデンズにもラティスやアイナに似た境遇の人物がいる……そう、冬雪や秋綺だ。
アヤカシと戦う巫女の使命を帯びた２人は、少年だったために性別が変わってしまった経緯がある。
「ラティスさんって、元々は男の子だったの！？――へぇえ、こんなにスタイル良いのに！」
「はは、ありがとう陽炎さん、褒め言葉と解釈しておくよ」
「……あれ、ってことは秋綺はんってもしかして……」
「……あぁ、まぁつまり、そういうことだ」
やや赤面しながら、秋綺は自分の素性をカミングアウトした。
この際、隠し事はなくしてしまった方が、これからコミュニケーションが容易だろう。
冬雪もそれを見て、自分の素性も打ち明ける。
「実はボクもなんですよ……えぇと、元々はその、男子で……」
「へぇそうなんだ、エヴァンスみたいなものなんだね。打ち明けてくれてありがとう」
「……世界は広いわね黒潮、いろんな姿の“人”がいる」
「ほんまやなぁ」
「人だけではないぞ」
更に上階から声がした……降りてきたのは褐色のウロコに覆われた“獣人”ザラクである。
爬虫類っぽい皮膚感がジーラやキトラに似るが、こちらは恐竜のような顔つきだ。
因みに陽炎たちは、このごつい“竜人”と既に面識がある。
「あ、そうですね、ザラクさんは元々違う種族でしたっけ」
「わっ、また新しい人が！？」
「人だけではないって今……ってことは今度こそアヤカシ！？」
「アヤカシ、ね……確かにギガンサウロイドは鬼伝説の起源の１つらしいが」
「ザラクは恐竜から進化を遂げた種族の末裔だ、“恐竜人類”という言葉を聞いたことは？」
「あっ、あります！」
龍二の問いかけに対し、興味津々に言葉を返したのは三四郎だ……その目は好奇心に満ちている。
「恐竜がそのまま進化していたら、２足歩行のトカゲ人類になっていたかもって説ですよね。
あれでも、恐竜って鳥類に進化したはずでは？」
「全ての恐竜が鳥類になったとは証明されていないだろう？」
「あっそうか、なるほど！」
合点が行ったような表情をする三四郎……呑み込みが早いと書く方も実に助かる。
「確かに……言われて見れば、伝説の赤鬼を思わせる顔つきをしていますね」
「アヤカシではなく、恐竜から鳥類とは別の進化を遂げたってことか……そう言われてみれば、
オレたちがこれまで遭って来たアヤカシとは雰囲気が違うよな」
「物分りが早くて助かる。まぁ俺たちも、自分たちが妖怪の類だとは思っていないがね」
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「ここにいましたか、高山さん」
「あぁ、確か本郷さん、でしたっけ」
更に下の階段からもう１人上がってきた……“１号ライダー”こと本郷猛だ。
その後ろには“金髪の宇宙人”パドルの顔もある。
「フィラデルフィアのマクスウェル艦長と、あと加賀さんや瑞鶴さんと、これからの打合せをしたい。
朝食が終わってからで構いませんので、防衛特調本部までご足労願えますか？」
「了解しました。 ――お前ら、先に基地の食堂に行ってるぞ？」
「ほっほーい」
陽気な返事を返すジーラ……ふと本郷は、ホワイエに集まった“召喚者たち”を見渡す。
「……改めてこうして見ると、実に多様な面々ですな。
パドル大使……やはり、彼ら彼女らにも、自分のような“特殊能力”が？」
「そうですね……必ずしも全員ではないですが、ほぼそうだと言って良いでしょう」
「えっ、この人にも特殊な能力があるの？」
何気ない本郷とパドルの会話に陽炎が鋭く反応した。
本郷は昨日の“事情聴取”には同席していないために、まだ彼女達に素性を教えていないのだ。
冬雪たちとは先の錦糸町の事件で接近遭遇してはいるが、その際には詳しく話していないらしい。
「そうか、まだ自己紹介してなかったな。 私は本郷猛、実は私も“異世界”の出身だ。
君達よりも早くこの世界に来ただけでね……ジーラ殿やキトラ殿、シド殿と似た能力がある」
「ジーラさんと似た能力って……つまり怪獣の能力？」
「怪獣ではないが、人間以外の動物ではあるな。簡単に言えば昆虫、バッタの身体能力さ」
「そう言えば、昆虫も人間サイズにするととんでもなく怪力だと言われてますね」
「三四郎はん詳しいんやねぇ……何か質問したら全部答えてくれそうやわｗ」
黒潮におだてられて、三四郎はドヤ顔を見せる……そんな先輩の素振りに終里が苦笑した。
「まぁ、後はキミたちでゆっくり語らってくれ……朝食には締切りがあるから遅れないようにな」
そう言って、本郷とパドルは、龍二を連れて階段を下りていった。
下の階で何事か話す声が聞こえる……声のトーンからすると、どうやら加賀と瑞鶴らしい。
そして間もなく、階段を下りていく足音の数が増えた。
「そっか、朝ご飯か……あの食堂だよね、今朝は何食べよっかなぁ」
「あんたすぐに食べることばかり考えるよね……っていうか、早くパジャマ着替えてきなさいよ」
「そう言えば昨日は凄かったわねぇ、まさか加賀さんたちに匹敵するツワモノがいるなんてｗ」
「えへへ……いやぁ、それほどでもｗ」
「……褒めてるんですかねこれ？」
プラス発想で受け止めときゃえぇんでないの？
「……そーいやおいらたち、まだまともな飯食ってないよな」
「ジーラ……フィラデルフィアのステーキはまともなうちに入らないわけ？」
「バタバタしてたからね……少しくらい食べなくても大丈夫だから良いんじゃないのｗ」
「その苦労が今日、ついに報われるとｗ」
希望に満ちた朝食に胸を膨らませる、冬雪とジーラが実に良く似た表情を浮かべる。
「ところで陽炎さん、朝食の後何か予定はあります？」
「朝食の後？ えぇっと……加賀さんたち次第だけど、何か予定があるの？」
「この町の探検でもしようかって思ってて……しばらくご厄介になるわけですし」
「あーなるほどぉ、いいわねぇ。加賀さんと瑞鶴さんが戻ってきたら、ちょっと相談してみるね」
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そして午後が来た。
残念だったな、今日のフードファイトは尺の都合で書けなかったのだ！orz
サイトＧの表玄関に、冬雪たち７人と陽炎たちの顔ぶれがあった……夕張と神通の顔もある。
更に竜王チームからはシドが参加していた……龍二以外では唯一の“人肌”だからだ。
「そう言えば町歩きなんて久し振りー」
「夕張さん、よく工房に篭もってるから……こういう時間も大事ですよ？」
「のどかやねぇ、平和ってこういうのを言うんやろなぁ」
「ボクたちが住んでいた旭川ものどかな町ですよ」
「旭川ってことは北海道なんですね、冬場とか寒いんじゃない？」
「氷点下１０度はザラだな」
「わぉ、氷点下１０度って、ほぼ冷凍庫じゃないのｗ」
「シドさん助かりますよ、男子が僕１人になるところでした」
「はは……でもさ、冬雪君や秋綺君は元々は男子だったよね確か」
「まぁそうですね、特に秋綺君は性格が文字通り男勝りで違和感が少ないんですけど、
冬雪君は男子だった時から中性的なキャラでして」
「ますますエヴァンスだな……まぁラティスさんも中性的なキャラだけど」
「そーいやこの町って“キンメダイ”って言ったよね確か……山に近いのになんで魚の名前なん？」
ふと、ぼそりと呟いたのは黒潮だ……思わず三四郎や春花、秋綺などが顔を見合わせる。
「いやあの、黒潮さん……別に魚の名前ってわけじゃ」
「えーでも、“キンメダイ”って深海魚おるやん？ 刺身にすると美味いやつ」
「黒潮さん黒潮さん、あそこ見てください」
春花がちょいちょいと黒潮の袖を引き、斜め上を指差す。
そこにあるのは交差点の信号機だ……そして『金芽台南５丁目』という標識が付いている。
黒潮の目が点になった……数秒ほど、反応がフリーズする。
そして間もなく、文字通り“金目鯛”のウロコのように顔が真っ赤になった。
「……えっあっ、えぇーーーっ！！？」
「魚の“金目鯛”じゃなくて“金芽台”なんですよ……確かに紛らわしい発音ですけど、
『金色の朝日を浴びて草木の芽が息づく町』の意味が込められてるそうです」
「ぷぷっ、ふくっ、あはっ、あはははは……あいやあの、ごめん、ごめんでもあははははｗ」
耐えられなくなった夏月が爆笑した……すぐに陽炎や夕張に伝播する。
「ぷぷぷ……黒潮恥っずかしーｗ」
「いや確かに紛らわしいけど、あちこちに書いてたじゃん、気付かなかったかなぁｗｗｗ」
「うぅ……そんなに笑わんといてよーーー」
そんなこんなで１０人の少女と２人の少年が“学園通り”を南へ下っていく。
西の空が灰色になってきた……爆弾低気圧由来の寒冷前線が首都圏に近づいてきたらしい。
関東山地で水分をある程度振り落とせば、あるいは関東平野の雨はさほど強くならないかもだが。
山裾から吹き降ろす風も勢いと湿気を帯び始めている……天気が下り坂になるサインだ。
「見て見て、西の空」
「灰色が濃くなってきましたねぇ、やだなー」
「雨宿りする場所が必要そうですね」
「あっ、みんなあそこ……喫茶店あるよ、入らない？」
冬雪が目ざとく“ロックオン”した小さな建物の庇には、『喫茶はなこ』と書いてあった。
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金芽台南４丁目、『喫茶はなこ』店内。
加奈の親友である山本咲の実家でもあるこの喫茶店は、青葉家から歩いて１０分ほどの場所にある。
終業式を終えた加奈とディアス、そして咲がカウンターを望むテーブルに陣取って涼んでいた。
喫茶店の常連客でもある２人（と店長の娘）は、この場所がほぼ“指定席”である。
「うわぁ、また嫌な空模様になってきたねぇ」
「なんか低気圧が発達して近づいてて、大雨になるって天気予報で言ってたよね確か」
「傘はちゃんと持ってきたよ、学校から♪」
「ダメだよぉディアス君盗んじゃｗ」
「……もちろん返しますよ？」
「でもさー、予報だと大雨になるって言ってたから、傘さしても意味ないかもね〜♪」
「さっちゃん何でそんなに楽しそうなわけよｗ」
「加奈は土砂降りの大雨ってなんかワクワクしない？」
「そーかなぁ、びちょびちょになって気持ち悪いだけじゃん」
「加奈って意外にドライよねー」
“いつもの３人組”がそんな他愛もない話に花を咲かせていた時。
喫茶店の玄関鈴がからんころん、と音色を奏でた。
「いらっしゃいませ〜 あら多人数。 ちょっと待っててね、今席をくっつけるから」
マスターの華子――咲の母である――がレジ前で声を上げた。
ぱたぱたと、加奈たちのテーブルの前を横切って、奥の４人用テーブルの幾つかをくっつける。
加奈がちらりと視線を向けると、同年代ほどの女子が１０人ほど、レジの前で待っているのが見えた。
金芽台学校の生徒ではない……加奈は知らない顔ぶれである――と思いきや。
「あっ……昨日の！？」
「あぁ、ホントだ、すごーい奇遇ですねー」
１番乗りで店内に入ってきた冬雪と、加奈の目が合った。
ホーリーメイデンズの少女たちと加奈たちは、昨日偶然グリーンベルト前で出遭っているのだ。
もちろんその時――陽炎たちはいなかったわけだが。
「……金芽台は狭いからね、あんまり奇遇でもないかもよｗ」
「おぉ〜、可愛い子ばっかｒ――はぐぅ！？」
その瞬間――加奈のエルボーがディアスの脇腹に突き刺さったのを咲は見た。
何を考えているのか、悶絶するディアスを横目で見ながら、ニヨニヨと生暖かい笑みを浮かべる。
「くぉおぉ……」
「あるぇ〜どぉしたのよ加奈ぁ、彼氏に焼餅？」
「えっ……ちっ、違うよさっちゃん、コレがスケベそうな顔してたからなんか腹立っちゃってさ」
「ふぅ〜ん♪」
……相も変わらず“コレ”扱いなディアスの処遇に、居合わせた陽炎たちは目を丸くする。
「あらら……キミ大丈夫？」
「いえいえ〜心配しなくて良いんですよぉ、こいつ空手部だから全然へっちゃらへっちゃらｗ」
にこやかにそう言いながら、ギリギリと幼馴染を締め上げる加奈であった。
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１２人の少年少女たちは、１番奥のＵ字を描く複数の４人用テーブルに並んで座った。
加奈たちの“指定席”からは３ｍほどあるが、他に客がいないためお互いの会話はすぐ届く。
「みゃは、何食べよっかな〜♪」
「わぁ……大きなパフェ……う、美味そう」
「冬雪、ヨダレヨダレ」
「僕たちも注文しましょうか、終里ちゃん、何します？」
「そうだなぁ……あ、えーと、メニューは？」
「はいどうぞ、良ければこれ使って？」
「あ、どうも」
ぽん、と咲がテーブルにメニューを２つ置いた……別の席から取ってきたものだ。
「クリームあんみつ美味しそうね……あ、秋綺君は何にする？」
「え？ あ、そ、それじゃ――」
秋綺が陽炎から差し出されたメニューを受け取ろうとした――その時。
ピカッ――と空が光った。
テーブルや椅子、床に少女たちの影が出来るほどの閃光から数秒後――
――ガラッ ガラガラガラッ ドドドーーーーーン
遠慮のない雷の音が響き渡った……喫茶店の窓ガラスがビリビリと震えるほどの大音響だ。
雷神の不意打ちに、春花は咄嗟に夏月に抱きつき、冬雪と冬水は独自の“防御体勢”を取った。
「ひゃあぁぁっ！？」
「ぅわっ、雷！？――ってちょ、春花、大丈夫だってば！」
「いやぁ今のはでっかい音やったねぇ……って２人とも何してるん？」
「え、おへそ取られたら嫌だなぁと……」
「うんうん（こくこく）」
「何か懐かしいネタだなーそれｗ」
間もなく――シャワーに似た音が、喫茶店の外に響き始めた。
交差点のアスファルトに黒い点が出来たかと思うと、見る見る広がり、地表に薄いもやが立ち込める。
喫茶店の窓にも無数の水滴が降りかかる……窓からは５０ｃｍほど庇が出ているがお構いなしだ。
１０秒と経たないうちに、金芽台はゲリラ豪雨の如き土砂降りの中に放り込まれた。
「やっぱり降ってきましたね……」
「雲が真っ黒だったからな……１時間も待ってくれないとは思ってた」
「うわー凄い雨……洪水とかにならないよね？」
「ここは台地だから水害の心配はないわよ、斜面からも離れてるから土砂災害とも無縁ね♪」
猛烈な雷雨などなんのその、マスターの華子はにこにことして安全を保障する。
「へぇ、そうなんですか」
「皆さんどこから来たのかしら？ この町――金芽台じゃないみたいだけど」
「えぇと東京旅行で……その、この町に知り合いがいたから」
「そ、そうなんです、その知り合い、今日は忙しいみたいで……」
咄嗟に言いつくろう春花と神通。
まさか異世界から飛ばされてきました、なんて言えるわけがない。
「あらそぉ♪ ここは良い町よ〜大人になったら引越してきなさいな、おばさん歓迎するわよ♪」
「……母さん注文は？」
娘の突っ込みに照れ笑いを浮かべる華子……この年頃の女性はしばしば会話好きで世話好きだ。
「あ、ごめんなさいね１人で喋っちゃって。メニューは決まったかしら？」
「あ、はい。えぇっとですね……」
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「はい、クリームあんみつとチョコレートパフェのメガ盛、お待ちどう様♪」
引き続き喫茶はなこ。
華子が１番奥の席に、注文のデザートをことん、と置く。
陽炎の席にクリームあんみつ、冬雪の席にチョコパフェ――どんぶりサイズのメガ盛で。
外は相変わらず、強い雨と雷……真夏特有の大自然のアンサンブルが続いている。
「来た来た♪」
「久し振りのチョコパフェ……会いたかったよぉ（うるうる）」
「みゃうー ……冬水のイチゴパフェ、まだかなぁ」
「店員さんが１人みたいですし、時間がかかるのも仕方ないですよ」
「うっ……少し水を飲みすぎたかな。すみません、少し失礼して……」
腹具合が緩くなったのか、三四郎が席を立ち、店の奥のトイレに小走りで駆けて行く。
そんなちょっと慌しい店内を加奈やディアスや咲が眺めている。
「マスター忙しそうだね……団体さん来ちゃったし」
「珍しいよねぇ、こんな日に団体客とかさ」
「クリスマスとかシーズンになるとアルバイト雇うんだけど、今日はいないっぽいしね。
あたし、手伝って来ようかなぁ――」
咲がそう言って、そわそわしながら腰を浮かせた――その時だった。
――ガラガラ、ドッシャーーーーーン
強烈な閃光と同時に、ビルの壁でもぶち破ったような轟音が響き渡った！
「――ひゃぁあぁっっ！？」
「うぉぅっ、まぶしっ！？」
少女たちが悲鳴を上げる間もあらばこそ――喫茶店の照明が落ち、室内が閉店後のように暗くなる。
まだ日は暮れていないため真っ暗闇ではないが、雨天のためかなり暗い。
どうやら――目の前の交差点の電柱付近に落雷したらしい。
“団体席”でも再び悲鳴が上がった――同じ声に加えて更に複数の声。
「――ぅわっ、なっ何！？」
「びっくりしたわぁ、凄かったねぇ今の」
「凄い音だな……雷だと思うけど、交差点の真上に落ちたのかも」
「あらら、停電？……困ったわね、冷蔵庫の食材が傷んじゃうわ」
「母さん、あたし、ブレーカー上げてくる！」
「無理じゃないかしら……信号も消えてるし、ここだけの停電じゃないわよ？」
思わず席を飛び出した咲に、厨房から出てきた華子が言葉を返した、その時――
「――うわぁあぁあぁぁぁっ！！？」
出し抜けにトイレの方から悲鳴が上がった――さっき席を外した、三四郎の声だ。
「ひゃっ……こっ、今度は何！？」
「桃ノ木の声だ！何が起きた！？」
「さっ、三四郎君！？」
「三四郎先輩！！」
“団体席”の少女たちも立ち上がり、ばたばたばたとトイレを目指す。
「ひゃぁあぁ……」
「先輩っ、どうしたの！？」
「へっ！？ あっちょっ、お、終里ちゃん！？」
「えっ？ ……あ」
トイレの入口では、ズボンを半分ほど下ろした、トランクス姿の三四郎が、腰を抜かしていた。
そんな彼氏のあられもない姿を目にして、終里は瞬間湯沸器のように真っ赤になる。
「どうしたの！？」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ！」
慌ててズボンを引っ張り上げる三四郎……だが、まだ足はふらついている。
「あっ……ご、ごめん、三四郎君」
「いやぁ、お見苦しいところをお見せしちゃいまして」
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「……それで結局、何が起きたの？」
「えぇっとですね……」
終里に肩を借りながら、三四郎は何と言ったらいいものかと目を泳がせた。
その雰囲気を察した秋綺が、小さな声で呟く。
「……出たんだな、アヤカシが」
動揺を隠し切れない表情で、三四郎は顔を小さく縦に振った。
「アヤカシって確か、昨日話してた、ウワサから生まれたって言う……」
「はいはい、深海棲艦みたいな連中のことだっけね？」
「トイレで出たってことは、花子さんかな？」
冬雪の言葉に、三四郎は今度は小さく、首を横に振った。
「いえ……１瞬しか見ていないんですが、男性だったように見えます。
多分……“トイレの太郎”じゃないかと」
「トイレの花子さんってのは聞いたことあるけど……太郎君までいるのね」
「それで、そいつはどこに行ったんだ？」
「分かりません……不意打ちに動揺してしまって、行き先までは……」
まぁ……普通の人間に、アヤカシの追跡までできるはずもなく。
三四郎はある程度免疫がある方だが、さすがにメイデンズほどには慣れていない。
追跡は困難と察した冬雪たちは、トイレを後にした。
だが異変は――その直後に起きた。
「――きゃあぁあぁぁあぁぁぁっ！？」
「何っ、また出たの！？」
「店内の方だ！！」
再び少女たちの集団が、ばたばたばたばたと廊下を駆ける……廊下を走っちゃいけませんよっ
冬雪たちが店内に戻ると、顔を引きつらせて立ちすくむ加奈と、動揺を隠せない咲の姿が目に入った。
トイレに向かう廊下の入口にいたシドも、呆気に取られたような表情をしている。
「……おいおい、どうなってんだよコレ」
いや……加奈たちだけではなかった。
店の奥――さっきまで冬雪たちがいた席の手前に、背の高い人影がゆらりと立っている。
全体に細身だが、体形や肩幅から男性であることが見て取れる……確かさっきまでいなかったはずだ。
「あっ……こっ、こいつです！！」
「こいつが……トイレの太郎！？」
腕に何かを抱えて、ぴちゃぴちゃ、と不気味な音を立てていた男の顔が、くるりと振り返った。
口の周りに赤と白と茶色の流動物を、べっとりと付けている。
「やぁ……僕の名を呼んだかい……？」
真っ赤な舌を出して、不気味な男――太郎は口の周りについていたクリームを、ぺろりと舐め取った。
容姿こそ人間の青年だが、その素振りはとても人間とは思えないほど奇怪だ。
ホラー映画のような雰囲気に、少女たちは呆然として次の行動が取れない――その時だった。
「あっ……そっ、それはっ！？」
ふと――冬雪が悲痛な声を上げた。
良く見れば……太郎が腕に抱えているのは、さっき冬雪が食べようとしていた、メガ盛パフェのグラス。
冬雪は目に涙を浮かべ、わなわなと腕を震わせている。
「楽しみにしていたのに……大事に、大事に食べようと思ってたのに……！」
「あーっ、あたしのクリームソーダがっ！？」
「冬水のイチゴパフェーーー！！」
「ウチのコーヒーフロート……まだクリーム残ってたはずやんなっ！？」
「クリームあんみつ……まだ半分以上残っていたのに……」
「妬くなよお嬢ちゃん達……とっても美味しかっ――たバべビョっ！？」
太郎が返答したのと――冬雪がその細い腕を振り被って、太郎の鳩尾を殴ったのが同時だった。
……普通の人間ではないはずだが、幽霊のように突き抜けるわけでもないらしい。
そして――それが“試合開始”のゴングになった。
「食らえ――クリームソーダの仇っ！！」
「いやちょっ、お嬢――げぶょっ」
「これは――コーヒーフロートの恨みや！！」
「いやほとんど残っ――てべればっ」
「ついでに――フルーツパフェの審判も聞きなさいっ！！」
「それもさくらんぼの種しか――はばらっ」
さりげなく――喫茶店の娘、乱入。
少女達の集中砲火を受けて、よろめいた太郎の目の前に、ピンクのオーラを立ち上らせる少女。
「そーだよね……冬水のイチゴパフェも……返してくれるよねっ！！」
「あのそれって確か、まだ注文届いてなか――ごふうぅっ」
そう、言い訳など聞いてはいないし、聞こえてもいない。
かつて冬雪の分身アヤカシ――ドッペルゲンガーを名乗った冬水の正拳突き、クリティカルヒット。
「こっ……これが……食べ物の……恨み……ぐはあぁっ」
まるでＫＯされたボクサーのように、太郎はゆっくりと倒れ伏し――間もなく消え去った。
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ダメージを受けた太郎が撤退すると同時に、停電が回復した……明るくなる店内。
先ほどまで洪水でも起きるかと思うほど激しかった雨も、峠を越えている。
しかし……店内は燦々たる有様だった。
プレイボーイのような素振りを見せた太郎だが――立つ鳥後を濁さずというコトワザは知らぬらしく、
テーブルの上と言わず床と言わず、こぼれたジュースやクリームで汚れ、
パフェやジュースが入っていたグラスの１部は床に落ちている。
アヤカシがもたらした変化は、ラッシュガイらの襲撃があった時のように、
アヤカシ消滅と同時に元に復元されることも多いはずだが、この場合はどうも異なっていたらしい。
持っている“属性”の違いでもあるのだろうか。
華子は呆然とした表情で、その惨状を眺めている。
蹂躙された店内を見て途方に暮れるというよりも、何が起きたのか理解できない表情だ。
「い……いったい……これは？」
「あの“行儀の悪い食い逃げおばけ”の所為……多分ね」
「お、おばけって……」
「母さん、今は何が起きたっておかしくないんだよ、怪獣とか怪人とかロボットとかさ」
まぁ世の中、大人より子供の方が、しばしば想像力豊かでバイタリティに富むものだ。
「ふぅ……良く分からないけれど、片付けなきゃね」
「あ、あたしもやる！」
「あたしもやりますっ」
「あらあら、加奈ちゃんまで手伝ってくれなくてもいいのに」
「いいんです、黙って見てるのも厚かましいですし」
「あ、あの……あたしたちも、お手伝いしていいですか？」
ふと――横から声がして、加奈と陽炎の目が合った。
「え……あ……えぇっと」
「あ、あたし陽炎って言います、こっちは黒潮、向こうは夕張さんと神通さん」
「よろしゅーにｗ」
「は、はぁ……青葉……加奈、です」
咄嗟のことに良く状況がつかめず、きょとんとしたまま言葉を返す加奈。
「あ、あらあら……皆さんはお客さんなんだから、そんなことしなくても」
「いえ、やらせてください……みんなで片付けた方が早いですし」
「コレもけじめだよね……えっと、このグラスは洗い場でいいんですか？」
「そうですね、それじゃ私はテーブルの方を」
「だよね。ほら冬雪、あんたも手伝う！」
「え？……あ、あぁうん」
「みゃう、冬水もお手伝いするー！」
まさに雨降って――地固まった喫茶はなこであった。
……それから数時間後。
雨は上がっていた……陽が西の地平線近くに傾き、まるで台風一過のような澄み渡った空が広がる。
からんころん、と喫茶はなこの扉を開けて、冬雪たちが外に出てきた。
「わぁ、綺麗な夕焼け！」
「おぉー、いいわねぇ、こっちに来て１番綺麗な空かも？」
「雷雨が空気の汚れを全部流したんだな」
「でも本当にお金、いいんですか？」
「いいのよぉ。うちも注文を果たせなかったし、片づけまで手伝ってくれて、お代なんて言えないわ。
今日はお茶しか出せなかったけれど、またいらっしゃいな、今度こそ腕によりをかけるから♪」
「あ、ありがとう御座います！」
「ほんと、人生何が起きるか分からないよねぇ」
「さっちゃん……その言い方っておばさんみたいだよ……」
「みゃはは、お友達いっぱ〜い♪」
いつの間にか、旧知のような仲に仕上がっている少女たちと少年たち。
サイトＧを出る前よりも大人数になった１行は、“学園通り”の交差点を東から西に渡った。
因みに咲は喫茶はなこが“自宅”のため、喫茶店の前で手を振っている。
「学園通りってことは、この先に学校があるの？」
「うん。私立金芽台学校、あたしたちが通ってる学校ね……明日から夏休みだけどｗ」
「金芽台“学校”なのに“学園通り”なのね？」
「うちの学校って昔女子高で、その時“金芽台女学園”だったからみたい」
そして数分後――少年少女たちはサイトＧ、つまり“金芽台グリーンハイツ”前にたどり着いた。
「碓氷さんたちは、いつまでここにいるんですか？」
「しばらくはいるよ……青葉さんたちも夏休みみたいだし、また遊ぼうよ♪」
「お〜、良いですね〜♪」
そして１４人の少年と少女たちは、近日再会の誓いを交わして、それぞれの帰途に着いたのである。
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| （７章１話／７章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2012年頃に旧ＯＷ企画向けに草稿を作成したエピソードに、再編パートを追記したもの。
旧企画打切によって登場しなくなったキャラの代わりに“駆逐艦娘”をくっつけて、物語を組み直している。
トイレの太郎はレオ（流離太）氏提案のキャラで、花子（桜子）と関わりがある肉体派のアヤカシであるが、
太郎が喫茶はなこで繰り広げる行儀の悪い騒動は、G-maのアイデアによる（汗）
１方ジーラと少女たちの邂逅は、旧企画では「少女に泣かれる」展開だったが変わっている。
自らもアヤカシを起源とする冬水が、ジーラ如きに驚く気がしなかったからだ（笑） |
