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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130720E） |
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―― ……さん、……ルイさん……起きて――
誰かが“自分”を呼ぶような声がした気がして、ふと“彼女”は我に返った。
枝葉の隙間から陽光が降り注ぐ、どことも知れぬ森の中で。
（……ぇ……ぁれ……ここ、は……？）
（――良かったぁ……みんな、ルイさん気付いたよ！）
（……ぁ……え……えっ！？）
彼女を覗き込む、全身金色の少女。
見開いている目に瞳の影はなく、文字通り黄金像のようだが……ゆらゆらと動き、笑顔を浮かべている。
笑顔を浮かべた金色の少女は、声にならない“心の言葉”で彼女に話しかけてきた。
金髪よりもメタリックな髪越しにこぼれる陽光が、キラキラと輝いて美しい。
（……こ、コナ、さん……？）
（えっ！？ ――あぁそっか、確かにあたし、コナさんに似てるもんね……ルキだよ）
（る、ルキ、さん？）
戸惑うような感情を浮かべたまま、彼女は起き上がる――その姿も、人間とは似て否なる。
まるでルビーを思わせる、全身真っ赤で半透明な体をしている少女だ。
そしてこちらの赤い少女も、音にならない言葉を発する。
（ルイさん気がついた！ 良かったぁ）
（大丈夫？ 心配したよ！）
（……い、いったい、どう、なってるの……？）
ルイと呼ばれた赤い少女の周囲には、金と銀と青と緑の、まるで宝石のような少女が４人。
ルイの戸惑いも――無理からぬものだった。
何故なら“彼女たち”は、ついこの前まで自分の体を持たず、ルイと“同化”していたのだから。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第７章 無機物の生命体たち ★
2013年7月20日―日本・関東其の１１
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ルイは、メタロイドと呼ばれる“人工種族”である。
形こそ人間の姿をしているが、全身無垢の、ルビーに似た半透明の鉱物の体を持っている。
光を浴びてワインのようにキラキラと輝く姿はまさに宝石のようだが、自分の意思で動くことが出来る。
目の中に瞳の影こそないが、自分の意思で表情を作り、笑うことも怒ることも出来るのだ。
ただし――生まれつきこの姿だったわけではなく、ルイは元々「人間だった」のであるが。
簡単に言えば、１種の“改造人間”である。
とある秘密結社の手によって、ルビーのような鉱物の体に変えられた、元人間の少女なのだ。
自分の意思で動き、表情も自由につけることが出来るが、“無垢の石像”であるため声が出せない。
そのためルイは――いや大半のメタロイドは――念話とも呼ぶ“精神の言葉”でコミュニケーションする。
２次的な処理を受けることで「声が出せる」メタロイドもいるが、少数派である。
実は今、ルイの周囲にいる４人の少女も、ルイと同じく元人間のメタロイドである。
ゴールドを思わせる姿の少女がルキ――最初にルイに念話で話しかけた少女だ。
そして、シルバーを思わせるメタリックな姿の少女がルク。
サファイアを思わせる青の半透明の姿の少女がルカ。
エメラルドを思わせる緑の半透明の姿の少女がルウ――そう、ルイに呼ばれている。
元々は秘密結社の“実験体”で名前が存在せず、“人間時代”の記憶もほとんどないため、
これらの名前はルイが自分の名前に因んで、後から彼女たちに付けたものだ。
１方ルイ自身は不完全ながら人間時代の記憶が残っており、名前も本名の“瑠唯”に由来するらしい。
そんなルイが戸惑っているのは――ルキたちが「別々に動いている」ことであった。
（みんな……体、持ってる？）
しかも、ルイの記憶が正しい限り、ルキたちは発見当初、まるでトルソーのように下半身がなかった。
そしてとある“事件”によってルイと“融合”し、彼女の意識下で“共生”することになった経緯がある。
そんな経緯を持つはずのルキたちが今、下半身を含めた全身を持ち、各々の意思で動いているのだ。
（そうそう、不思議だよね）
（あたしたちも、気がついた時はいつの間にかこうなっててさ）
（それも驚いたけど、自分の意思で動けるのも驚いたよね）
（どうなってるのか分からないけど、何だか嬉しい……夢じゃないと良いなぁ）
（そう――こうやってほら、ルイさんと手を取り合うことも出来るんだよ）
そう言って、ルキは金色の手をルイに差し出す……“トルソー化”していた時にはなかった手を。
ルイは戸惑いながらも、笑顔を浮かべてその手を取った。
木々が生い茂る森の中というシチュエーションも相まって、まるで神話の世界である。
（そっか……まさに奇跡だね。 あたしも夢じゃなきゃ良いなと思う）
（まぁそれは、凄く良いんだけどね……）
とふと、今まで喜色満面だったルキが突然、少し困ったような表情を浮かべた。
（……どうしたの？）
（服――持ってない？ 着る物、なくてさ）
そう――ルイ以外は全員、「一糸まとわぬ動く少女像」だったのだ。
（あ、そっか）
（人間の体じゃないのに、動けると何だか恥ずかしくなるのよね）
（わかるわかる）
（せめて大きな葉っぱでもあったらなぁ）
因みにルイは一応――服を着ている。
結果的に、ルビー色のマネキンが服を着ているような外見だが。
ルイはなおも戸惑いながら、羽織っていたコートのような上着を脱いだ。
枝葉か岩に引っ掛けたのだろうか、コートはところどころ細かく擦り切れている。
（これしか、ないんだよねぇ……いっそあたしも、裸になったら恥ずかしくないかも？）
（えっちょっ、ルイさん！？）
（いやいや、それはさすがにまずいよルイさん）
（１着か……ジャンケンで決める？）
（ジャンケンかぁ、良いね、今は手も足もあるしね！）
……そういう問題なんですかね？
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（ところで……ここはどこ？）
ジャンケンで服を手に入れたルクがコートを羽織ってる時、ルイがそう言った。
とたんに４人の“鉱物娘”は、戸惑いの表情を浮かべる。
（んー、どこなんだろうね？）
（あたしたちも分からないのよ、気付いたらここに倒れてて）
（それに何だか夏っぽいよね、この前冬だった気がするんだけど）
（あったかいのは良いけどねぇ）
小さな沢沿いに小川を見つけたルカが、パシャパシャと川面に鉱物の素足を入れる。
サファイアを思わせるその質感が小川の流れと混ざり、まるでルカの足も水で出来ているかのようだ。
全身が金属や宝石のように硬いため、石や枝の先で傷つく心配がないのはこの場合、幸いかも知れない。
（こうやって眺めると、下流に向かって開けてるように見えるかな？）
（そっちに行ったら、町に出るってこと？）
（そうだ、町に出て訴えたら、服も貸してくれるかも）
（でもこの姿を見せるの？ 朝陽市の人だったら分かってくれるけど、そうとは限らないんじゃない？）
確かに、普通の人間が、生きた石像のようなメタロイドを理解するとは考えにくい。
せめて声を出して会話できれば、誤解を解くことも出来るかも知れないが。
彼女たちが知る“朝陽市の人”の１部は、彼女たちのこうした非常識な境遇を知っているようだが。
（そうだけど……降りるだけ降りてみない？ ここで粘っても仕方ないしさ）
（んーまぁ、そうだねぇ。エミちゃんやサラさん、スミレさんもどこに行ったか分からないしね――）
呟くようにそこまで言いかけた時、ルイははっと思い返した。
彼女たちにとって“因縁の敵”と対峙していた時に、突如として起きた“異変”。
あの異変で意識を失い、気付いたらこの森の中で、１つの体に同化していたはずのルイとルキたち５人が、
どういうわけか１人１人“別々の体”で倒れていたのだ。
１方その異変の時、行動を共にしていたはずの別の“仲間たち”の姿も、今はどこにも見当たらない。
（みんな……どこに行ったんだろう）
（そうだよね……それに季節まで変わっちゃったみたいな）
そう……あの異変に遭遇した時は確か冬――新年を間近に迎えた、大晦日の午前中だったはずなのだ。
しかし今はどう見ても夏の午後……どこかからセミの声も聞こえてくるから、間違いない。
単に半年ほども倒れ込んでいただけだと言えなくもないが、ならば仲間たちとすぐに再会出来るはずだ。
因みにメタロイドは太陽光のような“熱源”だけあれば、水不足や食糧不足で死ぬことはない。
（半年くらい寝てただけ、だったりして？）
（それにしてはおかしくない？ スミレさんもサラさんもいないし、道が見えない森の中とかイミフ）
（やっぱり、町のほうに降りて行った方がいいのかな……）
（あたし、ちょって行ってみる。みんなはここで待っていて）
そう決意したのはルイだった……彼女は服も着ているし、この中で１番アクティブでもある。
（そういうわけには行かないよ、また迷っちゃったらどうしようもないじゃない）
（でも……あたしたち５人で町に出てったらそれこそ……）
（分かってる。 だから、町か道が見えるところまで行ったら、そこで待つってのはどう？）
そう提案したのはルウだ……ルイと同化していた４人の中では１番冷静な性格である。
（あーなるほどぉ）
（それ良いかも……じゃあひとまず、道を探さなきゃね♪）
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その頃――金芽台のサイトＧ。
「――能力テスト、ですか？」
今や“異世界召喚少女チームの溜まり場”になっている３階ホワイエに、本郷と龍二が上がってきた。
冬雪や夏月、黒潮や陽炎、スミレなどが午後の団らんをしている最中だった。
「あぁ、キミらにどんな能力があるのか、把握しておきたいと思ってね」
「はぁ……」
「錦糸町で起きた事件、そしてミッドウェイ海域で起きた事件、どちらのケースでも、
普通の人間とは異なる能力を持つ者たちが事件に巻き込まれて、結果としてここに来ているわけだ。
その情報について、口頭の聴取以外にも、把握すべきものがあると思うんだよ」
「お互いにどういう“特性”があるのか把握しておけば、今後似た事件が起きた際にも参考になるだろ？
状況次第では、“混成チーム”を組むことになる可能性もあるしな」
こちらは龍二だ。
実は少女たちにこの話をする１日前――つまり“ゲリラ豪雨事件”が起きた昨日のことであるが、
竜王チームの能力の“有効利用”が出来ないか、龍二は防衛特調にその話を打ち明けていた。
ジーラやキトラにしろ、ラティスやアイナ、ザラクやシド――いや当の龍二自身も、
“普通の人間とは異なる能力”を持って、ある種の慈善事業みたいなことを過去にやってきたためだ。
“異能”の持ち主が複数世界を越えて来たこの“事件”には、きっと重大な意味がある。
そう考えるのは必ずしも龍二だけではなかったが、立場上その思いがひときわ強い人物の１人でもあった。
それを本郷や黒木に打ち明けた時、「ならあの少女たちの特性も調査しましょうか」となったのだ。
「でもテストをやるにしても、どこでやるんです？」
「ひとまず立川基地の第３グランドを借りておいた……そこでどうかな？」
「グランドですか……艦娘は本来、海上で戦うものなんですけどねぇ」
苦笑いを浮かべて陽炎が呟く。
「その件だが、キミらのリーダーである瑞鶴さんに聞いたところ、艦娘の本分は確かに“洋上作戦”だが、
陸上でその能力が全く機能しないわけでもないということだ。
水上艦のような動きは出来ないかも知れないが、能力資質の一端を知ることは出来るんじゃないかな」
「もちろん、キミたちだけに“情報公開”を強いるつもりはない……我々も同じテストを受ける」
「……でもあの、同じタイプの能力を持っていないかも知れないのに、どうテストするんですか？」
こちらは神通だ……穏やかなキャラクターだが、艦娘随一のクールな戦術家でもある。
「その件については、自分が検査官を請け負うから問題ないよ」
そう言ったのはパドルだった……本郷と龍二の背後で、階段を上がってきた金髪の巨体が揺れる。
「我々ディガスには、能力資質や属性別に、その特性を評価するためのカリキュラムがあるんだよ。
まぁ１人だけだと情報が偏るから、アルティラ警備隊のセイヴン殿にも依頼したがね」
「どうも宜しく、あぁそちらの皆さんとは既に会っているね」
その言葉と共にセイヴン――人間体名モロボシ・ダンも階段を上がってきた……冬雪たちが反応する。
「あっ、この前の！？」
「みゃっ、あの赤い人だ！」
「やぁ、２日振りだね、今日はパドル大使の補佐をすることになった」
「……ところで、どうしてこの時間帯にテストを？」
ふと、ぼそりと突っ込んだのは夕張だった……ホワイエの壁に掛けた時計は午後４時を指しつつある。
パドルとセイヴンが、同時に決まりの悪そうな表情をした。
「本当は昼食後に実施したかったんだが、パドル大使に別の所要があってね」
「……済まない、大事な用事があったんだ」
実はパドルは先ほど江戸川警察署で、例の“暴走ゾイド事件”の関係者に会ってきたばかりであった。
更に“相棒”のアイレスは今頃――日向灘に出現した“謎の島”にいるはずだ。
おまけに江戸川区では、別の世界線からやってきた“召喚者”の出現も判明している。
テストの実施が夕方近くにずれ込んでしまったのも、実はこうしたスケジュールのためだったりする。
……時系列の整合性を取るのは大変なのだよ諸君orz
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ルビー娘ルイが、突然分裂した“４人娘”との奇跡の出会いに戸惑っていた頃。
別の森の中で、これまた人間離れした人影が２つ、ゆっくりと人気のない林道を歩いていた。
（サラさん……ここどこなんでしょう？）
（いやそれは……私にも分かりませんよぅ）
エメラルドを思わせる質感の小柄な少女――ルウに似るがより小柄で、こちらは服を着ている。
サファイアに似た質感の少女は逆に長身で、やはり服を着ている。
小柄な“エメラルド娘”に、声のない言葉でサラと呼ばれた長身の“サファイア娘”は困惑している。
２人とも目に瞳の影はないが、表情は豊かで動きも自然である。
（エミちゃん……覚えてますか？ あの時私たち、道路を歩いてましたよね？）
（ですよねぇ、こんな道じゃなかったですよね……何だか、森の空気も違う感じがするし）
（あと気温がかなり高いですよね……大晦日じゃないみたいで）
（セミ鳴いてるじゃないですかサラさん、どう考えても夏ですよコレ）
サラにエミと呼ばれたエメラルド娘が伸ばした緑色の指先に、トンボが１匹留まった。
適度にゆらゆら動かしてもトンボは逃げない……風に揺れる木の枝葉と思っているのかも知れない。
木漏れ日の反対側に出来た２人の色の着いた影が、２人の体が半透明であることを示唆する。
（ルイさんもスミレさんもいないし……どうなってるんだろう）
この２人の宝石のような少女たちも――実は、ルイたちと同じ秘密結社を起源とするメタロイドである。
ルイが経験した“異変”を彼女たちも経験し、そして同様に見覚えのない森の中で目覚めたのだ。
異変が起きる前は、峠道とは言えしっかりしたアスファルトの道路を歩いていたはずだが、
今２人が歩いているのは、舗装もされていない、獣道に限りなく近い細い林道なのだ。
（それにあの時……あのヘビ頭の人が確か『やっと来たか』って言っていたような……）
（あっそう言えば……サラさん、よく覚えてますね）
（私、記憶力は良い方なんですよ……人間だった頃は忘れちゃいましたけど）
（……ご、ごめんねサラさん）
（えっ！？ あっ、そんな顔しないでくださいエミちゃん、私こそすいません）
急に沈んだ表情を見せたエミに、サラは慌てた。
というのも、サラには人間だった頃の記憶がほとんどないが、エミはそれがあるからだ。
サラに嫌味を言う気は全くなかったが、２人の記憶の違いを思い起こさせたのは確かなのである。
（私は大丈夫ですから、前を向きましょうエミちゃん、ほら少し開けたところがあります！）
（ありがとサラさん……わぁ、大きな山が見える！）
沈んだ感情を振り払うように、２人は森が少し途切れた日向に歩みを進める。
……とそこで、雲を突き抜けるような円錐形の巨大な山が、空高く聳えている光景に遭遇した。
（……あれ？ あの山、どこかで見たような）
（そう言えば……富士山に似てますね。 もしそうなら、ここはあの有名な青木ヶ原樹海？）
（そっかぁ、じゃあ朝陽市からそんなに離れてないですね、良かったぁ……あれでも、
あたしたちどうして、こんなところにいるんだろう？）
（いやそれは……私にも分かりませんよぅ）
無限ループかねキミタチ。
しかし彼女たちはまだ知らない……自分たちが最初にいた“世界”から飛ばされてしまっていたことを。
ルイも、エミも、サラも、ルキたちも……その事実に気付くには、経験値が余りに足りなさ過ぎた。
“非常識”な経験と“非情”な運命を背負った彼女らですら“世界の壁”は高かったのだ。
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――ガァン！
立川基地第３グランドに、古いライフルに似た重い銃声が響き渡った。
ライフルよりは四角い、小銃サイズの“連装砲”を構えているのは陽炎と黒潮だ。
その銃身――いや砲身から火薬の臭いと共に白煙が立ち上る……弾数に限りがあるため空砲射撃だが。
駆逐艦娘の“特別陸上模擬演習”を、パドルとセイヴンの他、防衛隊や自衛隊の将校が眺めている。
……また公務員っぽい服装や迷彩服の“少女”も何人か立ち会っている。
今日、立川基地を訪れたばかりの“陸自娘”の代表格である……市ヶ谷や木更津茜の顔がある。
彼女ら自身は「来たばかり」なのでテストは受けないが、関係者周知を意図している。
解説は例によって、夕張が担当している。
「結構重い銃声だな……重機関砲、は少し大袈裟だが、まるで火縄銃だ」
「相手が魔物みたいな存在だというが……実弾で攻撃するのか？」
まじまじと眺める富谷や尾形の呟くような問いかけに、すかさず夕張が言葉を返す。
「実戦では霊的な処理を施した砲弾を使います……深海棲艦の妖気を浄化する効果があるんですよ」
「浄化か……退魔の術師が使う神器や聖水のようなものですかね、パドル大使？」
「そうだな、単なる儀式だけじゃなくて、実際に波動術式と互換性のある処理を施しているようだ」
「はどうじゅつしき？？？」
「おっと失礼、厳密には違うんだが、要は薬品を使った魔術のようなものだと思ってもらえば」
なるほど、と頷く龍二に対して、佐津間や斉藤は微妙な表情をしている。
この軍事基地のど真ん中で、スピリチュアルな術式の話をされてもピンと来ないだろう。
「金剛さんや榛名さんは、もっと重い音がするんですよ……人間サイズとは言え、戦艦の能力ですから」
「フィラデルフィアにいる時に見たが、あれこそ戦闘機の機関砲くらいのサイズがあったな」
「ふむ……ってことは、軽くＧｅｘ４くらいの威力は出そうだな」
「じぇっくす……えぇと確か、宇宙のエネルギー単位の１つなんですよね？」
「そうだな、地球の物理単位で言えば、概ね10トンくらいの応力を持つ攻撃力だと思ってくれれば良い。
急所に当てることさえ出来れば、相手が怪獣クラスじゃない限りほぼ致命傷だろう」
「よーするに暴走トラックレベルってことか……おーこわｗ」
その言葉と共に、ふらりとジーラが第３グランドに現れた……背後にキトラやラティスもいる。
彼らも今回の能力テストを受けるのだ。
「キミらの身体能力もそのぐらいあるはずだ……殴り合えるんじゃないか？」
「えぇっ、ジーラさんって、金剛さんの砲雷撃と同じくらいの力が出るんですか！？」
「推測だがね、自分の分析が間違ってなければ、Ｇｅｘ５前後じゃないかな、この２人は」
２人、というのはジーラとキトラのことだ……ジーラは取り合えず、ドヤ顔でガッツポーズする。
さすが“自称永遠の14歳”を名乗るだけあって、リアクションがいちいち幼――もとい若い。
「あっちの２人……陽炎と黒潮だったかな、あの２人の攻撃力はＧｅｘ３前後と見た。
“戦艦娘”と比べれば１ケタ以上落ちると思うが、あの砲撃だってゾウを１発で仕留められるはずだ」
「馬力は戦艦の１割以上あるはずですが……まぁ魚雷を使えばもっと攻撃力出せるんですけどねぇ」
「陸上演習では、空砲射撃は出来ても魚雷は無理ですからね」
「パドル大使さらっと言ってるけど……ゾウを仕留める砲撃力って、ＲＰＧ担いでるようなモンだよな」
「そうなるよな……見た目中学生くらいの女の子なのに、戦闘力はレンジャー並みってことか」
冷や汗交じりで苦笑する自衛官コンビ。
因みにＲＰＧとはＴＶゲームのことではなく、使い切りの携帯式ロケットランチャーのことだ。
防衛隊のみならず、自衛隊もこの手のランチャーを国内でライセンス生産している。
「……そのうちあたしらもテスト受けた方が良いんだろうね、これって」
「でしょうね」
自衛官コンビの横で、茜と市ヶ谷が言葉を交わす。
こちらは特に冷や汗という感じではない……彼女らの中では“想定の範囲内”らしい。
「さて……次はキミたちの番だ」
パドルはそう言って、冬雪たち“ホーリーメイデンズ”の少女たちに向き合う。
「はぁ……でもボクら、アヤカシ戦に特化してるから、あんな能力ないですよ？」
「物理効果ゼロってことはないと思いますけど、砲弾を撃てるわけじゃないですしねぇ」
「手品みたいにしか見えないかもね……誰か受け止めるのいたら……あ、ごめん、もちろん冗談」
ぼそりと終里が呟いた……口数は少ないが、実は夏月や秋綺並みに気が強い。
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「心配要らないよ、自分が相手するから」
冗談半分に終里が言った提案に対し、名乗り出たのはラティスである。
冬雪たちは戸惑いの表情を浮かべた……退魔の術式を受け止めるのは口で言うほど簡単ではないからだ。
魔物や妖怪を浄化する術式を生身の人間が受ければ、魂を破壊される恐れもあるのだ。
「やっと自分の持ち味を出せるなｗ」
「班長それ嫌味？」
龍二の言葉に、ラティスは青い顔でぷぅと頬を膨らませた……中性的な可愛さが冬雪とよく似ている。
「そう言えば、ラティスさんって『感知能力の塊』ってジーラさんが言ってたね確か。
あたしたちの特性を最初に見抜いたのも彼女――あいや、“彼”って言うべきなのかなこの場合？」
これは瑞鶴だ……因みにラティスが“元男子”であることは昨日聞かされている。
そんな言葉を受けて、ラティスは再び、中性的な柔らかい笑みを、やや思わせぶりに浮かべた。
「感知能力だけじゃないんだなぁ、実は♪」
そう言ったラティスは、ふくらはぎまで届く長い髪の２ヶ所に留めてある髪留めをするりと解いた。
その瞬間、目が覚めるような濃い青色の長髪が、まるでマントのように広がった。
強い風もないのに、広がった髪はまるで海岸の波のようにリズミカルに揺れている。
更に全身に、淡いオーラのようなものが立ち上っていることも、霊感ある者なら見えただろう。
普段この長髪を結んでいる髪留めは、ラティスの本来の力を抑えるリミッターなのである。
「うわっ……何コレ、凄い！！？」
「霊力系や魔力系の術式なら任せてよ、怪獣倒せるような威力じゃなきゃ、受け止める自信あるからさ。
何だったら、弾き返しても良いけどねｗ」
霊感に自信がない者でも、ラティスの長髪がリズミカルに揺れる“超常現象”は見えているだろう。
とりわけ、迷彩服の皆様方。
「……常識がいかに狭いものかよく分かるよ、こういう場所にいると」
「ですよね、怪獣の知識とかここじゃ役に立たないし」
「つまり……遠慮はしなくても良いってことですよね？」
「もちろん♪」
「分かりました、ならば――」
間もなく冬雪たちの言霊詠唱が始まる……陽が西に傾いた青空に、霊力の柱が立ち上った。
そして立川基地のグランドに、カラフルな６色の戦巫女が姿を現す。
ホーリーメイデンズの“依代”となる少女たち自身は、艦娘と違って元々は普通の人間である。
……少女化した元男子が、何人か混じっていることを除けば。
しかし玄武ら“退魔の神獣”の力をその身に降ろした瞬間、全身の経絡を伝って霊感が引き上げられ、
訓練を積んだ呪術師に勝るとも劣らない“特異体質の巫女”となるのだ。
「――いの１番、ホーリーライト、行くぜ！」
最初に仕掛けたのはメイデンズの切り込み隊長・秋綺――ホーリーライトだ。
法術の神器オーヌサステッキを変形させた雷神の槍“雷槍”をラティスに突き出した。
水平の雷電が、まるでメーサービームのようにほとばしる。
「うぉぉ、最初は電撃か！」
「妖怪相手に特化されてるって言ってたが、普通に使える技じゃないか！」
その電撃を、ラティスは正面から受け止める――が、広がった髪に雷電が吸い込まれていき、
渦を巻いたかと思うと、右手に集束して行った。
「良いね――これはお礼だ！」
「なっ――マジかっ！？」
宣言通り「弾き返」された雷撃を、槍を捻って叩き落すホーリーライト……地面に火花が飛んだ。
「スゲーな……マジックでも見ないぜ、こんなシーン」
「おぉ……スゴイねぇ愛ちゃん、絵になるなぁ」
「もしかしたらこの能力……マグマ軍にも通用するかも知れませんね」
迷彩服組はただ呆然としたり、あるいは感心するばかりだが、艦娘たちの見方は少し異なるようだ。
軽く腕組みをして呟く加賀に、再び夕張が補足を加える。
「なるほど、電撃か……威力は砲撃に劣るでしょうけど、スピードが違うわね」
「亜光速ってやつですよね……大気は絶縁体だから、確か光速そのものじゃないと思う。
光の動きは視認できないですからね……光が見えた瞬間、それはつまり――」
おぬしの目に光が当たっておるのじゃよ！
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目立った“能力者”のテストが一通り済んだ頃――スミレの順番が回ってきた。
午後５時が過ぎ、彼女の名前通りのスミレ色のガラス細工のような肌も、今は淡く西日を反射する。
「じゃあ――スミレ君だったかな、キミの能力は？」
「能力……といってもピンと来ないんですけどね、皆さんみたいな能力は……このくらいかな？」
そう言うと、彼女の指先の銀色の爪が、鋭い音色と共に30cmほども伸びた。
「おぉっ、爪がナイフになるのか！」
「切れ味鋭そう……ムラクモより良く切れるんじゃない？」
「でもホント、このくらいですよ……鉄砲とか電撃とか見せられた後じゃ、地味でしょ？
……パドルさんは知ってると思いますけど」
因みにスミレとパドルには、とある事件に絡んで面識がある。
実はその事件、この“世界”に召喚された別のキャラとも関わるのだが――その話は後に回そう。
「キミの場合は……その体そのものが、１番の“能力”なのかも知れないな」
そう言ったのは龍二だ……どうも彼は、スミレのような“鉱物娘”を他にも何人か、知っているらしい。
「あーそっか……確かに頑丈ですもんね」
「見た目、普通の鉱物や金属ではなさそうだが……どういう材質なのかにもよりますかね？」
「多分セラミックの１種じゃないかな……銀河社会にもこういう、高強度セラミック質の素材がある」
こちらはセイヴンだ……パドル同様、銀河社会を知る彼にも豊富な知識がある。
「セラミック……そう言えば、元いた世界で『地球で最も硬い素材』だって言ってた人が」
「地球で最も硬い物質……ダイヤモンド、って感じはしませんよね」
「自分の世界にもそういう素材があったよ、高強度セラミックの１種だが、ダイヤよりも硬いんだ」
「あーありましたねぇ、ＺＦセラミックスでしたっけ、アレ反則だよなｗ」
「つまり……あたしの体も、そういうセラミックだってことですか？」
「断定は出来ないが、その可能性はありそうだな。今ちょっと組成を見てるが、確かにかなり硬そうだ」
そう言って、パドルはスミレの体を凝視する……スミレは戸惑うような表情を浮かべるが、
別に意味なく凝視しているわけではない……この金髪星人にも、ラティスのような透視能力があるのだ。
「後は実際に確かめれば良いことだ――というわけで、ちょっと失敬」
言うや、ポケットから果物ナイフのようなものを取り出したパドルは、やおらスミレの腕を突いた！
「えっ――ちょっ！？」
「ちょっと、パドル大使何を！？」
突然の“刺突”に緊迫感が走った次の瞬間――パキン、と聞き慣れない鋭い音が響いた。
そして空中に舞い上がった、キラキラと光る“何か”を、セイヴンが素早く手を伸ばして確保する。
それは……根元近くから２つに割れた、ナイフの刃先だった。
「えっ……ナイフ、折れた！？」
「うぉぅ、マジっすか……彼女の腕、キズ１つないんスけど」
緊迫感から困惑に変わるような、あるいは驚きに転化するような、ざわめきがこだます。
「つまりそういうことさ……万一があっては困るから、余り鋭くないナイフを使ったんだがね」
「……あぁ、びっくりした……確かに、キズないですね、良かったぁ」
「道理で、水霊のモリが通用しないわけね……」
「あの加速度で突いたナイフが折れ、傷もないところを見ると、小銃の弾にも耐えるんじゃないかな」
「小銃って要はライフルとかサブマシンガンですよね……確か鍛えた日本刀も折っちゃうはずですけど」
「けど確かに、ＺＦセラミックスと同等の強度なら、銃弾を弾くのも分かるよ。
ＺＦセラミックスをコーティングした防弾パネルは、マシンガンの連射に耐えたデータもある」
納得するように言う龍二の横で、迷彩組は今日何度目かの冷や汗を浮かべた。
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その頃――金芽台南３丁目のとある民家。
この辺りでは大きな家だ……その表札には『神寺』と書いてある。
そう……夏休みが始まる少し前に不登校になった、加奈の同級生・命（みこと）の自宅である。
２階に向かう階段を、命がゆっくりと登っていく……まるで亡者のような足取りで。
整った顔立ちでそれなりにハンサムだが、目尻にクマができ、瞳には光がなくまさに“廃人”のようだ。
中学２年の１学期前半まで、命はクラスで１・２を争う優等生であった。
１年生の頃から常に学年で１桁順位であり、家族からも有名大への進学が期待されていたらしい。
それが暗転したのが――雨の降る６月、塾で実施された模試であった。
試験の結果が思った以上に芳しくなかったらしく、本人も落胆し、両親からも叱責された。
冷静に見れば、命が自分の学力を過信し、実力以上の難易度の模試に挑戦したためであったが、
その結果が思わしくなかった上に、慰める立場の両親に激しく叱られたことで酷く落ち込んでしまったのだ。
優等生の家庭ではどこででもあり得るパターンと言えば、それまでかも知れないが。
思春期の情緒が不安定な中で起こった“挫折”が、彼を不登校へと走らせた。
汚名を抱え、同級生から嘲笑されるために学校に行くことなど、繊細な彼には耐えられなかったのだ。
両親も“心を閉ざした息子”にどう接していいか分からず、不登校は長期化した。
もちろん親として息子を愛してはいた……だがこれまでステレオタイプの“教育者”だった両親に、
精神的なダメージを負った子供をケアする知識など、皆無と言って良かったのである。
これまでの命が、「手のかからない良い子」であっただけに……
――だが実は、彼がここまで“落ちぶれた”のは、それだけが理由ではなかった。
虚ろな目で自室の扉に向かう命の耳には、他者には聞こえない“言葉”が聞こえていた。
それはここ数日、幻聴のように命に取り付き、彼から生気を奪っていった。
不気味に思った両親は命に通院を勧めたが……当然――彼は聞く耳を持たなかった。
（辛いだろう、苦しいだろう……みんなこの世界が悪いんだ、誰もお前の苦しみなど理解できない）
「……ソウダ……ダレモボクノクルシミナンカワカラナイ」
まるでロボットのように抑揚のない声で呟いた命は、脱力し切った手で扉を開ける。
かつては几帳面で、整理整頓も出来ていた命だが……今の自室は別人の部屋のように散らかっている。
冬用から変わっていない窓の厚いカーテンが閉められているため、部屋の中はかなり薄暗い。
（壊してしまえばいい……お前を理解できるのは闇だけだ……形あるものはいずれ滅びる）
「……ソウダ……コンナセカイナンカイラナイ」
（お前に贈り物だ……受け取ってくれ――同志）
よろよろとした足取りで、命は扉を閉め、そのままベッドに寝転がろうとした――その時だった。
ふと――机の上に見慣れないものが置いてあるのが見えた。
勉学に挫折し、ここ数日見向きもしなかった机の上に――場違いな狐の面が置かれている。
狐の面は少し浮き上がっているように見える……面の下に、何か置いてあるようだ。
「……オクリモノ……」
取り付かれたように机の前に歩み寄り、その上に置かれた面を持ち上げる命。
その面の下には――漆黒の着物のようなものが、小さく丁寧に折り畳まれて置かれてあった。
そう、まるで――喪服のように。
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| （７章７話／８章１話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2020年に執筆したエピソード（１部過去作の再編パートを含む）
加奈が被災するある事件の予兆を兼ねたエピソードであり、旧ＯＷ企画からＰＡシリーズに移行する過程で、
幾つかのエピソードの順番が変わり、設定も改修したために追加したものである。
G-ma作の“鉱物娘”ことルイが登場する設定は旧ＯＷ企画の頃からあったが、
ＰＡではスミレが先に登場する展開になるなど、幾つかの設定と時系列が変わっているのが特徴で、
この調整の過程で追加したプロットを含めて、１つのエピソードにまとめることにした。
ただそれでもやや尺が短かったため、サイトＧ滞在者の能力テストシーンを追記している（汗）
実はこのシーンも、旧ＯＷ企画で別のキャラに対してあり、そのキャラが登場しなくなったために再編したものだ。
ゾイド騒動の間に挟み込む形になったため、ちょっとバタバタした展開になっているorz
なお陸自娘が“見学”するシーンは時系列の都合上追加したものだが、慌ただしいためテストには参加していないorz |
