 |
★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（ABC23401R） |
（注）当ページには年齢制限情報が含まれております、ご注意ください。
|
エグゼクター総本山・ネヴァダ要塞。
その深部を、黒服に身を包んだ男が１人、歩いている。
ＺＯＡ工作員で片腕が機械化されたサイボーグ戦士――エギン・ウェイザー。
顔に刻まれた傷が、彼が歩んできた修羅場の過酷さを物語っている。
何度もエレベータを乗り換え、階段を駆け下り、更に下へ下へと。
地表に近い格納庫からは、既に４００ｍ以上も深い場所。
地上世界でスカイラインを形成している超高層ビルに匹敵する、地下の超高層ワールドだ。
エギンの脳内には、昨日ＡＢＣ主任のレオンが、電話越しに言った言葉が再生されていた。
『最新型の美女固めをお見せしたい……明日、司令室で待っている』
「何が美女固めだ……実戦に使えそうもないサンプルばかり量産しやがって」
彼１人しかいない業務用エレベータの中で、エギンは苦虫を噛み潰すように毒づいた。
|
ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ネヴァダ要塞深部 〜エヴァノイド・セラコート実験記2034〜
|
「やぁ、エギン君いらっしゃい♪」
実験司令室でエギンを迎えたレオンは、やけに上機嫌だった。
元々、不愉快な表情をすること自体が少ないが、こんなにテンションが高いのは珍しい。
「何だその顔は……まるで、ディナーパーティでも開きそうだな？」
「そうだな、これは１種のイベントとも言える……くくっ♪」
エギンは皮肉で言ったつもりだったが――レオンはそう取らなかったようだ。
よほど自分が気に入ったモノを、今回は作り出したらしい。
「まぁ――百聞は一見にしかず、と言うからね……これから１人処理するところだからな」
「そのために呼んだのだろうが……」
もはやエギンにも見慣れた、ガラスの向こうの緑色の処置室。
今回はそこにひときわ大きなガラスのカプセルが置かれ、中に実験体が１体、入っていた。
案の定――中性的な顔立ちの、グラマーな少女だ……もちろん、何も着てはいない。
まぁ少女とは言うが、レオンのことだ、少年の孤児か何かをさらって、改造したのだろうが。
今までレオンが嬉々として紹介してきたサンプルは、そういうのばっかりだったからだ。
エグゼクターの連絡係として、エギンも１０年ほどに渡って実験に立ち会ってきたが、
いつ見ても悪趣味全開の実験であったという記憶がある。
２０２５年のエヴァノイド・フリージスの実験はそんなレオンの鬼畜趣味の１つだった。
あの時“生きた象牙細工”に変えられたサンプルは３０体を超える。
２０２８年にはメタロイド系の実験を何度かやっていたし、
２０３１年にはエヴァノイド自体の形態を変える実験も繰り返した。
この１０年ほどの間に処理した、エヴァノイド系の実験体は２００体を超える。
もっとも――そのうち、実戦に耐えるものとなったのは１割にも満たなかったのだが。
この辺りがエギンにとっての愚痴にもなっている。
ただその１方、エヴァノイドを素体として処理してきた２次強化体のうち、
キメラノイドやメタロイドに関しては、別途処理した中性素体で実戦型に結びついた。
その中にはＺＯＡ最強のキメラノイドとウワサされる、ジェノクの例もある。
ジェノクは元人間とは思えない、チートな魔獣の能力を有する“１騎当軍”の強大なキメラノイドだ。
“歩くステルス兵器”の異名を持つ、メタロイド兵クロノフェルもいる。
こういう実績を時々残すから、レオンという男は侮れない。
カプセル内の実験体は不安そうな表情で、こっちを見つめている。
だが案外気が強いらしく、目が合うと睨み返しても来た。
例によって何かの薬品を投与されてるのか、腕を力なく下げて立っている。
「さて、客も来たことだし、始めるとしようか……噴出を開始しろ」
|
|
――間もなく、スピーカーからシュウシュウ、と何かが噴き出すような音が響き始めた。
エヴァノイド・フリージスの実験の時の音に似ている。
恐らくは……実験体を硬化させるための特殊な物質を噴出しているのだろう。
異常な事態に気付いたらしく、実験体――ＮＸ０２４０と書かれている――の悲痛な声が混じる。
『……な……何だよこれ……や……やめろよ……っ！』
１分もしないうちに――実験体に変化が現れた。
体の至る所が紫色に変色し始め、硬質なツヤを放ち始めたのだ。
あえて言うなら陶器……いや、セラミックと言うべきか。
「これは……セラミックか？」
「ご名答♪ よく分かったねエギン君、伊達に何十回もこの部屋を訪れていないな」
「セラミックの……コーティングをしているのか」
「そういうことさ♪ フリージス体の時より、ずっと滑らかな仕上げが期待できるぞ♪」
結局、強調したいのはそこか――と、エギンは心の中で愚痴った。
『……う”ぁっ……な、何？……か、体が……イヤだ……やめて……！』
セラミックの侵食は容赦なく続く……もとより、最初からこの実験を止めようと思う者など、
この部屋――実験司令室にいるメンバーには１人もいなかったのだが。
無機質な光沢を放つ紫色の皮膜が、徐々に実験体の全身を包み込んでいく。
それはあたかも、表面を均すためにサーフェイサーを吹き付けられる、マネキン人形のようだ。
実験体は涙を流し、苦悶の表情を浮かべて訴えるが、侵食は止まらない。
『……ぁう”ぁ……やっ……イヤだ……助け――ケホッケホッ！……や”め……あ”っ……』
噴出している“セラミックの蒸気”が喉に入るのか、しばしば咳き込む実験体。
その顔も見る見るうちに、セラミックの皮膜に覆われていく。
見開いた瞼を紫色に染め、涙を浮かべた白目と瞳を容赦なく塗り潰していく。
１部の成分が涙に乗って顔の下へと落ちていったが、侵食を止めるには至らなかった。
髪の毛も、鼻も、唇も、更には歯や舌までも……同じ色へと変えられていく。
『…………ァ”…………！…………！！…………』
絞り出す声が遠ざかり、かすかな喘ぎしか漏れなくなると、実験の最終段階だ。
既に実験体の全身が紫色に染め上げられ、顔も苦悶を浮かべた表情のまま、その動きを止めていた。
なおも続けているのだろうかすかな抵抗のためか、全体がカタカタと小刻みに震える様は、
エヴァノイド・フリージスが完全静止する直前に見せた、断末魔の抵抗そのままだ。
「無駄と分かっていても……あがくものだよな……」
「洗脳までしているわけじゃないからねぇ……まぁ、すぐに止まるさ」
「セラミックの蒸気とは、どういう性質のものなんだ？」
「厳密にはＺＦＣ結晶の微細粉末さ……１ミクロン未満の細かな粒だよ、それを吹き付けている」
「塗りたくるだけじゃ、固めたとは言えないんじゃないのか？」
エギンが疑問を発すると、レオンはチッチッ、と指を振って低く笑った。
殴ってやりたくなるような嫌味な表情だが、サイボーグの腕で殴ったら頭を割ってしまうだろう。
電撃機能はロックがかかっているから使えないが、殴ることぐらいは可能だ。
しかしそれは、自分の立場を絶望的に危うくするのと同義なのだ。
１撃で殺し兼ねない体も因果なものだ……とエギンは思った。
「このセラミックパウダーはね……人体が発する電気に引かれて、互いに結合する特性があるのさ。
よって皮膜を構成する粒子同士が内側に向かって引き合う結果になり、
実験体を固く固く、しっかりと密閉することになるってワケさ♪」
「まるで真空パックだな……」
「まさにそういうことになるねぇ……保存の上でも優秀なアイテムだろう？
後で保存用の仕上げコーティングをする必要もないからね。
はみ出した産毛のクズなんかを、軽く洗ってやるだけでいいのさ♪」
２人がそんなことを話しているうちに、スピーカーから聞こえてくる音が消えた。
オペレーターの前に置かれているモニタでは、実験体の硬化状態が表示されている。
どうやら既に呼吸も停止し、皮膜収縮によって微動も停止しつつあるようだ。
「ああいう状態でも、生きていけるわけだよな……」
「肉体そのものはフレッシュなままだから、フリージスより生命力は強いハズだよ♪
まぁおかげで、フリージスより苦しむことになるかも知れないがね……」
そう言って笑うレオンの目は、エギンが寒気を覚えるほど冷たかった。
|
|
「さて……これまでの成果を、見てみる気はないかね？」
ＮＸ０２４０がほぼ完全に硬化・収縮し、あと間もなくで移送となった時、
レオンはふと、同席しているエギンにそう持ちかけた。
「これまでの成果？――あのセラミック固めのか？」
「そうとも……あの実験体は１３体目だからね♪」
レオンがそう言う横では、無表情のオペレータがキーボードに文字を打ち込んでいた。
ディスプレイには“ＮＦ-Ｃ３４１３”と表示されている。
どうやら……今回密閉硬化処理を受けた、ＮＸ０２４０の新たな番号らしい。
「どうせ見せたいんじゃないのか？」
「……見たくないのかい？……だが、上に報告せんといかんのだろう？」
エギンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
レオンは薄笑いを浮かべたまま、実験司令室を出て行く。
――本当に、いけすかん男だ。
エギンは心の中で毒づきながら、レオンの後を追った。
その道中――エギンはふと、ある部屋を覗き込んだ。
小さな個室で、ガラスの向こうにはさっきの処理室が見えている――この角度からは実験体は見えないが。
その個室の中には、やや小柄なエヴァノイド実験体が１人、やはり全裸で座り込んでいた。
さっきの実験を見たのか、はらはらと涙を流し、憔悴した表情を浮かべている。
「総主任……この実験体は何だ？」
「あぁ彼かね♪ 精神調整の特殊プログラムを受けさせてるんだよ」
「特殊プログラム？」
「そう……いかなる状況でも冷静に、感情を消すことのできる兵士を作るためにね」
「あの実験を見せることがか？」
「私はどうも洗脳というのが苦手でねぇ……他の方法でクールな強化兵は作れないかと思ってね♪
あぁいう実験を何度も見せれば、感情を制御できる者が生まれると思ったんだよ。
このＮＸ０２３３は、初期から強い精神力の資質を垣間見せていたのでね。
もし成功すれば、実戦向けの個体にも同じようなプログラムを受けさせようと思っている」
そう話すレオンの表情は、科学者の知性を帯びていた。
目はさっきと同じく冷酷だったが、こちらの方が科学者的と言えるだろう。
ある意味ではこの状態こそ、レオンが優秀な科学者である状態なのだ。
人道的には最低かも知れないが、クールな研究者としての本質が覗いている。
「……洗脳が苦手だったら、何故実験体の記憶を消す？」
「昔のしがらみで狂われるのも都合が悪いからさ……だが人格までは弄っていない」
再び廊下を歩きながら、２人は会話を続けた。
間もなく２人の前に、セキュリティパネルに守られた扉が現れた。
９年前にエギンが覗いた、フリージス体保管庫の扉と同じ場所にあるが、
２年ほど前にフリージス体サンプルを別の施設に移し、改装されたとエギンは聞いていた。
扉の向こうに広がっていた光景は、フリージス体保管庫の時とは大きく異なっていた。
というよりも……こちらの方がある意味、悪趣味である。
大理石のインテリアがあしらわれたその壁際に、１０体ほどの実験体が並べられていた。
それぞれの実験体の手前にはシャープにデザインされたパネルが立てかけられ、
フリージス体保管庫ではあった、実験体を隔てるコンパートメントの側壁はなく、
代わりに壁と同じ材質で出来た上品な柱が、実験体の間に置かれている。
これこそ――正しく“ギャラリー”と呼べるような風景だ。
どの実験体も、滑らかなセラミック皮膜で覆われており、もちろん微動だにしない。
紫色のタイプが多めだが、薄いピンク色やグリーンなど複数のバリエーションがあるように見える。
耳の穴に電極を差し込んでいるようで、そこから脳波を計測しているらしい。
「……どうだね？」
「……こいつは驚きだな」
エギンは思わず感嘆した。
さっきまで「ろくなものを作らない」と思っていたが、これは予想以上の代物だったからだ。
その表情こそ苦悩を浮かべているが、そのポーズこそ抵抗の跡があるが、
完全にセラミック皮膜に覆われた実験体たちは実に“美しかった”のだ。
  
処理室の奥にいたＮＦＣ３４１３と違い、ここでは“成果”を目の前で実感できる。
全身を完全に覆っているであろうセラミックの膜は実にきめ細かく、
髪の毛以外の産毛は皮膜結合の際に切れたらしく、磨き上げられた石像のように滑らかだ。
それこそ外見的には、石化実験体メタロイドとほとんど変わらない。
全員が姿態の要所を強調した体形に見えるのは、レオンの趣味もあるのだろうが、
セラミック皮膜が収縮する際、可能な限り実験体をシェイプアップさせた結果なのだろう。
全体的に肉付きの良さは同じだが、腰や腕など関節部は見事なまでに細く引き締められており、
性器の名残を示唆する下腹部のスリットと肉襞も、しっかりその存在を主張していた。
レオンが実験体の１体を軽く小突いた……キィィン、とガラス細工のような音が響く。
その瞬間――実験体の脳波を示す、パネルのグラフが不規則に揺らいだ。
「この通り――まだしっかりと意識も残っているぞ♪」
「口の中はどうなってるんだ？」
「喉の辺りまでは続いてるはずだ……そして肺や胃の手前で塞がっている」
「穴は開いてないわけか」
「完全に真空パック状態だよ……体内から何か漏れ出た形跡はない」
そう言って、レオンは今度は同じ実験体の下腹部に見える、肉襞を突いた。
再び――脳波のグラフが大きく揺らぐ。
「こっちも同じさ……尿道や直腸辺りで塞がっているはずだ」
「便はどうなってるんだ？」
「コーティング実験の直前までに全て洗浄済だよ……体液以外はね♪」
「飢えてたんじゃないのか？」
「そうかも知れんねぇ……まぁそれまでしっかり栄養は取らせたし、生命力も強いからな」
「まぁ、固めても死なんのだから、そうだろうがな……」
エギンは余り表情を変えずに、返答と質問を繰り返した。
正直言えばこの実験体に刺激を受けたことは事実だが、認めたくなかったからだ。
それに……この実験がどれだけ有用なのかも分かったものではない。
「今後１年で、更に３０体以上を処理する予定だ……実に楽しみだよ♪」
「で――この実験にどういう意義が？……まさか、さっきの感情制御実験のためだけじゃないよな？」
「意義ね……考えてみたまえ、もしもこの実験体が動けたら？」
レオンはそう言って、何度目かの意味深な笑みを浮かべた。
「動けたらって……動かす気なのか？メタロイドのように？」
「そういうことさ……まぁその段階はまだ先の話だがね」
「それなら、メタロイドで十分じゃないのか？」
「メタロイドはメタ・クォーツがないと実験できないからな、あれをより良く改良するには時間がかかる。
それにメタロイドはムクの石だからかなり重い……機動性に限界があるかも知れんのだよ。
その点、表面だけコーティングしたこのタイプなら、その問題はないわけさ♪」
「耐久性と機動性の両立ってワケか、全くよく考えるモンだぜ……」
確かに、このセラミックコーティング体なら、メタロイドほど重くはならない。
メタロイドの大多数は水より比重が大きいが、こっちは水より軽いから泳ぐことも可能だろう。
聞くところによると、このＺＦセラミックスはダイヤと大差ない強度を持つそうだから、
完全に覆われている限り、ほとんどの環境に順応することができることになる。
もちろん全て……この実験体が、常人並みに動くことが出来るならばの話だが。
しかし、目の前で悪趣味な彫像と化している実験体から、そんな気配は微塵も感じられないのも事実だ。
フリージス体だって、この９年間動いた形跡は全くない。
メタロイドの件も、エギンには未だに信じられないくらいだった……何しろ、石が動くのだから。
そんなエギンの感情を読んだらしく、レオンはまたにやりと笑った。
「ふふ、信じられないと顔に書いてるな♪」
「……普通なら信じないだろうが？」
「ここを普通のモノサシで見ては困るがね……まぁいいさ、数年後には分かることだ」
|
|
|
|
【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に初めて執筆したエピソードだが、2015年頃に改修している。
2000年に作成したエルやキラといった、エヴァノイド系の“固め実験”をショートストーリー化したものだ。
メインで登場しているのは、ヴィナに次いでアクティブなキラである（他は既に固められたサンプルとして登場する）
もっともそれぞれの名前は保護された後に付いているため、ここではまだ番号でしか呼ばれない。
発想としてはメタロイドの延長上にあるが、「強化セラミックの薄皮で覆って硬化させる」というアイデアであり、
体内にまだフレッシュな肉体が残っているという点で、メタロイドやエヴァノイド・フリージスとは大きく異なる。
こちらもフリージス体と動揺、単純な石化系キャラとは違うアプローチを試みてみたものだ。
収縮するセラミック被膜で実験体はかなり苦しむことが想定されるため、これまた“鬼畜”なアイデアだが、
レオンに言わせているように、“強化人間”としては実はメタロイドよりも有能なアイデアなのである。
硬いのは体表だけなので、動けさえすればメタロイドより適応できる環境の裾野が広いことになるのだ。
これは「柔らかいメタロイド」であるセラケミル系の設定が確立するまで“究極”だった（爆）
（セラケミル系の第１号は1999年に作ったビエナだが、当時はまだ設定未確立で、2015年までお預けとなった）
なお途中に挟み込んでいる「メンタルテスト中のエヴァノイド」はアイナである。
彼女（例に漏れずアイナも実は“元男子”だが）は全体にはクールで落ち着いた振舞いをするが、
それは地のキャラクターだけでなく「訓練で身につけた」という設定であり、
その課程で「無理矢理イヤなものを見せられた」シーンを思いついたものである（変態）
またアイナも1999〜2000年に草案を作っており、セラコート系のキャラとは創作上“ほぼ同期”なのだ。 |
|
|
