ＧＤＷ雑記帳

　　　　　

　
★考察１４２――アンチグローバリズムからポストグローバリズムへ　（2025年12月12日作成）
　

　　昨今、世界が大きな激動の渦の中にいるように感じる。
　　それも１つの時代のレベルを超えて、人類の未来を揺さぶるほどの渦である。
　　もっとも――その“予感”については、過去何度もここの考察で書いてきたものであって、
　　筆者にとっては今更目新しいテーマではないとも言える――の、だが。

　　今回の考察はそんな予感の“新たな視点”について書こうと思う。

　　1990〜2000年代にアメリカを軸として世界に広まったグローバリズム（グローバリゼーション）。
　　自由貿易などで国境を越えた交流の拡がりをもたらす現象を指す言葉であり、
　　数年ほど前までは、これこそが21世紀の新たな潮流であるかのように言われていたものだ。
　　“ＧＡＦＡＭ”に代表されるＩＴ大手の急激な躍進と席巻は、まさにその象徴と言えるだろう。
　　「グローバル化を進めること」が、まさに必須キーワードのように持て囃されていたのだ。


　　だが2010年代の後半から2020年代にかけて、その潮流に“逆向きのベクトル”がかかり始めた。


　　全世界を結びつけるグローバリズムの潮流にあえて背を向け、
　　むしろ「それ以前の世界秩序の在り方」に回帰しようとする動きが目立ち始めたのである。
　　グローバリズムの旗振り役であったアメリカ自身にも、そうした動きが起きている。
　　保護主義的な色彩の強いトランプ政権もまた、その激動のシンボルの１つと言えるだろうし、
　　「帝国の復活」を目論んでいると言われる、ロシアや中国の動きもそれに含まれると言えよう。
　　ヨーロッパでも19世紀以前の世界秩序に憧憬を抱く勢力が影響力を持ち始めた。

　　２つの世界大戦や冷戦、更には地球環境問題といった世界規模のアジェンダに疲労感を覚えて、
　　「20世紀以降の歴史」を悲観して、それ以前の秩序に戻ろうとする動きがあるのだ。
　　またグローバリズムが必ずしも「全人類を豊かにする」とは限らないことも分かってきた。
　　自由貿易の恩恵を強く受ける大企業が急成長する１方で、その波に乗れないグループも表面化し、
　　「返って貧富の格差が広まったのではないか」という批判があるのだ。
　　制約のない自由貿易という枠組みは、言い換えれば“弱肉強食”とも言えるからだ。

　　ロシアや中国の強権的で覇権主義的な行動が、国際社会に不協和音をもたらしているが、
　　世界秩序の“逆回転”の軸はこの２ヶ国だけでは必ずしもない。
　　欧米（広義には我が国・日本でも）に起きている“保守反動”もまたその象徴的な事象である。
　　上記した通り、グローバリズムの恩恵に預れない層の反発が顕在化したのに加えて、
　　ポリティカル・コレクトネス（ポリコレ）に象徴される“新たな全体主義運動”の拡大が、
　　20世紀初頭に世界を席巻した、共産主義運動に似た「危うさ」を持つことが理解され始めた。

　　急進的なポリコレ運動は、「多様性への配慮」をお題目にしながら、
　　異なる価値観を排除しようとする独善的なダブルスタンダードを内包しており、
　　活動家たちが主張する“イデオロギー”を強要しようとする、悪いクセを持っていることが多い。
　　それは「労働者の楽園」を謳って武力革命を推進した、往年の共産主義運動を思い起こす。
　　多様性を口にしながら、やっていることは“思想統制”以外の何物でもなく、
　　返って表現の幅を狭めるなどの“悪影響”が出ていることは、昨今よく指摘されているだろう。

　　そのためこうした急進的な“革命運動”を警戒したり嫌忌して、
　　反動的な社会運動が起こり始めているのが、まさに現代の世相とは言えないだろうか。
　　世界を“勝ち組”と“負け組”に明確に２分し兼ねないグローバリズムの“闇”と、
　　多様性を謳いながら思想統制を進めようとするポリコレ活動家たちの“暴走”が、
　　むしろ“逆効果”をもたらして、反動的な運動を盛り上げているように、筆者には見えるのだ。

　　ロシアや中国の覇権主義的な行動も、広義にはこの“反動”の１つと言えるかも知れない。
　　奇しくもアメリカ自身が保護主義や孤立主義への回帰を鮮明にしているように、
　　ロシアはライバルであるアメリカやヨーロッパが世界を主導した時代に問題意識を持っており、
　　中国もまたこれら欧米（そしてアジアのライバルである日本）に対抗意識を燃やして、
　　自分たちが「新たな時代」を牽引することを夢見ているようにも見えるからだ。
　　そしてその“新時代”は、むしろ帝国主義がスタンダードだった、19世紀以前への回帰なのだ。


　　こうした動きは、「アンチグローバリズム」というキーワードで、まとめられるように思う。


　　グローバリズム（グローバリゼーション）が持て囃された頃には、
　　自由貿易と民主主義の拡散が、あたかも世界をユートピアに導くかのように言われたが、
　　私たち人類は、決定的とも言える「重大な見落とし」をしていたのではないかと思うのだ。
　　その重大な見落としに気が付いていなかった（または分かってても軽視した）ために、
　　相反するベクトルの運動が、巨大な“渦潮”を作り出してしまったのではないだろうか。

　　それは、人間とは「ワガママで自分勝手な生き物」だという“事実”である。

　　悲観論のように聞こえるかも知れないが、これは「現実を直視する」上で重要な視点だ。
　　往年の共産主義運動でも、昨今のグローバリズムやポリコレ運動でもそうだが、
　　新たな思想が世界を席巻すると、人々は流行に群がるようにそれを持て囃したり崇めたりして、
　　「身勝手な人間の悪いクセ」が見えなくなってしまう傾向にあるのではなかろうか。
　　ポリコレ活動家が、多様性を云々しながら他者に自己主張を強要したがるように、
　　「他者と自分は違う価値観を持つ存在である」当たり前の事実を忘れがちに見えるのである。

　　他者が常に自分と同じ考え方をするとは限らないという、本来は「当たり前のこと」が、
　　新しい思想に熱狂する余り見えなくなり、それを他者に押しつける身勝手さを「見失う」のだ。
　　そしてこれは共産主義者やポリコレ活動家だけに見られる“悪癖”ではなく、
　　自国を中心とした世界秩序に憧れる、ロシアや中国の“ワガママ”にも当てはまるのである。
　　もちろん往年のユダヤ選民思想やナチズム、イスラム過激派の発想も大同小異だ。
　　基本的に全て「自己中心的で身勝手な人間」が、問題の原点に存在する。

　　自分たちを世界の中心に置き、世界をその色に染めることの「傲慢さ」を理解しないのである。

　　ソ連が崩壊して東西冷戦が終結した際、欧米諸国は「我が世の春」を夢見たのだろう。
　　そして自分たちが主導する価値観が世界を席巻する時代が、確実に来ると見たのではないか。
　　しかし現実はどうだろう……欧米式グローバリズムに組み込んだロシアや中国は、
　　欧米の期待通りなら、今頃グローバリズムの恩恵を受けて「民主化している」はずであるが、
　　実際には帝国主義的な世界観のまま巨大化し、新たな脅威をもたらす存在となった。
　　ロシアや中国が、勝手に変わってくれると思い込んだ欧米は結局「甘かった」ということだ。

　　多様性という言葉も、私たちは「誤解している」のではないか、と思うことが時々ある。
　　ポリコレ活動家の主張する多様性が「ご都合主義的」であることはもちろんだが、
　　多様性というのは本来「摩擦のリスクを含む」ものであり、理想郷の代名詞では決してない。
　　これは自然界を見れば一目瞭然だろう……多様性の中に「食物連鎖のピラミッド」があり、
　　弱肉強食のシビアなサバイバルが、日夜休みなく繰り広げられているのである。

　　今年2025年は、日本（特に東北や北海道）でクマによる対人殺傷事件が多発して注目されたが、
　　猟友会などによる駆除（“緊急猟銃”は流行語にもなった）に反対する声が問題視された。
　　しかし“反対派”は忘れてはいないだろうか……クマは「獰猛な肉食獣」であるという事実を。
　　野生動物と人類が“共存出来る”のなら理想だろうと筆者も思っているが、
　　それは必ずしも「野生動物と和気藹々と仲良くする」ことではない、ということである。
　　相手は“野獣”なのだ……人間の勝手な都合など、彼らには「どうでもいいこと」なのである。

　　自然界の多様性とは、食うか食われるかのシビアさや、摩擦のリスクを内包しているのだ。

　　この意味において、１部の動物愛護論者の主張は「現実逃避」以外の何物でもない。
　　可愛い動物を殺すなんてとんでもない、というならば、自分が被害者の立場に立ってはどうか。
　　相手はイヌやネコではない……放し飼いのライオンやトラの横で生活出来るか考えて欲しい。
　　動物たちの生態を熟知した動物園の飼育員ですら、食い殺されてしまうことがあるのだ。
　　（しかもクマは時として「ライオンを噛み殺す」ほど強大な猛獣だと言われている）
　　このシビアな「現実」を無視した愛護論など、所詮は都合の良い空想の神話でしかないのだ。

　　グローバリズムが「上手く行かなかった」のも、結局はこの「ご都合主義」ではなかろうか。
　　自分たちが推進する「素晴らしいイデオロギー」だから、世界もそれを受け入れるはずだとか、
　　皆がこの価値観を共有すれば、世界は１つになるとか、勝手な夢を見ていたのではないか。
　　他者が自分たちとは違う価値観や世界観で生きているという事実の意味を熟慮することもなく、
　　「自分が良いと思うものは他人にも良い」という“決めつけ”で動いた結果ではないのか。
　　世界の“多様性”が、そんなに単純なものではないことに「無知だった」のではないだろうか。


　　ここで筆者はあえて、「ポストグローバリズム」という視野を提案したい。


　　問題点を抱えた従来のグローバリズムを単純に否定する「アンチグローバリズム」ではなく、
　　そして20世紀以降の世界を悲観視して「歴史を逆回転する」のではなく、
　　「グローバリズムの先を見越す」世界の捉え方を“訓練していく”ことを提案したいのだ。
　　問題点があるからと安易に否定するのではなく「軌道修正する」視点である。
　　グローバリズムが理想郷を生み出せなかったのは、別に「グローバリズムの所為」ではなく、
　　私たち人類が「世界の本当の広さや多様性の姿」に無知だったから、と筆者は考えているのだ。

　　そしてその無知さに気付かない「傲慢さ」にも反省が必要であろうと思う。

　　根源的にはいかなるイデオロギーも、それを使う人間が「身勝手なまま」なら活かせないのだ。
　　どんなに仰々しいコンセプトを盛り込んでも、使う側が自分勝手で傲慢で、
　　自己都合で世界を振り回す行動に問題意識を持たなかったら「役に立たない」のである。
　　ましてや自分の世界観だけを信じて、周りにそれを押しつけたり、また周りを尊重しなければ、
　　お題目がどんなに高尚なものでも支持されにくく、信頼されないのではないだろうか。
　　つまり本当の問題は思想の中身ではなく「私たち人間の視野や行動」の方なのだ。

　　グローバリズム自体が悪いわけでもなければ、ポリコレ自体が悪いわけでもない。
　　思い込みに満ちた狭い視野で、これらの概念を自分勝手に弄ぶ人間にこそ問題があるのである。
　　イデオロギーは所詮「道具」に過ぎない……使い方を間違えれば“凶器”にもなるのだ。
　　人間の悩みを取り除くべき宗教が、戦争の理由になってしまうのと同じである。
　　そもそもグローブとは“地球”を指し、地球規模の拡がりを持つが故にグローバリズムと呼ぶ。
　　ならばそれを使う側の視野も本来「グローバル化」すべきではないか。

　　狭い視野で自分勝手に振舞って、グローバリズムを「使いこなせる」わけがないのである。

　　そして「地球規模の視野」は、漠然と「大きな主語」を思い浮かべる程度では得られないのだ。
　　地球という惑星が内包するスケールと多様性に、意識が向かないと意味がないのである。
　　何百万種類もの生命が存在し、何百という国家や民族、何十億という人間が作り出す、
　　地球という惑星が内包する秩序の、気が遠くなるほど途方もない奥深さを想定する必要があり、
　　他者に自分の価値観を１方的に押しつけるような人間には、多分習得出来ない視野だろう。

　　他の国、他の民族には、それぞれ独自の文化と歴史があり、固有の風土がそれを支えている。
　　それが自分の国、自分の民族とは「違うバックボーンを持っている」という理解が必要であり、
　　当然常識も価値観も違うので、それを「考慮して付き合う」必要が出てくるわけである。
　　恐らく人類は今、グローバリズムで初めて「それを実感出来る段階」に到達したのだと思う。
　　これまでは「他民族が違う世界観を持っていること自体に無知であった」ために、
　　グローバリズムによって「民族の違いと個性」を初めて、真剣に考える時代が来たのだと思う。

　　そういう意味では、グローバリズムにも一定の意義と価値がある、と筆者は見ているのだ。

　　しかしグローバリズムを「使いこなす」には、今の人類はまだ「視野が足りない」のだと思う。
　　固有の民族、あるいはせいぜい同じ人種（白人なら白人、アジア人ならアジア人）の枠内で、
　　世界を捉えるという習慣を何百年も続けてきた人々が、この数十年ほどの間にいきなり、
　　その常識が通じない「地球規模の世界」に向き合う時代を迎えているのだ。
　　一見グローバリズムを使いこなせているように見えるＩＴ大手などの巨大企業体も、
　　地球という惑星がどれほどの多様性を内包しているのか、十分理解出来ているとは限らない。

　　下手すれば、世界中に植民地を築いた大航海時代から、あんまり変わってない可能性もあろう。
　　実際グローバリズムに批判的な論客の中には、ＩＴ大手が世界を席巻する様を、
　　「新たな植民地主義の時代」と警戒と皮肉を交えて批判するケースがある。
　　覇権主義の欲望を隠さない中国などは更に露骨で、自国経済を国際社会に拡散することにより、
　　世界が中国に依存することを「狙っている」ように見える節すらある。
　　現に１部の途上国は、既に中国に「手綱を握られている」ように見えるケースがあるのだ。

　　こうした覇権主義者にとって、地球という惑星は「多様性が織りなす広大な世界」ではなく、
　　「自国の覇権を誇示するための都合の良いフロンティア」でしかないのではなかろうか。
　　思えばフロンティア・スピリット（開拓精神）という概念も１方的な価値観の産物と言えよう。
　　開拓者にとっては新たな世界でも、必ずしもそこは「何もない不毛の大地」とは限らない。
　　むしろ多くの場合「先住者」が存在し、独自の社会や文化を持っていたりするものだ。
　　そして大航海時代には、ヨーロッパ列強がそうした先住者の秩序を「リセット」してきたのだ。

　　今なお繰り広げられるグローバル企業のシェア競争は、当時と何が違うのだろうか。
　　先住者の秩序がある世界を勝手に書き換える、覇権主義者の傲慢に対する自戒の視野はあるか。
　　どこかでそうした傲慢さを反省する機会がないと、人類は多分これからも繰り返すだろうし、
　　「多様性の摩擦」の果てに破局的な事態を引き寄せる可能性だってあり得るのである。
　　実際過去に起きた２つの世界大戦も、実質的には「列強の縄張り争い」の延長線だったのだ。


　　こうした「身勝手な傲慢さ」を自ら戒める視野が育たない限り、人類は「進化しない」と思う。


　　筆者が提案する「ポストグローバリズム」は、まずこの身勝手な傲慢さへの自戒から始まる。
　　自己中心的な価値観で世界を捉えることの傲慢さを戒めて、謙虚になるよう努めると共に、
　　他国や他民族の常識が、自分やその民族とは異なることを理解する努力が必要だ。
　　そして理想を言えば、これを「相互に行う」ことが望ましい。
　　片方だけが謙虚に振舞って他者の理解に努めても、もう片方が身勝手なら効果は半減するし、
　　自分に屈服を迫る相手に、安易に白旗を揚げることも望ましい対応とは言えない。

　　価値観の異なる他者への理解努力や尊重は必要だが、卑屈な態度で「隷属」する必要はない。
　　傲慢な覇者が威圧で周囲を隷属させる、帝国主義的な考え方は時代遅れだという視野も必要だ。
　　世界には「価値観が違うから」と言って、帝国主義を正当化する者もいると思うが、
　　それは「パワーで他者を隷属させる」価値観を正当化していることを意味するわけだから、
　　隷属したくないのなら、その威圧に立ち向かう覚悟を持たねばならないのである。

　　「多様性が内包する摩擦リスク」を直視し“サバイバルの方法”を考える必要があるのだ。

　　もちろんこれは多様性を軽視し、パワーで屈服させようとする覇権主義者に対峙する心得で、
　　そういう態度を相手が取らないのなら、こちらも警戒する必要はないのである。
　　そして協調的な振舞いをする相手に対しては、今以上に信頼関係を高めていくべきなのである。
　　世界には危なっかしい行動を優先する国や指導者がいるという視野を持ちながら、
　　そうではない国や指導者と連携し、信頼関係を構築することが自身の安全を保障するのだ。

　　グローバリズムそのものに背を向けるのはなく、他者のバックボーンに理解を深めた上で、
　　冷静に「積極的に交流する相手を選ぶ」という視野を持つことが重要だ、と筆者は考えている。
　　世界秩序の広さと複雑さに理解を深め、誰と連携すれば安全を保証出来るのか、
　　それを常に冷静に考え、行動に移すことこそ「ポストグローバリズム」だと筆者は思っている。
　　漠然と世界に思いを馳せるグローバリズムでも、シェアを奪い合うグローバリズムでもない。
　　もちろん未来を諦めて歴史を巻き戻すアンチグローバリズムでもないのである。

　　身勝手で傲慢な考え方を戒めた上で、お互いに信頼関係を高めていくことが出来るのであれば、
　　人類は自己矛盾で自滅する危機を回避して、未来に歴史を進められると筆者は思う。
　　この地球という惑星は、欲深い覇権主義者のパワーゲームの遊び場ではない。
　　人類を含む地球上の全ての生命の故郷であり、換えの利かない唯一の環境なのである。
　　地球規模の視野とは、この「母なる地球」の偉大さを可能な限り真剣に受け止めることであり、
　　その地球の住人として自覚と責任を持つことが「ポストグローバリズム」のキモなのだ。

　　もちろんこれは、「地球市民」などという「漠然とした大きな主語」の考え方ではない。

　　地球市民という考え方自体は筆者も別に否定しないが、この言葉はしばしば、
　　国家の枠組みを軽視する、反国家的リベラリズムのスローガンに出てくるために注意したい。
　　国境を取っ払って世界を１つにすることが理想だ、という主張の文脈でよく使われるのだ。
　　「人類が１つになる」ことは素晴らしいと筆者も思うが、「国家の否定」とは別問題であり、
　　国家にしろ民族にしろ、帰属すべき共同体があるからこそ人間は心の平安を得られるのである。
　　地球市民という言葉もまた、そうした帰属意識の先にあるべき概念だと筆者は思う。
　　そもそも過去とは現代につながる歴史であり、それを否定しても進化出来るわけではないのだ。

　　ポストグローバリズムは、国家も民族も人種も決して否定しない。
　　この地球上に無数にある生命、人種、民族、国家、歴史、その全てを尊重する概念である。
　　地球という惑星に、目も眩むほどのとてつもない多様性があることを直視し、
　　同時にその多様性が内包するシビアさも無視しない、という視野を指しているのである。
　　断じて、急進的な活動家が、自身のイデオロギーを革命の正当化に使うための概念ではない。
　　誰かに押しつける思想ではなく、今この瞬間もこの惑星にある多様性を受け止める概念だ。


　　考察141で書いた“乱世３．５”も、ポストグローバリズムというアイデアの原風景の１つだ。


　　2025年10月、日本憲政史上初の女性首相となる、高市早苗氏が率いる新政権が誕生した直後、
　　中国との間に降って沸いた外交摩擦に、12月現在の今もマスコミ諸氏が騒がしい。
　　日本のマスコミはどうも中国に阿る論調が多く、日本人として情けない気分になるが、
　　極力冷静さを保たねばならない、と改めて兜の緒を締める感覚が筆者にはある。
　　帝国主義的な振舞いが目立つ中国に、外交の主導権を握らせてはいけないと改めて思うのだ。

　　しかしそれと同時に、この傲慢さを隠さない態度もまた、中国という国の個性なのだと思う。
　　認めると認めざるとに関わらず、私たちは「中国とはこういう国だ」と認識する必要があろう。
　　中国の強硬な振舞いを想定外のトラブルとして慌てふためくのではなく、
　　「予期し得た事態」と捉え、冷静に構えることこそ、今の日本が採るべきリアクションだろう。
　　摩擦の発端となった高市首相の国会答弁の是非に様々な意見はあろうと思うが、
　　中国側の立場に立って日本を批判する、というのは違うのではないかと筆者は思うのだ。

　　ここ数年の中国が、いわゆる「戦狼外交」と呼ばれる強硬なパフォーマンスを繰り返し、
　　国際社会でも批判する論客が少なからずいることを考えると、
　　高市首相の答弁の是非に限らず、中国の主張に阿り過ぎるのは国益に寄与しないと思われる。
　　「高市首相が余計なことを言ったからダメなのだ」という批判は一見もっともらしいが、
　　先に外交的な挑発を仕掛けてきているのは中国の方だという事実を無視した暴論でしかない。
　　日本ばかり譲歩するという選択を続けていたら、いずれ中国の属国になる恐れもあろう。

　　中国の挑発を棚に上げて高市首相を批判する人は、日本がそうなっても構わないのか。

　　雑記でも書いたが、「アメリカに守ってもらわないと日本は何も出来ない」などと決め付け、
　　「アメリカが裏切ったら終わりなんだから大人しくしろ」なんて主張する者もいる。
　　確かに日本はかつてアメリカと戦争して敗戦した国だから、立場が弱いのは否めないが、
　　日本が中国や米国の顔色を窺う２流国でしかないと決め付けるのはプライドの放棄であろう。
　　戦後自虐史観に洗脳されていると自ら白状しているようなものではないか。

　　こういう日本をサゲてマウントを取る論客は、「日本が嫌いなのか？」と思う瞬間がある。
　　もちろん筆者も、単に感情論や強情なプライドだけで反論しているのではない。
　　日本が本当に、米中のフォローを受けないと立ち行かない２等国だというのなら仕方ないが、
　　それは果たして事実だろうか……この論客は日本が米国だけでなく豪州やインドと連携し、
　　ＥＵとも密接に情報交換しているということを知らないのだろうか。
　　それとも米中露の「Ｇ３」だけが世界の覇者で、他の国は全てザコ同然だとでも言うつもりか。

　　更にイギリスも「日英同盟の復活」を口にしているだろう……それも単なる外交辞令ではなく、
　　虎の子の新型空母を日本に派遣して合同訓練に参加しているのである。
　　貿易関係でも米中の影響は確かに大きいが、この２国に完全に依存しているわけではない。
　　オーストラリア、インド、イギリス、ＥＵ、更には東南アジアや南米諸国にもパイプを持ち、
　　多角的な貿易ルートで依存回避を試みていることもよく知られているはずである。

　　こうした事実を無視するか軽視して、米中依存を決め付けるのは返って“下心”を疑う話だ。

　　依存を回避して貿易や外交のパイプを確保し、多角的な視野で安全保障を試みる、
　　実はこれも筆者が考える「ポストグローバリズム」のケーススタディだと言えるものだ。
　　中国にしろ北朝鮮にしろ、日本に敵意や悪意を持つ国があるという事実を直視し、
　　特定の同盟国に依存することなく、複数のパイプを駆使して日本の立場を守るというのも、
　　「地球規模の視野を使いこなす」ポストグローバリズムの重要な視点だと思う。
　　出来そうなことは全て試して、国益を守るというのは当たり前の外交戦略のはずであるが、
　　日本が国際社会から得ている信頼を軽視する論客は、いったい誰の味方かと思う。


　　もっと言えば、日本式の信頼醸成の手法こそ、ポストグローバリズムの見本ではなかろうか。


　　人類は近年になってようやく、多様な民族と世界観が織りなす地球のスケールを理解し始めた。
　　地球という惑星自体が、想像を超えるほどの多様性を内包していることもそうだろう。
　　そしてその歴史的な変化の中で、“極東の島国”日本の注目度が上がっている。
　　オーバーツーリズムの問題が指摘されるほど、日本がインバウンドに湧いたのも最近の話だし、
　　このブームによって「初めて本当の日本を知った」外国人が何千万人もいるだろう。

　　そしてそのブームの中で、日本人の優しさや礼儀正しさ、差別感情の少なさが評価されている。
　　更に海外でも自分勝手に振舞うことなく、静かに信頼を積み重ねるのが“日本式”だ。
　　誰かに命令するのではなく、自ら行動で示し、それによって周囲を感化させるのも得意だ。
　　オリンピックやワールドカップでの、日本人サポーターの振舞いは今や風物詩となっている。
　　押しつけず、冷静でかつ優しく、他国の文化を最大限に尊重する。
　　自国の自慢みたいで恐縮であるが、これぞまさしくポストグローバリズムの姿ではないか。
　　そしてそれが単なる自画自賛でないのは、インバウンドの熱気が証明しているのだ。

　　しかもこの熱気は短期的なものではない……既に10年は続いているし、リピーターも多いのだ。

　　自国ナンバーワンと驕り高ぶるわけでもないし、かといって自虐的に自国を下げることもない。
　　他国の文化干渉を拒絶するわけでもないし、かといって異文化に染まるわけでもない。
　　その成果は、今や「世界一のグルメ都市」となった東京が証明していよう。
　　ミシュランの星の数だけではない、外国料理店の多彩さでも東京は定評があるのだ。
　　それでいて寿司や天ぷら、すき焼きやうどん蕎麦といった、自国の食文化も廃れてはいない。
　　この「懐の深さ」に、何千万人という外国人が「ハマっている」のである。

　　あくまでも希望的観測であるが、もしも日本以外の国（少なくとも主要国）が、
　　今の日本のように差別的な振舞いを自発的に抑制しつつ、多彩な異国文化を取り込みつつ、
　　それでいて自国の伝統をきっちり守り、穏やかな振舞いを日常的に実践することが出来るなら、
　　世界は今よりも多少は、過ごしやすくなるのではないかと思えてくるのだ。
　　そしてそれは歴史に背を向けるよりも、有意義な選択ではないかと思えてならないのだ。


　　ただし「そうだからこそ」これからの時代が日本と人類にとって“正念場”とも言える。


　　グローバリズムが内包する欧米主導の経済覇権主義の傲慢さへの反動や、
　　同時に相対的にパフォーマンスが低下していく傾向にある欧米のターニングポイントに便乗し、
　　歴史を巻き戻して「帝国主義の時代」に戻ろうとする国々が世界を不穏にさせている。
　　アンチグローバリズムの広がりもこうした「歴史の逆回転」の１面と言えるだろう。
　　だがそれは本当に「人類社会に幸福をもたらす」と言えるだろうか。
　　考察138にも書いたように、「過去への回帰」は必ずしも理想郷を保障してはくれないのだ。

　　自分勝手で傲慢なホモ・サピエンスにとっては、実は中世くらいが「身の丈」かも知れない、
　　と筆者も考えたことがあるが、しかし中世と今とでは世界人口の規模が１ケタ違う。
　　植民地主義と軍事覇権がものを言う中世や近世の世界観で、果たして人類80億を養えるか。
　　「世界の警察」から撤退したアメリカの選択が、国際社会を不安定にさせているように、
　　この情勢に誰もブレーキをかけられなければ、収拾が付かない状況に陥る可能性があるのだ。

　　日本とて、自国政府よりも中国に阿るマスコミの屈折した言論攻勢が日夜かまびすしいが、
　　日本が中国の覇権主義に屈服することは、日本人にとって幸せなことだろうか。
　　殊更に米中の「Ｇ２」を持ち上げて、両国に挟まれた日本の“弱さ”を強調する論客がいるが、
　　ＥＵやイギリス、オーストラリアやインドとの連携を無視しているのは露骨にも程がある。
　　アメリカが100％信用出来ないリスクくらい、日本政府は10年前から分かっているのだ。
　　そこまでして日本をサゲる論客はもはや“国賊”と呼んでもいいかも知れない。

　　中国が近頃躍起になって煽り立てる“日本脅威論”と、日本メディアの共鳴は絶望感すらある。

　　中国の態度が平和的とはお世辞にも言えないことは今や国際社会の共通認識であるし、
　　日本の“防衛力強化”を80年前と重ねる中国や左派メディアの論調も、時代錯誤の極みである。
　　南西諸島への対空ミサイル配備にも「再侵略の準備だ」などという批判があったが、
　　対空ミサイルは「飛んでくるミサイルや爆撃機を迎撃する兵器」であり、露骨なミスリードだ。
　　また中国側が軍事的な挑発をしなければ、必要なかった措置でもあるのである。
　　それを問題の論点を180度、平気でひっくり返してくるのだから、厚顔無恥と言うしかない。

　　勝手に被害妄想を募らせて、「日本との戦争」を煽っていた数年前の韓国と全く同じ反応だ。
　　自分から挑発を仕掛けておいて「日本が煽った」と豪語するのだからタチが悪い。
　　しかもこれをよりにもよって日本国内のメディアが擁護するのだから、まさに世も末である。
　　好戦的な中国とこれに阿る親中メディアが、日本を「苛めている」状態である。
　　日本を意図的にキレさせて、戦争の口実を作りたいのではないか、とさえ思えてくる時がある。
　　かつての日米戦争も、アメリカがそれを煽ったという説があり、まさに歴史の教訓だ。

　　こうした前時代的な振舞いをする国に「広い視野を持ちつつ毅然と対峙する」ということも、
　　ポストグローバリズムの重要なポイントなのだ……中国に隷属する未来を選択しないのならば、
　　日本はまさに今が「踏ん張り時」であり、歴史の転換点にあるのだと筆者は思う。
　　“反日論客”はここぞとばかりに「日本の孤立」を煽り立ててくるだろうが、
　　冷静に見れば日本は「世界で最も信頼される国の１つ」であり、アメリカ１国に依存せず、
　　複数の主要国と連携を強めていることは、国際報道をチェックしていればすぐ分かることだ。

　　歴史を巻き戻そうとする、帝国主義的な国々の暴走にこのまま屈してしまうのか、
　　多様性のリスクを直視した上で、多国間協調による安全保障を高めてこの激動に向き合うのか、
　　恐らく世界は今その重要なターニングポイントにあるのだと筆者は思う。
　　この“歴史逆回転リスク”に関しては、世界一の超大国アメリカも残念ながら心許ない。
　　トランプ大統領は軍事による国境変更を狙う、ロシアの暴走に阿るような態度をよく見せる。
　　皮肉にもトランプ氏自身に権威主義的な側面があり、だからロシアと「気が合う」のだろうか。

　　日本としてはモヤモヤする振舞いだが、だからこそアメリカ依存は危ういという学びになる。

　　同時に中国問題を考えれば、アメリカと敵対することも得策ではないはずであり、
　　だからアメリカの外交姿勢が時に危なっかしいと思いつつも、連携すること自体は重要なのだ。
　　そして同時に「アメリカ以外とも連携を強化する」ことがもっと重要なのである。
　　アメリカ自身がロシアや中国のように、歴史に背を向けるリスクがある以上、当然の対策だ。
　　そして日本こそ、ただ歴史を逆回転させるだけでは世界は平和にならないと示すべきで、
　　謙虚さを活かした相互尊重と信頼醸成こそ、平和の鍵になると訴える必要がある。

　　おこがましいかも知れないが、これは「日本にしか出来ない」ことではないかと筆者は思う。
　　多様性が内包する摩擦のリスクを直視した上で、多国間協調を更に推進し、
　　自国の安全を保障しながら、世界平和に貢献することが有意義だとＰＲすべきなのである。
　　それこそがポストグローバリズムの考え方であり、先進国の責任ではないだろうか。
　　自分勝手なホモ・サピエンスのサガに理性でケジメを付けることが出来るか否か、
　　それは誇張なく、人類という“文明種族”が今後も繁栄し続けられるか否かを左右するのだ。

　　反日論客は日本の“復活”を「いつか来た道」と揶揄して牽制球を投げるが、
　　単に血生臭い歴史を繰り返すだけなら、それこそアンチグローバリズムと発想が同じなのだ。
　　日本はその地位を“復活”させると同時に、歴史を反復させるのではなく、
　　人類を新たな秩序に導くよう、歴史を“進化”させるべきではないかと筆者は考える。
　　いつか来た道ではない、これから切り拓く道であり、それがポストグローバリズムなのだ。