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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130718B） |
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東京都心、錦糸掘公園に突如出現した“異空間”。
季節外れな紫色のモヤが立ち込めた公園には、これまた場違いな３人の怪人と６人の巫女がいる。
人間の恐怖を糧にする妖怪“アヤカシ”と、これを撃滅する“ホーリーメイデンズ”だ。
少し離れた遊具の近くには、巻き込まれた一般人らしき３人組と、奇妙な紫色の少女“スミレ”。
そしてこの４人を包囲する、半魚人風の怪人と、太った悪魔のような巨大な猛獣。
更に――今し方現れたばかりの、モロボシ・ダンと名乗るＳＦチックなスーツ姿の中年男性。
「……何だこのおっさん、いきなり出てきたかと思えば、俺たちに対抗するとか正気か？」
「上等じゃねぇか、そういう出しゃばりには、どんなオチが待ってるか、たっぷり教えてやブギョッ！？」
長いモリを振りかざし、半魚人風の妖怪――水霊が気勢を上げて飛び掛った――直後。
両腕を組み、開放するようなポーズを取ったダンの前で、水霊が弾かれるように吹っ飛んだ。
「こっこいつ……念力使うのか！」
ダンの正体は外宇宙から訪れた、巨大化能力を持つ戦士種族である。
モロボシ・ダンとは人間体を取る際の偽名であり、本名はセイヴン……つまりマークの同志である。
そして水霊程度なら、巨大化変身をするまでもなく十分に対処が可能だったのである。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第６章 試される有志たち ★
2013年7月18日―日本・東京妖怪事件其の２
（※レオ（流離太）氏の投稿エピソードを監修して組み込んでいます）
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同時刻、立川基地に設けられた防衛省特殊事態調査室（防衛特調）。
暫定室長の黒木特佐とアドバイザーのアイレスは、やはり協力者のマークの報告を受けていた。
「市街地のパトロールに出ていたセイヴンが、異能者の破壊工作を察知したようです」
「こちらも警察から報告を受けました……現場は錦糸掘公園のようです。
念のため警察には、すぐに干渉しないように伝えています……渋谷の２の舞はごめんですからね」
「報告によれば、既に“戦闘行為”が発生しているようですが……」
アイレスの質問に、マークは小さく頷いた。
「対処能力を持った何者かが、破壊工作に対峙しているようだと、セイヴンから聞き及んでいます」
「そうなると、今回もこれまでと同様、並行時空からの干渉の可能性が高いですね」
「一般人が巻き込まれている可能性もある……可能ならすぐにも動きたいところですが……」
「何なら、自分が行きましょうかね？」
これは本郷だ……確かにこの場にいるメンバーでは、最も“対怪人戦”に長けている。
「今回はショッカー連合ではなく、魔力を持つ異能者の干渉の疑いが濃いですが……」
「ショッカー連合も単なる強化怪人だけの組織じゃない……あんたが言う、異能者への対処も想定内さ」
「確かに“波動制御能力”のスキルがあれば、専門家でなくても理論上、対処可能ではありますね」
「なるほど……それではお手数ですが、お願いしても宜しいですか？
既にセイヴン殿が現場に行っているので、支援して頂けるだけでも十分かと思いますし」
「お安い御用、じゃあ早速」
そう言って、本郷は会議室を出て行った。
その後姿を見ながら、黒木ははぁ、と小さな溜息を吐く。
「全く、まさに波状攻撃ですね……可能なら、あの“戦艦”が到着するまでに、収束させたいですが」
黒木が言っている“戦艦”とは、太平洋上で国連艦隊が遭遇したフィラデルフィアのことだ。
その後国連艦隊に投降して日本を目指している……既に日本のＥＥＺ内に入っているはずである。
もう数時間ほどすれば、石巻軍港の沖合いに到着するだろう。
「木乃次長はもう石巻軍港に到着しているのですか？」
「そうですね、朝１番で上野駅を出発したので、もう仙台駅には着いているはずです」
黒木とアイレスが話しているのは、石巻軍港に向かった防衛特調の幹部のことである。
実は上野駅から山手線に乗り換えた冬雪たちとすれ違っていたりするのだが、もちろん面識はない。
「気が休まる暇がないとはこのことですな……」
マークはそう言って、会議室から見えるクレーンを見やった。
ディスヴェリオンが先日起こした“襲撃事件”の復旧作業が、まだ続いているのだ――まだ２日前のことである。
あの日“先制攻撃”で破壊された通信タワーの再建工事が、今まさに急ピッチで行われている。
そのクレーンから１００ｍほど離れた基地正門前の倉庫群に、アイレスの“相棒”パドルがいた。
コーン状の器具をかついで、倉庫の屋根の１つに上っている。
斉藤と佐津間、そして尾形と富谷が、それを地上から見上げて見守っていた。
「……あの小さな機器で、本当に襲撃者に対処できるのかな？ レーダーより小さいが」
「パドル大使の話だと、バリアのような効果があるそうですが……」
「オーバーサイエンスは想像力の外にありますからねぇ」
地上でそんな会話が行われている間に、パドルは器具の設置を終え、その操作盤を開けた。
瞬時にホログラム――立体映像のパネルが起動し、パドルはそれを手際よく処理する。
これ自体１種のオーバーサイエンスであるが、地上からは残念ながら詳しく観察できない。
パドルが設置しているのは、簡易式の空間シールド・マトリクスである。
あくまでも簡易式であるため、襲撃者の攻撃を１００％阻止できるわけではないものの、
奇襲攻撃や先制攻撃に対処可能で、部隊が迎撃体勢を整える時間稼ぎとしては十分なものなのである。
もちろん、前回のような偽装工作には、別のセキュリティが必要であるが。
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「ここが仮面ライダーＷの世界……か？」
光写真館と書かれた建物から１歩足を踏み出し、青年はポツリと呟く。
年齢は２０代前後、もやしのようにひょろりと背の高い優男だ。
門矢士……彼こそかつて、世界の破壊者――ディケイドと呼ばれていた男である。
彼の記憶によれば数年ほど前に、複数の並行世界が干渉し合い、崩壊していく異変が勃発した。
士――とその同志は、その世界を“仮面ライダーの世界”と呼んでいるようである。
士自身も“仮面ライダー”であり、世界を超える戦士“ディケイド”の能力を持っている。
世界崩壊の危機を食い止めるため士は独自に奮闘し、時にその世界の住人から破壊者と呼ばれながらも、
暗躍するショッカー連合などの野望を阻止する結果に、人知れず貢献することになった。
「確か仮面ライダーＷが住む町『風都』には、大きな風車『風都タワー』があるって聞いたのですけどね」
ニット帽を被った士と同い年くらいの女性は、可愛く小首を傾げる。
士が居候する光写真館の店主の孫娘・光夏海だ。
士からは親しみ(？)を込めて“夏みかん”と呼ばれている。
「……にしても士、今度は何の格好だ？」
人懐こそうな笑顔を浮かべ、傍らの青年が疑問を投げかける。
旅の仲間である、小野寺雄介だ――言われて士は、自分の格好を見る。
世界を超えた時、士の服装はその世界に相応しいものへと変化する。
もっとも厳密に言えば、士たち単独で世界を超えるのではなく、光写真館ごと転移するようである。
そして士と行動を共にしてきた夏海や雄介は、こうした現象に慣れているらしい。
今回の服装は厚手の紺色のスーツ――どうやら警官の服装らしいが……ちょっと違う気もする。
「ま、そのうち分かるだろ。こうして歩いていれば、自ずとな」
そう、この世界で果たすべき役割が決まっているというなら、いずれわかるはず。
事件は、いつも向こうからやってくるのだから。
士たちがそんなことを考えながら歩いていた時だった。
「おいお前、何をしている、管轄はどこだ？」
「……は？」
野太い声が聞こえたかと思うと、士と同じ格好をした警官達が、いつの間にか側に立っていた。
いや警官と言うよりも機動隊と言った方が良いだろうか……ヘルメットと灰色の盾も装備している。
そう言えば士の服装も、やや中途半端ながら機動隊のそれに近い。
「召集がかかっている。錦糸掘公園に怪物が現れたそうだ」
「緊急事態だ、お前も来い」
「あ？ 一体なん……って、ぉい！？」
男達は士の腕を両脇からがっちり押さえるや否や、ずるずると連行する……結構強引である。
「あっ、士君っ！？」
慌てて追い掛けようとする夏海だったが、その肩を雄介によって掴まれる。
「どうしたんです？」
雄介は真剣な面持ちで口を開く。
「なぁ、夏海ちゃん？ あいつら今、気になること言ってたよな？」
「え、えぇ……」
確か――
「怪物……って」
雄介はうなずく。
「それが本当なら、このまま追跡しよう。ひょっとしたら、その先に苦しんでいる人がいるかも知れない。
……それなら俺は、その笑顔を守りたいんだ！」
「雄介……」
そう、これまで雄介は、もうひとりの仮面ライダーである“クウガ”として、士と共に戦ってきた。
共感性が豊かで、人の悲しみを悲しいと感じ、人の喜びを嬉しいと感じる。
そんな真っ直ぐな青年の願いは、「みんなの笑顔を守ること」であった。
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再び錦糸掘公園。
今し方水霊の１体を念力で吹き飛ばしたダンが、きっと魔物たちを睨みつける。
「く……次から次に、何だってんだ！」
「もう１度警告する……これ以上の破壊工作は許さない、目的があるなら他所で聞こう」
「じょっ、冗談じゃねぇ、お縄になるのはごめん――」
水霊の１体がそこまで言った時だった。
さくっ、とケーキを切るような軽い音と共に、水霊の胴体を背後から刀のようなものが貫いた。
「！？ あっが――」
事態を察したと思う間もあらばこそ、水霊はドライアイスが昇華するように崩壊して霧消する。
そしてその背後から、セピア色の新たな“怪人”が、前触れもなくぬっと姿を現した。
全身鎧のような装甲で覆われ、鉄仮面のような銀色の顔と、背ビレのようなパーツが特徴的だ。
「臆病なやつは要らねぇんだよ、なぁ猛霊？」
――グルァアァアァァァ！！
セピア色の怪人の言葉に呼応するように、雄叫びを上げる猛霊。
そして怪人は、オレンジ色の淡い光を帯びた剣をゆらり、と振ってダンに向き直る。
「やっと、この日が来た……偽善者どもを切り裂く、俺の夢がかなう」
「偽善者ども、だと？」
「あぁそうさ、てめぇらのことだ……ヒーローと呼ばれて天狗になってる、偽善者どもだろぉ？」
怪人の鉄仮面を思わせる顔が、嘲笑うようにカタカタと震える。
「俺様はジャガン。冥土の土産に覚えとけ、偽善者どもを斬り捨てるために、俺は生まれて来た！」
言うや――その淡い光を帯びた切っ先が、ダンの喉笛をまっすぐに狙った。
強烈な殺気を感じて飛び退くダン――同時にメガネのようなものをかざし、その体が光を放つ。
薄暗いモヤの中で、真っ白な閃光がまるで小さな太陽のように煌く。
光が収まった後には、等身大の赤い光の戦士――セイヴンの姿があった。
どうやら新手の刺客――ジャガンが「人間体のままでは手に負えない敵」であると悟ったようである。
「それがてめぇの正体か……良いね、さぁサバイバル・ショーを始めようぜ！」
ジャガンは突き出した剣を、そのまま横殴りに振り抜く……重力を無視したような独特の動きだ。
セイヴンはこれも僅差で交わし、腕を十字に交差した。
ほとばしる白熱光――セイヴンの必殺技の１つ、ワイドショットである。
巨大化形態の時ほどの威力はないが、この状態でも戦車を吹き飛ばす程度には強力だ。
東京怪獣事件の際、巨大ロボット兵器ジェネラルジョーのコアを撃墜したのもこの技である。
だがジャガンはこの光線を、瞬時に引き抜いたもう１振りの剣で受け止めた。
そしてその熱量を切っ先にまとわせたまま、今度は大上段からセイヴンに向かって叩きつける。
――ゴォッ！
突風が吹き抜けるような音と共に、光の斬撃が公園を切り裂く――遊具もオモチャのように真っ二つだ。
そしてたまたま、その近傍にいた深雪たちが、火の粉を浴びるような熱風を感じた。
「――きゃっ！？」
「――あっ、熱っ！？」
「……！」
“変身形態”のセイヴンは表情を伺えないが、その光景に動きを止めて立ち尽くす。
そしてそんなセイヴンを、ジャガンは再び嘲笑うように言い放った。
「ちょろちょろ避けてばかりいられると思うなよ、てめぇが交わせば代わりの犠牲者が出るだけだぜ」
「卑怯者め……！」
「阿呆、言葉は正しく使え偽善者、俺は誰も盾にしねぇ、てめぇの問題だ……さぁどーするよ？」
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「――なるほど、大体分かった」
と、今度は公園の外にある道路から声がした……すぐに警察官のような服装の痩せた男が姿を現す。
たまたま“接近遭遇”することになった秋綺――ホーリーライトがぎょっとする。
普通の人間には手に負えない、アヤカシたちと交戦している真っ最中に男が現れたのだから。
「ちょっ、あんたダメだ、下がって！」
「ふっ――俺のことなら心配は要らない、こんな戦場は慣れっこさ」
その腰には、いつの間にか、１本の太いベルトが巻かれていた。
「―― 変身 ――」
男は、１枚のカードをベルトに装填する。
―― KAMEN･RIDE DECADE！
途端、その体をマゼンタカラーのライダースーツが覆っていく。
「なっ……！？」
「みゃっ！？」
ホーリーライトや、すぐ横にいたホーリーダビデは、呆気に取られた。
なにせ男は１瞬のうちに、バーコードを思わせる装甲を纏った騎士へと変貌を遂げたのだから。
冑の部分には、エメラルドグリーンの複眼が２つ輝いている。
そしてどこから取り出したのか、仮面の騎士――ディケイドは１振りの剣を構えている。
複眼の視線の先には、ホーリーメイデンズが交戦していた怪人の１人――ガス・ヴェイダーの姿。
そして新たな“敵”を察したのか、すぐに巨大タイヤをディケイドにも投げつけてきた。
「ふん――そんなものは、こうだ！」
アスファルトを削りながら転がってくるタイヤを、ディケイドは真一文字に斬りさばく。
実際には本物のタイヤではないのか、斬られたタイヤはその場で黒いガスに変わって霧消した。
「お、おぉ……やるな」
「みゃ、すごーいすごーい！」
ぱちぱちぱち。
……２人の戦巫女が、今やギャラリーとなってしまった。
「武器がない怪人は、ただの怪人だ！」
どこかで聞いた気もしないではないフレーズを唱えながら、ディケイドは更に切りかかる――が、
突如地面を突き破って飛び出してきた金色のトゲの群れに行く手を遮られた。
見ると――アロエビクスマングレートが、その太い腕を地面に叩きつけている。
自ら２人の戦巫女を相手にしながら、同僚の支援が出来る程度には、まだ余裕があるようだ。
「ほぅ、こっちの怪人には、そんな技があるのか」
しかしディケイドはあくまでも不敵な余裕を崩さない……どうやら本当に“慣れっこ”らしい。
そんな“飛び入り参戦”に、公園の奥で対峙するジャガンとセイヴンも気付いた。
「……何だありゃ、シマウマみたいな顔しやがって小生意気な」
「まさか……また並行世界からの干渉か？」
そしてディケイドも、そんな２人を認めた……とりわけ“２刀流”のジャガンに関心を示す。
「なるほどな……貴様が、この異変の首謀者か！」
「……ほぉ、随分と好戦的なやつじゃねぇか……ククク、これは楽しめそうだぜ」
「２正面作戦をすることになるかも知れんぞ？」
「かっかっか、上等だねぇ、それこそ俺が望んだシチュエーションだぜ！」
セイヴンの忠告をジャガンは笑い飛ばし、２振りの剣先をそれぞれの顔に向けた。
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「魔物が相手なら――新しく手に入れたこれだ」
―― KAMEN･RIDE WIZARD！
―― Hee！ Hee！ Hee！ Hee！
ディケイドが２枚目のカードをベルトに装填する。
ベルトの電子音声と共に現れた魔法陣が、騎士の体を覆っていく。
やがて中から現れたのは、姿を変えた騎士……いや今度は“魔術師”と言うべきだろうか。
緋の宝石で装飾された煌びやかなコートを翻し、その頭部は澄んだルビーのような輝きを放つ。
「さぁ、ショータイムだ！！」
―― ATACK･RIDE SHOOTING・STRIKE！
新たな形態“ウィザード”となったディケイドは、その近傍に浮かぶ魔法陣から、銃を取り出した。
「強烈なやつを食らわせてやる」
銃から放たれたのは銃弾ではなく――魔力を込めた火炎弾。
それはあたかもナパーム弾の爆撃の如く金色のバリケードを粉砕し、ガス・ヴェイダーを襲った。
しかし数発程度の火炎弾ではこの重量級の怪人はさして揺るがず、再び巨大タイヤを繰り出す。
もっともそれは、ディケイドの読み通りでもあった。
大きく跳躍したディケイドはタイヤの上に飛び乗り、そのまま飛び越える。
今や丸腰となった黒い怪人に、決定打を与えるべく渾身の蹴りをお見舞いするかに見えた――次の瞬間。
「――！？」
突如その視界がセピア色の影に覆われ、ディケイドは衝撃と共に弾き飛ばされた。
すぐさま空中で体勢を立て直して着地し、何が起きたのかその影の方向を見やると――
――ガァアァァァ！！
太った悪魔のような巨大な猛獣――猛霊が、ディケイドとガス・ヴェイダーの間に立ち塞がっていた。
しかし、水霊を踏み潰して出現した先ほどの猛霊ではないようである。
「２匹目か……味なマネを！」
「そういうことだ新入り」
そしてディケイドの背後から、セイヴンと交戦中のジャガンの声が響く。
「こいつらは幾らでも増えるぜ、勇み足で踏み潰されねぇように気をつけるんだな」
そして間もなく、新たに出現した猛霊の周囲に複数の小さな怪人――水霊が姿を現す。
「ぎゃははは、援軍参上だぜ！」
「新しい獲物はこいつか？ そっちの小娘どもの方が美味そうだけどなぁ」
「小娘か……ちっ、舐められたもんだな」
嘲笑する水霊の言葉に小さく溜息を吐き、ホーリーライトは手にした得物――雷槍を構え直す。
隣のホーリーダビデも、いつの間にか燃える刀――聖炎剣を手にしている。
聖炎剣は元々ホーリーフレアの得物だが、ダビデは複数のホーリーメイデンの技を使えるのである。
「ムカついちゃうよねっ、ぎゃふんと言わせなきゃ！」
そしてディケイドの両側に臨戦態勢で立つ２人。
「お前たちも……戦士なのか？」
「頼りなさげに見えるかい？ こう見えてもオレら、アヤカシ戦の“プロ”だぜ」
「そーだよっ、どんどん行っちゃうからね！」
今まさに――即席の“共闘体制”が成立したようだ。
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「これだから――偽善者ってやつは気に入らねぇんだ」
ぼそり、と呟いたのはジャガンである。
だがその言葉の冷たさは、先ほどまで嘲笑的だった怪人とは、まるで別人のように聞こえた。
空気が変わったことを察したセイヴンが身構える。
「正義の味方を気取って、お手手つないで英雄ヅラか、俺はそういうのが１番嫌いなんだよ！！」
憎悪を吐き捨てるような言葉は、その場にいた全員が思わず振り向くほど大きく響いた。
「守るために手を組んで何が悪いんだ、破壊者に立ち向かうには、それしか手がないこともある！」
「黙れ偽善者、そういうお題目で、今までどれだけ勝手なことをしてきた？」
「勝手なこと……だと？」
「そうとも、正義をひけらかせば、何でも許されると思って来ただろう。
そして悪のレッテルを貼られた者たちを、自分たちの基準だけで闇に葬り去ってきたのは誰だ！
破壊者と呼ばれた者たちに、自由に生きる権利を認めたことが、１度でもあるのか！」
「秩序を破壊する者の自由を認めたら、無法地帯になるじゃないか！」
「それが気に入らなけりゃ、自分の力で変えれば良いことだ、それを集団で正義を言い募り封殺する。
この世界に最も大きな破壊をもたらしたのは、その正義だと知っているのか？」
地響きのような怒声でまくし立てるジャガンに、三四郎が思わず眉を潜める。
「世界に最も大きな破壊をもたらしたのが正義だって！？ 何てこと言うんだ」
「けれども……あながち外れてはいない」
そして意外な言葉を口にしたのは高野である……三四郎はぎょっとした表情を浮かべた。
「ちょっ……何言い出すんですか！？」
「正義の名の下に、人間は争いを繰り返してきた歴史がある、それは事実と言わざるを得ない。
それぞれの国と民族の事情の下にある正義は、決して絶対じゃないってことさ」
「ほぅ……思ったよりクールなやつがいるな、ちょっと感心したぜ、まぁ入門編だがよ」
「だから世界の指導者たちは正義よりも、合意に基づいた条約や国際法で争いを抑制しようとしてきた。
その試みは、まだ道半ばだけどね……別に無法地帯が良いって言ってるんじゃないよ。
正義というコンセプトは、偏って解釈されやすいんだ、逆に争いの種を撒くことさえある」
人知を超えた怪人を目の前に、冷静さを崩さない高野の振舞いに、ジャガンはしばし怒声を収めたが、
すぐにふん、と鼻を鳴らすような仕草をする。
「偽善者よりはマシだが……そいつも綺麗ごとだな？
それが本当に通用するんだったら、世界はこんなに混沌としちゃいねぇだろうがよ」
「そうだね……だから僕も、道半ばだと思っている。
だから僕は法学部に進んだ……法が本当に、人間の愚かさをフォローしてくれるのか知りたくて」
そう言って高野はジャガンの顔を正面から見据えた……その目は澄み切っている。
「なるほどね……彼は俺と気が合いそうだ」
これはディケイドだ……善意の行動が、破壊という結末をもたらしたことを知るからだろうか。
「あん？ 偽善者が何を言い出すかと思えば」
「悪いが、俺はどの世界に行っても、歓迎されたことがなくてね……だから何となく分かるのさ。
正義の欠点も、人間の愚かさも……けれど、守りたいと思った気持ちが揺らいだことは１度もない。
こんな俺も……いちおうは人間なんでね」
「ほぉ……正義の愚かさを知っているのに、てめぇは戦い続けるって言う気かよ？」
「それが俺の存在理由だってことさ……無意味だったら、ここにはいないだろう」
ジャガンがしばし沈黙した。
セイヴンが先ほど感じた憎悪と殺気はいつしか薄れ、怪人たちが居並ぶ非日常空間が静まり返る。
ホーリーアクアたちもこの奇妙な雰囲気を注視していたが、何も言えなかった。
それだけ――ジャガンと高野が突きつけた“正義の闇”が重かったのかも知れない。
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１０秒ほどが、経ったのだろうか。
ふとジャガンは、両手に構えていた刀の１つを、鞘に収めた。
「……気が削がれちまったぜ、俺帰るわ」
緊張でピリピリしていた少女たちと少年と女性と青年が、ぽかんと呆気に取られた。
……セイヴンとディケイドは表情が読み取れないが。
「このまま去るつもりか？ こんな騒ぎを起こしておいて――」
牽制しようとするセイヴンに、しかしジャガンはまだ手に持っていたもう１つの剣を向ける。
「偽善者は黙っていろ。せっかく帰るって言ってるんだ、ちょっとは尊重してくれや。
おぅザコ共帰るぞ、ごちそうはお預けだ」
「「――えぇっっ！！？」」
周囲にいた水霊たちが一斉に、悲鳴のような声を上げた。
猛霊は黙っている……あんまり頭の方は強くないのかも知れない。
ガス・ヴェイダーやアロエビクスマングレートも無言で立っている……こちらも表情は分からない。
そしてラッシュガイは構えを解き、「シャッ」と小さく舌打ちの音を立てた。
「ジャガンの旦那、それはねぇっすよ！？」
「居残るんだったら好きにしろ、てめぇらだけでこいつらと殺り合えるんだったらな？」
「ぐぬぬ……」
そしてジャガンはもう１振りの刀を鞘に納め、踵を返した……再び高野と視線を交わす。
「せっかくの空気を冷やしてくれた礼はいつかさせてもらうぜ、人間？」
「……ケンカに自信はないから、お手柔らかに願うよ」
ウィットに富む返答をする余裕はなかったが、それが高野の精一杯の強がりだったのかも知れない。
ジャガンはふん、と鼻を鳴らす仕草をして、紫色のモヤの中に姿を消した。
呼応するように他の怪人達も、後ずさりするように、思い思いにモヤの中へ去って行く。
アヤカシたちの気配が消えて間もなく――不気味なモヤが嘘のように薄れて行った。
「行ったか……」
呟きと共にまずディケイドが変身を解き――青年・士に戻る。
こちらも吊られるように、ホーリーメイデンズの少女たちが次々に変身を解いた。
「それにしても、いきなりアヤカシに出くわすとはね……」
「でも最後のアレは何だったんだろ？」
それから数十秒ほど経っただろうか……サイレンの音と共に、警官たちの集団が姿を現した。
防衛特調の指示で、突入を控えて待機していた機動隊のグループである。
本当は戦士たちの後方支援を意図していたが、ジャガンがあっけなく撤退したため間に合わなかったらしい。
キョロキョロと公園を見回し、胸を撫で下ろす者、敵を逃がしたと知って舌打ちをする者、色々だ。
「ちっ……少し遅かったか」
「おいお前、先に飛び出して行っただろう、何があったんだ！？」
最初に話しかけられたのは士だ……何しろ、見た目は警官のような服装をしているためである。
しかも機動隊員に“連行”された時に、隙を見計らって彼１人、現場に飛び込んでいる。
「……魔物と怪人が集団で暴れていた、って言えば分かるか？」
「分かるような分からないような……まぁ、渋谷でもあったことだけど」
「ところでお前、本当にどこの署から来たんだ、見かけない顔だが？」
士は言葉に詰まる……異世界から来た戦士だって言っても、まず信じてはくれないだろう。
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「彼は私どもの関係者です、どうも済みませんなぁ」
その言葉に士や少女たちが振り返ると、バイクにまたがる壮年ほどの男性がいた――本郷だ。
乗っているのはサイクロンだが、さすがに彼も現場には間に合わなかったようだ。
「えぇっと、おたくどちら様で？」
「あぁそうか、まだ周知されてないですしねぇ……こういうモンでして」
本郷が胸ポケットから機動隊員に差し出した名刺には、こう書かれていた。
『防衛省特殊事態調査室付特殊事態アドバイザー・本郷猛』
「あっ、あの防衛特調の……」
「そんなわけで、事情聴取はこちらに任せて頂ければ……」
「まぁ、警視庁からの通達もありますし……止むを得ませんなぁ」
機動隊の隊長らしき壮年の男性は、ぶすっとした表情で部下に撤収を命じた。
特別な事態に特別な調査チームが要る理屈は分かっても、警官としてのプライドがあるのだ。
もちろん防衛特調側に権力を乱用する意図はなかったが、秘密主義を疑われても仕方ないだろう。
警官も公務員だが、公の職能も１枚岩ではないということである。
機動隊が渋々撤収して間もなく、“詰問”から開放された士がまず本郷に話しかけてきた。
「まさか……あんたとこんなところで会うとはな」
「そりゃこっちのセリフだよ、士君」
……実は２人には既に面識があった。
“仮面ライダーの世界”を渡り歩く士は、本郷つまり“１号ライダー”とも会っていたからだ。
「あっ、本郷さんじゃないですか！」
「おぉ、確か夏海ちゃんだったな、久し振りだなぁ」
そこに更に雄介と夏海が駆け寄ってきた。
２人も数分前に現場に着いていたが、現場を封鎖する機動隊に足止めを食っていたのだ。
そして押し問答をしている間に、やはり「出遅れてしまった」ものである。
「えっ、ちょっと待ってください……どうして本郷さんがここに？」
雄介が早速クエスチョンマーク症候群に罹患した……彼らはここが異世界だと知っているからだ。
本郷にディケイドのような能力があると聞いた記憶もない。
「まぁ、話せば長くなるから、続きは後で良いかな？ 他にも仕事があるんだ」
本郷はそう言って、公園の奥にいたセイヴン――いや、モロボシ・ダンに歩み寄る。
こちらも既に変身を解き、人間体に戻っている。
「申し訳ない……少し遅れてしまいました」
「いえ、意外に早く撤退したので仕方ないです……自分ももう少し長引くと思っていました。
襲撃者の心変わりに感謝すべきかも知れませんね」
そう言ってダンは苦笑した……ジャガンが言った言葉に引っかかるものを感じながら。
「ところで先ほどの会話だと……あの青年と顔見知りで？」
「えぇそうなんですよ……まさかここで会うとは、縁とは不思議なものです」
「彼にもあなたに似た能力があるようですが、この事態に関わるとはどういうことでしょうか？」
「それは自分も何とも……ただ彼の場合、元々そういう特性を持っているようですがね。
自分に“異世界の免疫”があったのもある意味、彼のおかげかも知れない」
「そういう特性……つまり、並行時空を自発的に越える特性がある、ということですか……」
「あ、あのぉ……」
その時――会話するおじさん２人に、少女の声が済まなそうに割り込んだ。
はっとして振り向くと、メガネをかけた少女――冬雪の顔が。
「あぁそうだった、君たちにも聴取しなきゃいけなかったね、済まない」
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「……手ぶらで帰還とは、何とも素晴らしい“切り札”じゃのぅ」
とある雑居ビルの屋上で、撤退したジャガンをジャンキー・マスターとぬらりひょんが出迎えた。
早速ぬらりひょんが、皮肉たっぷりに言い放つ。
「ふん、また随分と不満そうだな……だが元々“お手並み拝見”だったんだろ？」
「計画ではな。 しかしわざわざ出てきたんじゃから、正直もう少し見せてくれると思っておったわい」
「モチベーションを冷やす人間がいたようだ……アヤカシに免疫はなさそうだが」
フォローするようにジャガンの“雇い主”ジャンキー・マスターが口を開く。
因みに最初に現場を見下ろした雑居ビルではなく、感知されるのを避けるため場所を移している。
「あの人間は少々、厄介な存在になるかも知れん……感情で誘導できないタイプは我々と相性が悪い」
「たかが霊感もない人間１人に弱気じゃな？……あんな若造、魔力で押し潰せば済む話じゃろうて」
「そうッスよね、ぬらりひょん様の言う通りだ！」
ぬらりひょんの目がひときわ侮蔑するような色を帯びる……隣の朱之盆も真似るような目をした。
「腕っ節だけで威圧するのは、ザコのやることじゃねぇか……俺の趣味じゃないね」
「ふぉっ、何を物分りの良さそうなことを言っとるのかねこの怪人は、自分の任務と使命をお忘れではないか？」
「考えなしに刀を振り回すだけが俺の任務でも使命でもねぇがな？
あんまり人間を舐めん方が良いぜ……偽善者でない人間は意外としぶといモンだ、機転が利くからな」
「おっお前……ぬらりひょん様になんて口の利き方だ、謝れ、この！」
ジャガンの反論にぬらりひょんの顔から笑みが消えた……好々爺を思わせる顔つきにじわりと怒気が滲む。
「数週間前に誕生したばかりのくせに、随分と知ったようなことを言う……」
「体の方はな。 だが記憶はもっと古いんだよ、俺を作り出した記憶の持ち主は人間を何千年と見てる。
人間がただ愚かで弱いだけの動物なら、何千年も繁栄できなかったろうぜ」
「はっ、これは異なこと。 人間を評価するとは、アヤカシの風上にも置けぬ……」
「頭はでかいくせに脳味噌は結構硬いな、自分たちだけが正しいと思い込むなら偽善者と同じだぜ？」
「かーっ、こいつめっちゃムカつく！」
吐き捨てる朱之盆だが、ジャガンがぎろりと鬼火のような単眼で睨むと、そそくさと“師匠”の影に隠れた。
「まぁジャガンもその辺にしておきたまえ、貴公はどうも煽る癖がある」
ピリピリした空気を取り成すように、再びジャンキー・マスターが割って入った。
共同作戦が破綻するような事態になるのも、都合が悪いからだ。
「おっと、そうだったな」
「ゼルガ殿といい彼といい……貴公の同志とやらは随分と口が達者じゃな？」
「褒め言葉として受け取っておいて宜しいかな？ そろそろ次のメニューに移りたい」
数秒ほど無言でジャガンを睨みつけていたぬらりひょんだが、ふと顔を上げて視線を変える。
「まぁ良いじゃろ……小さな“ゲート”を使いこなして、客を連鎖的に招待する実験は確かに成功したと言えような」
「そう……これで今後も、時間を気にせずに作戦を進めることが出来る……“霧”の効果も良かった」
「ワシとしては、人間が余りこうした事態に適応されても困るのじゃがなぁ……」
「確かに人間の適応力は警戒しなければなるまいな、今回も問答で対峙する若い人間が場の空気を変えた。
しかしそれを補って余りあるほどに、混沌を深めるゲート工作は“闇の集束”に役立つのだ」
「闇の集束、か……」
ぬらりひょんが扇子を口に当てる……彼が戦略的な思案をする時の癖らしい。
そしてその振舞いに呼応するように、ジャンキー・マスターが再び冷酷な笑みを浮かべる。
「そうだ……我が同志が目指す“革命”には、闇の集束が不可欠なのだよ。
そのためには、この世界の混乱を可能な限り煽り立て、混沌を深める必要があるのだ。
貴公ら伝統的なアヤカシたちにとっても、混沌が深まれば深まるほど、都合が良いはずだ」
「そちらが言う“偽善者”からの抵抗も激しくなるじゃろうがね？」
「そのためにジャガンが生まれたのさ……そして今回はその能力特性を見極める意図もあった。
ジャガンがすぐ撤退して、向こうは不可解な気分だろうが、手の内を読まれなければ結果オーライさ」
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| （東京妖怪事件其の３） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010〜2012年頃に草稿を作成したエピソード。
旧ＯＷ企画時に作成したエピソードを再編したものであり、レオ（流離太）氏が書いたエピソードを内包する。
旧企画打切によって登場しなくなったキャラクターもいるため、再編の必要性が生じたためだ。
旧企画時にはもっと規模の大きなハイライトであったが、再編の結果公園の１角で起きた異能事件になっている。
レオ（流離太）氏の１次創作である『ホーリーメイデンズ』キャラがカメオ出演する構図は旧企画と同じだが、
敵キャラの再編により、同氏投稿の百鬼夜行衆とメヴィロイドチームを少し早めに登場させた。
もっともディケイドの参戦は旧作と同じであり、対戦カードだけ異なっている。
また新機軸として、高野という“非戦力キャラ”が、事件を収束させる鍵を握るシナリオにしてある。
異能戦士ばかりが見せ場を独占する物語にはしたくなかったことに加えて、
「ヒロイズムの暗黒面」が本シリーズのもう１つの大きなテーマであったためである。 |
