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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130721B） |
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私立金芽台学校・旧校舎。
中等部の校舎として使われている古風な建物だが、
この端に、老朽化のために使用禁止になっている区域がある。
夏の夕焼けが黄昏に変わる時間帯……すでに人気のない校内に、３つの人影がうごめいている。
銀子と花子とルイ……厳密には３人とも“人間”ではない。
銀子は銅像のアヤカシであり、花子はトイレのアヤカシ（ただし元人間）、
そしてルイは過去に人間だったが、ルビーを思わせる生きた石像に変えられた“鉱物娘”である。
３人は１時間ほど前に起きた“黒い雨”の直後に目撃した“怪人たち”を追って、ここに来た。
怪人たちが非人道的な行為をしている可能性を、目にしたためである。
魔物のように言われるアヤカシにも、友好的な者はいる。
ましてやルイは元人間であり、自分自身がその“非人道的な行為”の被害者でもある。
今目の前で進行中の“犯罪行為”を見て見ぬ振りなど、彼女には到底出来なかったのだ。
（これが旧校舎……た、確かに、今にも崩れそうなくらい古いわね）
声にならない言葉でルイが呟く……瞳のない赤い目で建物を見上げながら。
「さっきの銀色、１階から入って行きましたね……」
「慎重に行けよ……罠があるかも知れないからな」
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第７章 無機物の生命体たち ★
2013年7月21日―日本・金芽台事件其の２
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「――加奈が行方不明になったって！？」
ほぼ同時刻、喫茶はなこ。
咲の母親、山本華子が経営する小さな喫茶店だ……２日前にはここで“食い逃げ騒動”も起きた。
幼馴染が行方不明という知らせを聞いて、ディアスが血相を変えて駆け込んできた。
店内には咲の他、先日知り合った陽炎たちや冬雪たちもいる。
咲の電話で駆けつけたらしい。
「ディアス君！ 加奈の話、何か聞いてない！？」
「……聞いてたらこんな顔してないよ」
咲に言葉を返したディアスの表情は、確かに驚愕で引きつっている。
「……この前、ここで知り合ったばかりなのにねぇ……」
「だ……大丈夫ですよ、きっと無事ですって！」
春花が精一杯励まそうとするが、そう簡単に空気は明るくならない。
とりわけ……親友の咲とディアスの表情は暗い。
「……まさか……神隠しに遭ったんじゃ」
ぼそり、と呟いた咲に、周りが一斉に反応する。
「神隠しって！？」
「それって、どういうことなん！？」
「えっ……あっ、いやその……な、何でもないの、あれはウワサ話に過ぎないから！」
慌てて否定する咲だが、秋綺や三四郎は真剣だ。
それはそうだろう……彼らは都市伝説から生まれた“妖怪”を知っているのだから。
「いや……ウワサ話だからって、軽く見ない方がいいと思うぜ」
「その通りです。都市伝説だからって迷信だとは限りませんよ、山本さん」
「そうそう、この前の食い逃げ犯だって、妖怪だったっぽいし」
軽く深呼吸して、冬雪と黒潮が話を進めようとする。
「取り合えず……その話、聞かせてくれないかな？」
「そうや、ね……聞かへんと分からへんこともあるし……」
「……最近、そういうウワサがあるの……」
周りの声に背中を押されるように、咲はぽつりぽつり、と“都市伝説”を語り出した。
ここ数日続発している行方不明事件の直前に必ず起きる“謎の黒い雨”の話を。
雨上がりには必ず誰かが行方不明になるため、『神隠しの黒い雨』の名がついていることを。
「黒い雨……」
「ぶ、物騒なネーミングですね……」
「そう言えば、昼過ぎに黒雲が湧き上がっていたけれど……雨って降ったかしら？」
「俺……見たかも知れない、その雨」
意外にも、ウワサ話の“目撃例”を口にしたのは――ディアスだった。
「ホント！？」
「俺ん家、加奈の家の近くだからさ……お巡りさん来てたから、見に行ったんだよ。
そしたら……向かいの林が、真っ黒に染まってた……塗り潰したみたいに」
ディアスの言葉に、少女たちは顔を見合わせた。
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再び旧校舎の立ち入り禁止区域。
階段をそろり、そろりと降りていくのは、銀子とルイだ。
因みに花子は「見張りしとくわ」と外にいる。
階段を上るのではなく、降りているのは、上り階段が封鎖されていたためだ。
１階から降りていくため地下に当たり、煤けた壁の古い標識には『地下倉庫』と書いてある。
銅像娘の銀子も、鉱物娘のルイも、普通の人間より体重が重い。
そのため、音を立てずに階段を下りるのは、かなり神経を使う……いや、物質的には神経がないのだが。
そんなこんなで、地下１階まで降り切るのに、30分くらいかかってしまった。
地下１階の廊下はほぼ真っ暗だ……しかし突き当たりの地下倉庫の扉からは、青白い光が漏れている。
幸い――銀子もルイも「息をする必要のない体」なので、足音さえ気をつければほぼ無音だ。
間もなく地下倉庫の扉の前にたどり着いた２人は、そっと扉の隙間に耳を当てる。
小さな声がかすかに聞こえてくる……倉庫の奥か、更に奥の部屋にいるのだろうか。
奇妙なイントネーションを持っているところを見ると、どうやらジョルバと呼ばれたあの怪人らしい。
「まだたった７体ダ……出荷には早いヨ……せめてあと２〜３日、必要ダ――何、遅い！？ 仕方ないダロ、
助手がマヌケなんだ、あの百合子とか言う銅像娘、ろくに手伝わナイんだゾ！」
その声をカモフラージュ代わりに、ルイは慎重に倉庫の扉を開ける。
人１人通れそうな隙間が出来ると、その隙間にするり、と体を滑り込ませる。
どうやら奥にはまだ部屋があるようだ――とルイが思ったその直後。
（こ……これは……！！）
視界にずらりと並ぶ“物体”に、ルイは言葉を失った。
少女たちの銅像だ……５体以上いる……ジョルバの言葉が正しいなら、７体いるのだろう。
背格好は様々だが、概ね小学生から高校生までといった印象だ……もちろん全員少女、つまり女性である。
いずれも“普通の銅像”ならあり得そうにない、奇妙なポーズと悲しげな表情をしている。
先ほど見た“触角髪の少女”もいる……全員目に瞳の影はない、今のルイのように。
もはやルイには、１つの確信が生まれていた。
ここに置かれているのはただの銅像ではなく、あの“黒い雨”で銅像に変えられた人間たちだと。
「ルイさん、どうしたんでｓ――ムグッ！？」
（しっ……声出さないで、見つかるじゃない！）
「ムグガモゴガゴッ、モゴゴムグガゴゴッ（な、何ですかこの銅像、もしかしてこれも元人間ですかっ！？）」
（多分ね……嫌な予感が当たるって、最悪の気分だわ）
（とんでもないことするもんですね……元に戻せるんでしょうか？）
（分からない……“あの人たち”みたいに、“魔法”が使える人がいたらいいけど……
戻してあげたい……あたしみたいになる前に……絶対に！）
（えっ、ルイさんみたいにって、どういうことですか？）
（“魔法”が使える人が言ってたの……石像に変えられても、すぐだったら元に戻せるって。
でも何ヶ月も放置していたら、戻せなくなるんだって……あたしは１年くらい放置されてたからね）
衝撃的なルイの“告白”に、陽気な銀子もさすがに表情が強張った。
「…………！」
（だからこの子たちは、絶対元に戻してあげたいの）
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「で――どうするの？」
「決まってるじゃないか、助けなきゃ」
喫茶はなこでの会話から10数分後。
冬雪たち“ホーリーメイデンズ組”は、暮れかかった“学園通り”を金芽台学校方面に向かって歩いていた。
同伴した陽炎がスマホを手にしている……異変についてサイトＧに“通報”しているのだ。
「んでどうなったん？」
「高山さんと連絡がついたわ、使えるメンバーを何人か派遣するってさ」
因みに陽炎と黒潮はいったんサイトＧに戻る……艦娘も“異能者”には違いないのだが、
相手が対戦経験のない妖怪の類かも知れない上、艤装がなければ本来の実力を発揮できないからだ。
しかも……陸上では十分に戦えないことは言うまでもない。
サイトＧには“陸自娘”も既に滞在している……彼女らは艦娘と違って陸戦に制約がないが、
“昨日の今日”でいきなり畑違いの作戦に参加することはさすがに出来ないだろう。
幾ら昨日――異能者たちの能力テストを“見学”しているとは言っても。
いや……それ以前の問題もある。
「でも……どこに行けばいいんでしょうか？」
「みゃう〜そぉだよね〜」
「うーん……手がかりがあるとしたら、さっきディアス君が言ってた“黒い雨”か……」
「でもそれだけじゃどうしようも……」
「あの“旧校舎”が怪しい気がするなぁ」
ひょこっ、と冬雪の背中から飛び出した亀のような神獣・玄武がぼそり、と呟いた。
メロンパンを思わせるこの小さな神獣は、冬雪のホーリーアクアとしての能力を支える存在であり、
世界の裏側に展開する“アヤカシ事情”にかなり詳しいのである。
因みに陽炎たち艦娘も、このキャラクターは既に昨日の能力テスト時に知っている。
また同時に彼女らもホーリーメイデンズに、自らの能力を支える“装備妖精”を見せているのだ。
「旧校舎って、山本さんたちの学校の？」
「そう。この世界に来てから、あの建物の周囲がどす黒く見えて仕方ないんだ」
「まぁ確かに、都市伝説の１つや２つあっても不思議がない古い建物があったよねぇ」
「確かに変な気配を感じるにゃあ」
いつの間にか白い猫のような神獣・白虎が、秋綺の頭の上に乗っかって相槌を打っている。
こちらは秋綺のホーリーライトとしての能力を支える存在である。
付け加えると元男子の秋綺を、戦巫女の能力に馴染ませるために「少女固定」した張本人でもある。
「変な気配って何だよ？」
「良くは分からないにゃ。でもアヤカシがいそうな気がするにゃ」
「そう言えば、立入禁止になっているところがあるって……」
「山本さんが言ってたね、確かにそこは匂うかも――」
「三四郎先輩――あれ、何？」
その時ふと、終里が前方を指差して呟いた。
一同が指差した方を見ると――
――ウフフフッ
信号の更に向こう……金芽台学校の正門に近い、木立の暗がり辺りだろうか。
能面のような白い顔が暗闇の中に浮かび上がって、不気味な薄笑いを浮かべている。
暗いため良く分からないが、黒ずくめの小柄な人間らしい。
妙に良く響く、これまた不気味な笑い声を上げている。
「何だ、あれ……？」
「強い霊気を感じる……アヤカシかどうかは分からないけれど」
「嫌な顔つきね……しかも、まるであたしらを誘ってるみたいじゃない？」
――フフフフッ
白い顔の黒い人影は、なおも笑いながら金芽台学校の校門の中へと入っていく。
不気味な笑い顔を常に冬雪たちの方へと向けながら。
「どうやら……あたしたちに構って欲しいみたいね、どうするみんな？」
「行こう……青葉さんがあそこにいるんだったら、助けなきゃ」
「碓氷先輩、罠かも知れないよ？」
「罠でもいいよ、他に手がかりがないんだったら、賭けるしかない」
「少なくとも、あの人が何か知っているかも知れないしねぇ」
少女たちは顔を見合わせ、軽く頷き合った。
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「――誰かいるの！？」
ルイたちが地下室で“銅像化被害者”を見ていたその時――出し抜けに背後から声が響いた……百合子だ。
（――や、やばっ！？）
（あ、でも、銅像の振りをすれば何とかなるかもですっ）
（って、それが通用するのって、あなただけじゃないっ！）
咄嗟に、“銅像に変えられた娘たち”の足元に隠れるルイ……銀子は即興でポーズを作って動きを止めた。
間もなく……百合子の銀色の体が、倉庫の中に入ってきた。
きょろきょろ、と辺りを見回している……とふと、銀子の姿を見つける。
「……こんなのあったかしら……何を思ってこんなポーズ取ったのかしらね、まるで盆踊りじゃない」
「わ、悪かったですね、盆踊りでっ！ ――――あ」
「――――なっ」
…………銀子、あっさりと自爆。
つーか、はぇえなをぃ。
「――何の騒ぎデスかっ！？」
「侵入者ですわ！……こんなに早く、ここがばれるなんて！」
「――んなっ、もしかシテ、捜査局のガサ入れ！？」
奥の部屋から飛び出してきたジョルバは、すぐに銀子の姿を目に留めた。
「……な、何デスかこれは。ワタシはメタロイドを活性化させた覚えはナイですよ！？」
「めたろいど……何のことか分かりませんけど、これはアヤカシですわ、しかも下等な銅像の！」
「ちょっと待つですよ、下等とは失礼ですっ！」
「お黙りっ！ 何の目的でここに来たのですか！？ 誰の差し金です、さぁ話しなさい！」
（――あたしの友達に手を出さないで）
ゆらり、と立ち上がったルイの姿を目に留めた、ジョルバと百合子は再び表情を変えた。
「だ……誰よ、あなた！？」
「ナ、何と……活性化メタロイドにこんなところで会うトハ！」
（見たのよ、あんた達が銅像に変えた女の子を運んでるところをね……だから止めに来たの）
「銅像に変えタ！？ あは、ハはハ、何言ってるんデス、これは単なる銅像――」
（見くびらないで。普通の銅像と“銅像にされた人”を見間違えるほど、あたしの目は節穴じゃないわ。
自分と同じ境遇の人かそうでないかくらい、すぐに分かるわよ）
「ハ、はハは……大したものデスね、ここまで安定した活性体ガ、この星にいるトハ！」
「どういうことですの、説明してくださいな、こんなのがいるなんて聞いてませんわよ！」
「ワタシも初めてデスよ……安定したメタロイドの活性体……いやァすンばらしィ、エクセレント！
百合子さん、その娘モこの商品たちと同様、元は人間だったということデス！」
ふひょひょひょ、と気持ち悪い笑い声を上げるジョルバ。
（商品……聞き捨てならないこと、平気で言うのね、あんた）
「元人間ですって！？……どう見ても石像じゃない！」
（そうよ、今は石像……でも確かに昔は人間だったわ。だからここに来たの。
あんたたちのやってること、絶対許さないからね！）
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その頃“メイデンズ特別合同戦隊”は、旧校舎の立入禁止区域の、すぐ近くまで来ていた。
……まぁ、まだ“変身”はしていないのだが。
因みに金芽台学校の正門前で、サイトＧから駆けつけたラティスとシド、スミレと合流している。
スミレは竜王チームのメンバーではないが、「嫌な予感がする」と志願したらしい。
半開きのフェンスの前に、さっき冬雪たちが目撃した、白い顔の人物が立っている。
長い髪と漆黒の衣装……体形や雰囲気から、どうやら女性らしいことが分かる。
「あんた誰よ……あたしたちをこんなところに誘って、どういうつもり？」
「フフフ……気が強いわね、坂田夏月――いいえ、ホーリーフレアと言うべきかしら？」
夏月の問いかけに、“漆黒の女”は初めて言葉を返した。
「喋った……！」
「あたしたちの名前を知ってるのね……ホーリーメイデンズのことも」
「当たり前じゃない……私もあなたたちと同じなのだから」
「同じだって！？」
冬雪の言葉に、女は初めてにやりと表情を変えた……血のような赤い唇を開き、お歯黒のような黒い歯を見せる。
長い髪とつながっているかのような黒い裾が９つに割れ、ゆらりと浮き上がる。
「ようこそ夜の世界へ。私はナイトメイデン。夜の闇を司る、黒き巫女」
「ナイトメイデン――だって！？」
「ダークメイデン……じゃないんだね」
「メイデンをつけるってことは……ホーリーメイデンズと関係があるのか―― 玄武！？」
“ナイトメイデン”を名乗った漆黒の女に動揺する冬雪たち。
だが――実は最も動揺したのは、玄武ら神獣たちだった。
「この霊気……あの姿……まさか、そんな……あれは“光の衣”だったはず！」
「ちょっとちょっと……どうなってるんにゃ！？」
どうやら――ナイトメイデンの姿に、見覚えがあるらしい。
「そう――私はかつて、“聖光の法衣”と呼ばれた神具の化身。でも夜の化身に生まれ変わったの。
内藤魅叉が闇の使命を放棄した時から、私はその使命を受け継いだのよ」
「内藤、魅叉って……！」
「あの人のことまで知ってるんですね……！」
内藤魅叉――それはホーリーメイデンズの始祖とも言うべき“原初の巫女”。
かつて闇に飲まれ、アヤカシと化してメイデンズの前に立ち塞がったこともあるが、その危機は退けられた。
顔色を変える少女たちを嘲るように、ナイトメイデンはくすくすと笑う。
「当たり前じゃない……私は内藤魅叉の使命を受け継いだのよ。いいえ、それだけじゃないわ。
あなたたちの後ろにいる子たちだって、私は全てお見通し」
「後ろって……つまり自分たちのこと？」
「他には……いないよね？」
突然“話を振られた”ラティスたちが、今度は表情を変える。
こうしたトラブルの経験が多いのか、驚きというよりは戸惑いの表情だが。
「竜王――アクエリアスの工作任務を司る、人間とは違う能力を持つ者たちの集団……そうよね？
あぁそうそう、お隣の娘は違ったわね……メドゥアス様の“作品”だったかしら」
「――――！！？」
想像していなかった言葉を聞いた、スミレの紫色の顔が思わず引きつった。
違う世界からやってきたはずのスミレのバックボーンを、どうして彼女は知っているのか。
「こいつ……どこでそんなネタ、仕入れてきたんだよ？」
「あなたたちの宿敵――確かエグゼクターと言ったわね、つまり裏社会の支配者。
私も夜の化身、共鳴するものは多いということよ」
「こんなところでエグゼクターの名前を聞くとはね……」
「さぁ――夜が始まるわ。ここからは私の時間。あなたたち“光の巫女”が、
この夜の世界でどれだけ頑張れるか、私に是非見せてくれないかしら？」
ナイトメイデンがそう言った直後――ズシン、と重い足音が少女たちの背後で響いた。
振り向いた少女たち――シドは少年だが――の視界に入ったのは。
「ちょっと、こいつらって……！」
「強化アヤカシ！！」
アロエビクスマングレート、ガスヴェイダー、ラッシュガイの“魔造アヤカシ３人衆”。
数日前に起きた“錦糸町事件”で交戦したばかりの、“人工妖怪”たちである。
更にはその背後に、水霊や猛霊など、“歩兵アヤカシ”も何体か見えている。
「ケッケッケッケ……！」
「グルルルル……！」
「何だこりゃ……この変てこな連中もアヤカシなのかよ？」
「やっぱり……罠だったっぽいね……」
「行方不明のお友達を助けたければ頑張ることね、ゴールは近いわよ♪」
「！！……それじゃあやっぱり……！」
「……随分ナメられたもんだな、どうやら遠慮は要らないらしい」
「そうだね、青葉さんを助けるにも、こいつらと戦わなきゃならないみたいだ」
「お言葉に甘えさせてもらいましょうよ――いいえ、是非とも後悔して頂かなければねぇ」
老朽化した旧校舎の外れで、戦乙女たちの光がプリズムのように煌いた。
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再び、地下室の“最前線”。
物言わぬ７人の“被害者達”に囲まれて、ルイと銀子、百合子とジョルバが対峙している。
「ふん……たかが石像の分際で、随分と大きな態度を取りますのね、あなた。
気品のかけらもないボロボロの服で、よく言えたものですわ♪」
（悪かったわね……こっちはあんたみたいに、服まで硬くないもん、仕方ないでしょ）
「おっほっほっほ♪ そんな中途半端な状態で、よく私達に反発しようと思ったものですわね」
「石化された時は何も着ていなかったのデショウ、いっそ脱ぎ捨てた方が美シイ♪」
「しかも声も出せないなんて……ほんと石像と同じじゃない、あらあら可愛そうですこと♪」
「物質的には石像ですカラ、“アヤカシ”とやらと違って声を出す機能もないのデスよ。
しかし生きた彫像と考えれば、声を出す必要などありまセン！」
（うわ、あんたってほんと最っっ低。キモい怪人だと思ってたら、中身も変態なのね）
「ひょっ、失敬ナ。芸術的感性と言って頂きたいものデス！」
（バカみたい、これのどこが芸術なのよ、わけ分かんない！）
「高貴な感性を理解できない粗野な石像娘には、何を言っても無駄ですわね、おほほほほ♪」
「――あるぇ、さっき『悪趣味』とか言ってませんでしたっけ？」
背後でぼそり、と突っ込んだ銀子に、百合子は思わず殺気を帯びた視線を返した。
銀子が言っているのは、確かにジョルバが去った後、公園で百合子が１人呟いていた言葉である。
「っ……！ なっ、何を言い出すかと思えば……ほっ、おほほほっ、言いがかりも甚だしい！」
「言いがかりじゃないですよ、さっき公園でしっかり聞いちゃいましたもんねっ」
「……百合子サン……それは本当デスか？」
「冗談ではありませんわ、こんな下等な銅像のアヤカシの言葉を信じるおつもりですの？」
「下等下等って失礼ですねぇ。あなただって同じじゃないですか」
「お黙り！ 一緒にしないでくださいな、この白金院百合子、あなたのような銅像とは次元が――」
「所詮銀メッキじゃないですか」
「――んなっ！？」
ずばり。
「人間と同じ大きさの銀細工なんてあり得ないですよ、銀メッキがいいところですっ」
「なっ、何を証拠に銀メッキなどとっ……純銀ではない証拠でもあると言う気ですのっ！？」
「純銀だったら今頃錆び付いて色褪せてるはずです、知らないんですかぁ？」
「えぇっ！？」
銀子のメガネがまた、キラリと光った。
「白金は化学変化を起こしにくいですけど、このサイズで白金って、純金よりあり得ませんよねぇ」
「ぐっ……！」
百合子は返す言葉もなく、手をわなわなと震わせて黙っている。
（……こ、この辺は二宮金次郎譲りなのね、あの天然キャラが嘘みたいだわ）
「伊達に本ばっかり読んでるわけではありませんよ、えっへん♪」
「……非協力的だと思ったラ、そういうことだったんデスね」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいな、敵の言葉に振り回されるなんてあり得ませんわ！」
いや、あなたが１番振り回されてるんじゃ？
「余興は終わりですわ、ここからタダで出られると思わない方がよろしくてよ？」
「タダで出ようなんて思ってないですよ、この子たちと一緒に出なきゃ、そうですよねルイさん？」
言うや銀子、背中の薪――ただし青銅製――をすちゃっ、と棍棒のように手に構える。
（――だね。あんたたちこそ――タダで済むと思わないことね？」
ルイの言葉が途中から“声”を帯びて響く。
いつの間にか体と同じ色だった彼女の髪が淡い銀色に染まり、体には金色の模様が浮かび上がっている。
「何と……変身能力マデ持ってイルとは！」
「単なる石像娘だと思った？――残念、戦える石像娘でした♪」
そう言い放ったルイの腕から、赤みがかった金色の刃がジャキッ、と突き出した。
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夜を迎えた旧校舎の足元で、つむじ風のような渦が湧き上がる。
それは淡いグリーンの光を帯び、途中からまるでヘビのように軌道を変えて拡がっていく。
春花、いやホーリーブロウの術“風の鎮魂歌”に、ラティスの念動をプラスした即興の新技だ。
足元をすくい上げられた水霊が、滝壷に舞い上げられた飛沫のように軽々と吹き飛ばされていく。
「風の軌道を途中で変えてみたけど……どうかな？」
「ラティスさん凄いですね、これで雑魚も一網打尽です！」
「雑魚だとぉ！？ フザけたこと言ってんじゃねぇっておわあぁあぁぁ！？」
「うぉおぃてめぇ、俺の邪魔するんじゃねぇよゴルァ！」
「うっせぇ、文句があったら敵に言えダァホ！」
その隣では――紫色のツートンカラーの“筋肉”が特徴的な、鬼を思わせる“怪人”が猛霊と対峙する。
隆々とした筋肉に対し、顔はジーラ同様少年のように若い――実は変身したシドである。
この少年（青年に近いが）は鬼を強化したような怪人に変身する能力があるのだ。
「力仕事は俺にお任せ――なぁ、仲良くやろうじゃんｗ」
「グルゥウォオォォ！」
ゴリラを見下ろすような猛霊の太い腕を正面から受け止めるシドの指先には、ナイフのような爪が生える。
ミチミチミチ、とお互いの筋繊維同士が張り合う、かすかな音が響いてくる。
更に別所では……ホーリーアクアとホーリーダビデ、ラッシュガイが交戦中だ。
ホーリーアクアにとっては実質、錦糸町事件に続く第２ラウンドである。
「シャァアァァァアァ！！」
ホーリーアクアのムラクモとホーリーダビデの聖炎剣、氷と炎の刃のコンビネーションを、
ラッシュガイは軽やかなフットワークと拳で左右にいなしていく。
「くそっ、刃物持ってないのに、刃物を弾けるなんて！」
ホーリーアクアの言葉が理解できるのか、ラッシュガイはにやりと不気味な笑みを浮かべる。
そして脇に抱えたアタッシュケースを軽く開いた――バラバラと展開するカミソリ名刺。
それはまるでドローンのように、編隊を組んで少女たちを襲う。
……要するに「俺も刃物は持ってるぜ」って言いたいんだなキミは。
ただし錦糸掘公園での“第１ラウンド”でも見た能力だけに、ホーリーアクアも今回は冷静だ。
再びムラクモを展開し、カミソリ名刺の群れをアウトレンジで叩き落していく。
だが――暗闇の影から、視認が難しい角度で飛んできた“別働隊”を見逃してしまう。
気付いたのは“元アヤカシ”の経歴を持つ冬水――ホーリーダビデだった。
「おねーちゃん、危ない！」
「――えっ！？」
その刹那――暗闇の中できらりと、カミソリ名刺以外の煌きが空を切る。
ものの見事に両断され、地に墜ちるラッシュガイの“切り札”。
「ふん……変態オヤジの分際にしちゃ――まぁまぁだな？」
ラッシュガイと戦巫女コンビとの間に割って入ったのは――アヤカシ少女・花子だ。
その手には、日本刀に似た長い剣が握られている。
「あっ……！？」
「よ、冬雪ちゃん、元気してる？」
振り向いて、言葉遣いに似合わない可愛い笑みを浮かべる花子。
実はこの元男子のアヤカシ娘、冬雪がホーリーアクアになるきっかけを作った存在でもあったりする。
「いや、そうじゃなくて、後ろっ！」
花子がホーリーアクアの声に振り向いたのと、
ガスヴェイダーが花子に向かってキラーホイールを投げつけるのが同時だった――舌打ちする花子。
「ち――でかい図体して、気配を消すのが上手いなコイツ！」
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「憤ーーーーーー怒ッッッッ！！！」
だが――暴走トラックのようなその１撃は、花子の目の前で発された猛烈な気合によって相殺された。
殺気のオーラに満ちたキラーホイールを拳で弾き返すのは――無駄肉のない長身の好青年。
２日前――喫茶はなこで夏月たちに殴り倒されたアヤカシ少年・太郎である。
“食い逃げ事件”の時は少女たちの拳に沈んだ太郎だが、あれはどうやら“パフォーマンス”だったらしい。
花子も見た目に寄らず怪力の持ち主だが、どうやら太郎も“同類”のようだ。
「僕の花子には指１本たりとも触れさせん！！」
……“暑苦しさ”だけは地のようだが。
「うるっせぇ、勝手にてめーの私物にするんじゃねぇよ！」
「あっ、あの時の食い逃げ犯！？」
「ふふん、妬くんじゃないよレディ達♪」
「いや誰も妬いてないし？」
「ホォオォォォォォ！！」
太郎と少女たちの漫才のような掛け合いに突っ込むように、今度はアロエビクスマングレートが仕掛けた。
やおら地面を殴りつけ、金色の凶器を衝撃波のように生やす。
「この太郎に挑戦をするか貴様、いい度胸だ！ この鉄拳を食ら――ゲフッ！？」
「いちいち暑苦しいセリフ吐いてんじゃねぇ、いいからそこをどけ！」
言うや花子が跳躍する――太郎の顔面を踏み台にして。
それなりに重いはずの“太刀”を豪快に振り、花子は“黄金のアロエ”を真一文字に切りさばいた。
錦糸町事件に乱入したディケイドにも劣らない鮮やかさである。
「冬雪ちゃんたちは先に行きな。地下に行った銀子が戻ってこないから、そこが連中のアジトだ」
「ふふふ……美少女たちを守るために戦う僕、これぞ最っ高のシチュエーション！
さぁバケモノ共め、どこからでもかかって来るがいい！」
鼻血出してる太郎が暗がりの中で無駄に不気味だが、気にしてはいけない……つかお前もバケモノだろ。
ラッシュガイから開放されたホーリーアクアとホーリーダビデに、スミレが付いて先を急ぐ。
更にそこに、ホーリーライトとホーリーフレアも合流した。
２人はさっきまでアロエビクスマングレートと交戦していたのだが、それは太郎たちが引き継いだ。
「わ、分かった」
「ひゃー、碓氷さんって凄い人と知り合いなんですねー」
「うーん……人というか何というか……」
苦笑いを浮かべながら、地下室へと続いているのだろう、１階の階段へと向かうホーリーアクアたち。
だがその目の前に、夜の闇をまとった不気味な巫女が立ち塞がる。
「ふふふ……簡単に行けるとでも思っているのかしら？」
「あんまり大きな口を叩くなよ、お前らの戦力は分断された」
「ザコっぽいのは片付けたしね、みゃははｗ」
「無駄な強がりは身のためにならないんじゃない？」
「そうそう、１人対何人だと思ってるの？」
「戦力を分断？――くすくすくす、あなたたち、何か勘違いしていないかしら？」
ナイトメイデンがそう言った直後――尾のように垂れた９本の裾が、風もないのにぶわっと持ち上がった。
そのまま景色の１部を包み込むかのように肥大化し、光の差さない“闇の壁”を形成する。
いや――それは“壁”などではなかった。
「ヒッヒッヒッヒ……！」
「グルォオォォ！！」
スクリーンのように広がった闇の中から、染み出すように現れる新たな妖魔たち。
「なっ……！？」
「えぇ〜、またなのぉ！？」
「言ったはず……今は私の時間だと。 同志なら好きなだけ呼び出せるのよ♪」
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| （７章９話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2013年頃に草稿を作成したエピソード。
当時は旧ＯＷ企画のエピソードであり、基本的なプロットは変わっていないが、
本公開の前に企画が打切になったため、ＰＡシリーズでサルベージする課程で細部を修正している。
また登場人物の入れ替えをした都合上、物語の順序も変わった。
（旧ＯＷ企画では８章“敵性ゾイド襲来編”の後の事件だったが、直前の事件に変えている）
登場人物の“配置転換”をした結果、このシーンにラティスやシド、スミレが参戦する形になっている。
（旧ＯＷ企画では、ＰＡでは“白紙化”された別の“魔法少女枠”が登場した）
１方地下室のシーンは旧案そのままで、銀子が“知識”で百合子に挑む展開も同じである。
因みに時系列上、艦娘とよく似た属性を持つ陸自娘もこの頃にはサイトＧの世話になっているのだが、
まだ「慣れていない」ため、今回の騒動では共闘関係を設定していない（汗） |
