 |
★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130802A） |
|
プラズマモール多摩日野。
東京都中南部、多摩市と日野市の境界付近にある大規模なショッピングモールである。
地上４階・地下１階で回遊式の廊下の両側に店舗が並び、大きな吹き抜けを渡り廊下が交差する。
７月下旬にグランドオープンしたばかりであり、東京都心部が事件の連鎖で混沌としている中、
相対的に平和な地区ということで、多くの買い物客で連日賑わっている。
店舗数は300とも言われており、関東最大級――つまり日本でも屈指の郊外型大規模モールだ。
実は加奈やディアスが暮らすベッドタウン――金芽台もこのショッピングモールの近郊にある。
金芽台中央駅からシャトルバスが出ており、５分ほどでモール前広場に到着出来る。
この日の午前中も、シャトルバスから老若男女様々な客がぞろぞろ、と広場の前に降りてきた。
「おー、こいつはでかいねぇ♪」
歓声を上げるツインテールの少女は陽炎だ――サイトＧに滞在中の艦娘の１人である。
今回は中性的な私服姿であり、キュロットスカートの下にトレードマークの黒タイツが覗いている。
「うーわ……でっか！ これもう１つの町じゃないの？」
「店が300あるんだって？ 迷いそうだなこりゃ……って、碓氷さっきから何見てるんだ？」
「え、３階のフードコートのマップだけど」
「みゃはは、おねーちゃんって食べ物ばっかりだよねぇｗ」
「だって冬雪ちゃんですものｗ」
「『今度こそメガパフェ食べるんだ』って言ってたねそーいや」
陽炎の後ろから降りてきたのは夏月と秋綺だ……更に冬雪、冬水、春花、終里、三四郎と続く。
そしてその後ろから更に黒潮と神通が、こちらも私服姿で降りてくる。
「へぇ、こりゃまた、凄いの作ったもんだねぇ」
「日本初出店のブランド店もあるらしいですよ、ちょっと楽しみです♪」
更に続くのは陸自娘の福知山、木更津柚子、習志野に木更津茜……ただ習志野の表情は少々堅い。
「ほらほら飛音ちゃん、もっとリラックスしなきゃ、せっかくの非番でしょ？」
「ほとんど無理矢理引っ張ってきたのは誰だよ……別にやりたいこともあったんだぞ私は」
どうやら――習志野は余り乗り気じゃないのを、茜に引っ張られてやってきたらしい。
たまには平和な日常をしっかり味わうべき、という茜の主張も無下に否定は出来なかったようだ。
もっとも服装はきっちり仕上げてきている当たり、興味はあったらしい。
８月を迎えて文字通り、夏真っ盛りである……植込みの木々からはセミの声も聞こえる。
サイトＧ組は数日後に予定している、東北地方への“温泉旅行”の買い出しが主な目的だが、
このモール自体が１つのレジャーでもある、と見ていたようだ。
更に更に――ここには加奈やディアスに咲や唯、カズヤ、哲朗、零児も付いてきている。
加奈とディアスと咲は最初から冬雪たちや陽炎たちに誘われて着いてきた現地メンバーであるが、
カズヤ以下小学生トリオと唯は、話を聞いて後から飛び入り参加したものらしい。
|
ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第12章 怪人たちの逆襲 ★
2013年8月2日―日本・プラズマモール事件其の１
|
さてこちらは立川基地。
ゾイド紛争の混乱から10日が経ち、ようやく基地の復興が軌道に乗ってきた。
損壊した防衛隊旧司令部ビルの北側には、新司令部となるビルの真新しい鉄骨が組み上がる。
既に１階付近は外壁工事に移っており、かなりの急ピッチである。
しかも数日前に起きた“宇宙マフィア抗争”の復旧もあるため、毎日大規模な工事が続いている。
その新司令部の足下近くにある臨時司令部では、防衛特調の主要メンバーが情報交換をしていた。
主な議題は、先日アメリカ西部のラスベガスと、東部ニューヨークで連鎖的に起きた事件である。
カジノの街ラスベガスには昆虫のアリが怪獣化した“アトミカント”の群れが襲来し、
ニューヨーク南部のブルックリンではオートロン過激派のディスヴェリオンと、
無人ゾイドの軍団が再び、広範な市街戦を展開する事態になった。
“１日戦争”の時ほど大規模ではないものの、世界経済の中心地が大混乱になったのだ。
「カリオスパーク――ですか？」
黒木が手にした資料には、正八面体の鏡面オブジェを思わせる物体の写真が掲載されている。
10日前のゾイド紛争時、上野の博物館から盗まれた“謎の遺物”である。
「それはオートロンの古代史にルーツを持つ、環境改造マシーンなんですよ」
黒木の正面でそう語るのはアリシェイルだ……その奥には片膝を着いて座るマクスレッジの姿。
厳密には臨時司令部の建物内ではなく、すぐ外の路面にいるのだが。
「“元素転換超因子”の１種であるカリオニクスの効果で、環境を書き換える機能があるんです。
ブルックリンのコンテナバースで大量の“機械兵”が出現したのはこのためだと思います」
「超因子というのは空間に干渉する特殊な粒子で、物理現象に作用する特性があります。
上手く使えば社会を飛躍的に便利に出来る１方で、恐るべき兵器としても使えるものなのです」
「つまり……ちょっとした核兵器みたいなものですか」
ライカの補足説明を受けた黒木は、渋い表情で資料をテーブルの上に戻した。
そして今度はマクスレッジが口を開く。
「ラスベガスの事件と、ブルックリンの事件はつながっている可能性が高い。
偶然連続したにしてはタイミングが良すぎるからな」
「でもラスベガスの事件では、オートロンの過激派の目撃報告はなかったようですが。
もっとも――機械ではないものの、銀色のイナゴのようなクリーチャーは現れたようですね」
『あれと同じものを以前、見たことがあります』
その声は正面のリモート・モニターから聞こえてきた……発言したのは我夢である。
彼は今、幕張のＧフォース科学部の宿泊設備に寝泊まりし、データ分析に協力している。
『まだこの世界に飛ばされる前、ヘリキャリアを襲撃してきた小怪獣と同じものだと思われます。
自分が元の世界で遭遇したクリーチャーの変種である可能性が高いですね。
同じくヘリキャリアを襲撃した怪獣の１体も、自分が知っている怪獣とそっくりでした』
「その“異世界ゲリラ組織”が、オートロンの過激派と結託しているということですか？
無人ゾイドを操る組織も、オートロンの過激派とつながっているようですし」
黒木が言っているのは、ディスヴェリオンと“同盟”を結ぶバイオゾイドたちのことである。
正体がはっきり判明したわけではないが、ゾイド紛争時にその組織の幹部と思われる、
知的な機龍バイオメガラプトルが、ディスヴェリオンのディグドラスと行動を共にしていたことを、
オーディアンのガンバインが目撃している情報は、既に防衛特調も共有していた。
『いや、そこまでは分かり兼ねますが……マクスレッジ殿は、どう見られますか？』
「我々もあの銀色のクリーチャーの正体までは掴めていないな……金属生命体ではないようだ」
『あのクリーチャーは、私たちの世界で“根源的破滅招来体”と呼ばれていたゲリラ組織で、
破壊活動を展開した小怪獣と類似する特徴を持っています。
またあの時ヘリキャリアを破損させた怪獣も、そのゲリラ組織に起源があります』
「直接結託していなくても、お互いにその存在を認識し、利用し合っていた可能性はありますね」
これはライカだ……彼女やパドルは、時空を越えた宇宙の知識を持っている。
その時ふと――Ｇフォース科学部で我夢と情報交換中のアイレスが、新たな情報を追加した。
『もしかしたら――ラスベガスの事件は“ジャスティネイター”の仕業かも知れませんね』
その言葉を聞いて表情が引き締まったのはマークである。
「なるほど、ジャスティネイターか……！」
「アイレス大使、そのジャスティネイターというのは？」
真剣な表情のマークの横で、黒木がモニター越しのアイレスに質問を投げかける。
『“正義の浄化”を掲げる過激派の１つですよ……具体的なことはまだ良く分かっていませんが、
普通の過激派と違い、彼らの正義に依拠した“浄化の審判”を正当化するのが特徴です』
「正義をどう実現するかという点で、アルティラ警備隊としばしば対立する組織ですね。
私は直接遭遇したことがないのですが、同志がその使者と遭ったことがあると聞いています。
そう言えば高山殿は、アルティランの魂と縁がありましたな」
そう言って、マークはモニターの奥にいる我夢に視線を向ける……我夢も軽く頷いた。
『組織名は同じではないようですが、思想の軸はよく似通っていますね』
「今の地球のように、時空を越えた紛争事態が続発しているような地域は、
ジャスティネイターにとって“審判の対象”として認識される可能性はあると思います」
マークがそう言うと、黒木は再び眉間にしわを寄せた。
「私たちがそうなることを選んだわけではないのに、迷惑な話ですね……」
「いや全く同感です、独善的な正義感ほど、タチの悪いものはない」
『“地獄への道は善意で舗装されている”という言葉の通りですね』
マークと我夢も、黒木の溜息に合わせて息を吐く――その横で、今度は市ヶ谷が呟いた。
「まるで呪われてるみたいですね……あらゆる攻撃的な意志がこの世界に集まっているようで。
アルゴ捜査官やパドル大使は、この事態に“人為”を疑っているんですよね？」
「まだ確証を持てるまでではないです……この手の推測にはどうしてもバイアスがかかるので」
そう言って、ライカは遠くを見るように目を細めた。
|
|
再びプラズマモール多摩日野。
駐車場側から正面玄関に向かうアプローチを１組の少年少女が歩いている。
松平健一郎と白金院葵の“優等生幼馴染コンビ”だ……ただしサイトＧ組とは別行動である。
「どうして僕らまで付き合う必要があるんだ……僕は勉強したいのに」
「肩の力を抜く日があっても良いんじゃないの？ いざって時に力出せないよ」
渋い顔の健一郎と逆に、葵はクールながら笑みを浮かべている。
実は２人がここにいるのは「親の影響」だった……松平家や白銀院家は、
このプラズマモール多摩日野の“親会社”である、プラズマックス・グループの株主なのだ。
この日は株主総会であり、２人も一緒に連れてこられたらしい。
鳴り物入りでオープンした新モール中央部の、多目的ホールが総会の会場になっていたのだ。
ホールは４階にあり、フードコートが隣接する吹き抜け広場の真上にある。
「総会に僕らは別に必要ないじゃないか」
「自慢の息子を紹介したかったのよきっと、別に良いじゃない、あたしそんなことほぼないよ」
「そっちの方が僕は羨ましいね」
「ふぅん――健ちゃんもいっちょ前に、嫌味とか言うようになったんだｗ」
苦い顔をした健一郎を、葵はいたずらっ子のような目で軽く弄った。
私立金芽台学校では一線を引いているが、プライベートでは「松平君」ではなく、
昔から慣れ親しんだ「健ちゃん」の名で呼ぶ……学校では見せない２人の素顔がここにある。
健一郎も学校では真面目でストイックな生徒会長だが、ここでは普通の少年だ。
ニヨニヨする葵から視線を逸らしながら、気分転換するように健一郎は深呼吸をする。
「ふぅ、しょうがないか……じゃあ本屋で新しい参考書でも探して来るよ」
……さてこちらは逆方向にある駐車場から、正面玄関に向かうアプローチ。
数人の青年が歩いている……健一郎たちよりは歳が行っており、30代前後くらいに見える。
そしてそこから数歩遅れて、やや小柄な壮年の男性が１人、着いていく。
「ちょっ、おやっさん――何やってんスか、置いてっちゃいますよ！」
“おやっさん”と呼ばれた壮年男性は、青年の１人に急かされて小さく溜息を吐く。
「お前らが先々行くからだろうが……歩幅を考えてくれよ、第一急ぐ話じゃねぇだろ」
「外は暑いから早く涼みたいんスよ、おやっさんものんびり歩いたら、のぼせちゃいますよ」
「バーカ、このくらいどぅってことねぇよ、昭和生まれ舐めんな」
愚痴り返す“おやっさん”に小さく溜息を吐く青年の横で、もう１人の青年が口を開く。
「それにしても、いつの間にこんなモール出来たんだろうね……道路地図にはなかったけど」
「あの地図古いんじゃないッスか、結城さん……最新のカーナビ買えば良かったのに」
「おやっさんに言ってくれよ、おやっさんの車なんだから……それに地図だって古くないぞ」
結城と呼ばれた30代半ばくらいの青年は、そう呟いてふと――立ち止まった。
朝から蒸し暑いが、何故か手袋をしている右手をアゴに寄せて遠くを見る仕草をする。
「どうしたんスか、結城さんまで……俺のぼせちゃいますよ」
「やっぱり……何かおかしいと思わないか？」
「まだ納得してないんですね、結城さんは」
こちらは女性だ……さっきから賑やかな青年や結城と一緒に、モールに向かって歩いている。
結城と同年代くらいに見えるが、より若い印象もある。
「本郷さんが姿を消してから、色々奇妙なことが繰り返しているからね」
「ラジオが今年を『2013年』とか言ったりしてましたしねぇ」
「ショッカーの奴らも、まるで俺たちや本郷さんをわざと誘い込むような動きだったからな」
「あの態度めっちゃムカついたッスよ俺」
「勇み足は良くないって本郷さんに言われただろ、シゲル？」
「でもあの時結城さんが引き留めてなかったら、本郷さんを守れていたかも知れないのに」
そう言って、シゲルと呼ばれた賑やかな青年は、やや恨めしそうに結城を睨む。
結城は思わず目を逸らした……何か重大な決断があったらしい。
「猛はお前らを巻き込みたくなかったんじゃねぇかな」
結城が立ち止まっているうちに、おやっさんが追いついてきたようだ。
「立花さん……どういうことですか？」
「猛はショッカーが何を狙っていたのか、薄々勘付いていたのかも知れねぇ。
あの時――わざと俺たちと距離を取るように、奴らに立ち向かっていったからな」
“おやっさん”は立花という名字のようだ……立花は更に話し続ける。
「しかし猛を呑み込んだ光は、俺たちも容赦なく呑み込んだ――“あれから”だよな、全部」
「つまり――どういうことッスか？」
「ここは――俺たちが知っている世界とは、違う世界なのかも知れない」
結城の“大胆な推測”に、立花と女性は真剣な表情だが、シゲルは唖然としている。
「は？――ちょっ、何言ってんスか、違う世界って！？」
「ショッカーは異世界出身の首領が統治していると以前から言われていた……ということはだ、
奴らは『世界を越える奥義』を持ってる可能性もあるわけだよな？ 門矢や小野寺もそうだったろ。
仮にそうだとして、俺たちをバラバラにして異世界に飛ばしてしまえば、どうなる？」
「“マイティ・ライダーズ”の戦力が、見事に分散されてしまいますよね」
「ぶっ飛んだ仮説だが――結城やルリ子が言う通り、あり得ないとは決めつけられねぇよな」
あり得ないことでもない、と言う立花や女性――ルリ子の反応に、シゲルは再び小さな溜息を吐いた。
「……百歩譲って仮にそうだとしたら、結局巻き込まれた俺らは敗者じゃないッスか」
「まだそうと決まったわけじゃない……例えばここが仮に異世界だとして、
あの時俺たちの前から姿を消した本郷さんがもし、同じくこの世界に来ていたとしたら？」
「うーん、そんな都合の良い話があるんですかね……」
「まぁまぁ、話の続きは店内でしようぜ、シゲルが熱中症起こしたらいかんからなｗ」
立花はそう言って、決まり悪そうな表情をするシゲルに視線を向ける。
結城やルリ子は苦笑して、再びアプローチを正面玄関に向かって歩いて行った。
この４人組はどうやら――“仮面ライダー”本郷猛と縁がある人々のようである。
もちろん４人は、結城の推理が当たっていたことをまだ知る由もない――。
|
|
「……ん、賑やかだな？ ――あぁそうか、今日は“振替見学日”だったっけか」
こちらは幕張のＧフォース科学部。
保安主任の結城中佐――もちろんマイティライダーズの結城とは別人だ――がふと呟いた。
視線の先にいるのは、玄関付近のビジターセンターに群がっている学生風の集団。
近所にあるインターナショナルスクールの生徒であり、この施設の見学に来ているのだ。
実際には別の日に予約していたのだが、ゾイド紛争の影響で延期されていたものだ。
「中佐殿――あれ、何ですかね？」
その横にふと、本郷が立った……彼はここで、青木や宮坂、我夢らの研究に協力している。
“改造人間”なので戦力として立川基地の訓練に参加することも多いが、
ここ数日の宿泊はこのＧフォース科学部の宿直室でしているらしい。
こちらもゾイド紛争の縁であり、異能戦力に乏しいこの部署の貴重な防衛戦力でもあるのだ。
「近所のインターナショナルスクールの生徒ですよ……社会見学の予約をしていたのです」
「ほぅ、こういう施設を見学する学生たちがおるんですな」
「あの学校は確か――鳥居さんの娘さんが在籍してたんじゃないかな？」
「鳥居って……あのゾイドの生体電気の分析に関わっている？」
本郷の質問に、結城は頷いた。
そう――鳥居速雄の１人娘である鳥居絵理奈は、このインターナショナルスクール在籍であり、
普段は甲府市の実家ではなく、幕張の賃貸マンションで暮らしている。
今は夏休みなので“帰省”しているはずだが、もしかしたらこの中にいるかも知れない。
「――学生時代を思い出しますね」
更にその横に我夢が立った……因みに３人がいるのは３階の渡り廊下だ。
頭脳明晰な学者肌ということで鳥居と行動をよく共にしているが、今は別行動らしい。
手にコンビニの袋を提げている……施設の中にあるコンビニだ。
「おぉ、高山さん――おや、鳥居さんは一緒ではないんですね？」
「あぁ、鳥居さんは研究室に籠もってますよ……僕はちょっとスナックの買い出しに。
鳥居さん見てると、ローレンシア研究所にいた時を思い出します……真面目な人ですよね」
「娘さんがあの集団の中にいると知ったら、鳥居殿はなんて思うかな？」
「どうなんですかね……でもまぁ、いると決まったわけではないでしょうし、夏休みなので」
「でも学生ってこういう非日常は一緒に体験したがりますしねぇ」
「学生か……そんな時代は俺にはなかったな」
ふと、そう呟いた本郷に、結城と我夢は少し決まりの悪い表情を浮かべた。
「あ、そうか……すいません本郷さん、野暮なことを」
「え？ ――あぁ、いや気にしないでくれ、俺も要らんことを言ったな、いや羨ましくてね」
「彼らのためにも、平和を維持していかなきゃいけませんね」
……そしてこちらは地下格納庫に隣接している研究所。
「――お待たせしました、鳥居さん」
「あぁ、どうもわざわざ……悪いね、没頭すると時間を忘れてしまうな、悪いクセだよ」
帰ってきた我夢の言葉に苦笑いをする鳥居――顔が少し、煤けている。
「自分もローレンシア研究所にいた頃、そんな感じでしたよ……自分を見てるようです」
「本当かい？ 高山さんはもっと華やかなイメージがあったけど」
「とんでもない、研究所の同僚によく『顔が真っ黒になってる』とからかわれたものです」
「そうか――おっと、僕もだな……顔くらい洗わないと」
鳥居が研究所の横にある洗面台に立ち上がった時――篠田と青木が入ってきた。
「２人ともご苦労さん、ちゃんと寝ているかい？」
「あぁ篠田さん……いやぁお恥ずかしい、２度ほどここで寝落ちしてしまいましたよ」
「分かります鳥居さん、僕も一昨日格納庫のベンチで寝落ちしてしまいました」
篠田の後ろで反応する青木に、鳥居と我夢は同時に苦笑した。
「どうやら――我々の同志が他にもいたようですね」
「ここは研究者の沼だよ、幾らでもやることがある……Ｇフォース科学部も罪深いな」
「まぁ宮坂だって、若い頃は研究室に籠もってたしな……今はかなり要領良くなったがね」
「20歳代の頃はもっと体力があったと思うんだけど……高山さんが羨ましいよ」
「光栄です、だからもっとこき使ってくださいｗ」
１分ほど後――顔を洗った鳥居が研究所に戻った。
「ところで――ゾイドの生体電気パターンの話なんだけど」
「そうですね……確かに動物的なパターンですが、イコールというわけでもないようですね。
ＡＩプログラムの言語学習回路の通電パターンにも似ています」
「ハスラム殿も似たようなことを言われてました……金属生命体の上にサイボーグなので、
有機的な生物とは生体電気のパルスも異なっているはずだと」
青木の言葉に軽く頷いて、鳥居は手元のラップトップパソコンの画面を同志に見せた。
「そこで、ガルトライザ殿から提供された、オートロンの電磁気パターンを比較してみました。
すると予想していた以上に、似通ったパターンが見つかったんですよ」
「ガンバイン殿が『ゾイドは近縁種かも』と言っていたそうだが、あながちということか」
「それからこれはアメリカから提供された情報ですが、このデータも類似した特徴があります。
サンディエゴにいるスターク氏から、先日頂いた分析データです。
これに関しては、高山さんにホントに感謝してますよ」
鳥居が言っているのはもちろん、“アベンジャーズ”の頭脳トニー・スタークのことだ。
トニーはトニーで、同志のブルースらとゾイドやオートロンの分析作業に関わっているのだ。
相互の情報共有のために、トニーと面識のある我夢が鳥居を紹介して得られたデータだ。
「いえいえ、奇しくも同じ研究者仲間ですからね――みんな異世界出身というのが凄いですが。
そうだ、スターク氏に鳥居さんの話をしたら『是非会ってみたい』と言ってましたよ」
「そりゃあ、鳥居君もＵＮＡが誇る世界の頭脳だったわけだから、当然だな」
「いや篠田さんだって、同じ研究者仲間じゃないですか」
そう言い合う鳥居と篠田に、今度は青木が口を開いた。
「異世界出身の頭脳が、この世界に集結してるんですよね今……ホントに奇跡みたいな話です」
「確かにそうですが、単に手放しで喜んで良いわけではないですけどね……」
鳥居がそう言うと、和やかだった研究所の空気がやや沈んだ。
ただ暗い気分になったというわけではなく、むしろ「気を引き締めた」と言うべきだろう。
この世界に「集結している」のは異世界の「頭脳」だけではない。
同時に異世界の「テロリスト」まで引き寄せられ、今なお事件が続発し続けているのである。
「だからこの交流が、世界平和のためになることを祈りたいですね」
|
|
プラズマモール内は、壮大な非日常空間だった。
回遊性の通路がジグザグに走る中を３層吹き抜けの“渓谷”が貫通しており、
その上を通路がイナズマのように複雑に交差しているため、アクロバットな風景が広がっている。
その両側に展開する無数の店舗も、まるでジェリービーンズのようにカラフルだ。
「随分と派手な内装ですね……誰の設計でしょうか」
「三四郎先輩って、建築にも興味あるんだね」
見渡しながら呟く三四郎に、終里が合わせる……その横では木更津姉妹と福知山が歩く。
「見たことのあるブランドの店があるわね……世界が違っても、同じブランドがあるのね」
「各階とブロックごとにテーマがあるみたいですよ、ここは“アメージングゾーン”ですって」
「だから奇抜なデザインの店が多いのねー」
そして――冬雪はなおも、フロアマップを眺めて歩いている。
「ふぅん、デザート売ってるのは３店かぁ――あ、４階にもレストランがあるんだね？」
「ちょっと冬雪、ちゃんと前を向いて歩かないと――」
「うん、でもどんな店があるか調べないと――ぷわっ！？」
そんな冬雪が、突如奇妙な声を上げた――案の定、人にぶつかったらしい。
「あっ！？ すっすいません、ほら言わんこっちゃない！」
「す、すいません、ボクよそ見していて……」
冬雪がぶつかったのは――白っぽいスーツを着た、背の高い白髪の老紳士だった。
「ん……あぁ、良いんぢゃよ、お嬢ちゃん。 気にしなさんでも宜しい」
老紳士は不思議な含み笑いを浮かべつつ、後方に歩いて行った。
その後姿を、冬雪たちはしばらく、ぼーっと眺めていた。
「何やってんだよ碓氷、よそ見してるとはぐれるぞ？」
「あぁうん、ごめん」
「何か不思議な雰囲気のお爺さんでしたね……白いスーツとか、ちょっと浮いてるような」
そんな少年少女たちに、神通の声が投げかけられる。
「皆さ〜ん、先に進みますよ〜」
・
・
・
数分後――プラズマモール１階の中庭。
正門からまっすぐ吹き抜けを突っ切った先に、この広々とした空間がある。
大きな噴水を中心に広場と花壇が織り成し、取り巻くモールからは喫茶店のテラスが進出する。
ソーラーパネルで覆われた外側と違って、こちらは各フロアが階段状にセットバックしており、
その中央にある中庭はまるで、緑化された円形劇場のようだ。
“株主総会”開催中の多目的ホールは、この中庭に正門の反対側から食い込むように突き出る。
それはあたかも、ビルの屋上からはみ出したＵＦＯのようだ。
少年少女一行は、その１角に集まって“作戦会議”を始めた。
音頭を取るのは木更津茜と神通である。
「それじゃあ、どうしよっか？」
「そうですねぇ……多分“水着コーナー”はみんな行くから、そこをゴールにして、
昼ごはんまでは各自自由行動で良いんじゃないです？」
「そうね、無難な選択だとあたしも思う」
冬雪が持ってきたマップだけだと足りないので、陽炎や加奈がマップを取って一行に見せる。
「あたし、このブティック行ってみたいなー」
「私はここの雑貨店に興味があるかな、日本初出店ですって」
「あ、この雑貨店知ってますよ、雑誌で紹介されたこともあるフランスのブランドですね」
「えっそれじゃ、有名なブランドじゃないですか！」
「へー、そうなんだ？」
「坂田先輩が言っているブティックも良いですよね♪」
「みゃー、そーなんだ？」
そして少し間を開けて、苦笑いする“元少年”コンビ。
「……やっぱりボクたちも、こういうところに行くべきなのかな？」
「無理して女子向けの店に行くこともないだろ、最近は趣味も多様化してるからな」
「スポーツ用品店もいいですね、水着コーナーにも近いですし」
今回は“温泉旅行”とのことだが、目的地は石巻軍港がある宮城県の北東沿岸部である。
海岸にも近いため、海水浴の予定もあるのだ。
この辺りは入り組んだリアス式海岸であり、コンパクトながら美しいビーチも多い。
「そうだねー、私もそっちの方が興味あるかも？」
「あっ、気が合いますね木更津さん、実はあたしもそこに目をつけてたんですよ♪」
「へぇ、キミもこういう店が好きなんだ？」
「あたしも体育会系ですからねー♪」
陽炎と茜の会話に、アクティブな咲が首を突っ込み、わいのわいのと盛り上がる。
更に間を開けて、真性の（何）少年グループ。
「……俺は特にどこに行きたいとかないなー。 本屋でマンガでも読んでよっかな？」
「僕もそうしようかな……」
小声で呟くディアスとカズヤに、哲朗と零児がツッコミを入れる。
「なんやなんや、関東の男子は流されるのが多いんやなー」
「そういう難波は行き先決まってるわけ？」
「そりゃもーズバリ、漫画コーナー！」
「一緒じゃないかｗｗｗ」
「わいは流されてへんで、信念に基づいた選択や！」
「信念って自慢するほどのモノじゃないじゃんｗ」
はいはい、勝手にやってろ。
「……図らずも綺麗に分かれた感じね、ブティックと雑貨店と本屋とスポーツ用品店？」
「ジャンル分けしてもそういう店が多いですよね、あとは喫茶店とかですし」
方向性が固まったらしく、少年少女一行はわらわらと散開して行った。
|
|
| （１２章２話） |
|
【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ただし構想自体は旧ＯＷ企画打切り前からあり、想定していたアクションハイライトの１つ。
ショッピングモールでショッカー連合と異世界の有志たちが激突する展開であり、
ショッカー連合にとっては初期の“渋谷事件”のリベンジマッチとなる他、
加奈や零児といった、ＯＣＤ世界出身の少年少女たちの転機となるエピソードでもある。
立花や結城といった、レオ（流離太）氏投稿の仮面ライダー2次創作キャラたちの登場も、
旧ＯＷ企画の頃に試作されていたシーンを、再編して組み込んだものである。
マイティライダーズというのは、昭和期の仮面ライダーのオールスター企画として、
数十年前に本家で実施されたアイデアだが、ここに出てくるのはレオ（流離太）氏再編版で、
本家とは登場キャラクターが異なり、平成シリーズのキャラが混じっており、
両世代のライダーをつなぐための“頭脳担当”が技術者の結城（ライダーマン）だ。
立川基地やＧフォース科学部での展開は、まだ前章のおさらいみたいなシーンが多いのだが、
もちろんこれから起きる“プラズマモール事件”でも重要な役割を担っていく。
立川基地でもＧフォース科学部でも、アメリカで起きた事件や関係者の話題が出ているが、
これもアメリカの事件が「同じ世界で起きている」ことを示唆する意図がある。
トニー・スタークとＧフォース科学部に接点を作るのも、結構前から構想していたものだ。
|
