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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（AQC25201R） |
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地下組織アクエリアスの役割は、謀略集団エグゼクターに対抗するだけではない。
世界各地で生まれた特殊なミュータントや、人体実験の被害者を保護するという役目もあるのだ。
そのため拠点があるアクエリアス・センターの地下に複数の保護施設が整備されており、
そしてその１角には、複合的な入浴設備なども作られている。
もちろん保護したミュータントや、ジェネティックの“元実験体”のために作られた設備である。
そう広いものではないため、改装で何度も増築されており、2034年に更に全面的に改装された。
そんなジェネティック元実験体向けの共同浴場の脱衣所に、３つほどの人影が見える。
白磁を思わせるアイボリーホワイトの少女、光沢のあるピンク色のガラス像のような少女、
そしてきめ細かい青灰色の鉱物のような質感の少女……３人とも石化実験体“メタロイド”だが、
実はピンク色の大柄でグラマーな少女は“元少年”だったりする。
（……あっっ///）
思わず恥ずかしそうな素振りをする、ピンク色の“女体石化少年”レクト。
浴場に入ろうとした時に、白磁の少女――シアや、青灰色の少女――レイルと遭遇したからだ。
（――あ、レクト君もお風呂？）
（は、はい……）
レクトは2016年にＭＢＳに拉致され、エヴァノイド化の後に石化処理を受けた経緯がある。
意識を取り戻したのは2037年のことであり、それから既に15年が経っているのだが、
まだ自分の姿に十分には慣れられていないところがあるようだ。
特にこの共同浴場で「裸になった」時に、自分の姿に困惑する感覚が鮮明に蘇るようで、
今回のように、元々女子だったグループと鉢合わせると、その感情が余計に湧き上がるのだ。
（大丈夫よレクト君、私たちは全然平気だから、もっと堂々としなさいって）
（すいません……）
（まぁまぁシアさん、こういうのって割り切れないものだから、仕方ないよ）
なだめるようにそう「言う」レイル……肉声は出せないため“心の声”が相互交流の頼りだ。
レクトやシアの耳には荷電結晶体が埋め込まれている……絶縁性セラミック結晶の体を持つため、
意識交流するためにはこうした補助アイテムのインプラントが必須なのだ。
目も人工網膜フィルムを貼っているため、色が少し違っている……レイルには不要なのだが。
レイルの意見を受けて、シアの顔が苦笑いの表情に満ちる。
（でもさ……レクト君最近、１人でここに来るようになったし、それは進歩よね）
（……そうですかね？）
（前はチェロン君とかセナ君とか、“同志”で一緒に来てたでしょ？）
（……はぁ）
（でも１人で来るようになったってことは、それって勇気なんだよ……成長してるじゃない♪）
そう励ますと、シアは今度は人懐っこい笑みを顔いっぱいに浮かべる。
吊られるように、今度はレクトが苦笑いの表情を浮かべた。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
アクエリアス・センター 〜ジェネティック保護区画2052〜
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同じ頃――アクエリアス・センターのジェネティック初期保管庫。
アクエリアスに保護されて間もない“元実験体”のうち、メタロイドを初めとして、
自分の意志ではまだ自由に動けない者がここに収容されている。
先のシアたちも、保護されてから意識が戻るまでは、こうした部屋に安置されていたのだ。
（へぇ――これが、新しく保護された人たちですか？）
（キジアさんが言うには、その１部らしいね）
部屋には色とりどりの“少女像”が10体ほど並べられている。
赤や青や緑、メタリックな少女像もいる……また自力で動くことは出来ないようだが、
体自体はゴムのように柔らかく、１部の“元実験体”には既に淡い意識の発露があるようだ。
その元実験体たちを観察している２人組は、セオとフィオである。
シアたちと同じく高強度セラミック結晶に置換された“メタロイド・プロトグラシス”であるが、
こちらもレクト同様“元少年”であり、石化前にエヴァノイド処理を受けたケースである。
“彼ら”も2013年に石化されてから、2037年まで20年以上意識を取り戻すことが出来なかったが、
既に意識を回復し、リハビリによって活動可能になって早くも15年が経つ。
２人もシアたちと同様に、耳に荷電結晶体を埋め込み、目に人工網膜フィルムを貼っている。
（この人たちも、多分――“元少年”なんだろうね）
（え、どうしてキャプテンは分かるんですか？）
ショートカットが特徴のフィオは、同志から“キャプテン”と呼ばれている。
セオを含む“同志”とは、元々サッカー部のチームメイトの関係を持っていたからだ。
人間時代の記憶はほとんど失われてしまったが、元男子でサッカー部という記憶は残っていた。
実はサッカー部は“復活”しており、リハビリ強化を兼ねて練習するようにしており、
その意味において、フィオは今も“キャプテン”なのである。
（下半身のラインを見なよ……普通の女子とは少し違うだろ？）
（言われてみれば……この“スリット”ですよね……自分らもこういう体形ですよね）
（そうそう……ここにいる全員そうなってるから、これは偶然じゃないと思う）
“心の声”でセオとそう会話しながら、フィオは緑色の“元実験体”２人に歩み寄っていく。
２人ともストレッチャーに寝かされており、黄緑色とライムグリーンという個性がある。
そのうち――ライムグリーンの方が、さっきから右腕をかすかに震えさせているのだ。
黄緑色の“元実験体”の方は、他の個体群と同様全く動かないのだが、
ライムグリーンの個体だけ、右腕をプルプルと小刻みに震えさせているのである。
完全な石像ではなく“ラバー体質”だから可能だが、同時に「意識がある」証拠でもある。
（…………、…………）
元実験体の耳穴と額には、小さな電極がインプラントされており、
その電極を介して、元実験体の“意識”をフィオたちも窺い知ることが出来るようだ。
ただし言葉を発するほど活発な意識ではなく、ぼんやりとした感情の発露だけなのであるが、
それでもこの部屋にいる“保護実験体”で、唯一意識の発露があるケースだ。
他の実験体にも電極がインプラントされているが、そちらは全く意識の発露がないのである。
（キミはかすかに意識があるんだね……多分よく分からないだろうけど）
（…………？…………！）
フィオが“念話”で語りかけると、ライムグリーンの実験体もかすかに反応を示した。
そしてにわかに、意識の方向が分かるくらい、強い感情を向けたのだ。
言葉にこそならないが、何かを訴えようとする意志の発露が見られるようだ。
セオもその意志の発露に気付いたようである。
（キャプテン、この人……！）
（うん、気丈だね……何年も放置されてきたのに、これだけ気持ちを維持出来るんだ。
早くコミュニケーションできるようになると良いね）
（他の人は全く反応しませんけどね……）
少し寂しそうな表情を浮かべて、セオが別の個体群の方に顔を向ける。
そこには数体のメタリックな“実験体”が並んでいる。
足首から下がメタリックな樹脂の“苗床”と同化しており、まさに彫像のようだが、
定期的な電気信号に刺激されるように、機械的にプルプルと震え続けている。
しかしこの振動は“苗床”の横に置かれた測定器からの信号のようであり、
ライムグリーンの個体のように、自分の意志で動こうとしているわけではないようである。
実際意識や感情の発露と言えるものは、こちらのグループにはなかった。
（そのうち回復すると思うよ……ボクらだって20年以上沈黙してたんだから）
（そうか……そうでしたね、自分らも長かったんだっけ……）
しばし頭を下げ、無言になるセオ。
いつもフィオ同様にクールに振舞うが、内面はフィオよりも繊細なところがある。
光沢のある桜色の手を眺めるように、再びセオが声のない呟きを発した。
（そう言えば……この体で活動し始めて、もう15年になるんですね……）
（そうだね……人間だった頃と同じくらいになっちゃったね）
厳密に言えば――2013年に石化されて、2052年で既に40年近くが経過しているが、
20年以上意識がなかったので、意識が戻ってから15年、ということだ。
そしてそれは、セオたちが「人間の少年だった時代」の長さとほぼ同じなのである。
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そしてこちらは保管庫の上階にあるリハビリルーム。
メタロイドのリハビリなどを目的として設置された広々としたホールであり、
フィオをキャプテンとする“サッカー部”の定期練習でも使用している部屋であるが、
今はその時間ではなく、別の“元実験体群”が体を動かしていた。
見た目はシアやフィオら、強化セラミック系のメタロイドとよく似ているが、
実はメタロイドではなく“エヴァノイド”であり、外見こそセラミックの彫像のようだが、
体内にはフレッシュな肉体が残っているという“エヴァノイド・セラコート”である。
高強度セラミックの薄膜で完全密閉された強化実験体であり、2030年代に処理されてから、
最近保護されたばかりの集団である……ＡＢＣ系列の元実験体であり、
実質的に呼吸を封じられた状態で10年以上放置されてきたが、死を回避し続けてきた。
エヴァノイドの特殊な強化体は、こうした仕打ちに絶えることが出来るらしい。
ただしそれは耐え難い苦しみを伴うものだったことも確かなようであるが。
（画像予定）
（おぉ、もう結構普通に歩けるようになったね、凄いじゃんヴィナ君）
（ど、どうも……まだ、思うようには行きませんけどね……）
白磁の質感の２人組……片方は服を着ているが、もう片方は着ていない。
実は服を着ている方はメタロイドのキアであり、先のシアの“同志”である。
その横で手すり伝いにゆっくり歩くのが、エヴァノイド・セラコートのヴィナだ。
元々はフィオたちと同じく“元少年”であり、７年前――2035年に硬化処理されている。
ラバー風味の実験体と同じく、耳の穴に電極をインプラントしているのに加えて、
目に人工網膜フィルムを貼ることで、視界を獲得している。
その横には更にもう１人、こちらは濃い紫色の“元実験体”がいる。
こちらもエヴァノイド・セラコートのキラだ……やはり元少年で、８年前に処理された。
ヴィナよりはゆっくりとした動きだが、こちらも手すり伝いに歩いている。
“彼”のリハビリをエスコートしているのは、メタロイドのキジアだ。
緑御影石を思わせる質感で、グラマーな少女の体形だが、こちらも元少年である。
……そんなのばっかりとかツッコんではいけない、いちおうホンモノの女子もいるのだから。
（急がなくて良いんだぜ、じっくりやっていこう）
（そ、そうッスね……でも何か、じれったいな……ヴィナはあんなに動けるのに）
（個人差はあるもんだよ、まだほとんど動けないやつもいるんだしさ）
エヴァノイド・セラコートも例によって、肉声を出すことが出来ないため、
メタロイドたちがそうであるように、“心の声”でコミュニケーションを行っている。
体内はフレッシュだといっても長い間“窒息状態”であったため、
強化された特異体質で死こそ回避しているが、筋力はかなり衰えた状態にあり、
表皮と皮下組織がセラミック皮膜と癒着した状態を活用して“活性化”されているのだが、
それでも満足に活動するためには、メタロイド同様のリハビリ課程が必要なのだ。
そして――ヴィナやキラのように「歩ける」まで回復しているケースは、実はまだ少数派だ。
（画像予定）
“ラバー組”とは別の部屋に、保護された“セラコート組”が保管されているのだが、
実はこの部屋はまだ十分に動けない“彼ら”のリハビリルームを兼ねている。
まずは「手を動かす」ところから始めないと、下半身の活性化には至らないことから、
この部屋で手を動かしたり、余裕が出来れば腰などを動かしたりするのである。
とはいえこの部屋にいる“元実験体”のほとんどは、まだ自力では歩けないことから、
倒れるのを防ぐために腰に姿勢補助ベルトを巻いている状態になっている。
この部屋にいる元実験体も、キジアが言っていたように個人差があり、
上半身はゆっくりながらも普通に動かせ、腰を捻られるレベルになっている個体もいれば、
傍目にはまだほとんど動かない個体も数人ながら、いるようである。
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再び“ラバー組”の保管庫。
その扉が開き、アイボリーホワイトのメタロイドらしき“女体”が入ってきた。
その後ろには少し小柄な砂岩質の“少女像”が連れ添っている。
実は手前の個体は、この部屋に補完されているのと同じ“ラバー体質”のメタロイドだ。
名はビエナ――もちろん、過去の記憶を欠損しているため、後から付けられた名だが。
その後ろから入ってきたのはリンだ……こちらは“メタロイド経験”の長いベテランである。
2010年よりも前に石化されているため、リンのメタロイド経験は既に40年を超える。
（もっとも――10年余り意識のない状態で放置されていたため、実質的には30年ほどだが）
そしてビエナもリンも、元々は“男児”だったことで共通する。
だからそんなのばっかりとか（ｒｙ
（どうビエナ――違和感はない？）
（は、はい……今のところは、大丈夫みたいですね）
（画像予定）
実は――ビエナは先ほど「初めて服を着た」ばかりである。
リハビリ中のヴィナやキラがまだ服を着ていないように、まだ上手く動けない元実験体は、
ひとまず素体、つまり何も着ていない状態でリハビリしてもらうようにしている。
服は「自力で着られるようになる」ようにリードするようにしているのだ。
ビエナは“ラバー組”では珍しく、最初からある程度自力で動くことが出来たことから、
今回“同志”よりも１足先に、服を着ることになったのである。
瞳の影がなく、人工網膜フィルムの淡い光を帯びた目が、保管庫の中をゆっくりと見回す。
そこは先ほど――フィオたちが見ていたものと同じ光景が、今もそのままある。
（……なんか、凄い風景ですね……）
（そうだね……でも、多分だけど、みんなキミの仲間だよ）
（そうですね……）
ビエナは保護された時点で、多少とも自力で動ける状態にはなっていたが、
視界は失われていたため、アクエリアス・センターで新たに人工網膜フィルムを貼った。
そのため自分と同じ境遇を持つ“同志”の姿を、今初めて見ることになったのだ。
片腕をプルプルと震わせるライムグリーンの個体以外、今も自力では全く動くことが出来ず、
意識の発露も判然としない“同志”が、保管庫の中に音もなく並んでいる。
同化を強いられた直後の、苦悩の表情を浮かべたまま、時を止められた“被害者”たちだ。
（１人は既に意識の回復期にあるみたい……他の子たちも、そのうちそうなると思うよ）
（そうですか……）
（だからこの子たちが意識を取り戻したら、キミがリハビリをエスコートして欲しいんだ）
（は、はい……頑張ります）
（気負わないでビエナ……キミだって被害者だし、同志なんだから、みんな仲間と思って。
うん――どうかした？）
ビエナを励ましつつ歩いていたリンだが、ふとビエナが何かを凝視していることに気付いた。
瞳の影がないため視線はわかりにくいのだが、顔が向いている方に視線を向けると、
そこにかなり原色に近いピンク色の“２人組”が横たわっているのが見えた。
（あぁ、この子たちか）
鮮やかなピンク色の元実験体は、ライムグリーンの横にいた黄緑色の元実験体に似ているが、
もう１人は濃いローズカラーであり、体形もかなり“顕著”である。
（もしかして、覚えがあったりするの？）
（い、いえ……こんな人たちもいるんだなって……）
（まぁ、確かにね……かなり扇情的だよね……）
そう“心の声”で呟いたリンは、複雑な表情で鮮やかなピンクの“ラバー娘”の前に立つ。
ビエナが関心を持ったのはローズカラーの方であるが、
リンはその手前に寝かされている、鮮やかなピンク色の方に視線を向けていた。
この“元実験体”が保護された直後の状態を、ふと思い返していたのだ。
 
保護された直後、この“元実験体”は他のメンバーとはかなり異なった姿だった。
他の“ラバー組”はほぼ、専用の保管庫に静かに置かれていたのだが、
このピンクの実験体だけは別室に置かれ、かなり薄汚れた状態で放置されていたのである。
そのため最初は“アダルト向けの人形”だと誤解されたらしく、
かすかな“違和感”を工作メンバーの１人が感じなかったら、見逃されていたというのだ。
また他の実験体は耳の穴や額に電極を埋め込んでいたが、この実験体にはなかった。
だから普通の方法ではこの実験体の“魂”にたどり着くことも出来ないのだ。
そのため「粛清された元関係者ではないか」と推測されているのである。
リン自身はアクエリアスの工作組織――竜王のメンバーではないが、
メンバーに知人も多いため、その知人からその“推測”を聞いていたのである。
もしその推測が確かなら――他の実験体とは違う意味で「残酷な被害者」と言えるのだ。
（……？ リンさん、どうしたんですか？）
（え？ ――あぁいや、何でもない……ごめん、ちょっと考え事してた）
“被害者”はまだ意識を取り戻していないし、確実に戻る保証もない。
だから今、この推測をビエナに話す必要もない――リンはそう思い、その場を後にした。
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「お、お邪魔します……」
そう言って、保管庫の１つにヤや小柄なショートカットの“少女”が入ってきた。
目尻には人工的なラインがあり、手足の関節は機械的な接合部がある。
実はこの“少女”、人間ではない……遠隔操作タイプのアンドロイドなのである。
やや人工的な質感だが、自然な表情を浮かべることも出来る優れものであるが、
実はこのアンドロイドの“操縦者”がこの保管庫にいるのだ。
アンドロイド娘の後ろから、青い肌の女性――ティトルが付いてくる。
例によって（爆汗）――このティトルも元々は男児であり、ラティスの“同族”だ。
「こ、ここですね…… う、わぁ」
アンドロイド娘はとあるストレッチャーを見下ろし、電子の残響を伴う驚きの声を上げた。
（画像予定）
そこにはエヴァノイド・セラコートに似た白磁の“少女像”が横たわっていた。
エヴァノイド・セラコートと違うのは、目が穴のように落ちくぼんでいることである。
よく見ると、その空洞化した眼窩の奥に縮んだ眼球のようなものが見えている。
「これが、本当のボク……」
そう――この白磁の少女像こそ、このアンドロイド娘の操縦者――アイトである。
アイトはセラコート組に近い“エヴァノイド”の元実験体であるが、
セラミック皮膜のコーティングを受ける前に“フリージス処理”を受けているため、
皮膜の内側もフレッシュではなく、象牙のように硬化した組成を持っている。
眼球はこの硬化処理の際に萎縮したため、眼窩に穴が開いてしまっているのである。
メタロイドではないが、皮膜の中も硬化しているため、全く動かない。
また脳まで硬化した状態にあるため、実はそのままだと思考もほぼ出来ず、
今アイトが会話出来るのも、アンドロイドのAIを借りることで初めて可能なのである。
そんな“本当のカラダ”に、アンドロイド娘アイトは恐る恐る触れる。
刹那――電気ショックを受けたように、その体が細かく震えた。
「わぁ……何これ……感じる……不思議……ガラス像みたいなのに……」
アイトの“本体”の見た目はまさに不気味なガラス細工のようだが、
触覚は残されているようで、触るとその感覚がアンドロイド体に感知されるらしい。
しばらく「自分の体を外から撫でていた」アイトは、ふとティトルに向き直った。
「あの……このカラダ……動くように、なるんですか……？」
「自分は分からない……でも、ドレイクさんは、必ず動けるようにするって」
自分は本当に、再び自分のカラダで動けるようになるのか。
不安を感じている相手には、きっと完璧な答えではなかったのだろうが、
ティトルはそう言うことしかできなかった……責任を取り切れないからである。
「そうですか……」
「ごめん……でも、自分も動けるようになって欲しい」
「……ありがとうございます」
アイトはそう言って、機械仕掛けのぎこちない笑顔を、少し寂しそうに浮かべた。
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に初めて書いた極秘画廊向けのショートストーリー。
保護されたジェネティック実験体、特にメタロイドの集合画を何個か作っており、
これを１つのエピソードの挿絵としてまとめたものである（笑）
（ついでに新たに複数挿絵を追加しているが）
セオやフィオといったプロトグラシス系の元実験体や、
クラやミラなどのセラケミル系の元実験体が登場していることから、
少なくとも2040年代後半以降という想定で、背景設定とドラマを構築している。
ただし設定上、セラケミル系の実験体が保護されたのは、
エヴァノイド・セラコートが保護されたのと同じ2052年としてあることから、
セラコート系の元実験体の登場も可能だと判断し、編集している。
ビエナが人工視界を確保して、同志と“再会”するシーンで、
後の方に登場する「ピンク色のラバー娘コンビ」は、ウェラとニアロである。
1999年に作成した古典キャラのビエナを除けば、2014年に作ったウェラが最も古く、
メタロイド・セラケミルという“ラバー拘束キャラ”の実質的な第１号であり、
ニアロは「元成人男子の女体化メタロイド」というアイデアで作っている。
我ながら変態的な妄想であるが、あり得るケースとして考証したものだ。 |
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