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★狂わされた世界 統合ナンバー：EA-ATT19601N（N-P） |
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「――くぁぁ」
リウス級探査艇“ナヴィオネス”のブリッジで、俺は小さな欠伸をした。
そんな俺を、背後からウォンがたしなめた。
「緊張感がないですね、アイオン大使？」
「――済まんね、俺も疲れてるんだよ」
苦笑いをして、俺はウォンに適当な言い訳を返した。
ま、そういう冗談が通じる相手だと分かってるからなんだが。
疲れてるのは事実だけどな……ディガス高位大使ってぇのは多忙なんだよ。
「余り油断してたら、連邦軍に見つかっちゃいますよ？」
「それは大丈夫だろう、ステルス工作はナヴィの担当だから……な？」
俺は目の前のコンソールに向かって言う。
ナヴィってのは、この探査艇のシステム制御を担当するＡＩ（人工頭脳）だ。
銀河社会じゃ、こういう疑似生命体をホロアクターとも呼ぶらしい。
ナヴィゲイターのナヴィじゃなくて、ナヴィオネスのナヴィだ、間違えないように。
『……丸投げですか？』
……っておぃ、最近の人工頭脳は主人に突っ込むのかよ。
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狂わされた世界
ガロヌ――カーボロイド奇譚
★ プロローグ ディガス隠密調査 ★
（想定年代：AWO005頃）
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今はAWO-005年、ここはリドリアス宙域の真っ只中――つまり“敵地”だ。
タイランタ銀河連邦とアトラス銀河連合がドンパチ初めて、もう５年目になる。
今、オリオネス腕の９０％は、タイランタ連邦に制圧されてる。
……まぁ、リドリアス宙域は最初ッから連邦の影響下にあったけどな。
とーぜん、戦争が始まる前とは検問の厳重さが比較にならねぇ。
幸いなのは、まだディガスが本格参戦してねぇことだが……
あの連邦だからな、アトラスに協力的ってことだけでも目くじら立てるだろうな、やっぱ。
惑星リドムスにいるＡＴＵの知り合いが情報をくれなかったら、
ナヴィがいくら擬装プログラムを組んでも、発見は時間の問題だったろうな。
そういうわけだ、だから全然丸投げなんかじゃない。
後はナヴィに任せたんだ、これは信用問題ってヤツさ。
『……まぁ、私は全力を尽くすだけですけどね』
期待してるよ相棒♪
……そんな暇なやり取りをしてるうちに、目的地が見えてきた。
ブリッジの前にある、シールドキャノピーの向こうは雪国――じゃなくて宇宙空間だ。
そのはるか前方に、金色に輝く大きな星が浮かんでいる。
「……あれが、あの惑星ガロヌ！？」
「ウォンは初めてか？……変わり果てたもんだろ」
４年前までは、この星……惑星ガロヌは、こんな色じゃなかった。
やや土色ではあったけど、もっと普通の岩石惑星だった。
影には大きな街明かりが広がる、リドリアス宙域を代表する植民惑星だったんだ。
今……往年の面影は微塵もない。
惑星の全土を、不気味なほどにメタリックな、金色の雲が覆っている。
地上は全く見えない……影の部分は完全な闇に包まれてる。
まるで――死に絶えてしまったかのようだ。
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４年前のあの日……この星は戦火に包まれた。
いや……戦火というより、連邦中央宇宙軍の一方的な粛清か、アレは。
まったく……反乱分子掃討のために、街１個吹き飛ばすなんてどういう神経だ？
しかもちょっとやそっとの街じゃない……ガロヌの首都ガロニアスは馬鹿でかい都市だ。
総人口は優に億を超えてた……半径60kmぐらいあるからなあそこは。
その中に、水爆くらいの威力のミサイルを平然と落としやがった。
結果、都心部の半径20kmぐらいが木っ端微塵に吹き飛んで、数分のうちに何千万という死者が出た。
粛清？ いいや、立派な虐殺だ――虐殺を“立派な”なんていうのも不謹慎だろうけどな。
結局その粛清が、オリオネス銀河大戦の遠因になった。
連邦総統府の大馬鹿共は、それだけのことをやっておいて、
アトラスの批判を突き放しただけじゃなく、「今こそ銀河統一の好機」とか抜かしやがった。
ガロニアスを吹っ飛ばしたのは、銀河中をビビらすデモンストレーションだったのか？
巨大都市を吹き飛ばすような連中は、脳味噌もブッ飛んでるってことか。
それ以来だ――この惑星が音信不通になったのは。
もっとも実際には、何万という難民船が、この惑星を飛び出してきた。
そしてその中で、船内に“奇病”が流行った船が何隻かあった。
その“汚染難民船”の１隻が、外縁宙域の小惑星に不時着したことが、
今回のディガス調査のそもそものきっかけになった。
何か“嫌な予感”を感じて、その小惑星に出向いた俺は、とんでもないモンを見た。
そいつは、大破した宇宙船から這い出した、奇怪なイキモノだった。
宙棲クリーチャーのギルザムに似た、６本足のクリーチャーで、真空に近い低気圧に耐え、
強靭な外骨格を持ってて、半狂乱で俺に襲い掛かってきた。
結局俺は――自分を守るためにそいつを処分するしかなかった。
そのクリーチャーが、“奇病”で変異したガロヌの難民だと分かったのは、
そいつの体組織から住民のＤＮＡの断片が見つかったからだ。
宇宙船は破損がひどかったが、元々はかなり気密性の高い船だったらしい。
結論から言えば、危険な宇宙生物が船内に侵入する可能性はかなり低かったんだ。
要するに何が言いたいかというと。
その怪物を生み出すきっかけとなった“奇病”が、ガロヌ産のモノじゃないかということ。
そしてその原因を、連邦軍の粛清が引き起こしたんじゃないかという疑惑だ。
連邦が粛清事件後、奇妙なほどに強硬な態度を取って、銀河大戦に発展する１連の軍事行動を展開したことも、
あの粛清事件の背景に、連邦政府の“陰謀”が絡んでいたとしたら納得できなくはない。
しかもその“陰謀”は恐ろしく非道なもので、軍事に直結するものだ。
２年前に惑星リヴェロイスで起きた、戦災ミュータント発生問題もガロヌのケースとよく似てる。
もっともこっちは――ガロヌに比べりゃ小規模だったが。
結局――その疑惑を確認するために、俺は連邦の検問を掻い潜って、この惑星にやってきたってワケさ。
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「……ナヴィ、どうだ？」
『反応ありませんね……誰かがいることは間違いないはずですが』
俺は今、ナヴィに通信をさせている――もちろん擬装通信だけどな。
ガロヌの軌道上には、球状と円盤状の宇宙ステーションが浮かんでいる。
いや、ステーションってよりコロニーかな……100km単位のバカでかいやつだ。
そしてそのコロニーからシャフトが細長く伸びて、はるか下の金色の雲海に突き刺さってる。
いわゆる、軌道エレベーターというヤツだな。
ナヴィがやってるのは、そのコロニー＝ステーションへの管制通信だ。
要するに、ガロヌ地表に降下していいかどうか、許可を募ってるってわけだ。
しかし……こいつが全く応答しやがらねぇ。
許可するともしないとも言わず、だんまりを決め込んでいる。
コロニーの表面には明りがともっている……これだけの規模なら、内部に都市も造れるからな。
明りがあるってことは、誰かが住んでるってことだ。
少なくともここ数日、往来があることが惑星リドムスで確認されている。
余所者は無視ってことらしいな。
「見つかったのかも……今軍に連絡してるとか」
物騒なこと言うなよなウォン……否定は出来ねぇが。
まぁ、応答がねぇなら仕方ない、さっさと作戦に移らせてもらうとするか。
因みにさっきから俺に突っ込んでくれる、このウォンってのはどういうヤツかというと。
容姿は子供みたいに若く見える……まぁ実年齢もそんなに歳は食ってないが。
ディガス大使じゃあない……平たく言えばＡＴＵ、つまり反連邦同盟の工作員だ。
皮膚は紫がかった、黒っぽい甲殻と蛇腹状の組織に覆われている。
結論から言えば――惑星セルムスで、約20年前に変異した“ギルノイド”の１人だ。
つまり、ギルザム集合体に侵食されて、体質的に同化を強制された広義のミュータントに当たる。
意図的に変異を強いられてるわけだから、キメラノイドの１種とも言えるな。
（画像挿入予定）
今回の調査に先立って、このウォンから参加の要請があったんで、同行させたってわけだ。
危険な調査になると警告したんだが、コイツは退かなかった。
「じゃ、そろそろ始めますかねぇ……ところで、本当に行くのか？」
「もちろんです、そのために来たんですから！」
「そんなにこの星が気になるのか？ ――前にも言ってたな、『体が警告してる』と」
「……その理由を見つけたいんですよ、何故この体が訴えるのか」
上にも書いたが、ウォンは容姿こそヒューマノイドに近いが、体質はギルザムに近い。
顔こそ人間っぽいが、体の大部分はギルザムと同じ強靭な有機物の外骨格で覆われている。
組成こそ有機物だが、その強度は金属にも匹敵する……元はリーヴェアシスだが。。
当然銃弾も跳ね返すし、熱線も出力次第じゃ通用しない――因子ベースのギルザムがそういう体質だからな。
おまけに体液は強酸性だから、おいそれと素手じゃ触れない。
まぁ……俺たちラトリアンはこのぐらいの酸なら抵抗力があるけどな。
とか何とかやってるうちに、ナヴィオネスはゆっくりとシャフトに接近する。
上が何も言ってこないから、勝手ながらお邪魔させてもらうのさ。
不法侵入？ ンなこた分かってるよ。
俺たちがシャフトに侵入したら、ナヴィオネスには帰還してもらう。
しばらくは俺とウォンだけになるわけだ。
まぁ、どっちもそれなりに場数は踏んでるから大丈夫だとは思うが。
『シャフト中層部の前です』
「分かった、じゃあ転送してくれ」
……プロローグにしては長文になったな（^^;）
ま、気にしないってコトで１つ宜しく♪
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（第１話／第２話）
（第１話は４年前の出来事、第２話は直接の続き） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に執筆したエピソードだが、原案は1990年代に遡る。
“人外萌え”嗜好のあるG-maの趣味を詰め込んだ“戦災ミュータント”が主役のドラマである。
原案では近未来の地球を舞台にしていたが、ＧＤＷ世界観で再編した際に、
リドリアス宙域の植民惑星ガロヌで起きた事件として再構成している。
また2020年代にも再々編しており、その際に１部の設定や表現を少し弄っている。
元々はギルノイド共々、ゼノモーフと縁を持たせていたが、２次創作依存を避けるために、
サイト再編の際に、ゼノモーフをモチーフとしたオリジナル種族ギルザムと関連付けた。
その際にギルノイドの方はデザインを多少変えたが、カーボロイドの方はほぼ変えていない。
モチーフこそゼノモーフだが、全く同じというわけではないからだ。
バイオメカニカルなディテールは影響を受けているが、アウトラインは別物なのだ。
なおこのプロローグは物語の背景となる“ガロヌ粛清変動”を調査しに惑星ガロヌを訪れた、
ディガス大使スティル・アイオンの１人称文体というスタイルで進めているのも特徴の１つだ。
2008年に執筆開始したＡＳＧシリーズ以降、こういう登場人物視点で展開する書き方にハマっており、
このエピソードもその１つになっている。 |
