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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130720B）【投稿エピソード】 |
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狭い暗がりの中で、１人の青年が覚醒する。
「――あ……いっててて……」
青年の名はイズキ・ティアリス。
かつて“マヴィノ諸島”という場所で自分の獅子型ゾイド“ライガーゼロ・イェーガー”を駆って、
バイオなんとかという謎の存在と戦っていた矢先、謎の巨大な光に包まれてうんたらかんたら――
「――んぁっ！ ここはどこだ！？ 俺は今どうなっ――はがっ！！」
事態に気がつき、飛び起きようして――ごちん、勢いよく頭を天井にぶつけるイズキ。
視界に飛び散る７色の火花と共に、イズキは再びうずくまった。
「うっくっ………… 俺……生きてるよな……？ 何が起こったんだ……？ そうだ、イズルやエリルは……」
とりあえず――自分が今ゾイドに乗っているのはわかる。
だが今、ライガーゼロは機能停止しているようで、イズキの居るコクピット内部は殆ど真っ暗だった。
暗闇に目が慣れ始めた所でまずゾイドを再起動しようと、手探りでコンソールを弄り回す。
……どうにか起動スイッチを見つけてそれを押すと、
起動音と共にコクピットが明るくなり、次々とディスプレイに光が点っていく。
そして前面部に有るメインモニターも動き出し、ライガーゼロが見る風景がそこに映し出される。
「うし、点いたぞ。 ――まさかいきなり“目の前に敵”なんて事ないよなぁ……」
イズキはおっかなびっくり、モニターから外の様子に目をやる。
「……………… ほぇ？？？」
だが、外にある光景はイズキの想像を超えていた。
モニターに映るのは、仲間でも敵でもなく、まるでライガーゼロを取り囲むように立つ自分と同じ人間達の輪。
彼等はまるで怪物でも見るかのような怪訝な目で、その“金属の獅子”をまじまじと見上げている。
しかも、いきなり起動したその白と濃青の機体に、群衆達がにわかに騒ぎたてているようである。
余り動いてはいないが、起動の瞬間にカメラと連動した目が光り、垂れていた頭が持ち上がったのだ。
イズキが予想外の事態に口をあけて呆然としていると、上部に光るランプの付いた乗り物が、
群衆を掻き分けて次々とライガーゼロの前にやってくる。
ライガーゼロの前で停車したそれから降りてきた水色の服と帽子を被った者達は、群衆達を制止しながら、
険しい面持ちで自分と自分のゾイドを包囲しはじめた。
さらに空からは、回転ローターを持った飛行物体が一斉に自分の周りに飛来し、旋回飛行している。
「は…… は…… はあああああぁぁぁ？？？」
その時、イズキの口から漏れたのは、もはや言葉にならない悲鳴だけだった――
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第７章 無機物の生命体たち ★
2013年7月20日―日本・東京機獣暴走事件
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「――動物型の巨大ロボット兵器？」
「そのようです、例の日向灘に出現したという島で……」
立川基地司令部に設置された防衛特調で、暫定室長の黒木が“通報”を受けたのは、20日の昼前だった。
事実上の連絡基地として使う会議室には黒木の他に、自衛隊の権藤２佐や佐津間３佐の顔もある。
黒木が報告を受けているのは、先ほど母船“しぐれ”に帰還した、海自の調査隊から寄せられた情報だった。
“爆弾低気圧”通過の後に日向灘に発見された群島――島の調査を命じたのもこの部署である――から、
正体不明の動物型ロボットの機動兵器、すなわち戦闘機械獣“ゾイド”の大群が見つかった件である。
もちろん――彼らはまだそれが“ゾイド”と呼ばれていることは知らないのだが。
「立川基地でも、３日ほど前に変形するロボット群の襲撃があったわけだが……君はどう思う？」
黒木は会議室に召喚した部下、富谷３佐に問いかけた。
富谷も今や佐津間や権藤と同様、今回の特殊事態に最前線で関わってきた重要な人材となっている。
「分かりません……ただ、この報告だと、その島のロボットは動物型らしいんですよね？」
「そうなっているな……４脚獣や恐竜や、昆虫を思わせる機体が多いそうだ」
「我々が交戦した変形ロボットは、人間型に近かったんですよ……少なくとも動物型はいなかった」
「そう言えばそうだったな……確か厳密には“オートロン”という金属生命体らしいが」
黒木がそう言いながら、部下が持ち込んだ写真資料に目を通す。
「それにこの動物型ロボットは、最初からコクピットらしきパーツがあるようですが、
オートロンは“乗り物に擬態”している時以外は自立行動可能で、コクピットはなかったはずです」
「自我を持ってる生物だったら、操縦席なんか必要ないですしねぇ」
「ふーむ……」
黒木が腕を組んで考えこんだ――その時だった。
『報告します！ 東京都・江戸川区・一之江にて所属不明のロボットらしきものが現れたとの事です！』
スピーカーを介して突然入ってきた“緊急報告”に、防衛特調の会議室は色めきだった。
思わず立ち上がったゴードン――もとい権藤が、通話用の無線機に向かって大声で言葉を返す。
「何！？ 市街地のど真ん中じゃないか！！ 被害の方は出ているのか！？」
『いえ、まだ被害は出てはいないとの事です。 ターゲットにもまだ動きはないそうで……』
その言葉を確認すると、権藤は黒木とちらりと視線を交わし、お互いに軽く頷き合う。
「……よし、動き出す前になんとかしよう。 直ちに出動し、その兵器を確保するんだ！
念のため江戸川区全域に封鎖命令と外出禁止令を出せ！」
『りょ、了解！』
黒木の指令を受けて、通信兵が無線機の向こうで返答した。
こうした事態が起きた時に、緊急の指示をすぐに出せるのもこの部署の強みである。
立川基地に置かれたこの部署が防衛隊の司令部に所属するのも、こうした指示の権限を持たせるためだ。
一刻を争う事態が起きた時に、手続きや会議などやっていては間に合わない。
総司令部の樋口や坂元にしたって、全ての防衛懸案を、即時的確に判断できるわけではないし、
常識をはるかに越えた“有事”である今、その懸案は通常時よりずっと多く、しかし参考事例は少ない。
もちろん、より大規模なミッションが必要と分かれば、その際は総司令部に権限を委譲するのである。
この部署にできるのはあくまでも、迅速な初動処理だけなのだ。
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「何だよ何だよ何だよ、そんなにゾイドが珍しいのかよっ！ おらどいたどいた、踏んじまうぞっ！」
江戸川区のとある学校のグラウンドに現れた兵器＝“ライガーゼロ”と、それに乗っていたイズキはと言うと、
理解不能な状況に混乱を隠せないながらも、面倒事はゴメンだと何とかこの場を離れようとしていた。
イズキは操縦桿に手をかけ、ライガーゼロを動かそうとする――が、ライガーゼロは動かない。
操縦桿を動かそうとしてもレスポンスが異様に鈍く、まるで機体全体に枷をしているようだ。
既に“核”は起動しているし、特に駆動部やシステムにも問題は起きていない。
……しかし、原因はすぐにイズキにも分かった。
「おいおいおい、落ち着け、な？ いやびっくりしてるのは分かるから。だからさっさとずらかろうな……？」
ライガーゼロは怯えていた。
見た目こそロボットのようだが、ゾイドは“生命体”であり、限定的ながら知性と自我を持っている。
いきなり訳の分からない場所に飛ばされ、見た事もない風景や環境、
それ以上に感じた事のないこの“世界”の空気に、激しく戸惑っているのである。
その恐怖心はイズキにも伝わっており、彼もなんとかライガーゼロをなだめようとしているのだが。
もっとも――それはライガーゼロを取り巻く“ギャラリー”も同じことであった。
“爆弾低気圧”の大雨の後――小学校のグランドに突如出現した、ライオンに酷似した巨大なロボット。
政府が「世界が混じった可能性が高い」などと言った後でも、その意味を掌握できる市民はそう多くはない。
そんな彼らが、銀河の反対側からやってきた戦闘機械獣の正体など、理解できるはずがなかった。
ギャラリーを制止する警官たちも、背後で中途半端に動くライガーゼロに、内心不安を隠せない。
このライオンに似た巨大ロボットが何をしでかすのか、正直動きが読めないからだ。
その時――空を飛んでいた報道ヘリコプターが、ぐっと高度を落としてライガーゼロに迫った。
小学校の校庭で起きているセンセーショナルな事件を、より迫力ある構図に収めたかったのだろう。
未知の存在に対して危険かつ無謀な行動のはずだが、それが報道記者たちの抑えられない性分なのか。
だがその“マスコミの好奇心”が、怯える虎の子――もとい獅子の子の緊張を爆発させた。
突然激しく身をよじり、今まで纏っていた武装“イェーガーユニット”を自力で排除するライガーゼロ。
弾かれるようにボディから離れ、重機ほどもある金属の塊が、グランドにどさどさっ、と落下する。
警官たちは思わず後ずさり、ギャラリーたちからは悲鳴が上がった。
そんなギャラリーの輪を、白い素体状態となったライガーゼロはあっさりと跳び越え、
そのまま学校を飛び出すや否や、緊張と興奮に任せて驚異的なスピードで“暴走”し始めたのである。
もっとも――これに一番驚いているのは当のイズキであった。
「うぉおぉぉいっ！？――とっとっとっ、止まれえええええええぇぇぇぇぇぇっ！！！？」
ライガーゼロは公道に出てもなお凄まじい速度で疾走し続ける。
当然、進路上にある信号機も歩道橋も電光掲示板も構わず、まるで雑草のようになぎ倒していく。
信号機のランプの１部は大きく放物線を描いて吹っ飛び、近所の民家の屋根に突き刺さる有様。
電柱も火花を散らして次々と横倒しになる――ライガーゼロが遠慮なしに電線を引っ掛ける所為だ。
当然、突如として非常識な“暴れ獅子”を見た市民はパニック状態に陥った。
今の所――その道を行く車の数はまばらだが、ほとんどの車はと言うと、
対向車線からやってくる“デカブツ”に驚いて急ブレーキを掛けてスリップしたり、
あるいは急停止した先の車と玉突き衝突を起こすものが続出し、
そしてライガーゼロも今の所――どうにかそれらを踏み潰さずに済んでいるという状況である。
ライガーゼロがあたかも竜巻のように駆け抜けていった路上も、
まるで砲撃でも受けたようにガタガタになり、運悪く嵌まり込んだ車が横転していた。
完全に恐慌状態に陥ったライガーゼロ――それに翻弄される街も同様だが――の制御システムは、
エラーを起こしてほとんどのコントローラーが作動しなくなっており、
イズキが何度も制動ペダルを踏んでも緊急停止レバーを引いても、ほとんど速度を落とさずに走り続ける。
こうなってしまうとライガーゼロ自身が落ち着かない限り、
エネルギーが尽きるか、あるいは足が壊れるまでは止まらない……まさしく暴れ馬と同じ理屈だ。
――と、ライガーゼロが走っていた道はＴ字路となり、目の前に大きな建造物が立ちはだかる。
イズキの顔から一気に血の気が引いた……この速度で突っ込めば――
「――いっ！？ いやっちょぉ待っ――」
マンションだろうか――ベランダには皮肉にも猛牛を誘うように、赤いシャツが物干し竿にぶら下がる。
このタイミングで幸い、方向転換のシステムだけは作動出来たようで、
イズキは鉛のように重くなった操縦桿を力任せに動かして、どうにか横の道へと誘導した。
ギリギリの所で急旋回した所為で、ライガーゼロの長い尾がベランダを引っ掛け、
手すりや腰高壁の１部ごとシャツを吹き飛ばした……物干し竿がまるで槍のように明後日の方に飛んで行く。
電車１両分ほどもある体で直角に曲がれるはずもなく、交差点手前のビルの角も巻き添えになった。
もちろんそれで何かが改善したわけでもなく、何とか手を打たねば大惨事は必至であった。
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防衛特調の会議室でも、この事態は確認されていた。
市ヶ谷にある本来の総司令部から持ち込まれたばかりの大きなモニターに、暴走するライガーゼロの姿が映る。
撮影しているのは、今さっき現場に急行したばかりの防衛隊１３式飛行艇“閃鮫”だ。
ヘリコプターの場合、もしもローターにダメージを受けると、墜落のリスクも高いためである。
この事態を引き起こした報道ヘリは、ライガーゼロが“逃げた”ため墜落の危機を回避したわけだが。
土煙を上げて爆走するライガーゼロの追跡映像を見ながら、権藤や富谷が小さな溜息を吐いた。
「やっぱり動き出したか。 まるでライオンみたいな形だな、今度はどこが寄越した奴だ？」
『ターゲットは江戸川区の環七通りに侵入後、そのまま南下を続けています！』
「今のところビルには突っ込んでいないようだが、ほとんど怪獣だな……どこへ向かっている？」
『葛西工業高前より江戸川６丁目を通過、このまま行くと葛西駅に……』
「駅前直行か――って、ちょっと待て、一体どれだけのスピードが出てるんだコイツ！？」
『計算によると約200km/h･･･いえ、それ以上の速度で走行しているものと……』
閃鮫に搭乗する追跡担当の兵士の言葉に、富谷が目を剥く。
「時速200kmって……新幹線じゃあるまいし、それこそジラと変わらないじゃないか……！」
「我々が知ってる陸戦兵器にこんな“暴れ馬”はいないはずだが……どうなってるんだ！？」
「被害の状況は！？」
『信号や車両などには多数出ていますが、人的な被害はまだ出ていないとの事です』
「マジかよ……新幹線が路上を暴走してるようなモンなのに、ほとんど奇跡じゃないか」
「だがこのままではいずれ大被害が出る、市民にできるだけその道から外れるように伝えるんだ、
車から引きずり出してでも、退避させなければならない！」
呻く富谷や佐津間、まくし立てる黒木の横で、軽く深呼吸した権藤が言葉を続ける。
「部隊の展開は！？」
『サンダーバード部隊は１〜２分もあれば到着が可能です、高速隊は20分以上かかる見込みです』
サンダーバードとはＧフォースの多機能飛行艇ＧＦ０７のことだ。
先のディスヴェリオン襲撃事件の際も、暴れる機械の巨兵メイザァヴォルグ撃破に貢献している。
「市街地の真っ只中でこの巨体だ、地上部隊は余り期待できない、サンダーバードに期待しよう」
「ですが黒木特佐、サンダーバードのメーサーガンが通用するでしょうか？」
「サンダーバードにはマイクロミサイルなどの通常兵器もある。 メーサーガンは元より怪獣用だし、
そもそも怪獣の皮膚を焼くためで決戦兵器ではない……すぐに出動指示を！」
『突然済まない、オーディアンのガンバインだ。この事件、我々に出来ることはないか？』
通信回線に突然割り込んできたのは、オートロンの義勇組織、オーディアンの隊長ガンバインである。
ディスヴェリオン襲撃事件での活躍を評価され、彼にも通信回線使用を許可されていた。
「おぉ、そうですね……相手の目的がまだ見えないので、攻撃すべきかどうか決まっていませんが……」
『暴走を止めるか、せめて勢いを殺すことは可能だと思う……さすがに正面から突進されると我々でも難しいが』
「では後に指示を出しますので、誘導に協力して頂ければ。 現場近くに待機してください」
『了解した。 現場にはマクスレッジとフィンラットを向かわせる、必要なら私も向かう』
ライガーゼロはいまだ暴走を続けている。
とりあえずゼロが入れそうな幅の広い道路を進んでいるが、
当然のことながら東京の道路は“ゾイド仕様”に作られているわけではない。
走れば走るほど路面は砕け、衝撃波と振動で周囲の建物の窓ガラスは砕け、地上に降り注ぐ。
さらに建造物の壁面に胴体を擦り付けて陥没させてしまったりと、その被害はどんどん積み重なっていく。
富谷や黒木はこの事態を、かつてマンハッタンを駆け回った疾走怪獣“ジラ”と重ね合わせていた。
どうにかライガーゼロ自身が反射的に、走ってくる車を飛び石の要領で交わしてくれるのが救いと言えよう。
もっとも大抵のドライバーはこのライガーゼロの姿を見た途端、車を乗り捨てて逃げてしまうのだが。
無理もない……見上げるような巨体と、新幹線と変わらない速度で“爆走”する、
得体の知れないロボットに突っ込む命知らずなど、いるはずもない。
ただ人的被害が奇跡的にないとはいえ、既に主を失った放置自動車が何台か、その巨大な脚に潰されていた。
跳ねるように走る金属のライオンに踏まれれば、トラックですら原形を留めないほど潰れる。
「あぁ〜終わる、俺の人生終わっちまう〜！！」
……もはやイズキ自身も恐慌状態である。
こちらも無理からぬことだ、この速度でビルなどに突っ込めば、その衝撃でイズキ自身も只では済まない。
顔面蒼白のまま、パニック寸前の精神状態で必死に重たい操縦桿を握り締める。
そんなライガーゼロの目の前に、ジェットの爆音と共に銀色の飛行艇が２機、姿を現した。
防衛特調の“警戒指令”を受け急遽Ｇフォースが派遣した、多機能飛行艇ＧＦ０７サンダーバードである。
サンダーバードを視界に捉えたライガーゼロは驚くように急旋回をかけ、再び道を変えた。
そこは葛西橋通りの10号線へ入るルートであり、このまま行くと荒川へとたどり着く。
『ターゲット、長島町交差点を左折、葛西橋通りに入りました！』
「よし、このまま葛西橋まで追い詰めるんだ」
「幅の広い川沿いだから迎撃も容易です、いっそここでミサイルを食らわせて、動けなくすれば――」
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「――ちょっと待った！」
途中まで“攻撃命令”を発しかけた黒木と富谷を、背後から大きな声が制止した。
思わず振り向くと、金髪の大男――パドルが立っている。
額に汗がにじんでいるところを見ると、ここまで大急ぎで駆けつけてきたらしい。
「パドル大使、何か問題が？」
「大ありですよ――アレを撃破するのはお勧めできない」
「どういうことです？ 正体は確かに不明だが、暴走は止めなければなりません」
「止めるのは大いに結構です――だが“殺してしまう”のは良くない」
「殺してしまう――って、まさか！？」
佐津間の問いに、パドルは頷いた。
「あれはただの機械じゃない……生命反応を感じます、それも２つね」
「あのガンバイン殿のような、オートロンとかいう変形種族みたいにですか？」
「同じ種族ではなさそうだが、良く似た感覚がある……それから“パイロット”も乗っている。
どうやら、中からは暴走を止められない様子だ」
「えっ、乗組員がいるというのですか！？」
顔を見合わせる防衛特調の面々。
「どういう形で乗ってるのかまではよく見えませんがね……だがその乗組員は“相棒”を制御できていない。
行動もただパニック状態で走っているように見える、少なくとも敵性勢力の攻撃ではありません。
それに映像を見てください……背中に銃器のようなものが見えますが、１発も撃っていないでしょう」
確かにその通りだった……閃鮫もサンダーバードも、ライガーゼロの“攻撃”を確認していない。
ただ背中の銃器は装甲車の防御用機銃に似るが、威嚇射撃程度しか出来なさそうだ。
「パニックか……言われてみれば、怯えた野生動物のようにも見えますね」
「そういうことです権藤２佐……攻撃意思を持たない相手を攻撃するのは望ましくないはずです。
ディガスでなくとも、この意見には反論はないと思いますが」
「うーむ……しかし現にあれは街に被害を及ぼしているんですよ！？」
「自分に任せて頂けませんかね……誘導さえして頂ければ、数分以内にアレを止めましょう」
黒木たちは目を見合わせた。
確かにパドルは普通の人間ではない……先の立川基地の戦闘で、敵の機械兵を黙らせた実績もある。
しかし、爆走する新幹線並みの“機械生命体”を、どうやって止めるというのか。
「……分かりました、ではお任せ致しましょう」
「感謝します黒木特佐、ではこれで」
言うやパドルはひらりと身を翻して、部屋を出て行った。
立川から荒川まではかなりの距離があるが……自信を持って言うからには策があるのだろう。
黒木も権藤も佐津間も、この“ディガス大使”と既に１週間近く付き合っている。
その１週間で“同志”と認めた男であることも確かなのだ……ならば信じなければならない。
「……数分以内に、か」
「パドル大使は常識を超えた人だ、何とかするでしょうよ……ターゲットの位置は？」
『ターゲットは葛西橋通りをそのまま進行中！』
「よし……あの大きさなら、あまり狭い所には行きたがらないはずだ。
サンダーバードは２派に別れて西葛西6丁目と8丁目、および中葛西7と8の大通り交差点に向かい待機！
それぞれの交差点にターゲットが来たら、威嚇射撃で向かって右の道路にターゲットを誘導せよ！
上手く行けばあれを閉じ込める事ができるかも知れん！」
「室長、もしもということもあり得ます……防衛隊とＧフォースに、増援の準備を要請すべきでは？」
「そうですね、権藤２佐……その時は樋口幕僚長に引き継ぐことになりますが……」
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黒木からの指令を受けたサンダーバードが、荒川の上空で大きく２方向に旋回していく。
そのうち１機が、高度を下げてライガーゼロに肉薄してきた。
「――げっ、またあの飛行艇かよ！？」
ライガーゼロが大きな交差点に差し掛かると、サンダーバードが目の前に現れて足元へと銃撃を仕掛けてきた。
イズキはそれを避けようと、操縦桿を捻じ曲げてライガーゼロを右の道を逸らすが、
さらに次の交差点でも同じくサンダーバードの待ち伏せを受け、ライガーゼロを思惑通り右の道へと向ける。
因みに――サンダーバードが放つ“銃弾”はエネルギー弾であるメーサーであり、出力も低く抑えてある。
言わば威嚇のための“空砲射撃”であり、路面を流れ弾で傷つける心配もないのだ。
また大きな交差点に差し掛かった所で、再び威嚇射撃を受けてゼロは右に走る。
「だぁっ、またかよ！ って――ここさっき通った道だよな？ 一体どういう……？」
更に地上では、現場に最も早くたどり着いたオレンジ色のオートロン、フィンラットが誘導作戦に加わった。
“機人形態”に変形して立ち塞がり、走ってきたライガーゼロに対して上空に威嚇発砲するのだ。
これにサンダーバードのメーサー光線が、まるで空に十字を描くように交差する。
目の前を轟音を立てて駆け抜けていくライガーゼロの巨体を見て、フィンラットは思わず呟いた。
「――ヒュー、メィザァヴォルグに負けないくらいでけぇなアイツ……突っ込まれたらどうなるかと思ったぜ」
地上ではこの“非常事態”を目撃した市民や警官が、ざわめきながら遠巻きに眺めている。
ライガーゼロだけでなく、“黄色いロボット兵”であるフィンラット自身も、常識を超えた遭遇だろう。
ただその行動が“敵性行為”ではないことは何となく理解したようである。
「こちらフィンラット、取り合えず誘導成功……なぁマクスレッジ、いつになったら来れる？」
『今急行中だとさっきも言っただろう、急かすんじゃない！』
通信機から、マクスレッジの太い声が苛立つように響く……司令を受けた時、結構距離があったらしい。
“先に到着したのに怒られた”フィンラットはぶつぶつと愚痴る。
「……へいへい、分かってますよ。 俺らサンダーバードみたいに飛べねーもんな。
Ｇフォースも吊り下げて運んでくれりゃ良かったのに」
『贅沢言うんじゃない、俺たちを吊ったらそれだけ時間をロスするだろうが！』
……何はともあれ、サンダーバードの誘導作戦は更に続く。
繰り返される威嚇射撃――それは確実に包囲を狭めるかに思われたが、しかし。
リズミカルに光弾を発射するサンダーバードに痺れを切らしたのか、ライガーゼロが大きく跳躍した。
「ターゲット、跳躍――こっちに来る、回避行動を――なっ！？」
驚くべきことに――ライガーゼロは戦闘機ほどもある巨体でサンダーバードの頭上を跳び越えたのである。
その跳躍距離……軽く100mはあるだろうか。
そのまま速度を落とさずに駆け抜けていく……サンダーバードのパイロットたちも呆然としている。
「た、ターゲット……威嚇を躱してそのまま進行！！ 中佐近橋へ向かっています！」
着地点で車を１台、踏み潰したように見えたが――幸いドライバーは、直前に脱出していたようだ。
サンダーバードからも、乗員らしき女性が数人、歩道に退避しているのを確認した。
「車が１台巻き込まれているようです……乗員は脱出している模様ですが、今のは際どかったですね」
「けどあの車、どこから来たんだ？ ……現場は封鎖してるし、交差点を曲がってきた気配ないんだが。
……まぁその確認は後だ、ターゲットの追跡を続ける」
防衛特調の会議室でも、ライガーゼロの驚異的な大跳躍に、思わず仰天の声が漏れた。
「――サンダーバードを飛び越えただとっ、バカな！？」
「今何が起きた！？――おいおい、こんなのアリかよ！」
「確かにサンダーバードも低空で飛んでいたが……あいつ、本当に生物なのか！？」
意表を突かれたサンダーバードはすぐさま急反転して追跡するが、ライガーゼロの速力も衰えない。
最高時速600kmは出るサンダーバードだが、反対側に引き離された形で、すぐには追いつけそうにない。
『ターゲットは中左近橋を越えました。 このままだと首都湾岸、いえ葛西臨海公園に到達します！！』
「こいつはまずいな……途中まで上手く行っていたのに、ターゲットに逃げられたら全てが水の泡だ！」
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ライガーゼロはそのまま海へ向かって突き進む。
イズキも半ば諦めかけていた――その時。
ディスプレイ越しに、道のど真ん中に男が１人立っているのが見えた――背が高く、筋肉質で金髪が目立つ。
「おっ、おいアンタ！ どけよ！ どかないと撥ねられちまうぞ！！」
迫り来る巨大機械獣を前にしてもその男は微動だにせず、
ただ１点を見据えてまるで相手が来るのを待っているかのように佇んでいる。
いくらライガーゼロの歩幅が大きくても、そんな所に仁王立ちしていれば危険極まりないはずだ。
「おいおいおいおい、これが見えてないのか！？ 早くどけって言ってるだろ！！」
見る見るうちに男との距離が縮まる――その時だった、男はライガーゼロに向かって手をかざした。
「――落ち着け。ここに敵はいない」
男は呟くようにそう言ったが――コクピット内のイズキには当然聞こえない。
だが次の瞬間、ライガーゼロの恐慌レベルが一気に下がり、
それに伴ってようやくコクピットの制御システムが復旧し始めたのである。
「えっ、あっ、何で！？ おわっとと！！」
ソレに気づいたイズキがライガーゼロの緊急停止レバーを引く。
と同時にライガーゼロも、トレーナーの指示を受けた犬のように足を止めるも、
今まで高速で走っていた所為か凄まじい慣性でスリップしてしまい、
イズキにも強烈なＧとなって襲いかかった……何しろ新幹線と変わらぬ速度で走っていたのだ。
動きを止めた足の爪がアスファルトをバリバリ削っていたため、転倒しなかっただけでもマシかも知れない。
ブラックアウト状態で意識が飛びかけたイズキが再び覚醒した時には――ようやっと、
ライガーゼロも完全に停止した状態になっていた。
「はぁっはぁっ――や、やっと、止まった……」
すると外から大きな声で誰かが語りかけてきた――どうやら、さっきの金髪男らしい。
拡声器でも使っているのか、分厚いライガーゼロのコクピットの中でもよく聞こえるほどだ。
「よーし、チェックメイトだ。
中にいる奴は出て来い、敵意がないなら出てこれるはずだ。何、悪いようにはしない」
イズキは一瞬逡巡したもののもう逃げる事は出来ないと観念し、ライガーゼロの頭部ハッチを開いた。
にゅっと顔を出したイズキを視界に認めた金髪男――パドルは、意味深な笑みを見せる。
「ほぉ……誰かと思えば、まだ小僧じゃねーか」
「あ……と、とりあえず助けてくれてありがとよ。
でもアンタ――いったい何モンだよ、ゾイドも使わずにコイツを止められるなんて……」
「何モン、か……でもそれは多分“こっちのセリフ”って奴じゃないか？
――少なくともココの人達にとっちゃあな♪」
「えっ…………？」
パドルが次の言葉を出す前に、イズキはその言葉の意味を悟った。
背後から、横から、前から、次々とわき出てくる、赤ランプを付けた白黒の車両――パトカーの群れ。
上空にも、今しがた飛び越えたサンダーバードが追い付いて、見降ろす形で滞空する。
けたたましいサイレンが、見る見るうちにイズキとライガーゼロを、今度こそ完全に包囲した。
「あっ…………」
「ま、そういうことだ。 お前さんも聞きたいことが多そうだが、まずはこちらが先かも知れないな。
さっきも言ったように、正直に話すなら悪いようにはしない、付き合ってくれるよな？」
「……………………はぃ」
いくら不本意だったとは言え、ある意味自分が招いたとも言えるこの状況とこの結末に、
イズキはただ無気力な返事を返すしかなかった。
水色の服と紺色の帽子を被った者――警察官に“連行”されるイズキを眺めながら、パドルはふと視線を移した。
視線の先には、今や飼い犬のように大人しくなった白い巨体――ライガーゼロが無言で佇んでいる。
「ゾイド……はて、どこかで聞いた気がするが……」
こうして――この時起きた“機械獣騒動”は、ひとまず解決した。
しかし――これはほんの序の口にすぎない。
間もなくこの世界はさらなる危機に晒される事になろうとは……この時は誰も予想してはいなかった。
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| （７章３話／７章４話／７章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ゾイドをクロスオーバー出演させるアイデアは旧ＯＷ企画の初期からあったが、
本家が地球外の植民惑星を舞台にしているため、どう絡めるかはしばらくの間議論があった。
（近年は地球産のゾイドを登場させるアニメシリーズがあるが、初期の設定とはかなり世界観が変わっている）
結果としてゲームにもなった『ゾイドインフィニティ』や『ゾイドジェネシス』の設定を１部アレンジして、
時空震で飛ばされてきたという設定になっており、主な登場人物は飛石氏のオリジナルである。
“ゾイドクロスオーバー編”の事実上の主人公であるイズキとライガーゼロを、東京で暴走させたのはG-maの案だ（をぃ）
尻尾を含めて全長20m余り、重量80トン（金属の塊として考えると軽過ぎる気がするが^^;）のライガーゼロは、
ちょうど新幹線の先頭車両ほどであり、それが暴走状態で走り回るとどうなるかを描くことで、
ゾイドという“戦闘機怪獣”を現代の人間社会に登場させることの意味を強調する狙いがあった。
人的被害をゼロにしたのはご都合主義だが、ここで死人を出すのも何か違う気がしたのは確かである。 |
