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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130720D）【投稿エピソード】 |
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日向灘の海上に出現した“謎の島”の沖合に停泊する海自護衛艦“しぐれ”。
その艦尾ヘリ甲板に、小さな翼しかない暗緑色の飛行物体が着陸していた。
防衛隊が誇る１３式ホバージェット飛行艇“閃鮫”。
ヘリコプターと同等の輸送力を持ちながら、その墜落リスクを大きく軽減した防衛隊の最新鋭機だ。
Ｇフォースが保有するＧＦ０７“サンダーバード”と類似の機能を持つが、
武装が施されたサンダーバードと違い、あくまでも兵員や機器の輸送に目的が特化されている。
閃鮫はとある“要人”をこの艦に、そして謎の島へ運ぶために使われた。
先ほどその人物を島に送り込み、艦に戻ってきたばかりである。
しぐれに乗り込んでいる海上自衛官たちが、ローターのない四角い飛行艇を、物珍しそうに眺めている。
いや自衛官たちだけではない……しぐれを護衛する、海保巡視船の乗員たちも同様であった。
数人の海保職員が、しぐれの甲板にたたずむ閃鮫を見ながら、ぼそぼそとつぶやく。
「うちにもあんな機体があればなぁ……」
「海難救助とか便利そうだよなぁ」
「でも真下の風とか熱とか凄そうじゃないかな？ ハリアーとかと同じ方式だろアレ」
「「あぁそうかー」」
甲板で会話していた職員たちは、同時に盛大な溜息を吐いた。
因みにしぐれの艦尾ヘリ甲板には、海上防衛隊の非常用耐ジェット装甲パネルが貼られている。
あくまでも非常用のため、数回程度の離着陸にしか使えないが、装甲化されてない甲板にも使えるのだ。
厚みは３ｃｍに満たないものの、宇宙船の耐熱パネルにも使われる素材が採用されている。
怪獣の熱線攻撃などからダメージを軽減するために、艦体側舷にぶら下げられることもあるという。
これは戦車のリアクティブアーマーの概念を応用したものだ。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第７章 無機物の生命体たち ★
2013年7月20日―日本・日向灘其の２
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十数時間前に先遣調査隊が発見した“火山島”の中央盆地にある、謎の大規模な軍事施設。
その入口前に、数台の軍用車が停まっている。
海自が保有するエアクッション艇に装備したオフロードカーだが、今使っている隊員の半数は防衛隊員だ。
先遣隊に同行していた者に加え、閃鮫に乗って本土から来た者たちである。
謎の軍事基地で発見された“巨大な機械獣群”をより詳細に調査するため、部隊が増員されたのだ。
隊員たちの１部はすでに展開し、盆地内に打ち捨てられている“残骸”を調べ始めている。
既に日は西に傾きかけており、外輪山の影が盆地に大きな暗がりを作り出しつつある。
そんな“調査部隊”の中に、軍服姿ではない銀髪の青年が１人――アイレスだ。
先遣隊に参加したＧフォース科学部の河峰の報告を受け、助言を求められて来たものである。
アイレスがオフロードカーから降りて基地に向かって歩いて行くと、基地の前で作業服の男が手を上げた。
軍服ではないが、軽く迷彩模様が入った作業服……肩にＧフォースの紋章が縫い付けられている。
「アイレス大使、こちらです！」
アイレスが小走りで河峰の元に駆け寄ると、河峰が“調査隊長”の八重山を紹介した。
「アイレス大使、こちらが海自の八重山一尉です。八重山一尉、こちらがアイレス大使です」
「初めまして。クロム・リグ・アイレスです」
「こちらこそ。八重山時史一等海尉です。 えぇと確か……その……宇宙から来られたとか？」
「えぇまぁ、そうですね」
考えようによってはこれも“宇宙人とのファーストコンタクト”なのだが……今は余韻に浸る時ではない。
アイレスを調査部隊に迎え入れた八重山たちは、すぐに基地の中に足を運んだ。
「アイレス大使、何か感じますか？」
「そうですね……第１に空気が違うようです……土壌の所為かも知れません」
「おぉ、さすが鋭いですね大使殿。 確かにこの島の土壌には多量の金属イオンが含まれているようです。
自分も最初は気付かなかったのですが、後でどことなく空気が鉄臭いと感じました」
「宇宙にこういう土壌を持つ惑星などは他にあるのでしょうか？」
「金属イオンの濃度が高い惑星自体は、それほど珍しくはありませんよ。
とりわけカリオス・センターと呼ばれる宙域の近傍にある天体はその率が高いと言えますね」
「では、この島はその宙域から転送されたものだと？」
「それはまだ何とも……」
非常事態合同対策本部（非対本部）及び防衛省特殊事態調査部門（防衛特調）の“周知徹底”により、
彼ら“宇宙の使者”から得られた混迷の背景――次元融合とその可能性や危険性については、
個々人の理解の程度はともかく、すでにある程度組織内に浸透している。
そのため、関係者によっては河峰のように、“異世界からの転送”も今や想定の範囲内にあるのだ。
基地の中に入ったアイレスたちは、そのまままっすぐ、中央の“格納庫”に向かった。
島の強い磁場の影響か、通信機が上手く動作しないため、要所に隊員が立って、順路を誘導している。
やがてアイレスの視界に、広大な空間と――多数の“機械獣”たちの姿が入った。
ドーム球場ほどもある広大な格納庫は、八重山の部下が入れた電源によって明るく照らし出され、
メタリックな動物型の兵器群が、何十機も静かに佇んでいる。
「はぁ……これはこれは。間近で見るとこれまた凄い迫力ですねぇ……」
「この部屋だけではなく、他にも幾つか同じような部屋がありまして、そこにもやはり、
これらと同じようなものが多数発見されました……これは一体、誰が何の目的で作ったと思われますか？」
「まだ現時点では断定できませんが、非常に興味深いものですね……まぁ１つ言えるとすれば、
これらは１種の“サイボーグ”であり、他の動物を模して作られたものだということでしょう」
「えっ……サイボーグ、ですか！？」
アイレスの言葉を聞いた河峰と八重山は目を丸くした。
無理もない……目の前に見えている“兵器群”は動物に似ているが、ディテールはロボットそのものだからだ。
しかしアイレスは“相棒”パドルと同様、この“機械獣”たちの実態をある程度、感知できていたのである。
「ボディの内部に大きな生体反応を感じます。確かに大部分は人工的なものですが、
心臓や脳とかそういったものが凝縮されたような器官――要するに“生体コア”があって、
それをああやって機械の体に移し変える事で作ってあるものみたいですね」
「えっ……と、いうことは……まさかこれで“生きている”のですか！？」
「えぇ、恐らく“冬眠”のような状態ではないかと。起動すればすぐにでも蘇るでしょうね」
「これで生命体だとは……驚きですな」
「そう言えば、立川で起きた事件の首謀者も、金属で出来た生命体だったと聞きましたが……何か関連が？」
「今はまだ分かりません……ただここの“彼ら”も、平和的な目的で作られたようには見えません」
「それは確かに……奥の首長竜のような機体など、まるで戦艦のような大砲を持っていますしね」
「コクピット状のパーツを持っているので、操縦出来る可能性がありますが、昼に東京で起きた事件もあるので、
頭部は出来るだけ弄らない方が良いかも知れませんね」
「了解しました」
昼に東京で起きた事件――というのは、江戸川区に出現した“白亜の機械獅子”事件のことだ。
事件が起きた時、アイレスはすでに島に赴く準備を始めており、彼も彼に同伴する防衛隊の関係者も、
この人騒がせな機械獣暴走事件を後から知ったのである。
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「ところで八重山一尉、この施設の制御室は見つけたのですか？」
「はい、こちらになります」
八重山はそう言って、アイレスを上の階へと案内した。
それは先刻、八重山の部下が電源を入れた部屋と同じデッキにあり、
広大な格納庫を見下ろす位置に、軍艦のＣＩＣを思わせる大きな部屋があった。
部屋にはすでに防衛隊と自衛隊のエンジニア達が大きな解析用の機器を持ち込んでおり、
恐らくは基地のデータベースサーバーであろう、巨大な箱型の機器に向かい合って、
データの抽出およびそれらの解析作業に当たっていた。
「進捗状況はどうだ？」
「はい。幸いというか何というか、この施設に使われているシステムには互換性があるようでして、
解析作業は順調に進んでいます……コンピュータ言語まで互換性があったのは驚きですね。
あ、例のロボット獣のデータも幾つか見つけましたが、ご覧になりますか？」
「おぉっ、でかしたぞ！ 早速見せてくれ」
八重山の指示を受け、自衛隊のエンジニアが解析機につないだラップトップのディスプレイに、
コピー＆ペーストしたロボット獣――ゾイドの情報を投影する。
「そう言えば、この基地の言語は“英語”のようですね？」
「そうなんですよ。だから最初は、他国の秘密基地かと思ったのですが……」
「この世界のものでなくても、転送された“元の世界”が別世界の地球だった可能性もありますね」
「そうですねぇ……」
間もなく――ディスプレイに“機械獣”の名称と、解析に成功した簡単な仕様が表示されていく。
その情報によれば――
格納庫の入口近くに鎮座する２脚の“メカゴジラに似た”機体の名は“ゴジュラス”。
大破して基地の外に放置されていた犬に似た機体は“コマンドウルフ”。
ライオンの鬣（たてがみ）を青く固めたような機体は“シールドライガー”。
やや小型の２脚恐竜を思わせる機体は“ガンスナイパー”。
重装甲でゴリラを思わせる大型の機体は“アイアンコング”。
やはり重装甲で長い牙を生やしたトラのような機体は“セイバータイガー”。
他にも様々な機種の名称が表示されており、“機体数”が分かるものもある。
まだ解析途上で全ての情報が明らかになったわけではないが、現時点でも優に数十機以上があるようだ。
「……う〜む、しかしこれらは一体どういうモノなんだ？」
「どういうもの……と言われましても、まだそれは解りません。ただですね――」
「――ただ？」
「これらのロボット獣について調べていますと、“ある単語”がよく目に付くのです」
「Ｚ・Ｏ・Ｉ・Ｄ・Ｓ……“ゾイド”ですか」
ディスプレイを見ていたアイレスが、ふと呟くようにその“ある単語”を口にする。
「ゾイド！？ 大使はご存知なのですか？」
「いえ、残念ながら。ですが、もしかしたらこの“種族”の名称ではないでしょうか？」
「種族……ゾイド……ですか」
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「すいません八重山隊長、アイレス大使殿、こちらへ来てください」
その時ふと――別のデータサーバーの解析を行っていたエンジニアから声がかかった。
こちらは防衛隊の関係者のようだ。
「今度はどうした？」
「はい、これをご覧下さい」
ディスプレイには地図のようなグラフィックが投影されている……中央に特徴的な記号がある。
グラフィックの端には見慣れたアルファベットで“マナウィ”と記載されていた。
「どうやら、この海岸線は我々がいる島のようだ……衛星レーダーの情報とも合う」
「この島の名前は“マナウィ”というのですな。この記号は恐らくこの基地の座標を示すマーカーでしょう」
「失礼、マップを少し横にずらしていただけませんか？――そのカーソルで動かせるのでしょう？」
「あっ、はい、分かりました」
「アイレス大使、どうなされたのですか？」
「そう……そしてそこで縮尺を上げてください」
アイレスの指示に従って、技術者がマップを操作する――すると。
“マナウィ島”の横に、はるかに大きな島の海岸線が映し出されたではないか。
全体で“マヴィノ”と記されたこのマップには、“プリデリー”という佐渡島ほどの本島が存在し、
それにこのマナウィ島だけでなく“グイディオン”や“リアノン”と表記された島々が付随するという、
意外な全体像が映し出されていたのである。
「なっ……どうなってるんだ！？」
「恐らくこの“エリア”の全体像でしょう」
「し、しかし大使殿、この島の周囲にこんな島は存在していなかったはず……！」
そうなのだ……地図に記されたような“群島”は、衛星レーダーでは捉えていない。
今この基地が存在する島が“マナウィ島”なら、隣の島が“グイディオン島”だと分かる程度だ。
しかし地図には明らかに小豆島サイズのグイディオン島より大きな島があるのである。
「はっきりしたことは分かりませんが……この群島は“別々の座標に飛ばされた”可能性があります。
八重山一尉、海保船のソナーによる音波探査の結果を見られましたか？」
「あっ……そ、そう言えば……！」
何かを思い出したような八重山と河峰に、アイレスは頷いて見せた。
「島の南東岸の海底斜面がまるで“切断された”ように落ち込んでいたでしょう。
地図ではこの先に“プリデリー島”があることになっています」
「た、確かに……」
「それに、わずかですがこの基地の床は南東に向かって傾いている。
島の重心が変わって、南東側が沈降したのだとすれば、説明が付きますよね？」
「では……残りの島は一体どこに？」
「そこまでは私も……ただ１つ言えることは、別の島にも同じようなマーカーが見られることです。
この群島全体が、このサイボーグ――つまり“ゾイド”を格納する、軍事要衝だったのかも知れません。
もしも地球の別の場所に、これらの島が転送されているとしたら――」
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アイレスがそこまで言いかけた時だ。
突然ズン、という地鳴りと共に地面が持ち上がり――左右にぐらぐらっ、と揺れた。
「地震だ！」
「震度は――３くらいか！？」
揺れは間もなく収まった。
ただ震源は浅かったらしく、制御室の窓越しに、
細長い首を持つ機械獣の頭部が、木の幹のようにゆらゆらと揺れているのが見える。
背が高く、細長いものほど地震の時にはよく揺れる……高層ビルと同じだ。
「そう言えば……ここは日向灘なんだったな、忘れかけていた」
東海地震や南海地震の巣で知られる南海トラフの延長に、日向灘はある。
南西諸島海溝に連なるプレート境界の１部であり、過去に何度もＭ７級の地震を起こしてきた海域だ。
Ｍ５〜６程度なら毎年のように起きている、活発な地震帯でもある。
「念のために被害がないか調べるように……盆地だから、津波の心配はないと思――」
八重山がそこまで言いかけた時――再び大きな音が基地内に響いた。
余震かと思われたが……実はそうではなかった。
「これは――余震？」
「いや、音が近いぞ……揺れも少ない」
「八重山一尉、すぐに調査班を招集してください！」
「大使殿！？」
「これは――地震ではありません！」
間もなく――八重山の通信機に緊迫した声が飛び込んできた。
島の磁場の所為で雑音が多いが、隊員は動揺している様子だった。
『隊長、機械獣の１体が暴れ出しました！ 隊員の１名を頭部に乗せたまま、隔壁を破って外に！！』
「何だと、アレが動いたというのか！？」
「なんて事だ、大使殿の危惧が現実に……！！」
アイレスたちはすぐに制御室を出て、格納庫の外に飛び出した。
格納庫の外には、基地の正門から格納庫に続くルートに大きな広場がある。
周囲にも様々な施設があり、屋外での中心的な場所なのだろう。
大きな扉の横にある“勝手口”から広場に出ると――にわかに大きな影が視界を遮った。
見上げるような暗緑色の巨体に、四角いパネルを背中から生やした４脚の機械獣。
その姿はちょうど、有名な剣竜類のステゴサウルスに似ている。
先ほど制御室のサーバーから得た情報にも記されていた、“ゴルドス”という名の“ゾイド”である。
地響きを立てながら、ゴルドスは広場を歩く……頭部全体が、オレンジ色のキャノピーで覆われている。
隊員たちが銃で威嚇するが、相手は戦車よりはるかに大きく、まるで相手にならない。
先のデータベースが正しければ、このゾイドは全長30m以上、体重も200トンに迫る“大型機”なのだ。
人類が知る限り、陸を動く車輌でここまで大きなものは数えるほどしかあるまい。
しかもその背中には細長い砲身が光っている……まるで歩く軍艦のように。
「隊員の１人が起動スイッチを誤って押してしまったようで……」
「言わんこっちゃない……！」
「それでその隊員は？」
河峰の言葉に、隊員は冷や汗を流しながら、ゴルドスの頭部を指さした。
光の屈折ではっきりとは分からないが、確かにキャノピーの中に人間の足が見えている。
「あいつはどうなってるんだ……中から止めることはできないのか！？」
「意識の反応を感じません、気を失っているようですね、頭から転落したのでしょう」
「くっ、このままでは施設の外へ出てしまうぞ！」
ゴルドスはそんな彼らを尻目に、基地外に向かって進行を続けている。
いくら閉鎖された島とは言え、人を乗せたまま行方をくらませられては始末に終えない。
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その時だった。
――止まれ！！
アイレスが何とかしようと、ゴルドスの方に向かおうとしかけて――ふと足を止めた。
ゴルドスも“何か”に気付いたらしく、歩みを止める。
アイレスは基地に向かって急速に接近する、何者かの気配を感じ取っていた。
「ん、どうしたんだ……？」
気配はやがて重く、リズミカルな“音”として、八重山や河峰たちにも感じ取れた。
獣が走っているようなリズム感だが、より大きく重い……木々の枝が折れるような音も混じっている。
呼応するように山林がざわざわと揺れ始めた次の瞬間――何かが基地の前に飛び出した！！
「こっ、今度は何だ！？」
それはゴルドスに似たディテールを持つ、４足歩行型の“ゾイド”であった。
データベース内にあったライオン型ゾイド“シールドライガー”にも良く似ているが、微妙に細部が違う。
青白黄色のトリコロールのボディ、まさに獅子とも言うべき立派な鬣状の刃で覆われた頭部、
そして何より眼を引くのは、背中に担いだ“太刀”のような剣であった。
その機械獣はフェンスを飛び越えて敷地内に侵入すると、あっという間にゴルドスの前に立ちはだかった。
尤も、これに驚いているのはゴルドスではなく今この場にいる人間全員である。
「また何かの機体が暴走しているのか！？ そんな次から次へと……」
「いえ、待ってください。新手の方は何か違います。それに……」
新たに現れたライオン型のゾイドはまるで、ゴルドスの進行を食い止めるかのように、ゴルドスの前からほとんど動こうとしない。
一方のゴルドスの方もまるで肉食獣に睨まれた草食獣のように、足踏みするような動きしか出来なくなった。
そんな一触即発の状況下であったが、１人アイレスはライオン型ゾイドの方に、違うものを感じていた。
さっき響いた声、そして――ライオン型ゾイドに収まるもう１つの生命を。
「止まるんだ――ここにお前を脅かす者は居ない」
ふと、“何かの声”がまた響いた。
しかも今回はアイレスだけではなく、現場にいる全ての人間が聞こえていた。
「……？ 今のは大使殿ですか？」
「いえ、違います。今の声は――」
ライオン型ゾイドはゆっくりと、ゴルドスの方へと歩み寄る。
しかし突如ゴルドスは大きな咆哮を上げ身震いした――まるで興奮するかのように。
それと同時に、背中に装着された細長い砲身が唸ったかと思うと、轟音と共に砲弾が発射された！
その場に居た一同に一瞬絶望のようなものが走ったが、ライオン型ゾイドはその砲弾が発射された瞬間、
まるでコマのようにボディを回転させ、発射された砲弾を“弾いた”のだ。
軌道を変えられた砲弾が、淡い光跡を残して空に消えて行く。
回転を止めたライオン型ゾイドの背中には、長く伸びた太刀が光っていた。
呆然とする一同であったが、ライオン型ゾイドは反撃に出る事無く長い太刀を素早く折り畳むと、
再びゆっくりとゴルドスへと近づいていく。
「ま、まずい。あの中にはまだ隊員が……！」
「待ってください、あちらの方には敵意を感じません」
ライオン型ゾイドはゴルドスのすぐそばまで来ると、頭をゴルドスに擦り合わせた。
まるで――猫が自分の子供を愛でるように。
「もう――大丈夫だ、怖がらなくて良い」
三度、謎の声が響く。
どうやら謎の声は、あのライオン型ゾイドから発せられているようだ。
するとゴルドスはゆっくりとその場に足を畳んでへたり込み、さらにコクピットのキャノピーを開いた。
「よ、よし、今だ！ 中に居る隊員を救出しろ！！」
このタイミングを見計らって隊員達がゴルドスの頭部に駆け寄り、
コクピットで気を失っている仲間を引っ張り出し、そのまま機体から離す。
それを見届けたライオン型ゾイドは、踵を返して立ち去ろうとした――が、それをアイレスが制止した。
「待ってください」
アイレスの良く響く声に、ライオン型ゾイドは足を止める。
「彼を助けて頂いた事に関して改めてお礼が言いたいのですが、降りてきて下さいませんか？
お互いに聞きたい事もあるでしょうし、私も是非貴方とお話がしたいのですが」
そう言われて、ライオン型ゾイドはじっ、とアイレスの方を見る。
すると――ライオン型ゾイドの頭部がぐっと持ち上がり、中から１人の幼さの残る少年が出てきた。
その場に居た防衛隊員の間でにわかにどよめきが起こる。
「貴方があの機械獣を止めたのですか？ あれを武力を使わずに止めるとは凄いですね」
しかし――そう言われたその少年の答えはやや意外のものであった。
「僕じゃないよ。止めたのは“ムラサメ”だよ。ねぇ、ムラサメ」
「ムラサメ……ですか？」
「そうさ、こいつの名前」
「この機体が……？ それはどういう事ですか？」
いくら“ゾイド”が生命体といっても、操っているのは“パイロット”、
つまりここではまさにこの少年ではないのか、という疑問を抱いたアイレスであったが、
彼自身もこのライオン型ゾイドが、ここにある他のどの機械獣とも微妙に違う事は何となく感じていた。
するとまたしてもあの声がすぐそばから響いてきた。
「あやつは怯えていただけだ。別に敵意が有ったわけでは無い」
「「き……き……機械獣が……喋ったぁ！？」」
なんと、声を発していたのはゾイドの方であった。
あのゴルドスを宥め抑えたのはこのゾイド自身の行動だったのである。
「なるほど――まさかとは思いましたが、やはり“彼自身”の言葉でしたか」
驚愕の展開にほとんどの人間が言葉を失い、アイレスもこの事実に些かながらも衝撃を禁じ得なかった。
おまけに八重山たちは、立川基地に駐屯している、ガンバインなどオーディアンの有志たちが、
この「太刀を持つゾイド」と同様に「人語を発する機械生命体」であることをまだ知らないのだ。
当事者である少年と、彼が乗ってきたムラサメと呼ばれたライオン型ゾイドだけが、
そんな彼らの反応をそれこそ意外なような感じで見ていた。
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東京都・江戸川区・某所。
日が西に傾く夏の夕暮れ時。
江戸川警察署内の取調室で、１人の青年が聴取を受けていた。
数時間前――区内で“暴走事件”を起こした当事者の１人、イズキ・ティアリスである。
「だ〜か〜ら〜アレは俺のライガーゼロがその……ビビったと言うか何というかその所為で暴れただけで、俺が操作していたのではなくて……」
「そうじゃなくて、君とアレはどこから来たんだと聞いているんだが！？そしてあのロボットは何なんだ！？」
「もう、何度も言ってるでしょお！？ あれはライガーゼロっていうゾイドで、
俺はマヴィノ諸島でゾイドの試合をしてたら変な銀のゾイドや黒いゾイドに襲われて、
次に変な嵐に巻き込まれて、んで気がついたらあそこにいた訳で！！」
「それが分からんと言ってるんだ！ マヴィノとかゾイドとか何の話をしているんだ！？もう一度聞くが、お前はどこから来たんだ！？」
「そもそもこっちがココがどこなのか知りたいっすよ！？ ここ何大陸のなんて都市！？」
「ここは日本の東京だぞ！ それともお前はアメリカかオーストラリアからでも来たというのか！？」
「それこそ聞いた事無いですよ！ だいたいニホンってどこ！？」
「日本を知らん！？ そんなはずないだろう、冗談も大概にしろ！ いっそ薬物検査でもした方が――」
２人の会話は全く噛み合わず、平行線を辿っていたその時、取調室に１人の背の高い金髪の男が入ってきた。
その男――パドルを目にしたイズキは顔色を変えた。
無理もない……暴走する“ライガーゼロ”を実質的に止めたのは彼なのだから。
「あっ、あんたあの時の！！」
「貴方は……？」
「失礼、自分はこういう者でね」
そう言って、パドルは取り調べを行っている刑事に名刺を差し出した。
「……『防衛省特殊事態調査部門・特別調査官ヤヌス・パドル』？？？」
「今朝、防衛省と警視庁から通達があったと思いますがね？」
「……あぁ、貴方ですか、“常識を超えた事件に対処する専門家”ってのは」
「まぁ、そんなとこです……彼の聴取、引き継がせて頂きたいなと思いましてね」
４０代後半ほどの刑事は、パドルを胡散臭そうな目で見上げるが、警視庁の通達となれば断れない。
刑事は渋々、席を立ち上がった。
「あとしばらく、席を外して頂けるとありがたい。場合によっては機密に関わる情報もあるのでね」
「まぁ……良いでしょう」
刑事が渋面のままパドルの横を通って、取調室を出ようとした――その時。
「ご心配なく。隠蔽しようってんじゃない。あんたが理解する準備があるなら、そのうち話すよ」
刑事の耳元でぼそり、と呟いたパドルに、刑事は思わず目を丸くした。
振り向いた瞬間、思わせぶりににやっ、とパドルが笑う。
刑事が取調室を出て、部屋には２人の男――イズキとパドルが残った。
刑事が立った椅子にゆっくりと腰かけるパドル……椅子のバネが巨体にかすかな悲鳴を上げる。
「あ〜……あん時ゃどうも……」
「いや、気にしなくていい。それよりも君の名前と……それと君の生まれを俺に教えてくれないかな？」
「えっ、あぁ、俺の名はイズキ・ティアリス。生まれは東方大陸の◎×▽って町で……それが何か？」
「そうだなぁ、あと君が住んでいる星とか？」
「星って……“Ｚｉ”に決まっているじゃないですか、惑星Ｚｉ。 常識でしょ……？」
（やはりな、こいつ“地球人”じゃない）
この時、パドルの疑念は確信に変わった。
彼は異星人だと、しかも彼自身ここが“別の星”だと気付いてはいないという事に。
パドルが活動している“銀河社会”で生命種族を分類する概念の１つ“系統種”の枠組みでは、
彼はアークス――つまり地球人類の近縁と考えられるが、
イズキから感じられる存在場――魂の波長も、地球人類とは微妙に異なっている。
次元融合の余波で開いた“空間の穴”に巻き込まれ、“世界を越える”ケースは今や珍しくないが、
何光年離れているかも分からない遠い異星から“飛ばされてくる”ケースは極めて珍しい。
彼が言う“惑星Ｚｉ”も銀河社会に登録はなく、銀河社会に進出はしていないということなのだろう。
「そうかい、ありがとう。所で、君が乗ってきたあの機械獣だけど……あれなんて言うんだ？」
「ライガーゼロの事っすか？ あれ今どこに置いてるんですか？
あの、せめて没収だけは勘弁してくれませんかね、ホントお願いします」
「まだ一応現場に置いてあるぞ。こっちはまだ動かし方を知らないんでね。そんなに大事なもんかい？」
「そりゃそうですよ！ 俺達ゾイド乗りにとってゾイドは命と同じくらい大事なんですから！ それに――」
「ゾイド？ お前の機械獣はライガーゼロじゃなかったのか？」
「いやだからあのゾイドがライガーゼロって言うんですよ！！
ホントにもぉ、だいたい何であんたら、ゾイドの動かし方も知らないんですか！？」
今日、何度か同じことを喋ったのだろう……常識が噛み合わず、イライラしている様子が伝わってくる。
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「……まぁ、君の話はだいたい解ったよ。今日はこの辺にしておこう。
また近いうちに君や、そのライガーゼロの事を聞かせてくれ。それじゃ――」
「あっあの……俺には弟と友達が居るんですけど……そのえっと……」
「ん、そいつらを知らないかって？ ふむ……悪いがまだそれらしい子達は見つかってないな。
取り合えず俺の知り合い達にも探すよう言っておくよ」
そう言ってパドルは取調室を後にした。
間もなく彼は懐からスマートフォンを取り出すと、どこかへと連絡を取り始めた。
「もしもし、“特調”のパドルだ、黒木室長を――――あぁ、特佐。江戸川区で確保した少年の件ですが、
やはり地球人ではないですな。尤も、彼も自分が別の星にいることは知らないと見える。あぁご心配なく。
単なる暴走事故ですよ、人命に関わってなかったのは本当に幸いですな」
『そうでしたか……まぁ謀略的な裏がなければ、確かに幸いだったのでしょうね。 あぁそれから――』
電話の相手は、立川基地の黒木特佐だった……パドルは廊下を歩きながらなおも話し続ける。
なお傍受されないように、通信時には暗号フィルターがかかっている。
「移送ですか、目黒の基地に？――ふむ、了解しました、後で手配しましょう。
自分は先にサイトＧに戻ります――っと、そうそう、どうやら彼には仲間がいるようですね。
同じ異変に巻き込まれたようなので、地球のどこかに飛ばされたことも考えられます――では、これで」
パドルは一通り通話を終えるとスマホを切り、そのまま警察署を後にした。
すると１台の青いスポーツカーが走って来てパドルの前に停まり、ドアを開けてパドルを迎え入れる。
「おう、迎えに来てくれたのか、悪いな」
しかしその車には運転手はおらず、パドルも運転席ではなく後部座席に座ったが、車は勝手に走り出した。
「おぃおぃフィンラット……道を走る時にはちゃんと運転手映しとかんと怪しまれるぞ？」
すると――誰もいなかった運転席に、サングラスをかけた若い青年の姿が出現した。
しかし、この青年は決してこの車の運転手ではない。
これは“オートロン”が他文明の乗り物に擬態する時に使う偽装用のホログラフィックであり、
要するに“彼”はオーディアンの有志の１人、フィンラットのビークル形態なのだ。
立川基地での戦闘時にはオレンジ色のスポーツカーに擬態していたが、実は彼は外装の色を変えられる。
元々スポーツカーなどに擬態できるように、他の物体をスキャンする能力がオートロンにはあるため、
フィンラットはその能力で時々“衣替え”を行うことがあるらしい。
衣服という文化のないオートロンにとっては、これがファッションのような感覚なのだ。
走り出してからすぐ車内のカーナビから声が響き、パドルに話しかけてきた。
「すいませんね、俺どうもこーゆーのかったるくて……隊長もいきなり言うんだもんなぁ。
っていうかパドルさん、飛べんならそれで帰ったら良いんじゃね？」
「さっきは緊急だからそうしたけどな、アレ結構疲れるんだぞ、俺はアルティランとは違うんだからよ」
「いや〜しかし、大捕り物でしたねぇ今日のアレは。ちょっとヒヤヒヤしましたぜ」
そう――フィンラットはライガーゼロを確保するための誘導ミッションに途中参加している。
上空から誘導したＧフォースのサンダーバード部隊と違って陸上からの誘導であり、
猛スピードで鼻先を駆け抜けていったライガーゼロを目撃しているのだ。
カーナビにはフィンラットのロボット形態がアニメで投影される……ガンバインと同じだ。
こちらも“青色モード”であり、心なしかオレンジの時よりもキザっぽく見える、チャラ男かお前は。
「んで――“そっち”はどうよ？」
「ん〜……ディスヴェリオンの奴ら、最近都内をちょろうろしてるようですぜ。
あいつらが何企んでるのか知んねえッスけど、俺らも追跡しようにも手が足りなくてねぇ〜」
「あいつら、まだ何かを探しているのか……？ 何かその場所に共通点は……？」
「共通点っても公園だったり公道だったりで、ちょっと開けた場所って事ぐらいですかね。
立川だけじゃなく今度は目黒や練馬の基地辺りでも反応があったらしいとか、あぁファルレーンがね」
「目黒と練馬か……帰ったら特佐に伝えておくか――他の仲間は今何している？」
「え〜っと、マクスレッジとアリシェイルはいつも通り立川基地に待機で、
ファルレーンはその立川基地の周りを巡回中、んでハンプトンは府中の航空基地。
隊長は今頃は、中央区辺りをパトロールしてるんじゃないかな？」
「……そうか、お前等も少ない手勢で大変だな。もしキツイと思うんだったら増援も考えた方が良いかもな。
こっちも事によっちゃ、他の奴も呼ぶ事になるかも知れないしなぁ」
「へぇそっすね、隊長にも伝えておきますよ」
パドルを乗せた青いフィンラットは荒川を渡り、いつもの立川市の方角へと戻っていく。
しかし、彼らがいなくなった江戸川区にて――路上に駐車してあった無人の車が何台か次々と動き出し、
何かを探し回るかのように道を巡り巡って行った。
……いや、“彼ら”は何かを探しているのではなく――見定めていたのだ。
これから呼び込む“戦禍”の扉を開ける場所を。
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| （７章６話／８章１話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ゾイドをクロスオーバー出演させるアイデアは旧ＯＷ企画の初期からあったが、
本家が地球外の植民惑星を舞台にしているため、どう絡めるかはしばらくの間議論があった。
（近年は地球産のゾイドを登場させるアニメシリーズがあるが、初期の設定とはかなり世界観が変わっている）
結果としてゲームにもなった『ゾイドインフィニティ』や『ゾイドジェネシス』の設定を１部アレンジして、
時空震で飛ばされてきたという設定になっており、主な登場人物は飛石氏のオリジナルである。
エピソードゼロ後編などにも登場したムラサメライガーは、原作では未来史とは言え普通のゾイドであるが、
本企画では人語を解するなど、神獣族に近い知性を持つ個体としてアレンジしており、
同様に会話能力を持たせているバイオ四天王などとバランスを取らせている。
なお原作では必ずしも個体を意味しないが、本企画でのムラサメライガーはトキヤが乗る個体を指して使う。
（バイオ四天王及びバイオティラノも本企画ではムラサメ同様個体として扱っている） |
