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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130802Ｉ） |
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プラズマモール１階突き当たり。
半ば瓦礫と化した吹き抜け通路の１角に、ジーラが倒れていた。
意識はあるようで、ひび割れたタイル敷きの床の上に、大の字で寝転がっている。
……背ビレはひび割れた床の亀裂に差し込んでいるらしい、器用だな。
「――大丈夫？」
そんなジーラの顔を青い顔が覗き込む……ラティスだ。
「……何とか生きてるよ、めっちゃ気分は悪いけど」
「そりゃまぁ、殺しても死なないだろうけど」
「ひでぇ」
「……思った以上に激戦だったみたいだね」
ジーラ渾身の熱線によって大穴が開いた、壁の１角を見てラティスが苦笑する。
ジーラがこれだけ“フルパワー”でぶっ放すのはかなり珍しいのだ。
寝転がっていたジーラが上半身を起こし、小さく咳き込む。
「あのトカゲ野郎――神経毒なんて持ってやがった、久々だぜあんなの食らったの」
「窒息状態であんなのぶちかましたの……余計負担になるのに」
「１発逆転するしかなかったんだよ、時間を与えてたらこっちもヤバかった」
“爆心地”には残留放射能があるため、周囲は自衛隊が封鎖している。
「で――キトラはまだ戦闘中か？」
「そうみたいだね……最上階でテロリストの指揮官と交戦中みたいだよ」
「ハイライトじゃねーか、美味しいよな〜」
あーあ、と再び寝っ転がったジーラに、ラティスは苦笑した。
「それだけ愚痴れるんなら、何も心配要らないねｗ」
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第12章 怪人たちの逆襲 ★
2013年8月2日―日本・プラズマモール事件其の９
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同じく１階奥の吹き抜け広場。
“本性”を現した死神博士――エヴィルスクライドと有志たちの戦闘中に、
突如乱入した謎の“怪戦士”に、一同の注目が集まっていた。
怪戦士は薄いベージュとグレーのツートンカラーの抽象的な装甲に身を包んでおり、
腰辺りからは長い尾が生えている……恐竜っぽいが人型でデザインは抽象的だ。
頭部は人面の面影があり、背中や鼻先からはアメジストのような結晶体が生える。
それはちょうど――東京怪獣事件で出現したある“怪獣”に、よく似ている。
「……何ぢゃねこいつは……ショッカー連合の怪人ではないようぢゃが」
「もしやこれは、“ゴーディス”の新兵器かも知れませんな」
そう言ったのは暗黒司祭だ……エヴィルスクライドは外套膜に覆われた頭を捻る。
「ゴーディスの新兵器ぢゃと？」
「研究中の“変身アイテム”が、スパイに盗まれたという事件が先日ありましてな。
確か数日ほど前にも、この近くでそのスパイたちの衝突事件があったかと思いますが」
「それが確かなら、無様なものぢゃのぅ……信頼性に響くではないかね」
「いやはや、全くその通りでありますな」
どうやら暗黒司祭は、この怪戦士のバックボーンに、関連する情報を知るようだ。
そしてそんなやり取りを眺めていた１号ライダーが、再び口を開いた。
「さて――どうするイカデビル、この新手もどうやら、お前たちの同志ではないぞ？」
「エヴィルスクライドと呼んでもらおうか、もう昔のワシではないのぢゃ」
吸盤の付いた両腕をぐねぐねと伸び縮みさせながら、牽制するエヴィルスクライド。
「つくづく貴様には失望したわ……人間のような身の程知らずが、そこまで好きかね？」
「身の程知らずはお前たちも同じだろう……人間はお前たちほどには傲慢ではないし、
平和を重んじて相互尊重し、行動を制御することも出来る」
「そうだな、強大な力を得たからと、独裁的な野心や目的のために使おうとするんじゃ、
大量破壊兵器で世界を支配しようとするどこかの独裁国家と同じだぜ？」
１号の反論に呼応したのは習志野だ……茜や福知山、陽炎や夕張もうんうんと頷く。
「強大な力を持つからこそ、責任を自覚してそれを管理し制御しなければならないのに、
帝国主義的な使い方をしようとするから批判されると、何故理解しないのですか」
「弱肉強食は自然の摂理ぢゃろうがね」
「それじゃあ――あんたは道具を持ってない肉食動物と、同レベルってことだよね。
そんなに自然の摂理が好きだったら、大海原に帰ったら、イカさん？」
結城を助け起こした茜の皮肉に、エヴィルスクライドは変色した目をぎろりと剥く。
「猛獣の力を持って道具を使うからこそ、我々は人間を超越し進化出来るのぢゃ。
それを理解しないということは、進化出来ていないということになるのぅ」
「保守的な種族は殻にこもりますからね、そして淘汰され衰退していく運命なのですよ」
「包囲されてる身で随分と饒舌じゃねぇか、自分の立場分かってんのか？」
１号の後ろで事態の推移を見守っている斉藤は、さっきからイライラしているようだ。
余りに傲慢で上から目線なテロリストたちの言い分に、飽き飽きしているのだろう。
すると、エヴィルスクライドは急に大きな笑い声を上げた。
「ふぉおっふぉっふぉっふぉ――包囲されてる身、ぢゃと？ 実におめでたいわぃ」
そう言うと、エヴィルスクライドは腰に巻いたベルトに手を当てた。
「進化しておらぬ貴様らは物忘れも激しいようぢゃな……ワシはどうやってここに来た？
そんな原始的な包囲網など、我々はいつでも自由に突破出来るのぢゃよ」
「ほぉそうかい、じゃあその自由を是非とも行使してくれよｗ」
エヴィルスクライドをやけに煽る斉藤に、ふと習志野や茜が怪訝な表情を浮かべる。
「おい斉藤１尉、少し煽り過ぎじゃないか？」
「そうかもな……けど、相手を侮った方が負けるのが世の常だろ？」
「ふぉっふぉっふぉ……良かろう人間、なら是非とも自由を行使させてもらうとしよう。
今回の革命工作を妨害した礼はいずれ、倍にして返させてもらうぞ」
そう言って、エヴィルスクライドはベルトの横のボタンを押した。
すると来た時と同じようにエメラルドグリーンの光柱が立ち上り、その姿を包み込む。
その時――斉藤は後ろ手に持っていた小さな“カプセル”を、その足下に転がした。
「何ぢゃ――！？」
そしてカプセルから閃光が煌めき、エメラルドグリーンの光を消し去ったのだ。
斉藤がエヴィルスクライドの足下に転がしたのは“波動フレア”である。
時空を越える“グランドゲート”を知るアリシェイルから、さっき譲り受けたものだ。
波動フレアは局部的に重力波を放射することで「時空転移の阻止」が可能なのだ。
もちろん人類の技術ではないが、それを知るアリシェイルが斉藤に託したのである。
脱出を呆気なく阻止されたエヴィルスクライドは、思わず硬直した。
「言っただろ――相手を侮った方が、勝負では負けるってな」
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そしてこちらは２階突き当たり。
黒い翼を持つ“ガンダム男”の飛来と陸自娘の参戦により、
ディアスたちが実質的にピンチを脱する１方、今度は木更津柚子が危機にさらされた。
突如柚子の背後の袋小路に現れたナイトラプターに、皆反応が遅れたのだ。
「その人を放しなさい、あなたは包囲されてるのよ！？」
「包囲だと！？ ははは、私がどうやってここに来たのか、お前らはもう忘れたのか？」
煽り返すナイトラプターに、今度は若菜の表情が引きつった。
陸自娘である若菜や柚子たちは、“ゲート”がどういうものかよく知っている。
しかし自分から作り出す技術はないので、相手がそれを使える場合、手が出せない。
ゲート現象に慣れている陸自娘も、パーフェクトではないのだ。
「この娘は借りておくぞ……お前らの異能、しっかりと研究させてもらうぜ。
おっとお前も手を出すなよ……どれだけ“モードチェンジ”出来るのかは知らんが、
そんな手口が、２度３度と私に通じると思ったら大間違いだ」
やはり――このガンダム男は“モードチェンジ”したガレスだったようである。
「お、おい待て、その人は――」
「黙れ小僧！ そんなにこいつが大事なら、お前が代わりに付いてくるか？」
思わず柚子を庇おうとしたディアスだが、すぐにナイトラプターに畳みかけられる。
そして更に、ナイトラプターは追い打ちをかけた。
「そこの銅像娘も興味深いが、今回は手が足りないから諦めてやるぜ。
小僧――自分がどれだけ無力なのか、しっかりその目に焼き付けておくんだな」
（ちょっとあんた、ディアス君に酷いこと言わないでよ、カラス顔のクセに！）
「何だお前、念話使えんのかよ、益々面白い……連れて行けないのが実に惜しいぜ。
あと勘違いすんな、これはツバメだ……くそ、どいつもこいつもカラスと言いやがる」
愚痴りながら、ベルトの機器を操作したナイトラプターだが、表情が変わった。
「何だおい……おかしいぞ、どうして作動しない？ 電波障害とか関係ないだろ！？」
そして間もなく――ナイトラプターは自分に意識を向ける、新たな気配に気付いた。
２階通路の向こう、吹き抜け空間に浮かぶ青い肌の神秘的な女性――ラティス。
「えっ何……うわぁっ、えっどうなってんの！？」
「こ、この人確か……」
狼狽しまくるディアスの横で、カズヤは10日ほど前を思い出していた。
ゾイド紛争があったあの日、カズヤは友人の難波哲朗と共に、ラティスと遭ったのだ。
ラティスはそのまま、風に乗るように２階通路の床に降り立つ。
ふくらはぎまで届く長い髪が、その背中でまるでマントのように揺れている。
「何者か知らないけど……空間制御だったら、ボクの得意分野だよ」
「畜生め……こんな異能者もいるのか、この世界は……！」
「さぁ――柚子さんを放してくれるかな？」
ラティスは片手を突き出しながらそう言った……その指先には火花がチラついている。
「わ、分かったよ――こいつはさすがに降参だ、お前らの勝ちだぜ」
ナイトラプターは意外にあっさりと、人質の解放に応じた。
だが――柚子を若菜に突き出した次の瞬間、猛然とダッシュをかけたのである。
「あっちょっと――この期に及んで逃げる気！？」
「誰が降伏などするか！ ついでに、そいつの代わりにこいつらを預かって帰るぜ！」
そう言ってディアスや加奈の方に突進したナイトラプターだが、ラティスが阻む。
「あんたも、往生際が悪いね！」
「あぁそうだよ、ショッカーってのはな、絶対に降伏しないんだ！」
ガレスも妨害しようとするが、大きな銃器を持つためか、余り小回りが利かないらしい。
ナイトラプターは３角跳びのように壁や天井を蹴り、そのまま吹き抜けに飛び出した。
更にそれを飛び越え、反対側の通路に着地し、捨て台詞を残して走り去ったのだ。
「覚えてろよ異能者共、この屈辱２倍いや３倍にして返してやるからな！」
ラティスはすぐさま手を突き出したが、距離を取られすぎたと判断して攻撃を諦めた。
「ホントに往生際が悪いね……まぁ、素早さだけは大したものかも」
「でも……あんなに立派な翼を持ってるのに、飛ぼうとしませんでしたね？」
「あぁ、そうだね、言われてみれば」
そんなことを言い合う若菜とラティスに、ふとガレスが無言で手を降った。
振り向くと、その手に構えている細長い“ビームライフル”をＰＲしているようだ。
それですぐに２人は、ナイトラプターに起きた事態を察した。
「あ、なるほど」
「“彼”に既に翼を撃たれていたってことか……あんたやるじゃない」
「飛べないカラスじゃ、確かに見せ場はないよねぇ」
だからツバメだってば。
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モール内で決着がつきつつあったその頃――今度は外で騒ぎが起きていた。
「何だと！？ 奴らこの包囲網を突破出来ると思っているのか！？」
新たな“異変”の報告を西村から受けた権堂が、太い眉を潜める。
モールを取り巻く駐車場に停めてあった、複数のピックアップトラックやバンが、
同時に出庫し始め、駐車場内でジグザグ走行を始めたというのだ。
見た目は普通の乗用車だったため、自衛隊も余り警戒していなかったのだが、
同時に“暴走”し始めたため、さすがにおかしいと分かったわけである。
そしてその怪しい暴走車は、モールの各所で戦闘員を拾い上げて乗せていった。
ジグザグ走行していたのは単なる暴走ではなく、戦闘員の回収のためだったのだ。
その証拠に、満員になった車両は急にまっすぐ走り始めたからだ。
だが駐車場の入口には自衛隊の装甲車が陣取り、バリケードも作られている。
更に数分前まで雑居ビルの陰で待機していたアッシュやセイナのゾイド、
レイズタイガーや凱竜騎も、突入開始と共に包囲作戦に参加していた。
ゾイドは機動力に優れるのに加え、視点が装甲車より高いので、
駐車場に停められている車や街路樹の上から、駐車場を見渡せるのである。
「何をする気か知らんが、逃がしはしないぞ！」
レイズタイガーの腹部からは、猛獣のオリのような頑丈な金網がぶら下がっている。
胴体下部にある“空間”をカバーするために取り付けた追加装備だ。
オートバイなどを使い、足下をくぐり抜けられる可能性を防ぐためである。
凱竜騎にも形状は違うが、似たような金網が取り付けられており、
２機はそのまま正面の連絡路から駐車場に入り、左右の導入路の入口に陣取った。
相手が空でも飛ばない限り、この包囲網は崩せないはずだ。
銀河のマフィア戦闘員が立川基地で暴れた時には、さしものゾイドも後れを取ったが、
ショッカー怪人はさすがに“ザイオノイド”ほどチートなわけではない。
街灯を槍のように投げ飛ばすリザードロンでも、ゾイドの相手は荷が重いはずである。
やがて暴走車は次々に合流すると、まるで列車のようにお互いを連結し始めた。
導入路の角で妨害に参加したオーディアンのフィンラットは、思わず呆気に取られた。
「……おいおい、あいつらイモムシみたいに連結して行ってるぜ」
『おいフィンラット、お前奴らをみすみす見逃したのか！？』
「無茶言ってんじゃねぇよマクスレッジ、こんな所で銃の乱射とか出来ねーっての」
やれやれ、といった表情で愚痴ったフィンラットだが、
通信機を介したマクスレッジの言葉は“想定外”の情報を彼に伝えてきたのだ。
『そうじゃない、奴らこのまま外に出るつもりじゃないぞ！』
「……どーゆーこったよ？」
『導入路の合流点に異常なエネルギー反応を認めた――“タキオン波”の反応だ！』
「――何だって！？」
マクスレッジの警告の意味を理解したフィンラットは、
すぐさまビークル形態に変形して“連結暴走車”を追いかけ始めた。
反対方向の導入路に接続している地下道からもアリシェイルが駆け上がり、
その横からファルレーンも飛び出してくる。
「アリシェイル、マクスレッジからの警告を聞いた？」
「もちろん――それだけじゃないわ、あいつら“グランドゲート”を持ってる！」
中央の連絡路につながる直線に入った連結暴走車は、更に速度を上げた。
このまま連絡路に突っ込んだら、アッシュやセイナのゾイドと正面衝突することになる。
この速度では華麗に交わそうとしても慣性の法則には抗えないだろう。
幾ら連結して運動エネルギーを増していても、ゾイドの前では応力不足のはずだが。
「隊長、奴らまっすぐ突っ込んできますよ！」
「どういうつもりだ……このまま正面衝突する気か！？」
アッシュがレイズタイガーのコクピットで眉を潜めた――その直後、
分岐した導入路の入口付近でエメラルドグリーンの光の輪が２つ、出現したのだ。
「あれは――何だ！？」
「隊長、これ……以前にも似たようなものを見た気が……」
そう――全く同じものではないが、似たような現象をアッシュやセイナは目撃している。
ゾイド紛争のクライマックス時、無人ゾイドが消滅した時の現象と似ているのだ。
『フィンラット、ファルレーン、ゲートの発生器を破壊するんだ！』
「えぇっ……いや破壊するっていったって……」
「一体どこにゲートの発生装置が……」
困惑するフィンラットとファルレーン……何しろ“発生器”が見当たらないのだ。
空間を飛び越えるグランドゲートは確かに便利な機器だが、発生器の設置が必須である。
発生器のないところに、勝手にゲートを生成することは出来ないはずなのだ。
フィンラットたちの戸惑いを嘲笑うように、暴走車の先頭が光の輪に突っ込んで消える。
連結された後続車も続々と突っ込んでいくが、その向こうには何も影響がない。
そうした“現象”と非常用通信を見聞きしていたアッシュは、ふと“何か”に気付いた。
「むっ……何かが空中に滞空しているぞ！」
「隊長、こっちも確認しました、光の輪のすぐ上ですね！」
「何かは知らないが、あれがその“発生器”かも知れん、撃墜するんだ！」
レイズタイガーと凱竜騎のレーザーガンが、光の輪の上に滞空していた物体を撃った。
すると小さい火花が散ると共に光の輪が消滅し、突入し損なった最後尾の数台が、
プレス機で押し潰されるように破壊され、１部はゾイドの足下に突っ込んで砕け散った。
大きな破壊音と共に、プラズマモール駐車場の青い空に２つの黒煙が立ち上った。
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そして再び、１階奥の吹き抜け広場。
“空間転移”による脱出を阻止されたエヴィルスクライドの、包囲がより詰まっている。
表情が良く分からないエヴィルスクライドだが、小さな歯軋りの音は聞こえた。
「忌々しい……そんなものをどこで仕入れた？ ――そうか、協力者がおったな」
「この世界も色々あってね……混乱は続いてるが、人間の適応力ってのは大したものだぜ。
さぁて、今度こそ年貢の納め時だぜ、イカ野郎」
「ふん――たった１度、妨害工作を成功させたぐらいで、いい気になるでないわ」
そう言って、エヴィルスクライドは再びベルトを撫でる。
「その程度の妨害工作で、この装置が壊れると思っているのかね？」
「そうだな……俺もそんなこともあろうかと思ってな、こっちも対策を立ててんだよ」
今度は斉藤がそう言って、腰の後ろにぶら下げていたアイテムを横に出した。
そこにはさっき投げたものと同じ“波動フレア”が、更に２個ほどぶら下がっている。
それを見た習志野や茜が目を丸くした。
「予備がない切り札を使うほど、自衛隊は無計画な組織じゃないぜ？」
「斉藤１尉……いつの間にそんなの手に入れたんだよ」
「ついさっきさ……作戦開始した時にはなかったからな、君が知らなくても仕方ない」
「おー、臨機応変とはまさにこのことだねｗ」
「まぁそういうわけだ、イカデビル……俺たちには今、素晴らしい協力者がいる」
「……エヴィルスクライドぢゃと言うておろうが」
「はっ、てめぇみたいな外道に、そんな小洒落た名前は似合わねーよ！」
１号の横でストロンガーが声を張り上げた。
「貴様も貴様ぢゃ……昆虫界最強の遺伝子を持つのに、全く活かせておらんではないか」
「んだとゴルァ、てめぇの首、今へし折ってやろうか？」
「ショッカー連合に戻れば、リザードロンのように更なる強化も可能ぢゃぞ？」
「冗談も休み休み言え、誰が好き好んであんな所に戻るか！」
「落ち着け茂、カッカするな」
「さて、世間話はこの辺にしておこうかのぅ――行くぞ、暗黒司祭」
「御意」
「おいコラ、そっちこそ学習してんのか？ 対策はまだ予備があると――」
「承知の上ぢゃ――よ！」
言うや、エヴィルスクライドは黒煙のようなガスを口から噴いた。
思わず飛び退く斉藤――しかし前に踏み出していたストロンガーはそのガスを浴びる。
「うぉっ、何だこれ、煙幕か？ そんなもん通じ――な……い……！？」
言い終わる前にストロンガーは自分の喉や胸を押さえ、がっくりと膝を付く。
「かはっ、ぐ――何、だ……胸が、苦し、い……！」
「ちっ、こいつは神経ガスか！ みんな、距離を取るんだ！」
「ふぉふぉふぉ、よく気付いたな１号、そういうことぢゃ、ワシにはまだ手がある！」
そう言うと、エヴィルスクライドは再び両手を触腕に分岐し、周囲に解き放った。
ぐんぐんと伸びる10本の触腕は、２階の手すりを掴み、本体をぐっと空中に持ち上げる。
隣の暗黒司祭も、どういう能力なのか、自らふわりと空中に浮き上がった。
エヴィルスクライドはそのまま、まるで壁を伝うクモのように登っていく。
そしてその体勢で、再び腰のベルトに触腕の１本を伸ばした。
機器が作動し、エメラルドグリーンの光がマユのようにその胴体を包み込む。
「ちっ、そういうことか！」
「気付いたかね、ぢゃが遅いな人間、そこからピンポイントに当てる自信があるか？」
「くそっ、お前ら撃て、あのイカ野郎を撃墜するんだ！」
「ふぉふぉふぉ、無駄ぢゃ無駄ぢゃ、そんなちっぽけな銃弾、このワシには効かぬよ！」
「だったら――おい、春日井！」
「あぁ、任せな！」
習志野の呼びかけに反応したのは春日井樹だ――彼女は“ミニガン”を装備している。
人間サイズに小型化しているとは言え、対人小銃とは全く威力が違う。
しかし彼女の銃口がエヴィルスクライドを捉えた直後、その銃口に何かが刺さった。
「――ぅわっ、何だ！？」
そのまま撃てばミニガンが暴発する――春日井は思わずトリガーから指を放した。
エヴィルスクライドよりも上の階を見上げると、大蛇のような不気味な影。
怪人形態の地獄大使――ソニックヴァイパーである。
その腕の手甲に装備していた吹き矢のような装備を、春日井のミニガンに撃ったのだ。
「良い反応ぢゃな、しかし会議室はどうしたのぢゃ、あの金色の異能者はどうした？」
「壁を破られて人質の解放を許した、もう占拠している場合ではない」
「全く何をしているのぢゃね……まぁ止むを得ぬ、反省会は本部に戻ってからぢゃ」
直後に３人は３階の通路辺りで合流し、そのまま光のマユに包まれて消えた。
にわかに静寂がモールを支配し、有志たちは呆然とテロリストが消えた空間を眺める。
「終わった、のか……？」
「くそ、また逃げられるとはな……だがまだ終わってないぞ、化学処理班を呼ぶんだ、
それから医療班も呼んでこい、神経ガスの負傷者が少なくとも２人いる！」
「えっ、２人って？」
１人は確実にストロンガーだろうが、他の者は距離を取って何とか回避したはず。
首を傾げた茜に、斉藤は苦い表情を浮かべて言葉を返した。
「ジーラ殿だよ……彼も敵の奇襲で負傷しているらしい、いつも頭が下がるよ」
こうして――時空を越えた籠城テロ事件は、ひとまず幕を閉じた。
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| （１２章１０話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ただし構想自体は旧ＯＷ企画打切り前からあり、想定していたアクションハイライトの１つ。
ショッピングモールでショッカー連合と異世界の有志たちが激突する展開であり、
ショッカー連合にとっては初期の“渋谷事件”のリベンジマッチとなる他、
加奈や零児といった、ＯＣＤ世界出身の少年少女たちの転機となるエピソードでもある。
ショッカー連合幹部が“空間転移”で現場を脱出し、事件はひとまず収束する。
少々グダグダな展開な気もするが、ここでテロリストを全滅させる気もなかったため、
決着は次のハイライトに回そうと考えていたのも理由である（汗）
駐車場のヒャッハー集団（違）は戦闘員組で、こちらも時空転移で強行突破を図るわけだが、
ゲート発生器を破壊されることで１部は脱出出来ずに撃破される展開になっている。
モール内では出来ない、ゾイドや装甲車といった“メカニック枠”の出番でもある（笑）
あと本文では書いていないが、この時ゲート発生器の役目を果たしたのは、
ポイズンキャリアーが運用していた“ハチ型ドローン”だったという解釈である。
また斉藤が波動フレアを使ってエヴィルスクライドの脱出を１度は阻止するという展開は、
本編執筆中に思いついた“変化球”であると同時に、オーディアンを始めとする、
“宇宙人”の援護を受けている自衛隊や防衛隊が、応用的な戦術を使うことも考えていた。
オーバーテクノロジーの再現こそ無理だが、活用することは人類にだって可能だろう。
またこうした共闘フラグの積み重ね自体、更なるクライマックスへの伏線となっている。
因みに対エヴィルスクライド戦に参加した“怪戦士”の正体は、実は剣屋明日也だ。
12章6話冒頭で行方不明になっていたフラグを、ここで回収したわけである（笑）
また彼も“変身アイテム”を獲得しているので、どこかでその能力を披露させたかったのだ。
“モードチェンジ”まで披露したガレス＝安室零児ほどに見せ場はないが、
もちろんこれは“第１歩”であり、これからどんどん、登場シーンは増える予定である。
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