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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130727A） |
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「――ここなら、天井高を心配する必要がないだろう」
幕張にある、Ｇフォース科学部の地下格納庫。
かつてメカゴジラやＭＯＧＥＲＡを格納していたところであり、
元々は深さ150mもある“大深度地下構造物”だったのだが、今はその大空間を区切っており、
50mほどの天井高の３層構造の立体ハンガーとして活用している。
今し方、言葉を発したのは格納庫の警備主任でもあるＧフォースの結城中佐。
その横に、研究部主任である北条と、超心理部主任の三枝、そして青木が立っている。
青木は正規のＧフォースクルーではないのだが、ロボット工学に通じた関係者の１人だ。
３年ほど前にメカゴジラを建造した頃には、正規のクルーだったのだが、今はフリーランスだ。
４人がガードマンと共に見守る大空間に、ゆっくりと入ってきたのはスーパーガルーダ。
全長30mを越える大型の攻撃機も、この大空間の中では余り大きく見えない。
そして――４人が見ている中で、突如そのスーパーガルーダが“変形”を開始した。
左右のエンジンブロックが折り畳まれるように下方に移動し、胴体がぐっと持ち上がる。
大型のツインメーサーガンはエンジンブロックとは独立した機構で後方へと移動し、
エンジンブロックを“下半身”へと変えた“それ”は、胴体の下部から“腕”を引き出した。
そんな光景を、青木以外の３人はそれほど表情を変えずに見ている……そう、青木以外は。
青木は驚愕の表情を浮かべている……どうやら結城ら３人は、既に“事情”を知っているらしい。
「お……おぉおぉ……」
やがてスーパーガルーダは、身長優に20m以上はある巨大な“ロボット”に変形した――そして。
「Ｇフォースの協力を感謝する……これで我々もかなり動きやすくなるだろう」
そう――この“ロボット”も、実はオートロンである。
名はガルトライザ、オートロン義勇組織オーディアンの有志であり、ガンバインの盟友の１人だ。
「感謝するなら、ガンバイン殿の方ではないかな……彼が緊急連絡せねば、こうはならなかった」
「とんでもない……中佐殿が迅速に対応されたから、今があるのだ」
その言葉と共に、話題に上がったガンバイン“本人”も、格納庫に歩いて入ってきた。
ガンバインも身長10mほどあるが、ガルトライザの前では子供のように小さい。
更にその横に、身長6mほどの、青と赤と白のトリコロールカラーを持つもう１体の“同志”。
ゾイド紛争時“お台場ガンダム”に擬態していたアレクシウス兄弟の１人、アレイコアだ。
「確かにここは広いですね……我々の待機所にピッタリだ」
因みに彼の“双子の兄”は今、ガンダムの姿に戻って博物館の中に立っている。
つまり“コアファイター”を担当するアレイコアが抜け出しても、問題はないということだ。
ガルトライザはアレクシウス兄弟の“上官”であり、ガンバインの要請を受けて地球に来たのだ。
いや――厳密に言えば、“それだけ”が来訪の理由ではなかったが。
「それで、話の続きだが……その“ブラック・リーコン”というのは？」
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第10章 力を得る者達 ★
2013年7月27日―関東其の13
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そしてこちらは、朝の金芽台。
「――等身大の“シャア専用ザク”が空を飛んだって！？」
“中２病戦隊”のリーダー、杉元晋也が後輩である海月壮太の“報告”を聞いている。
「マジッスよ、おいらの目の前で、青白いロケットを噴射してビビューンと！」
「“闇の者”にしては、随分とＳＦチックな演出だな」
「……僕たちの目を欺く作戦かな？」
晋也とその友人、山﨑光太郎は明らかに戸惑っている……これはまさに“想定外”の事態だ。
おどろおどろしい魔界の住人が暗躍している、とばかり思い込んでいたからだ。
それがいきなり、アニメのコスプレのような謎の“ザク怪人”の話が飛び込んできたのだから。
ただ壮太の話を聞く限り、素人のコスプレのレベルではなさそうである。
「私は“イエロー”がその怪人に出遭った時に、一緒にいた女の子、ってのが気になるのだけど」
因みにイエロー、というのは壮太の“コードネーム”である。
“電脳世界の監視者”などとおだてられているが、要はゲームマニアだ。
「なっ何スか、別に知り合いじゃないッスよ？」
「そうじゃないの、ピンクのセーラー服なんて、この辺りの中学校にも金芽台学校にもないはずよ。
いったいその女の子、どこから来たのかしら？」
うーん、と首を傾げるのは河奈喜代美……彼女のコードネームは“グリーン”だ。
もちろん――喜代美が話題にしているのは“花子”のことである。
壮太が“ザク怪人”を目撃した時、妖気を消して散歩していた花子も現場に居合わせたのだ。
当然５人はまだ――その“ピンクのセーラー服の少女”が妖怪の１種だとは、気付いてはいない。
ただ喜代美は、この５人の中ではそれなりに、感性が鋭いようだ。
「そう言えば、最近新しい顔ぶれの女子の姿を時々見るわね？」
「あぁ――確かにそうだな、部活動の合宿という感じでもなさそうだが」
黒っぽい服を着た少女――山城令子の言葉に、“ブルー”こと光太郎が相槌を打つ。
どうやら――こちらは、サイトＧに出入りしている、冬雪たちや陽炎たちを目撃したらしい。
「……そっちの方が怪しいのかも知れないな」
「そうねぇ、見た目は普通の女子だけど、魔力は消すことも出来るものね」
令子のコードネームは“パープル”……因みに彼女は自分を魔女だと思っているらしい。
その“見込み”はあながち間違いでもないのだが、別段何かを“感じた”わけでもないようだ。
「やはり陽動作戦ということか……ふふん、僕たちの目を誤魔化そうったって、そうはいかない！」
「鎧を着て脅かす気だったのかもね、私たちも侮られたものだわ」
「しかも青い火を噴いて空を飛んだのだろう、ならそいつも闇の者の刺客ということだ」
コードネーム“レッド”を名乗る晋也はそう言って、思わせぶりに手をかざす。
「青い炎か……さては僕の能力に対する挑戦状だな？」
彼は自分が“浄化の炎”の使い手だと思っている。
「あの怪人――“ヒートナイフ”みたいなの持ってたッスよ、大丈夫ッスかね？」
「おあつらえ向きじゃないか、僕の炎とどっちが上か……次に遭った時が奴の審判の日ってことだ！
僕の浄炎の必殺技“エグゼクションフォースフレイムバスター”をお見舞いしてやる！」
「おぉっ、頼もしいッスね！ えぇっと、そのエグいバスター！」
「“エグゼクションフォースフレイムバスター”だ！」
長いんだよ名前が、滅びの呪文バ○スを見習いなさい。
ろくろをこねるような手振りで、晋也は高笑いを挙げた……どっちかというと悪役の顔だが、
英雄の妄想に浸っている内が、至福の時なのかも知れない。
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そして立川基地。
倉庫の１角で、パドルが夕張や大宮と共に、艦娘や陸自娘の装備品をチェックしている。
実は間仕切りを隔てた隣の区画には、ライガーゼロやケーニッヒウルフが置かれていたりする。
因みに夕張も大宮も“セーラー服”ではなく、今日はダボダボの作業服姿である。
更にパドルの横にはもう１人、青い肌の女性――アトラス傭兵団のアリーナ・フィクシィだ。
“不時着”時に捻った足首は今も全快ではないが、サポーターを巻いているらしい。
「ふーん、波動能力と連動するように設計されてるのね」
「波動能力って……霊力みたいなものって、以前聞きましたけど……」
「あぁそうだ、霊力とか魔力とか、精神エネルギーの特性や効果を銀河社会ではそう呼んでいる」
夕張の質問に答えるパドル……その横でアリーナは、タブレットのような機器で装備品を見ている。
この機器は、装備品の内部を“スキャン”する機能を持っているのだ。
異世界の同志が持ち寄る装備品を整備する協力要員として、アリーナの能力はとても重要なのである。
“銀河社会”のエンジニアには、そのくらいのスキルがあるということだ。
「ザイノファイバー素子みたいなものは仕込まれてなさそうだけど……」
「代わりに彼女らの意識と共鳴するコネクタがあるはずだ、別にザイノファイバーでなくても良い」
「何なら、俺が入って調べようか？」
ふとそんな声がパドルの足下で聞こえた……そこにいたのは、ナイフを組み上げたような金属の小兵。
“第１次立川事件”でパドルが“鹵獲”したディスヴェリオンの工作兵、ステルスイーターだ。
あの事件の後、パドルが実質的な捕虜として、この小さな金属兵を監視し続けている。
その気になれば木の葉サイズに分離することも出来るが、パドルの目を誤魔化すのは無理なようだ。
頭頂部にある赤い１つ目が愛嬌あるようにも見えるが、全身は文字通り凶器の塊である。
もっともステルスイーター自身はかなり軽い性格で、元の部隊に余り忠誠心はないようだが。
「バカ言え、そう言って装備品を壊すつもりだろうお前、そのうち大宮君にバラされるぞ」
「おいおいひでぇな、不戦協定を結んだろう、それでも俺の相棒かよ」
「誰が相棒だ……第一今朝、分離したドローンで俺の寝首を掻こうとしたのはどこのどいつだよ」
「失敬だなおい、ありゃあスキンシップってやつだぜ、お互い信頼関係をだな」
「全身凶器のお前にスキンシップされたら血まみれになるわ」
実に物騒な会話をしているが、アリーナはそんなツッコミ合いを「あはははｗ」と笑い飛ばす。
傭兵団の屈強な戦士たちに囲まれてきただけあって、中々慣れたものである。
「そりゃあ、あんな鋭利な体で、繊細な装備の中に潜り込まれたら、ねぇ」
「金属製のパーツはともかくとして、細いコード類もたくさんありますからねぇ」
夕張と大宮のジト目がステルスイーターに注がれる。
そんな不信感に満ちた視線を浴びて、金属の小兵は「ケッ」と舌打ちのような仕草を見せた。
――そんな基地の“反対側”の１角に、男が１人歩いていた。
自衛隊の迷彩服を着ているが、どこか疑り深そうに、周囲をジロジロ見ながら、うろうろしている。
迷彩服には名札が付いていない……正規の隊員よりも、コスプレのように見える。
「――ヤツの気配はないか、軍事基地だから、紛れ込んでいると思っていたが……」
「おい、お前、どこの所属だ？ 見かけない顔だな――」
ふと、男の後ろから、柄の違う迷彩服の人物が声をかけた――陸上防衛隊の桂川卓也３尉である。
その言葉が終わらないうちに、男がくるりと振り向いた。
妖しいオレンジの光を放つ目に、桂川はしばし動きが止まる……男はその横を悠々と歩いて去った。
そして数秒後――桂川は我に返る、しかし……
「――あれ？ 俺、今、何やってたんだっけ？」
今さっき出遭ったばかりの妖しげな男は――彼の記憶から綺麗に消えていた。
「いかんいかん、こんなんじゃダメだ、斉藤さんに笑われる……うーん、疲れてるのかな？」
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「――キンメダイ？」
こちらは台東区の１角にある公園。
２人の少年が滑り台を囲んでいる……剣屋明日也と小堀川竜太郎だ。
先のゾイド紛争の終結から５日が過ぎ、東京は少しずつ日常を取り戻しつつある。
上野駅以南の“激戦区”はまだ封鎖されている場所も多いが、交通の１部は回復していたのだ。
「あぁ、立川市の南にあるベッドタウンだよ、そこに友人がいてさ、今度会うんだよ」
「ふーん……それがどうしたわけ？」
「相変わらず年齢不相応にクールだな明日也は……せっかく誘ってんのに」
「だってさ、竜兄の友達だろ？ 僕と関係あるの？」
因みに明日也少年は５歳年上の竜太郎を“竜兄”と呼ぶ。
「まぁ、直接は関係ないわな……けどさ、プラズマモールって言えばどうだ？」
「えっ、プラズマモールって、一昨日オープンしたばかりのあのショッピングモール？」
“プラズマモール”の名を聞いて、ふと明日也の目の色が変わった。
プラズマモール――正しくはプラズマモール多摩日野は、郊外型ショッピングモールチェーンの１つ、
プラズマックス・グループが運営する大規模ショッピングモールである。
関東最大級の触れ込みで、先日グランドオープンしたばかりだ。
予定では22日にオープンするはずだったのだが、ゾイド紛争の煽りで３日延期されたのである。
「あれって“キンメダイ”って町の近くだったんだ？」
「金芽台中央駅からシャトルバスで５分もかからないんだよ、確かでっかいゲーセンもあるし、
お前が好きそうな電器店も出店してたよな確かｗ」
「あー、だから僕を誘ったわけかｗ」
「ネットで知り合った僕の友人か、そのプラズマモールで『今度オフ会やる』って言うからさ。
まぁ……ちょっと変わり者なんだけどな、なんせ自称“魔女”だからｗ」
竜太郎のその言葉を聞いて、明日也は何故かニヤニヤして腕を組む。
「はっはーん、“魔法少女アニメつながり”で僕を誘ったわけだね竜兄はｗ」
「なんでそういう探偵みたいなリアクションするんだよいつもｗ でもお前も好きだろそういうの？」
「好きだけど……僕はテクニカルなジャンルだからなぁ」
「ま、彼女は少し古典的なタイプかな、でもアニメにかなり詳しいぞ。
……いやな、実は何日か前に、その……チャットでふと、お前の話題を出しちゃってさ……」
「えー、断りもなく僕の名前を出したの、ダメだよぉ竜兄」
「さすが警察一家の息子だな……でも、まんざらでもない顔してるじゃん。
つまり――いっぺん会ってみたいって言ってるんだよ彼女が、ミステリアスだけど可愛いぞｗ」
竜太郎のツッコミに、明日也はペロッと舌を出す。
「それで……オフ会はいつやるの？」
「それはＯＫという意思表示で良いのかなワトソン君？」
「なんでとーとつにホームズｗ」
「来月２日かな、予定が合ったのがその日らしいんだよ、まだ１週間近くあるけど」
「おー、うん良いかもね」
「明日也ならそう言うと思ったよ、当日朝９時集合な、忘れんなよ？」
……どうやら小堀川少年、あの“パープル”令子と知り合いらしい。
ネットは広大だが、ネットを通じた現実世界は、しばしば狭いものなのである、たぶん。
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さてこちらは東京湾・幕張沖に設けられた特設バージ（浮桟橋）
接岸しているのは、今朝“入港”したばかりの国連太平洋軍の“重強襲母艦”ホーネットである。
海上保安庁のパトロール艇と海上防衛隊のフリゲートが周囲を警戒している中、
ウェルドックに収容された大型の台船から、大小の“機械獣”がゾロゾロと搬出される。
そう――日向灘のマナウィ島から持ち込まれたゾイドたちである。
「おぉ……あのゴルドスは、確かに見覚えがあるな」
「えぇ隊長、確かにマナウィ研究所に置いていたゾイドですね」
バージから数百ｍほど先の岸壁で搬出を見守る中に、アッシュとセイナの姿がある。
搬出されたゾイドはここから数kmほど先にある、Ｇフォース科学部の地下格納庫に移送されるのだ。
そう、ガルトライザが立ち上がっても頭をこすることがない、あの格納庫である。
１部の小型機は、横須賀港のホバーカーゴを使って立川基地の方に持ち込まれるようだが、
ホーネットが運搬してきた全てを収容できる広さはないので、こちらに持ってきたわけである。
グスタフやゴルドスを乗せた大きなバージが、数隻のタグボートに接続される光景を見ながら、
アッシュは同行しているＧフォースの結城中佐に言葉を振った。
「ところで中佐殿、ゾイドのパイロット育成の話なんですが……」
「そうですね……今、志願者が数十名ほど集まっていますので、可能な限り早急に始めたいですね。
ハスラム殿が言われた通り、自衛隊や防衛隊の航空隊から選抜した者を中心にしています」
「ありがとう御座います」
アッシュやセイナはゾイド紛争終結後、防衛隊や自衛隊、Ｇフォースの関係者などから、
ゾイド運用のノウハウを得るために、臨時教官として関わることを要請されていた。
その際にアッシュは、ゾイド操縦システムの基本構造が、航空機と似ていることを説明しており、
ここから航空隊所属者を中心に人材を選抜し、志願を募ることを計画したのである。
厳密には違いもあるが、訓練すれば学生が操縦できる程度の難易度なので、問題は少ないだろう。
「それから、我々の別の仲間のことなんですが……」
「シュトラウド氏のことですね、インドネシア政府との折衝が終わったので、来週にも来日可能かと」
「感謝します……これでやっと“ブルーセイヴァー”が揃うな」
アッシュの部下であるグリッド・シュトラウドがインドネシアの密林で見つかったのは１週間ほど前だ。
恐竜型の大型ゾイド、ゴジュラスギガと共にたまたま、日本からの探検家と遭遇したことで、
すぐにインドネシアの日本大使館と情報をやり取りできたのは幸運なことであった。
ゴジュラスギガは海上自衛隊の輸送艦で移送され、取り合えずグリッドが先に来日する予定らしい。
こちらは非常事態対策本部ともコネを持つ、防衛特調の木乃が先日、手配を済ませていたようだ。
またイズキの“戦友”である（事件直前になったばかりだが）ゴウ・ブラウズもモンゴルで発見された。
実はゴウは愛機ブラストルタイガーで中国方面に移動しようとしていた際、
国境検問に引っかかり、足止めを食っていたところを国連太平洋軍に“保護された”という。
しかも間が悪いことに、ゾイド紛争によって天津がエナジーライガーに襲われた直後であったため、
中国陸軍もかなりピリピリしており、国連軍が身柄を確保するまで現場でかなり揉めたようだ。
天津は事実上壊滅状態に追い込まれているため、無理もないことではあったが。
「あとはシルバーク殿くらいかな……」
「そうですね……確かにまだ彼の機体が見つかったという情報はないですね」
確かに……アッシュたちの“同志”の中で、まだ行方が分かっていない者が１人いる。
バーサークフューラーのパイロットであるデューク・シルバークである。
デュークはイズキやアッシュと共に、マナウィ研究所方面に移動しているところで、
同志共々“異世界転移”を疑う異変に遭遇しているはずだから、世界のどこかにいるはずなのだが。
先のゾイド紛争事件でも、白亜の恐竜ゾイドの目撃情報は今のところない。
「まぁ……彼は勇敢だし、冷静だ……どこかできっと、戸惑いながらも頑張っていることだろう」
「そう願うしかないですよね……本当、言葉が通じるのは不幸中の幸いでした」
「グリッドとブラウズ氏が合流すれば、我々も今までより動きやすくなる。
今後の情勢にもよるが、我々が率先して、シルバーク殿を捜索することも不可能ではない」
バージの上のゴルドスが近づいてくる光景を見つめながら、アッシュはそう、自分に言い聞かせた。
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「――あら、久し振りね」
私立金芽台学校中等部の図書室で、ふとそう言ったのは白金院葵であった。
おかっぱ頭の中学３年生で、その名前の通り、学校創設者の家系である白金院家の子孫の１人だが、
余り目立たない大人しい性格であり、裕福な家柄の令嬢という印象は少ない。
「あっ、先輩、どうも」
葵に声をかけられたセミロングの少女が、読んでいた本を閉じて“先輩”に挨拶をする。
彼女の名は水上風香、葵とは２学年下に当たる中学１年生だが、家は近所で面識があるようだ。
「白金院君、この子は……」
「あぁ――水上風香さん、松平君も知ってるでしょ」
葵の後ろから歩いてきた少年は、生徒会長の松平健一郎だ……実は彼、葵の幼馴染でもある。
変なウワサが立つのも面倒なので、２人とも学校ではどこか余所余所しいが。
「あぁ……うん」
「そんなに気にしなくても良いじゃない、今の彼女は元気なんだから」
「そ、そうだな……済まない、水上君」
「えっあっ、いやっ全然、大丈夫です、はい！」
突然生徒会長から謝られて、慌てたのは風香の方だった。
実は彼女、１週間ほど前に起きた“誘拐事件”の被害者の１人だったのだ。
加奈も被災した事件だ――そう、金芽台学校旧校舎の地下室を舞台にした“あの事件”である。
もちろん――その事件が“怪人たち”によって起こされたことを知る者は、ここにはいない。
「メガネ、外したのね？」
「あっはい、コンタクトに変えちゃいました！」
「そう、うん、そっちの方が可愛いわよ、この夏モテちゃうかもｗ」
「えぇっちょっ、先輩っ！？」
先輩の“愛ある弄り”に、風香の色白の顔が瞬間湯沸かし器のように真っ赤になる、可愛い。
「くすくす、ごめんごめん、勉強中に邪魔して悪かったわね」
「あ、いえ大丈夫です……唯ちゃん――あ、友達と約束してたので……」
「あぁ、水上さん、安室さんと友達なのね」
「あ、はい、先輩も安室さん知ってるんですか？」
「もちろん、バドミントン部の子でしょ、男子がよくフェンス裏に溜まってるもん、ねぇ松平君？」
「……僕は関係していないぞ」
葵にいきなり振られて、健一郎は咳払いをして視線を逸らした。
もちろん零児の姉、安室唯の話だ……どうも彼女、山本咲と共に学校の男子たちに人気らしい。
“ガリ勉”健一郎は、余り興味がないようであるが。
「……松平君は硬いなぁ、あ、それじゃまたね、水上さん」
「はい！」
……そんな光景を、図書室の入口からぼんやり眺めている加奈。
生徒会の会合のために学校に来たのだ……健一郎がいるように、さっき会合は終わったのだが。
そしてふと、風香と目が合う……ぺこり、と風香が会釈した。
加奈はにこりと笑って手を振る……風香とは事件後、“病室”で顔を合わせた関係があった。
「……あたしもたまには、何か読もっかな？」
「読書は良いですよ、青葉さん」
「えっあっ、うん」
いきなり横から声をかけられて、加奈は少し慌てた……立っていたのは河奈喜代美。
“中２病戦隊”の“グリーン”であるが、金芽台学校中等部２年生で、加奈の同級生である。
学校では茶道部に属しており、実は葵も同じ部員だったりするのである……だから２人がいるのだ。
狼狽した加奈の顔を見ると、喜代美はどこかミステリアスな表情を浮かべて、くすりと笑った。
取り合えず、加奈頑張れ。
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再び立川基地。
「ライカ捜査官――アレック・フォルスという人物を知っているか？」
サイトＧへの入口がある福利ターミナルの部屋の端で、レマック・ゼインはそう言った。
横にサイロス・ヴァリアンティとゴルヴァンもいる……そして４人を遠巻きに眺める軍人たち。
ライカはともかくとして、あとの３人は明らかに“人外”の外見だからだろう。
ジロジロ見るのは悪いと思いつつ、その人間離れした容姿は見る者を飽きさせない。
「確か……ＡＴＵのメンバーじゃなかったかしら？」
「ほぅ、さすがはアトラス捜査局の敏腕捜査官、あんたもこの名を知ってるか」
「おだてても何も出ないわよ？」
「実は我々がこの“並行時空”に迷い込んだきっかけを作ったのが、そのアレックでね」
「あら、そうなのね……ってことは、何かの機密を盗んだのかしら」
推測するライカに、レマックたちは“人間離れした”顔を見合わせた。
「……ビンゴ？」
「ご名答だ、ライカ捜査官……監視者の頭脳は恐れ入るな」
「団長までそんなこと言って、もぅ……それであの男、今度はどんな機密を盗んだの？」
「何を盗んだのかまでは、詳しく聞いてはいないんだ……それを聞き出す前に、異変が起きた」
「だが『こんなものが銀河社会に出回ったら、戦争が起き兼ねない』と言っていたよ」
「……随分と物騒なフラグを立てるわね」
ゴルヴァンの言葉に、ライカが眉を潜めた。
「だが機密の出所は分かっている……アレックは『ゴーディスに追われてる』と言ってたよ」
「あのマフィアが絡んでるのね……だからこの世界に縁を持ったわけか」
「ん、それはどういうことかね？」
「昨日話したように、この世界は“次元融合”の混乱で様々な異世界の介入が起きているのだけど、
ゴーディスも次元融合が発生して間もない頃から、この世界に介入してるのよ」
「何と、そういうことだったのか……となると、まずいことになりそうだな」
「そうねぇ……この話、後でもう１度、パドルや黒木室長に話してくれないかしら？」
４人がそんな会話をしてる頃、福利ターミナルの外では。
「おいアリシェイル、あんまり弄んなよ」
「何よ、少し触ったぐらいで爆発するの？ アリーナの発明品じゃあるまいし」
「ちょっと、アリシェイルまで酷い！」
こっちはこっちで、ゾネアとアリシェイルとアリーナの宇宙人トークが展開中であった。
身長３ｍを越えるゾネアには、福利ターミナルの天井は低すぎるのだ。
そのコンクリート壁には、ゾネアのバズーカみたいな巨大な銃器が立てかけてある。
アリシェイルがこれに関心を持ってなで回しているところに、アリーナがやってきたのだ。
その後から、夕張や大宮が歩いてきた……さっきまで倉庫で会話していたパドルの姿はないが。
「おぉ、大きな銃器ね……まるで艦砲だわ」
「“タキオンブラスター”だからな、実際に艦砲並みの威力があるぜ、お嬢ちゃん」
「……そんなヤバい武器を、こんなところに立てかけてて良いんです？」
「安全装置を付けてるからな、俺の存在場コードがなきゃ使えねーんだよ」
「その話はともかくとして……今爆発って聞いたんだけど……アリーナさんの発明品とか？」
「あーえーと、その話には深い背景があってね……」
アリーナの朱色の目が泳ぐ……ゾネアはにやり、と嫌味そうな笑みを浮かべて説明を補完した。
「こいつよく自分で武器を発明するんだよ、満足に成功した試しがねぇけどなｗ」
「ちょっとゾネア、また羽に穴開けられたいの！」
「おー怖ぇ怖ぇｗ」
「アリーナって優秀なのかポンコツなのか、時々分からなくなるのよねぇ」
「異議あり、あたしは傭兵団の頭脳よアリシェイル！」
「おいゾネア、アリシェイル、手が空いてるなら手伝え、力作業は得意だろ」
そしてそんな人外集団に、今度は鉄骨を担いだマクスレッジが声をかけたのであった。
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再び台東区の公園で、明日也少年は家路に向かっていた。
公園は東西に長く、西側にグランドと遊具があり、すぐ大きな通りに面しているのに対して、
東側は木立の先に“団地”が広がっている……竜太郎の家は通りの向こうにあるが、
明日也の自宅は団地を越えた先の、比較的静かな住宅地の中にある。
真夏の木立には、至る所でセミの合唱が響き渡る……団地の住人は毎朝さぞやうるさいことだろう。
まだ昼過ぎだが、今日は余り人気がない。
いつもならスマホを持った小中学生が、ベンチでよくオンラインゲームに講じているのだが。
ぶらぶらと木漏れ日を浴びながら、明日也が歩いていた――その時だった。
明日也の視線の数ｍ先……数本の木々の影に半分隠れる位置に、肩幅の広い男性がしゃがんでいる。
大人の男性が１人、団地の公園にいるのもさることながら、真夏に黒いジャンパー姿も結構怪しい。
男は木立の茂みの方を向いてしばらくごそごそすると、何事もなかったように立ち上がった。
そしてその瞬間――じっと眺めていた明日也と目が合った。
「「あっ……」」
両者共に声が漏れ、明日也はすぐに踵を返して逃げようとしたが、
男は素早く距離を詰めて明日也を追い抜き、進路を塞ぐ位置で止まった。
「うわっ早っ……だっ誰ｋ――」
「騒がないでくれ、私は何もしない、本当だ――信じてくれ！」
悲鳴を上げようとした明日也の機先を制するように、男は明日也に話しかけてきた。
もちろん、明日也は簡単に信じない……何しろ彼は警察官の息子なのだ。
「騒がなければ何もしない……だが騒いだら、こうするしかないぞ！」
その手にはメタリックな筒状のものが握られている……それが拳銃だと少年はすぐ分かった。
しかしまさか、小学生の子供に銃口を向けるなんて。
「私がここにいたことを、誰にも言わないで欲しい……約束できるなら、君の命は絶対に保障する」
「……僕が言わなくったって、すぐ誰かに見られるじゃないか」
「ほぅ、思ったより冷静だな君は……確かにその通りだ、だが“これ”を見たのは君だけだ」
男はそう言って、手にしていた銃をジャンパーにしまい込む、そして……
「私が何をしていたか、知りたいだろう？ ――こっちに来なさい」
イヤだ、と言ったら何をするか分からない……明日也は内心怯えながら、男の言葉に従った。
先ほど木陰でしゃがんでいたその場所に、男は再びしゃがみ込み、何かを拾い上げた。
それはセピア色の光沢を放つ――奇妙な腕輪だった。
「私はこれをここに隠すつもりだったが……君に見られてしまった、だから君にこれをやろう」
「……えっ？」
明日也は、一瞬目が点になった。
何を言い出すかと思ったら、男はこの地味な腕輪を、自分にやると言い出したのだ。
「い、要らないよ、そんなの」
「そう言うな、見た目は地味だが、これは凄いハイテクの塊だぞ」
「えっ？」
ハイテク、と聞いて明日也の警戒が好奇心から緩んだ――その隙に、男は腕輪を彼の手首に通す。
瞬間、彼の手首には大きかった腕輪がきゅっと引き締まり、隙間なくフィットしたのだ。
「あっ……！？」
「君は凄いモノを手に入れた、だが誰にも話してはいけない、まぁ誰も信じないだろうがね」
明日也は目の焦点が合っていない状態で硬直している……男の言葉は聞こえているだろうか。
実は――腕輪が腕にフィットした瞬間、彼の脳内に“別の言葉”がささやきかけていた。
男は明日也に何が起きているのか知っているのか、それを見届けるように、静かに立ち去った。
そして男の姿が木陰に消えて数秒後――明日也はふと、誰ともなく呟く。
「“ザイオノイド・ブースター”……何だよ、それ？」
男がそう言ったのではない……しかし明日也は確かに、その言葉を聞いた。
腕輪が手首に吸い付いた瞬間、彼は脳内に、その言葉が流れ込むのをハッキリと聞いたのだ。
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| （１０章２話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2022年に執筆したエピソードであるが、構想自体は2013年頃からあった。
仮面ライダーなどをモデルにした変身ヒーローキャラの新しいフラグを立てたエピソードであり、
ハイライトは11章以降になるが、“異能”を手にした少年達の、そのきっかけとなる物語に相当する。
序章的なものは、実は４章や９章にも振っていたりするが、その「役者が揃う」のがこの10章なのである。
……ただそれだけで１話の尺を埋める分量はなかったため、“途中経過”を匂わす複数のコネタを入れた。
ガンダムに擬態したオートロン、アレクシウス兄弟のその後と上官キャラの登場、
銀河社会の有志であるアトラス傭兵団と艦娘たちなどの日常クロスオーバー的な絡み、
（アトラス傭兵団は“違法変身アイテム”に関わる情報提供者の役割もある）
ゾイド紛争後のアッシュ達のポジションや、フラグが浮いていた関係キャラの現況チェック（笑）、
自ら妖怪事件に被災した加奈のその後と周囲の人間模様（中２病戦隊を含む）などを盛り込んだ。
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