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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130728D） |
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宇宙から来た“変身怪人”たちに翻弄されている立川基地――の旧司令部裏の中庭。
青白い光を放つ、結晶体のような姿の怪人――ルドルスに、２人の有志が対峙している。
オーディアンの前線副隊長マクスレッジに、ギドラ獣人のキトラだ。
ルドルスの目的は必ずしも立川基地ではなかったが、なし崩し的に交戦状態に入っている。
目的が別であっても、軍事基地の中で派手な乱闘をされては困るからだ。
中庭は今“異能戦士”たちの格闘でガタガタになっている。
周囲の建物――旧司令部や兵舎の壁にも、大きく砕けたり崩壊した跡が残っている。
その幾つかは先のゾイド紛争の爪痕であるが、今回の事件で付いたものもある。
「今のはギスターか？……やはりヴォルマグスというのは短気だな」
表情が見えない結晶状の仮面から、ルドルスの呆れるような声が漏れる。
つい先ほど、グランド側で起きた“大爆発”に反応したものだ。
損傷を受けた兵舎の屋上から、その爆発によるものだろう灰色の煙が沸き上がって見える。
「さて……どうするギドラ小僧、そんな手負いでどこまで私に立ち向かえる？」
そう――キトラは今“手負い”の状態だ……もっともそれは今回の事件が原因ではない。
先のゾイド紛争で、レブラプターに受けた銃撃の傷口が開いてしまったのだ。
キトラの背後に立つマクスレッジには、キトラの背中の赤いシミがくっきりと見えている。
「キトラ殿……まだ傷口が塞がっていないじゃないか」
「すいません、ちょっと油断したかも知れませんね……でも大丈夫です」
苦笑するように言うキトラだが、息は荒く金色のウロコの上から複数の汗が垂れる。
レブラプターに撃たれた場所は大きな翼の接合部で、体の重心の１つである。
腰に銃弾が食い込むのと大して変わらないダメージを負ったのだから、重傷だったのだ。
「ふん……強がりは誰のためにもならんぞ――！？」
そこまで言いかけたルドルスは、ふと――背後にもう１つの気配を察した。
ルドルスの背後、15mほど離れて立つ黒い肌と赤い髪の獣人――ジーラ。
どこか髪がボサボサして見えるのは、先ほどの“転落事故”の所為だろうか。
時々手櫛で髪を整えるが、針金のように硬い頭髪なので、クセが付くと直りにくいらしい。
ジーラは既に臨戦態勢だ……黒い手には青白い光が収束している。
首を軽く傾けてそれを見たルドルスは、しかし不敵な笑い声を低く響かせた。
「ほぅ……上級キメラノイドがもう１匹いたか……くく、楽しみが増えたな」
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第10章 力を得る者達 ★
2013年7月28日―日本・第２次立川駐屯地事件其の２
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“大爆発”が起きた立川基地のグランド。
昆虫と“鬼神”を合体させたような宇宙人の戦士――ギスターが、凱竜騎の前にいる。
手甲から伸びるサーベルは凱竜騎の鼻先に突きつけられている。
先ほどの爆発もこのギスターによるものだ……あんなものをこの距離で食らえば、
いかなゾイド機械獣と言えどタダでは済まない。
パドルと対峙したジェノザウラーのように「頭ごと吹き飛ばされる」可能性もあろう。
「やめろギスター、部外者を巻き込むなと言ったはずだ――」
「黙れ偽善者！ だったらこんな所に来るんじゃねぇ！」
“戦闘形態”のアレックが叫ぶが、それに被せるようにギスターの怒声が響き渡る。
そして文字通り“鬼の形相”でアレックを睨み、低い声で毒づく。
「俺を本気にさせたらどうなるか……まさか知らなかったとは言わせんぞ？」
左手の手甲を凱竜騎に向けながら、ギスターは右手の手甲をアレックの方に向ける。
どちらからも、オレンジの淡い光を放つサーベルが伸びている。
アレックと凱竜騎、その気になれば同時に片付けられるという意思表示である。
そして先ほどの爆発が示唆するように、１人でこの基地を廃墟にすることも出来るのだ。
まさに「冗談のような」能力だが……“ザイオノイド”とはそういうものなのである。
“キレた”ギスターを兵舎の影から眺める佐津間が、小さく溜息を吐く。
「こんな事態になるとはな……確かにあんたたちが言う通り、常識が通じない。
歩く戦車と言うより、もはや歩く弾道ミサイルだ」
“あんたたち”というのは、ギスターの“脅威”を知るアトラス傭兵団のことである。
そのメンバーであるサイロスとアリーナが、佐津間の後ろにいる。
「あの青い機械獣１機に任せたのはマズかったな……２〜３体いれば違ったかも知れん」
「この基地はゾイドが駆け回るように作られてないからなぁ……」
「でも――対策が全くない、ってこともないかも……ちょっと危ない賭けになりますけど」
これはアリーナだ……佐津間はピンとこないが、サイロスには分かったらしい。
「……どういうことだ？」
「つまり――俺たちがギスターを相手にすれば良い、ということかアリーナ？」
「そんな顔しないでよ……じゃあ他に手があるわけ？」
「あんたたちなら――あの怪人を止められるというのか？」
佐津間の言葉に、アリーナは首を縦に振らずに言葉を続けた。
「簡単ではないですけどね……いくらザイオノイドでも“万能無双”じゃないはずだから、
連係プレーで包囲すれば、脅威を削ぐことは出来ると思います」
「サイロス殿……彼女はこう言っているが……」
「不可能ではない……俺たちの戦法が、ヤツに読まれなければ――という前提の上だがな」
「あたしたちだけなら、読まれるリスクは上がるよね……でもそうじゃなければ」
「そういうことか……どうしたら良いのアリーナ、死なない範囲で手は貸すわよ？」
いつの間にか、背後にアリシェイルが立っていた……彼女は気配を消すのが上手い。
伊達にオーディアンの“偵察要員”ではないということか。
「それともう１人……“人質本人”にも手伝って欲しいかな？」
「サフィーア殿にも、関わってもらうということか」
「あの凱竜騎という青い機械獣には“シールド”はないけど、熱反射パネルがありますよね。
上手くベクトルを合わせることが出来たら、効果的な牽制球になります」
佐津間は目を丸くした……この基地に“不時着”してから、余り存在感がなかった彼女が、
今は“共闘作戦”を提案する“参謀”になっている。
屈強な宇宙人の男たちの中で、彼女がどういう地位にあるのか、佐津間はやっと理解した。
「……凄いなキミは。パドル大使が推すわけだな」
「え？ そうですかぁ？ あはは、こりゃあ照れるぜ☆」
突然佐津間に褒められたアリーナは、青い顔をぽりぽりと掻いて恥ずかしそうに笑った。
「得体の知れない発明品を作ること以外は、確かに有能な傭兵団の頭脳ね」
「アリシェイル、１言余計じゃない？」
「よし、キミに任せよう……我々に出来ることはあるか？」
ぼやくアリーナの横で、佐津間は覚悟を決めた。
相手の意図が何であるにせよ、この事態は早期に収束させなければならない。
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そしてこちらは幕張にあるＧフォース科学部。
この地下格納庫の最下層で、回収した“敵性ゾイド”の分析が行われている。
東京各地から集めてきたゾイドの残骸の中でも、保存状態の良いものだけであるが、
それでも10数機はあり、分析にはＧフォース科学部だけではなく、他の関係者も参加する。
外部シンクタンクに属する宮坂や青木、宮坂の盟友でＮＧＯ主催の篠田に加えて、
今回は新たな顔が加わっている……高山我夢と陸自娘の大宮、ＴＥＥＣ社長の鳥居速雄だ。
異世界から来た天才技術者に解体マニア――もとい軍事基地の化身に加えて、
電磁気工学のエキスパートが合流しており、まさに時空を越えた頭脳集団となっている。
オーディアンからも小柄な有志のアレイコアが参加している。
そんな地下格納庫に、緊迫した顔で結城晃保安部長と北条梓総合主任が足早に入ってきた。
「緊急情報だ……立川基地でまた戦闘事態が起きた！」
「えぇっ、またですか！？」
緊迫する地下格納庫……もう何度目だと思うが、有事の緊張感は中々慣れられない。
「幸い、基地を標的にした攻撃ではなく、別件のゲリラが紛れ込んだだけのようですね」
「北条主任、どうしてそれが分かるんです？」
「例の基地の不時着した宇宙人からの進言らしい……ゲリラ同士で格闘しているようだ」
「物騒な話ですね……でもここにその話が来たってことは“ただのゲリラ”ではない、と」
核心を突くように言ったのは我夢だ……結城は緊迫した表情を崩さぬまま頷いた。
「かなり高い戦闘力を持っているらしい……マーク殿が現場に干渉する予定だそうだ」
「“ウルトラマン”の干渉が必要なくらい、重大ってことですよね……」
我夢は表情を引き締める……自身に再び課された“使命”も意識していることだろう。
「マーク殿が手に負えない事態になるとは思えんが、高山殿はいちおう待機して欲しい」
「分かりました」
我夢もまた“ウルトラマンの能力者”であることを、既にここの者たちは知っている。
「それで、Ｇフォース科学部としてはどう対処するのですか？」
「今はまだ警戒態勢を維持するだけだ……本当に偶発的なゲリラ同士の交戦だとしたら、
現場に任せても問題はないが、絶対とは言えないからな」
「この“機械獣”の事件がそうであるように、陽動である可能性もあり得ますよね」
これは大宮である……彼女も安全保障の化身、ただの解体マニアではないのだ（爆）
「オーディアンの情報網では、今のところディスヴェリオンの気配はないみたいです。
でもあのマクスレッジさんを弾き飛ばしたって聞いて、ちょっとびっくりしましたよ」
こちらはアレイコアだ……専用回線を持つため、現場の状況がある程度伝わっている。
「例の宇宙人たちが言うには、“宇宙マフィア”が背景にいるというが、聞き覚えは？」
「あります、ゴーディスもデストラクタも、悪名高い武器商人ですよ。
戦闘服のようなものを使ってると聞くので、新型兵器が絡んでる可能性もありますね」
「ゴーディスと言えば……“あれ”を持ち込んだ連中だったよな？」
結城が指差した先には、15m四方のいびつで黒光りする物体が、半壊状態で鎮座する。
ゾイドではない……東京怪獣事件で猛威を振るった、ジェネラルジョーの胴体だ。
重くても数百トンのゾイドの10倍以上もあるため、撃墜に関わったセイヴン自身が、
責任を持ってこの地下格納庫に運び込んだものである――そのセイヴンはまだ米国だが。
その奥には“脚部”もある……こちらも歩く要塞のような火砲の塊である。
「そうですねぇ……ジェネラルジョーもゴーディスの試作兵器だったな」
「そのゴーディスが、また新兵器を地球に持ち込んでる可能性があるわけだが……何故、
この地球にそんな宇宙兵器を何度も持ち込んでいるのだろうか？」
「人類がそれを使いこなせる保障もないのに……ってことですよね」
ここで初めて、鳥居が思わせぶりに口を開いた。
もっとも視線は今も、ゾイドの残骸から採取した電気信号データの情報を見ている。
「鳥居君……使いこなせないとは限らないんじゃないか？ 君という可能性が現にある」
「宮坂教授、僕が軍事技術を嫌うのはご存知でしょう？」
「鳥居さんがそれに関心を示さずとも、確かに今ここには複数の優秀な頭脳がいます。
そこにマーケットを見出すことは不可能じゃない――でも」
我夢はそう言って、１息、間を置く。
「――でも？」
「でも、こういう事態になったのは確か、“宇宙的に見ても稀な異変”だったはずです。
人類のほとんどがこの事態に困惑し、混乱していますよね。
どうしてその宇宙マフィアは、こんな混乱した異変の惑星に興味を持つんでしょうか？」
「確かに……ちょっと不思議ですよね」
「全ては――図られていたのかも知れない」
またぼそり、と鳥居が呟いた……周囲の表情が一斉に緊迫する。
その“可能性”は、この惑星に来訪している宇宙人の外交官――パドルやアイレスが、
あくまでも１つの“疑惑”として、彼らに語ったものだったからだ。
「東郷次官も言われてましたよね……宇宙的に見て突出して優秀ではない人類文明に、
どうして宇宙からの使者が関心を示すのか、宇宙に多くの生命が存在するなら、
地球だけが注目されることはむしろ不可解な論理になる――と」
そう言葉をつなぐ我夢に、再び「んー」と言いながら大宮が口を開いた。
「仮に計画的な謀略があったとして、今回のゲリラ事件はちょっと不自然じゃないです？
話を聞く限り、意図的に何かをしたというより、偶発的に起きた感じがします。
オーバーサイエンスな新兵器が背景にあるとしたら、これって“争奪戦”みたいな……」
「確かに、ゴーディスとデストラクタはライバル関係にありますしね」
大宮とアレイコアの言葉に、今度は篠田が呟いた。
「要は武器商人の工作員同士が、新兵器を巡って地球で抗争をしているということか？」
「なるほど、技術的に劣る地球だからこそ、余計な横やりを刺される可能性は低い――
そういう見方も出来ますね」
「人類も舐められたもんですよねぇ」
我夢の推測に、鳥居が苦笑いを持って言葉をつないだ。
「なんかこう、ギャフンと言わせたいな、あいつらを」
「おや……平和主義を自称する君にしては、珍しい反応だな？」
そう言う宮坂に対して、しかし鳥居は純粋そうな瞳のまま言葉を続ける。
「平和は大事ですよ、でもそれには暴力を抑え込む力がないといけませんからね」
「そのためには頭を使わないといけませんね」
そう言って我夢と鳥居、２人の天才は微笑を浮かべて頷き合った。
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再び立川基地中庭の“怪人戦第１ブース”。
ルドルスの攻撃でゾイド紛争の傷が開いてしまった手負いのキトラに、ジーラが合流した。
マクスレッジを含め、３人に包囲されたルドルスだが、不敵な態度は崩さない。
ジーラは両手に淡い光を揺らめかせながら、じりじりと近づく。
「ほーお、随分と舐めた態度を取ってくれんじゃねーかよ、キトラに墜とされたくせに」
「ふん、あれを見てたのかね……その容姿からすると、こっちはあの“ゴジラ”か。
因縁のライバルで有名なゴジラとギドラが、手を組む日が来るとはなぁ」
「ゴジラもギドラも知ってんのかよ……ってことは想像できるよな、そのタッグを？」
「それがどうした……この“ノヴァ・ユニヴォリューター”は、“新星現象”を操るのだぞ。
ゴジラやギドラがいかに強大なザイオロードでも、太陽のパワーにはかなうまい」
“新星モード”のルドルスはそう言って、燃えるような金色のオーラを広げた。
オーラに触れた中庭の芝生が瞬く間に燃え尽き、コンクリートやアスファルトが融解する。
まさに“等身大の太陽”とも呼ぶべき能力を解放しているらしい。
蒸発するコールタールの成分が、悪臭の煙となって周囲に拡散していく。
「どんな縁でこんな軍事基地に貴様らがいるのかは知らぬが、世話になっているのだろうな。
その基地で私と貴様らが本気で戦えば、どういうことになるのかは分かるな？」
「脅してんのか？ ゴジラとギドラのタッグが、何を意味するのか知ってんじゃねぇのかよ。
プラズマを使うゴジラと、重力波を使うギドラが――手を組むという意味をよぉ！」
そう言うや――ジーラが仕掛けた。
文字通り一瞬でルドルスとの間合いを詰め、両手に宿したプラズマを一気に増幅させる。
だがルドルスは動かない……想定内だ、と言わんばかりに。
「今の私にケンカを売るという意味が分からぬのならば、思い知るがいいさ！」
ルドルスの周囲に揺らめく“恒星コロナ”のオーラが急激に膨らんだ。
その中にジーラは飛び込んでいく……すぐにシャツやズボンが燃えるように崩れるが、
プラズマの層を作っているのか、簡単に燃え尽きたりはしない。
だが――莫大な熱量を持った恒星コロナは、旧司令部を呑み込む前にその動きを止めた。
「ぬっ……ギドラ小僧、貴様か！」
キトラの“重力波雷撃”が、ルドルスとジーラをまるで漁網のように包み込んでいる。
それによって空間が歪められ、ルドルスのオーラは基地を炎上させる前に止められていた。
背中の激痛に耐えながら、キトラは両手をいっぱいに広げ、その力を解放している。
「ギドラの能力は――攻撃だけではないですよ」
「小癪な……顔に似合わず器用な能力を使うではないか――」
そう言いながら、ルドルスは飛び込んできたジーラの拳を、がっちりと受け止めた。
「どこ見てんだよおっさん、ボサっとしてると溶かしちまうぞ！」
「くはは、笑止！ そんな単純なモーションなど、目を瞑っていても止められる――！？」
嘲笑うように言い放ったルドルスだったが――次の瞬間、視界が１回転した。
刹那の間の後、その宝石のような体が焼け爛れた中庭に叩き付けられる。
「何――！？」
ジーラは得意の体術で、ルドルスを投げ倒したのだ。
そのまま、仰向けになったルドルスに向かって、白熱する拳を叩き込もうとしたが、
ルドルスは咄嗟に強力なプラズマ放射で、ジーラを空に弾き飛ばした。
ギスターの砲斬撃に劣らぬ派手な爆発音と共に、中庭の中央部がごっそりと陥没する。
全てを原子に還元する圧倒的な熱量が、トラックを呑み込むほどのクレーターを生み出す。
爆発で背面がフリーになったのを確認すると、ルドルスは立ち上がった。
クレーターの底は本来の中庭の地面より１ｍ以上低いため、やや埋もれて見える。
「体術でこの私を倒しに来るとはな……ゴジラが文明級の知性を持てばこうなるのか」
上空軽く100mは吹っ飛ばされたジーラは、まだ放物線を描いて空を舞っている。
それでも何とか体勢を立て直そうとしているが、慣性の法則に抗うのは難しいようだ。
しかしルドルスはそのジーラに向かって、白熱する拳を向ける。
「落ちてくるのを待つまでもない……貴様の大好きなプラズマで吹き飛ばしてくれよう」
「――させない！」
そこにキトラが飛び込んだ。
ルドルスはすぐさま反転し、その応力のまま豪快な回し蹴りをキトラに叩き込む。
だがキトラは腕を盾にその衝撃に耐える……熱風を正面から浴びるが、それでも腕を出し、
ルドルスの顔面に重力波の雷撃を叩き付けようとする。
しかしルドルスはその手を乱暴に掴み、ハンマー投げの要領で上空に放り投げた。
「――あっ！？」
「愚か者め――全て読まれていると何故分からぬ！」
今度こそ２人揃って熱線で撃墜せんと、腕を向けようとしたルドルスの腕が止まった。
ルドルスの背後に、威圧的なオーラを解放する“新手”が出現したからだ。
白銀と赤のマーブル模様に覆われた等身大の戦士――アルティランのマークである。
いつもの“人間体”ではなく、巨大化こそしていないが、既に“戦闘形態”を取っている。
「ちっ……アルティランのマークか……！」
「デストラクタのルドルス・ギルティーグだな……まだ暴れるつもりなら相手になるぞ」
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そしてグランド側の“怪人戦第２ブース”。
ギスターがセイナと凱竜騎を“人質”に取ったため、戦況は膠着している。
戦闘怪人形態のアレックが正面に立って警戒しているが、さすがに今直接手は出しにくい。
「さぁどうする偽善者、貴様が降伏するんなら、こいつは解放してやるぞ？」
「冗談じゃない……何のためにここまで来たのか、それじゃ無意味というものだ」
「まだ自分の立場が分かってないらしいな……それなら、こいつを鉄屑にしてやるまで――」
ギスターがそこまで言った瞬間――アレックの姿が前触れなく消えた。
だがギスターは動じない……“同じ手”を10分ほど前にも見たばかりだからだ。
「またその手か、俺にそんな小手先の技は通じないと、何度も言わせるな！」
そう言って、ギスターは片手を大きく振りながら、もう片方の腕で指を弾いた。
再び数ｍほど先で激しい火花が散り、アレックの姿が一瞬揺らめく。
「１発では倒れんか、ならば倒れるまで打ち込むまで――」
しかしその時、凱竜騎が脚部のホバーエンジンを噴射し、一気にギスターから後退した。
「舐めるな――俺から逃げられるとでも思って……！？」
そしてそれと同時に、グランドの２方向からギスターにビームが撃ち込まれた。
得物のトリガーを引いたのはサイロスとレマックである。
ギスターは突然始まった“飽和攻撃”を、サーベルで弾いて声を荒げた。
「ふざけんなよ、そんな豆鉄砲で、ザイオノイドを退けられると思うな、偽善者共めが！」
だが攻撃は続く……更に２方向から光線が飛んできた。
撃ったのはアリシェイルと、メーサーライフルを構えた斉藤と尾形である。
そしてこれもサーベルで弾いたギスターの後から、ひときわ強力なビームが撃ち込まれた。
ゾネア自慢の重火器、通称“魔改造ブラスター”である。
銀河社会でも“艦砲並み”の破壊力を持つ武器を、ゾネアは扱えるのだ。
しかもギスターを直接視認出来ない死角から、凱竜騎の反射板を使って斜めに撃ち込んだ。
威力が大きいだけに、射線を読まれやすいと踏んでの対策であった。
これもサーベルで受け止めたギスターだが、今度ばかりは応力負けして大きく仰け反った。
余波が光の衝撃波となってグランドに広がっていく。
「ぬぉっ……この威力、タキオン・ブラスターか……さてはアトラス傭兵団がいやがるな！
出て来い臆病者共めが、何ならこいつで叩き出してやろうか！」
そう言ってギスターは再び、先ほど荷電粒子砲を相殺した巨大な砲斬撃をチャージする。
その時――中庭の方から再び閃光が煌めき、轟音が響き渡った。
ルドルスがプラズマ放射でジーラを空に吹き飛ばした時のものだ、巨大な火柱が見える。
その轟音に反応し、ギスターのモーションが一瞬遅れた。
そして改めて向き直ったギスターの目の前に、テニスボール大の物体が３個飛んできた。
ギスターの表情が強張った……既に“特大砲斬撃”の体勢に入り修正できない。
「やってくれたな、傭兵団め――！！」
勢いのまま叩き付けた特大の砲斬撃とタイミングを合わせるように、３個の物体が光を放つ。
そして“大爆発”と共に、吹っ飛ばされたのはギスターの方だった。
テニスボール大の物体は“波動フレア”と呼ばれる銀河社会の軍用アイテムである。
指向性の重力波を放射し、特定のベクトルに強力なエネルギーを動かす。
瞬間的に空間を捻じ曲げるため、目眩ましのような使い方が出来るだけではなく、
強力なプラズマビームのような攻撃を、逆方向に弾き返すことも可能だ。
レマックたちは、この波動フレアでギスターの“決戦技”を撃ち返したのである。
１個ではエネルギーが飽和して押し負ける可能性が高く、少なくとも３個が必要であり、
それ故に読まれやすい戦術でもあったため、飽和攻撃で気を逸らす必要があったのだ。
アトラス傭兵団だけでなく、オーディアンやゾイド、更には自衛隊や防衛隊の有志まで、
複数の協力者を取り付けることで、リスクを減らす狙いもあった。
直接攻撃では“ザイオノイド”を倒すのは難しいから、この戦術が採用されたのである。
いかなギスターでも、自分の決戦技を自分で食らえばただでは済まない。
また空間を歪めるために、姿を消して逃げる敵を「引っ張り出す」ことも出来る。
逃げようとしたアレックを追い詰めたギスターも、同じくこの波動フレアを使っており、
その戦術が分かっていたからこそ、読まれないようにする必要があったのだ。
大技をわざと出させるように仕向け、修正できないタイミングを狙う必要があった。
中庭の方で第２の爆発が起きたのは想定外だったが、運良く効果を引き上げた形である。
大爆発の煙が晴れていくと、ギスターの姿はそこにはなかった。
「やっつけたのか……？」
「いや、爆発に便乗して逃げたのだろう、ダメージは負ったろうが、あれで死にはしない」
警戒を解かない斉藤や尾形の疑問に、レマックやサイロスが答える。
「軍艦でも沈められそうな大爆発でしたけど……」
「それがザイオノイドだってことだ、あんたらにとっちゃ非常識だろうがな」
「ヤバ過ぎる……１人であれだけ暴れられるなら、集団で来られたらどうしようもないぞ」
そういう話をしていると、再び中庭から閃光が煌めいた――だが今度は爆発音はない。
間もなく、無線機を通じてマークの言葉が入ってきた。
『こちらマーク、中庭の事件は収束しました、容疑者の拘束は逃してしまった、申し訳ない』
仮設会議室の佐津間や黒木がこれに応答する。
「ご苦労様です、やはり拘束は簡単ではないですかね」
『追い詰められた時にどうやって逃げるかも決めていたようです、かなり手練ですね』
「やれやれ……迷惑にも程がある」
溜息を吐いて、黒木は防犯カメラの映像を眺める。
そこには原形を留めなくなった中庭が映っている……ただし静止画の状態であるが。
さすがに重量級の爆弾を何発も落とされたような衝撃に、カメラも耐えられなかったのだ。
なので中庭の中央に最後に穿たれた大穴は、この静止画にはまだ映っていない。
「これ……中庭の装甲化も必要ですかね？」
途方に暮れたような表情で、佐津間もそうボヤくしかなかった。
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さてこちらは東京都江東区。
元廃棄物処理場として有名な“夢の島”から道路を挟んだところに、１軒の店舗がある。
看板には“光写真館”の文字が……そう、ここもまた“異世界召喚者”の拠点だ。
自ら世界を越えて移動できる“仮面ライダーディケイド”とその有志たちの詰め所である。
写真館の玄関脇に、クリーム色のオートバイが１台――本郷のサイクロン号だ。
ただし、光写真館を訪れていたのは、本郷１人だけではなかった。
「空間を越えるゲート……ですか、凄いですね」
目を丸くしている“クウガ”小野寺の向かいに、身長２ｍを越す金髪の大男――パドルだ。
彼はこの写真館にも「緊急連絡の手段」を開設すべく、交渉しに来ていたのだ。
サイトＧと立川基地をつなぐ空間ジャンプ装置“テラゲイト”と同じものを設置出来ないかと。
「世界を越えるという経験に、君たちは慣れていると本郷氏から聞いたんだが……」
「私たちが能動的に越えてるわけじゃないんですよ……運命みたいなものに誘導されてて」
「ふむ、運命か……市ヶ谷君たちと似ているとも言えるか」
パドルが“比較対象”にしているのは、市ヶ谷愛を中心とした“陸自娘”たちである。
彼女らも空間を越える“ゲート”を通じた情報取得の経験が何度もあるが、
自分たちで能動的にそのゲートを作り出して、世界を越えているわけではなかった。
運命を誘い込むように、突然現れた超自然的な現象に、間接的に関わってきただけである。
「そう言えば、彼女たちも異世界との接触経験があるんでしたな」
「ここの事例と似てますね……能動的な干渉ではないが、経験自体は１度や２度ではない」
「けれども、そういう経験値があるなら、情報交換をし易いのは確かだということだ」
そう言って、本郷は小野寺や夏海の方に顔を向ける。
２人も特に反対の意志はないようだ……協力者が増えるのは心強いはずだからだろう。
因みに“ディケイド”門矢士は今ここにはいない……じゃあどこにいるのかというと。
夢の島の最先端、まだ廃棄物が処理されずにうずたかく積み上がっているその頂にいた。
土埃を被った、冷蔵庫のような残骸の上に腰掛けて、手にした何かを見ている。
電子機器の部品のようなものらしく、そこには『怪獣災害保険対象外』などと書いている。
どうやら“怪獣を知る世界”から出てきた廃棄物らしい。
「怪獣災害……か」
新たな異世界に“漂着”するのは既に１度や２度ではなかったが、
怪獣という異種族が棲息する世界にやってくるのは、門矢も小野寺もこれが初めてだ。
しかもこの世界は怪獣だけではなく、ゾイドという“戦闘機械獣”まで既に現れている。
本郷たちとの“再会”で、そのゾイドも自分たちと同様に「世界を越えてきた」と知った。
何度も世界の壁を越えてきた、自分たちも想定外の事態が今、起きている。
門矢は廃棄物から目を上げて、東京湾を眺めた……はるか奥に貨物船とは違う影が見える。
ゾイド紛争後の警戒と海底調査をしている海上防衛隊の掃海艇や作業台船である。
１部の航路は既に再開されているが、まだ海上封鎖が解かれていない海域もあるのだ。
夢の島から荒川を挟んで東側にある葛西公園も、まだ封鎖が解かれていない。
１週間ほど前に、ここでイズキのライガーゼロと無人のデスザウラー、
そして「お台場ガンダムに擬態」したオーディアンのアレクシウス兄弟が激闘を展開した。
その時にデスザウラーを支援して飛来したザバットと、彼らも交戦している。
手当たり次第に乱射されるレーザービームに、光写真館を破壊されては困るからだ。
生きた戦闘機のようなゾイドと交戦するのももちろん、初めての経験だった。
様々な“仮面ライダーの世界”を訪れたことがある門矢は、複数のライダーに変身できる。
その中でも“対ザバット戦”で役立ったのは、空を飛べる“スカイライダー”だった。
機動力では超音速の乱戦に対応出来るザバットに後れを取ったものの、
相手にとっても「空飛ぶ人間大の戦闘員」を相手にするのは初らしく苦戦したようである。
結局撃退するまでには至らず、写真館から引き離して防衛隊に任せるしかなかったのだが。
「……かさ、聞こえてるのか、士！」
門矢が思いに耽っていると、背後から小野寺の声がした。
面倒臭そうに立ち上がって振り向くと、小野寺と夏海、更には本郷とパドルが歩いてきた。
「……何だよ雄介、俺がいなくてもまとまる話だろ？」
「その話じゃないんだ、立川基地に“変身怪人”が現れたらしい、ついさっきだ！」
「変身怪人――だと？ じゃあショッカーか？」
小野寺の“意外な言葉”に、感情の起伏が小さな門矢の表情が変わった。
彼らが“怪人”と呼ぶ場合は大抵、ショッカー連合が絡む“改造人間”を指している。
もちろん錦糸町事件で接触したジャガンのような“例外”もいるのだが。
「どうもショッカーじゃないらしい……けれど、かなり強大な戦闘力を持っていたみたいだ」
「まぁ……ショッカーだけが怪人の生産者じゃないみたいだけどな」
そう言って門矢は自嘲気味に苦笑する……つっけんどんな彼にしては珍しい。
時には肩の力を抜きたくなるくらいに、色々な事件が起きているのは確かだろう。
「だが、東京怪獣事件で関与が疑われている宇宙マフィアが、絡んでる可能性が高いようだ。
そうですよね、パドル大使？」
「目撃された襲撃者の中にゴーディスの戦闘員が確認されてますからね」
パドルが言っているのは、もちろん立川基地で大暴れしたギスターのことである。
「……だから俺にどうしろと？」
「その宇宙マフィアが、ショッカーともつながってる可能性があるんだって」
これは夏海だ……彼女が本郷やパドルから聞いたのは、彼らが来る前の出来事である。
渋谷事件を起こしたショッカー連合の“怪人”が、ゴーディスの機動兵器を試験的に操縦して、
東京怪獣事件を首謀したという流れから、２つの組織の関係が強く疑われるのだ。
そのゴーディスの戦闘員が、今度は単独で戦闘事態を起こしたというのだが、
そこにショッカーとは直接縁がなさそうな、新たな“変身怪人”がいたというのである。
もちろん――アレックやルドルスのことを指している。
「ショッカーの事件はまた起きるだろう……その時奴らは、今回事件を起こしたマフィアに、
新兵器の供給を受けて、想定以上の事件を引き起こす恐れがあるんだ」
「そういうことか……大体分かった」
本郷の追加説明に、門矢の口癖が飛び出した。
「つまり俺たちが、そのマフィアとショッカーの作戦に遭遇するかも知れないってことか」
「可能性は十分あるだろう、君が“仮面ライダーの運命”に引き寄せられているなら、
これから起きる新たな事件と鉢合わせる可能性は、想定しておくべきだ」
「もちろん、我々も可能な限り支援したい……そのための準備はさっきやらせてもらったよ」
どうやら……光写真館にも先ほど、テラゲイトの設置が完了したようである。
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| （１０章８話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2022年に執筆したエピソード。
前話から猛威を振るうギスターに対する作戦がメインではあるが、
“新星モード”を取ったルドルスに対峙するジーラやキトラもポイントになっている。
対ギスター戦では、ザイオノイドを追い詰めるための連携的な飽和攻撃、
対ルドルス戦では“光り物”に依存しない戦士たちの格闘戦で、展開に変化を付けている。
星間安全保障の解説でも書いているように、銀河社会ではザイオノイドを抑止するため、
パワーに依存しない総合的な作戦能力を鍛えていると考えているので、
そのアイデアの１つを提示して、パワーに依存しがちなアクションにしないように努めた。
ジーラの体術も、彼が訓練を重ねた戦闘員である証を見せたかったからだ。
夢の島に隣接した光写真館のシーンはオマケ的に追加したものであるが、
錦糸町事件以降、余り見せ場がないディケイドの「その後」を放置したくなかったため、
新たに予定しているショッカー絡みの事件まで「間をつなぐ」意図から書いた。
この都心から離れたベイエリアに“ＰＡ版光写真館”を置いたのも、
「特撮アクションをし易そうな舞台」を想定している（笑）
ザバットと交戦したディケイドやクウガのシーンは、回想で補完して欲しい（汗）
Ｇフォース科学部に集結した“頭脳集団”もオマケ的なフラグである。
９章５話に登場した篠田と鳥居が、今回正式にこの頭脳集団の１員となっている。
拙著『第２次怪獣大戦争』の主役の１人である鳥居速雄は「軍事への関与を嫌う」ので、
新兵器の開発などには参加させない中で、見せ場を作ることを考えている。
「怪獣との共存」も鳥居の理念の１つなので、そういう方向性で活躍させたい人物だ。
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