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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（ABC24101R） |
（注）当ページには年齢制限情報が含まれております、ご注意ください。
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世界最大の大河の１つである、アマゾン川。
その支流を上り切ったところに、それは存在する。
ボリビアの北東部に当たる、やや標高の高い森林地帯の１角。
エグゼクターの支部であるアクシス・アンデス基地――まぁ事実上、ＡＢＣの専用施設であるが。
だが今――2041年の夏――その施設はすでに廃墟と化していた。
５月に起きた史上空前の超巨大地震“アンデス地震”の直撃を受けたからだ。
マグニチュード１０という桁外れの地殻変動によって、南米大陸全土が揺さぶられた。
特にアンデス山脈の山麓に面したこの一帯は壊滅的な打撃を受け、
ＡＢＣの支部となるこの基地も運営存続が不可能な状態となり、放棄されたのである。
――基地内に安置された、数多くの動けない”実験体”を置き去りにして。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ＡＢＣアンデス基地 〜エヴァノイド・フリージス保護記2041〜
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「――こいつは酷いな」
アクエリアス工作組織・竜王の第４班長、ビリー・ウォンは思わず呻いた。
ヒスパニック系ハーフ、香港のスラム生まれにして、格闘技の天才。
その戦闘能力は第３班長の高山龍二と拮抗し、空間認識に優れた波動能力を秘めている。
そんなビリーですら……目の前に広がる光景は壮絶なものに見えた。
まるで巨大な斧で乱暴に殴られたかのように、ズタズタに切り裂かれた斜面。
本来なら亜熱帯の森林が広がる山岳地帯であるはずだが、
目の前の斜面は地肌が剥き出しとなり、まともに生えている木々がない。
Ｖ字形の深い渓谷も土石流で平らに埋め尽くされ、原形をとどめないとはまさにこのことだ。
「まぁ、そのおかげで、アレに簡単に入れそうですけどね♪」
ビリーの横で、苦笑いするように言うのはアレスだ。
頑丈なウロコに覆われ、頭部に湾曲した角を生やした、巨獣アガルタサウルスのキメラノイド。
顔立ちは未成年かと思うほど若いが、実は2012年生まれですでに30歳近い。
アレスが“アレ”と言うのは、破壊し尽くされた斜面の突き当たりに露出した、灰色の人工物である。
元々は地下の構造物であったのだろうが、大規模な地滑りで掘り出された形になっている。
地味で無骨だが、建造物としての外観は維持しているところを見ると、構造自体はかなり頑丈らしい。
もっとも――内部はミキサー状態と化していることが容易に想像できるが。
「たどり着くまでに――ここの地形が変わらないといいけどな」
ビリーの皮肉に、アレスは無言で肩をすくめた。
何しろ、アンデス地震の本震発生からまだ数ヶ月……今も活発に余震が起きている最中だ。
ブラジル経由でここに来る最中も、かなり強い余震に数回遭遇している。
崩れ落ちてくる岩の塊を僅差で交わしながら、どうにかここまでやってきたのだ。
幾ら竜王のメンバーが猛者ぞろいと言っても、自然の猛威の前には無力と言うしかない。
（画像予定）
「でも何とかたどり着かないと……放置されてる被害者がいる可能性が高いんでしょ？」
ひときわ爽やかな声で意見したのはカラムである。
アイボリーホワイトの肌にオレンジ色の結晶体を生やし、青い髪でグラマーな女性体形が印象的だ。
2019年に地球に“漂着”した、異星起源のミュータント種族ザムノイドの青年である。
ルーツは別の星のヒューマノイド種族で、元は男だったらしいが。
その気になれば、真空の宇宙空間でも裸で生きて行けるほど、高い環境順応性を持っている。
保護したアクエリアスの縁で、竜王に志願して既に10年以上になる。
「情報から推測されるだけだがね……ヘタすれば既に“処分”されている可能性もある」
「あり得なくもないですね……まぁ、あんまり考えたくないですけど」
「だとしても、やっぱりここで退くわけには行かないでしょ？」
「まぁな……ここまで来ておいて、今更後にも退けんしな」
そう言いながらも、ざくざく、とまだ水分を含む硬い泥の上を歩く３人。
踏み締めるブーツの底から、じわり――と茶色い泥水が染み出してくる。
因みに、班のメンバーの半数は、連絡係としてふもとに残してきている。
５分と経たないうちに、問題の元・地下施設の入口にたどり着いた。
地上へと続くエレベータの入口だったらしき、コンクリートの太い筒がぽっきりと折れ、
施設の中へ向かって真っ暗な廊下が続いている。
メンバーがひと通り、その廊下の中へ入った――直後。
出し抜けにぐらぐら、と強い揺れが来た……震度は５強といったところか。
「――ぅわっ！？」
「廊下の奥に行くんだ、まだそっちの方が安全のはず！」
足元をすくわれないように集中しながら、駆け足で廊下を進む３人。
強震は10秒ほどで収まったが、なおも小さな揺れが続いていた。
アンデス山脈の裏側でこれだけ揺れるのだから、震源――西海岸側はかなりの烈震だろう。
実際この空前の巨大地震では、余震ですらマグニチュード８クラスという規模が多発していた。
100ｍほど、進んだだろうか……耐圧扉らしき、大きな開口部の前に来た。
もっともその扉は歪み、半ば開いた状態で放置されていたのだが。
「こんな大きな扉まで、壊れてるなんて……」
「そういえば、廊下の途中にも何箇所か亀裂があったな……大丈夫なのかココ？」
「エグゼクターのことだ……震度７でも壊れないようには作ってるはずだがな……」
“はずだがな”としたのは、確証がないからだ。
しかも１万年に１度も起きないような、空前の地震の直撃を受けたのだ。
無傷で建っている建物の方がある意味、不思議なぐらいである。
「いずれにしろ、ここからが核心だ……気を抜くなよ」
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「こ……これは一体！？」
カラムは――それだけ言うのがやっとだった。
「……俺に聞いても分かんないよ」
アレスも――それだけ返すのが精一杯だった。
ＡＢＣアンデス基地――の廃墟――の捜索を開始して２時間後。
入口から１番奥の倉庫を覗いたアレスが、すぐビリーやカラムを呼んだ。
駆けつけたビリーらは、そこに“置かれていたもの”に言葉を失った。
それは……女性の形をした、象牙細工を思わせる物体の群れであった。
アイボリーホワイトの“彫像”が思い思いのポーズで部屋の端に並べられている。
直立しているもの、座っているもの、寝ているもの。
地震でできた亀裂だろうか、壁と天井の間にわずかに出来た隙間から、細い光が差し込んでいる。
だが――それを目にした時点で、メンバー全員の解釈は一致していた。
ここにあるのは彫像などではない……ＡＢＣの実験で変異させられた“被害者”に違いないと。
何故なら……質感こそ違うが、似たような例が過去にもあったからだ。
あれは……2013年に訪れたサハリンのＡＢＣ基地と、2025年に訪れたチベットのＭＢＳ基地。
いずれも基地の奥に、女性の姿をした“石像”が並べられていた。
それらが人為的に石化された強化人間“メタロイド”だと判明したのは後のことだ。
ここに置かれているものも質感こそ違うが、苦悩の表情を浮かべている点で共通する。
しかも――よくよく見れば、壁に貼り付けられたパネルに、“実験体”のプロフィールが書き込まれていた。
単なる人形ならこんな表示はしないし、こんな地下施設に安置などするまい。
パネルには有機ＥＬらしき小さなディスプレイも付いていたが、何も表示されていない。
まぁ――施設の機能自体が地震で破壊されているも同然なのだから、仕方ないが。
そのおかげでセキュリティもマヒ状態に等しく、ここまで何の妨害も受けなかったわけなのであるが。
「多分――“元人間”なんだろうな」
ビリーが苦渋の表情で、溜息を吐くように小さくつぶやいた。
彼の脳裏には、かつて参加した2025年のＭＢＳ基地潜入調査がフラッシュバックしていた。
その時に保護したメタロイドの１部は、現在もほとんど活性化されないでいる。
  
１番手前にいる“実験体”は、大きく手前に倒れかかっていた。
身長は180cm以上あるだろうか……ここにいる中では最大級の体格を持っている。
太腿の位置に渡されたバーのおかげで完全に倒れずに立っているが、最初は直立していたのだろう。
手前に向かって傾いたのは恐らく――地震発生の時に違いない。
他の実験体にもほぼ共通するが、筋肉質で逞しい体形と、大きな胸部を持っている。
下腹部には女性器のそれを示唆するスリットが、やや前よりに強調するようについている。
これまで保護された――エヴァノイド実験体にほぼ共通する体形である。
「メタロイドとは違うようですね……体組織がそのままの配列で、硬質化しているみたいです」
カラムが実験体を凝視しながら、そう言った。
宇宙生物ザムルと融合したミュータントである彼は、高度な透視能力を持っているのだ。
「こいつらも……生きてるのか？――メタロイドの時みたいに」
「精神存在場の層が見えます……半ば凍結されてますけどね――仮死状態に近いかも」
「つまり、意識はないわけね……まぁ、あってもロクなことはないか、こんな状態じゃなぁ」
「だが……“成仏”してないのなら、再生の余地はあるな」
オレンジ色のクリスタルのような目で、カラムはじっと実験体＝被害者を凝視する。
どうやら――“封印状態”にある、被害者の精神にアプローチしているらしい。
時折、その眉が歪む……ちょうど目を細めて、遠くを見るような表情だ。
念話能力を持つ者は多かれ少なかれ、相手の意識に干渉することが出来るが、
カラムを始め、ザムノイドはその干渉能力が桁外れに高い。
実際、他の者なら永久に復興できなかっただろう、特殊なメタロイドの意識復興もやってのけた。
「カラム……どうだ、引き上げられるか？」
「大分深部に押し固められてますけど……まぁ不可能ではないと思います。
ただ……ここで再生するのは、難しいかも知れませんね」
「それじゃ――さっさとここから出してやらなきゃな？」
アレスの提言に、ビリーも頷いた。
「そうだな……取り合えず、待機組を呼ぼう。 それから輸送車輌も要る」
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――その翌日。
まだ余震の揺れが続くアンデス基地の地下保管庫には、竜王第４班の待機組が到着していた。
因みにビリーら３人は、この保管庫で夜を明かしたのだ。
象牙細工のような物言わぬ実験体と１晩なんて１見不気味だが、保護すべき被害者と分かればどうということはない。
むしろ気がかりなのは、強い余震で基地の天井が崩れないかという問題だった。
何しろこの建築物の上には山が丸々乗っかっている……崩壊したらまず命はない。
体が石でできているメタロイドならまだしも、３人はいずれも“生身”なのである。
「これが被害者ですか……結構多いですね」
眉をひそめて、つぶやくように言うのは、合流した待機組の１人イオン・カッシュだ。
鮮やかなゴールドイエローの肌と真っ青な髪、線は細いがどこか逞しい、女性的な肉体を持つ。
女性型ミュータント“エヴァンス”の特殊個体で、ずば抜けた運動能力を持っている。
上半身では２つの盛り上がりが、しっかりとその存在を主張している。
「この部屋だけで24人はいるな……後、奥の部屋にも12人いた」
「合計36人ですか……それで全員ですか？」
「これまで把握した限りではね……下も覗いたけど、運び出せそうなのはここの連中だけだったよ」
「運び出せそうなのは――って？」
こっちはジールだ……カラムと同じく、異星起源のミュータント・ザムノイドの青年。
ただしカラムよりも線が細く、アウトラインは人間の女性とほとんど変わらない。
「既に処分された実験体もいたってこと……可愛そうだけど、あれはもう生きているとは言えない」
哀しげな表情で、カラムが言った。
夜明け後、待機組が到着するまでの数時間……３人はこの廃墟をくまなく捜索したのだ。
その結果、最も下のデッキにて、“廃棄処分”となった哀れな実験体たちを発見したのである。
粉々に砕かれ、もはや復元が全く期待できない“犠牲者”だった。
「何とか魂を残している可能性があるのは……この３体だけだったんだ」
カラムはそう言って、２つの部屋をつなぐ扉の前に置いた、３体の実験体を示した。
やはり廃棄処分されていた実験体であるが、ボディの半分以上が残っており、頭部の損傷も少なかった。
カラムが透視したところ、封印された精神の痕跡を確認できたのである。
「半壊した被害者でも蘇生できた例はあるからな……取り合えず、搬出するのはこの39体だ」
「そうですか……分かりました」
「それじゃまず、“梱包”する必要がありますよね……自分では歩けなそうですし」
「自分で歩けるどころか、まだ意識も回復してないよ」
「カラムでもダメだったの？」
これはジェフリーだ――地底竜族ジェムルの因子を組み込まれた、半魚人のような外見のキメラノイドである。
やや小柄で少年のような外見を持っているが、竜王のキメラノイドでは年長組に当たる。
その横でジールもカラムと同じように実験体を“透視”しているようで、時折眉をひそめる素振りをする。
「少なくとも、ここでは無理そうですね……落ち着いたところでしっかり呼びかけないと」
「あーでも、仮に意識が戻っても、この組成じゃ動けなさそうですねぇ……内臓とかそのままの形で固まってる、まるで剥製だな」
「こっちの砕かれた被害者だってホラ……足の付け根にはちゃんと骨が見えてるんだよ」
「何とか……蘇生させてあげたいですね」
肩に筋肉の塊を持つ、長身の女性が言った。
いや女性ではない……イオンと同じく、少年が変異したエヴァンス――というかエヴァノイドだ。
18年前にＡＢＣで強化改造を受けた人工のエヴァンスで、名はアルバ。
エスやシンのような筋肉強化を施された結果、今のような独特の体形になった。
身長は実に２ｍを超えるが、筋肉の塊が盛り上がるのは肩や太腿くらいで、全体としてはむしろ細い。
いやもちろん上腕やふくらはぎにも筋肉はあるのだが、全体として“太って”はいないのだ。
山吹色に近い肌の色と、つやつやした真っ青な長髪も印象的である。
「もちろん……だがそのためには、ここから出してやらんとな」
「搬出するための資材はあるんですよね？」
「奥に廃材があった……そいつを使えば何とかなるだろう」
こうして――39名の被害者を“救出”するための作業が開始された。
まず……廃材を適当に組み上げて、搬出の際に被害者を固定する簡易ベッドを作る。
直立状態で固化している者に対しては、荷台のようなものをでっち上げる。
 
１時間ほどで、３分の１ほどの実験体の搬送準備が終了する……手馴れたものだ。
皮肉なことだが、竜王はもう何度も、こういう作業をしてきたのである。
2013年や2025年に、サハリンやチベットのＭＢＳ基地に侵入した時も、
何十という身動きできない実験体――その時はメタロイドだったが――を搬出したのだ。
竜王構成員の多くがこういった実験施設で改造処理を受けた経験があり、
ＡＢＣなどがこうして実験体を搬送するところを見ていたのも、原因の１つではあっただろう。
「よし、取り合えず第１陣を出そう……あ、一応カバーは被せておいて」
ジェフリーの指示に応えるように、アルバがベージュ色の風呂敷のようなものを被せる。
余り公にさらすものではないし、もしもの時に衝撃を吸収する意味もある。
ひょいっと荷台の足元を持ち上げ、保管庫を出て行くアルバとジェフリー。
実験体と荷台を合わせた重さは100ｋｇ近いが、強化人間である２人には何の問題もなかった。
どちらとも、その気になれば同じようにして、車を運ぶことだってできるのだから。
「余震に気をつけろよ……よし、次の個体を運び出そう」
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崩壊した渓谷の底に、戦車ほどの大きさのオフロードカーが停まっていた。
今回のためにチャーターした悪路輸送車両である。
強力なサスペンションとエンジンブレーキを装備し、１ｍはある大きな車輪が６基。
10トン近い貨物を積載し、道なき道を走破することが出来る優れものだ。
もっとも、この空前の巨大地震の直後に、これをチャーターできたのはある意味奇跡だったが。
バケツリレーの要領で、基地から運び出した実験体たちを、
仮設荷台ごと、1.5ｍほどの高さに取り付けられたコンテナの中に運び込む。
搬出作業が始まっておよそ４時間、ほぼ全員の搬出が完了しつつある。
既に全員が輸送車両の足元に運び出され、後はコンテナに引っ張り上げるだけだ。
この間にも何度か余震が起きたが、幸い小規模な落石があったにとどまった。
「何とか終わりそうだね…………あれ、ビリーさんは？」
あと５体ほどで作業が完了するかという時――ふとアルバが、ビリーがいないことに気付いた。
先ほどまで近くにいて、作業を指示していたのだが。
「ビリーさんだったら、さっき建物の中に……資料を探してくるって」
「またあの中に？……危ないなぁ、いつ大きな余震が来ないとも限らないのに」
「被害者の情報は必要だからね……まぁ、アレスが着いて行ったから何とかなるんじゃないかな？」
ジェフリーはそう流したが、そんな彼も本音を言えば心配だった。
いくらアレスが、”地底怪獣”アガルタサウルスの因子を持つキメラノイドだといっても、
もし余震で大規模な山体崩壊が起きれば、助かる見込みは少ない。
この山腹全体が崩れるような事態になれば、何百万トンという岩塊が建物を押し潰すからだ。
山が丸ごと落ちてくるような予報もない規模の崩壊がもし起これば、
強化されたとは言えたかだか150kg余りのアレスが持ちこたえられるはずがない。
（――自分が行った方が良かったんじゃない？）
荷台の上から、“心の声”で話しかけてきたのは、緑色の石像のような姿の少女だ。
実際のところ少女ではなく、アルバと同じ元・少年なのだが。
竜王の直属メンバーではないが、後援メンバーに登録しているキジアだ。
石化強化人間“メタロイド”の実験体だったため、こういう外観を持っている。
動くことは出来るものの、声までは出せないため念話能力を駆使してコミュニケーションする。
（画像予定）
そのため彼の言葉は音声としては聞こえないが、ミュータントや強化人間には感知出来る者が多いのだ。
容姿をバレにくくするため黒っぽい厚手の服を着込んでいるが、
体質的には鉱物の像と変わらないため、強度的には裸でも問題ないくらいだ。
また、体の芯まで継ぎ目のない石になっているため、山崩れにも耐えることができる。
しかし――今回の場合、問題は“そこ”ではない。
「まぁ……キジアさんならまだ、崩落に耐えられたかもだけど……庇い切れないでしょ？」
（あぁ、そうか……もう少し自分が大柄だったらなぁ）
横からフォローするイオンに、落胆した表情を浮かべる緑色の少女像。
キジアの身長は160cm余り……２ｍ近いビリーを崩落から守るには体が小さ過ぎるのだ。
いくら常識を超えた強化人間でも、皆限界を持っているということである。
外のメンバーがそんなことを会話している頃――半壊した地下基地の中では。
「――よし、これでいいだろう……動けばいいがな」
地震の影響で大きく歪んだ壁の中で、ビリーはそう言った。
手にしている何個かの金属の箱に、彼が探している情報が入っているはずだった。
この施設のデータベースに当たる、ハードディスクの束である。
計画的に放棄された基地なら破壊されるか持ち去られていただろうが、
予期せぬ巨大災害で放棄されたこの基地では、発見できると踏んでの捜索だった。
もちろんまだ、ディスクの中身は見ていないため、閲覧できるかまでは分からないのだが。
「早く出ましょうよ、いつ余震が来ないとも―――― ！！？」
ビリーを急かしたその直後――アレスはふと、宙を凝視した……何かを感じ取った顔だった。
「どうした、アレス！？」
「すぐに出なきゃビリーさん……余震が来る、それも大型の！！」
飛び出すようにデータベースルームを２人が脱出した、そのすぐ後だった。
ゴゴゴゴゴ――と腹に響くような地鳴りと共に、ズンと突き上げるような震動。
軽い人間なら、それだけで飛び上がってしまうような強烈な衝撃が、廃棄基地の廊下を強襲した。
「早く出口へ……こいつはかなりでかいですよ！！」
「あぁ分かってる、分かってるとも！！」
ビリー自身もある種の霊感者だ……“これ”が大型の余震であることはすぐに悟った。
真下から跳ね上げるような震動は、間もなく猛烈な横揺れへと変わる。
何度も足を取られ、廊下の壁に半ば叩きつけられながら、２人は必死で出口を目指した。
階段を何度も駆け上がり、激震で埃に霞む廊下を、ほとんど手探りで進む。
そんな中――２人は地鳴りとは別の……メキメキという破壊音を聞いた。
基地の構造体が激しくきしむ音だが……今までの余震とは比較にならないくらいの轟音だ。
もう間違いなかった……建物自体が崩れようとしている！！
頑丈な建物だが、数ヶ月前の本震で、既に構造体はガタガタに破壊されていた。
そんな満身創痍の地下基地が今、完全に崩壊しようとしている。
目の前に光の点が見えた――出口だ。
不吉な破壊音は背後から、そして上からも下からも、２人を飲み込むように迫ってくる。
２人が最後の隔壁の扉を超えた次の瞬間――背後の廊下がごっそりと陥没し、消え去った。
バキバキバキ、と断末魔の音を響かせて、基地の主要部が破壊の渦に飲み込まれていく。
それだけではない――２人が疾走する廊下もまた、崩壊しつつあった。
隔壁の外側にある廊下は内側よりもやや弱い……内側が全壊したということは、すなわちである。
２人が必死に走るすぐ背後で、怪獣に踏まれるかのように廊下が押し潰されていく。
「ビリーさん――ちょっと失礼します！」
「失礼って何の話――ってぬおぉぉぉ！？」
間に合わないと悟ったか――アレスはやおら、ビリーを抱え上げた。
そのままその太い脚に渾身の力を込め、ぐんと加速する。
脚には自身があった――というより、今最も必要とされるべき能力だった。
床に亀裂が入るほどの勢いで脚を踏み降ろし、後方に向かって蹴りを入れるように体を前に放り出す。
ビリーにもかなりの振動が伝わることになるが、耐えてくれると期待した。
人間では絶対にあり得ないほどのスピードで、光の中に突っ込んでいくアレス。
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「――山が崩れる！……くそっ、ビリーさんたちはまだか！？」
「あっ――あそこ……アレスさんが！」
「アレスだって！？ ビリーさんは！？」
「腕に抱えてます！！」
勢いに任せて飛び出したアレスのすぐ背後で、基地の廊下が土砂に呑まれた。
まさしく――間、一髪。
アレスはそのまま、ビリーをしっかり抱えたまま、転がるように斜面を駆けてくる。
しかしその背後にはまだ――“襲撃者”が２人を諦めていなかった。
斜面を雪崩落ちてくる灰色と茶色の岩塊が、２人と２人を待つ輸送車両に迫ってくる。
そのずっと上――山の稜線がぐらりと傾くのが見えた。
大型の余震が起こした地底部の大規模な地滑りに呑まれ、山体そのものが崩壊する兆しであった。
間もなく……この渓谷部一帯が、大津波のような土石流に襲われることはもはや明らかだった。
否――既にその“山津波”の先端部が、アレスたちを追撃していたのである。
その高さ、優に30ｍ以上……待機中の輸送車両の、ほんの100ｍほど先のことだ。
「うわぁぁぁ！？要らないのまで着いて来たっ！？」
「イオン、車を出すんだ！」
「えぇ！？ まだ２人を収容してないけどっ！」
「乗せてから発進したら間に合わないよ、２人を信じるんだ！」
ジェフリーの声に促され、イオンが車両を発進させた。
華奢にも見える体で、しかし力強くギアを倒し、アクセルを踏む。
応えるように、６つのタイヤが激しく回転し、車体を前方へ押し出した。
余りの急発進だったためか、荷台のコンテナに載せていた被害者の何体かが、ごとりと倒れ込む。
荷台にいたキジアは、自分に倒れかかってきた被害者を支える形になる。
（わわっ、後ろ、倒れちゃったけど！？）
「今は気にしてる暇はない……可能な限り全速で！」
「アレス、ビリーさぁん、こっちです〜〜！！」
「……先に発進なんて、薄情ですねぇあいつら」
「いや、賢明な判断さ……俺たちの後ろにいる“ヤツ”を見ればな」
「まぁ……俺が運転席にいてもそうしたでしょうしねぇ」
その驚異的な速力で、アレスは徐々に、疾走する輸送車両へ追いついていく。
既に余震自体は終息しつつある今、さっきより加速も加えやすいからだ。
更にキメラノイドとしてのパワーだけではなく、実はブーツにはパワーアシスト機構が組み込まれているのだ。
土煙を上げて爆走する６輪トラックの横には、アルバが縄梯子を下げている。
背後から襲い来る土石流も含め、全てが時速100kmを超える世界で展開されている。
何度も大きな瓦礫に乗り上げ、そのたびに大きく跳ね上がる輸送車両。
その余波で転がってきた、１ｍ余りもある大きな礫を、アレスは跳躍して交わす。
転がり止まった礫は、すぐに背後の土石流に飲み込まれ姿を消した。
「イオン、エアバッグの準備を……飲み込まれても上に出られるようにね」
幼そうにも見える容姿とは裏腹に、ジェフリーは冷静に次の指示を出す。
隊長のビリーがアレスの腕の中にいる今、実質的に彼が臨時の隊長とも言える立場だったからだ。
今はまだ土石流との追いかけっこが続いているが、どのみちいずれは呑まれてしまう。
それを予期した判断であった……イオンも計器を確認し、覚悟を決める。
疾走するアレスが、輸送車のすぐ横にやってきた――迷わず、縄梯子に片手をかける。
見計らったように、アルバがその腕に渾身の力を込め、縄梯子を引き上げた――その刹那。
アレスの足元が礫の濁流に飲まれ、車体が激しく揺さぶられた。
（うわあぁぁぁ！？ まさか呑まれたっ！？）
「アルバ――手を放すなよ！」
「分かってるよっ！！」
荷台に端が固定されているとは言え、縄梯子の運命はアルバが握っているも同然だ。
いや――縄梯子だけではない、そこにぶら下がっている、アレスとビリーの運命もである。
正しく今こそ――筋力強化型として改造された、アルバのポテンシャルが試されようとしているのだ。
土石流は容赦なく車両の下部を飲み込み、上からも覆い被さろうと迫り来る。
荷台の上に置かれたコンテナの屋根にも、小さな礫が火山弾のように落ちてくる。
アルバはそのコンテナから半身を出し、２人がつかまる縄梯子を全力で支え、持ち上げようと奮闘する。
巻き上げる礫と降りかかる土砂で、視界が茶灰色に染め上げられる……それ以外は何も見えない。
まるで――竜巻に飲み込まれてしまったような光景だ。
イオンは迷わず、エアバッグの起動ボタンを押した。
ボンッ――という音と共に、激流に翻弄される車体がぐっと浮き上がった。
にわかに腕が軽くなったアルバは、２人が手を放したのではないかと心配した――だが。
「――うおぉぉぉぉっっ！？」
「え？――うわぁぁぁぁっっ！！」
突如アルバの視界に２人が飛び込み、そのまま荷台に向かってアルバもろとも突っ込んだ。
ガタガタと再び被害者の１部を突き倒し、コンテナの中に雪崩れ込む３人。
我に返ったアルバは、すぐにコンテナの扉を閉めた――それでも、土砂の流入を許したが。
「あ、いててて……」
「一体……何がどうなって！？」
「多分――エアバッグに跳ね上げられたんだろう……下にいなくて助かったな」
土砂まみれになって苦笑するビリー……腕にはディスクの袋をしっかり掴んでいた。
アレスはビリーを離し、自らは床にうつ伏せになって荒い息をしている。
無理もない……渾身の激走を何分も続けたのだから。
車体の揺れが少しずつ収まってきた……フロントガラスはなおも視界不良だったが、
時折見える渓谷の斜面が、土石流の上面にいることを示唆させた。
「無線が使えるなら下流の町に警告を……さて、被害者に詫びを入れないとな」
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に初めて執筆したエピソードだが、2024年に再編・改修している。
アレムやラングなど、硬化処理されたエヴァノイド・フリージスを竜王の有志が保護する物語である。
変異素体の画像を使うためシークレット・コンテンツになっているが、全体的にアクションが多めであり、
アクションシーン自体は普通に異能ドラマに使えそうなものになっている（笑）
因みに草案ではビリーを抱えて走るのはアレンだが、３次創作キャラのためアレスに変えている。
他のメンバーは草案と同じで、カラムやジールといったザムノイドに加えて、エヴァンス高位体のイオン、
キメラノイドのジェフリー、エヴァノイドのアルバ、メタロイドのキジアなどが登場しており、
竜王に関わるサイバーキッズたちがどんな活動をしているかを描くことも狙いの１つであった。
アンデス地震はヨハネ黙示録に書かれた「史上最大の地震」をネタにした終末的ディザスターの設定だが、
草案は東日本大震災が起きるよりも前に書いたものだったりする。
当時からＭ９クラスの地震がいずれ起きるという予感があったが、東北沖はG-maもノーマークだった。
今振り返ると、東日本大震災の直前にこのエピソードを書いたことに妙な縁を感じてしまう。 |
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