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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722A） |
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防衛省臨時特殊事態調査室――通称“防衛特調”。
立川基地の司令部に併設されたこの小さな会議室は、しかし非常事態における初動の要石である。
特生防衛隊の高官である黒木翔特佐を室長とし、非常時における初動のほぼ全権を任されている。
……実のところ黒木は“暫定室長”として就任したのだが、なし崩し的に正規の室長と化していた。
まぁ、富谷や権藤、尾形や本郷といった有能なブレーンがいたためでもあるが。
防衛特調自体、まだ組織されてから１週間も経っていないが、その成果は早くも現れていた。
その代表的なミッションの１つが、一昨日、日向灘と東京湾岸で同時に発生した“機獣事件群”の対策である。
当初は別々の“特殊事態”だと思われたこれらの事例が、時空を超えて出現した“干渉者”によるものであり、
“ゾイド”と呼ばれる、サイボーグ化された金属生命体という共通項を持つことが判明したのは、
昨日の夕刻――金芽台でアヤカシ事件が起きた頃だ――のことであった。
「例の機械獣に乗っていた人間、か……」
7月22日午前9時過ぎ。
防衛特調の会議室――事実上、ここが今の黒木の執務室だ――に入った黒木を待っていたのは、
機械獣“ゾイド”に搭乗していたというパイロットの移送に関する報告であった。
つまりより詳しい事情聴取を行うために、東京都心部へ移送するプランが立てられたのである。
４日前の18日に、石巻から同様にして要人たちを東京に移送したように。
副長の木乃が手渡した、移送計画を記載した薄い報告書を眺めながら、黒木は小さな溜息をついた。
「どちらもまだ少年じゃないか……」
「昨日のパドル大使の話だと、江戸川区で確保した方は『仲間がいる』と言っていたそうですが、もしや？」
「えぇ……」
もう１度――小さな溜息を重ねる黒木。
「妙なことにならねば良いですがねぇ……」
「妙なこと、というと？」
「……これまでも、幾つもの事件が連鎖的に絡み合い、新たな事件を引き起こしてきたじゃないですか」
「……つまり、これも“フラグ”じゃないのかってことですかね？」
「不吉な話をしているのは分かってます……ですが、危機管理とはそういうものでしょう」
実は会議室に入る前から、黒木は奇妙な胸騒ぎに襲われていた。
その時、佐津間が会議室に入ってきた……自衛隊員の彼も、防衛特調の重要なクルーなのだ。
「室長、目黒の三宿基地より“轟鯨”が発進したとの事です。これより“葛西の現場”に向かうと」
「分かりました、手際よくやるように。 日向灘の方も今日中に目途をつけるべきでしょうね」
「日向灘の島の機械獣の移送については、国連太平洋軍が名乗りを上げているようですね？」
佐津間の言葉に黒木は頷いた。
「ハワイの第１艦隊に配備されている、ガイア級重強襲母艦の“ホーネット”を輸送に使うアイデアを、
同艦隊のパウエル大佐から昨日電話で提案されたのですよ……考えておきますと伝えました。
まずは関係者への聴取が先だと思っていますのでね」
「そうですね……」
「あぁそうだ、木乃副長は昨日金芽台で保護した子たちの方をお願いします、大賀警視の補佐ということで。
セイヴン殿にも、引き続き関わって頂くようお願いしています」
「了解しました……ところで、一昨日立川基地に誘導した女性たちの方は如何しましょうか？」
木乃が言っているのは、江戸川区のゾイド暴走事件と同時に“出現”した少女たちのことである。
国連太平洋軍第３艦隊が保護した“艦娘”たちに似て、こちらは“陸自娘”と名乗り、
自衛隊兵器や駐屯地の“記憶”を持つ異世界の“化身”であることを、20日に出遭った際に証言している。
「彼女たちはどうも、自衛隊と縁があるという主張をしていますので、佐津間３佐や権藤２佐にお願いしようかと」
「そうですね……世界が違えど、自衛隊なら共通する知識もあるでしょう――多分、ですが」
しかし彼らはまだ知る由もなかった。
この7月22日が、世界の常識を根底からひっくり返す“大災厄”として、後に記憶されるであろうことを。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の１
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その金芽台。
「――へぇ、今日、上野に行くんだ？」
金芽台中央駅前にある駅前病院の３階で、ベッドの上で上半身を起こした少女が言った。
昨日起きた“アヤカシ事件”で保護された加奈である。
「うん、月曜日だし、日曜日よりは空いているかなーって」
ベッドの横で応対するのは冬雪を始めとした“異世界召喚女子”である。
以前から計画していた“上野観光ツアー”を実行するため、既に準備を整えて病院にやってきた。
「ごめんねぇ、こんなじゃなかったら、一緒に東京案内できたのになー」
「加奈ってそんなに上野に詳しかったっけ？」
「えーーーっと……」
ニヨニヨして突っ込んだ咲の言葉に加奈は目を泳がせた……要するに旅行したいだけらしい。
せっかくの夏休みだもんな、分かる。
「でもホント、加奈ちゃんが無事で良かったよ……俺、心臓止まるかと思った」
「えーそんなに心配してくれてたんだ、ごめんねぇ」
「誘拐犯まだ捕まってないみたいだから、みんなも気をつけてね？」
さすがに――宇宙人とアヤカシが、少女たちを“銅像化”して閉じ込めていたとは発表できない。
そのため事件を収拾した警察は、誘拐犯に拉致された少女たちが、
睡眠薬を飲まされて金芽台学校旧校舎の地下室に監禁されていたと発表した――大賀警視の配慮である。
加奈を始め、保護された７人の少女はライカによって“復元”されたが、記憶はないようだ。
「全く、最悪のロリコン野郎だよね……見つけたら正拳突き100回の刑だな！」
「お巡りさんの邪魔しちゃダメよディアス君？」
「……ほーい」
彼女の仇を討ちたい気持ちは分かるぞディアス君、だが公務の執行を妨害してはいけないのだよ。
「じゃあ行ってくるね……無理しないで、お大事にー」
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・
……そのちょっとだけ前。
ジリリリリリリ！！
（ほら起きろ。時間だぞ）
「んっ…………朝かぁ……はぁ、今日も暑いなぁ」
7月22日午前8時30分。
目覚まし時計のけたたましい音と、自分の中に共存する“中嶋一也”に煽られてカズヤは起床する。
折角の夏休み、もう少し寝ていたい所だがそうもいかないし、おまけに朝から暑い上にセミもやかましい。
カズヤは今日、自分の通う小学校にある動物小屋の掃除当番のため、登校しなければならないのである。
もともとカズヤの学校――市立金芽台小学校では、夏休みになると決められたクラスの生徒が、
交替で週１回、学校で飼っている動物小屋の清掃を担当する事になっているのだが、
今週がまさにカズヤと、もう１人のクラスメイトの番なのだ。
カズヤはパジャマから普段着に着替えてリビングに行くと、既に母親が朝食を作って待っていた。
「あ〜おはよ〜」
「あらおはよう。そろそろ起こしに行こうかと思ってたんだけど、最近は自分で起きられるようになったのねぇ」
「別に起きたくて起きたわけじゃ……いや何でもない。いただきま〜す」
カズヤはテーブルに座ると、挨拶もそこそこに朝食を食べ始める。
この中嶋一也が頭の中に住み着いてからというもの、ぶっちゃけ24時間家庭教師がくっついているのも同然で、
好き嫌いしようものなら小言を言われ、夜更かしや朝寝坊しようものなら叱責され、
あまつさえ夏休みの宿題を放置しようものなら延々と説教されるため、
夏休みにおけるカズヤの生活サイクルはかなり修正されている……不本意、ではあるが。
「ごちそうさまっと……」
ピンポーン。
カズヤが丁度朝ご飯を食べ終わった後、家のチャイムが鳴った。
「あっ、先生来たわよ。 は〜い！ ほらカズヤも先生を待たせちゃダメよ」
母親に急かされてカズヤが玄関から出ると、そこには担任の金田と、クラスメイトの難波哲朗が待っていた。
「あぁ、おはよう御座いますお母さん」
「う〜っす、おはよ〜さん」
「おはようございま〜す……」
「おはよう御座います先生。それじゃカズヤ行ってらっしゃい」
こうしてカズヤと哲朗は、担当教師・金田と共に学校へと向かって歩き出した。
ふとカズヤが振り返って自分の家の屋根を見ると、“ピンク色の何か”が屋根の向こうに隠れるのが見えた。
それは紛れもなく、この間自分が“第４種接近遭遇”しちゃった“ＥＴ”に間違いなかった。
「いるよアイツ……」
「え……何がおるって？」
「おら、無駄口叩いてないでさっさと来い。はぁ全くめんどくさい、
何で俺がコイツらに付いて行かなきゃならんのだ。本当に今年は厄年だな……」
非常事態の続く日本、その煽りはこの金芽台とて例外ではなく、
未成年が学校の用事などで外出する場合は、保護者および教職員がその児童に随伴する事が、
この夏休みの間義務的要請として教育委員会から通達されていた。
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日向灘に出現した小島――マナウィ島とグイディオン島。
伊豆大島とほぼ同サイズのマナウィ島は中央に盆地があり、大きな軍事基地が建設されている。
隣にある小豆島サイズのグイディオン島には盆地はなく、マナウィ島より険しい地形で南側に狭い平野がある。
もちろん――48時間前には、島も基地もこの海域には存在していなかったのだが。
その基地の１角に“現場指揮所”が作られたのは、昨日の夕刻であった。
データベースルームからさほど離れていない、格納庫をつなぐデッキに急遽設けられた迷彩カラーのテント。
デッキからは基地の広場――昨日恐竜型ゾイド“ゴルドス”が現れた場所だ――と、
多数の機械獣＝ゾイドが格納されている格納庫の両方を、数秒以内に視野に収めることができる。
「う……う〜ん、あれ、ココは……？？？」
そのテント内で、１人の少年が目を覚ます。
「おぉ、起きたか」
「…………おじさん誰？」
「……あぁ、私は海上自衛隊の八重山時史という者だ、ここの指揮をしている」
「ヤエヤマ？ あ〜、あの変なおっさんといた人か」
寝ぼけ眼をこすりながら、少年は何かを思い出したように呟く。
少年は昨日、基地内で暴れ出したゴルドスを止めた、ライオン型ゾイド“ムラサメライガー”に乗っていた。
降りて来た彼に八重山たちは事情を聞こうとしたのだが――少年は開口１番「お腹が空いた」と空腹を訴え、
提供した自衛隊の糧食５人前をたいらげたかと思うと、そのままテントの中で眠ってしまったのだ。
あっけに取られた八重山たちは、事情聴取を翌日に持ち越すしかなかった――というわけで現在に至る。
因みに“変なおっさん”というのは恐らく、調査に同行したアイレスのことを指しているのだろう。
若い顔立ちの青年だが、少年から見ればおじさんに違いはない。
「で、ココはドコだい？」
「ここは“マナウィ島”という島らしい……で、そういう君は？まだ名前を聞いてなかったと思うが……」
「えっ、オイラ？ オイラの名前はトキヤ・フォーレンって言うんだけど」
「ふむ、トキヤ君だね。君は一体どこから来たのだね？」
「ん〜と、○×▽◇ってトコ」
この時、八重山はアイレスに言われていた言葉を思い出した。
――もしかしたら彼は、私と同じように地球外から来た、つまり宇宙人かも知れません。
一昨日の昼、東京で起きた事件の当事者もそうだとパドル大使が言ってました。まだ彼との関係は不明ですが。
なのであまり頭ごなしに否定などせず、情報収集だと思って会話を合わせてください――
「……そ、そうか。いや、君も大変だったね」
「うん、でさ、バイオゾイドと戦っていたら急に竜巻みたいなのに襲われてさ。
で、なんか変な所に飛ばされたらまたバイオゾイドがいて、そしたらまたまた変な嵐が起こって……」
「えっ……何……ゾイド……と戦ったって？ 君のその……“世界”では、あの機械獣と戦ってたのかい！？」
「そうなんだよ〜 アイツらのせいでオイラ達も他のゾイドもすっごく迷惑してるんだよ。
昨日もてっきりあいつらが操っているのかと思ったけど違ったね」
「……そうなのか。君も苦労しているんだね……」
世間話のように饒舌に話すトキヤとは対照的に、八重山の方はと言うとただただ相槌を打つだけ。
無理もない……「宇宙人かも知れない相手」と同レベルの会話などできるはずもない。
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１方アイレスはというと。
「なるほど…………ここは我らの星ではないというのか？」
「そうです。信じられないかも知れませんが、ここはあなた方のいた星とは別の星なのです」
トキヤ少年が乗っていたライオン型ゾイド・ムラサメライガーと、下の広場でコンタクトを取っていた。
ムラサメもまた、怪物然とした姿に似合わずアイレスの話を真摯に受け止め、静かに答え返していく。
「恐らく、あなた方が遭ったという嵐こそが空間の歪みであり、それにあなた方、
しいてはこの土地そのものが巻き込まれた結果、ここへと流れ着いた……と考えられます」
「…………確かに、言われて見れば何かあの頃とは何か違うな。
あの城にあったゾイドも我々が生きていた時代とはだいぶ違うものも多いし、
“マヴィノ”や“マナウィ”なんて島の名も聞いたことがない」
「城？ あぁ、ここの基地の事ですか。そういえば、東京にもう１体ゾイドらしきものが現れたそうですが、
もしかしてあなた方のお仲間では？ 白っぽい色をしたライオン型の個体だそうですが」
「……？ もしかしてあの時、バイオゾイドと戦っていた奴らの内の１機の事か？
その時はどちらかというと青っぽい色をしていたが……」
「あぁ、多分それでしょう。最初現れた時は、青い増加装甲ををまとっていたようですし」
「どっちにしろ私達の仲間ではないな。奴らも我々がいた場所では見た事がないものばかりであった。
それにしてもこの城に置かれているゾイド達はえらく知能が低いな。
無論、種類によって多少の差はあるが……あれでは獣と変わらないではないか？」
ムラサメは呟くようにそう言うと、軽く首を振る……４つ脚で立っているとはいえ、その仕草は実に知的だ。
「あなたは他種と言語でコミュニケーションが取れるようですが、
この基地にあるゾイドは野生動物をそのまま改造したもののように見えますので、
多少の知性はあるのでしょうが、文明的とは言いにくいかも知れませんね。
……ということは、あなたの世界のゾイドは全て喋れるのですか？」
「大半はな。そうでないものも居るが、ほとんどのゾイドは乗り手と思考を交流させる事はできる。
我らの体はそれぞれ己で見出した使命や主とみなした人間に与えられた役割の元、
己の意思と人間の手によって、初めてこの鋼の体になるのだ。
そうやって私のように闘うものも居れば、ただ人の生活のため働くものもいる。
“ゾイドあってこそのヒト、ヒトあってこそのゾイド”、互いが繁栄するにはどちらも必要不可欠な存在だ。
私とトキヤがそうであるようにな」
「なるほど……つまり“共生関係”にあるわけですね、素晴らしいことだ」
「だが、そうは思わん者共もいる。バイオゾイドという連中だ」
そう言ったムラサメの声のトーンが下がった……表情は分からないが、暗い感情は伺える。
「バイオゾイド？」
「一体何時何処で生まれたのかは誰も知らない。突然現れた謎のゾイドの群れだ。
我らとは別の進化を遂げた種族とも古代に作られた者達、あるいは封印されていた魔物……とも言われているが、
どれも定かではない。ただ、奴らは今の我らとヒトの関係を否定し、
“ゾイドこそ世界に支配者たるべし”と人間達に争いを仕掛けてきた。
当然私を始めとする大勢のゾイドや人間達はそれに抗い、今日まで戦闘を繰り返してきたのだ。
我らがこの地に流れ着いた日もそうだった」
「そうなのですか…… ――ん、あなたさっき言ったライオン型ゾイドが、
その“バイオゾイド”と戦っていたと言ってましたが、もしやそのバイオゾイドもこの島に来ていたと？」
「……あの夜すでにこの島に来ていたと言うのならそうなのだろう。もうここら辺には居ないようだが……」
アイレスに何か嫌な予感が過る。
この島、いやマヴィノ諸島にあったもの全てが地球に流れこんでいるとしたら、
彼の言うバイオゾイド達も地球に来ているのではないか？と。
そう感じたアイレスは、さらにそのバイオゾイドについてもう少し踏み込んで聞いてみた。
「……そのバイオゾイドについて、もう少し教えて頂けませんか？ 例えば形態とか能力とか……」
「姿はそうだな……まるで竜の骸骨だ。銀色に光る骨のようなもので体を覆っている。
この銀の体がやっかいでな。あの体には並の砲弾や光弾は通用せん。
効くものといえば私が背負っているこの“刀”を始めとする一部の武器のみだ。
だが、何より恐ろしいのは――奴らは同族以外のゾイドも操る事ができる事だ」
「と、言われますと？」
「人とのつながりが薄いゾイド、あるいは無いゾイド。奴らは自身の意思を使って、
そういったゾイド達の核に働きかけ、己の傀儡とする能力を持っているのだ。
われらの時代ではそういったゾイドはそれほど多くなかったが、そうだな。
特にあの城に置かれているゾイドは総じて危険だろう。知能も低いうえ、
元より人間達とのつながりもほとんどないようだしな」
「……そうですか、貴重なお話をありがとうございます」
「うむ、所でトキヤは今どこに……？」
「あぁ、彼なら今あの基地で話を聞かれていると思いますが？」
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「でさぁ、あの時は崖の上から襲ってくるバイオラプターの群れをムラサメがバッサバッサと切り伏せていって、
そんでもって次の戦いではバイオメガラプトルが罠を張ってたんだけどそれもオイラたちの連携プレーで……」
「う……うん、そうか凄いな。いや……ホントに」
八重山は自分の理解を超える彼の話に、ただただ乾いた声と張り付いた笑顔で答えるしか無かった。
こうして今日もまた、クエスチョンマーク症候群の罹患者が増えて行く。
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再び金芽台。
“異世界召喚組”の溜まり場と化している、サイトＧ３階ホワイエ。
ホーリーメイデンズ組が上野に出かけた後も、わいわいと賑やかな空気がある。
何しろ２日前――“陸自娘”の１団が、新たにこの施設の住人となったからだ。
代表格である市ヶ谷愛は、事実上の防衛特調メンバーとして、立川基地に入り浸りであるが、
他の陸自娘はまだこの世界に慣れていないのもあって、サイトＧを離れる機会が余り多くないようだ。
因みに彼女たちは５階よりも上に個室を与えられている。
「――くっ、くそっ、ダメか！」
ぷはぁっ、と大きな息を吐いたのは習志野だ……目の前にはジーラがいる。
陸自娘の“宿敵”マグマ軍を思わせる黒い獣人に、習志野は来訪１番、ケンカを売りかけた相手だが、
味方と分かると打ち解けるのも早い……“体育会系”なのも１因だろう。
「おー、結構持ったねぇ今度は、上等上等ｗ」
どうやら――習志野はジーラにアームレスリングを挑んでいたらしい。
ジーラは素手で鉄骨を曲げる怪力の持ち主だが、習志野も恐らく「普通の人間よりは強い」のだろう。
もちろんジーラも、相手の力に合わせて自分の力をセーブできる。
「何の、まだだ、もう１回！」
「その『もう１回』何回目だよｗｗｗ」
少し離れた席では、夕張と大宮が“テック談義”をしている。
２人の“得意分野”は少し違うが、夕張は戦艦フィラデルフィアの目撃談で大宮の関心を引いたらしい。
横にはアイナが座って、適当に相槌を打っている。
「……恐らくそれは、粒子ビーム砲ですね」
「実弾じゃなくてエネルギーを撃ち出す兵器ってのは聞いたんだけど……あなた知ってるの？」
「研究段階でしたけど、次世代兵器としてメーサー兵器と共に扱われていたんです。
プラズマを指向性エネルギー弾頭にするので、マイクロ波ビームのメーサーよりも難しいんですが」
「……へぇえ、興味深いなぁそれｗ」
「フィラデルフィアのプラズマキャノンは核融合炉のエネルギーを直接使っていたんじゃないかな。
自分も詳しくは知らないけど、実弾よりは融通が利くよね」
「戦艦大和の主砲よりも大きな粒子ビーム砲か……ロマンですね、あぁバラしてみたい♪」
ちょっとアブない妄想にうっとりとする大宮から更に離れた窓際には、瑞鶴と鯖江……とザラク。
こちらは“元いた世界”の類似性と、“今いる世界”のギャップで盛り上がっている。
「……そう、あなたの世界も荒廃していたんだね」
「ホント、似たような世界に生まれたんだね……鯖江さんって、他人の気がしないわｗ」
「そっちの世界の……深海棲艦、だっけ。海と地下の違いはあるけど、確かによく似てるよね」
「それに比べて……加賀も言ってたけど、ここは平和。まぁ色々ややこしい事件は起きてるけどさ」
「確かに……こういう風景は、何だか守りたい気がする」
「火山帯を根城とする地下種族か……どこの世界にもいるんだな」
「ザラクさんの世界にも、そんな種族が？」
「人間界に大々的にケンカを売ってきたわけじゃないが、地下空洞で暮らす竜人族がいたよ。
うち１種はギガンサウロイドの亜種……つまり、俺の近縁だ」
「マグマ軍は爬虫類というよりも、昆虫に近かったみたいですけどね」
「はーい皆さん、お茶ですよー」
そこにスミレが階段を上がってきた……お湯のポットと茶葉のティーパックを盆に乗せて。
それをホワイエの入口で陽炎姉妹が引き継ぐ。
「お茶って聞くと、金剛はん思い出すわー」
「あっちは紅茶じゃないの、“お茶”って言った試しがないしｗｗｗ」
「金剛はん、石巻で今頃何してるやろか？」
「フィラデルフィアの人たちに紅茶でも配ってるんじゃないのｗ」
紅茶以外は連想しないのか。
その時――ガタタ、ドドドと重い音が階段室に響いて、上から真っ赤な少女が転げ落ちてきた。
豪快に階段を落下してきた赤い少女――ルイに、異能娘たちの視線が注がれる。
（――痛っったぁあぁ……！）
「あらら、大丈夫、ケガしてない？」
「……ルイさん、相変わらずだなぁ……大丈夫だよ陽炎さん、ルイさんも頑丈だからね。
それよりも階段壊れてないか心配」
（ちょっ、スミレさん！？）
「大丈夫みたいだよ、この建物かなり頑丈に作られてるみたいだからｗ」
にこやかにフォローしたのはラティスだ……１方アイナはそんなルイを見て苦笑している。
どこかで似たような風景に遭遇したことがあるのだろうか。
「……ところでルキさんたちは？」
（……もうすぐ降りてくるよ、あの子らもまだ慣れてないからさ）
「ルイさんの適応力が高すぎるだけってことねつまりｗ」
（スーミーレーさーん？）
平和だなぁ。
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ほぼ同時刻、東京都江戸川区の江戸川警察署。
「ちょっ……エリル、そのアイアンハンマーナックルはやめ―――はっ、夢か」
イズキは幼馴染みの鉄拳を喰らう夢を見て飛び起きた。
「…………でもこの状況は夢じゃないと……」
彼がため息をついたのは、警察署の留置場内……硬い寝床と鉄格子が、今のイズキの立場を象徴する。
容疑は大型機械による器物破損――もはや言うまでもないが、原因はライガーゼロの暴走による。
暴走開始から、パドルの呼びかけによってライガーゼロが落ち着くまで10数分。
この間、爆走するライガーゼロによって被災した電柱や信号機は100基を越え、被災した建物は30棟を超す。
しかもライガーゼロが駆けずり回った江戸川区の主要道は、ひび割れだらけでほぼ完全に通行不能。
電柱の倒壊によって停電のあおりを受けた世帯は1,500戸を超えている。
脚の生えた新幹線が暴れ回ったようなものなのだから、こればかりはどうしようもない。
死傷者がいないことがむしろ奇跡だと言えるが、それでもそこらの物損事故とはスケールがまるで違う。
ライガーゼロの正体を知らないマスコミの１部は、「試作兵器の暴走か」などと騒いでいるようだ。
「あ〜あ、俺ってこのままムショ暮らしかなぁ……」
と、簡易ベッドに寝転んで黄昏ていると、鉄格子の前に警官が来て、鍵を開けながらイズキに話しかけてきた。
「出ろ。お前に移動するよう上から達しが来ている」
「えっ、移動！？ どこに？？？ まさかもう裁判すか？」
「知らん、良いから出ろ。お前の身柄はこれから“特調”が預かるそうだ」
イズキが職員に連れられて警察署を出ると、そこにはものものしい格好の兵士らしき人達と、
これまた迷彩色のいかつい軍用車両が待っていた。
そのままイズキは、軍人らしき人の元へとその身柄を引き渡される。
「君がパドル大使の言っていた少年だな。早く乗れ。君をこれから目黒の三宿基地に移送する」
「あっ、あの〜……俺のライガーゼロは…………？」
「らいが……？ あぁ、あのロボット獣の事か。それも一緒に運べと指示されている――ほら、あれだ」
言われてイズキが見ると、大きな暗緑色の飛行艇が２機、低空で滞空しているのが見えた。
飛行艇の真下にライガーゼロが置かれているらしい……ジェットエンジンの重い爆音が響いてくる。
陸上防衛隊が保有するホバージェット飛行艇“轟鯨”……閃鮫を大型化した輸送機である。
吹き下ろす気流で余計な被害を出さないようにするためか、２機の轟鯨はゆっくりと旋回している。
クレーンによる試験測定と、マナウィ島基地のデータベースにあった類似機種の記録から、
ライガーゼロの推定重量が割り出され、これに見合った推進力として２機の轟鯨が派遣されたのだ。
轟鯨の運搬力は50トン余り……対してライガーゼロの推定重量は約80トンとなっている。
20ｍ以上ある大型機械なのでもっと重いと最初は思われたが、それこそ新幹線と大差ないらしい。
新幹線は16両のフル積載で約1,000トン……１両だと50〜60トン程度になる。
「あ〜ちっちゃいな〜、あれで運ぶの？ ねぇ大丈夫？？？」
「うるさいな。いいから乗りなさい、君を待っている人達がいるんだ」
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そんな“暴走現場”からさほど離れていない、葛西臨海公園。
お台場とディズニーランドに挟まれたウォーターフロントの緑地公園である。
完成当時東洋最大と言われた――今は抜かれている――直径115ｍの大観覧車が目玉であるが、
両側のスポットが全国区の観光スポットだけに、やや地味な印象もないではない。
そんな葛西公園のシンボルにて――
「うわ〜高いね〜 ほらほら零児、見てご覧よ。ここからなら東京湾も一望よ！」
60基あるゴンドラの１つに、２人の少年と少女が乗っていた――安室姉弟である。
２人の乗るゴンドラは、もうすぐ天辺に到達する……最後部を示すアンテナが、少しずつ近づいてくる。
もっとも……そこから見える海の方を見ながらはしゃぐ姉とは対照的に、
弟の零児はというとぶすっとした表情のまま特に言う事もなく、ただただ陸側をぼんやりと眺めていた。
「んも〜、せっかく来たんだからもっと楽しみなさいよ〜、せっかく来たんだから！」
「だったらせめて隣のディズニーランドにしてよ！ なんでよりによってここなんだよ！！」
「あ……えっと……それはその、予算の都合というか何というか……」
唯が押し黙ると、零児は再びそっぽを向くようにまた陸側の窓の方を向く。
はぁ、と小さな溜息を吐く唯……いじめに悩む弟を元気づけようと、部活を休んでまで連れて来たというのに。
もっとも実を言うと、最初はここではなく、お台場方面に向かう予定だったのだ。
お台場には有名なロボットアニメ『ガンダム』のテーマパークがあるからだ。
何しろ零児は、自他と共に認める熱心なガンダムファン……語り始めると１時間は止まらないほどだ。
……だが、現在お台場の中枢部は立ち入り禁止になっている。
10日近く前、夏休みに入る前に起きた怪獣事件の影響が、今も生々しく残っているのである。
またあの怪獣事件は唯の先輩である加奈やディアス、零児の同級生であるカズヤが被災した事件でもあった。
“夏休みお台場ツアー”はそれより前に姉妹で構想していたのだが、結局行けなくなったわけである。
反対側にある浦安のディズニーランドは被災を免れているが、小学生と中学生の小遣いで行ける場所ではない。
……そういうわけで、お察しください。
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東京都・台東区・上野恩賜公園。
不忍池や上野動物園、各種博物館および美術館、そして有名な寺社が立ち並ぶ東京都心部指折りの観光スポット。
その公園前の上野駅より、中学生の１団がまるで修学旅行生のように固まって駅前広場に繰り出してきた。
金芽台から新宿経由でやってきた、ホーリーメイデンズご一行様である。
「うわーっ、上野駅には前にも来たけど上野公園に行くのは初めてだよねぇ。１度来てみたかったんだー」
「正確には上野動物園に、でしょ？」
「いやいや、上野公園といえば西郷隆盛の像や寛永寺も有名ですよ」
賑やかにはしゃぎ回る少女と少年――それに保護者の女性が２人。
「すみませんねぇ、お忙しいのにこういうのにつき合わせてしまって」
「いいえぇ、何分こういう時期なので、ご心配なく〜」
元々の保護者である深雪の隣で、にこやかに笑うのはライカだ。
何しろ次元融合変動のドタバタの中で、何が起きるか分からないから彼女が一緒にいるのである。
いや――厳密に言えばもう１人。
（今上野公園に着いたわ……アリシェイル、そっちはどう？）
（今のところ異常はないわ、でも警戒は続ける……ファルレーンも近くまで来てるみたい）
（そうね、頼んだわよ）
（そっちも事件明けだって聞いたわよライカ、無理しないでね）
（ありがとｗ）
上野駅の公園と反対側の道路の端に、スポーティな赤いバイクが１時停車している。
実はこのバイク――オーディアンの有志アリシェイルなのだ……ガンバインの部下である。
ライカとは以前から知った仲であり、無人の際にはそのサドルに女性のホログラムを投影している。
とはいえ、近づくと立体映像の不自然さが露呈する恐れもあるため、常にヘルメット姿だ。
「さて……動物園組と博物館組に分かれるって聞いてたんだけど、どうするのかな？」
「えぇっと……ボクと冬水、夏月、三四郎君と終里ちゃんが動物園になるのかな？」
「そうだな。 それでオレと渡辺が博物館の予定だ……というか源、ホントに動物園で良いのか？」
「まぁ、三四郎先輩が動物園にも行きたいって言ってるからね……」
「みゃー、ゾウー、カバー、シマウマー、フラミンゴー、ライオンー！！」
「ちょっと冬水ちゃん、チケット買ってからよ！」
「ところで、これ見終わったらどこでお昼食べるの？」
「そうだねぇ……まず南の広小路で食べ歩きなんてどうかな？」
「食べ歩きって……あんたの胃袋に付き合うわけ？」
動物園の入口らしき建物の前で、早くも少女たちの掛け合い漫才が始まっている。
そんな光景を眺めながら、ライカは深雪と秋綺に話を振る。
「では私が博物館の方を担当しますね碓氷さん」
「そうですね、お願いします」
「それじゃ秋綺君、春花ちゃん、行こっか♪」
……その頃、冬水のカバンの中ではそんな彼女等とは対照的に、４凶獣が暗がりの中で愚痴っていた。
「はっ、人間さんは動物やら昔の人の玩具やら見て何が楽しーんだかね？」
「……知らねーよ。そんな事より、何で俺らまで来てんだか」
「……っつーかさぁ、これフラグじゃね？」
ぼそっと呟く４凶獣の１体・窮奇に、混沌と饕餮が柿の種のような片眉を吊り上げる。
「フラグってなんのだよ？？？」
「そりゃおめぇら……このメンツとこのシチュエーションで何も起きずに済むと思うか？」
「 確 か に 」
元々４凶獣は災いの使者である。
その所為か――これから彼女達に振りかかるであろう物事を敏感に察知していた。
ちょうどその頃――上野の上空約数百メートルの位置に“やや古い機種のヘリコプター”が飛行していた。
しかし、そのコクピットには誰も居らず、通信機から気の抜けたような声が漏れている。
「ぶーん、こちらヴェレーノ。指定の座標に着いたぶーん。グランドゲートシステム起動準備おねが〜い」
それと同時に今度は別の声がその通信機から流れてきた。
『こちらレイラックおよびバルザス、そっちに間もなく合流する。
“例のもの”の回収準備を急げ。まずあの“生体機獣”をばら撒き周辺のアークスどもを全て排除せよ。
時間が来たらジャミングを掛ける事も忘れるな、いいな』
さらに日本のレーダーシステムをいとも容易く掻い潜り、
もう２機の“飛行物体”もまた、上野に向かっている事に気づく者はこの時、誰も居なかった。
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更に同時刻――日付で言えば１日前だが――大西洋中西部。
“魔の海”で有名なバミューダ海域からほど近い海域に、大小の島が浮かんでいる。
だがこの海域は本来深海――つまり“あるはずのない島”だったのだが。
ここにかつてマナウィ島と共に、その島嶼を形作っていたプリデリー本島を始めとする島々が浮かんでいた。
そう――今や九州沖の孤島となったマナウィ島の“基地”で発見された“マヴィノ諸島”の本体である。
元々１つだったマヴィノ諸島は、大西洋とフィリピン海に「分断召喚」されたのだ。
アイレスの予感通り、マヴィノ諸島の“別の部分”は、地球の反対側に存在していた。
そしてこの群島こそ今現在、謎の知性を持つ金属生命体の“バイオゾイド”達が根城にしている場所だった。
今彼等が拠点の１つとする、ゾイドの軍事研究施設の奥にある大格納庫は大きく様変わりしていた。
ついこの間、“同盟関係”を結んだオートロンの過激派ディスヴェリオンの手により、
巨大な地表間転送システム“グランドゲートシステム”が設置されていた。
いやここだけではなく島の各所にある他のゾイド格納庫にも、同様の設備が分散して置かれている。
大格納庫の壁面にはゲートのポータルとなる柱が取り付けられ、起動コンソールが設置されている。
そのコンソールにはボタンのようなものはなく、意識を近づけさせれば作動するようにセットされているが、
それは機械弄りに疎いバイオゾイド達でも動かせるよう、ディスヴェリオンが施した措置であった。
尤も――作動させるにはこの世界全体のデータの入力と、いざ転送させる際の細かい座標確定が必要となる。
この座標確定のために、今世界中に散らばっているディスヴェリオン兵が働いていたのである。
そしてこれから間もなく起こす行動のため、この大格納庫にはたくさんの機械獣＝ゾイド達が集められていた。
その光景をメタリックな骨でできた恐竜のような生命体と、メカニックなロボットのような存在が見下ろしている。
「――これぐらいで良いのか？」
バイオゾイド群の幹部的存在であるバイオメガラプトルが、
ここまでのお膳立てをしてくれた、ディスヴェリオンのディグドラスに問いかける。
「ふむ、今ココにあるものだけでも大小合わせてざっと50機くらいだな？
他のゲートから送るものを合わせれば約180機ほどか。それぞれに分散して配置するとして、
１つのゲートにつき10機から20機ほど送る事になるか……これで全体の何割だ？」
「我らは全体の数は数えておらぬ。とは言え、この状況ではそれほど数は出せぬ。
そうだな――この数を我らの目で見ても約10分の１程か。
……いや、今あの地下に眠っている奴らや、我らの軍を含めればそれ以下だと思うが、不十分か？」
「いや、陽動としては十分だろう。して、何をどこに送るかだが、それはこちら側で決めさせてもらおうか」
「それは良いが、その代わり我らも行こう、この星が“ズィー”であるのか否か確かめたい。
それにその方が、いざと言う時に効率の良い指揮が出来る。そちらも異存はないな？」
「良いだろう。だが、ソレに関して１つ言って置きたい事がある。お前達の今後に関わるかも知れん事だから、
後で他の奴らにも伝えておくがいい」
「…………何だ？」
「ここは“ズィー”ではないと言ったが、この前言ったように人間共は存在している。我々から見れば愚かで、
取るに足らない存在なのは違いないが、奴らもバカではないし、当然数多くの軍事力を持っている。
それだけではない……何か得体の知れない者共がその味方をしているようでな、油断すると痛い目を見るぞ。
――信じる信じないは勝手だが、ここから外に出るのなら覚えておく事だ」
ディグドラスの話が一通り終わると、彼の部下であるスレームスキュレードの通信が入ってきた。
なんでも丁度いい座標の確定が済んだのと事で、後はシステムを起動させてゲートを開くだけとなった。
「よし、こちらは準備が整った。そちらの方は？」
「今する――さぁ！ ゾイド達よ！！ 今こそ我らの声を聞き、人間どもの呪縛より解き放たれよ！！
そして我らの意思の元に戦うが良い！！」
バイオメガラプトルがそう叫ぶと――今まで沈黙していたゾイドの双眸に光が灯り、１人でに動き始めた。
ゾイド達は次々とケダモノそのもののような咆哮を上げながら手足を振るい始め、
その姿はさながら小型の怪獣の如く殺気立っていた。
「ほう、お前達がこいつらをどう扱うのか気になっていたが、自らの意思を注ぎ込む事で操る事ができるのか、面白い。
よしヴォイスバクター、“グランドゲートシステム”を発動せよ！！」
ディグドラスも号令を発すると、直後にシステムを形作る機器から光と振動が発せられ、
やがて壁に据え付けられた門柱の間に巨大な光の奔流が生み出される。
そしてその光の渦の中に次々とゾイドの軍勢が入り込み、これから暴れんとする“戦場”へと向かって行った。
もちろんこの格納庫のゲートだけではない。
この群島に存在する他のアジトでもシステムが同時に起動し、そこのゾイド部隊も進撃を開始していた。
あらかたゾイド達の発進を見届けるとディグドラスとバイオメガラプトルもその光の扉を潜り、
自分たちも新たな目的地へと移動していった。
装置の側に置かれたコンソールディスプレイに表示されているこの星の世界地図、
そのあちこちに赤いマーカーアイコンが光っている。
このマーカーの光る場所こそがこのゾイド達の転送先であり、アイコンの１部はある島国に集中していた。
まさしく今ここに――新たな争乱の火蓋が切って落とされたのである。
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上野動物園。
秋綺達と２手に分かれた冬雪達は入園料を払って動物園に入ると、各々が思うまま動物園巡りを開始する。
今日の動物園は人が少なく閑散としており、迷子になる事もないだろうという事でフリータイムとなったのだ。
ぱたぱたと冬水が飛び出し、三四郎が後を追いかけ、冬雪や終里、夏月が付いていく。
「さすが東京の誇る上野動物園、旭川以上の規模ですね」
「わーいわーい、ゾウさんだゾウさんだー！！」
「でも意外に人が少ないね……夏休みだからもっとごった返してると思ったんだけど……」
「事件が多いから外出自粛しているんじゃないかしら？ 駅もこないだと違って人がまばらだったし。
この時期におちおち観光なんてしてるのは私達くらいじゃないの？」
息子――今は娘だが――の問いに、深雪はやや自虐交じりの推測を返す。
「冬雪〜、ねぇ、後であたしと一緒にボートに乗らな――」
「あっ、あそこに売店が！ すいませーん！！」
「……動物園に入って真っ先に売店に向かうってどーなの？」
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東京都国立博物館。
やはりというか、こちらも館内にも客は余りおらず、閑散としている。
今期やっているのは“古代文明展”で、古代文明の遺産や出土品が数多く展示されていた。
ケースに入れられた展示品やその説明文を、順路に従って秋綺や春花が眺めている。
そしてその奥に、今期の最大の目玉である、中東近辺で最近発見されたという“水晶鏡”が置かれていた。
立てられている説明文によると、何でもこの“鏡”の様式や使用されている技術が、
その地域のどの文明のものとも異なっているとされ、“21世紀のオーパーツ”とまで呼ばれているらしい。
鏡とは書かれているが、具体的な用途は不明で、レーザーガラスを思わせる多面体なのも斬新だ。
「へぇ……これかぁ。うん？ 何だこれ？」
――と、秋綺は水晶鏡の丁度真ん中に刻まれている、鋭角的な生き物の顔のような紋章に気づく。
この時は彼も説明文に書かれている通り“誰も見た事も無い未知の意匠”としか思わなかったが……
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上野動物園・西園。
不忍池を臨む大広場では動物の檻の前ではしゃぐ他の皆を尻目に、ドーナツをほおばる冬雪がいた。
すでに４個を胃袋に収め、５つ目に手をつけている……彼女の胃袋なら、これは軽食の範囲内である。
目の前には更にパンやジュースが積み上げられている……１人分だよなこれ。
因みにお金はサイトＧ名義のクレジットを現金に換金したもので、
それぞれ万近い小遣いを持たされているのだが、冬雪の場合既にその４分の１が軽食代に消えていた。
「ねぇ、冬雪、さっきの話の続きなんだけど、後であたしと一緒にボートに……」
「え？ もぐもぐ、なんらって？ ごっくん」
「…………ううん、何でもない」
もはや食う事しか頭に無い冬雪に、夏月ももう今日夢見ていたロマンチックな予定は諦めた様子。
その時であった。
「ん……何か騒がしいわね？」
冬雪の向かいのベンチに腰掛けていた深雪が、ふと腰を浮かせた……奇妙な“騒動”が起きたからだ。
動物園の獣たちは吠え猛って檻の中を走り回ったり、
鳥達も甲高い鳴き声を上げて飛び立とうとせんばかりに翼をはためかせ始める。
どうやら園中の動物全てが騒ぎ立てているようで、これには他の観光客も面を食らい、飼育員達も表に出て来た。
広場を歩いていた鳩達も一斉に飛び立ち、空の彼方へその姿を消してしまう。
「うわぁうるさい。一体全体何だって言うんですか！？」
「わー、すごーい動物さん達がビックリしてるー」
「んんっ、のろり……つまっ……（喉につまった）」
「ちょ、ちょっと冬雪、大丈夫？」
冬雪達も困惑する中――冬雪のパートナー神獣である玄武、夏月のパートナー神獣の朱雀が、
バッグの中から這い出てきて２人に警告を発した。
「冬雪！ なんかこれヤバイよ！」
「この感じ、また空間が歪んでるみたいですぅ！」
次の瞬間――晴天にも関わらず、一瞬雷のような閃光が彼女達の視界を遮った！
「うわっ！？」
「きゃあっ！？」
閃光が収まり、思わず閉じた目を開けると――そこにはさっきと同じ公園が広がっていた。
冬雪たちは辺りを見回したが、特に異常らしいものは見受けられない。
しかしこの時、それ以上の異変が確かに起ころうとしていた。
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| （８章２話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011〜2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
（例えばホーリーメイデンズたちの上野旅行にライカが同行するのは旧企画ではなかった）
更にＰＡシリーズになってから“追加”した大きなグループは、桂枝芽路氏が投稿した“艦娘”や“陸自娘”たちだろう。
初登場以降に複数のハイライト（ライガーゼロ暴走事件や金芽台事件）が起きているが、
帝国海軍艦艇や陸自兵器の“化身”である彼女らが本格的に活躍する環境ではなかったため、
まさにゾイド大襲来事件がシリーズ最初の“見せ場”になるわけである。
この“８章１話”ではまだ日常風味だが、もちろんこれは４凶獣の言葉通り“フラグ”なのである（笑） |
