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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722E） |
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富士宮市のゾイドテロ現場。
高速機動ゾイド“ライトニングサイクス”が、市街地を我が物顔で暴れ回っている。
青木ヶ原樹海から“相棒”のケーニッヒウルフで“偵察”に来たエリルは、信じられない顔をしていた。
彼女にとっては常識であるはずの、ゾイドテロリズムが凶悪犯罪でしかないことと、
ライトニングサイクスの“テロ活動”を止めようとする治安局のゾイドが１機もいないことに対してだ。
この町――いやこの“世界”が、「ゾイドを常識としていない」ことを彼女はまだ知り得ていない。
ふとライトニングサイクスが道の上で立ち止まると、何かを探すように頭部を右へ左へ回し始める。
エリルのケーニッヒもサイクスの周辺をもう一度見回してみると、
そいつが居座る道路の先に幾重にも、折り重なった複数の乗用車が確認できた。
おそらくドライバーがライトニングサイクスに驚いて急停止した所、
後続の車と次々に玉突き事故を起こした挙句、車同士が乗り上げてしまったのだろう。
その中の１台の車の内部に“動くもの”があったような気がしたエリルが、
偵察用スコープの倍率を拡大してそこをよく見てみると、まだ車の中に人がいるのが分かった。
どうやら事故の時にドアが変形してしまい、そのまま閉じ込められてしまったようだ。
「あれ……なんかマズイんじゃない……？」
するとライトニングサイクスが再び動き出し、道を駆け出す。
まるで“わざとそうしている”かのように、道に転がっている車を踏みつけ、蹴飛ばしながら。
最高速ではないとは言え時速100km/h超のスピードで進むサイクス、
あと１分ほどで例の車もサイクスの手で中の人ごと踏み潰されてしまうだろう。
「――あぁもう！！」
その刹那、エリルの下した判断は――まさにイズキと同じものであった。
ケーニッヒウルフは地面を蹴り、今まで隠れていた山林から飛び出す。
サイクスも本能的に何かが近づくのを察知したのか、すぐさま足を止めてケーニッヒウルフの方を向く。
ケーニッヒはなるべく人の居ない通りを突き進んで行くが、
それでもまだ避難できていない人々は、いきなり現れた白い獣を見てさらに混乱の度合いを深めていく。
やがてケーニッヒはサイクスの居る路に辿り着き、サイクスの前に立ちはだかった。
「ちょっとあんたぁ！！ こんな事して良いと思ってんの！？」
エリルはケーニッヒのスピーカーを最大量にしてサイクスのパイロットに呼びかけるが、
当然このサイクスもデスザウラー同様無人、返事など有るわけもない。
一方のサイクスはというと闘争本能剥き出しで低い唸り声を上げながらケーニッヒを見据え、
ケーニッヒもまたサイクスの敵意に過敏に反応しているのがエリルにも分かる。
「どうやら聞く気はなさそうね……やるしかないか！」
直後、ライトニングサイクスが咆哮を上げながらケーニッヒに飛びかかり、
同時にケーニッヒウルフもまたサイクスを迎え撃たんと背中のライフルを展開して臨戦態勢に入った。
そして黒と白の機械獣の戦闘が開始されたのである。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の５
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上野駅のゾイドテロ現場。
上野公園の反対側のコンコースから、少女たちの１団が路上に飛び出した。
駅員や警察官が制止しようとするが――止めきれない。
「ちょっ……何やっているんだキミ達、戻りなさい！」
「ごめんなさいお巡りさん、こうするしかないんです！」
少女たちは警察官に頭を下げつつ、何かを“詠唱”している。
次の瞬間――“被災地”を小走りに駆け抜けていく少女たちが、次々に幻想的な光を放った。
「な――何だって！？」
６人の戦巫女――ホーリーメイデンズの“変身”を目撃した警察官が、唖然とした表情を浮かべた。
もちろん見世物ではないが、今は人目をはばかっている余裕はない。
そしてすぐに、何機かの“敵性ゾイド”たちが、その戦巫女たちを識別する。
最初に反応したのは、小回りに優れた小型ゾイドのガンスナイパーとディマンティスであった。
少女たちをレーダーでロックオンし、バルカン砲の照準を合わせた――次の瞬間。
「――雷槍！」
「風の鎮魂歌！」
小さな竜巻のような旋風が巻き上がり、レーダーが混乱したゾイドたちに、水平の雷電が突き刺さった。
タイミングを合わせて放たれた技に、火花を散らして仰け反るガンスナイパーとディマンティス。
アヤカシ向けの術式では十分なダメージにはならないが、視覚センサーを狂わせることは可能だ。
更に体勢を立て直そうとする先頭のディマンティスに、４人の戦巫女が踊りかかる。
「「唸れ、ムラクモ！」」
「燃え盛れ――聖炎剣！」
「地断波！」
氷と炎の刃がディマンティスの鎌を急激に劣化させ、更に“敵”とよく似たホーリーガイアの大鎌が、
その関節部から劣化したディマンティスの鎌をばっさりと斬り落とす――見事な連係プレーだ。
すると通りの向こうから、赤と銀のネコ型ゾイド“デスキャット”が飛び出してきた。
破壊活動を妨害する少女たちに、鋼の化け猫が猛スピードで飛び掛ろうとする。
そこに大きなタイヤを足に付けた赤い金属戦士――アリシェイルが立ち塞がった。
アリシェイルはホーリーメイデンズが連係プレーで斬り落としたディマンティスの鎌を素早く拾い上げ、
振り向きざまにデスキャットの顔面に投げつけた――数百km/hの相対速度で、ざっくりと突き刺さる大鎌。
視覚センサーを破壊されたデスキャットは金属的な悲鳴を上げてのた打ち回る。
「わぁ、凄い！」
「アリシェイルさん、やるぅ！」
「何言ってるの、キミ達のおかげよ！ さぁ急いでそこの路地に！」
アリシェイルがそう言った直後――上野公園の方角で淡い光がバースト状に拡散した。
「えっ……今の何！？」
「霊気の衝撃波みたいに……見えたけど」
戸惑う少女たちの横で、アリシェイルはヒュゥ、と感嘆の声を漏らす。
「……あれはライカね、見せてくれるじゃないの」
「どういうことですか？」
「今あなたが言った通り……霊力の衝撃波よ、ただし監視者仕様の“特大版”だけどね。
レイラックの驚く顔、見たかったなぁ」
そう言っているうちに、ガシャンガシャンと金属的な足音が響いてきた。
間もなく、ビルの陰からぬっと顔を出す恐竜に似た金属の塊……中型ゾイドのレブラプターである。
その足元にはメイデンズの直接攻撃を回避した、数機のディマンティスがこっちを向いている。
「うわっ、ゾロゾロやってきた！」
「みゃうー、いっぱい来たねぇ」
「陽動作戦だもん、そう来なきゃね――」
笑みを浮かべる夏月――ホーリーフレアだが、その額には脂汗が滲んでいる。
これから人生でも滅多にない、命をかけた修羅場が始まることが分かっているからだ。
こんな緊張感は、アヤカシ軍団のボス格と対峙した時以来だろうか。
「全力で走れ――追いつかれたら一巻の終わりだぞ！！」
秋綺――ホーリーライトの掛け声と共に、一斉に少女たちが路地の奥に向かって駆け出す。
ホーリーメイデンズと敵性ゾイドたちの、命を懸けた鬼ごっこが始まった。
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白金台のゾイドテロ現場。
其処此処から立ち上る黒煙の中に、巨大な金属の残骸が転がっている。
先ほどまでこの閑静な住宅街を恐怖で支配していた大型ゾイドのゴジュラスだ……今は見る影もないが。
そしてその隣に立つのは、アッシュが操縦するレイズタイガーである。
山林に隠していた“相棒”を持ち出したアッシュとセイナは、先ほど“テロリスト”の掃討を終えていた。
カウンターポリスである彼ら“ブルーセイヴァー”には、テロ鎮圧の権限があるからだ。
もちろん――その役目を知る者は、今この“世界”にはほとんどいないわけであるが。
「ふぅ……ここまで大量の無人ゾイドが一斉に暴れ出すなど、普通ではあり得ん。
昨日の事と言い、いったい何が……」
『隊長――こちらも暴走ゾイドの鎮圧を完了しました、そちらはどうなりましたか？』
「セイナか。私も今ケリが付いたところだ……やはり、支援ゾイドの存在は見当たらないか？」
『そうですね……それどころか、凱龍輝の存在にも驚くような反応を見せています』
「どういうことなんだ……ゾイドを保有していない国にしろ、大量の無人ゾイドの暴走にしろ……
――いや待てよ、これに似た状況、確かあの時にも……」
ふと――アッシュの脳裏に、以前経験した“戦闘事態”が蘇る。
謎の「光る嵐」に飲み込まれる直前だった……あの時も、やけに敵対的な無人ゾイド群の攻撃を受けた。
そしてその直後、その黒幕と思しき“謎の喋る骨型ゾイド”との遭遇も――
『……隊長？』
「まさか……あの時の出来事と、関係があるのか……？」
アッシュがこの状況について考え込んでいると、
今度はさっきまでゾイドの群れと戦っていた“この国”の武装航空機が、数を増やして戻って来た。
パイロット達は当初の敵がいつの間にか倒されている事に困惑したようだが、
そこにいた新たな未確認機＝レイズタイガーを敵と見なしたのか、すぐさまこれを包囲し、
両翼に搭載したミサイルらしき兵器の照準をレイズタイガーに合わせる。
俄に焦ったアッシュはゾイドに組み込まれたスピーカーを使って、この航空部隊に語りかけた。
「ま、待て！！ 我々は敵ではない！！ 決してここの市民に危害を加えようとしたわけでは……」
その声が聞こえたのか航空部隊は攻撃態勢をやめ、様子を伺うように上空を周回し始めた。
「通じたのか……？ しかし、この場でゾイドから降りるのも危険だが――むっ！？」
そこに１機のザバットが急降下し、低空飛行で背後から航空部隊に襲いかかるのが見えた。
アッシュは咄嗟にレイズタイガーで大地を蹴って跳躍し、
旋回する航空部隊を容易く飛び越えてザバットに躍りかかり、叩き伏せるようにこれを沈めた。
その動きたるやあのライガーゼロ以上のもので、航空部隊のパイロットも反応できなかったほどだ。
『――隊長！？』
「ザバットの攻撃だ、心配はない、今終わらせたところだ！」
『こちらもレーダーで新たな機影を複数確認しています……どうもまだ続きそうですね』
すると更に、上空から複数のザバットの群れが急降下して、彼等に迫り来るのが見えた。
「ちっ、次から次へと……仕方が無いな！」
レイズタイガーは困惑している航空部隊を尻目に、ザバットの群れに突撃した！
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仙台湾のゾイドテロ現場。
仙台に向かう謎の襲撃者――ウォディックとハンマーヘッドの集団を索敵した国連軍第３艦隊は、
これを阻止するために海上防衛艦隊と共に仙台湾に展開していた。
ウォディックに搭載された長距離ビームキャノンによる“艦砲射撃”によって、
すでに湾岸の港湾施設に被害が出ており、またこれを持って敵性行動だという確信がもたらされており、
追撃を阻止するために、石巻軍港から“カットイン”した形であったが、
しかし“敵”の戦闘能力は予想以上に強大なものだった。
１機１機の攻撃力は、メーサーショックカノンを搭載したアーク級戦艦などと比べれば弱いものだが、
海上保安庁の警備艇と大差ないサイズでしかも高い機動性を持っており、
それでいて中型ミサイル艇と同等かそれ以上の火力を持つ相手は、やりにくい存在だったに違いない。
東京湾の防衛艦隊が、シンカーに翻弄されたのと状況は良く似ている。
ゾイドは“妨害”する防衛艦隊や国連艦隊にも反撃しており、既に何隻か被弾して戦線離脱していた。
更に国連艦隊旗艦ナガトの艦橋では、別の“騒動”が勃発していた。
「――海に降りるって！？ この弾が飛び交う真っ只中でか、何を考えてるんだ！？」
『私達は艦娘デス、海で戦うために生まれたんデス！』
『お願いします有賀艦長、豊田司令、行かせてください、機動力ならあいつらに負けませんから！』
金剛を中心とした艦娘たちが、“洋上支援作戦”を志願したのである。
寝泊りしている戦艦フィラデルフィアの通信機越しに、少女たちの切実な声が響いてくる。
だが有賀や豊田には、それは余りにも無謀な提案に思えた。
ミッドウェイ海域で初めて遭遇した際に、彼女たちが自力で洋上作戦を展開する能力を持つことは、
有賀たちもある程度は分かっていたが、見た目はセーラー服や和装の少女たちなのだ。
そんな彼女らを、砲弾やビームが飛び交う“戦場”に放つことは、
有賀たちの軍事的な常識から言う限り、文字通り「正気の沙汰ではなかった」のである。
『この国を守るために、オレ達艦娘は生まれたんだ……相手は深海棲艦じゃないけど、
突然現れて攻撃を仕掛けてきているじゃないか……深海棲艦と同じだ、絶対に阻止しなきゃダメだ！！』
金剛や榛名に混じって、鬼気迫る表情で訴えかけるのは木曾だ。
彼女に限らず、艦娘は多かれ少なかれ、“祖国”の荒廃を目の当たりにしてきた経験や記憶がある。
加賀や瑞鶴も石巻を離れる前、「まだ戦火で荒廃していない祖国」に複雑な感情を吐露していた。
その“異世界の祖国”が敵性勢力の攻撃を受けているのを、黙って見過ごすことは出来なかったのである。
『豊田司令……石巻に上陸した時、この事態を解決するタメに、一緒に頑張ろうって言ったじゃないデスか。
だったラ、私達にもこの戦いに参加スル権利、与えて欲しいデス！』
金剛の目尻にうっすらと光るものがある……普段の陽気な彼女からは信じられないほど真剣な表情だ。
豊田は眉間に深いシワを寄せ、目を閉じて黙り込んだ。
彼女らが普通の人間ではないことは知っているつもりだが……まさに前例のない提案であり、
極めて難しい判断を迫られている……常識が通じない非常事態でも、人はしばしば常識に縛られるものだ。
「だが……キミらの指揮官は今、東京にいる……無断で戦闘行為を行うことを、彼女らが許すのか？」
『加賀や瑞鶴がココにいたナラ……出撃指令を下すはずデス！』
だが金剛は、異論を発した有賀の目を真正面から見据えてそう言い切った。
『それに瑞鶴は（ここを発つ前に）言いマシタ……万一の時は、全力で協力せよ、と。正に今がその、万一の時デス！』
ここまで情熱と誠意を見せられると、有賀も顎を引いて再考せざるを得ない。
それにこの状況で、彼女達がいい加減な事を言う筈もない……どうしたものかと迷っていた時。
「――金剛君」
有賀の横で黙っていた豊田が、再び口を開いた。
「やれるかね？」
『Ｙｅｓ！』
即答した金剛の目を見据えた豊田は、目を伏せて数秒思案していたが、間もなく――
「……分かった、参戦を許可する」
『――本当ですカ！？』
「ただし……くれぐれも無謀な行動には出ないように。君達は“元の世界に戻る任務”があるはずだ。
我々もそんな君たちの任務を支援するために、こうして同じ空気を吸っているんだ、良いね？
海に出たら我が艦隊のミサイル艇が君達を誘導する……極力、そこから外れないように行動して欲しい」
『――了解！』
通信機の向こう――フィラデルフィアの副艦橋で、金剛たちが敬礼をした。
「司令……本当に、大丈夫ですかね？」
「信じるしかないな……こちらも今回の襲撃者に対して優勢とは言い難い、彼女らの主張は確かに１理ある。
ミサイル艇と同等以上の戦力を本当に彼女らが持つなら、賭けてみる手はある」
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上野公園のゾイドテロ現場。
「女……いったい今、何をしやがった！？」
メタリックで分かりにくいが……ディスヴェリオン工作員のレイラックが、呆然とした表情を浮かべている。
周囲には置物のように動きを止めた、10機を越すゾイドたち。
それらはついさっきまで、ライカとファルレーンを撃滅すべく唸り声を上げていた……はずだった。
「ライカ捜査官……凄いですね、こんなに強力な霊力の衝撃波は、私も初めて見ましたよ」
「１発かませばそれなりに疲れるからね……切り札みたいなもの、あたしもここで使う予定はなかったわ」
「意識回路がショートしそうな感覚がしたが……あれでゾイド共の機能を強制停止させたっていうのか！？」
「今回は理解したようね、そういうこと……あの子らも生き物みたいだから、出来れば殺したくはなかった。
あんたみたいに、サディスティックな悪意で動いてたんじゃないんだからさ」
再び――金属的な歯軋りの音を立てるレイラック。
まさかライカの“霊力バースト”１発で、わざわざ呼び寄せたゾイドを止められるとは思わなかっただろう。
先ほどホーリーメイデンズとアリシェイルが目撃したのは、まさにこの技であった。
「自意識なく暴れてるやつには、こうやってショックを与えれば大抵止まってしまうのよ。
――もちろん、自意識で暴れる奴には効かないから、痛い目に遭ってもらうしかないんだけどね？」
そう言って、ライカは再びマルチセイバーの剣先をレイラックに向けた。
「じょっ……冗談じゃねぇ、こんなバケモノみたいな女と付き合う趣味は、俺にはないぜ！」
言うやレイラックは、さっきまで武器として使っていたテイルトローターを上空に向けて飛び上がる。
そのまま変形しながら、ライカやファルレーンから逃げようとした――しかし。
「――何ぃっ！？」
さっき地上に立っていたはずのライカが上空に現れて、レイラックは目を疑った。
「あんたみたいなセコイ外道を、あたしが見逃すと思ったの？」
「この女――空も飛べるのかよ！？」
愕然としたレイラックのテイルトローターに向かって、ライカは光る刃を振りかぶった――その時。
背後から飛んできた数発のミサイルに気付き、空中でくるりと反転する。
「やっぱり――近くに仲間がいたのね！」
レイラックのローターに向けていたマルチセイバーを引き戻し、すれ違ったミサイルを袈裟懸けに斬る。
同時に起きる爆発を自らの“霊気の障壁”で相殺するが、その隙にレイラックは更に上昇した。
「バルザス――助かったぜ、ちょっとヤバイところだった！」
「勝手な行動を取ったからだ……ディグドラス様が見たらなんて言うか……少しは反省しろ！」
「こっちはちゃんとモノを見つけてきたぶーん、さっさとおうちに帰るぶーん」
変形して離陸するレイラックに２機のヘリ――バルザスとヴェレーノが再び合流する。
旧式ヘリに変形したヴェレーノの誰もいないコクピットには、博物館に展示されていた水晶の多面体が。
“21世紀のオーパーツ”と呼ばれたこの遺物、どうやらオートロンと関係するモノらしい。
「ヴェレーノ、貴様は先に行け……“カリオスパーク”に余計な衝撃を与えるとまずい。
ちゃんとした順序で起動しなければ、損をするのは俺たちの方だ」
「分かってるぶーん、ちょっと物足りないけど仕方ないぶーん」
「欲求不満なら今度発散すればいい……レイラックも勝手だがまぁ、陽動の役目は果たしてくれた」
「あのライカとかいう捜査官……心底ムカつく女だ、次は必ず叩き潰して――」
「だったらもっと計画的に行動するんだな、我々も貴様の余興に付き合うほど暇じゃない」
そんなことを言い合いながら、３機の擬態したオートロンが飛び去っていく。
ライカは追おうとしたが、途中で数機のザバットに妨害され、諦めて上野駅の屋上に降り立った。
「ふぅ……あたしも詰めが甘いなぁ、１人だから限度もあるけどさ」
「ライカ捜査官――無事ですか！？」
「私は全然大丈夫……駅の周りに残ってる機械獣を散らして、避難民を誘導するわよ！」
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同じ頃――ゾイド軍団の奇襲攻撃を受けた立川基地。
ヴェロキラプトル型ゾイドのレブラプターが、グランドをのっしのっしと歩き回る。
顔を出せば確実に撃たれるため、斉藤ら自衛隊レンジャーや尾形ら防衛隊歩兵部隊は倉庫などに隠れ、
建物の影から影に移動するように、ゾイドたちの動きを監視し、メーサーライフルなどで応戦する。
……とはいえ、余り効果的なダメージを与えられてはいない。
ディスヴェリオンの襲撃を受けた際も苦戦したが、あの時は途中でガンバインらオーディアンが参戦した。
しかし今回はオーディアンは都内の激戦地に散開し、基地を支援出来るオートロンは皆無なのだ。
「畜生め……どうしようもないのかよ―― うぉっ！？」
斉藤が吐き捨てるように言った次の瞬間――隠れていた倉庫の屋根が爆発と共に吹き飛んだ。
バラバラと降ってくる瓦礫を交わしながら見上げると、レブラプターの感情を感じさせない顔が見えた。
これはまずい――斉藤の顔が引きつった直後だった。
何の前触れもなく――レブラプターの頭部が爆発し、頭脳を失ったゾイドは沈黙した。
「な……何なんだ！？」
「おーい、サイトーさーん」
聞き覚えのある声と共に、数十ｍ先の倉庫の影から、ジーラの青黒い顔と赤い髪が覗いた。
どうやらレブラプターの頭部を粉砕したのは、ゴジラの能力を持つジーラが放ったプラズマ弾らしい。
周囲を伺いながら、斉藤は駆け寄ってくるジーラに歩いて行く。
ジーラの隣には銃器を持つ少女が１人……習志野だ。
女子高生のような見た目にも関わらず重武装だ……とりわけ背中に背負う110ミリ携帯対戦車弾が目を引く。
目を凝らすと、その奥の倉庫の影にも、何人かの“陸自娘”の姿が見える。
その１群の先頭で、鯖江が後方の数名に何やら合図をしていた。
「あっ……キミは確か……」
「良かった良かった、この部隊は無事ッスね、無理せんで前線下げちゃってください」
「しかし、ここは我々の本拠地……」
「分かってるッスよ、でも生きてなんぼでしょ、最前線はおいらたちが引き受けたから」
にこ、と幼さの残る顔に人懐っこい笑みを浮かべたジーラに、斉藤は複雑な表情を浮かべて沈黙した。
自分たちの無力さと、数日前に出遭った彼らに、立川基地の防衛を任せることの申し訳なさが現れている。
「……済まない、恥ずかしい限りだ、こんなにも俺たちが無力だとは思わなかった」
「悩まない悩まない、あんなの誰も想定できないッスよ……その代わり、後片付けたのんます♪
飛音、ここは任せたぞ、斉藤１尉は習志野レンジャーだ、同志だぜ！」
習志野は愛用の自動小銃Ｍ４カービンの遊底を引いて、薬室に弾丸の１発目を送り込む。
「よし引き受けた……斎藤１尉、第１空挺団のモットーは？」
彼女の“合言葉”を聞いて、斉藤の表情に持ち前のタフさが戻るのが、周囲にも分かった。
落ちかけたブレーカーを引っ張り上げるように、斉藤は思い切り空を振り仰ぎ、改めて習志野に向き直る。
「 精 鋭 無 比 ！！」
「よし、その意気だ！」
「おっし、そんじゃ、後は宜しく！」
そう言って、ジーラは倉庫脇の路地を、グランドに向かって駆けて行った。
上から足音が聞こえて斉藤が見上げると、金色の長い尻尾が屋根の骨組みを走り抜けた――キトラだ。
その周囲には、背中にローターを“生やした”迷彩服の人影が２つ、飛んでいる。
「さぁーて、いっちょぶちかますぜ、キトラはそっちのグループな！
おいコラ其処のガラクタ野郎共、こっからはおいらが相手だぜ、どっからでもかかって――ぬぉあ！？」
ジーラが“名乗り”を上げ切る前に――大小の敵性ゾイドたちが先にジーラにぶちかました。
ヒーローの前口上など、この機械獣たちには関係ないということだろう、残念。
というかいつもセリフの途中で撃たれるなコイツ。
しかしその爆炎の中から、青黒い影が何事もなかったかのように飛び出す。
「上等だぜ――せっかちなてめぇらには、こいつを食らわせてやるよ！！」
ジーラの背びれが青白いスパークを放ち、白熱したプラズマ球がお手玉のようにジーラの胸元に生起する。
そしてそのプラズマ球を――ノックでもするかのようにジーラは次々と撃ち出した！
プラズマ球はちょうどアンダースローのピッチャーが投げた球のように、ゾイドたちの胸や脚に命中する。
衝撃を受けてよろめいたゾイドたちに、今度は上空から別のプラズマ球が雨のように降り注いだ。
装甲や動力パイプを次々に貫通され、すぐに数機のゾイドが動けなくなる。
能力をフルで開放したジーラは、こうやって大小多数のプラズマ球を同時にコントロールできるのだ。
「いっちょあがり――かな？」
手応えを感じたジーラがそう言った直後、100ｍほど先で雷電の雨のような光が煌いた。
宇宙怪獣キングギドラの能力を持つキトラの“重力波雷撃”である。
重力子を含む稲妻は普通の雷撃とはまるで重さが違い、金属の分子配列を破壊することも可能なのだ。
直撃を受けたゾイドの装甲や武装が、まるでガラス細工のように粉砕されて行く。
小銃よりも幾分重い、機関砲のような銃声も響いた……恐らく、攻撃ヘリの能力を持つ木更津若菜だろう。
「おぉ、やってるやってるｗ」
１方正面玄関に近い路上では、パドルがジェノザウラーと対峙していた。
パドルはライガーゼロに対してやった時のように、精神の波動で呼びかけるが――反応はほとんどない。
「ふむ、こいつは……洗脳みたいなもんかも知れんな――む？」
そして次の瞬間――ジェノザウラーの荷電粒子砲が再び、正面に立ち塞がるパドルに向かって放たれた！
プラズマの奔流が路面のアスファルトを蒸発させ、その下の土壌を抉るように吹き飛ばしていく。
しかし猛烈な熱風を伴う土煙が晴れると――パドルが涼しい顔で立っていた。
「ほぉ、中々良いもん持ってるなお前……確かにこれでは、地球の通常兵器じゃ太刀打ちできないよな」
いかに宇宙人パドルと言えど、数万度の熱線をまともに受けて無傷ということはない。
しかし空間シールドが物理現象をシャットアウトするように、パドル自身もそうした能力を持っている。
その能力を開放すれば、ゾイド界の決戦兵器と言えど、無力化が可能なのである。
「悪いが……これ以上先に進ませるわけには行かない――覚悟してくれ」
そう言って、パドルは開いていた手を硬く握り締めた。
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金芽台のゾイドテロ現場。
白い装甲を持った小型のサソリ型ゾイド“デスピオン”と、鬼のような角を生やした獣人が対峙している。
竜王のキメラノイド戦士の１人シドだ……ジーラ同様、逞しい体とは不釣合いに顔つきは幼い。
「あーもー、ホントに何なんだコイツ…… ――ん？」
ふと背後に気配を感じ、振り向いた直後――アスファルトが裂けて新たな“サソリの尾”が現れた。
「――うぉっ！？」
機械的な“殺気”を感じてシドが飛び退くのと、デスピオンがビーム砲を発射するのがほぼ同時だった。
標的を仕留め損なった光弾は、歩道に置かれていたゴミ箱を粉砕し、電柱を根元から突き倒す。
更に今まで対戦していたデスピオンの背後からも、よく似た白い影がもう１機迫ってくるのが見えた。
図らずも包囲された形になるシドだが……その表情にはまだ余裕がある。
「３対１ってわけかい……しょうがねぇな、じゃあちょっと本気になってやるか」
シドがナイフのような大きな爪に覆われた指先に、紫色のハローを漂わせた妖しい炎を灯す。
ジーラのプラズマ弾と似ているが、実は全く効果が異なる“闇の炎”だ。
「これを使うのは数年ぶりだ……悪いけど、燃えてもらうぜ？」
・
・
・
同じく金芽台のグリーンベルト公園。
やはり進撃中のデスピオンの尾に、どこか場違いなピンクの丸い物体がくっついている。
“異世界の友人”を庇って、この“戦争”に首を突っ込んだ――どこが首だとか言うな――カービィだ。
「――うわんっ！！ ……いてて」
べちゃっ。
デスピオンの尾から振り落とされたカービィが、悲鳴を上げてアスファルトに叩きつけられる。
デスピオンはカービィの方を向くと、すぐに胴体下の機銃でカービィを攻撃した。
カービィはそれを咄嗟に躱すとネズミのようなすばしっこさで、
公園を横断する白金川の橋を渡って公園奥へ逃げ込み、デスピオンも機銃を乱射しながらそれを追う。
公園の奥の芝生広場は、デスピオンの機銃によって舞い上がる土煙に包まれていた。
その中でデスピオンは、公園のどこかに居るであろうカービィを探して尻尾を首のように回している。
……んでカービィはというと、植え込みの影に隠れながら相手への対抗策を考えている。
“友人”がピンチっぽかったので助けようとしたのはいいものの、肝心の“武器”を忘れていたのだ。
「う〜ん、困ったなぁ…… せめて何かコピーできるものでもあればなぁ……」
カービィは吸い込んだ物質や生物の性質を、自分のスキルに取り込むという“コピー能力”を持っている。
しかしここいらには、そういう何か吸い込んで利用できそうなものは見当たらない。
基本的に非力なカービィにとって、コピー能力がなければ、
さっきのようにまた何か適当なものを吐きつけるぐらいしか戦法がないのだが、
それだとあのヘタなボスキャラよりも巨大で、頑丈そうなメカサソリにはほとんど通用しないだろう。
カービィが次の手を出しあぐねていると、カービィの居る植え込みにデスピオンのビーム砲が撃ち込まれた。
樹木の幹が派手な音を立てて破裂炎上し、直撃しなかったもののカービィはその衝撃で跳ね飛ばされた。
やはりこの程度では、デスピオンのセンサーは誤魔化せないようである。
地面に伏せるカービィにデスピオンがじわじわと迫る……この機械獣に慈悲という概念などないのだ。
「ううう…… ――あ、あれ？ これって……」
ふとカービィの目に、スイッチのようなものが付いた、液体入りの小さな半透明のケースが飛び込んできた。
これにはカービィにも見覚えがあった……確か“この星”の大きな人間がスイッチを押して、
口に咥えた短い棒ににこれを近づけ、棒に「火をつける」のに使っていたものである。
おそらく誰かがここに捨てたもので、その意味も名前も使い方もカービィにはよく分からないが、
とにかくこれが“火を発生させるもの”だという事は理解できたのだ。
間もなくデスピオンのビーム砲が動きを止めているカービィに向けられて、止めとばかりに火を噴くが、
カービィはそれも転がって躱し、その液体ケース――いや“ライター”を口に含み、そのまま飲み込んだ。
するとカービィの体が光に包まれたかと思いきや、頭頂部に燃え盛る炎が吹き出る王冠が現れたではないか。
炎の能力を持つ“ファイアカービィ”となったのだ。
ようやく“戦闘能力”を得たカービィの、本当の戦いが始まった。
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幕張新都心近傍にあるＧフォース科学部。
かつてはＧフォースの本部として機能し、本部が市ヶ谷に移転してからは研究所に特化されたこの施設も、
東京湾から襲来した敵性ゾイドの猛攻に翻弄されていた。
現在のＧフォースが保有する代表的な兵器である、ＧＦ０７サンダーバードやＧＦ１２スーパーガルーダは、
このＧフォース科学部の格納庫を“本拠地”としているが――当然それは軍事機密になっている。
そのため当初は、東京湾から上陸してきたシンカーやハンマーヘッドといったゾイドたちは、
東京都心や白金台がそうであったように、無差別的な破壊活動を意図しているものと思われたが、
明らかにまとまった部隊が、Ｇフォース科学部の広い敷地内に、猛然と殴り込みをかけてきたのである。
ホバー状態で進撃するハンマーヘッドを、プラズマメーサーの太い閃光が貫いた。
格納庫に近い正面グランドで待ち構えていたのは、大型のトラクターに牽引されたメーサー光線車。
防衛隊ではなく、国連軍がアメリカで改良してライセンス生産させた“米国製メーサー車”のグループであり、
ＭＦ０９“ドラゴンスレイヤー”の形式番号とコードネームが付けられている。
０８式メーサータンクに匹敵する戦力を持ちながら、メーサータンクよりコンパクトな兵器なのである。
トラクター部分はオーディアンのガンバインに似ている……もしかするとモデルかも知れない。
機動力においてはゾイドに遅れを取る対怪獣メーサー兵器群だが、Ｇフォース科学部の広い敷地を活用し、
戦艦が斉射するように一斉に迎撃するスタイルを取ることで、何とか防衛線を死守していた。
ただそれでも、ハンマーヘッドが撃ちまくるレーザーやビームが敷地内に飛び交い、
主要な施設の３分の１は流れ弾を受けるなどして、停電などの機能停止状態を強いられている。
Ｇフォース科学部の司令室に当たる中央会議室には、室長の北条や幹部の三枝、護衛主任の結城がいた。
先ほどまで市ヶ谷の総司令部と通信していたが、度重なる爆撃を受けて今は停波している。
「……どう考えても、無差別攻撃じゃないぞ……奴ら一体どこで機密を盗んだんだ？」
「もしかしたら、あのオートロンと呼ばれる機械生命体かも知れませんね……どうもあの種族は、
強力なハッキング工作によって、日本だけではなく世界中の軍事情報を入手していたようですので」
「それが本当なら、あの機械獣はその尖兵ということかね……忌々しい！」
渋面で歯軋りをする結城……彼の脳裏には、数日前に起きた立川基地の襲撃テロ事件の首謀者の１体であり、
結城自らサンダーバードを使って撃滅に関与したテロリスト、メイザァヴォルグの姿が浮かんでいた。
まさかこの事件――いや“戦争”は、奴らの報復攻撃だというのだろうか……
「けれども……あの機械生命体の仲間だとしたら、今回の襲撃者も生命体という可能性があるわけですよね。
河峰さんが昨日報告していた“日向灘の機械獣群”も、サイボーグの可能性が高いとか」
「……それがどうしたの、美稀……何か感じるの？」
「いえ、よく分からないんですよ……ただの機械とは思えない１方で“意識”も不明瞭なんです。
本当に生命だったら、何らかの意識を感じるはずなんですけどね……これじゃまるで操り人形のようだわ」
「操り人形、だと……どういうことだ？」
結城や三枝が考え込んでいると――突如大きな破壊音と共に、会議室の床や壁がビリビリと震えた。
「どうした――今度は何が起きた！？」
『敵襲です……敷地の裏門から別の機械獣が、本部の車庫の中に！！』
「何だと、このビルのすぐ隣じゃないか……奴らめ、やっぱり確信犯か！！」
Ｇフォース科学部の幹部や研究者が使っている立体車庫に殴り込んできたのは、ガンスナイパーだ。
シャッターをぶち破るや否やバルカン砲を乱射し、留めてある車を次々に蜂の巣にしていく。
「まずいわ……あの車庫は、地下格納庫につながる搬送用のスロープがある……！」
当の車庫でも、防衛隊から出向しているＧフォースの隊員が、メーサーサブマシンガンで応戦しているが、
火力に差があり過ぎる……隊員たちがパニックに陥りかけた――その時だった。
オートバイのエンジン音がガンスナイパーの背後から響いた――暗い車庫に白いカウルが煌く。
だがその座席には誰も乗っていない……その直後。
轟音と共にガンスナイパーの頭部に横から強烈な衝撃が加わり、首がほとんど折れるように大きく捻られた。
「ちっ――さすがに、１発でへし折れるほどには、脆くないらしいな？」
「……あ、あなたは！？」
ガンスナイパーの頭部をひしゃげさせる１撃を見舞ったのは――１号ライダーだった。
間もなく結城が立体車庫の上階に姿を現した……会議室がある本部ビルとは連絡通路でつながっているのだ。
因みに１号ライダーとは、前の立川基地事件で会っている。
「おぉ結城中佐殿、無事で何よりだ！」
「あんたは確か……防衛特調に参加していた――」
「変な予感を感じて来てみたらこれだ……まさかこんなのにライダーキックをお見舞いする日が来るとはな」
「立川基地も襲撃者で大変な状況だと聞いたぞ！ ここにいて良いのか？」
「それが起きる前に出てきたんだ……もちろん立川基地でも、何かが起きる予感はあったが、
向こうには戦える有志や同志が何人もいる……ここよりもはるかに持ち応えられると、俺は信じている」
そう、１号ライダーこと本郷猛は、重要な軍事機密を持ちながらも、
襲撃者に対する抑止力が十分ではない、Ｇフォース科学部の状況が以前から気がかりだったのである。
アイレスがいれば多少はカバーできたのだろうが……彼も今は遠い島にいるのだ。
予定ではこの日の午前中に13式飛行艇で帰ってくるはずだったが……中止されたのかも知れない。
「ここの防衛は俺が担当する……周囲の監視は中佐たちにお願いしたい」
「わ、分かった！」
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再び“命がけの鬼ごっこ”が行われている上野駅近郊。
ホーリーメイデンズ＆アリシェイルの“混成陽動部隊”を、敵性ゾイドたちが追いかけている。
もちろんまっすぐ走るだけではすぐに追いつかれてしまう上、殺傷能力抜群の銃器の的になるため、
メイデンズの少女たちは２手や３手に分かれて、入り組んだ路地を複雑に走り抜けていく。
後できっちり合流できるように、精神感応可能な玄武ら神獣たちが持ち前の感知能力をフル回転させ、
離れ過ぎないように間合いを取りながら、少しずつアリシェイルが示すポイントに近づいていた。
そこまでたどり着けば、オーディアンの“援軍”が見つかるはずだった。
少女たちの背後は、“破壊と炎の海”と化している……まるで地震災害の後のようだ。
敵性ゾイドたちが乱射するバルカン砲やビームガンにより、進路にある建物の大多数は攻撃対象となり、
耐震性がしっかりとした大きなビル以外は、真上をゾイドらが駆け抜けられる程度に破壊された。
黒煙と粉塵が立ち込める“戦場”を、機械獣たちがゾロゾロと歩いてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……あぅっ――！？」
「ブロウ、大丈夫！？ 早く立ち上がって！！」
疲労の所為か――つまずくように倒れた春花＝ホーリーブロウをホーリーフレアが助け起こす。
しかし立ち止まっているわけには行かない……手を添えながらも足は止めない。
少しでも気を抜けば、背後から飛んでくる銃弾や熱線に、命を丸ごと持って行かれてしまうのである。
数百ｍを不規則に曲がりながら全速力で走り続けるのは、プロのアスリートでも大変だ。
彼女たちがやっているのは、パルクール同然のパフォーマンスで持久走をやるようなものである。
ホーリーメイデンへの変身で１時的に強化されてるとは言え、永久機関のように疲れを知らないわけではない。
相手が１機や２機ならまだ起死回生の反撃が出来たろうが、実際にはその数倍はいるのだ。
狼やハイエナの群れに追われているよりもシビアな状況なのである。
「ご、ごめんなさい、フレア……運動不足でしたね」
「そんなことないわよ、十分過ぎるくらい頑張ってる……でももう少し、頑張ろう？」
そうこうしている間に――路地の向こうで爆発が起こり、もうもうと煙が立ち込めた。
皮肉にも前後50ｍほどは直線……今顔を出されたら、隠れる場所がない。
キョロキョロと辺りを見回していたフレアは、ふと勝手口のような扉を見つけた。
「――入って、ブロウ！」
「えっ！？ でも早く行かないと……」
「今は間に合わない、いいから早く入って！」
扉を開け、２人の戦巫女が転がり込むように中に入った直後――煙の中からレブラプターの顔が出た。
しかし……追いかけていたはずの小さな人影の姿が見当たらない。
ビルの中で息を潜めていた２人は、ふと上に向かう階段を見つけた……そろそろと階段を上ると、
小さな商店街のような空間に出ることが分かった。
どうやらここは、雑居ビル数棟をつなぐ、中間階の小店舗群らしい。
そしてそこで２人は、意外なものを発見した。
「――あぁっ、誰か来た！」
「良かった……助けてくれ、どうしたら良いか分からないんだ！」
２人すれ違うのも難しそうな狭い通路に、５人ほどの少年たちが座り込んでいたのだ。
「こ、こんなところに、逃げ遅れた人たちが……！」
「キミ達もコスプレ中に逃げ遅れたのか？」
「えっ！？ ……ま、まぁ……そんなとこかな？」
どうやら少年たちは、オレンジとグリーンの“巫女服”の２人を、コスプレだと思っているようだ。
よく見ると、シャッターが下りた商店に、アニメキャラのポスターが何枚か貼ってある。
少年たちの風貌も、世間でいわゆる“オタク”と呼ばれるそれに似ていた。
どうも……アニメなどのサブカルチャーを扱う、雑貨店が集中したフロアだったようだ。
建て込んだ都市の裏通りには、こうしたサブカル系雑貨店が、居酒屋のように並ぶゾーンが時々ある。
サブカルチャーの聖地と言えば秋葉原や中野が有名だが、そこにしかないわけではない。
「見たことない服装だな……いったい何のアニメ？」
「えっと、その……あんまりメジャーじゃないかも、同人系の……」
「あぁなるほど、１次創作のコスプレか……でも中々本格的で可愛いよ」
「あ……ありがとう」
彼らはまさかこの２人が“本物の異能者”であることなど知る由もない。
すぐにも逃げなければならない状況なのにどうしたものか……２人は困惑の表情で顔を見合わせた。
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| （８章６話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011〜2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
特に大きく修正したのは上野公園のパートであり、旧企画のキャラクターの１部が“白紙化”されたことで、
関係者の枠（戦力）が空いたため、ライカをはめ込み、オートロンのアリシェイルやファルレーンも加えている。
またホーリーメイデンズの“進路”も旧版の“北方”から“東方”に変わっている。
これは本文の通り、早めに彼女らとオーディアンを合流させる意図からだが、
上野駅に追い詰められた避難民から敵性ゾイドの目を逸らすという“自己犠牲プロット”も追加している。
旧版では単に敵から逃げ回るだけだったので、もう少しヒロイズムがあっても良いとの判断である。
（また詳しくは６話以降の展開になるが、このプロット変更の過程で“新たな出遭い”も生まれている）
陸自娘が立川基地のでの戦闘事態に介入するのも新しく追加した展開である。
このパートは元々竜王チームの独壇場に近かったが、せっかく新しいキャラがいるのに使わないのは勿体ないし、
陸自兵器の化身たる彼女らが、自衛隊基地の危機に手をこまぬいていられるはずがないからだ。
１方カービィＶＳデスピオンのカードは、飛石武氏の草案からあったものである。
ファンシーなゲームキャラと戦闘機械獣が対戦するという、一見してミスマッチにも見えるカードであるが、
上手くアレンジしてスピーディーなアクションシーンを実現している。 |
