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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722F） |
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ハワイ・オアフ島の真珠湾。
国連太平洋軍の母港があるこの軍事拠点も――敵性ゾイド群の襲撃を受けていた。
仙台湾にも襲来した海戦ゾイドのハンマーヘッドとウォディック、東京湾に襲来したシンカーに加え、
上空にはドラゴン型ゾイド“レドラー”と翼竜型ゾイド“レイノス”が乱舞している。
……つい先ほどまで、真珠湾の国連海軍基地はまさに恐慌状態であった――しかし。
「……俺は、夢でも見ているのか？」
ガイア級重強襲母艦“ホーネット”の全通甲板上で、唖然とした表情を浮かべている男がいる。
国連海軍将校のアイザック・パウエル大佐……知日派の国連軍人である。
防衛特調の室長を務める黒木特佐や、第３艦隊の有賀大佐とも顔見知りの人物だ。
アイザックが呆然と見つめる先には――ゾイドとは異なる大きな２つの影が、ビルのように聳え立っている。
うち１つは、アルティラン戦士のセイヴン――マークの“相棒”である。
そしてもう１つは、全身にアメジストを思わせる紫色の結晶を生やした、長い尾を持つ“怪獣”であった。
セイヴンと結晶怪獣は、国連海軍を守るような体勢で、ゾイド群たちに立ち向かっていた。
海からも空からも襲い掛かる何十というゾイドの群れに、セイヴンの熱線“ワイドショット”が炸裂し、
熱線から逃れたゾイド群たちを、結晶怪獣が長大な尾で弾き飛ばしていく。
また結晶怪獣自身も、頭部の鋭い結晶状の角から電撃を解き放ち、レドラーなどを“撃墜”していた。
アイザックが特に信じ難かったのは、「人類に敵対せず共闘を選択する怪獣」が存在していたことである。
例外がいなかったわけではないが、「怪獣は人類の脅威である」というのが彼の“常識”だったのだ。
しかもこの結晶怪獣は――アイザックが知る限り、９日ほど前に東京で起きた“怪獣襲来事件”において、
武蔵野丘陵の地下から現れて暴れ回った怪獣と“同じ個体”だったはずなのである。
「……そうだ、こうしちゃいられない、部隊の体勢を立て直さねば――」
アイザックはそう呟くと、ホーネットの艦橋に向かって小走りで駆けて行った。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の６
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仙台湾で繰り広げられている敵性ゾイドとの海戦。
海上防衛隊や国連第３艦隊は、無人の偵察機や爆撃機などを前線に展開させて“囮”とし、
敵性ゾイドたちの爆撃によるダメージを最小限に抑えるべく奮闘していた。
それでもそのドローンを掻い潜り、何発ものビームやミサイルが艦隊の至近に飛んでくる。
「くそっ……埒が明かない、これじゃジリ貧だ！」
「艦長、国連艦隊旗艦のナガトから通信です……高速ミサイル艇の特殊部隊を前線展開するため、
ミサイル艇の周囲には弾幕を張らないよう願うとのことです！」
「高速ミサイル艇だと……そんなもので、ロボットみたいなあいつらに通用するのか？」
間もなく海防艦隊の後方から、１隻のミサイル艇が波を立てて前線に出てきた。
「おいおい、たった１隻じゃないか……豊田司令は何を考えて―― んんんっ！？」
そしてそのミサイル艇の後方から――６人ほどの“人影”が海上に直立する姿勢で付いてきたのだ。
戦艦フィラデルフィアから“出撃”した“艦娘艦隊”である。
斥候に駆逐艦娘の吹雪と時雨、その背後に10ｍほど離れて戦艦娘の金剛と軽巡洋艦娘の木曾、
殿に航空巡洋艦娘の鈴谷と熊野が“複縦陣”で航行している。
「あれって確か……天皇海山列の近海で保護したという……」
「あぁ……軍艦の記憶を持つ異世界の戦闘員、だったか……しかしまさか、こんな形で……！？」
海上防衛隊にも、国連艦隊がミッドウェイ海域で保護した、艦娘たちの情報は送られている。
理解できるかどうかはともかくとして、彼女たちが過去の戦争の記憶を持つ“戦士種族”であることも、
防衛隊の将校たちには伝わっていたために“見たことのない人材”ではなかった……しかし。
幾ら何でもその“異世界の戦士種族”が、武装を直接背負って海上を航行するなど――想定外だった。
旗艦の役目を負った金剛は、“標準装備”の主砲と魚雷に加えて、細長い連装ランチャーを２基抱えている。
フィラデルフィアの武器庫に積まれていた、特殊作戦用のマイクロミサイルである。
何しろ彼女たちは“演習用装備”しか持ち合わせていないため、実戦では弾薬が足りなくなる恐れが高い。
そのため武装プラットフォームとして余裕のある戦艦娘や巡洋艦娘に、
特殊部隊が装備するマイクロランチャーを別途、装備させることにしたのだ……ミフネ副艦長の案である。
駆逐艦娘にも、ＲＰＧに似た使い切り型のロケットランチャーを持たせている。
実はこれ、ただのロケットランチャーではない……ジャミング工作を意図したＥＭＰランチャーである。
砲弾が炸裂すると、弾頭に仕込んだ重水素式超小型爆縮ユニットが反応し、電磁パルスを放射するのだ。
21世紀半ばの“近未来テクノロジー”の恩恵を受ける、地球連合軍ならではの装備とも言えるだろう。
本来はミサイル艇や特殊部隊が集団で使うレベルの装備だが、艦娘たちは各々が単独でそれを扱えるのだ。
もちろん新しい武器なので使い方を教わる必要はあったが、練度の高い彼女たちはすぐに覚えたようだ。
海上を疾駆してくる、爆撃ドローンよりも小さな“敵”を察知し、
２機ほどのハンマーヘッドやウォディックが舵を切る――まさにその直後、上空で強烈な光が輝いた。
艦娘艦隊の先頭にいた、吹雪が解き放ったＥＭＰランチャーが炸裂したのである。
このＥＭＰランチャーの弾頭は、撃墜リスクを下げるために多面体のステルス構造を持っている。
レーダーシステムに混乱を来たし、海戦ゾイドたちが隊列を乱したところに、再度爆音が響き渡った。
そして３秒と経たないうちに、海上に爆雷でも炸裂させたような水柱が何本も立ち上がった。
金剛の主砲が炸裂したのだ……本来の“戦艦金剛”と同じ威力ではないが、迫撃砲よりも強力な１撃だ。
直撃を受けた先頭のウォディックから煙が上がる……速力が落ち、ダメージを受けているのが分かる。
そして更にその“傷口”に、マイクロミサイル数発が追い討ちをかけた。
ウォディックは背中に大口径ビームガンを積んでいる……その傷口にミサイルを集中されてはたまらない。
間もなく被弾したウォディックの背中で複数の爆発が連鎖し、炎に包まれたウォディックは力尽きるように沈んだ。
その一部始終を目撃した、海防艦隊の将校たちが目を見張る。
「沈めやがった……俺たちがあんなに苦戦したやつを、１分も経たないうちに……」
「戦い慣れていますね……錬度も高い、見た目とは違って熟練の戦士なのですね。
しかし……２人か３人で１機を相手にするのでは、有利になったとは言えないのでは？」
「確かにな……そこは我々がフォローしろってことなんだろう。
今のを見たな、隊列から外れたターゲットは深追いするな、我々は防衛ライン維持に徹する！」
「なるほど……隊列を外れたやつらを、彼女達に任せるということですね！」
仙台湾の戦況が、艦娘たちの参戦によって、徐々にではあるが変わり始めていた。
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そしてこちらは金芽台の端にある採石場。
「どこ見てるんだサソリ野郎、お前の相手は俺たちだ、さっさと付いて来い！」
採石場の坂道を駆け上がりながら、龍二とアイナが小型ゾイド“デスピオン”の１機を挑発する。
とはいえ、数発しか撃てないメーサーピストルを無駄遣いは出来ないから、原始的な手段を取っている。
デスピオンの白い装甲には、ひっきりなしに大小の石が投げつけられる……このために採石場に来たのだ。
住宅地で“投げつけられるもの”といえば空き缶くらいしかないが、ここには重い岩石もごろごろある。
初老の龍二も10kgはあろうかという石を片手で持ち上げて、坂の下にいるデスピオンに投げるが、
隣のアイナは50kgくらいありそうな大きな“岩”を持ち上げて、思い切りデスピオンに叩き付けている。
見た目は小柄な少女を思わせるが……彼女も立派な“強化人間”なのだ。
光速のレーザーや亜光速のビームを交わすことは出来ないが“予測回避”は可能だ。
頭部の下に仕込んだ機関砲は厄介だが、尻尾に取り付けたビームガンなら投石で幾らでも揺さぶれる。
更に２人は腕だけでなく、採石場の土砂を足で蹴って、小さな土砂崩れを何度も起こす。
頭上からバラバラと降ってくる大小の石や土砂に、デスピオンは明らかに感情を含んだ咆哮を上げる。
「見た目はロボットだけど……“中身”はかなりワイルドっぽいですね、あいつ」
「擬似的な意思があるようだな……無感情よりやりやすい」
「けれど、さすがに体力では遅れを取りますよ……ここに誘ったのは良いけど、これからどうします？」
やや困ったような表情のアイナに、龍二は無言でアゴを捻る……アイナはすぐにその意味を悟った。
「……あぁそうか、そう言えばもう１人いるんでしたね……さすが行動が早いなぁ」
「俺とお前には“あいつ”みたいな特技はないからな……出来ることは“環境を整えてやる”ことだろ？」
「そうですね……おっと、急ぎましょう、追いつかれては意味がありません」
デスピオンの金属的な歩行音が大きくなってきた……２人は更に坂の上に足を運ぶ。
そして間もなく――採石場の最奥部にたどり着いた……これ以上先には行けない。
いや厳密に言うと「行けなくはない」のだが、そのためには垂直の絶壁をボルダリングせねばならない。
銃器を持つ敵が背後にいるのに、背中を見せて崖をよじ登るなど自殺行為だろう。
もちろん――２人はただ闇雲に逃げているのではなく……意図してここに誘っているのである。
「今だ――ラティス、遠慮しないでぶちかまして良いぞ！！」
背後に新たな気配を察したデスピオンが、旋回行動を取る。
その先には、リミッターを解除したラティスがいた……淡いオーラを煌かせ、なんと宙に浮いている。
長髪がマント状に翻り、その両手には電流だろうか、何かのエネルギーがスパークしている。
デスピオンの反転を待っている理由などない……ラティスはにやりと笑って、その手を突き出した。
直後――まばゆい“稲妻”が、バリバリと火花を散らしてデスピオンを襲い、包み込んだ。
ピンポイントではなく――デスピオンの全身を狙った“電磁パルスの飽和攻撃”である。
高圧電流の中に飲み込まれたデスピオンが、全ての回路を焼き切られるのは、数秒あれば十分だった。
そして光が収まると……そこには全身から白煙を噴く、力尽きた白いサソリがいた。
ゾイドをも“感電死”させるラティスの大技に、アイナも舌を巻く。
「わぁ……いつになく大サービスっぽいですね」
「ここなら漏電の被害を心配する必要がないからさ、新しい技を試して見たんだよ」
「――え、新技だったんです？」
首を傾げたアイナに、ふわりと降りてきたラティスはにこ、と笑みを返す。
「雷電のベクトルを１ヶ所に集中するのって大変なんだよ……練習できる場所も限られてるし」
「飲み込まれた方はたまらんよな、ラティスが味方で良かったよ」
「何言ってるの班長……“アンチサイキック”にはこの技、通じないの知ってるでしょ」
ラティスのツッコミに、龍二は舌を出して笑った。
そう――この男はこの男で、実は“特殊な属性”を持ち合わせているのである。
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そして上野駅近郊。
“陽動作戦”のため、ジグザグに逃げる冬雪＝ホーリーアクアたちに“霊力通信”が入った。
通信を仲介するのは玄武である。
「アクア、朱雀から連絡があった……雑居ビルの中で逃げ遅れた人たちを見つけたって！」
「えぇっ！？ それでその人たちは？」
「あの機械獣に追われて、大きなビルの中に逃げ込んだみたい……フレアとブロウもそこにいるようだ。
外には機械獣がいて、うかつに出られないみたいだね」
「大変だ……すぐに助けなきゃ！？」
顔色を変えたアクアを、秋綺＝ホーリーライトが諭すように言う。
「いやアクア……ここは先に、アリシェイルさんの仲間と合流した方が良くないか？
ガイアやダビデも別のルートを走ってるみたいだし、オレらが勝手なことしたら作戦が台無しだぜ」
「で、でも……」
「彼女の言う通りよ、援軍がいるところまで行った方が確実だわ。
あの子たちが包囲されているのが不安なのは分かるけど、２人だけで助けられる確証はないでしょ？」
隣でアリシェイルもアクアを諭す……その間にも破壊音と黒煙はどんどん近づいてくる。
アクアは数秒ほど俯いて黙っていたが……やがて顔を起こした――その目尻には小さな涙が光っている。
「……分かったよ、合流を優先しよう……でも今以上に急がないと！」
「分かってる……合流したら、絶対にフレアたちを助けに戻って来ようぜ！」
そして再び走り出す３人――だが。
とあるやや広い路地に出てきた時、突然手前の建物からゾイドらしき機体が１機、壁を壊して飛び出した。
赤とシルバーの芋虫のような外見……モルガである。
「――うわっ！？」
「くそっ、回り込まれたのか！」
長い脚こそ持っていないが、モルガはスピードだけなら高速走行型ゾイドに引けを取らない。
路地一杯に広がる胴体で３人の進行を妨げ、背中の武器を少女たちに向けるモルガ。
３人に絶望に近い緊張が走った、次の瞬間。
「雷槍！ ――か〜ら〜の〜、ムラクモ！！」
黄色い掛け声と共に、モルガの武器に後方から複数の衝撃が襲い掛かり、武器をショートさせた。
そして呻き声のような音を出すモルガの頭部に、白黒の小柄な戦巫女が素早く駆け上がる。
「――地断波！！」
大きな鎌を振りかぶり、その切っ先を巨大な金属の芋虫の脳天に突き立てるホーリーガイア。
飛び道具を壊された上、弱点の頭部に上がられてはどうしようもない……間もなくモルガは沈黙した。
ガイアの前に“連撃”をモルガに叩き込んだのはホーリーダビデである。
他のホーリーメイデンの技を複数使うことが出来る、ダビデならではのオリジナルコンボだ。
「ガイア、ダビデ！」
「３人とも――無事！？」
「みゃっほー、ひっさしぶりー♪」
……分かれてから５分も経っていないはずだが、気にしてはいけない。
「黄竜から聞いたけど、フレアたちがビルに閉じ込められてるって？」
「あぁ……だけど、先に合流してから、助けに行くべきだとオレは思う」
「みゃうー、心配だねぇ」
「みんな……どうも、再会を喜んでいる暇はないみたいよ？」
アリシェイルの忠告と共に、４人の戦巫女たちの表情が引き締まる。
破壊音と粉塵が路地に噴き出したからだ……間もなく“破壊者”たちも追いつくだろう。
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もいちど金芽台。
もう１機のデスピオンと対峙するのは、炎の能力を持った小さな戦士ファイアカービィだ。
まず仕掛けたのはカービィで、ファイアカービィのファイアブレスがデスピオンに向けて放たれる。
デスピオンはいきなりの高熱反応にたじろいだのか数歩ほど後退し、
次にカービィは自身を炎に包み弾丸のように突っ込む“バーニングアタック”を繰り出した。
たいまつのように燃えるカービィの体はデスピオンのボディの斜め上を掠め、
デスピオンの白い装甲の炎を浴びた部分はわずかであるが確かに溶解し、泡立っている。
カービィは技を解除して地面に降りると、もう１度バーニングアタックを繰りだそうとするが、
デスピオンは尻尾を素早くカービィの方に向け、パルスビームをマシンガンのように乱射、
カービィもそれを悉く躱してみせるが、反撃に転じる間もなくじわじわと後ろに追い詰められていく。
「わっわっわっ……」
とうとう公園端のフェンスまで追い詰められたカービィ。
デスピオンはパルスビーム砲と機関銃を乱射し、カービィに改めて止めを刺そうとするが、
カービィは口から吹いた炎を体にまとってそれを防御する。
するとカービィの後ろのフェンスが熱で溶けて穴が開き、カービィはバランスを崩して転がり落ちた。
「うわああぁ……あっ！？」
落ちた先は公園脇の車道……標識に『金芽台南３丁目』とある。
デスピオンの方もカービィを更に追い立てようと、穴の開いたフェンスを突き破って車道に駆け下りてきた。
アスファルトの上で再び対峙するカービィとデスピオン。
カービィは大きく息を吸い込むともう１度ファイアブレスをデスピオンに向けて解き放つ。
凄まじい炎に巻かれるデスピオンであったが、今度は退かず一気にカービィに接近したかと思うと、
ハサミでカービィを掴み取り、そして思い切り投げ飛ばした。
「わあぁああん……あいてっ！！」
向かいにあった民家のガレージのシャッターに叩きつけられるカービィ。
しかもその際の衝撃でカービィのコピー能力が解除されてしまい、炎の王冠は光の粒となって消滅した。
強電磁気を帯びたデスピオンのハサミが再びカービィに迫るが、カービィはそれも反射的に回避してみせる。
ボールみたいな体は全身がゴムマリかスーパーボールのようで、とにかく機動力は高いのだ。
しかしそのために、デスピオンのハサミが突っ込んだガレージのシャッターがバリバリと乱暴に引き裂かれ、
アルミとステンレスの破片がバラバラとガレージ内に飛び散った。
「あっ…………」
故意ではないとは言え、カービィは無関係な人の家に被害を出してしまった事に罪悪感を禁じえない。
デスピオンはそんな事お構いなしで、即座に反転すると再びハサミを振りかざしてカービィに襲いかかるが、
カービィは咄嗟にその穴の空いたガレージの中に飛び込んでやり過ごした。
大型トラックほどもあるデスピオンは、さすがにガレージの中に全身を入れることが出来ない。
ただ頭部の下には連装機関銃がある……今撃たれるとさすがにまずい。
もはやカービィに逃げ場所はなく、万事休すかと思われたその時、
カービィはガレージの隅に、工具用のトンカチが置いてあるのに気がついた。
デスピオンの機銃が火を吹き、ガレージ内の床と壁に多数の銃創を作るが、
カービィはそれも躱してすかさずトンカチを口に飲み込む。
「ハンマー……カービィッ！！」
するとまたカービィの体が光に包まれ、今度は手に大木槌を携えた“ハンマーカービィ”へと変身した。
カービィは壁を蹴って飛び、そしてデスピオンの上に乗っかると、力いっぱいハンマーを打ち据える。
“打撃特化能力”を獲得してパワーが上がったのか、一撃でデスピオンの装甲板に凹みが入った。
更にカービィは何度もハンマーを打ち下ろし、デスピオンに確実にダメージを与えていく。
たまらずデスピオンは後退してガレージから抜け出した。
デスピオンは反撃せんと尻尾のパルスビームガンの照準をカービィに合わせるが、
それに気づいたカービィはすかさず体を回転させて遠心力を作り、
文字通りハンマー投げの要領で、相手の尻尾にあるセンサーアイめがけて思いっきり投げつける。
まるでブーメランのように高速回転するハンマーは見事尻尾の先の青いレンズに直撃、
さらにハンマーは花火の如く破裂して、デスピオンのセンサーシステムを破壊することに成功した。
知覚能力のコアの１つを破壊されたことで、初めて両者の“力関係”が変わったのである。
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そして“自ら戦場と化した”立川基地。
陸自娘の“武器姉妹”である木更津若菜と木更津柚子が、背中に展開したローターを駆使して低空飛行している。
腕に持つのは攻撃ヘリのミニガンを等身大に小型化したような機関銃だ。
ゾイドたちの砲撃で立ち上る黒煙の柱を“盾”に、小柄な少女たちがジグザグ飛行を繰り返しながら、
応戦するレブラプターやガンスナイパーに弾丸の雨を降らせている。
もちろん――艦娘ほどではないにせよ、残弾に限りがあるため、弾幕を張れるほどには多くない。
１秒間に数十発を発射する機関銃である……1,000発くらいはすぐに使い切ってしまうのだ。
そしてその程度の銃撃では、ゾイドを撃破出来るほどのダメージを与えることは難しい。
しかし彼女たちには重大な役目があるのだ。
空を不規則に飛び回る小さな“敵”を追って、３機のガンスナイパーが倉庫群の“路地”に入った直後。
死角になった左右からメーサービームやロケットランチャー、砲弾の集中砲火を受ける。
斉藤と習志野が率いる自衛隊レンジャー部隊に加えて、更に“戦車娘”数人が待ち構えていたのだ。
十数発のロケット弾や砲弾の直撃を受け、先頭のガンスナイパーが火ダルマと化す。
それを見た殿のガンスナイパーが後退してグランドに飛び出すが――上空から雷電の束が降り注いだ。
こっちにはキトラが待ち構えていた……挟み撃ちを受ける形になり、また１機のガンスナイパーが沈黙。
間にいた最後の１機は、更に別の路地に駆け込む――が。
倉庫の屋根から２つの大きな影が飛び降り、赤熱するナイフをガンスナイパーの動力パイプに突き立てた。
ザラクと嶽羅である……持っているヒートナイフは竜王チームの白兵戦用装備だ。
武器の射角外に当たる背中に登られては、戦車を翻弄する軽量高機動ゾイドも無力であった。
メーサータンクなどが受けた非情な“仕打ち”を、今度は彼らが受けたことになる。
「――よぉっしゃぁあぁぁ！！」
ガッツポーズをする斉藤と習志野、その上空で若菜とキトラがハイタッチを交わした。
もちろん気を抜いている暇はない。
応戦しやすい小型ゾイドは確実に数を減らしているが、中型ゾイドのレブラプターがまだ数機残っている。
“主力”であるジェノザウラーはパドルが相手しているだろうが。
「まだだ、総員気を抜くな、今度はでっかい方だぞ！」
「聞いたかコブラ、オメガ、今度はあのでかいメカ恐竜の誘導だ！」
「分かってる、任せ―― っ！？」
その時――全く想定していなかった角度から銃声が聞こえ、“コブラ”若菜のローターに火花が飛んだ。
「――うわっ！？」
「若菜っ！？」
ローターを完全に破壊されはしなかったが、揚力が落ちて高度が下がる若菜の正面に、１機のレブラプター。
死角からの銃撃に気を取られ、まだ若菜の迎撃体勢は整っていない。
「ウッソ……やば――」
顔面から血の気が引いた若菜――しかしその視界に、突然大きな金色の影が割り込んだ……キトラだ。
そしてその直後、ドスドスドス、と大きなナイフを刺すような音が数回響いた――金色の幼い顔が明らかに歪む。
それが何を意味するのか悟った若菜の顔も引きつった。
地上にいたジーラは、レブラプターのバルカン砲が、キトラの背中を捉えるのを見た。
金色の背中に赤い飛沫が飛ぶのが、地上からもハッキリと見える。
「――キトラ！！」
若菜を横に押し出した後、脱力するように失速するキトラに向かって、レブラプターは冷酷にも追撃をしようとするが、
頭部をかすめた１発の“銃弾”に反応し、振り向いたところに更にもう１発の銃弾が鋭く食い込んだ。
左目に当たるセンサーアイを破壊されたレブラプターは金属的な咆哮を上げて仰け反る。
レブラプターのセンサーアイを的確に撃ち抜いたのは、陸自娘の“特戦群”にして、スナイパーである出浦信だった。
だがレブラプターもサイボーグ兵器ゾイドである……３発目を受けまいと射線の反対側に素早く後退する。
出浦は舌打ちをして、自らが陣取っていた倉庫の屋上から迅速に撤退した。
「――畜生、何てこった！ ……おい、今の銃弾はどこから飛んできた！？」
斉藤の叫び声と同時に、十数ｍほど先の路地から軽機動車が１台、飛び出してきた。
運転席に誰も乗っていないのに、軽機動車はそのまま走り去ろうとする……荷台には銃器が光る。
そしてその挙動に――斉藤は見覚えがあった。
最初に基地が襲撃されたあの日――自分の命を危機に晒した、因縁の“敵”。
「 あ の 野 郎 っ ！！！ 」
思わず“キレた”斉藤の表情が鬼のように豹変し、目が血走る……隣の習志野が一瞬、引くほどに。
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またもや上野駅。
自衛隊や警察の誘導を受け、1,000人を越す避難民が北西方面に向かって線路をゾロゾロ移動している。
その中には深雪や三四郎もいる……見るからに不安げだ。
得体の知れない破壊者に攻撃される不安ではない……冬雪たちの安否に対する不安である。
「冬雪……」
「そこの２人、立ち止まらないでください！」
自衛官の声が飛ぶ……正論なのだが、２人の足が重いのも仕方のないことだ。
ホーリーメイデンズが走っていった上野駅南東方向には、真っ黒な煙が何本も立ち上っている。
あの黒煙群の中に愛娘たちがいるなど――親なら信じたくないだろう。
因みに――山手線の線路上を占拠していたディロフォースは既に排除されている。
特生防衛隊の“メーサー攻撃機”こと、ＭＨＪ０７の陽動作戦により、南方に移動したためだ。
そしてその“上野駅南口”では、ライカとファルレーンが奮闘していた。
ライカは既に２発目の“霊力バースト”を炸裂させ、一気に10機ほどのゾイドを沈黙させていた。
そのため作戦を展開しやすくはなっていたが、“切り札”の霊力バーストを連発したことで、
ライカの足もまた、レイラックと対峙した時に比べると明らかに重くなっていた。
「ライカ捜査官――本当に大丈夫ですか？」
「心配は要らないわ……確かに疲れたけれど、自分の身くらい余裕で守れるから」
とはいえ――北上しようとするゾイド群を、事実上２人だけで押し留めるのは大変な任務である。
防衛隊も一応協力してはいるが、戦力を集中できる余裕は彼らにもないからだ。
打撃力に優れたメーサータンクやスーパーガルーダは、実質ほぼ撃破されてしまっていたからである。
整備中の機体もあるので完全な全滅ではないが、既に防衛戦の主戦力ではなくなっていた。
まるで主力戦艦がほぼ使い物にならなくなった敗戦末期のようである。
ゾイドたちが遠慮なく乱射するビームや銃弾を、ライカは念動とマルチセイバーで悉く弾いていく。
レイラックの銃弾を止めた際にも見せた念動の効果もさることながら、
集中砲火としか言いようのないビーム攻撃を、残像が見えるほどの剣さばきで受け止め、
発射したゾイドに向かってピッチャー返しのように撃ち返すテクニックは文字通り“神業”である。
それを目撃した自衛官や警察官たちは、ただただ唖然として眺めている。
青い髪と長い耳の女性が、何十発と降り注ぐビームの雨を、たった１人で防いでいるのだから。
そしてライカが防戦に徹しざるを得ない横で、ファルレーンが両手のタキオンニードルガンを発射し、
進撃するゾイド群の足を止め、銃器にダメージを与えていく。
「アリシェイルと彼女たちは――そろそろ隊長たちと合流したでしょうか？」
「分からない……でも信じましょ、同志なんだから」
ライカはふと空を見上げた……黒煙が何本も立ち上る空には、先ほどまで“敵性ゾイド”と思われる、
足が生えた飛行機械らしきものが何機も飛んでいたが、今は余り見かけなくなっている。
湾岸部にはまだ幾つかの黒い影が舞っているのが見えるが、こちらには飛んでこなくなった。
既に撃墜されたものもあろうが、果たしてそれだけが原因なのだろうか。
「……どうしたんですか、ライカ捜査官？」
「どうして……飛行能力のある襲撃者が減ったのかしらね？」
「そう言えば……大方撃墜したってことでしょうか？」
「そこまで優勢だったかしら……あのディスヴェリオンの工作員が逃げてから、急に減った気がする。
もしかして……あいつらの工作を支援することだけが、目的だったのかも」
「ディスヴェリオンの工作を支援することが目的にしては、大々的過ぎませんか？」
「そうよねぇ……これだけの破壊工作、一体何が目的なのかしら」
「ジャミングはまだ掛けられているようですね……通信が回復したら何か分かるかも知れません」
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んでもって上野近郊の雑居ビル。
「取り合えず、どうにかしてここを脱出しないとね……」
「あいつらの目を逸らせると良いんですが……」
腕組みをして“対策”を議論するホーリーフレアとホーリーブロウに、居合わせた少年たちが顔色を変える。
２人がここに駆け込む前から孤立状態だった“避難民”である。
「いやいやそんな、無茶だよ！」
「僕らもさっき見たけど、歩く戦車みたいなロボットだったぜ！？」
「無茶なことするぐらいなら、ここで救助隊を待った方が――」
気弱そうな少年の１人がそう呟いた時……不気味な音と共に雑居ビルがギシギシ、と揺れた。
「えっ何今の……地震？」
「違うわね……あのロボットたちが、このビルを壊そうとしてるのよ」
「「なっ、なんだってーーーー！！？」」
本日２度目のＭＭ○モード……それは置いといて。
信じたくない“現実”を聞かされた、少年達の表情が今まで以上に不安の色に満ちる。
あっけらかんとして“危機”を明かすフレアに、ブロウが小声で囁いた。
「ちょっとフレア、それ言っちゃっても良いんですか！？」
「だって、隠しても助かる保障ないもん。そんなことより、どうしたら逃げられるか考えなきゃ」
「あのロボット獣の気を逸らせれば……どうにかなるかも知れないんですけどねぇ」
「えっと、つまり……陽動出来れば良いんですよね？」
ふと――少年達の中からぼそり、と声がした……声変わりもしていない、幼い声だ。
「おっおい、明日也……お前今度は何考えてんだ！？」
「そうだよ、これは遊びじゃないんだぞ！」
「でも……待ってても何も変わらないんだったら、賭けるべきじゃない？」
少年達に明日也と呼ばれた、小学生くらいの小柄な少年は、しかし年齢不相応にクールに振舞う。
「おおう……冷静だね、この子」
「明日也はテックマニアなんだよ……家が警察関係者でさ、幼稚園の頃からハリウッド映画見て育ってるんだ」
「へぇえ……いるんだねぇ、そういう子って」
「それで、明日也君でしたっけ……キミは何かアイデアがあるの？」
ブロウが屈み込んで明日也少年に質問する……黄緑色の巫女服のスカートが少年の素足を撫でた。
「うーんとね……こないだ見た恐竜映画で、鏡に人影を反射させて、上手く逃げてたよ」
「お前な……どこに鏡があるんだよ、第一あのロボットは外にいるんだぜ？」
「鏡はないけど、窓はあるじゃんか……例えば懐中電灯の光を、向こうのビルの窓に反射させたらどう？
あとラジコンにスマホ乗せて動画再生したら、声でカムフラージュできるんじゃないかな」
戦巫女２人とオタク少年達は、明日也少年の“提案”に、思わず顔を見合わせた。
「それ……行けるかも知れない！」
「凄いですねぇこの子……将来が楽しみかもｗ」
“コスプレ美少女”２人に褒められた明日也少年は、思わずドヤ顔を見せる……この辺は年齢相応だ。
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再び立川基地。
無人の軽機動車が、倉庫の間の路地をジグザグに縫うように走っている。
１度裏門の前に出てきたが、そこには防衛隊員らがバリケードを作って待ち構えていたため、
Ｕターンして、レブラプターが「牛耳っている」グランドの方に再び飛び出してきた。
レブラプターは無人の軽機動車を攻撃しない……どういう関係なのか分かろうというものだ。
「――いい加減に観念しやがれロボット野郎、てめぇの正体はもう分かってんだよ！！」
そんな軽機動車に向かって、２台の偵察用オートバイが反対側から飛び出てきた。
１台目には斉藤がまたがり、その後ろには陸自娘の１人である出浦信がまたがっている。
偵察や狙撃を得意とする出浦は、ゾイド群の進撃を最も冷静に観察し続けていた１人で、挙動不審な軽機動車にも気付いた。
先ほどキトラを攻撃したレブラプターの追撃を阻止したのも彼女の観察の賜物である。
不規則に走る２台のバイクに進路を塞がれ、無人の軽機動車はドリフトしかかりながら急カーブを切るが、
その目前に上空から木更津４姉妹の末っ子、柚子のグレネード弾が撃ち込まれ、再び逆方向に鋭いカーブを切る。
「――逃がしませんよ！」
レブラプターが弾幕を張るため簡単には近付けないが――若菜を“狙撃”した敵を逃がすわけにはいかない。
しかもその“横槍”の所為で、貴重な戦力の１つを失いかけたのである。
「ねぇ斉藤１尉――あいつの正体、知ってるの？」
「変形するロボット野郎だよ……この前基地にケンカを売ってきた連中の１人だ。
だいいち、無人で走る軽機動車なんてこの基地には配備していねぇ……絶対逃がすんじゃないぞ！」
額に青筋を立てて、斉藤はバイクのスロットルを握り締める。
斉藤を“本気”にさせた――“異世界の同志”キトラは、防衛隊の衛生兵の応急処置を受けていた。
生半可な銃弾では大した傷も付かないキトラの頑丈なウロコを貫通して、
レブラプターのバルカン砲の小瓶のような弾丸が、金色の背中に６発は深々と食い込み、血に染めている。
数十発が撃ち込まれていたが、被弾角度が浅かった弾丸はウロコを破壊できなかったようだ。
心臓を貫かれなかったり、背骨を砕かれなかったのが不幸中の幸いだが――それでも重傷に違いはない。
まぁこれが普通の人間なら、１〜２発で確実に体が引き裂かれていただろうが。
弾丸の摘出は先ほど終わったが……中々血が止まらない。
“宇宙怪獣”の遺伝子を持つキトラの血管が普通の人間の位置とは違うのに加えて、
その爆発的な身体能力をカバーするために、血液がかなりの圧力と速度で体内を循環しているためだ。
おまけに衛生兵もこんな“金色の強化人間”の銃創を治療することなど初めてだろう。
キトラは荒い息をしつつうつ伏せで痛みと貧血に耐えている……この“戦地”では麻酔をかける余裕もない。
その横では若菜が不安そうな表情で、“命の恩人”の治療を見守っている。
「――んなろぅ、往生際の悪いやつだぜ！！」
更に急カーブを切る“敵”の目の前に、今度は背ビレを輝かせたジーラが飛び出した。
足元に着弾するプラズマ弾に急ブレーキをかけた直後――その隣に斉藤が追いつき、空の荷台に手をかけた。
荷台の上に設置された機関銃の射角では、荷台のフェンスを撃てないことを斉藤は熟知している。
敵はジグザグ走行で振りほどこうとするが、斉藤はバイクから体が離れてもなお、死に物狂いで食らい付く。
「 離 す か ぁ あ ぁ ！！！ 」
痺れを切らしたか――ついに軽機動車は出浦や柚子の目の前で変形を始めた。
執念でしがみつく斉藤に、タイヤの下から引き出した腕を引っ掛け、その足を無造作に掴んで放り投げる。
斉藤の体が出浦の上を越えて10ｍ以上も宙を舞い、倉庫の横に並べた補給資材の中に叩きつけられた。
「ぐぉっ――かはっ」
「斉藤１尉！！」
激しい衝撃を受けて倒れ込む斉藤に、変形を終えたディスヴェリオンの斥候は金属的な叫び声を上げて、
ケリをつけるように、もう片方の腕に仕込んだ３連装の機関銃の銃口を向ける……“あの時”のように。
だが斉藤は銃口を向けられながらもにやりと笑った……その指先に、黄色い“ピン”がキラリと光る。
斉藤の薄笑いの意味を悟ったか、歯軋りのような音を敵が立てたその直後。
その胸下辺りで爆発が起こり、敵は“体の破片”を撒き散らして、仰け反るようにグランドに倒れ込んだ。
「……あのわずかな隙に、手榴弾を……！」
そう――斉藤は敵に取り付いた際、安全ピンを抜いた手榴弾を胸下の隙間に捻じ込んでいたのである。
ポケットに忍ばせていたものを、相手が変形したほんの１〜２秒の隙に。
敵の胴体そのもので手元を隠していたため、相手も異物に気付いた時は既に手遅れだった。
「げほっげほっ……へっ、ざまぁみやがれロボット野郎」
レブラプターが金属的な咆哮を上げるが、横から柚子の弾丸とジーラのプラズマ弾が襲い掛かる。
更にジーラは柚子に手を伸ばし、引っ張り上げられるその勢いで、１機のレブラプターの背中に飛び乗った。
「柚っちゃん――おいらを引っ張って！」
「えっ、あっ、はい！」
こっちはこっちで“相棒”を撃たれた怒りで、赤い瞳が淡い紫色の光を帯びている……“本気”の証だ。
既にその手にはスミレ色に変色したプラズマの奔流が湧いている。
「クソッタレが……てめぇらにも背中に大穴開けてやんよ！！」
２人がレブラプターを引き付けている間に、出浦が斉藤に駆け寄る。
その背後からも１人……出浦とよくチームを組む陸自娘の１人、豊川かるらだ。
「……大丈夫？ ――あなた特戦群に向いてるかもね」
「特戦群ねぇ……まぁ考えとくよ」
「ご無事ですか斉藤１尉……結構無茶をされますね」
「……性分でね、長生きは出来んかも知れんな」
斉藤は自虐的に呟きながらも――しかしその表情に後悔の色はなかった。
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その頃――葛西公園のゾイドテロ現場。
伝説の大型ゾイド・デスザウラーと、イズキのライガーゼロが対峙している。
圧倒的な火力で迫り来るデスザウラーに、ライガーゼロはひたすら機動力で勝負を挑み続けている。
デスザウラーのビームが発射されるたび、ライガーゼロはサイドステップのような動きで躱すが、
３方を海で囲まれたこの場所では、その機動力にも限度がある。
かと言って不用意に行動範囲を広げれば、公園の外に飛び出すことになり、被害の拡大は確実だ。
すでに葛西公園は２体のゾイドの戦闘で、超大型トルネードでも直撃したかのような惨状を呈しているが、
建物の類が少ない分、市街地に比べればまだましだろう。
そんな制約の中、デスザウラーも少しずつ、じりじりとライガーゼロとの距離を詰めて行く。
脳天気なイズキもさすがに、さっきの荷電粒子砲でこのデスザウラーに“説得は通じない”ことを理解している。
「やっべぇ、マジでどうしよ…… ――んっ？」
もはや打つ手の無くなったこの状況で、更にライガーゼロのディスプレイに複数のゾイド反応が検知される。
またしてもあのコウモリ型ゾイド――ザバットの群れだった。
市街地に目ぼしい標的がなくなったのか、それとも同族の気配に引き寄せられたのか。
急降下爆撃を仕掛けてくるザバットのレーザー攻撃を回避すべく、ライガーゼロは再び跳躍する。
だが――反射的に飛び出した先は運悪くデスザウラーの“間合い”だった。
イズキが気付いた時には、大木のようなデスザウラーの尾“荷重力衝撃テイル”がすぐ目の前に。
――ゴォッッ！！
「――うわああぁぁぁっ！！」
100トンを超える衝撃に吹き飛ばされたライガーゼロは、50ｍ以上先にあったレストハウスに突っ込んだ。
レストハウスといっても壁のない“東屋”だったのだろう……砕けた屋根材が割り箸のように飛び散る。
原形を留めなくなったレストハウスの瓦礫の中で、ライガーゼロもまた動かなくなってしまった。
そんな光景を、停止した大観覧車のゴンドラから眺める安室姉弟が、悲痛な声を上げる。
「あぁ……あの白いのもやられちゃったよぉ……」
「えぇえ〜っ！！」
ライガーゼロを倒したと思ったのか、デスザウラーは方向を変えて再び大観覧車の方へと歩み出した。
いや、デスザウラーだけではない……今度はザバットの群れも観覧車に向かってくる。
「ちょ……みんなしてこっちに……やばい、やばいよ！」
「いや……あたしまだ死にたくない！」
絶体絶命――パニックになりかけた姉弟がそう思った時だった。
明後日の方向から飛んできたビームが、爆撃を仕掛けようとしていた１機のザバットを吹き飛ばした。
「――えっ！？」
方向的には、お台場の方角になるのだろうか。
９日前に起きた“怪獣事件”のために今も封鎖されているお台場辺りから、そのビームは放たれた。
それも１発ではなく、次々に発射され、予想外の攻撃に戸惑うザバットを次々に撃墜する。
その威力も小さなものではない……デスザウラーの荷電粒子砲には劣るものの、
直撃を受けたザバットの翼や脚が根元から吹き飛ぶ程度には強力だ。
そして間もなく、大きな影が東京湾の海面を飛び越えて、葛西公園の堤防の上に降り立った。
「……そんな、これってまさか……！？」
「うそ……」
大観覧車を庇うように、その大きな影は堤防を「歩き」、警戒するデスザウラーの前に陣取る。
その大きさはデスザウラーとそう変わらないが、こちらは完全な２脚歩行であり、
ほぼ全身をアイボリーホワイトの装甲に覆われた、まさに人型ロボットとしか言えない外観である。
そしてその“形状”は、安室姉弟が“良く知っている”ものだった。
「ガンダム……！！」
そう――“連邦軍の白い怪物”ガンダムである。
零児が大好きなＳＦアニメの主役であり、その“初代”の姿にそっくりだ。
お台場にはちょうど、ガンダムのテーマパークがあり、設定上の実寸大模型が置かれていた。
“お台場ガンダム”を知る者なら、目の前の機体がそこから来たことをすぐ想像したことだろう。
もっともそれが「本当に歩いてやってくる」など、さすがの零児にも、予想できない展開だったのだが。
小学生の彼でも、ガンダムがＳＦアニメの存在であり、実在するロボットではなく、
お台場のテーマパークにあるものが「再現模型」であることは既に知っていたからだ。
それが歩き出すことも驚きなら、ゾイドたちが暴れる戦場に“参戦”することも驚きでしかなかった。
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| （８章７話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
初期のプロットに大きな変更はなかったが、ハイライトが佳境に差し掛かるほど変更点は大きく、
この“第６話”では旧企画時の草案からかなり内容が変わっている（苦笑）
全体の「基本的な流れ」に大きな変更は加えていないが、登場キャラ修正や追加プロットが多くあるためだ。
艦娘艦隊と陸自娘の参戦は、その大きな変更ポイントの１つである。
いずれも旧企画時点では存在しなかった設定で、企画に参加した桂枝芽路氏のアイデアを汲み取っている。
ただ仙台湾の戦闘シーンに艦娘たちが参加する展開や、立川基地のパートは主にG-maの考証による。
飛石武氏の草案部分は、主にデスピオンとカービィのカード、惑星Ｚｉ出身者のパートなどに反映している。
上野駅近郊でホーリーメイデンズの少女たちが新たに出会う“オタク少年団”もＰＡでの新機軸であり、
劉哲也氏が投稿したテックマニアの小学生・明日也をここで初めて登場させている。
また葛西公園の戦闘シーンも、旧企画では「異世界のガンダム」が実際に参戦する設定になっていたが、
こちらもＰＡになってから１度“白紙化”されたため、代役を登場させる展開に変えている。
（ガンダムシリーズは実際のところ、クロスオーバー向きとは言い難い世界観の構造なのだ^^;）
今回のエピソードでは「ガンダムそのもの」に見えるが、実はそうではなかったりするのだ（爆） |
