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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CS21307DSA） |
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「――来たな同志、こっちだ」
関東山地のどこかにある人気のない林道に、中途半端な和装の男が立っていた。
“強化アヤカシ”のリーダー格、ジャンキーマスターである。
周囲には２〜３個の鬼火がふわふわと漂い、足下をエスコートしている。
「同志ね……まぁ、良いわ」
苦笑するような含み笑いをしながら、隻眼の老人が近づいてくる。
伝統的な妖怪集団“百鬼夜行衆”のリーダー格であるぬらりひょんだ。
ジャンキーマスターとは“別派閥”で保守的な男だが、今は行動を共にしている。
その横には小柄な“赤鬼”の少年、朱之盆が常に寄り添っており、
更にその後ろから複数の“異形”がぬらりひょんに従うように歩いてくる。
「……あいつ都合良いことばっかり言ってるッスよねぇ」
「ほほ、朱之盆も言うようになりおったなｗ」
「ネガティブに考えるよりもポジティブな方が良かろう、小僧？」
ジャンキーマスターの反応に、一瞬びくっとした朱之盆だが、すぐに肩をすくめる。
「……俺らアヤカシって影の種族なんだけど」
「こだわり過ぎれば自滅を招く――ぬらりひょん殿は十分分かっておられよう」
「ふ――」
口元を扇子で隠し、軽く嘲笑うような素振りをしつつ、
ぬらりひょんがジャンキーマスターの横に立つと、細い片目を見開いた。
林道の脇に、異空間のような“闇の入口”がぽっかりと口を開けていたのだ。
「ここに入れ――ということかね？」
「いかにも……そう警戒なさるな、これは“特別会議室”なのさ」
「まぁ良いわ……」
先ほどと同じことを呟きながら、ぬらりひょんが闇の入口の中に入っていく。
後続の“妖怪たち”もそれに続いていった。
そして最後にジャンキーマスターが入口に入ると、闇の入口は影のように消えた。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ ザ・サイドストーリーズ ★
魔界大戦と新たなる魔導兵器・前編
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「――なんか最近、暇ですねぇ」
こちらは金芽台グリーンベルトの中にある丘陵地帯の１角。
全身青銅色の少女が、メガネの縁をコリコリ振って、大きな伸びをする。
“銅像アヤカシ”の１体、二宮銀子だ。
元々は「校庭を走る二宮尊徳像」だったものだが、“少女化”したのには理由がある。
「なんだよ、本でも読んでりゃ良いだろ……向こうにでっかい図書館あるじゃねーか」
「ボクに人間の図書館に入れって言うんですか、花子さんは？」
ピンク色のセーラー服の少女が、外見不釣り合いの言葉で銀子にツッコむ。
「トイレの花子さん」の学校会談を体現するアヤカシの１体――桜木花子だ。
見た目は少女だが、実は呪いを受けた少年の地縛霊であり、
自身もまたその怨念で他の存在を“少女化”出来る……実は銀子も“被害者”なのだ。
もっとも銀子は元々銅像アヤカシのため、外見が変わっても中身は余り変わらない。
……因みに「でっかい図書館」というのは、私立金芽台学校高等部の図書館のことだ。
「夜なら誰にも見つからねーだろ」
「いやカギかかってるじゃないですか、ボク幽霊みたいに壁抜け出来ませんよ」
「……意外と役に立たねぇなぁ」
可愛い溜息を吐いた花子は、手にしたビーチボールのような青い半球体を弄ぶ。
サイズこそビーチボール大だが、曇りガラスのような質感で、木漏れ日を受けて光る。
「花子さんそれまだ持ち歩いてるんですか？」
「……なんか変な未練を感じてな、コイツもこの世界に違和感を感じてんだなって」
花子が持っているのは、１週間ほど前に起きた“ゾイド紛争”で金芽台を襲撃した、
小型ゾイド“デスピオン”の目玉だ……構造はレーザースコープに似るが、
ガラス結晶の繊細なコードのような物体が、視神経のようにぶら下がっている。
「あのサソリのロボットみたいなやつの目玉ですよねぇ」
「よく分かんねぇけど、ただの機械じゃないっぽいな、意識みたいなものを感じるんだ」
「そう言えば、半分生物みたいなものだって、シドさん言ってましたね」
「シドって誰だよ？」
「あ、そうか、あの時花子さんいませんでしたね……ほらあのビルにいる人たち」
「冬雪ちゃんとか泊まってるあのビルか？」
「そうです、そこに“鬼の能力”を持つ人間がいるんですよ」
銀子が言っているのは竜王のキメラノイド戦士シドのことである。
普段は長髪の青年だが、“邪鬼族”の姿に変身出来、デスピオンとも交戦している。
シドは普通に外を出歩けるため、銀子と接触したことがあったようだ。
「太郎さんと向こうの喫茶店で鉢合わせたとか言ってましたねぇｗ」
「そんなのまで泊まってんのか、あのビルは――」
そこまで呟いた花子が――ふと言葉を潜め、目つきを変えた。
「……花子さん？」
「しっ――誰かがこっちに急接近してる」
「野犬とかですかね？」
「２体いるな……１体は妖気を感じる、ケモノの類じゃねぇな」
「じゃあ、ボクらと同じアヤカシってことですか？」
「同じアヤカシだからって、味方とは限らねぇぞ、ここは異世界だからな」
「そうですね――」
花子は２人に向かって急速に近づいてくる、何者かの気配を感知したらしい。
花子は脇に長剣を忍ばせ、銀子は“青銅の薪”を取って身構えた。
銀子の得物はどこか貧弱だが、こう見えて「空間の壁を越える」効果があるのだ。
そして高速接近してくる、妖気に満ちた１つの気配に向かって、剣を――
「――ぬぉわぁあぁあぁぁぁっっ！！？」
何とも言えない悲鳴が――木立の中に響き渡り、小鳥が数羽、逃げていった。
「え、これって……」
青銅の薪を構えたまま、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている銀子。
そして怪訝な表情を浮かべる花子の目の前には――
「……何やってんだよ、太郎」
イケメンだが暑苦しい、見覚えのある青年の顔が焦った表情を浮かべていた。
この“太郎”も学校アヤカシの１体だ。
プレイボーイのように振舞うが余り品が良いとは言えず、
花子に惚れているらしいのだが、当の花子には盛大にうざがられている。
見た目は花子以上に普通の人間だが、こう見えてクマも絞め殺す怪力の持ち主である。
「……おぉう、驚いたじゃないか花子、彼氏になんてことするんだ！」
「あ”ぁ、誰が彼氏だって！？ ホントに斬って捨てるぞ！」
「まぁまぁ、敵じゃなかったから良いじゃないですか」
「それでお前――誰と鬼ごっこしてたんだよ？」
花子が剣を収めてそう問うと――太郎は再び、真剣な表情に戻った。
「あぁそうだった、今“異世界の怪異”を追っていたんだ！」
「異世界の怪異――だって！？」
花子と銀子は、思わず顔を見合わせた。
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再び――ジャンキーマスターにエスコートされる百鬼夜行衆。
足下も覚束ない闇の通路を歩いて行くと、ふとスミレ色の光が空間に浮かび上がった。
光に照らされるように複数の異形の“人影”も見えている。
「おぉ――ナギル殿ではありませぬか」
ジャンキーマスターが紹介するよりも先に、ぬらりひょんが声を上げた。
目の前にいるのは丸眼鏡が顔に食い込んだ“青鬼”の老人――面識があるらしい。
「久し振りぢゃなぁ、ぬらりひょんよ。 そう変わってはおらぬようで何よりぢゃ」
小柄な青鬼の老人は、魔界国家“魔修羅連合”の魔導科学者ナギルである。
独自に構築した“魔導科学技術”により、魔修羅連合を魔界列強に育てた立役者だ。
「聞いておりますぞ、ナギル殿――“魔界大戦”が始まったと」
ぬらりひょんの言葉にナギルが静かに頷き、アヤカシたちは目を見開いた。
どうやら――彼らにも知らされていなかった情報らしい。
「魔界大戦――まさに“大いなる戦い”の前哨戦ですね……！」
武者震いのように興奮するのは百鬼夜行衆の“若頭”の１人、怪人赤マントだ。
時代がかった貴族のような紳士的な出で立ちだが、残虐な本性を持つ妖魔である。
狙った相手に謎かけをして、その“答え”で相手を呪い殺すのが得意だ。
戦巫女戦隊“ホーリーメイデンズ”とも因縁深いアヤカシである。
「――前哨戦？ なぁ赤マント、魔界大戦が“大いなる戦い”じゃねぇの？」
朱之盆が小首を傾げる……確かに“魔界大戦”自体も大規模な戦火だ。
ナギルが所属する魔修羅連合が、“魔界統一”を目論んで大軍を動かしたのは、
次元融合変動が始まるのとほぼ同時であった……空間が不安定化する異変により、
“敵陣”の索敵網がマヒするのを狙った電撃的な作戦だったようだ。
伝統的な魔界勢力の１つである“元魔同盟”はこの電撃作戦で既に大打撃を受け、
魔界の勢力地図が大きく塗り替えられる“激動”が始まったのである。
朱之盆の疑問に、赤マントはニヤニヤして話を続ける。
「ふっふっふ……魔界大戦は“大いなる戦い”の“前座”なのですよ。
更なる“世界革命”の第１段階に過ぎない――そうですよね、ぬらりひょん様？」
「ふ――あの“黒い男”は確かに、そんなことを言うておったな……」
「情報共有が図られているのは良いことだ」
ふとそんな声と共に、新たに複数の“人影”がスミレ色の光の中に現れた。
黒いタンクトップの不気味な男――ゼルガ・ローヴを筆頭に、
その“弟子”である妖魔の女ネオザ、狐面を被ったマインドクラッシャーなどだ。
暗がりでハッキリ見えないが、その後ろにはジャガンの単眼も見えている。
「２週間振りかな、ぬらりひょん殿……“魔神石”の創造物の手応えはいかがかな？」
「悪くはない――じゃが、小生意気なやつが多い……貴公の趣味ですかな？」
皮肉交じりの言葉を返すぬらりひょんの背後で、ジャンキーマスターが苦笑する。
「ぬらりひょん様……あの石はアヤカシを進化させるものです、性格はともかく」
「ほほ、そうじゃな――お主があの“こっくり”だったとは思えぬよ」
ゼルガの横にいるマインドクラッシャーも、元々は古典的なアヤカシであったが、
“強化アヤカシ計画”によって、今のような魔女の姿に変わったのだ。
「ですが、ゼルガ様……私は、その……まだ、十分ではありません」
「む、あなたは確か、白金院百合子でしたか……この世界で生まれたアヤカシとか」
赤マントの言葉に、無言で頷いたのは白金院百合子だ。
その何か言いたげな表情を、ゼルガは薄笑いを浮かべて眺めている。
更にその横にいるネオザが皮肉交じりに口を開く。
「何よあなた、元銅像なんでしょ、頑丈な体じゃない、この馬鹿マントよりマシよ」
さらっとディスられた赤マントが引きつった笑みで歯軋りの音を立てた。
何しろ彼は、ホーリーメイデンズをこの世界に引き込む事件のお膳立てに出張ったが、
直後にネオザの気まぐれで強制退場を食らう羽目になっているからだ。
アヤカシなので単純な物理攻撃は無力化出来るが、ネオザの爪には呪いの波動がある。
そのため赤マントは、今もなおその傷が疼くようである。
「“銅像”なのがイヤなんだろ？ ジャンマスから聞いたぜ、同族に弄られたってなｗ」
「あのブロンズ娘……絶対に許さない、２倍いや３倍にして返してやりたい」
ジャガンの煽りに百合子は更に険しい表情を浮かべた。
銀子に言われた「所詮銀メッキ発言」が、彼女にはトラウマ級に効いたらしい。
「その怨念は重要だ、白金院百合子――我々も現状の“お膳立て”で十分とは思わぬ」
「新たなメニューを準備中だとジャンキーマスターが言うておったが、そういうことかね？」
「そういうことぢゃよ……ぢゃからこそワシが出張っておるのぢゃ」
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魔物たちの会話をまとめるように――ナギルが光の中心に歩み出た。
「この１ヶ月ほどの間に、かなり“役者”が揃ってきたのでね……活用せねばなぁ」
言いながら、ナギルは水晶体のようなものを持ち出し、闇の空間に映像を投影する。
そこには“渋谷事件”から今に至るまでに起きた様々な事件のダイジェスト映像があった。
様々な“異形”や“異能者”が１つの世界に“召喚”されていることが、実によく分かる。
「“銀河社会”からも有志たちにご足労願ったからな、バラエティ豊富だと思うよ」
もちろん――ゼルガが言っているのは比喩で、実際には「強制的に召喚」しているのだが。
そしてジャガンがゼルガの隣に身を乗り出してナギルに言葉を投げる。
「確か俺も、こういう計画の“プロトタイプ”だと言ってたな、ナギル？」
「おぉそうぢゃ、ジャガンもこういう“異世界因子”がなければ、生み出せなかったのぅ。
それに――“こやつら”もジャガンと、広い意味では“同類”ぢゃぞ」
ナギルの言葉と共に、“水晶体映像”がアップになり、２つの異形の人影が投影される。
人間界で様々な事件に立ち会っている者なら、それが異世界召喚された“怪獣人”、
ジーラとキトラのキメラノイド・コンビであると気付いただろう。
ジャガンもそのことにすぐ気付いたようだ。
何故ならジャガンもまた、彼らに組み込まれた「怪獣の遺伝子」と似たものを持つからだ。
「こいつら――まさか“ゴジラ”と“ギドラ”のキメラなのか！？」
「食いついたなジャガン……そうだ、お前の体に組み込まれた“怪獣因子”とも縁があろう。
確か“ガイガン”と“ジェットジャガー”だったか……色々と因縁深いよな。
そしてこの２人は今、人間界の“有志”と行動を共にしている」
「怪獣の遺伝子を持つ――偽善者だってことか」
「そうだ、そしてこういう“人材”はこっちにもいる……ジャガン、お前以外にもな」
ゼルガの言葉が終わるかどうかのうちに、闇の空間に“重い妖気”が一気に満ちる。
その妖気をまとうように、新たに２つの“人影”が光の中に現れた。
百鬼夜行衆のアヤカシたちが更に驚いた表情を浮かべた――ぬらりひょんもである。
「なんと……今回はあなたまで関わっておられるのか……！」
身長３ｍはあろうかという筋骨逞しい“青鬼”――魔修羅連合軍の司令官、銀角である。
魔界でもトップクラスの強大な魔人だ、アヤカシたちとは次元が違う。
こういう“誘いの場”でなければ、出遭うこともなかったくらいの格の持ち主だ。
それこそアヤカシの起源体“八岐大蛇”と並べて語れるほどの存在なのだ。
いつも慇懃無礼で饒舌な赤マントも、今回ばかりは格の違う存在を見て顔面蒼白だ。
「お主がぬらりひょんか、話はナギルやゼルガから聞いているぞ」
「いえいえ、勿体ないお言葉で御座います」
「銀角総司令……わざわざお呼び立てして申し訳ありませぬ」
「ナギルが固くなるような話ではない……俺はゼルガに呼ばれたようなもんだからな」
「仕方ないだろう、俺と貴公の縁に深く絡む者を紹介するのだから」
「ほほぅ、これは壮観ですな……まさに魔界のサミットと言うべきか――」
そして銀角の背後から、紫色の長髪が印象的な人物が現れた。
どこかゼルガに顔つきが似ているが、体格自体は“人間体”のゼルガより逞しく見える。
「紹介しよう――こいつはジェノクだ、あの魔獣ズィヴァムのキメラノイドだぞ」
「おぉ、ズィヴァムと言えば“闇と氷の魔竜”ではありませんか」
「え、えーと、ぬらりひょん様……そのズィヴァムというのはどういう魔物で？」
「まぁ知らぬ者が多いのも仕方ないな、何しろこの“惑星”とは違う世界の出身じゃし」
「えっ……それってつまり……」
「あの“魔神”とも縁深い魔獣だな、銀河の外れの異空間をねぐらとしているらしい。
中でも特殊個体の“クロノス”は伝説的な存在だそうだ」
ぬらりひょんの代わりに赤マントの問いに答えたのはジャンキーマスターである。
更にネオザがダメ押しの情報を補完する。
「クロノスはかなりチートな魔獣よ、この星に来たら氷河期になるんじゃないかしら？」
「そんな異世界の魔獣の遺伝子を……彼は持ってると……」
赤マントの言葉に反応するように、ジェノクは背中から黒藍色の翼を大きく拡げた。
不気味な翼は闇の空間の中で、しかしミステリアスなオーラをまとわせている。
「先ほどナギル殿が見せられた映像……そこにいた２人を知っておりますよ。
異世界転送される前から、我々の計画に対する邪魔者でしたからね、因縁の存在だ」
「なるほどな……確かに俺とよく似た匂いを感じるぜ」
納得したようなジャガンを横目に、再びぬらりひょんは疑問をぶつけた。
「それで……新たなメニューとはどういうものなのです？」
ぬらりひょんの言葉に、ゼルガは不気味な笑みを浮かべて言った。
「召喚した異能者の中にいる“若年有志”を利用するのさ……奴らは潜在能力こそ高いが、
非常に惑わされやすい……上手く利用すれば、まさに革命の原資となろう」
「そのために我らアヤカシの精神干渉能力が役に立つというわけですな」
「銀角殿のような強大な魔力の持ち主よりも、アヤカシの方が動きやすいってことさ」
「なるほど……それが我ら百鬼夜行衆の“任務”だと……ふむ、面白そうですな」
ゼルガの言葉に、更にマインドクラッシャーやジャンキーマスターが補足を加えた。
どうやら――疑り深いぬらりひょんも「その気になった」ようである。
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さて再び金芽台グリーンベルトの木立の中。
数日振りに花子たちと再会した太郎が、珍しく真剣な表情で２人に対峙している。
“異世界の怪異”を追っている、と太郎は言っているのだが……。
「異世界の怪異って、あの“銀メッキさん”のことですかね？」
「何だよそれ――」
銀子の言葉に花子が呆けた――次の瞬間だった。
――ぼてっ。
「――ぷゎっっ！？」
出し抜けに――数ｍ離れた大きな木の上から、ピンク色の怪物体が落ちてきた。
しかも落下の瞬間に、声のようなものを発したのである。
「……へっ！？」
「あ、こ、こいつだ、異世界の怪異！」
「何だって！？」
遠目にはこちらもビーチボール２個分くらいのピンクの球体であるが、
よく見ると大きな目が２つあり、申し訳程度の短い手足が付いているように見える。
謎の“怪異”は起き上がるや、短い手で顔を押さえるような素振りをした。
「あいたたた……」
「……何なんだこいつ！？」
「花子、どくんだ、得体の知れない怪異め、この僕が相手ｓ――ぉぶぁっっ」
「お前は五月蠅いから少し黙ってろ」
いきり立つ太郎を肘鉄で黙らせる花子、そして銀子はというと――
「か……可愛いぃいぃぃ！！」
メガネの奥の目をハートマークに変えて、ピンクの球体に抱きついていた。
しかも信じられないほどの瞬発力で。
「ひゃぁあぁっっ、何、何なの！？」
「……速っっ」
……10数秒ほど経過。
「……はぁ――ポップスターからやってきた、カービィさんですか……」
「……だから何なんだよそれ」
「うん……えっと、みんなは人間さんなの？」
「えーと……人間とは、ちょっと違いますかね……ねぇ花子さん？」
「特にお前はそうだな」
「えー、酷いですぅ」
興奮を落ち着けた花子と銀子と、鼻血を拭いている太郎と、ピンクの怪生物。
そう――カズヤの家に侵入し、デスピオンと激闘を演じた、あのカービィである。
出身地である“ポップスター”で起きた異変の正体を探ろうと勇んで出発した直後、
宇宙の穴のような現象に飲み込まれ、地球にやってきたとか何とか。
「おぉ――つまり、宇宙人さんってことですね！」
「アヤカシに怪人に宇宙人にロボット生物とか……ホントどーなってんだよこの世界」
……ですよねー。
「それで……カービィだっけか、お前は何で、こいつと鬼ごっこしてたんだよ？」
「それは僕から話そう」
花子の質問に答えたのは太郎だ……既に鼻血は止まっているようである。
「先ほど、僕と彼は今日の昼食を巡って、交戦状態にあったのさ」
「……食いもんが原因かょ――ホントお前、変わらねーな」
「グルメだと言ってくれ」
「ただの食い逃げじゃねーか」
「……けれど、確かにその姿だと、レストランとか入れないですもんね」
うーん、と腕を組んで考える銀子……そしてすぐに、何か閃いたようだ。
「じゃあ、花子さんか太郎さんが、人間を装ってもらってくれば良いのでは？」
「えー、オレがわざわざそんなことするのか？」
「僕は前からそうしていたさ……花子、キミは食い逃げと言ったが、それは違うぞ。
僕はフードロス問題に協力するために、ほんの少し失敬しただけさ」
「ほーお、銀子からお前が雨の中で、喫茶店を襲撃した話を聞いたんだがなぁ？」
……太郎がやらかした騒動についてはこちらを参照ｗ
「ここはみんな、それぞれの得意分野を持ち寄って、助け合うべきだと思うんですよ。
カービィさんも、いっぱい得意技があるんですよね？」
「う、うん……まぁね」
「あぁ〜〜、やっぱり可愛い♪」
「まぁ――銀子の言うことも１理あるっちゃあるか……」
こうして――また１つ、世界を越えた縁が誕生したのであった。
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| （魔界大戦中編／本編11章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ＰＡのサイドストーリーとして、魔族や妖怪たちの“秘密会談”を扱っている。
ホーリーメイデンズ編序章でネオザに強制退場を食らった赤マント（汗）も再登場だ。
ゼルガは魔界編１話や２話の時と同様に“裏方の解説役”であるが、
今回は６章５話に登場した銀角やジェノクも出して「役者を揃えて」いる。
本編の方では錦糸町事件以来出番が少ないアヤカシたちだが、
秋以降のドラマで、再び“大活躍”することを想定し、その前振りを兼ねている。
その鍵となるのが、ナギルらが推進する“魔導強化兵プロジェクト”であり、
ジェネティック好きのG-maのアイデア（笑）ではあるが、
いちおう中編以降で書く“魔界大戦”でも、重要な鍵を握る要素なのだ。
プラス、“人間界”の方では、花子たちとカービィを接触させている。
ホーリーメイデンズに協力的なアヤカシと、ファンシーな宇宙人に縁を作ることで、
こちらも秋以降の新たなクライマックスに活かすことを狙っている。
（あと実は、11章５話でもちょこっと話を挟んでいる^^;） |
