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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CS2130722A） |
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広大な宇宙空間を、巨大な宇宙船が亜光速で航行している。
宇宙船の名はレイノリアス・ランナーポート。
本格的な宇宙船整備工廠を持つ“宙駆けるドライドック”である。
全長24kmを超える巨体を持ち、内部には小規模ながらグリーンベルトを持った都市区画もある。
１種の“シティキャリア”であり、船の管理組織は「動く自治体」としても機能する。
そんな巨大な「動く宇宙工場」に、小さな宇宙船が１隻、進入して行く。
義勇組織の１つ、アトラス義勇傭兵団が保有する工作船“エンディロード”。
ＡＳＳ社製のパイロン型小型輸送船をカスタマイズした、全長60ｍ余りの細長い船だ。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ ザ・サイドストーリーズ ★
アトラス義勇傭兵団――天駆ける野郎共
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「――やっと休憩が取れるな」
エアシールドに覆われたデッキで大きく伸びをしたのは――傭兵団のリーダー格、レマック・ゼイン。
セピア色の硬い外骨格に覆われた、ラヴァスタンのベテラン戦士である。
「ずっと操縦桿を握ってたんだ、肩も凝ってるだろ？」
相槌を打つように言ったのは、身長２ｍをはるかに超える竜属の戦士ゴルヴァン。
全身からサーベル状の角やトゲを生やし、太く長い尾を持つヴォーディアンの大男である。
「そりゃそうだ……宇宙船の操縦ってのは神経ばかり使う」
「だろうな……まったく、少しくらい代わったらどうだったんだ、アリーナ？」
そう言ってゴルヴァンが顎を捻った視線の先に、不満げな表情を浮かべた青い肌の女性。
傭兵団の紅一点、エディアシスのアリーナ・フィクシィである。
「なぁによぅ。 あたしはメカニックであって、パイロットじゃないのよ？」
「……そういうのを言い訳って言うんだぞ」
アリーナの横から、これまた大柄なエイリアン種族の男が突っ込む。
長い触角とカウルに覆われた目が特徴のベルディックの戦士、サイロス・ヴァリアンティ。
「失礼ねー。 そもそもアトラス傭兵団のナンバー２がなんで宇宙船を操縦できないのよ？」
「俺は戦闘専門でな」
「あっそう……それも言い訳よね♪ 第一、あたしはウォーガーの助手みたいなもんだからね」
「助手なら操縦しなくて良いって誰が決めたんだよ」
「相変わらずだなお前ら……腐れ縁ってのはホントこのことだな、わっはっは♪」
大きな笑い声を上げたのは、身長３ｍはあろうかという、翼竜を思わせる大男。
ザイゲルの砲撃手ゾネアだ……カラフルな模様が入った大きな翼が生えており、かなり威圧感がある。
そんなゾネアに、しかしアリーナはあっかんべをして悪態をつく。
「ふーんだ、あんたこそ銃を撃つしか能がないくせにっ」
「見くびるねぇ、この翼は飾りじゃねぇんだぜ、このチームで俺より速く飛べるヤツがいるか？」
嘲笑うように、ゾネアはアリーナに向かって屈み込む――だが、それが仇になった。
ずぶり。
「はぅっっ――――ぉげぇえぇぇっっ！！？」
アリーナ必殺目潰し炸裂……その精度は百発百中を誇る。
ゾネアの下品な悲鳴が、無骨な宇宙船ドックの空間に、木霊のように反復しながら響き渡る。
ぉげぇえぇぇぉげぇえぇぇぉげぇえぇぇ……
「あんたこそ――あたしを見くびらないことね？」
「こっこっこ、このアマ……マジで撃ち殺したろかっ！？」
「できんことを」
「全くだな」
「あンだよ、お前ら寄ってたかって！ 被害者は俺だぞっ！」
……身長が半分しかない相手に目潰し食らって、被害者面とは情けないなゾネア。
「うるさいぞお前ら。ドックを出たら都市区画だ、少しは品性をわきまえろ――時にウォーガー、
お前は行かなくても良かったのか？」
「あぁ――構わない、ああいう街はどうも、俺には合わなくてな」
金属的な残響を伴う声と共に、船の奥から青みがかった金属パネルの光沢が印象的な人影が出現する。
カリオロイド・ヴェルマディのウォーガーである……ロボットのように見えるがこれも知性体だ。
身長は２ｍ余りで、ゾネアよりは小さいがゴルヴァンと大差ない。
優秀なメカニックでもあるウォーガーは、むしろこうした静かな場所の方が好きなのである。
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広大な宇宙船ドックの外れでそんなドツキ漫才が繰り広げられていた頃。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
ほぼ反対側の区画で、肩で息をしながら走る男がいた。
中年ほどのヒューマノイド種族……背は若干、ひょろりとしてやや高い。
男は何かから逃げているように見えた……頬には何にやられたのか、赤っぽい血の筋が１本。
サイバーグラスだろうか、大きなサングラスをかけ、その中から何度もきょろきょろと周囲を見回す。
ふと――何かを見つけたのか、素早く男は柱の陰に身を隠した。
サイバーグラスに表示された情報が――数百ｍほど先に、人影らしきものをキャッチしていた。
その人影も何かを探しているのか、周囲を見回すような仕草をしている。
「しつこいヤツらだ……だが、こいつを渡すわけにはいかない」
相変わらず肩で息をしながら、男はそう、つぶやくように言った。
言いながらふと――手首にフィットさせているベルト状のアイテムを視界に入れる。
「いざとなれば“コイツ”を起動するしか……こんなところで大騒ぎを起こしたくはないが」
男は顔を上げ、ドックの通路に表示されている、簡易マップを見た。
ホログラム表示された簡易マップには、中央にある都市区画へのルートが映し出されている。
だがその都市区画までは、まだ数ｋｍほどある……広大な整備ドックが続いているのだ。
男の名はアレック・フォルス――ネヴィリアンの血を引く混血である。
かつてはタイランタ銀河連邦の公的な軍属技術者として勤めていたが、その後フリーのエンジニアとして独立。
銀河社会の表も裏も、様々な舞台を渡り歩いてきた。
おかげで、現在の銀河の情勢もある程度、知っているつもりだ。
銀河の最大勢力であるアトラス銀河連合と、第２勢力である軍事連合タイランタ連邦の仲は芳しくない。
今のところ干戈を交えるには至っていないが、過去数万年に何度も激突してきたライバルだ。
表向きには銀河の同志を標榜しているが、両勢力とも確実にお互いを信用していない。
とはいえ、現時点では決定的な火種に至る要素は、なかったように見えた。
――はず、だった……ほんの数百時間前までは。
しかし、アレックは知ってしまったのだ――無視できない重要な“火種”の可能性を。
それは裏社会のコネで、とある宇宙マフィアの“商品”に接した時だった。
それはまだ開発中の軍事アイテムであり、トップシークレットに等しいものであったが、
かつてタイランタ連邦の科学者であったキャリアもあるアレックは、それを見る機会を持てたのだ。
――“こんなもの”が出回ったら、銀河のパワーバランスが崩壊してしまう――
“こんなもの”が宇宙マフィアの手で銀河社会にばらまかれたら、大変な事態になると彼は思った。
それほどの“可能性”を秘めた、重大な軍事アイテムだったからだ。
銀河のパワーバランスがある程度拮抗しているからこそ、軍事アイテムの流通にも意味がある。
それを根本から覆すようなアイテムがあったら、行きつく道は２つしかない。
銀河を独占と抑圧で覆い尽くす単一の超大国が生まれるか、戦国化の果てに銀河社会が崩壊するか。
アレックにそんな時代の到来を受け止める覚悟などなかった。
だから――彼はそれを“持ち出した”のだ。
このアイテムは、今流通させるにはまだまだ早過ぎる、否危険すぎる。
どこか銀河列強の及ばないところに持ち込んで、封印するしかない……たとえ１部であっても。
そして――このために、まさに今、彼は“追われている”のであった。
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レイノリアス・ランナーポートの中央都市区画、レイノリアス・セントラル。
直径１マイルほどの、リング状の“グリーンベルト区画”である。
中央に人工太陽の役割を持つ大きな発光体があり、これをグリーンベルトがぐるりと取り囲み、
その両側に積層化された都市エリアが広がっている。
グリーンベルトの幅は500ｍほど……“１周”の長さは、５ｋｍほどになるのだろうか。
「うーん、気持ちいいわねー、油の臭いがしないところって何百時間ぶりかしら♪」
「ほぅ、良く整備されたバイオパークだな」
「へーえ、少し意外だな……ここってぶきっちょな野郎ばっかりだと思ってたが」
「また酷い誤解だなそれは……ここに住んでるのは腕利きの技術者ばかりだ、職人集団だぞ？」
「宇宙船を弄るのとバイオパークを整備するのは違う気もするがな？」
「そうでもないわよ？……タキオンドライブを整備できる技術者って物凄く繊細だし」
「ほーお、うちの宇宙船技術者はどー見てもそんな繊細さはない――痛っ！？」
ぷす、とゾネアの飛行膜に小さな穴が開いた。
どこから取り出したのか、アリーナが千枚通しのような工具をゾネアの翼に突き刺している。
「あ、ごっめーん、手が滑っちゃった♪」
「お、お前な……俺の生命線になんちゅーことするんだっ！？」
「命が惜しかったら言葉を慎むことね♪」
……なるほど、小が大を制する時はこうするのか。
「何をやっとるんだお前らは……行くぞ」
「そーいえばどこに行くわけ？」
「頃合いの飲み屋を探す……情報収集と腹ごしらえも兼ねてな」
「美味い店が見つかるといいがね」
「だな、不味い店だとゴルヴァンの愚痴に付き合わされる羽目になる♪」
サイロスの皮肉めいた言葉に、ゴルヴァンは不機嫌そうに緑色の眉を潜めた。
「……食事は美味いのが基本だろう、特に料理店の場合は常識のはずだぞ？」
「いいや、案外そうでもないぜ……飲み屋の体裁だけ装ってる情報屋なんか、まず期待できねぇ」
「そんな裏稼業専門の店が、ここにあるとも考えにくいがな……」
「……だったらさ、ぞろぞろ集団で歩いてても埒が明かなくなくない？」
ぼそり、と呟いたアリーナの言葉に、傭兵たちはふと立ち止まる。
ふむ、とリーダーのゼインが頷く素振りをした。
「なるほど、それもそうだな」
「手分けして店を探した方がいいかも知れんな……１時間後に連絡を取るのはどうだ？」
「えー、何か面倒いなー」
「だったらゾネアはここで寝てろ、財布すられても文句言うなよ」
「わーったよ、探しゃいいんだろ？……俺が入れるような店じゃないと困るしな」
「決まりだな、じゃあ１時間後に報告だ、取り合えずここで解散と行こう」
ゴルヴァンの“結論”を合図に、傭兵たちがそれぞれ別方向に散会した。
ゾネアは巨大な翼を展開し、空へと舞い上がる――“反対側”にショートカットする気なのだろう。
大きな体をものともせず、ぐんぐんと加速をつけて上昇していく……なるほど、確かに速い。
サイロスも途中で空に舞い上がった……背中に飛行ユニットを背負っているようだ。
機動的な傭兵たちの展開を、“地元民”だろうか、数人の歩行者が興味深そうに見ている。
その中に１人――黒いローブを羽織った男が、薄笑いを浮かべて立っていた。
ツンツンと逆立った黒髪のヒューマノイド……サイバーグラスをかけているが、アレックではない。
男は傭兵たちを見ながら、誰ともなく呟いた。
「ほぅ――いい動きをするじゃないか。うちにもああいう奴らが欲しいな？」
ぼそりとそう言った男の上半身に引っ掛けた白いカラー……ボディキーパーのパネルが光った。
どうやら、仲間からの通信が入ったらしい。
『イェクス大佐――そろそろ“会見”のお時間です』
「……ぶらぶらしていると早いな。まぁいい、分かった。すぐに戻る」
イェクスと呼ばれたローブの男は、通信を終えると踵を返してその場を後にした。
彼がタイランタ連邦特務部隊の高官であり、冷酷なスパイであることを知る者は――ここにはいない。
レイノリアス・セントラルは公開手配犯でない限り、誰でも入ることが出来るのだ。
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それから――およそ３時間後。
レイノリアス・ランナーポートを“出航”する、エンディロードの姿があった。
黒光りする巨大な宇宙工場の横を抜けて、少しずつ加速していく緑色の細長い船体。
「あー、食った食った♪」
「まずまずの味だったな、取りあえずは及第点だろう」
「評論家みたいだな、お前は相変わらず……」
「あーあ、これでしばらくは薄味の機内食なのねー」
「贅沢を言うな、傭兵団の収入だってそう多くはないんだ」
コクピットの奥に続くキャビンの中で、傭兵たちが“食後の団欒”に浸っていた――その時。
「お前たち、金に困ってるのか？――だったらちょうど良いな」
キャビンの後方奥から、聞き慣れない声が響いた。
間もなく壁の陰からゆらり――とアレックの細い体が染み出す。
だが、傭兵たちは特に驚いた素振りを見せない――すでに気付いていたかのように。
キャビンの奥の方からも、倉庫で整備をしていたらしきウォーガーが、音もなく顔を見せた。
ロボットのようなマスクからは表情が伺えないが、警戒はしているのだろう。
出発前に追い出さなかったところを見ると、どうやら最初は気付かなかったようである。
整備に集中すると、仲間の声も聞こえなくなる癖が、彼には以前からあった。
「――何の用かな？ こいつは旅客船じゃないんだが」
「ふ、気付いていたか……さすがは音に聞いたアトラス傭兵団、私の目に狂いはなかった」
「んで、おたくはどちらさんで？」
ゾネアの問いに、アレックは改めて“自己紹介”する。
「アレック・フォルスと言う……単刀直入に要件を言おう――君たちを雇いたい」
「ふーん、先に船に乗ってから要件を言うなんて……随分と強引なクライアントね？」
「どんな要件かな？ 我々のことを知っているなら、要件次第だと分かっているということだろうが」
「いいだろう。実は“あるもの”を隠すのに手を貸して欲しい」
「あるもの？何だそりゃ」
「最重要機密でね、どういうものかは言えない。だが銀河の平和のために必要なことだ」
「詳しい内容が言えないとなると、簡単にＯＫは出せないな」
そう言って、ゴルヴァンはじろり、とアレックを睨んだ。
「……まぁ、簡単に信用してもらう方が無理か。だが、こいつを話すわけにはいかんのだ」
「信用して欲しけりゃ、信用されることを言うもんだろうが？」
「それとも何か、その“あるもの”ってのは、口が裂けても言えないほどヤバイもんなのか？」
「そう思ってもらっても良い」
半ばカミングアウトするようなアレックの返答に、キャビン内が軽くざわつく。
「……おいおい、冗談だろ」
「それじゃあ、まずはじっくり話を聞こうじゃないか、これからＡＴＴに戻るところだからな」
「悪いが、この依頼をこなすまではＡＴＴに戻ってはいけない」
更にアレックの“強要するような”言葉に、キャビンの空気が緊張した。
因みに“ＡＴＴ”とは、アトラス連合の首都アトラス・テクトラクタのことだ……彼らの本拠地である。
「……アレックさんとやら。勘違いをしていないかね、我々はまだあんたの依頼を受けてない」
リーダー格であるゼインの言葉も、言外に凄みを帯びているように聞こえる。
「金なら言い値で出そうじゃないか」
「分かってないな。アトラス傭兵団は金だけで動く組織じゃない」
「理解が難しいだろうが、私も引けない立場でね……銀河の未来がかかっている」
いつまでも詳しい内容を言わないアレックに、今度はゾネアが威圧的な表情でぎろりと睨んだ。
「言葉だけで俺たちを丸め込めると思ってんのか？ あんまりナメたこと言ってっと――」
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その時――ドン、という衝撃音と共に、船体がぐらぐらっ、と揺れた。
「どうした――隕石か！？」
「いや……隕石じゃない」
コクピットに座るゼインの前――コンソールに、赤い警告ランプが点滅している。
「いったいどういうことだ……あんた、何を持ってる！？」
それは――何者かに“ロックオン”されたことを示す警告ランプだった。
さっきの衝撃は“１発目”を食らったものだったのだ――幸い、空間シールドが直撃を防いだが。
「やっぱり見つかったか……くそっ、何とか逃げてくれ、頼む！」
「どうしても言えないというのかね！」
「言えるわけがないだろう、“こんなもの”の正体が明らかになったら、銀河が滅び兼ねない！」
「銀河が滅び兼ねないって……どういうことだよっ！？」
「ちょっと冗談じゃないわよ、超新星爆発でも起こす最終兵器でも持ってるっていうの！？」
「ある意味それに近いかも知れんね、使い方次第ではな！」
「あんたさっき……“隠して欲しい”と言ったな、隠し切れるものなのかね？」
そう言いながら――ゼインは操縦桿を軽く捻る。
次の瞬間――“追手”の攻撃だろうか、赤い光線がエンディロードのすぐ横をかすめて飛んでいった。
亜光速の熱線砲――ブラスターの攻撃さえ回避する、驚異的な操船術である。
「分かった……こうなったら言うしかないな、“これ”は文明レベルが低い方がいいんだ！
文明レベルが低ければ、仮に悪用されても銀河の危機にはつながらない！」
「……オーバーサイエンスになるから？」
「それだけではない……“この兵器”はな、テクノロジーをコピーするんだよ！」
「何だそりゃ！？」
「だから技術レベルの低い文明の方が、大事になりにくいんだ。
こんなのが銀河にばらまかれてみろ……覇権を巡って確実に銀河大戦が起きる！」
「誰がそんな物騒な代物を……！」
アレックの“告白”にざわめくキャビン……その間にもエンディロードの船体は小刻みに、左右に揺れる。
キャビンの半分ほどを覆う大きなキャノピーに、至近距離を飛んで行くブラスターの光が反射する。
ハエのように逃げ回るエンディロードに、“追手”が苦虫を噛み潰している光景が目に浮かぶようだ。
「元は“帝国の遺産”だったものさ……」
「“帝国”ですって？ アトラス銀河系に帝国なんてなかったはずよね？」
「この銀河ではない……深宇宙にかつて栄えた伝説の帝国さ、知らなくても無理はない」
「アムーグア帝国――か」
ふと――コクピットのゼインがぼそり、と呟いた。
「レミィ、知ってるのか？」
「ほぅ――驚いたな、あの帝国の名を知る者がいるとは」
「裏社会で“伝説の帝国”なんて言われてるのはアムーグアくらいしかない……神話だと思ってたがね」
「神話には起源があることが多いというが……実在してたってのか？」
「そういうことだ……帝国の神話を知るなら話は早い、あの帝国がどれだけ強硬だったか」
「『宇宙を書き換えようとした』なんて言われてるのは知ってるが……どういうことかは分からん。
あんたが持ってる“それ”には、そういうことができるのかね？」
「……宇宙とまではいかんだろうが……銀河を書き換えることぐらいは可能だろうよ」
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その頃――レイノリアス・ランナーポートの下部ドックに、イェクスが立っていた。
その横にはざらついた黒い肌の男が立っている……イェクスの右腕、ブラックァードのゲラード中佐だ。
間もなく――ドックの奥から、灰色のエイリアン種族らしき人影がゆらり、と染み出した。
セミのような顔立ち、２又に割れた尖った頭部、ハサミのような腕は典型的なバルタナンの特徴を示す。
その横には、大きな青い複眼状の目を持つ、角を生やした金髪のエイリアン種族が立っている。
「――３分ほど遅れてるのではないかね、ゴーディスの幹部は意外とルーズだな」
「申し訳ない……今厄介なコソ泥を追っていてね」
「――クク。宇宙マフィアを悩ませるようなコソ泥がいるのか♪」
“会見”の相手は――宇宙マフィア“ゴーディス”の幹部、ログ・ゼントであった。
横にいる“金髪”は護衛として連れて来た、ヴォルマグスの工作員ギスターである。
ギスターとゲラードは一瞬、殺気混じりの視線を交わす――互いに牽制し合っているようだ。
ザイオノイド級の戦闘種族ヴォルマグスは強大だが、ゲラードも銃の扱いでは誰にも負けない自負がある。
的確に急所を狙えば、相手がザイオノイドだろうと無傷では済まないはずなのだ。
「ゲリラ戦に特化した連中は仕留めにくいものだ……将来的にはそれを押さえ込みたいところだがね」
「それがゴーディスの新兵器とやらかね？」
「まぁ、そういうことになるかね――さて、今回の会見の主旨だが」
「あぁ――“惑星アーク”で何が起きているのか、教えてくれ」
外交辞令から“本題”に入った瞬間――イェクスの目つきがサイバーグラスの奥で微妙に変化した。
「タイランタ連邦特務部隊の指揮官ともあろうお方が、なぜ宇宙進出もしていない辺境の星に関心を？」
「その言葉――そのまま返そうか。宇宙マフィアがあんな星に何の用があるんだ？
“宇宙進出もしていない辺境の星”に、金になりそうなクライアントがいるとも思えんがねぇ」
数秒の間――沈黙が支配する。
ログとイェクス、両者が放った“変化球”は、確実にこの場の緊張を高めていた。
「お互い――隠し合うのはためにならんのじゃないかな？……なぜわざわざあの星に関心を向けるのか。
あの星の行方が、“銀河の未来”を左右するからではないのかね？」
「ふぉっ――いいだろう。確かにあの星は“宇宙進出もしていない辺境の星”だが、
銀河の未来を左右し得る重要な因子を保有している……タイランタにもそれが何故かは分かろうな？」
「――“魔神の種”だな？」
イェクスの問いに、ログは軽く頷く。
「そうだな――“あれ”が銀河の勢力地図を書き換えるだけの可能性を持つことは知っていよう。
そのアークで最近……世にも珍しい異変が起きたのさ」
「世にも珍しい異変？」
「“次元融合”だよ」
「次元融合……確か、並行時空が同化するというヤツか」
「異なる歴史を歩んできた２つの時空の突然の融合は、収拾の付かないパニックを引き起こす。
“あのアーク”で、しかも今――この異変が起きたことは実に意味深だ」
そう言って――ふぉ、ふぉ、ふぉ、と独特の笑い声を上げるログ。
「だからゴーディスが首を突っ込んでるのか？」
「大佐殿が我々の行動をどこまで嗅ぎ回ってるかは存じないが、この激動は１種のチャンスでね。
“魔神の種”を持つあの星がこの異変でどう変化するのか……その展開いかんでは、
銀河の歴史に重大な影響を及ぼす事態になるやも知れぬ」
「なるほど……それは確かに考えられる……それで、ゴーディスは何をしようとしている？」
「そこまでは大佐殿と言えど言うわけにはいかんねぇ……“企業秘密”に抵触するでな」
「ふん、言うじゃないか……我々タイランタの技術を盗んでおいて」
再び緊張が高まる……４人以外誰もいない暗いドックだが、その空気はパンパンに張っている。
「人聞きの悪いことを……ゴーディスがタイランタの技術を盗んだという証拠でも？」
「連邦特務部隊を余り馬鹿にしないことだな……お前たちがゴーディスでなければ今頃吊るし上げてる所だ」
「相変わらず好戦的だな、タイランタというところは……」
「銀河中にコピー兵器をばらまいてる、ゴーディスが言えた義理かね？」
「ふふ……そうだな、それでは少しヒントを出しておこうか。実はアークには隠れたクライアントがいる。
このクライアントは、今回の次元融合のごたごたで獲得したようなものだ」
「ほほぅ……次元融合がクライアントまで呼び込んだというのかね？」
「次元融合は同時に幾つもの時空の穴を開ける……空間が不安定になるからな。
気になるなら大佐殿自身がアークに行ってみるといいだろう……連邦の技術ならたどり着けるはずだ」
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「レミィ……そろそろシールドが悲鳴を上げるぞ？」
「そうだな……タキオンドライブに火を入れるか。しかし航路が決まらんことには……」
レミィ、というのはレマック・ゼインのことだ……ゴルヴァンは彼をこの“愛称”で呼ぶ。
２人の緊迫する会話の中に、さらっとアレックが割り込むが――
「開発者文明がいないか、少ない宙域が望ましい……ネヴィル方面なら静かかも知れん」
「まだ完全に引き受けたわけじゃねぇぞ、仕切んなよあんた！」
「でもまぁ、確かに後ろを振り切るには早いとこ目的地を決めなきゃねぇ」
「このままだといつかは撃沈されるからな……ウォーガー、そっちはどうだ？」
「色々調整しているが……持って数分だ、早くしろよ、俺以外は真空耐性を持ってないだろう」
「こういう時、カリオロイドって便利だなぁと思うのよねぇ」
“逃走”が始まって数分……エンディロードを保護するシールドに黄ランプが点り始めた。
いくらゼインの操船術が“神業”といっても、追手が放つ全ての砲撃を回避できているわけではない。
追手は追手で、腕利きの砲撃手が乗り込んでいるようだ。
キャビン後部のサブコンソールを弄るウォーガーは、両腕を２つに割って作業している。
カリオロイド系ミュータントである彼は、後天的な肉体改造で“４本腕”になることが出来るのだ。
更に必要があれば、意識ごと回路の中に落とし込むことも可能だ。
「ゴーディスは獲物を諦めないことで有名だ……早くしなければ本当に危ないことになる」
「ってあんた……ゴーディスに追われてんのかよ！？」
しまった、という表情をするアレック……だがもう遅い。
「あんたの追手はあの悪名高い宇宙マフィアか……また厄介な連中に標的にされたもんだ」
「つまり――ゴーディスがそのヤバイ兵器とやらをばらまこうとしてたわけか」
「あぁ……そう考えたら確かにどえらく物騒よねぇ」
「あのマフィアは伝説の帝国まで食い物にしてるのか……」
「良いだろう……その依頼、引き受けよう――ネヴィル方面だな？」
そう言うと、ゼインはコンソールパネルで素早く航路の設定を始めた。
アレックが目を丸くする……ゴーディスという“巨大な敵”の名を聞くと、てっきり怯むと思ったからだ。
「引き受けると言ったのか……相手はあのゴーディスなのに！？」
「“ゴーディスなのに”じゃないな……“ゴーディスだから”だろうよ」
「死の商人たちと戦うなんて燃えるわよねぇ♪」
「戦争売ってるような連中だろゴーディスって……俺のライフルで穴だらけにしてやりたいね♪」
「アトラス傭兵団は元より“こういう組織”だ……あんた、知ってて依頼したんじゃないのか？」
「正義感と反骨精神の戦士たちというのは確かに聞いていたが……予想以上だな」
熱気を帯び始めたキャビンに、アレックは戸惑いつつもかすかな笑みを浮かべた。
「航路設定が終わった。超光速航行に入るぞ、全員席に着け！」
ゼインの声に、クルー達が座席に腰を落ち着ける……アレックも最後尾の空いた席に腰を下ろした。
ゼインが今まで手を触れていなかった、コンソール中央のレバーに手をかける。
呼応するように――エンディロード後部に搭載された、２基のタキオンドライブナセルが光を放った。
電気ショックにも似た独特の衝撃を伴って、エンディロードが光速の壁を超えようとした――その時。
追手のブラスターがエンディロードのシールドを突き抜け、後部船体に突き刺さった！
キャビン後部の倉庫でも小さな爆発のような衝撃が起こり、ウォーガーが弾かれるように倒れ込む。
「――きゃあぁあぁぁっっ！？」
「――ぬぉおわっ！？」
「くっ――今のは直撃弾だぞ！？」
猛烈な衝撃に翻弄されるキャビン。
視界が歪むほどの激しい揺れに、座席から投げ出されそうになる。
最初に床に叩きつけられたウォーガーは意識が飛んだか、まだ起き上がれそうにない。
「シールドを破られた可能性が高い、このまま超光速航行に入るのは危険だ！」
「いや――もう遅い……」
「くそ……こ、ここまでなのか――！！？」
エンディロード船体を包み込む――エメラルドグリーンの光のリング。
船体の影が細長く引き伸ばされるように、見る見るその光の中に溶け込んで行く。
光がわずかな波紋を残して収束した時には――エンディロードの姿は消え去っていた……。
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| （帝国の遺産／宇宙船不時着事件） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010〜2012年頃に作成したエピソードを、2020年に再編したもの。
ＧＤＷ世界観の主要キャラの１つ、アトラス傭兵団のカメオ出演を意図した“エピソード・ゼロ”で、
“変身系戦闘服ユーザ”のアレック・フォルスが初登場する物語でもある。
（ただし時系列の都合上、序章編ではなく、サイドストーリーシリーズに組み込んでいる）
基本構成は2012年頃に書いたものと同じであるが、アトラス傭兵団のメンバーが１人増えた。
カリオロイド・ヴェルマディのウォーガーは初期メンバーだが、最初のエピソードにはいなかったのだ。
仮面ライダーを始めとする“変身ヒーロー”をモチーフとしたＧＤＷ設定が幾つか存在しており、
こうした設定をＰＡシリーズに反映するために作った前日譚的なエピソードでもある。
“変身系戦闘服”のルーツを銀河社会（の裏社会）に置いた方が、
そのユーザ達が人間離れしたアクションを展開する背景を、説明しやすいためである。
つまり理屈の上では、アイアンマンを圧倒するような超ハイテクを、盛り込むことが可能なのである。
また同時に、ＰＡシリーズに関わってくる、ＧＤＷ世界観の“銀河社会”をＰＲする意図もある。
ヒーロー物に宇宙が関わるネタと言えば、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』など、
幾つかの前例が既にある（日本のヒーローも時々宇宙とフラグを絡めている）が、
ＧＤＷ世界観の「半径１億光年の銀河団宇宙」はこれらのいずれとも違う特徴を持っており、
それを示唆させる物語も、どこかで書きたいと考えていたのである。 |
