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★ＣＲＩＳＩＳ ＡＦＴＥＲ 統合ナンバー：EA-ATT18501N（N-AA100A） |
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地球連合暦100年。
“旧暦”である西暦紀元で2144年に当たるこの年、
新型のエーテルドライブ複合炉の第１号実証炉が日本中部で起動された。
西暦紀元で2095年、地球連合暦で051年に地球連合がネヴィル公国と同盟化し、
新興星間連合“アーク連合”の１員として銀河社会にデビューを果たしてからほぼ半世紀、
地球社会は基本的にネヴィル公国由来のテクノロジーの支援を受けてきたが、
ようやく自前の技術で、銀河社会のテクノロジーの１端を獲得することになったのだ。
100万年以上の歴史の積み重ねを持つ銀河社会ではまだまだ新参であるが、
地球社会は初めて「自力で銀河社会のテクノロジーを開拓する」段階に到達したのである。
実証炉１号炉が設置されたのは、日本列島中部の紀伊半島の山中である。
数十年前、ここにあった“地下組織”の施設の跡地を活用して整備されたものである。
そう――ここはかつて“アクエリアス・センター”と呼ばれた施設であった。
アクエリアスは“惑星変動期”の地球社会を影ながら支援すると共に、
軍事的に強硬で覇権主義的なタイランタ連邦の違法行為を監視することを目的として、
ディガスなどの支援によって組織された非営利団体であり、
西暦紀元で2004年から2077年にかけて、70年以上も激動の時代を駆け回った組織である。
アクエリアスは2077年に役目を終えて解散されることになったが、
その施設を活用するためのプロジェクトが、その20年ほど後に動き始めたのだ。
紀伊山地の地下数十ｍに３層に渡って建設された“秘密基地”の構造体を利用して、
エーテルドライブ実証炉を支えるための設備が多層的に整備されており、
最下層にはエーテルドライブを起動するために必要な“核融合炉”が設置されている。
エーテルドライブは１度起動すれば、老朽化で壊れない限り半永久的に駆動するが、
最初の起動には大きなエネルギーが必要なため、こうした高エネルギー装置が要るのだ。
実証炉の周囲はしばしば高温が籠もり、放射能を帯びることもあるため、
ここで働く作業員は基本的に防護服を着るなど、厳重な防災対策を練る必要があるが、
実はとある「変動期の申し子」たちが、重要な役割を担っていた――
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ＣＲＩＳＩＳ ＡＦＴＥＲ
クライシス・アフター
★ 地球暦100年 有志たちの今 ★
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アクエリアス・センター改め「エーテルドライブ複合路実証センター」の最下層にある、
低温核融合装置の周囲に、白っぽい人影が数人、うごめいている。
一見して防護服を着た作業員に見えるが、スマートなシルエットが特徴であり、
若い女性を連想させる容姿を持つ者が多いのが特徴だ。
そしてその“素肌”はいずれも、どこか人間離れした硬質な質感と光沢を持っている。
“彼女たち”は厳密に言うと“人間”ではなく、無機物の体を持つ“メタロイド”である。
元々は「人間だった」のだが、錬金術に準じる特殊な術式によって“石化”を強いられ、
その後改めて「自力で活動する訓練を受けた」者たちなのである。
地球社会が滅亡寸前の激動に揺れ動いた数十年前に誕生した“強化人間”の１群であり、
鉱物や金属に準じる体質を持つため、熱や放射線に非常に強いのが特徴である。
女性的な外観の個体が多いが、その１部は元々「男性だった」ことも特徴の１つである。
悲劇的な運命を強いられた集団だが、数十年後に自分たちの新たな役割を得たのだ。
（システム正常、異常なし！）
（……それ同じ意味じゃないッスか？）
“隣人”にツッコまれた“メタロイド娘”の１人が、「あっ」という表情を浮かべた。
やや青みがかった砂岩のような質感が特徴で、目に瞳の影がないため不気味に見えるが、
照れ臭そうに頭を掻く素振りは人間臭く、とても人懐っこそうに見える。
“彼女”の名はリン、ショートカットが特徴的でグラマーな体形だが、実は“元少年”だ。
“石化”を強いられたのは西暦紀元で2007年頃で、実はそれから既に100年以上経っており、
アクエリアスに保護されるまでの10年前後、意識が停止していた時期があるが、
意識を取り戻し、訓練を受けて自力で動けるようになってからも既に100年を越える。
しかし外見は石化を強いられた当時とほとんど変わっていないのだ。
意識が止まっていた時期を差し引いても、事実上「100歳を越えている」ことになるが、
体質的には「石像同然」なので、成長はほぼ完全に止まっているのである。
見た目は「高校生くらいの少女の石像」であるが、この姿で“第２の人生”を歩み始めて、
既に100年以上が経っているため、経験値は“ベテラン”の領域にある。
中でもリンは“学者肌”で若い頃から頭の回転が速い優等生タイプの１人であり、
テクノロジーにも相応に開けていたため、この実証センターの職員になった経緯がある。
（まぁでも、意味は通じるでしょｗ）
（そッスねｗ）
そして先ほどリンにツッコんだ方も“元少年のメタロイド娘”だ。
身長はリンより高く、薄紫色のガラス細工のような質感が特徴的な“彼女”の名はロイ。
リンとはほぼ同年代であるが、こちらは20年以上意識が止まっていた時期があるため、
「感覚的には」リンを先輩として慕っているようである。
やや中性的なキャラクターのリンよりも性格的には勝気であり、元少年の自覚が強い１人だ。
ただし２人とも――“人間時代”の記憶の大部分を失っているのだが。
意識のない石像状態で10〜20年も放置されていた間に、記憶を失ってしまっているため、
元少年という自覚はあるものの、家族の記憶などはなくなっているようである。
外見も「少年だった人間時代」とは大きく変わっているため、不明者照合も出来なかった。
運良く出生データにたどり着いたケースもあるが、少数派だったようである。
また10年以上石像状態で放置されていたため、人間に復元することも出来なくなっており、
メタロイドとして生きるしか道がなかったことも、記憶が断絶した背景の１つである。
更に２人は“肉声”で会話することが出来ない……意思疎通は主に“念話”である。
いわゆるテレパシーのことであり、実は銀河社会では標準化された能力スキルの１つだ。
多様な種族がコミュニケーションする要請上、こうしたスキルが重要になっており、
肉声会話も普通に行うが、精神的な共鳴が重視されているのが銀河社会である。
リンやロイもアクエリアスに保護された際、その支援者であるディガス大使などによって、
念話訓練を受けることで、声が出せないハンデをカバーしたのである。
意識の“波動”をコントロールするスキルは、石化した体を動かすためにも役立っている。
またロイの場合は、実は“絶縁体質”であるため、リンとは“装備”が異なる。
ロイの体はザイオファイン・セラミックスと呼ばれる多結晶型の高強度セラミックであり、
ダイヤモンドを超える頑強さを持つ反面、電磁波をほとんど通さないため、
念話などの「意識の波動」もそのままでは透過しにくい制約を持つ。
そのためロイの耳穴には電磁気を集束するための結晶化ジェルが挿入されている他、
瞳がない目には人工網膜フィルムが貼られており、視界をカバーしている。
実はこれらの「補助装備」がないとロイは目が見えず、念話も上手く使えないのである。
そしてもう１つ特徴的なポイントが、リンもロイも「ヘルメットを被っていない」ことだ。
これは頭髪を含む全身が石化しているため、ヘルメットを上手く被れないのに加えて、
「脳がない」ために頭部への衝撃が生死に直結することもないためである。
全身が“１枚岩”の石像と化しているため、実はメタロイドには内臓も骨も筋肉もない。
念話訓練によって「魂で思考する」ことが可能なために、脳がなくても意識は維持可能だ。
ご都合主義のようだが、“金属生命体”が存在する銀河社会では特殊な事例ではない。
もっとも――「衝撃に対する痛覚」自体は持っているのだが。
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（ロイ、今の気温は何度？）
（えぇっとね……44度、まだ結構高いな）
（そっか、じゃあ生身の人間にはキツい状況だね）
（そうッスねぇ）
核融合炉運転中のため、実証センター最下層の気温は地下にも関わらずかなり高い。
実はこうした環境も“メタロイドの作業員”を採用する理由の１つである。
先に書いたように、“石像の肉体”を持つメタロイドは熱や放射能に強いのが特徴だからだ。
鉱物が融点を超えるような超高温じゃない限り、耐えられるのである。
（ロイも気をつけなよ、人工網膜フィルムの耐久温度って確か50度くらいでしょ）
（あーそっか、そうッスね……ショートしたら何も見えなくなっちゃうな）
高強度セラミック体質のロイも熱にはかなり強いが、補助装備の耐久性には限界があるため、
油断していると「急に目が見えなくなる」ような事態もあり得るわけである。
これは猛暑の炎天下などで、電子機器がオーバーヒートしてしまうのと同じ現象だ。
リンは絶縁体質ではないため、こうした装備を必要としないのだが。
砂岩や御影石のような一見ざらついた質感だが、実は風景を反射するほど滑らかな表面だ。
実はこれはメタロイドが「視界を確保する」ために重要なポイントでもある。
多くのメタロイドは、その体表に反射した光から、周囲の風景の状況を認識するためだ。
そのため綺麗に光が反射するように、念入りに手入れする者が多いのである。
金属系メタロイドの中には、本当に鏡のように風景を反射しているケースもあるほどだ。
ロイやリンはそこまで鮮明ではないが、それでもツヤツヤとした光沢を放っている。
（リンさん、そっちは大丈夫です？）
（あぁうん、異常ないよ）
ロイとリンが電子ペーパーのデータをチェックしていると、
核融合炉の支持構造物の影から、新たにメタロイドらしき顔が１つ、にゅっとのぞいた。
リンに似たショートカットでグラマーな容姿の“少女”だが、質感自体はロイに近い。
色彩は薄いピンク色だ……“彼女”の名はピオ、実はこのキャラも“元少年”である。
ロイの後輩に当たり、制約の大きな高強度セラミック体質なのだが、かなり身体能力が高い。
ロイと同じく“補助装備”を持ち、人工網膜フィルムを貼った目は淡く光っている。
（ピオ、放射能値は調べた？）
（あ、はい……今のところ、50ミリシーベルト時は超えてないですね）
（ふむ、放射能値は概ね正常と……でも結構暑いからな）
（俺らにとっては気持ち良いくらいッスけどねｗ）
そう――人間にとっては熱中症を心配する高温環境だが、メタロイドにとっては快感なのだ。
“ムクの石像”の体質であるメタロイドは当然、人間と同じように食事をすることがないが、
代わりに「熱を直接取り込む」ことでエネルギー源として活用する特性を持っている。
そのため人間だとオーバーヒートするような高温環境も、メタロイドには「気持ち良い」のだ。
こうしたエネルギー施設の中だけでなく、温泉や日光浴も大好きである。
熱を取り込んでエネルギーに変えるメタロイドは、これらは「食事の代わり」でもあるのだ。
ただし、なまじ人間とは違う特性を持つことで「人間の常識」から外れるリスクもある。
“元人間”でも、数十年メタロイドとして生きれば、それが「当たり前」になってしまうのだ。
このため、定期的に情報交換や、常識のアップデートをする必要がある。
これは「元人間のメタロイド」であるリンたちが「人間感覚」を忘れないための戒めでもある。
銀河社会に進出する課程で、人類社会も「前時代的な差別」を戒めるようになったが、
それでも習慣に染みついたクセは簡単に抜けない……だから定期的なチェックが要るのである。
またリンたちは「人間とそれ以外の感覚」を併せ持つため、それが“特技”にもなるのだ。
この特技を活用するためにも「人間の常識」を時々再確認する必要があるのである。
（ボクらにとってはそうだけど、人間の感覚も忘れちゃいけないよ？）
（うっす、もちろんそれは分かってます）
（ボクらの経験値が“架け橋”にもなるんですよね？）
（そうそう、ボクらの存在が、銀河社会を知るための予行演習になるんだよ）
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「お疲れ――下は暑かったでしょ、何なら冷やしてあげよっか？」
（大丈夫ですよケイさん、ボクら暑いのは慣れっこですからｗ）
定期チェック作業を終えて、２層上の待機室に戻ったリンたちを、長身の“獣人”が出迎えた。
キメラノイドのケイ（慶）である……大きな黒い翼が印象的であるが、やはり元人間だ。
こちらは元から女性であるが、やはり成長はほぼ止まっており、既に100歳を過ぎている。
待機室は２重構造になっており、放射能を浴びた備品が外に漏れないように設計されている。
リンたちの体も１時的に“放射化”されているため、レベルが下がるまでこの部屋で待機する。
そしてケイなどやはり放射能耐性を持つ者が、ここでフォローするのである。
因みにケイは冷気を操る能力を持つため、必要なら周囲の空気を一気に冷やすことが可能だが、
リンたちメタロイドは「暑さを苦としない」ため、特に問題ないようである。
またケイはリンたちの念話を「聞き取る」ことが出来るのも重要なポイントである。
「それにしても――アクエリアス・センターにこんな“使い道”があるとはねぇｗ」
（大きな地下ホールですから、放置するのも勿体なかったから良い再利用ですよねｗ）
「まぁ次はボクらが降りるから、ゆっくりしてなよｗ」
ケイの横で白い肌と青い髪が特徴の“ヒューマノイド”がリンたちを労った。
ザムノイドのジールである……女性的な外観だが、例に漏れず“彼女”も“元少年”である。
リンたちとは違って、元々銀河社会の戦災難民であり、100年以上前に地球に飛来した。
地球飛来前に宇宙生物ザムルと同化しており、その際に今の姿になったという。
メタロイドと違って柔らかい体を持つが、ザムノイドにも高い放射能耐性があることから、
実証センターの現場作業員に志願した経緯がある……気温や気圧の変化にもかなり強く、
宇宙生物と同化しているため、その気になれば「このまま宇宙空間に出る」ことも出来るのだ。
「その前にチェックシートを見せてくれる？ 参考にするからさ」
ザムノイドはもう１人いる……このデラも女性的な容姿だが、やはり元々は男性だった。
これはザムノイドに共通する特徴であり、元の性別に関係なく女性的な外観を持つのである。
オレンジ色の結晶体を持ち、手の指が３本というのも共通点である。
デラはその３本指で、電子ペーパーのチェック画面を器用に操作してデータを確認する。
いちおう「銀河社会の住人」であるため、エーテルドライブの知識は実はこの２人の方が多い。
（気温は今も高めで、放射能もまだちょっと出ている状態ですね……）
「エーテルドライブが安定化すれば、核融合炉は停止させても問題ないから心配はないよ」
「核融合炉が止まった後は、ノーマルのアークスでも作業しやすくなるはずだしな」
アークスというのは、銀河社会における地球人類の呼称である。
地球も銀河社会では惑星アークと呼ばれ、実は古代から数奇な縁を持つ惑星であったという。
「いやー、おばちゃんハイテクには全然疎いからなぁ、若いってうらやまだわｗ」
「いやケイさん、ボクらとほとんど年齢変わらないじゃないですかｗ」
……つまり今この待機室にいる“異人”たちは、全員100歳を越えているわけであるｗ
「おばちゃんどころの年齢じゃない」と思った方もいるだろうが、
それは所詮“人間原理”である……銀河社会には“数百歳”のキャラがごまんといるからだ。
更に人類自身の平均寿命も、地球連合暦100年の今は100歳を越えてたりするのである。
滅亡の危機を乗り越えて銀河社会にデビューした人類もまた「進化した」のだ。
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（へぇ――“インナーコリドー”の工事がもうすぐ終わるんだってさ）
実証センター上層階の待機室に置いた情報機器で、リンがニュースヘッドラインを見ている。
薄い半透明パネルに投影された画像には、巨大なリング状の“海上都市”の写真が映る。
インナーコリドーは“旧時代”の大阪湾に当たる“阪神ベイエリア”に建設中の巨大構造物だ。
直径３ｋｍほどのリング状の“立体都市”の構造を持っており、
更にこの中央部に、これから高さ２ｋｍを超えるシンボルタワービルが建設されるという。
またこの外側にも更にリング構造物が建設予定のため、“インナーコリドー”と呼ばれている。
（この工事が終われば、“スペリオルタワー”の工事が始まるッスね）
（遺伝子の螺旋構造がモチーフなんだってね、高さ２ｋｍ以上になるらしいよｗ）
（ってことは“キャピタル・ピラミッド”を超える高さになるんだねぇ）
因みに実証センターから、阪神ベイエリアの風景を見ることは出来ない。
紀伊山地の中部にあるのも１因だが、そもそもここは“和歌山県”に相当するからだ。
阪神ベイエリアの風景を肉眼で見ようとしたら、山を２つくらい越えないといけないのだ。
「今は確か“シカゴ・センター”って呼ばれてるんじゃない？」
「ですよね……でも“キャピタル・ピラミッド”と呼んじゃうのも分かるなｗ」
ジールやケイが話題に挙げているシカゴ・センターは、その名の通りシカゴにある巨大建築だ。
高さ２ｋｍ近いピラミッド型の“立体都市”であり、
かつては地球連合政府の庁舎が置かれていたため、キャピタル・ピラミッドと呼ばれていた。
半世紀ほど前に太平洋上にて新たな人工島の建設が始まり、
地球連合政府はこの人工島に移転したため、以降シカゴ・センターと名を変えたのである。
この新たな人工島も大規模な拡張工事が進んでおり、最終的には直径30ｋｍに達するというが、
完成予定は更に200年は先だと言われており、気が遠くなる大事業である。
『――待機室に誰かいる？ 見学希望者がキミたちに会いたいって言ってるんだけど』
情報機器のニュースを眺めていたリンたちに、通信機から新たな声が響いた。
地上階のセンターオフィスからである……リンたちは顔を見合わせる。
新技術の実証基地というだけでなく、変動期に生まれた“異人たち”が勤務していることから、
時々こうして見学希望者が、実証センターにやってくることがあるのだ。
「えーとね……今リンとロイとピオがいるよ……ジールとデラはこれから下に降りる予定かな？」
『じゃあリンたちに応対してもらおうかな、向こうも案内人がいるから心配は要らないよ』
「でもリンたちはまだ、残留放射能のチェックが終わってないけど」
『待機室を出てもらう必要はないよ、映像の回線をこれからつなぐから大丈夫。
ケイは“テレパシーフォン”の回線だけ、通信機と同期させておいてくれないかな？』
「あーそういうことね、了解っと」
ケイはそう言って、情報機器のインタフェースを大きな爪に覆われた手で器用に操作する。
間もなく画面にアイコンが立ち上がり、“同期”が終わったようだ。
テレパシーフォンというのは、メタロイドのように念話能力者とコミュニケーションする際に、
念話スキルを持たない者が使う補助デバイスである。
この機能を通信機に同期させておかないと、リンたちの言葉を“受信”出来ないのだ。
銀河社会では標準化されている念話スキルだが、地球ではまだ開発途上である。
間もなく情報機器のディスプレイに、空色の肌の女性と若者らしき数人の少年少女が映った。
空色の肌の女性はエヴァンスのクイス・オータである……彼女も実は“元少年”だが、
強化人間ではなく、惑星変動期に生まれたミュータントの１人だ。
ケイやリンたちとそう年齢は変わらないが、こちらも100歳を越えているとは思えない。
先ほど通信機越しに、ケイと言葉を交わしたのがこのクイスである。
元々はハワイの出身で、日本にも慣れているクールな人物だ。
興味津々の表情を浮かべる“見学希望者”たちに、リンとピオはにこやかに手を振った。
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| （「有志たちの今２」に続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2025年に初めて執筆したショートストーリー。
『クライシス』シリーズの延長線に当たる近未来史のドラマであり、
惑星変動期に登場したキャラクターの「その後」を描きたいと思って執筆したものである。
本文の通り、メタロイドのリンたちやキメラノイドのケイ、エヴァンスのクイスは、
いずれも基準年時代に特異な背景で変異した元人間の強化人間やミュータントたちだが、
寿命の都合上、2100年代にも生きているのが確実であったことから、
「惑星変動期を経験した語り部」として、近未来史に登場するのもアリと考えていた。
特異な容姿であるが、22世紀に入った地球文明は銀河社会デビューを果たしていることから、
狭量な差別は戒められて当然という空気が標準になっているイメージだ。
“開発者”としてはまだまだ駆け出しだが、多少は視野が広がっているのである。
その１方で、22世紀初頭はまだ惑星変動期の記憶が残っている時代でもあり、
タカヤマ・カズヤやユウ・フォーリアが登場する“23世紀シリーズ”に比べると、
“銀河社会の常識”はまだまだこなれていないというイメージも同時にある。
そんな「開発者移行期」の地球社会の空気を描きたかった、というのも執筆の背景にある。
また地球連合暦100年は「キリの良い数字」として設定した時代枠であるが、
（「ＺＹＸ3000」が“西暦3000年”を想定した物語であるのと似ている）
西暦で言えば2144年で、実はこれはアトラス・アリエル危機の“戦間期”の時代に当たるため、
オリオネス大戦後の銀河社会が少し不穏になっている時代だったりするのだ。 |
