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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 第３部 統合ナンバー：EC-X20501C（CM2370913C） |
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東京都大田区の襲撃事件現場。
“エターナル・ショッカー”を名乗るサイボーグらしき怪人たちと、これに対峙する明日也やエルフォンス、
そして加奈やセイラの前に、真っ赤な翼を持つ“獣人”がふわりと降り立つ。
“疑似メタロイド形態”を開放した加奈は、サイボーグ怪人“ゼオレイダー”の猛攻を受け、
まだ地面に倒れたままだ……真っ赤な翼の獣人はそんな加奈に近づいていく。
「ディアス……君？」
金属的な残響が混じる、弱々しい声で呟く加奈に、真っ赤な翼の獣人は柔らかい笑みを返した。
逞しい体にどこか不釣り合いな、幼さの残る顔で。
「――ただいま、加奈ちゃん」
獣人の名はディアス・トロイ。
そう――元々は加奈の幼馴染であり、24年前の事件で獣人に“改造”された人物である。
１度は自我がない状態で加奈たちにも牙を剥いたが、その後自我を取り戻した。
次元融合変動の収束と共に、「修行してくる」と言って宇宙からの協力者に自ら付いて行き、
混乱の地球から旅立った“元少年”が、24年経って今――帰還したのである。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ Ⅲ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画 第３部
★ 第１章 新たなる始まり ★
2037年9月13日―日本・新新宿事件其の２
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「こいつはとんだイレギュラーだな……本当に、あの時の小僧か」
表情の見えない“全顔面カメラアイ”の顔で、しかし苦々しそうに呟くゼオレイダーに、
ディアスは大きな翼と共に首を振って、瞳のない光るオレンジ色の目でじろりと睨み付ける。
「馴れ馴れしい口を利くな――あんたと会った覚えはないけど？」
「ふん、そうだったな……だがこの体は複数の記憶や情報をインプットしているのだよ。
貴様がかつてディアスと名乗り、“富士山麓の決戦”に投入された実験怪人だったこともな。
そう――我々にとっては“裏切り者”と言える」
「実験怪人ね――まぁ、あの時は間違いじゃないか……でも、裏切り者は看過できねぇな、
俺は元々、操られてただけだからね」
「実態がどうであろうと――当初は“こちら側”の戦力になっていたのは確かだ。
全く忌々しい……“仮面ライダーに擬態する”警官がいれば、かつての実験怪人までも……！」
“仮面ライダーに擬態する警官”というのは、剣屋明日也のことだ。
必ずしも仮面ライダーだけではないが、明日也は異世界の異能者の能力をコピー出来る。
24年前に偶然与えられた“変身アイテム”が、それを可能にしたのだ。
「お帰りなさい、ディアスさん……待ちかねてましたよ」
「えっと、確か明日也君――だよね？ すっかり逞しくなったなぁ」
確かに24年前は、この精悍な警官もまだ小生意気な小学生であった。
「おい……なんで20年以上もご無沙汰だったヤツが、この擬態野郎の正体を知ってんだよ？」
「生憎――俺にも“前情報”があるんでね、俺の過去を知るなら、どこに行ってたか分かるだろ？」
「――このクソガキが……！」
煽り返すディアスに、もう１人のサイボーグ怪人“シャドウシザース”は歯軋りして毒づいた。
しかしディアスの言葉に対してではない。
自身と明日也たちが対峙するフィールドの奥に、身長２ｍをはるかに超える大きな影が２つ。
「おぅ――やっと気付いてくれたか敵さんよ、いつ名乗れば良いかウズウズしてたぜ」
「全く、こいつがキレて先にぶっ放さないか心配だったぜ」
ディアスに似た赤茶色の翼を持つ、身長３ｍはあろうかという翼竜のような獣人と、
全身からナイフ状のトゲを生やした、こちらも２ｍを超える緑色の獣人。
24年前の経緯を知る読者諸氏なら既知の存在だろう。
２人は“銀河社会”から来た義勇組織の有志、ゾネアとゴルヴァンである。
両者共に威圧的な外見を持つ“竜人”だが、銀河社会のハイテクを知る“宇宙人”なのだ。
といっても別に、彼らがディアスと示し合わせてここに駆けつけたわけではない。
ディアスの“修行先”がこの義勇組織を中心にしていただけのことである。
つまり３人は最初から一緒に、この現場にやってきたのだ。
２人の逞しい宇宙人の戦士は、自慢の得物を持ち上げて構え直す。
ゾネアはバズーカ砲よりも巨大な携帯式のビームガン、ゴルヴァンは双刃の巨大な槍だ。
存在感抜群の“ダブル・ドラゴン”に、明日也もヒュゥ、と黒い仮面の下で口笛を鳴らした。
因みにダブル・ドラゴンというのはこの“竜人コンビ”の異名である。
「ちっ、こいつらがいるということは……おいゼオレイダー、これはもしかして……」
「あぁ――あの宇宙の傭兵団が来てるってことだな」
「よく分かってんじゃねーかハサミ野郎、じゃあ自分たちの立場も分かるよな？」
「形勢逆転――とでも言うつもりか？ エターナル・ショッカーを舐めんな、この翼竜野郎が」
「えらく威勢がいいが、何か手があるんだったら先に出さんと出オチになるぞ？」
「ふん、言われるまでもない――」
そう言ってゼオレイダーが黒い指をパチンと鳴らすと、無言の戦闘員数人が駆け寄り、
そのまま衝突した――そしてまるで粘土をこねるように混ざり合っていく。
間もなく――ゾネアと体格に差のない、ゴリラのような腕を持つ新たな戦闘員となった。
「こいつら、合体できるのかよ……！」
「宇宙から来たんなら、“ナノ・テクノロジー”がどういうものか知ってるよな？――楽しみだぜ」
10人はいた戦闘員が３人ほどの黒い怪人となり、ゾネアたちに向き合う。
そしてその太い腕の先には、チェーンソーのような新たな武器も形成されていた。
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そしてこちらは東京都中野区。
“光の巫女”に変身した神寺命――いや“ホーリーマインド”が現場を隔離する結界を展開し、
怪人たちの攻撃が市民に及ばないように配慮している。
そんな結界に区切られた、50m四方ほどの領域に、怪人たちと警官たちと有志たちがいる。
「何だよ、こいつら……！」
ライトブルーの装甲を持つ“機械の戦士”となった安室零児――いや“ガレス”と、
過去の経験からメタリックな肌に変身できる警官――河内省吾が、共に唖然としている。
２人の目の前には、身長３ｍはあろうかという、チェーンソーの腕を持つ黒い怪人。
そう――先ほど大田区でも怪人兵団が見せた、戦闘員の“合体戦闘形態”だ。
その横に、全身ハリネズミのように槍を突き立てるサイボーグ怪人“マルチランス”が立っている。
「エターナル・ショッカーは“ナノ・テクノロジー”をマスターしているのだよ、つまり変幻自在というわけだ。
我々が無計画に復讐をしようとしていたとでも思っていたのかね？」
「アイツの槍が生き物みたいに動いたり、何本でも量産できたのはコイツの所為ってことか……」
「マズいですね……さすがにあの怪物は、この体でも太刀打ちできそうにない」
「けれど、デカくなってくれたことで的は絞れるようになった――俺はこっちの方が好都合かな？」
そう言って、ガレスはメカニカルな腕を振りかぶった――電子音と共に起動する光の剣。
自作のロボット“デイライト・ファントム”にはこういう接近戦用の武器がたくさんある。
元々ゲーム用にデザインしたキャラで、乱戦よりも１対１、つまりタイマンに向いた設計なのだ。
「河内さん、ちょっと俺から距離を取ってください――少し派手にやります！」
そう言うや――ガレスは合体した黒い戦闘員に向かって飛びかかった。
応戦する合体戦闘員が、不快な唸り声を上げる両腕のチェーンソーをガレスに突きつけるが、
ガレスは背面のスラスターを噴射して斜めに飛び上がり、袈裟懸けのようにその片腕を斬り裂いた。
重い切断音を立てて、合体戦闘員のゴリラのような黒い腕が肩から裂ける――だが。
体から切り離されかけた太い腕は、バネが戻るように「バチン！」と音を立てて体に接着された。
「舐めるな小僧、ナノテクノロジーは変幻自在だと言ったろう、そのくらいの傷、すぐにカバー出来る！」
「あんたも俺を舐めんなよ、ただのビーム剣だと思ってたらカニみたいに泡を吹くぜ！」
そう言い返すガレスの横で――合体戦闘員の様子がおかしくなった。
斬られた腕を元に戻して反撃しようとするが、腕や足が上手く動かず、フラフラとよろめいている。
「むぅっ……こいつは、“コンピュータ・ウイルス”か！？」
「外面が幾ら頑丈でも、内部に異物を流し込まれりゃ、どんな怪物もアウトだろ！」
ガレスはよろめく合体戦闘員に、更に畳みかけようとするが――ミサイルのような槍が眼前を阻む。
「小癪な小僧めが……ならば、貴様の苦手な飽和攻撃に戻すまでだ！」
「ちっ――こいつは“モードチェンジ”した方が良いかな……？」
“ロボット兵器変身能力”を持つガレス――零児は、その起点となる腕のブレスレット状の機器の中に、
複数の形態を記憶させている……しかしふと記憶を巡らすと、乱戦向けの機種が余りない。
ゲーム開発でも、そういうシチュエーションを余り想定してこなかったからだろう。
「くそ――もう少し、軍事的にマニアックなオファーを受けとくんだった……明日也だったら出来たろうな」
次々に飛んでくる槍を個別に切り裂きながら愚痴るガレス……このままでは埒が明かない。
その時――複数の“光弾”がガレスを援護するように現場に降り注いだ。
「こいつは――国防隊か！？」
「ぬぅっ、そんなに早く駆けつけられるわけがない、邪魔するヤツは誰だ！？」
マルチランスが有機的な兜の奥で毒づくのと同時に、銀色の“人影”が空から降ってきた。
その人影は墜落直前でロケットのようなものを噴射して減速し、軟着陸を果たす。
それは――長い尻尾を生やし、銀色の装甲に覆われた“怪人”だった。
顔つきはどこか幼く、オレンジ色に光る目尻に赤いラインが走っているのが特徴的である。
ガレスや河内には、24年前に新宿で起きた事件で活躍した“銀色の獣人”を思い起こすが、
それとは微妙にデザインが違う――あの時活躍したのは実は明日也なのだが――独特の姿である。
両脇から青い銃器のようなものを突き出しているのも特徴だ……先刻の光弾はこれらしい。
「……ジーラさんに似てる……？」
ガレスはふと――24年前の事件で自分たちを守ってくれた、ある陽気な“獣人”の名を呟いた。
すると新たに出現した銀色の若そうな怪人は、その言葉に反応した。
「零児――いや、ガレスさんですね、援護します……兄のジーラがお世話になりました」
「えっ、兄って……！？」
その銀色の若そうな怪人は、何と――あの時の獣人の“弟”を名乗ったのである。
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――ヴォンッ！！
大田区の現場で、独特の電子的な残響を伴う大きな砲撃音が響き渡った。
ゾネアの得物、通称“魔改造ブラスター”の発射音だ……射線の先には２体の合体戦闘員。
土手っ腹にトンネルのような大穴を開け、倒れ込んだ……さすがにすぐには再生できまい。
その破壊力を目の当たりにしたシャドウシザースは再び歯軋りをする。
パワフルな援護がいなければ、自分が得意とするスピードで相手を十分翻弄できないからだ。
もっともゾネアは体格に似合わず結構素早いので、それもシャドウシザースのお株を奪う。
「よぉっし、やっと１列に並んでくれたぜ！」
「くそ、何だよあの威力は……個人で持つようなシロモノじゃねぇぞ！？」
……そらまぁ、本来“艦砲仕様”の火器をいじくり廻したヤツですしおすし。
「散々引き延ばしたのはまとめて撃ち抜くためか……やけに手間のかかることをしたな」
「１体だけだったらエネルギーの無駄遣いだろ、周りにどれだけ家が建ってると思ってんだよ」
「そいつは承知してるが、それは射角調整でもどうにかなっただろ……お前って意外に繊細だな」
「悪かったな、義勇組織が破壊者になったらマズいだろーが」
ダメ出しをするゴルヴァンにゾネアが愚痴る……いつもの光景である。
ゴルヴァンは重量級のためスピードに難があるが、だからこその安定感で相手を逃さない。
その巨大な槍で合体戦闘員のチェーンソーをがっちり受け止め、動きを封じるのだ。
更に槍の刃先は高熱を帯びているため、その熱量でチェーンソーを劣化させることも可能である。
そんなフィールドのすぐ隣では、ゼオレイダーとディアスが交戦していた。
「むぅ……その光る液体はナノマシンの集合体も溶かすというのか！？」
「デストロイアのミクロオキシゲンを舐めちゃダメだぜ、こいつはゴジラだって殺しかけたんだ」
ディアスの爪からは、酸素原子を分解する特性を持つ特殊な液体を高熱と共に分泌出来る。
24年前の次元融合変動で混じり合ったある“異世界”に出現した“怪獣”が持っていた能力であり、
ディアスはこの怪獣の遺伝子を組み込まれた“キメラノイド”なのだ。
改造を強いられた24年前は持て余した能力だが、今は相応に使いこなすことが出来る。
今さっきも、ゼオレイダーが繰り出した機械の触手にピンポイントで爪を立て、無力化したのだ。
元々の怪獣――デストロイアがそうであるように、熱量だけを取り出して敵を切り裂くことも出来る。
そこから少し間合いを開けて、加奈がセイラに介抱されている。
１時的に金属化している加奈の体内に拡散するように熱エネルギーを送り込み、回復を触発させているのだ。
「ありがと、セイラちゃん……ちょっと楽になったわ」
「無理しないでください先輩……本当は戦闘員じゃないんですから」
「あはは……確かにそうだね、あたしも無謀なことしたかなぁ」
金色の顔で力なく、苦笑いをする加奈……確かに自分は「戦うため」に生きているわけじゃない。
24年前はその頑丈な体で色々な活躍をしたものだが、所詮は素人だ。
ディアスも別に“戦士志望”というわけじゃないが、銀河社会の傭兵団に鍛えられたためか、
怪獣の能力を持て余した24年前とは、動きのキレが全く違う。
そりゃあ24年前は、ディアスもメンタルは中学生の少年だったのだから、無理もないことだが。
「ディアス君、良い動きするなぁ……キトラさん思い出すかも」
「あぁ、あの金色の……そう言えばあの人も空を飛べましたし、長身なのに身軽でしたよね」
「金色……そっか、あたしの今の属性もそれに近いんだよね……でもあんな風には動けないな」
「それは、そういう訓練を受けてないだけですよ、仕方ないです」
加奈の金色の顔に相槌を打つシルバーの顔――セイラも“機械生命体”なのでこういう色なのだ。
有事以外では人間に擬態しているが、今の方が本来の姿なのである。
加奈もまた――24年間に活躍した、ある“獣人”のことを思い返したようである。
「クソが……自分勝手で非合理な人間どもに、てめぇらもどうして味方するんだよ」
手札が尽きてきたのか、やけに愚痴るシャドウシザースにゾネアが弄るように言葉を返す。
「そりゃ、戦闘に明け暮れてるお前らには分からんよな、俺はアークスの方が好きだぜ。
ワガママでプライドが高くて誤解だらけで、でも打ち解けるとこんな俺たちでも仲間にしてくれる」
「神様でもないヤツが完璧じゃないのは当然だろ、機械を愛するヤツはよくそこを誤解するから困る」
「だよなぁ、機械が友達になってくれんのかっつーんだ――おっと、オートロンとかは別な？」
ゾネアの弄りにゴルヴァンも同意する……厳密に言えば「癒しのための機械」もあるにはあるのだが、
確かに戦うことばかりだった連中に、そんな世界は想像出来ないことだろう。
ゾネアたちと共にシャドウシザースに対峙している明日也も、もちろん同意見だ。
「確かに視野が狭い人間は平気で他人を差別する……けれどそれは結局、ただ単に無知なだけだ。
理解出来れば改めることも出来る、それが人間の伸び代だと俺は思ってる」
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「――ホーリーマインド！？」
中野区の“テロ現場”を隔離していた結界に、綻びが出来た。
シャープな巫女服で結界を生み出すホーリーマインドが、珍しく顔をしかめてよろめいている。
「くっ――油断したな、結界の外に出ていたヤツがいたんだね！」
無骨な黒い腕を振りかぶる戦闘員が１名、ホーリーマインドをガンガン追い込んでいた。
最初から結界の外に潜んでいた予備の刺客らしい……ホーリーマインドは接近戦が不得意だ。
元々後方支援型で、広範なフィールドを味方に有利な環境に変えることが得意なのである。
その名の通り相手の精神に直接干渉する能力があるのだが、自我がない相手には通用しない。
“神力”をまとうその法衣は簡単なことでは損傷しないが、畳みかけられればその限りではない。
ホーリーマインドは局所的に空間を歪めるフィールドを作り出して攻撃を回避し続けるが、
現状は防戦一方であり、追い込まれるほど隔離結界“神光租界”の強度が落ちていくのである。
ガレスらの援護を受ければどうにかなるが、都合の悪いことに彼らは今「結界の向こう」にいる。
「ふん、待機要員がこういう形で役に立つとはな……これはこれで収穫か」
「ホーリーマインド、結界を解除してください、でないと援護できない！」
「ダメだよ、解除したら市民が襲われる――大丈夫、１人くらいならボクだって……くっっ」
相手が魔物や妖怪の類なら、ホーリーマインドの神力は絶大な効果を発揮するのだが、
サイボーグ怪人だとそれが余り通用しない……全く無力ではないが、オプションでしかないのだ。
「くそっ、どうしたら良いんだ……国防隊の到着も遅れてないですか？」
「新宿の本部でも破壊工作があったみたいッスね、あと電波妨害を受けているようです」
「なんてこった……本当に計画的だったってことか」
メタリックな顔を歪める河内に、ガレスが情報を補完する。
“機械兵化”している時のガレスは、オンラインで様々な情報を瞬時に取得できるのだ。
不安な空気が現場に立ちこめるが、１人だけ冷静だった――例の“サイバー獣人”である。
「大丈夫――まだ、こっちには手があります」
「キミ、チェインと言ったね……どういうことなんだ？」
尻尾が生えたサイボーグ風味の青年はチェインと名乗り、24年前の“英雄”の弟だと主張するが、
どうも“彼”にはまだ、出していない“カード”があるらしい。
ガレスや河内が首を傾げたその直後――結界の向こうで激しい閃光が煌めいた。
「ィア”ッ！？」という奇声と共に、ホーリーマインドを追い込んでいた戦闘員が弾き飛ばされる。
強力な電撃のような攻撃を受けたように見えるが、ホーリーマインドの技ではない。
彼女が技を使う時は、必ず「自作の４字熟語」の言霊を唱えるからだ――神光租界のように。
「――腕っ節に自信があるクセに不意打ちとか、サイテーのヤツのすることだぜ？」
取り巻いていた市民が不安の表情でざわめく――その視線の先に、黒い人影が立っている。
とげとげしい個性的な翼――翅とも言える――が背中に広がり、全身を外骨格に覆われた獣人。
どこか昆虫のように見えるその姿に――ガレスやホーリーマインドは見覚えがあった。
「……レオン君」
「おひさです、多分神寺さんですよね？――あぁえっと、今はホーリーマインドか」
節くれた黒い指を額に当てて「チーッス」と言ったその獣人の名はバット・レオン。
彼もまた、ディアスと同様に24年前の事件によって獣人化を強いられた１人であり、
ディアスに組み込まれた遺伝子の持ち主と同じ世界の怪獣――バトラの遺伝子を持っていた。
更にその隣には、これまた蛾を思わせる容姿を持つ、小柄な“人外の人影”が立っている。
「久し振りに戻ってきたのに、いきなりテロ事件とか、間が良いのか悪いのか……どっちだろ？」
「神寺さんたちのピンチに駆けつけられたわけだから、間が良いんじゃね？」
「……ラムちゃんまで」
蛾を思わせる獣人の名はラム・メイス――女性であるが、決してどこかのカミナリ娘ではない。
こちらもレオンと同じく、異世界の怪獣“モスラ”の遺伝子を組み込まれた経緯がある。
顔こそ人面だが、普通の人間より２周りほど大きな目は、複眼になっている。
２人とも、ディアスと同じく、24年前の事件収束と共に、１度は地球を離れた経緯があった。
「君たちとここで再会するとは、ボクも予感出来てなかったよ……２人ともお帰り。
皆さん大丈夫、この２人はボクの友人です、24年前の事件に縁があり、元々は人間なんです」
ホーリーマインドの説明にざわめく市民――しかし、納得したように首を縦に振る者が多い。
何しろ現在27歳以上の人間は皆、24年前の事件を知っているからである。
異次元世界が混じり合い、異世界の武装組織が襲来し、大混乱やテロが起きただけでなく、
その混乱の中で姿を変えられたミュータントがいたことも、今や常識の範疇なのだ。
え、３年の誤差？ ――だって、４歳未満は記憶が不明瞭だって言うでしょ。
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「それで――どうするんだい、そろそろ手札が尽きてきただろ？」
膠着状態に陥っている大田区の現場。
サイボーグ怪人たちが切り札のように出した合体戦闘員もほぼ抑え込まれてしまった。
シャドウシザースのスピードはゾネアに相殺され、ゼオレイダーの触手はディアスに封じられた。
合体しなかった戦闘員もいるが、変身状態の明日也やエルフォンスで十分カバー出来る相手だ。
「確かに――想定外のイレギュラーに横槍を刺されたのは意外だ、こいつは引き際かも知れんな」
「おいヘルメット野郎――バカにしてんのか？ 簡単に逃げられると思ってんのかよ」
「そのつもりだがな……おっと、宇宙からの使者たちに考える余裕を与えるわけにもいかん。
そろそろ引き上げるぞシャドウシザース、続きは次の楽しみだ」
「ちっ――つまらねぇ、前線を持っていったマルチランスに抗議しておかんとな」
「うぜぇ――逃げられるもんなら、逃げてみろよ！」
シャドウシザースがゼオレイダーの元に駆け寄ると共に、生き残った戦闘員が周囲を取り巻く。
そんな怪人集団に向かって、ゾネアが巨大な魔改造ブラスターの砲口を向ける。
そのゾネアに大きな影が覆い被さった――損傷した合体戦闘員の１体だ。
「んなろぅ、再生が随分とはえぇじゃねぇかてめぇ！」
ゾネアは魔改造ブラスターの砲身自体を、大きな棍棒のようにして合体戦闘員を振り払う。
その時――ゴルヴァンやエルフォンスが、合体戦闘員の傷に複数の赤い光を見た。
「まずい――ゾネア退け、そいつ自爆するぞ！」
「んだとぉ――！？」
ゾネアが翼を広げて大きく跳躍した直後――現場で大爆発が起きた。
爆風が周囲を突き抜け、現場に面したビルの窓ガラスのほとんどが粉々に吹き飛ぶ。
飛んで待避しようとしたゾネアも途中で爆風に叩き落とされ、半壊したビルの２階に落下した。
まるでデイジー・カッターでも落としたような灰色のキノコ雲が、数百ｍ以上も湧き上がる。
煙が晴れた現場には大きなクレーターが穿たれ、怪人たちの姿は消えていた。
「何て爆発だ――みんなまとめて吹き飛んだのか？」
「いや爆発に乗じて逃げたんだ……爆発の瞬間に現場の空間が揺らいだ、あの瞬間に転移した」
エルフォンスは爆発が起きる直前、怪人たちが“空間のゲート”を開けたのを感知したらしい。
「何もこんな大爆発を起こさなくても……」
「24年前の復讐とか言っていたからな……それに、どうもコイツを使われたくなかったと見える」
そう言って、ゴルヴァンが腰に下げたラックに引っ掛けた、ツナ缶のような丸い機器を指差す。
「えぇと、それは確か――波動フレア、でしたっけ？」
「ほぅ、あんたよく知ってるな……さすがは警視庁随一のテックマニアなだけはある」
宇宙傭兵のゴルヴァンに褒められて、明日也は黒いマスクの中で苦笑するような声を出す。
波動フレアは局所的な偏向重力波を放射する機器で、銀河社会の防衛アイテムの１つだ。
相手が空間を歪めて移動するのを妨害したり、自分が逃げやすい状況を作る時に使う。
まだ人類社会では作られていないハイテク機器だが、どうも怪人たちはこれを知っていたらしい。
そして明日也もまた、少年時代の事件群で、これが使われたことを知っていたのである。
「24年前の事件で、宇宙の破壊工作員を撃退する時にも使われたと聞きました。
何でも重力波で空間を歪めて、擬似的な壁を作ったり、またその壁を無力化出来るとか」
「その通りだ、アークスでそれだけ理解があるとこっちも助かるよ」
「あのヘルメット野郎共も、波動フレアを知ってたってことか、ゴルヴァンよ？」
「こっちに考える余裕を与えずにさっさと逃げたからな、“時空ゲイト”を妨害する手段があることを、
知ってた可能性が高い……そもそもショッカーって奴らも確か、オーバーサイエンスに理解があったろう」
「ナノテクノロジーがどうたらとか言ってたしな……ホントにうぜぇ」
そんな会話から数十ｍ離れた路上で、まだ座り込んでいる加奈に手が差し伸べられた。
「加奈ちゃん――立てる？」
「あ……ありがと」
ディアスが差し出した、３本指のごつい手を、加奈の金色の手が握り、よろよろと立ち上がる。
「ちょっと無理したみたいだね……昔から責任感強かったし」
「はは……あのディアス君が、言うようになったなぁ」
苦笑いして言葉を返す加奈に、ディアスは再び、幼さの残る顔で苦笑いをした。
「まぁ――あれから24年、経ったからね」
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中野区の現場も――クライマックスを迎えていた。
ホーリーマインドが形成した結界の外側に、無骨なコスチュームの集団がゾロゾロと現れる。
ようやっと――国防隊の市街地テロ対策部隊が到着したのである。
事件の勃発から15分ほどが経過しようとしていた――本来ならもっと早く動けたはずなのだが、
本部も“強酸毒液事件”で被災したために、出遅れたところがあったようだ。
ショッカー怪人のような相手も想定内であるため、国防隊のクルーはパワーアシストスーツを着る。
“仮面ライダー”ほど特殊なものではないが、戦闘員クラスと互角以上に格闘できるのだ。
追い詰められた形になったマルチランスは、悔しさなのかわなわなと震えている。
ガレスと並んで戦闘に参加していた河内が、代表してマルチランスに投降を促す。
「それじゃあ、連行させてもらおうか……この状況で本懐を遂げられるとは思うなよ？」
「冗談じゃない……まだ道半ばなのに、こんな所で御用になってたまるか」
「この状況で逃げられると思うか？ 忠実な戦闘員もここまで包囲されれば役に立たない」
「それと、襲撃に使った水道管も封鎖されてるっぽいからね、観念した方が良いぜ」
さらっと、オンライン情報を補完したのはガレスである。
しかしマルチランスは不敵にも笑い出す……まだ何か手があるというのか。
「ふ……く、はは。 こんなローテクで私をお縄に出来ると、本当に考えているのか貴様らは？」
「結界の外側にどれだけの兵力が集まってると思ってるんだ、幾らお前でもこれは突破できまい」
「そんな平面を突破する必要はない、我々エターナル・ショッカーはそんなに原始的ではないのだ――」
そう言うと、マルチランスの腰に装着したベルトが、エメラルドグリーンの淡い光を放ち始めた。
それを見て即座に反応したのは、ホーリーマインドとチェインである。
「あの光は――ガレス、そいつ空間を曲げようとしている！」
「なるほど、そう来ましたか……けれど、そいつは想定の範囲内ですよ」
「何だって！？ 空間を曲げるとか、むちゃくちゃだな――でもさせない！」
「そいつはこっちのセリフだ、機械化小僧！」
抑え込もうと飛びかかったガレスに、マルチランスは再び槍をミサイルのように撃ち出した。
ガレスはビーム剣でこれを切り裂くが、更にマルチランスは強力な酸液を口から出して、動きを止める。
しかしその瞬間――青白い光がスポットライトのように降り注ぎ、マルチランスを包み込んだ。
「ぬぅ――何だ、この光は――」
叫び声を上げたマルチランスの声が、途中で壊れたラジオのような雑音と共に消える。
そして光が収まると、まるで瞬間冷凍されたようなマルチランスの“氷像”が、そこに立っていた。
口に当たるマスクの下から発射された酸液も、途中で凍結している。
唖然とするガレスや河内だが――チェインは“想定内”だったらしい……レオンやラムもだ。
「だから――想定内だって言ったでしょ、計画の詰めが甘かったですね」
「これは……どうなってるんだ？」
「この能力は……まさか、彼女か！？」
どうやら――ガレスには、マルチランスを凍らせたのが誰なのか、予想が付いたようである。
そして間もなく――ホーリーマインドが結界を解除すると共に、新たな“人物”が現れた。
それは淡い水色の羽毛に覆われた“獣人”だった……体形は女性を示唆する。
背中の翼はディアスに劣らぬほど大きく、腰のすぐ下からは同じ色の細い尾が２本伸びる。
そしてやはり――ガレスやホーリーマインドには見覚えのある人物だった。
「クレアさん……やはり、あなただったんですね」
水色の羽毛に覆われた獣人の名は、クレア・キートン。
やはり“異世界の怪獣”の遺伝子を組み込まれた、元人間の女性である。
元々は北米の生まれであるが、日本に留学している最中に被災し、獣化された経緯がある。
もちろん――ディアスやレオン、ラムと同様、24年前の事件でだ。
「お久し振り、ミコト君――ディアス君も戻ってきてるよ、別の場所にいるから、後で合流だね」
「ディアス君も――本当に今日は、運命的な再会の日ですね」
クレアの言葉を聞いて、緊張していたホーリーマインドの顔が綻んだ。
今――24年もやもやと抱え込んできた、漠然とした喪失感から、彼女もまた開放されたのだ。
全てが根本的に変わった24年前に地球を去った同志が、戻ってきたのだから。
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| （１章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2023年に執筆したエピソード。
ＰＡ第１部の渋谷事件と対比させたエターナル・ショッカーの第１次襲撃事件の終わりである。
（第１次、とあるように、第１部と同様何度かこういう事件を想定している）
ディアスに始まる、ＯＣＤ世界出身のキメラノイドが“再来”する展開は数年前には決まっていたが、
どういう組合せで出すかを決めたのは、このエピソードを執筆する直前であった（汗）
第１部のクライマックスがまだ未完成のために、未来史のエピソードを先に出した形であるが、
ディアス、クレア、レオン、ラムといった“怪獣系キメラノイド”も、旧ＯＷ企画の時点で草案が存在し、
（チェインは装甲化キメラノイドから、ザグロイドの亜種に設定変更している）
ディアスのような１部例外を除き、ジーラのような不可逆型で人間の姿を取り戻せない設定である。
そのため第１部終了時点ではまだ、地球に踏み留まりにくいイメージがあった。
ドロドロとした欝展開は好まないが、“怪獣人”たちの存在を、人類が簡単に受け入れるとは思えず、
クッションを挟んだ上で「第３部で舞い戻ってくる」方がドラマチックだと考えたわけである。
「地球生まれのオートロン」であるアートロンのエルフォンスが警視庁の特殊部隊に所属しているように、
2037年に当たるこの第３部では、第１部に当たる24年前の事件の経験値を活かしており、
一般市民も24年前に比べれば、こうした異能者の存在を知識に組み込んでいるイメージがあるため、
中野区の事件に参戦したレオンやラムに、それほど強い警戒感は湧かなかったというわけだ。
『タイガー＆バニー』程度には異能者に理解がある世界観をイメージして頂ければ大体合ってる（笑）
（『Ｘ-ＭＥＮ』などはミュータント同士が戦うためもっとドロドロした世界観だが^^;）
……というかせめてそのくらいの常識がないと、このシリーズでは収拾が付かないのだ（汗）
旧ＯＷ企画の段階から「３部作構成」は決まっていたが、これはそれだけスケールが大きいためで、
単品のエピソード群では、魔神オメガの革命戦禍を収拾できないという判断があった。
オリオネス銀河大戦を背景にした『ガーディアンズ』ほど壮大な物語ではないが、
ＭＣＵの『エンドゲーム』に、ゴジラとウルトラマンが参戦しているくらいの規模を想定していたためだ。
そしてこれから、そのカオスな事態が少しずつ、ＯＣＤ世界を追い詰めていくことになるのである。 |
