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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130728E） |
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立川市の南方にある府中市。
その市街地を４人のグループらしき人物が歩いている。
ファッションはスーツあり、パーカーあり、様々だ……ちょっと一貫性が取れていない。
いったい何のグループなのかというと――
「アレックの捕獲作戦は失敗したようね」
「をぃマジかよ、ギスター副隊長に止められない相手か、アレックってのは！？」
「デストラクタのルドルスが割り込んだ上に、アトラス傭兵団が横槍を刺したみたい」
「何だ、アトラス傭兵団があの基地にいるのか……墜落後どこに隠れてるのかと思ってたぞ」
「ということは、アレックもルドルスも逃げたということだナ……君らも油断するなヨ」
「ケッ、あんたに言われるまでもねぇよ、ここはアークだぜ、どうとでもなる」
嘲笑うように言ったパーカーの青年に、ジャケット姿の陰気そうな男は眉を潜める。
「油断は大敵ダ、既にアルティランもディガスも来ているんダ、気を抜くナ」
そう言ったジャケットの男を、パーカーの青年はぎろりと好戦的そうな目で睨み付けた。
スーツ男と並んで歩くジャケット男は、慌てて目を逸らす。
「をぃコラ、護衛されてる身で、あんまり偉そうなことを言うなよ、ジョルバさんよぉ？」
「やめろゼムロス、こんなところで騒ぎを起こすな」
「はぁ、これだからボデオは困るのよね、どうしてグレイドル様はこんなのを使うのかしら」
溜息を吐く女性――ドリル状の長い金髪が個性的だ――にパーカー男は再び睨み返す。
「トリノ……てめぇ、ケンカ売ってんのか？」
「この程度の言葉でムキになる方がバカじゃないの？」
「いい加減にしろよお前ら、これからアークスの交通機関を使うんだぞ、気を引き締めろ」
スーツ男が再びたしなめると、２人は睨み合いながら押し黙った。
「カク……こいつラ大丈夫なのカ？」
「あぁ見えてもあんたよりは戦える、贅沢言わんでくれないか？」
「フン、私も無力でハないつもりだがナ……」
４人は実は“地球人”ではない……見た目は人間だが、いずれも“擬態モード”であり、
うち１人はゾイド紛争前、金芽台で暗躍したあのジョルバであった。
そう――彼らはゴーディスの工作員、先ほど立川基地で暴れたギスターの部下である。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第10章 力を得る者達 ★
2013年7月28日―日本・関東其の１４
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「……いったい何があったんだ」
“乱闘怪人”撤退後の立川基地旧司令部の中庭に、佐津間たちが入るや、唖然とした。
整えた芝生と数本の植木が並ぶ慎ましいながら落ち着いた風景はどこへやら、
今や完全に茶色の廃墟と化しており、中央には巨大なクレーターが口を開けている。
こうなる前に現場の防犯カメラは壊れており、佐津間たちは今まさに現状を知ったのだ。
「嘘だろ……１トン爆弾でもこんなクレーター出来ないぞ」
「うわぁ凄い……マクスレッジ、デストラクタのルドルスってこういう能力あったっけ？」
「特殊な戦闘服を着用していたようだ、今まで見たことがないタイプだ」
メタリックな顔に呆れたような表情を浮かべるアリシェイルに、マクスレッジが答える。
その腕の装甲には、溶解した跡が今もくっきりと残っている。
マクスレッジの横では、ジーラとキトラがクレーターの縁に腰掛けている。
キトラは上着を脱いでおり、ジーラの“応急治療”を受けていた。
ルドルスの攻撃で開いてしまった傷を、ジーラのプラズマで焼いて塞いでいるのだ。
「よっし、ひとまず傷は塞がったぜ……けどあんまり派手に動くなよ？」
「ありがとう、助かったよジーラ」
「キトラ殿、歩けるなら病院で見てもらった方が良いぞ」
「そうですね……あんまり負担かけられないですけど」
「何を言ってるんだ、キトラ殿も今は貴重な戦力、遠慮することは何もない」
そう言ったのはマークだ……既に人間体に戻っている。
「マーク殿も感謝します、あの時駆けつけてなかったら、もっと大変な状況でした」
「しかしルドルスの拘束までは出来ませんでしたからね……セイヴンが一緒だったら……」
溜息を吐きながら言うマーク……実際に、あとわずかで身柄を拘束できたところだったが、
ルドルスは目も眩む閃光と同時に空間の穴を生み出し、緊急脱出を成功させたのだ。
マークはルドルスの抵抗に身構えたことで一瞬、反応が遅れてしまった。
「ゴーディスがこの星で暗躍を本格化させているなら……別の手が要るかも知れません」
「マーク殿……別の手、とは？」
「同志の増援ですよ……彼らの手口を知る者を増やさねば、対応が追いつきません。
私とセイヴンだけでは十分ではない……ディガスの負担を増やすのも違うと思いますしね」
どうやらマークは、自分たちと同じスキルを持つ“同志”の増援を考えているようだ。
「パドル大使やアイレス大使も、優秀なスキルを持っているようですが」
「彼らの本職は“星間外交官”ですし、次元融合変動を収束させる重要な任務があります」
「次元融合変動の収束……って言われても、我々には想像も付きませんな」
苦笑するのは黒木だ……確かに地球人の知識の外にあるスキルには違いない。
「混じり合ってしまった並行時空を、元の状態に再分離するのはとても難しいんですよ。
ただでさえ今は不安定な状態ですし、やり方を間違えると逆効果になってしまうんです。
パドル大使にしろアイレス大使にしろ、その準備に時間がかかるのでよく外出するのです」
……決して作者がパドルたちの存在を忘れているからではないorz
「まぁ簡単ではないのでしょうね……全くピンときませんが、申し訳ない」
「大丈夫ですよ、あたしたちもピンときてませんから！」
「自慢するところじゃないぞアリーナ」
フォローしたつもりなのか、アリーナがにこやかにそう言ったが、ゾネアにツッコまれる。
その横でレマックが再び、今度は冷静にフォローする。
「我々銀河社会の住人にとっても、時空を越えた異変をどう収束するかは知識の埒外です。
この方法を知っているのは、銀河社会でも文字通り、トップクラスだけなんです」
「言ってみりゃ“神の領域”ということだな」
苦笑するようにサイロスが言った……笑ってもあんまり表情は分かりにくいが。
「まぁそういうことなので、防衛特調のお世話になる同志が増えるかも知れませんが……」
「いえ、それ自体は何の問題もありませんよ、むしろ助かります」
そう返す黒木の少し奥で、アリシェイルが同志のダメージを見ている。
「結構酷いわねこれ、装甲の裏側まで焼けてる……マクスレッジも補修が要るんじゃない？」
「出来ればそうしたいが、ここにはオートロン専属のドクターがいないからな……」
「それなら俺がカバーしよう」
“機械生命体”オートロンのマクスレッジ補修を買って出たのはウォーガーだった。
彼自身も後天的ではあるが、サイバネティックな金属生命体だからである。
「助かるよ、“ドクトル・プライム”がいれば良かったんだが、彼は今アメリカでね」
「あぁ、“オプティマス小隊”に参加してるのか彼は……かなり優秀だと聞いてる。
そうだ――彼なら“ザイノファイバー”の製造が出来るんじゃないか？」
「あぁそうか……出来るかも知れないな、後で問い合わせておこう」
「これで貸し借りはなしだな」
「ふーんだ、どーせあたしは役に立たないわよ（｀人´）」
「不貞腐れてんじゃねーよ、大人気ないなお前は……さっきのクールな顔はどこに行った」
そしてアリーナが頬をスミレ色にしてぷぅと膨らませるのであった。
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そしてこちらは午後の金芽台。
町の東部にある金芽台中央駅から、大通りを１本挟んだところにある中央商店街に、
中学生くらいの少女たちの集団が群れている。
「わぁ可愛いですよ碓氷さん！」
歓声を上げるのは加奈だ……その向かいには大きなリボンを付けた冬雪が、顔を赤らめる。
見た目は大人しそうなメガネっ娘だが、何しろ元々は“少年”だから恥ずかしいのだ。
「あ……ありがとう（ふぇえ、恥ずかしいよコレ）」
「みゃう、おねーちゃんずるい！」
「大丈夫ですよ、まだまだ色々ありますから……ほらコレとか」
“姉”に焼き餅を焼く冬水をなだめているのは安室唯だ……加奈の後輩である。
世界を越えた少女たちの集団が、今やすっかり友達として馴染んでいる。
きっかけは“アヤカシ事件”であるが、同年代と分かれば打ち解けるのも早い。
もちろん――加奈や唯は、まだ冬雪たちの“正体”までは、知り得ていないのだが。
今回は“週明け”に予定している、ショッピングセンター来訪計画の“予行演習”である。
異世界召喚者たちが計画している“温泉旅行”の準備を兼ねて、
金芽台中央駅から、東にシャトルバスで数分のところにある大規模なショッピングモール、
プラズマモール多摩日野を数日後に少女たちで訪れる予定なのだが、
その前にこの中央商店街で、一緒にウィンドゥショッピングをすることにしたのだ。
プラズマモールに比べれば品数は少ないが、日常生活はここで十分に事足りるのである。
都道666号線の方に出れば、大手チェーンのスーパーマーケットもある。
「こういう店に来るのも久し振りねぇ」
「しばらく演習で忙しかったですもんね、向こうでも」
きゃいきゃいとはしゃぐ少女たちの後ろから、少し落ち着いたグループが続いていく。
瑞鶴や夕張、陽炎などが並んで歩いている……もちろん今回は私服姿だ。
加賀の姿は見えないが、別にお留守番というわけではない。
加賀は数軒離れた本屋の中にいた……神通、秋綺や春花などの姿も見える。
バカンスではしゃぎ回ることに関心がない彼女たちは、必然的にこういう場所に集まる。
合同訓練などの間、暇を潰すために読む小説や参考書などを探しているのだ。
「あら、随分と買い込むんですね卜部さん」
「あぁいや、ラティスさんやアイナさんに頼まれたんですよ、あの人たち外出し難いから」
秋綺は腕の上に４〜５冊を積んで、狭い書庫の間を歩く……秋綺も元は“少年”だが、
“メイデンズ組”では最もグラマーな体形で、大きな胸を本たちが圧迫して揺れている。
それを認めた神通が、レジの横に置いているカゴを持ってやってきた。
「持ちにくいでしょう卜部さん、これを使ってください」
「あぁ、有難うございます」
気遣いを受けた秋綺の顔が、遠慮混じりに綻んだ……男ならドキッとするほど可愛いが、
今その笑顔を取り囲んでいるのは、残念ながら女子ばかりなのである、惜しい。
そんな商店街の入口に、統一感のない男女４人組が現れた――ジョルバたちだ。
「おーおー、ちっせぇ町だな、ミサイル１発で粉々になりそうだぜｗ」
初っ端から物騒なことを言うパーカー男……その正体はボデオのゼムロス、元ケンカ屋だ。
ゴーディス準幹部クラスのジョルバに食ってかかったように、かなり好戦的である。
その横で眉を潜める、神経質そうなスーツ男……その正体はツルギスタンのカク・ドーフ。
手刀のように揃えた手指をほとんど動かさないが、実はこれにはワケがある。
「要らん騒動は起こすなよ、ここにはディガスの拠点がある、奴らにバレたら瞬殺だ」
「わーってるよ、俺はヴォルマグスみたいに短気じゃねぇ」
「どの口が言ってるのよ」
呆れたような表情を浮かべる金髪ドリルヘアー娘は、エトルピータのトリノ・メイミン。
秋葉原にでもいそうなゴスロリ風ファッションがどこか浮くが、口調は辛辣だ。
そして、陰気そうなジャケット男の正体が、ヒッポリッターのジョルバというわけである。
トリノの容赦ないツッコミに、ゼムロスはじろりと睨んで「ケッ」と吐き捨てる。
「それで……あんたが隠した例のアイテムは、どの辺に置いてるんだ？」
「もう少し先ダ……この向こうにグリーンベルト公園があル、だがもう同じ場所にはないゾ」
「だろうな……だがビーコンをたどればそう苦労はしまい――」
そう言って、カクが揃えた手指で器用にスマホを弄ろうとした――その時だった。
ゼムロスが無言でカクの脇腹を突き、アゴでクイクイと商店街の奥を指す。
ゼムロスの視線の先――50mほどだろうか、やや大柄な中学生風の少年……播磨陣である。
その半袖シャツの下、手首に貼り付いた赤黒い“腕輪”に、彼らは見覚えがあった。
「どうやら――早速“ゲット”っぽいぜ？」
「運は我らに味方したということか、幸先が良いな……気取られずに後を付けるぞ」
「ちょっと、既に装着してるんじゃない、どうやって取り返すのよ」
「装着者のカラダに用はない――そうだろ？」
そう言って、カクは揃えた手指を、ナイフのように振る仕草をする。
その際に彼が見せた、冷酷そうな“本性”に、今度はトリノが眉を潜めた。
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こちらは台東区の住宅地。
「へー、これが“メカゴジラ”か」
友人である小堀川竜太郎の自宅で、剣屋明日也は銀色のロボットの模型を眺めていた。
“対ゴジラ兵器”メカゴジラのフィギュアである……竜太郎が最近手に入れた。
２人とも“怪獣を知らない世界”の出身なので、この兵器を知ったのも最近である。
背中に支援機“ガルーダ”を搭載した“スーパーモード”のスケールモデルだ。
「こんなのが実在してたとか、ちょっと信じられないよな」
「実機は身長120mだってさ、もう歩く戦艦だね」
「明日也は記録映像見たことあるか？ 冗談みたいな戦闘力あるらしいぞ」
「でも“ゴジラ”には負けたんだよねぇ……どうなんだろ」
相変わらず、年齢不相応のクールさで苦笑する明日也少年。
「相手が上手だったってことかな…… ――ところで明日也、その腕輪は何だ？」
「――え、これ？」
竜太郎はふと、明日也の腕に貼り付いている、セピア色の“腕輪”に気付いた。
明日也は数秒ほど逡巡したが、意を決したように口を開く。
「……竜兄、誰にも言わないでくれる？」
「お、なんだ……大事な話なのか？ 分かった、僕も口は硬い方だ」
「ホントかなぁ、“魔女”に僕のこと喋っちゃったんだろ？」
容赦ない明日也のツッコミに、竜太郎は言葉に詰まる……まだまだ計算が甘いな。
「……大丈夫だって、あれは喋るなって言われなかったんだし」
「まぁ……僕もちょっと心配だからね」
そしてややためらいながらも、明日也は自宅前の公園で起きた出来事を友に打ち明ける。
ジャンパーの男――アレックに「誰にも言うな」と言われたのはつい昨日のことだが、
所詮小学生の口約束など、その程度だということか。
「……“ザイオノイド・ブースター”って何だよ？」
明日也の口から出てきた謎の単語に、竜太郎もクエスチョンマーク症候群に罹患した。
「それが分かるなら苦労しないよ……でも多分“コレ”の名前なんじゃないかな」
「腕時計みたいに見えたけど、文字盤も何もないんだな」
竜太郎がそう言った時――ふと明日也は腕輪の上に“立体映像”を起動した。
そこには東京怪獣事件などで現れた“怪獣”が数体、浮かんでいる。
「うゎっ……そういう機能あるのか、すげぇハイテクじゃん！」
「この前の怪獣とか、強い生物の情報を登録出来るみたいなんだよね。
その上で“展開する機能”があるみたいなんだけど……どういうことだろ？」
「まさかだけど……ここから怪獣を“召喚”出来るのかな？」
「それ僕も考えた……でもこんなところで怪獣を召喚したら、家が壊れちゃうよね」
「おいおい勘弁してくれよ、まだローン残ってんだから！」
うろたえる友の顔を見て、明日也は苦笑しながら立体映像を消した。
「そのブレスレットを明日也に渡した男も……異世界の住人だったのかな？」
「そうかもね……でもなんで僕にそんなものを」
「大人だと悪用するんじゃないか？」
「子供が悪用しないとは限らないと思うけど……」
「明日也らしいなその辺が…… ん、立川で爆発が起きたって、どういうことだ？」
ふと――竜太郎はスマホニュースのヘッドラインに目を落として、そう言った。
書かれていたのは、立川基地で３度の大爆発が起きた、というニュース速報である。
ギスターが起こした２度の爆発と、ルドルスが起こした爆発のことだが、
“爆発の原因”までは、まだマスコミの側には伝わっていないようである。
事故なのかそれとも事件なのか、いずれは防衛省を通じて発表されるのだろうが。
「立川って、確か基地があったよね……怖いよねぇ」
「まさか、異世界の武器を悪用するヤツが暴れたんじゃないだろうな？」
竜太郎の言っていることはあながち外れではなかったが、もちろん適当な憶測である。
しかも明日也に腕輪を渡した男が、そこにいたことなど知る由もないだろう。
「機械獣の事件も起きちゃったしねぇ…… あ、これも登録できちゃった」
「これも、って？」
「メカゴジラ……オモチャでも大丈夫なのかなぁ、うーんよく分かんないや」
そう言って、明日也は再び立体映像を“起動”した。
確かにそこには、新たにスーパーモードのメカゴジラの映像が加わっている。
それを見て、今度は竜太郎がスマホに残しているゾイドの写真を見せた。
「強かったら何でもＯＫなら、この機械獣も行けるんじゃね？」
「試してみよっか……んで召喚してみる？」
「いややめろって、家を壊す気かよ……じゃあやめようかな」
明日也の物騒な冗談に、竜太郎はふと、スマホをしまおうとする。
「あーごめんごめん竜兄、大丈夫だって、広いところでしか召喚しないからさぁ」
「いずれは召喚する気なのかｗ」
「だって登録するだけで利用できないとか、つまんないじゃん？」
「反乱起こされたらどーすんだよ」
「えー、召喚獣は裏切らないもんじゃないの？」
そう言いながら、明日也は竜太郎のスマホ写真に腕輪を近づけた。
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再び金芽台。
中央商店街の西にある市民会館の横道から、曲がりくねった坂道を数分上ると、
グリーンベルト公園に続く芝生広場が現れた……この先に都道をまたぐ小さな橋があり、
その先にグリーンベルト公園がある……突き当たりがちょうど、私立金芽台学校だ。
陣はその芝生を突っ切って、橋を渡る直前に、おもむろに振り向いた。
「……何だよあんたら、俺に何の用があるんだよ！」
視線の先には、彼を付けてきたゴーディス工作員カルテット。
トリノとジョルバは素知らぬ顔をして誤魔化そうとするが――カクとゼムロスは違った。
「え？ あたしのこと？ それともこっちのおじさん？」
「おじ……（どう見てもアークスの学生年代だろトリノ）何の用って言われてモ――」
「ヘタな芝居はよせトリノ、ジョルバ……人気もないしちょうど良い」
冷徹な目でそう言うカクに、トリノとジョルバも目つきを変えた。
「君がその腕に嵌めているものを、我々に渡してくれないかな……元々我々のものなんだ」
「え？ ……これのことか？ 無理だ――外せないんだよ」
「だろうな、そういう仕様だ……だから、君の腕ごと頂こうと思う」
言うや――スーツ男の姿がＣＧモーフィングのように揺らぎ、青緑のトカゲ男が現れた。
ツルギスタンのカク・ドーフの本当の姿である……両手は刀剣状になっている。
長い爪を１本に束ねて武器にしているのだ……擬態モードで揃えていたのもこのためだ。
突然姿を変えた“トカゲ星人”に、陣は当然目を白黒させる。
「なっ……！？」
「悪いなアークスの少年、君に拒否権はない……運が悪かったんだよ」
本性を現したカクの背後で、ジョルバが腕を振ると、空に光の輪が煌めいた。
光の輪はそのまま地上に降りてきて、芝生広場を包み込む、大きな透明の筒に変わる。
その横で、ゼムロスやトリノも“本来の姿”を現した。
ゼムロスは逆三角形の頭部を持つ、鎖帷子のようなスーツを着た戦士の姿に。
トリノは２つの光る“複眼”が特徴的な、両手に銃器を構えた戦士の姿に。
ジョルバもジャケット男の姿から、青と赤の外骨格に覆われた本来の姿を現した。
「驚いたか小僧？ そうとも、俺たちゃ宇宙人だ、記念すべきファースト・コンタクトだ」
「もっとも――最初で最後の風景になるだろうけどねぇ」
「逃げようとしても無駄ダ、この透明な筒は空間を遮断スル、越えることは出来ナイ」
「恐怖で叫んでも、泣いても問題ないぞ、誰にも聞こえんがな」
動揺する陣に、ジョルバを除く３人の“宇宙人戦士”がじりじりと迫る。
すぐ背後は橋だが、その手前に降りた透明な筒が、陣の逃げ場を遮断している。
すると――陣は赤黒い腕輪を胸元に上げた……立体映像のような光が立ち上がる。
明日也の腕輪から出てきた映像と似ているが、映っているものは違う。
「安全装置解除――モード９３“サザビー”起動！！」
そして陣の“詠唱”と共に、腕輪から膨れ上がった光の“繭”が陣の全身を包み込んだ。
「小僧、抵抗する気か？……ハハッ、上等だぜ！」
「アークのマシーンに変身したところで、我々の敵ではない――！？」
光の繭が消えた時には、陣は真っ赤な装甲に覆われた“機械兵”に変わっていた。
それはＳＦアニメ“ガンダム”に登場するライバル機の１つ“サザビー”そっくりで、
本来の設定では身長20mを越える機体を、等身大で再現したような姿を持つ。
アニメ劇中でも“大型機”に当たるためか、本来の陣よりも、幾らか長身にも見える。
「何だこりゃ……アークにこんなロボット、いたっけか？」
「さては映像作品のオモチャを真似たか……我々も舐められたもんだな！」
同じ頃――グリーンベルト公園の近所にあるサイトＧで“異変”が観測された。
管理人室にある観測情報モニターを見ているのは、アイナと鉱物娘のルウだ。
モニターに表示された“異変”は不明瞭だが、金芽台の町中で何かが起きているらしい。
「また町中で異変か……何だかモヤモヤしてるな、何が起きてるんだろう？」
（うーん……これだけじゃあ、分かりにくいですよねぇ）
サイトＧの観測機器が捉えたのはまさにカクたちの“破壊工作”であったが、
ジョルバが展開した“空間シールド”のために、具体的な情報を確認出来なかったのだ。
「取り合えず立川基地に連絡しよう……向こうの事件は、もう収束してるはずだし」
「アイナ――テラスに上がってきて！」
２階のテラスから、ラティスの声がした……すぐさまアイナは階段を駆け上がる。
「ラティスさん――どうしたんですか？」
「あれ見て……何だと思う？」
ラティスが群青色の指で示した先には、妙な半透明の柱と、複数の火花のような光が。
サイトＧの東方、数百mほどの距離だろうか……駅前よりは手前だ。
「何あれ……市民会館の方だけど、あんなもの昨日までなかったですよね？」
「アイナ、管理人室で何か捉えてなかった？」
「確かに異変をキャッチしてました……でもモヤモヤしていて……アレのことなのかな？」
「ボクが確かめてくる……アイナは立川基地に通報して！」
「は、はい、分かりました！」
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「――をぃ何だよこのガキ、どっからこんな戦闘力が出てくるんだ！？」
逆三角形の顔を歪めて毒づくのはゼムロスだ。
降り注ぐ“ビームの散弾”を、手にしたグローブ状の武器で弾くが、時々力負けする。
隣でカクもサーベル状の爪でビームを弾くが、攻め切れていない。
「ち――驚いたな……あのアイテムには、こんな器用な機能があるってことか」
カクとゼムロスに“ビーム散弾”を降らせるのは、陣が変身した等身大のサザビーだ。
背中から展開した衛星状の機器を駆使して、様々な角度から熱線を放つ。
“本家”を知る者なら、これがサザビー特有の遠隔操作ビーム兵器、
“サイコミュビット”だと気付くだろう……本来アニメにしか登場しない兵器だが、
陣が装着したアイテム“モビルノイド・システム”は、それを等身大で再現出来るのだ。
更に“陣サザビー”は、槍のようなビーム状の“光刃”を展開して果敢に斬り込む。
これも本家サザビーが装備する得物だ……“中身”が中学生の少年であるためか、
やや大振りで詰めが甘いものの、切れ味自体は鍛えられた日本刀すら凌ぐ。
その時、別方向から複数の熱線弾が撃ち込まれ、陣サザビーはジャンプして交わした。
射線の起点には、２挺拳銃のように大型銃器を両手に構えるトリノがいる。
“擬態モード”時のゴスロリ娘からは想像が付かないが、これが彼女の得意な戦法だ。
殴り合いが得意なゼムロス、剣術戦が得意なカクなど、皆異なる戦法を使う。
更に畳みかけてくるトリノに、陣サザビーは新たに“盾”を出現させて受け止める。
「舐めんじゃないわよ、いつまで耐えられると思ってるの、このおバカさん！」
戦闘のプロじゃない以上、陣のモーションはどうしても荒削りになるが、
宇宙マフィアの戦闘員３人にここまで食い下がれていること自体、奇跡と言えよう。
陣サザビーは脚部のスラスターを噴射して３人から距離を取ろうとするが、
ジョルバが展開したシールドは越えられないため、弧を描いて逃げ回るしかない。
「まぁいいさ……そのうち息切れするだろう、所詮こいつの中身はアークスの小僧だ」
「あの戦闘服がそれをカバーするんじゃないの？」
「外装がどれだけ高度でも、中身が素人なら限度があるだろう、監視者じゃなけりゃな」
「くっそ腹立つ、ド素人のガキのクセしやがって……！」
実際――陣は“疲労”を感じ始めていた。
このアイテムはただの戦闘服ではなく、１時的に陣の肉体そのものを機械化出来るが、
無限大に戦えるわけではなく、エネルギーを使うほどに精神が消耗するのだ。
しかも相手はプロだ……何度か接近を許し、その攻撃を食らっているのも事実である。
サザビーの重装甲がダメージを軽減しているが、効いていないわけではなく、
装甲面に受けた衝撃は、そのまま陣には痛みとなって伝わるのだ。
相手も攻め切れていないのは事実だが、陣の“反撃”も相手にほとんど通用していない。
「さぁて、肩が揺れ始めたな……そろそろパンチ・ドランカーの時間か？」
その時――まるでガラスシリンダーのようなジョルバのシールドに、斜めの光が走った。
「何ダ――誰かがシールドに干渉しようとしてイル！」
「シールドへの干渉だとぉ！？ アークスにそんな技術はないはずだろぅが！」
そして斜めの光はまるでシールドの隙間をこじ開けるように開かれ、
群青色の肌の女性がシールドの中に踏み込んできた――ラティスである。
彼女の優れたサイキック能力は、こうしたシールドに干渉することも出来るらしい。
「何だこの女は――エディアシスか、それともカルディアンか？」
さすがにカクもゼムロスも、エヴァノイドのラティスを知らないようだ。
そして更に彼女の背後から２人……鉱物娘のルイとスミレだ、２人とも臨戦態勢である。
間もなく――ルイとジョルバの視線が交差した。
「またあんたなの……あれで懲りてなかったのね！」
「あの旧校舎の地下室にいたヤツだよね多分……今度は何をしに来たのよ！」
因みに“戦闘形態”を取っている場合に限り、ルイは肉声で喋ることが出来る。
「フン……縁というものハ不思議だナ……こんなにも早く、あの小娘と再会するとハ」
「あれがこの前聞いた活性化メタロイド共か……生意気そうな顔をしてるな」
「それがどうしたってんだ、得物らしい得物もない小娘共に、何が出来るってんだよ！」
「ちょっとゼムロス、幾ら何でも不用意すぎるわよ――」
ラティスたちに“鉄拳”を叩き込もうとしたゼムロスに、トリノが声をかけたが――
「――ごはぶっ！！？」
空気が破裂するような音と共に、ゼムロスが逆方向に吹っ飛んだ。
ゼムロスに向かって手をかざすラティス……長い髪がマントのように揺らめいている。
「誰かは知らないけど……これ以上暴れるんだったら、止めなきゃいけないな？」
カクは苦々しそうな表情を浮かべながら、ラティスがこじ開けたシールドの奥を見る。
複数の人影が、こちらに向かってくるのが見える……その中に見覚えがある顔が。
確か――“副隊長”ギスターと、立川基地で応戦していたはずだが。
「アトラス傭兵団――北の軍事基地にいたんじゃなかったのか！？」
「どうやら、ディガスが“ゲート”をこの町につなげていたみたいね……」
「くそっ、計算外だ、いったん退くぞ、作戦を練り直す……ゼムロス、さっさと起きろ！」
「ち、畜生……青女め、この借りはいつか返すからな！」
カクと目配せをしたジョルバが、再び手を上げると、更に複数の光のリングが出現し、
今度はカクやゼムロス、トリノやジョルバ自身を包み込んだ。
「メタロイド娘共……お前たちにモ、いずれ礼はするゾ、これでは終わらんと思エ！」
そして間もなく――４つの“シリンダー”が光を放ち、ジョルバたちは姿を消した。
それと共に、芝生広場を包み込んでいたシールドも霧消する。
「全く、迷惑な連中だね……！」
そう言いながら、ラティスは陣サザビーの方を向くが、陣サザビーは距離を縮めない。
「ちょっと君……大丈夫、ボクは敵じゃないから――」
ラティスがそう言い終わる前に、陣サザビーはスラスターを噴射して空に舞い上がった。
そして南西の方角に、少しよろめきながら飛び去って行ったのである。
「はぁ、逃げることないのに……」
「ラティスさん、あの赤いロボットみたいな人と知り合いなんです？」
「知り合いじゃないけど、ボクの勘が正しかったら、“彼”もこの近所の人だよ」
ラティスは陣が変身した瞬間は見ていない……けれど、感じるものはあったらしい。
こうして――マフィア工作員たちの破壊工作は、いったん幕を閉じた。
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| （１１章１話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2022年に執筆したエピソード。
変身怪人が登場する“メイン”は、前話のアレックやルドルスのアクションであるが、
「彼らだけではない」ことを示唆するために、オマケ的な話を追加した（笑）
モビルノイド・システムを獲得した陣や、ザイオノイド・ブースターを獲得した明日也、
彼らもまた“立川怪人事件”と同じ背景を持つことを示唆したかったわけである。
そしてこれに合わせて、ギスターの部下に当たるゴーディス工作員を新たに登場させた。
ヴォルマグス（マグマ星人）のような“ザイオノイド枠”でこそないが、
人類が相手にするには手強い、ウルトラ宇宙人の戦闘員たちである。
ゼムロスはボデオ（バド星人）、カクはツルギスタン（ツルク星人）の戦士であり、
“紅一点”トリノはエトルピータ（プロテ星人）となっている。
また今回ジョルバも含めて、全員「人間擬態モード」をお披露目したのもポイントだ。
きっかけは、白銀の賢者氏やレオ（流離太）氏が投稿したトリノの“人間体案”であり、
ここからゼムロスやカク、ジョルバの“人間体”も追加で考案してみた。
陣と１戦交えて撤退したということはつまり、彼らは今後も再登場するわけである（笑）
更にこれは厳密には11章以降のフラグになるのだが、
マークのセリフに示唆させているように、“ウルトラ戦士増員”も予定している（笑）
実は追加ネタではなく、旧ＯＷ企画の頃からウルトラ戦士の参戦は２人だけではなかった。
ＰＡになってプロットが変わったために“保留”にしていただけなのだ（苦笑）
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