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★ＴＨＥ ＧＵＡＲＤＩＡＮＳ 統合ナンバー：EX-ZA（N-ATTN007B2） |
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「――ここにいたか」
しわがれたような太い声に、オールバック気味の黒髪の男が振り向いた。
枯れ木が点在する、荒廃した雑木林の１角。
どんよりと曇った空がぽっかりと突き抜けて見える、とある丘陵の斜面。
その男はサングラスをかけ、無言で曇天を見上げている。
年齢は不詳だが、中年の後半くらいだろうか……前髪の１部が青く染まっているのが特徴的だ。
その男の背後から、男よりも２周りほど大きな影が近づいてくる。
シルエットは人間のように見えるが――しかし、人間ではなかった。
青緑色の、やや煤けた鱗に覆われた、筋骨逞しい肉体。
肉食恐竜を平面にしたような顔立ちを持ち、鼻先にはサイのように太い角がある。
「瀑羅……」
男に瀑羅と呼ばれた角のある“獣人”は、２ｍ以上ある体を揺すって、低く笑った。
彼はこの世界の神話で“鬼伝説”の１柱を担ってきた異種族――１説には恐竜の末裔説もある。
異種族だが――しかし瀑羅もまた、紛う事なき“地球人”なのだ。
“人類”でこそないが、この地球で誕生した種族であり、独自の文化を持つからである。
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ＴＨＥ ＧＵＡＲＤＩＡＮＳ
ガーディアンズ――アトラス銀河戦史
≪第２章 惑星アーク≫
★ 第２話 地下組織アクエリアス ★
（想定年代：AWO-007）
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「気になるのか？ ドレイク殿のことが……龍二」
「気にもなるさ……こんな時代だからな」
「こんな時代――か……最近、そんな言葉ばかり聞く」
瀑羅に龍二と呼ばれたサングラスの男は、苦笑するようにサングラスを外した。
こちらも無駄肉のない逞しい体つきだが、目尻には細かい皺が入り、人生の後半を窺わせる。
「済まん瀑羅……俺も少し老けたらしい、最近どうも気弱になる」
「気にしていても始まるまい……無事帰還すれば、無線で合図するのだろう？」
「まぁ、確かに……」
（画像挿入予定orz）
瀑羅は龍二の肩を軽く叩き、にやりと笑った。
「しっかりしてくれよ龍二……君は“アクエリアス”の実動隊長なんだからな」
「“竜王”の隊長は俺ではなくアキラだよ……俺が担当してるのは“第３班”だけだ」
「その第３班が、アクエリアスにとってどれだけ大事か……我々も君のチームに何度助けられたか知れん」
しかし、その言葉を聞くや否や……龍二は再び暗い表情になって俯いた。
瀑羅はすぐに、自分の“失言”に気付いたらしい。
「……まだだよ……まだ足りない……こんなものでは、リチャードさんに笑われちまう」
「……！！……済まぬ……私が言い過ぎた、こんなつもりでは……」
「いや……良いんだ。 瀑羅の言葉は有難い……俺には勿体ないぐらいさ」
「……龍二、もう十分償っただろう？……いや、君が償う必要など元よりどこにも――」
「――やめてくれ！」
ふと――雑木林に龍二の鋭い声が響いた。
頭２つほども小さな龍二に気押される瀑羅……龍二は小さく肩を震わせている。
「……龍二……」
「償わなければならないんだ……俺は間に合わなかったんだから……」
苦悩に満ちた目で、瀑羅を見上げる龍二。
乾いた風が一陣、枯れ葉を巻き上げながら２人の足元を吹き抜けていく。
数秒後――２人の腕に巻かれた、腕時計のような器具が淡く点滅した。
「うむ――どうやらドレイク殿が帰還されたようだ……行こう、龍二」
「良かった……無事だったか」
「彼は“戦神族”なのだろう？ 元より、我々とは次元の違う種族だと聞いたことがある。
なぁ龍二、お互いにもっと視野を広く持とうじゃないか、世界の未来のために」
「ふ――瀑羅から『世界の未来』なんて言葉を聞く日が来るとはな」
苦笑ながらも、わずかな笑顔を取り戻した龍二に、瀑羅は牙の生えた大きな口を開けて笑う。
「ははは！ そうだ、それでこそ“竜王”の魂、高山龍二だ！」
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「おぉ、ザン大使、お久し振りです！」
日本列島中部、紀伊山地の地下にある、大規模なドーム型基地。
世界の強権支配を推進する影の組織“エグゼクター”に反発する地下組織、
“アクエリアス”の総本山であると同時に、ディガスのアーク＝地球における事実上の出張所でもある。
エグゼクター総本山であるネヴァダ要塞ほど広大ではないが、
地球文明にとっての“オーバーテクノロジー”で厳重に守られた、ある種の要塞としての機能を有している。
真上に水爆を投下されても破壊出来ない程度には、頑丈に作られているのだ。
“人類の常識”ではチートな強度だが、それが銀河社会のテクノロジーなのである。
施設の上層部にある格納庫でザンを迎えたのは、アクエリアスの現在の指導者であるパイル・アキラだ。
2007年生まれで現在51歳だが、実年齢より若く見え、外見的には40歳前後といった印象を受ける。
やや緑色がかった黒髪が特徴で、中肉ながら逞しい体格を持っている。
アキラの隣には、さっきまで外の木立で空を眺めていた２人――龍二や瀑羅も立っている。
「アキラか……随分落ち着いた感じになったな」
「はは……そりゃ、前に会った時は三十路でしたからね」
「色々と苦労をしているようだな」
「まぁ……ここ15年ほどの間に、世界秩序も随分と変わりましたからね」
「あぁ、その件についてはドレイク大使から聞いたよ」
ザンの横には、彼を擬装船センティエルで地球に連れて来たドレイクが立っている。
ザンもドレイクも擬態モードを解き、色白で長い耳が特徴的な、ラトリアン本来の姿に戻っている。
アクエリアス関係者のほとんどは２人の素性を知っているので、何の問題もない。
「いずれはそうなると思っていたが……ついにエグゼクターが本懐を遂げたということか」
「えぇ……地球連合政府も今や、奴らの傀儡に成り下がっていますからね」
地球連合。
この時代の地球文明を統治する連合政権である。
完全ではないが、事実上“地球統一政府”と呼ぶに値する政府機関である。
地球連合が誕生したのは2045年――今から13年前のことだ。
2030年代の半ばに勃発した“第３次世界大戦”や、2037年に起きた“クロノス危機”など、
2030〜2040年前後の決定的な激動と荒廃が連合の組織を後押ししたのだが、
その実態は、エグゼクターが掌握する傀儡政権だったのだ。
地球連合は「統一こそ平和への道」と宣言し、反発する国家を軍事力で威圧するなど、
恐怖政治にも近い強権的な措置で、急速に影響力を強めていった。
“前身”に当たる国際連合の時と異なり、「世界の国々の上に立つ組織」と定義されていたために、
明らかに傲慢であったが「地球連合の政策が全てに優先する」と支配を正当化したのである。
アジアを中心に、今も多くの国がその強権措置に反発しているが、
地球連合が擁する強大な正規軍の前に、全面的な反抗は行えない状況にあった。
「魔獣クロノスの襲来を逆手に取ったというわけだな……“破壊神”を利用するとは中々図太い」
「全くですよ……クロノスも闇に満ちた魔獣でしたが、エグゼクターの闇とは次元が―― ！」
ふと――アキラが言葉を止めた。
格納庫の入口当たりに出現した“気配”を感じ取ったためだ。
果たしてそこに、人影が１つ、立っていた――だが、普通の人間ではない。
紫がかった黒と青みがかった白、ツートンカラーの肌を持つ背の高い“獣人”だ。
背中に紫がかった黒色の大きな翼を生やし、指先はその全体が大きな爪になっている。
上半身の上半分、シャツの上からも分かる大きな双丘が、女性ベースであることを窺わせる。
「……もう来てたんだな、済まない、ケイ」
「あぁ、気にしないでアキラ、あたしは大丈夫だから、うん全然」
女性的な体形だからメンタルも女性とは限らないが、この獣人はメンタルも女性らしい。
身長は190cm近いが、顔つきにはまだ幼さを残している。
人為的な合成強化獣人“キメラノイド”のケイである……いちおう“高野慶”というフルネームがあるが、
既に身寄りはいない……彼女が“獣化”された時、親を失ったためである。
2013年――今から40年以上も前のことであり、ザンも前回来訪した時、彼女と会っている。
実はアキラよりも年上なのだが、獣化と共に成長が止まっているため、若く見えるのだ。
（画像挿入予定orz）
「ケイ、久し振りだな」
「どうもザンさん、ちょっと懐かしいですね、あれからもう20年近くになるんだなぁ」
瞳の不明瞭なオレンジ色の目を細めて、ケイは人懐っこそうに笑った。
その顔つきも普通の人間――地球人類とは異なり、鼻がなく額には１対の角が生えている。
そして彼女こそが――地球に飛来する前、ドレイクたちが話題に挙げた「魔獣のキメラノイド」である。
魔獣クロノスは、超因子オメガリクスの“産みの親”に当たる魔神の右腕と言われる存在で、
“魔神の種”と深い縁を持つこの惑星に“試練”を与えることを意図して、かつて襲来したことがあった。
クロノスは魔性の宇宙生物“ズィヴァム”の特殊個体であり、文明はないが高い知性を持つ。
そしてケイは、そんなクロノスの“遺伝子”を、後天的に受け継ぐキメラノイドなのだ。
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「――出動できるのは何チームだ？」
ほぼ同じ頃――ネヴァダ山脈の深部に建設された、エグゼクターの巨大な地下基地。
ガンマ・エイブラムスは殺風景な会議室のような部屋で“報告”を済ませると、居合わせた部下に問うた。
「現在は第４チームと第６チームが、準備を整えております」
「総勢30人か……いや、第４チームだけでいい、多過ぎても十分に動けん」
「では、クロノフェル隊長にその指令を」
「そうだな……俺は先にハンガーに行っておく」
軽く敬礼をして、無機質な部屋を出て行く黒服のサイボーグ兵。
間もなくガンマも、部屋を後にした。
向かう先は……目的地に彼らを運搬する、漆黒の輸送機が置かれた格納庫。
その途中の地下通路で、ふとガンマは立ち止まった。
猛禽を思わせる金色の目が、真正面に立っている、長髪の男を見据えている。
赤い目を持つその男は、ガンマに向かって低い声で言った。
「今回はクロノフェルと行くのか？――ガンマ総隊長殿」
「ジェノク……これは任務の質の問題だ、悪いが第６チームには向いていない」
「おやおや、我が部隊も随分と軽く見られたものだ♪」
ニヤニヤと薄笑いを浮かべる、長髪の男――ジェノク。
（画像挿入予定orz）
「隠密工作なら第４チームの方が得意だ……特に隊長のクロノフェルは――」
「“歩くステルス兵器”と呼ばれているからか？」
「お前もその状態では人込みに紛れられるんだろうが――な」
「余り馬鹿にせんでもらいたいね……公衆の面前で獣化するほど、私も無謀ではないさ」
「――起用されなかったことが癪か？」
「『選ばれなくて嬉しい』なんて言うヤツは“ＺＯＡ”にはいないと思うがね♪」
暗殺部隊“ＺＯＡ”の第６チームを統括するジェノクは、とある魔獣の遺伝子を持つ強大な戦士である。
地球連合に影響力を有するこの裏組織――エグゼクターが誇る、最強の強化兵だと言われている。
“魔人”の異名を持つ総隊長ガンマですら、単純な出力戦ではこの男に敵わない。
実は奇しくも――ケイに用いられたものと同じく、魔獣クロノスの生命因子を持っていたりするのだが、
ガンマが彼を今回のミッションに選ばなかった理由とは関係ない。
“ＺＯＡ最強”のジェノクの戦闘力は、もっと「派手な作戦」に向いているということである。
「第６チームの戦力は評価しているつもりだ……俺の留守を任せられるのはお前くらいしかいない」
「それは……褒め言葉と解釈して良いのかな？」
「好きにしろ……だが、皮肉と受け取る必要もないだろう？」
ガンマの言葉に、ジェノクは再びにやりと笑った。
「――オーケー、ありがたく待機させてもらうよ♪」
「それでいい……暴走行為がどうなるかは、ベータの失敗で十分だろう？」
言外に“忠告”を含ませながら、ガンマはそう返す。
そしてそのままジェノクの脇を抜け……格納庫へと歩いていった。
硬い靴音が地下通路の壁に響き、少しずつ遠ざかっていく。
「――もっとも……あんたの時代は、既に終わっていると思うんだがねぇ」
ガンマの足音が聞こえなくなるのと同時に――ジェノクは１人、そう呟いた。
「まぁせいぜい……天寿を全うされることだよ、ご老体♪」
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「……随分と増えたんだな」
アクエリアス・センターの中層部にあるデータベース・ルーム。
ザンは複雑な表情で、その１角にある、ホログラム式のディスプレイを眺めていた。
銀河社会ほどにはポピュラーにはなっていないが、今や地球文明もホログラムを実現させているのだ。
ディスプレイに映し出されているのは、過去にアクエリアスが保護した“ミュータント”の情報。
その情報が、前回来訪時よりも明らかに、しかも大幅に増えていたのである。
ザンが前回地球に来訪したのは、ちょうどクロノス危機が起きた前後――つまり2030年代であり、
アクエリアス・センターが今の地下ドーム型の施設に“改築”された時代であった。
もっと直接的に言えば、アクエリアス・センターをより頑丈な施設に改築するきっかけの１つをザンが作り、
今に至っているという方が正しいかも知れない……アクエリアスの同志が彼を慕うのもそのためだ。
ヴァルク・ザンという人物はまさにドレイク同様、アクエリアスの有志たちにとっては“大恩人”なのである。
「皮肉な話ですが、まさにベストタイミングでしたよ……あの改築がなかったら、今頃パンク状態でした」
「前の施設は手狭でしたからね……結構窮屈だったんですよあたし」
そう言って、ケイは大きな翼をパタパタと動かす……今の広い施設では干渉するものは何もないが、
確かに“改装前”はこの翼が壁や天井によく当たっていたことを、ザンは思い出した。
「ジェノクみたいに“人間体”を取れるなら、あたしももっと融通が利くんでしょうけどねぇ」
「ん――ジェノクとは？」
聞き慣れない言葉を聞いて、ふとザンは聞き返した。
その質問に答えたのはドレイクだ。
「“ＡＢＣ”――エグゼクターが開発したキメラノイドだ、ケイと同じくクロノスの因子を持っている。
ザン大使がいた頃すでに強化されていたようだが、“実戦デビュー”したのは数年後だったから初耳だろう」
「エグゼクターまで、クロノスの因子を使いこなせるようになっているんですか！？」
ザンは少し驚いたような表情を浮かべる。
実はケイを改造した組織は“ＡＢＣ”ではない……魔術結社とも言うべき“ＭＢＳ”が手がけたものだ。
この地球の並行時空の１つであり、“魔界”の異名を持つ領域に存在する研究組織である。
研究者も人類以外の、“魔族”というべき種族が関与しているため、特定分野では人類の先を行っていた。
ディガスもこの“魔界組織”が、オメガリクスを活用し易い立場にあったことを掴んでいる。
しかしドレイクの話では、ＡＢＣ――エグゼクターがまさにその水準に「追いついた」ことを示唆するのだ。
「しかもジェノクの能力解放ポテンシャルはケイの比じゃない……アークスが起源とは思えんほどの戦闘力だ」
「“強化倍率”が半端ではないということですね……」
「ジェノクに関してはほとんどオーバースペックに等しい……彼女自身もも過去に１度、酷く痛めつけられた」
「ただの因子合成で、そこまで強大な戦士が誕生するのでしょうか？」
「そこが焦点だよ、ザン大使……ケイのポテンシャルが安定している点についてもな」
真剣な表情をするザン大使に、ケイは困惑の表情を浮かべる。
“獣人”の体を得て数十年の経験を積んでいるため、動揺の段階はすでに過ぎてはいるのだが。
「直接……調べた方が良さそうですね」
間もなくザンとドレイクが向かったのは、同じ施設内にある、保護ミュータントの生活支援センターだった。
この時代、世間もある程度はミュータントの存在を認知していたのだが、
“怪人”のような容姿を持った、ケイたちのようなキメラノイドを素で受け入れるほどではなかった。
そのために、アクエリアスがこの本部施設の内部に、彼らの生活拠点を用意していたのだ。
これも改装が必要だった理由の１つである……ケイたちはまさに、ここで日常生活を送っているのだ。
ザンたちが通路の１つに面した交流所を覗くと、様々な容姿のミュータントがすぐに視界へと入ってきた。
半数ほどはケイと同じような獣人の姿を持っていたが、
まるで“女性の石像”を思わせる外観のミュータントも少なからずいた。
そしてその多くは、ザンにとっては見覚えのない「新しいミュータント」であったのだ。
もう１つ特徴を言うなら、その大多数が若い容姿を持っていたことだ。
考えてみれば残酷な話であるが、ＡＢＣは人体実験の対象に、しばしば若い少年少女を使っていた。
成長途上で生命力が強く、それでいて成人した大人に比べて抵抗力の低い彼らを実験台にしたのである。
アクエリアスが保護したミュータントの多くも、そういう若年実験体たちであったのだ。
（あ、ケイさん♪ ……えぇとその人は確か）
「ヴァルク・ザンだ。久し振りだな、確か前に１度会った……リオだったか？」
（あ、はい、そうですそうです♪）
ザンに“話しかけてきた”のは、灰色の御影石を思わせる質感の女性型ミュータントだ。
名前はリオ――以前ザンが来訪した時から、既にこの施設に保護されていた。
鉱物と同じ体質を持つ人為強化ミュータント“メタロイド”の元・実験体で、肉声を出す能力がない。
そのため“会話”といっても念話――つまり“テレパシー波”と呼べる信号を使うことになるのだが、
進化した種族であるラトリアンのザンや、１部の“波動能力”開発者には聞き取ることが出来た。
会話をしながら、ザンは小さな電子テスターのような機器を取り出す。
（これは……何をするんですか？）
「“存在場測定器”だ、ちょっと調べたいことがあってね」
「分かりました……みんな、ちょっと協力してくれないかな、検査したいことがあるの」
集まってきたミュータントたちを見回しながら、“大ベテラン”のケイがフォローを入れる。
ザンもその中央で測定器をかざし、おもむろにリオの方へと向けた。
「それじゃあ――始めさせてもらうよ……心配ない、立っているだけでいいから」
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ネヴァダ山脈の切り立つ山肌から、地下に300mほど潜った場所に、そのハンガーはあった。
ドーム球場ほどもある広大な空間……先ほど、ガンマを連れてきた小型機が格納された倉庫の倍以上もある。
その中央に、黒光りする流線形の航空機が１機。
Ｖ字翼機に近いかなり幅広の機体であり、輸送機か爆撃機といった趣のシルエットだ。
そのタラップの横に、長身の影が１つ……ただし、ガンマではない。
いや――人間ですらない。
シルエットこそ人間型であるが、まるで黒曜石のような皮膚感を持っている。
全身真っ黒で、更に黒ずくめの衣装で固めているため、まさに“影が立っている”という印象がピッタリだ。
そこに歩いてくる、スキンヘッドの男――ガンマ。
ガンマの姿が格納庫に現れるや否や……漆黒の男は音も立てずに１礼した。
その頭部には、髪の毛の代わりに鎌か斧を思わせる鋭い突起が、何本も付き出している。
（画像挿入予定orz）
（ご苦労様です――ガンマ総隊長）
「何だ……もう到着していたのか？クロノフェル」
常人にはまず聞き取ることが出来ない“心の声”で、クロノフェルは静かに“言う”。
しかし“波動能力”に優れたガンマは、彼の言葉を聞くことが出来た。
実はこの能力――銀河社会では必ずしも珍しくないものなのだが、人類の大多数はまだ開拓出来ていない。
生命がどういうものかを「空間を超えて理解」できて、初めて獲得できる特性だからだ。
（総隊長を待たせるなどということが、あってはなりませぬゆえ）
「そうか……他のメンバーは？」
（すでに機内で待機しております）
「相変わらず準備が早いな……なら余計な雑談は要るまい」
（御意……我らエグゼクターに幸のあらんことを）
「エグゼクター（審判する者）か……」
クロノフェルの“言葉”に、またふと――誰ともなく、詩人のように低く呟くガンマ。
そんな素振りに、クロノフェルは黒い顔に怪訝な表情を浮かべた。
（……どうされたのですか？）
「いや、何でもない……行くぞ」
間もなく――漆黒の輸送機がエンジン音を響かせた。
その音も……銀色の小型艇と同じく、ジェットのそれではない。
排気口の代わりだろうか……半透明の結晶体に、淡い輝きを宿しながら、機体がゆっくりと浮上する。
実はこの機体には、重力を制御する“リパルサードライブ”が搭載されているのである。
クリル大使を通じてタイランタ連邦から提供された“オーバーテクノロジー”の恩恵の１つだと言われている。
その姿は……まさに審判の黒き天使の如く。
斜め上……200mほど先に設けられた六角形のハッチが、ほとんど音もなくするすると開いて行く。
徐々に加速しながら、ハッチに向かって上昇して行く黒い輸送機。
やがてハッチを越え――ネヴァダ山脈の斜面から、灰色の空に飛び出していく。
目指すは日本――エグゼクターの“宿敵”アクエリアスの本部が置かれている、太平洋の対岸の島国だ。
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“存在場測定”を始めて約１時間後。
戻ってきたデータベース・ルームで渋い顔をして座り込んでいる、ザンとドレイクの姿があった。
その横にはアキラと龍二、更にはケイとリオ、先ほどと同様瀑羅の姿もある。
「予想以上だったな……」
「えぇ……まさかここまで進んでいたとは」
「どういうことです？」
質問したのはアキラである。
その質問に応えるように、ザンは測定結果の集計情報を、データベース・ディスプレイに投影した。
ホログラム式のディスプレイに、ケイの輪郭を持った影が浮かび上がる。
「これは存在場パターンの揺らぎ度合いと、変化の段階を視覚化したものだ」
「存在場……確か、“魂”に相当する空間エネルギーの力場でしたよね？」
「そう……この揺らぎは、彼女――ケイの存在場が、大きく変質していることを示している」
「変質……ですか？」
再び、困惑するような表情になるケイ。
そのケイに対してザンはただ、何も言わずに頷いた……更に横からドレイクがフォローを入れる。
「簡単に言えば……君はもはや“新たな生命体”になっているということだよ」
「でもそれって、合成された段階でそうなってるもんじゃないんです？」
「遺伝子的にはね……しかし単に生物学的に合成しただけならば、存在場まで異質にはならない」
――はっ、と何かに気付いたようなアキラと龍二。
「存在場まで変質したことで、君は今、その体にほとんど違和感を感じなくなっているはずだ」
「言われて見れば……ずっと昔からこの体だったみたいな錯角が、時々しますね」
「そこだよ……単純な合成では、もっと色々な不具合が起きて当然なのに、綺麗に融合している」
「しかも……アークスの標準とは何ケタもスペックが違うはずの、ズィヴァムの遺伝子との融合だからな」
「そうか……普通に合成しただけなら、ここまで“人間主導”にならないということですね！？」
アキラの問いに、ザンとドレイクは大きく頷いた。
「遺伝子にはポテンシャルの差で必ず優劣が生じる……ズィヴァムの遺伝子はアークスよりはるかに優性だ。
ならば本来なら、アークスの要素など駆逐されてほとんど残らないはず」
「にも関わらず、ほとんど対等――いや、むしろアークス主導での融合が実現している」
「他のミュータントの結果も同じように、不具合を塗り潰したような綺麗な融合状態だった。
リオのようなメタロイド変異体のケースでも、ここでは単なる石化や金属化とは違う変質が起きている」
（画像挿入予定orz）
（そういえば、確かに不思議な気分になる時がありますね……自分は本当に、昔人間だったんだろうかって）
ディスプレイに投影された情報を眺めながら、ドレイクは再び小さな溜息をついた。
「25年ほど前にも検査をしたが、更に安定化が進んでいる……こいつは私も驚きだったな」
「つまり結局……何が起きているのですか？」
「それは私の口より、ザン大使から聞いた方がいいだろう……そのための来訪なのだから」
ドレイクに回答を振られたザンは、小さく頷いた。
「つまりこの変質データは……彼らの合成に“超因子”が使われた、重要な状況証拠だということさ。
そして異種合成に最も効果を発揮する超因子は、正しくオメガリクスなんだ」
「はぁ……状況……証拠ですか」
生返事を返す龍二……無理もない、銀河社会の専門用語を並べられてもピンと来ないだろう。
「超因子そのものを測定することは出来ない……反応するとすぐに同化してしまうからな。
しかし存在場を強制的に変質させる効果を持つ最も有力な要素は、超因子と考えるのが妥当なんだよ」
「以前の測定でも、超因子の状況証拠自体は確認していたんだが、今回の方がずっと進んでいる」
「そう……それも予想よりも早く」
今度はザンが、小さく溜息をついた。
「断定は出来ないが……連邦のオメガリクス合成技術は、更に大きく進化している可能性が高いですね」
「ネヴィルで会った時に言っていたな……ガロヌの変異体にもオメガリクス反応の可能性があると」
「はい、あの時はまだあくまでも“可能性”でしたが……ズィヴァムの安定したキメラノイドが可能となると、
連邦の強化兵――ジェネティック開発技術は、次の段階に進んでいる可能性もあります」
「次の――段階ってのは？」
今度は瀑羅が、龍二やアキラと顔を見合わせながら言った。
「色々考えられるが、いずれにしろ連邦の“ジェネティック戦力”は飛躍的に高まるな」
「連邦が強気を崩さないわけですね……恐らく、戦況が膠着している間にも開発を続けている可能性が高い」
圧倒的な遺伝子優位性を塗り潰し、安定したキメラノイド開発が地球で可能ということは重要な意味がある。
そしてそれがオメガリクスの軍事利用の発展によるということは、更に重要な意味がある。
それは技術の提供元である、タイランタ連邦では「更に進んだ兵器」の開発にかかっているということだ。
因みに巨獣種族同士を合成する“キメラロード開発”よりも、実はキメラノイドの方が場合によっては難しい。
その理由はケイのケースで示唆されるように、合成種族のクラスが全く異なっている場合があるからだ。
キメラロードを作る感覚で地球人とズィヴァムを合成しても、ケイのようには普通ならない。
それを可能にしてしまった――しかも地球で――これこそが重要なのである。
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| （第２章第３話に続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に初めて執筆したエピソードだが、草案は2002年頃に出来上がっていた。
ＧＤＷ世界観の説明を兼ねたエピソードの第４話である（ただし現在のテキストは2023年に改修した）
アクエリアスの原風景は、Ｘ-ＭＥＮなどの「正義の異能者集団」であるが、
元々はサイバーキッズ系キャラクターの「理解者たち」として古典期に作ったグループに起源を持っている。
古典期にはディガスとほぼほぼイコールだったが、その後役割分担をして今に至る（笑）
古典期ディガスの「軍団属性」はアトラス連合になり、「保護者属性」はＡＴＵやアクエリアスになったのだ。
（ディガスそのものは「フリーランスの調停組織」としてより専門特化した形になっている）
G-maはサイバーキッズ系キャラに代表されるように、ミュータント系のキャラクターに大きな関心があり、
「不可逆的に強化された少年少女と、それを理解し補佐する大人たち」の構図が好きだった（爆）
（ＡＳＧシリーズなどもこの構図で作っていることが分かると思われる^^;）
この嗜好を、ＧＤＷ世界観をベースに構築したのが、つまりアクエリアス内のミュータント保護部門や、
ＡＴＵの同系部門だったわけである……“保護者”を作ることで、立ち位置を確立させたのだ。
そしてこの嗜好を支える要素として作ったオメガリクス（オメガ因子）を、
銀河社会の「覇権争い」のキーワードに位置付けることで、このシナリオの原風景が確立した経緯があるのだ。
章割りの構成を再編時に変えたため、各パートのエピソードを少し入れ替えている（汗）
概ね「旧版７章」の再編になるが、同５〜６章からもパートを「切り貼り」して構築している（笑）
前話（新２章１話）で再編しきれなかった部分を、こっちに持ってきたわけである（爆）
時系列的には、前話と今話（第２章２話）は、ほぼ同時並行的に展開しているイメージではあるのだ（苦笑）
なお旧版では存在場測定時に登場するサイバーキッズ系キャラはキトラになっていたが、
このキャラは“３次創作”に当たるため、再編版ではオリジナルキャラのケイに変えている（汗）
１方ジェノクが登場するシーンは旧版６章にもあるため、奇しくも印象的な対比シーンになったのだ（笑） |
